特許第5818107号(P5818107)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5818107
(24)【登録日】2015年10月9日
(45)【発行日】2015年11月18日
(54)【発明の名称】移動局装置および移動局制御方法
(51)【国際特許分類】
   H04B 7/155 20060101AFI20151029BHJP
   H04W 28/18 20090101ALI20151029BHJP
   H04W 84/06 20090101ALI20151029BHJP
   H04W 16/28 20090101ALI20151029BHJP
   H04B 7/08 20060101ALI20151029BHJP
   H04B 7/10 20060101ALI20151029BHJP
【FI】
   H04B7/155
   H04W28/18 110
   H04W84/06
   H04W16/28 150
   H04B7/08 D
   H04B7/10 A
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-278020(P2012-278020)
(22)【出願日】2012年12月20日
(65)【公開番号】特開2014-123819(P2014-123819A)
(43)【公開日】2014年7月3日
【審査請求日】2014年12月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100072718
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 史旺
(74)【代理人】
【識別番号】100116001
【弁理士】
【氏名又は名称】森 俊秀
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 義規
(72)【発明者】
【氏名】須崎 皓平
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 貴史
(72)【発明者】
【氏名】杉山 隆利
(72)【発明者】
【氏名】青柳 貴洋
【審査官】 前田 典之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−298497(JP,A)
【文献】 国際公開第99/36989(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0171901(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0109944(US,A1)
【文献】 AOYAGI Takahiro, et al.,Simulations for effects on other commmunication antennas by scatterd waves from a ship body for maritime satellite communications,電子情報通信学会技術研究報告,日本,一般社団法人電子情報通信学会,2012年10月17日,SAT, 衛星通信 112(255),pages.37-42
【文献】 須崎皓平,他,船上地球局向け分散アレーアンテナ制御装置の実験的検証,電子情報通信学会技術研究報告,日本,一般社団法人電子情報通信学会,2012年 5月17日,SAT, 衛星通信 112(51),pages.1-6
【文献】 青柳貴洋,他,船舶衛星通信における船体の遮蔽の影響に関する基礎検討,電子情報通信学会総合大会講演論文集,日本,一般社団法人電子情報通信学会 ,2012年 3月 6日,通信(1),page.314
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/155
H04B 7/08
H04B 7/10
H04W 16/28
H04W 28/18
H04W 84/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数m個の追尾アンテナを有し、各追尾アンテナに互いに異なる複数m個の衛星局を追尾させ、各追尾アンテナと各衛星局との間を1対1で接続する複数m個の伝搬路を形成し、各伝搬路を並列に用いて衛星局と通信する移動局装置において、
前記複数m個の伝搬路のうち、使用できない伝搬路を形成する追尾アンテナiに他の衛星局jを追尾させる第1の手段と、
前記追尾アンテナiから送信する信号と前記他の衛星局jを追尾する追尾アンテナjから送信する信号を多重化して変調し、さらに各追尾アンテナi,jから送信して同相合成させる位相制御を行うとともに、各追尾アンテナi,jから送信する信号の変調方式を他の伝搬路に適用されている変調方式より周波数利用効率の高い変調方式に変更する第2の手段と
を備えたことを特徴とする移動局装置。
【請求項2】
請求項1に記載の移動局装置において、
前記複数m個の追尾アンテナのそれぞれの指向方向と障害物との離隔角度を逐次算出する第3の手段を備え、
前記第1の手段および前記第2の手段は、前記複数m個の追尾アンテナと前記複数m個の衛星局との間に、該離隔角度が許容値以上になるm個の伝搬路の組み合わせができない場合に、該離隔角度が許容値未満となる追尾アンテナからの信号を、前記追尾アンテナiと同様に前記追尾アンテナjからの信号と同相合成させる構成とする
ことを特徴とする移動局装置。
【請求項3】
複数m個の追尾アンテナを有し、各追尾アンテナに互いに異なる複数m個の衛星局を追尾させ、各追尾アンテナと各衛星局との間を1対1で接続する複数m個の伝搬路を形成し、各伝搬路を並列に用いて衛星局と通信する移動局制御方法において、
前記複数m個の伝搬路のうち、使用できない伝搬路を形成する追尾アンテナiに他の衛星局jを追尾させる第1のステップと、
前記追尾アンテナiから送信する信号と前記他の衛星局jを追尾する追尾アンテナjから送信する信号を多重化して変調し、さらに各追尾アンテナi,jから送信して同相合成させる位相制御を行うとともに、各追尾アンテナi,jから送信する信号の変調方式を他の伝搬路に適用されている変調方式より周波数利用効率の高い変調方式に変更する第2のステップと
を有することを特徴とする移動局制御方法。
【請求項4】
請求項3に記載の移動局制御方法において、
前記複数m個の追尾アンテナのそれぞれの指向方向と障害物との離隔角度を逐次算出する第3のステップを有し、
前記第1のステップおよび前記第2のステップは、前記複数m個の追尾アンテナと前記複数m個の衛星局との間に、該離隔角度が許容値以上になるm個の伝搬路の組み合わせができない場合に、該離隔角度が許容値未満となる追尾アンテナからの信号を、前記追尾アンテナiと同様に前記追尾アンテナjからの信号と同相合成させる処理を行う
ことを特徴とする移動局制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動局に備える複数の追尾アンテナと複数の衛星局との間に形成される伝搬路を並列に用いて通信を行う衛星通信システムの移動局装置および移動局制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
衛星通信は広範なサービスエリアをもつため、地上回線の使用が困難な海上の船舶、航空機などの移動体の通信手段として、またルーラルエリアなどのディジタルディバイド領域で広く利用されている。しかし、ブロードバンド通信などで使用される静止衛星は、静止軌道上に2〜4度間隔で配置されているため、移動局のアンテナの指向方向がずれると他の衛星に干渉を与えてしまう恐れがある。そのため、移動局のアンテナに指向方向(仰角および方位角)を機械的に制御する追尾機構を設け、移動体の移動や動揺に対してアンテナを常に衛星方向に指向させる追尾アンテナが用いられる(非特許文献1)。
【0003】
ところで、移動体に追尾アンテナを設置する際には、移動体の位置(緯度・経度)、方位、動揺による移動体の傾きなどを考慮して、方位角で 360度、仰角で0〜90度の見通しを確保できる場所に設置することが望ましい。しかし、移動体の構造によっては、そのような見通しを確保できる場所に追尾アンテナを設置できないこともある。
【0004】
その場合、図5に示すように、追尾アンテナAは、移動体(ここでは船舶)の移動に伴い衛星局Sを追尾して指向方向を変化させるものの、追尾アンテナAと衛星局Sとの間に移動体の構造物が障害物として電波を遮断(ブロッキング)すると、通信ができない状態となる。さらに、ターゲット衛星局に対する追尾アンテナの指向方向と障害物との離隔角度が3度以下になった場合に、障害物による反射・回折によって他の衛星局の方向へ不要波を放射しないために、ターゲット衛星局への通信信号の停波を行うなどの措置がとられる。このように、衛星局と追尾アンテナとの間の見通しが遮断される場合や障害物との離隔角度に応じて、通信ができない時間が生じて通信稼働時間が短くなることがあった。
【0005】
また、図6に示すように、移動体(ここでは船舶)に複数m個の追尾アンテナA1〜Amを配置し、各追尾アンテナに互いに異なる複数m個の衛星局S1〜Smを追尾させ、各追尾アンテナと各衛星局との間を1対1で接続する複数m個の伝搬路を形成し、各伝搬路を並列に用いて通信を行う無線通信システムがある。このような無線通信システムでは、各追尾アンテナと各衛星局との間に形成される各伝搬路において、同じ帯域、変調方式、符合化率を用いて伝送速度U(bps)が実現される場合、m個の伝搬路による合計の伝送速度はmU(bps)となる。
【0006】
また、無線通信システムの通信性能を柔軟に向上させる手法として、複数の追尾アンテナを連携動作させる方法が提案されている(非特許文献2)。この技術では、図7(1) のように、変調器71から出力された変調信号は、信号分配器72でアンテナ数に応じて複数に分配され、位相設定部73により衛星局において同相となるように位相を制御して送信機74に入力し、複数の追尾アンテナから送信された信号を同相合成することで通信性能を向上させている。通信衛星からの折り返し信号は、図7(2) のように、複数の追尾アンテナから受信機76に受信され、振幅・位相設定部77および信号合成器78で振幅と位相を調整して合成S/Nが最大となる制御を行って復調器79に入力される。この技術によると、送受信機の通信性能が同じと仮定した場合、アンテナ数Nに対してEIRPはN2 倍、G/TはN倍となる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】桧垣、土屋、「船舶用ブロードバンドアンテナにおける防振機構系と追尾制御系の設計手法について」、電子情報通信学会論文誌、Vol.J91-B 、No.12 、2008/12
【非特許文献2】須崎、鈴木、小林、「ESV用分散アレーアンテナの船上環境における経路長変動補償方法の検討」、電子情報通信学会技術研究報告、SAT2011-9、pp.7-12 、July 2011
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
複数の追尾アンテナと複数の衛星局との間に形成される伝搬路を並列に用いて通信を行う無線通信システムでは、図8(1) に示すように、例えば追尾アンテナA2と衛星局S2との間の伝搬路が障害物等により遮断された場合、(m−1)個の伝搬路による合計の伝送速度は(m−1)U(bps)に低減することになる。ここで、障害物によりブロッキングされた追尾アンテナA2が他の衛星局を捕捉できればよいが、衛星局にも限りがあるので実現できない場合がある。
【0009】
また、追尾アンテナA2と衛星局S2との間の伝搬路が遮断したときに、図8(2) のように、追尾アンテナA1〜Amと衛星局S1〜Smとの接続関係を再構築し、改めてm個の伝搬路を形成できれば、合計の伝送速度はmU(bps)を維持することができる。しかし、このような伝搬路の再構築が常に実現できるとは限らない。
【0010】
本発明は、複数の追尾アンテナと複数の衛星局との間に形成される伝搬路を並列に用いて通信を行う衛星通信システムにおいて、一部の伝搬路が障害物等によって使用できなくなっても、複数の追尾アンテナからの送信信号を同相合成させる手法を活用して通信容量の低下を抑えることができる移動局装置および移動局制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1の発明は、複数m個の追尾アンテナを有し、各追尾アンテナに互いに異なる複数m個の衛星局を追尾させ、各追尾アンテナと各衛星局との間を1対1で接続する複数m個の伝搬路を形成し、各伝搬路を並列に用いて衛星局と通信する移動局装置において、複数m個の伝搬路のうち、使用できない伝搬路を形成する追尾アンテナiに他の衛星局jを追尾させる第1の手段と、追尾アンテナiから送信する信号と他の衛星局jを追尾する追尾アンテナjから送信する信号を多重化して変調し、さらに各追尾アンテナi,jから送信して同相合成させる位相制御を行うとともに、各追尾アンテナi,jから送信する信号の変調方式を他の伝搬路に適用されている変調方式より周波数利用効率の高い変調方式に変更する第2の手段とを備える。
【0012】
第1の発明の移動局装置において、複数m個の追尾アンテナのそれぞれの指向方向と障害物との離隔角度を逐次算出する第3の手段を備え、第1の手段および第2の手段は、複数m個の追尾アンテナと複数m個の衛星局との間に、該離隔角度が許容値以上になるm個の伝搬路の組み合わせができない場合に、該離隔角度が許容値未満となる追尾アンテナからの信号を、追尾アンテナiと同様に追尾アンテナjからの信号と同相合成させる構成とする。
【0013】
第2の発明は、複数m個の追尾アンテナを有し、各追尾アンテナに互いに異なる複数m個の衛星局を追尾させ、各追尾アンテナと各衛星局との間を1対1で接続する複数m個の伝搬路を形成し、各伝搬路を並列に用いて衛星局と通信する移動局制御方法において、複数m個の伝搬路のうち、使用できない伝搬路を形成する追尾アンテナiに他の衛星局jを追尾させる第1のステップと、追尾アンテナiから送信する信号と他の衛星局jを追尾する追尾アンテナjから送信する信号を多重化して変調し、さらに各追尾アンテナi,jから送信して同相合成させる位相制御を行うとともに、各追尾アンテナi,jから送信する信号の変調方式を他の伝搬路に適用されている変調方式より周波数利用効率の高い変調方式に変更する第2のステップとを有する。
【0014】
第2の発明の移動局制御方法において、複数m個の追尾アンテナのそれぞれの指向方向と障害物との離隔角度を逐次算出する第3のステップを有し、第1のステップおよび第2のステップは、複数m個の追尾アンテナと複数m個の衛星局との間に、該離隔角度が許容値以上になるm個の伝搬路の組み合わせができない場合に、該離隔角度が許容値未満となる追尾アンテナからの信号を、追尾アンテナiと同様に追尾アンテナjからの信号と同相合成させる処理を行う。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、障害物等の影響により、追尾アンテナiと衛星局iとの間の伝搬路が使用できなくなった場合に、追尾アンテナiを他の衛星局jを追尾させ、追尾アンテナi,jから衛星局jに送信される信号を同相合成させ、当該伝搬路の回線品質を向上させることにより、当該伝搬路で周波数利用効率の高い変調方式を選択することができ、通信容量の低下を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の移動局装置を含む衛星通信システムの構成例を示す図である。
図2】本発明の移動局装置の実施例構成を示す図である。
図3】制御回路17における制御処理手順を示すフローチャートである。
図4】離隔角度θijと許容角度変位θ0の関係を示す図である。
図5】従来の追尾アンテナの課題を説明する図である。
図6】従来の移動局装置を含む衛星通信システムの構成例を示す図である。
図7】複数の追尾アンテナを用いる移動局装置の構成例を示す図である。
図8】従来の移動局装置の課題を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、本発明の移動局装置を含む衛星通信システムの構成例を示す。
図1において、移動体(ここでは船舶)に搭載される移動局装置は、複数m個の追尾アンテナA1〜Amを有し、各追尾アンテナに互いに異なる複数m個の衛星局S1〜Smを追尾させ、各追尾アンテナと各衛星局との間を1対1で接続する複数m個の伝搬路を形成し、各伝搬路を並列に用いて通信する構成である。
【0018】
ここで、本発明の移動局装置は、例えば追尾アンテナA2と衛星局S2との間の伝搬路が障害物等によりブロッキングされた場合に、追尾アンテナA2に他の衛星局(ここではS3)を追尾させ、追尾アンテナA3から衛星局S3に送信される信号と、追尾アンテナA2から衛星局S3に送信され信号とを同相合成させ、その伝搬路に適用する変調方式を他の伝搬路の変調方式より周波数利用効率の高いものに変更することを特徴とする。
【0019】
この2つの追尾アンテナA2,A3からの送信性能が同等であれば、非特許文献2の記載によれば6dBの回線品質向上が見込まれるため、変調方式として他の伝搬路の周波数利用効率より高い、すなわち変調多値数および/または符号化率の高いものに変更することにより、一部の伝搬路の遮断による全体の通信容量の低下を抑えることが可能となる。例えば、基本伝搬路において、周波数利用効率1bit/s/Hzの変調方式を使用していた場合、同相合成する追尾アンテナA2,A3からの伝搬路で周波数利用効率2bit/s/Hzの変調方式を使用できれば、伝送速度を維持することが可能となる。
【0020】
ここで、1bit/s/Hzの変調方式を選択しうる所要C/Nに対して、2倍の周波数利用効率を実現するためには、所要C/Nを原理的に3dB以上改善する必要がある。また、2bit/s/Hzの変調方式から2倍の周波数利用効率を実現するためには、所要C/Nを原理的に6dB以上改善する必要がある。市販モデム(Comtech EF DATA 社のCDM-625 )の変調方式等に対する伝送速度および所望Eb/Noを表1に示すが、各伝搬路において、QPSK、符号化率0.803 を使用していた場合、周波数利用効率は1.61であり、この時のEb/Noは 3.8dBであることが確認できる。
【0021】
【表1】
【0022】
同相合成する追尾アンテナA2,A3からの伝搬路において、周波数利用効率1.61の2倍の周波数利用効率(3.22以上)を実現するためには、周波数利用効率が3.32以上の16−QAM、符号化率0.829 または0.853 を選択する必要がある。これらのEb/Noは 7.5dBまたは 8.0dBであるため、各伝搬路のEb/No 3.8dBに対して回線品質を 3.7dB以上または 4.2dB以上向上させる必要がある。上記のように、2つの追尾アンテナからの信号を同相合成した場合は6dBの回線品質向上が見込まれるため、使用可能な伝搬路数が減っても、本発明によりこれらの周波数利用効率の高い変調方式に切り替えることにより、伝送速度を維持することが可能となる。
【0023】
なお、3bit/s/Hzの変調方式から2 倍の周波数利用効率を実現するためには、所要C/Nを原理的に9dB以上改善する必要がある。したがって、周波数利用効率が2bit/s/Hzの変調方式より高いシステムでは、6dBの改善では周波数利用効率を2倍とすることはできないが、周波数利用効率の上昇は見込めるため伝送速度の劣化を抑圧することができる。
【0024】
図2は、本発明の移動局装置の実施例構成を示す。図2(1) は図6に対応する状態を示し、図2(2) は図1に対応する同相合成の状態を示す。
【0025】
図2において、移動局装置は、直並列変換回路11、経路切替/並直列変換回路12、変調回路13−1〜13−m、経路切替/複製回路14、移相器15−1〜15−m、送信回路16−1〜16−m、制御回路17、追尾アンテナA1〜Amを備え、各追尾アンテナA1〜Amが衛星局S1〜Smをそれぞれ追尾する構成である。
【0026】
入力したデータ列は、m個の追尾アンテナA1〜Amから並列送信されるように、直並列変換回路11を介してm並列のデータ列に変換される。ここで、追尾アンテナA1〜Amと衛星局S1〜Smとの間の各伝搬路がそれぞれ形成されている場合には、図2(1) に示すように、直並列変換回路11から出力されるm並列のデータ列は、経路切替/並直列変換回路12を通過して変調回路13−1〜13−mに入力し、所定の変調方式により変調される。各変調信号は、経路切替/複製回路14および移相器15−1〜15−mを通過して送信回路16−1〜16−mに入力し、無線信号として追尾アンテナA1〜Amからそれぞれ対応する衛星局S1〜Smに送信される。
【0027】
一方、図1に示すように、追尾アンテナA2と衛星局S2との間の伝搬路が障害物により遮断した場合には、追尾アンテナA2に衛星局S3を追尾させ、追尾アンテナA3から衛星局S3に送信される信号と、追尾アンテナA2から衛星局S3に送信される信号とを同相合成させる。このとき、制御回路17は図2(2) に示すように、経路切替/並直列変換回路12、変調回路13−1〜13−m、経路切替/複製回路14、移相器15−1〜15−m、追尾アンテナA1〜Amを制御する。
【0028】
すなわち、経路切替/並直列変換回路12は、追尾アンテナA2,A3から並列送信されるデータ列(2,3)を直列データ列(2+3)に多重化して変調回路13−3に入力する。このとき、変調回路13−2は休止する。変調回路13−3は、他の変調回路に対して周波数変換効率が2倍となる変調方式に切り替える。上記の例では、QPSK、符号化率0.803 から16−QAM、符号化率0.829 または0.853 の変調方式に切り替える。経路切替/複製回路14は、変調回路13−3から出力される変調信号(2+3)を複製し、移相器15−2,15−3に出力する。移相器15−2,15−3は、追尾アンテナA2,A3から送信される無線信号が同相合成されるように変調信号(2+3)の移相量を設定し、送信回路16−2,16−3に出力する。送信回路16−2,16−3は、変調信号(2+3)を無線信号として追尾アンテナA2,A3から衛星局S3に送信し、同相合成される。
【0029】
移動局装置の受信側は、図2に示す手順と逆の手順により信号を復調する構成となる。すなわち、送信回路16−1〜16−mは受信回路に対応し、移相器15−1〜15−mおよび経路切替/複製回路14は、図7(2) の振幅・位相制御部および信号合成器に対応し、変調回路13−1〜13−mは復調回路に対応し、経路切替/並直列変換回路12は経路切替/直並列変換回路に対応し、直並列変換回路11は並直列変換回路に対応する。
【0030】
図3は、制御回路17における制御処理手順を示す。
図3において、移動局装置の追尾アンテナiと衛星局jとの間に伝搬路を形成できるか否かを判定するために、追尾アンテナiの位置情報、衛星局jの位置情報、障害物の位置情報を用いて、図4に示すように追尾アンテナiと衛星局jとの間の伝搬路と障害物との離隔角度θijを算出する(S1)。ここで、i,jは、上記の例では1〜mの整数であり、離隔角度θijが移動体の動揺等の影響による許容角度変位θ0より大きければ、追尾アンテナiと衛星局jとの間に伝搬路が形成できるものと判定される。追尾アンテナiと衛星局jの離隔角度θijとを判定基準に基づき、すべての伝搬路が形成できるように組み合わせを行い(S2)、すべての伝搬路が形成できるか否かを判断する(S3)。そして、すべての伝搬路が形成できる場合(S3:Yes )には、それぞれの伝搬路を用いて並列通信を行う(S4)。
【0031】
一方、すべての伝搬路が形成できない場合(S3:No)には、伝搬路が形成できない追尾アンテナと他の衛星局との間に同相合成する伝搬路を設定し(S5)、その同相合成伝搬路の伝送品質が向上することから周波数利用効率の高い変調方式に切り替え(S6)、それぞれの伝搬路を用いて並列通信を行う(S7)。
【0032】
また、移動体の移動に伴って離隔角度θijが時々刻々と変化するため、ステップS1〜S7の処理を繰り返す。ここで、離隔角度θijと許容角度変位θ0との差を常に監視し、所定の閾値θTに対して(θij−θ0 )<θTとなったときに、伝搬路形成の角度余裕が小さくなったと判断し、伝搬路の組み合わせを変えるようにしてもよい。また、同相合成している伝搬路があっても、伝搬路の再構成によりすべての伝搬路が形成できる場合には、同相合成に代えてすべての伝搬路を用いた通信に切り替えてもよい。
【0033】
なお、本実施例では、合成していない伝搬路において同一の通信方式を使用しているが、個々の伝搬路において異なる通信方式を用いてもよい。さらに、同相合成する伝搬路は、合成数を2に限定するものでなく3以上であってもよい。この場合の伝搬路の回線品質は、非特許文献2により合成数の2乗に比例する。
【0034】
また、m個の衛星局に対してm+1個以上の追尾アンテナ系を備え、一部の伝搬路の遮断に対応する冗長構成をとる衛星通信システムにおいて、本発明の同相合成を用いる手段を適用するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0035】
11 直並列変換回路
12 経路切替/並直列変換回路
13 変調回路
14 経路切替/複製回路
15 移相器
16 送信回路
17 制御回路
A 追尾アンテナ
S 衛星局
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8