(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
圧延材の板厚偏差を計測し、この計測した板厚偏差を基に前記圧延材を圧延するワークロールのロール隙間を算出し、この算出したロール隙間に応じて圧下装置を制御する自動板厚制御方法であって、
「変更前」及び「変更後」の圧延速度において、前記圧下装置の一方側における圧延材の板厚偏差を計測し、この計測した板厚偏差を周波数成分に分解し、
この分解された前記「変更前」及び「変更後」の圧延速度における周波数成分を比較することによって、当該「変更前」及び「変更後」の圧延速度に依存しない成分をノイズ成分として板厚偏差から排除し、
このノイズ成分が排除された板厚偏差を基に前記圧延材を圧延するワークロールのロール隙間を算出することを特徴とする自動板厚制御方法。
分解された周波数成分から、前記圧延速度に依存しない成分をノイズ成分として排除するに際して、以下の(i)〜(v)を行うことを特徴とする請求項1に記載の自動板厚制御方法。
(i) 圧延速度の変化前後における圧延速度の変化の割合である「速度変化率」を算出する。
(ii) 圧延速度の変化前と変化後とのそれぞれについて、板厚の偏差を計測すると共に計測された偏差を周波数成分に分解する。
(iii) 圧延速度の変化前における各周波数成分の周波数に、算出した速度変化率を乗じて乗算周波数成分として求める。
(iv) 圧延速度の変化後の各周波数成分に着目し、(iii)で求めた乗算周波数成分と等しくなる周波数成分を抽出する。
(v) 抽出した周波数成分に関して、圧延速度の変化後の振幅から圧延速度の変化前の振幅を差し引くことにより、前記ノイズ成分が排除された周波数成分の振幅を求める。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記した特許文献1,2の技術では、高精度の自動板厚制御を実現できるまでには至っていなかった。
その一つの原因として、自動板厚制御に利用する板厚偏差の計測結果には、板厚の変動に起因した成分以外にもノイズ成分が含まれている。これらのノイズ成分を、板厚の変動に起因した成分と区別することは容易ではなく、自動板厚制御のために用いられる板厚偏差の信号にこれらのノイズ成分が重畳されていると、高精度に板厚を制御することが困難になる。
【0007】
本発明は、上記問題点を鑑みてなされたものであり、板厚の変動に起因した成分以外のノイズ成分が排除された板厚偏差を用いることにより、高精度な自動板厚制御を行うことが可能な自動板厚制御方
法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の目的を達成するため以下の技術的手段を講じた。
本発明の圧延機の自動板厚制御方法は、圧延材の板厚偏差を計測し、この計測した板厚偏差を基に前記圧延材を圧延するワークロールのロール隙間を算出し、この算出したロール隙間に応じて圧下装置を制御する自動板厚制御方法であって、少なくとも2つの圧延速度において圧延材の板厚偏差を計測し、この計測した板厚偏差を周波数成分に分解し、この分解された少なくとも2つの圧延速度における周波数成分を比較することによって、圧延速度に依存しない成分をノイズ成分として板厚偏差から排除し、このノイズ成分が排除された板厚偏差を基に前記圧延材を圧延するワークロールのロール隙間を算出することを特徴とするものである。
【0009】
好ましくは、分解された周波数成分から、前記圧延速度に依存しないものをノイズ成分として排除するに際して、以下の(i)〜(v)を行うと良い。
(i) 圧延速度の変化前後における圧延速度の変化の割合である「速度変化率」を算出する。
(ii) 圧延速度の変化前と変化後とのそれぞれについて、板厚の偏差を計測すると共に計測された偏差を周波数成分に分解する。
【0010】
(iii) 圧延速度の変化前における各周波数成分の周波数に、算出した速度変化率を乗じて乗算周波数成分として求める。
(iv) 圧延速度の変化後の各周波数成分に着目し、(iii)で求めた乗算周波数成分と等しくなる周波数成分を抽出する。
(v) 抽出した周波数成分に関して、圧延速度の変化後の振幅から圧延速度の変化前の振幅を差し引くことにより、前記ノイズ成分が排除された周波数成分の振幅を求める。
【0011】
また、本発明の圧延機の自動板厚制御方法の最も好ましい形態は、圧延材の板厚偏差を計測し、この計測した板厚偏差を基に前記圧延材を圧延するワークロールのロール隙間を算出し、この算出したロール隙間に応じて圧下装置を制御する自動板厚制御方法であって、「変更前」及び「変更後」
の圧延速度において、前記圧下装置の一方側における圧延材の板厚偏差を計測し、この計測した板厚偏差を周波数成分に分解し、この分解された前記「変更前」及び「変更後」
の圧延速度における周波数成分を比較することによって、当該「変更前」及び「変更後」の圧延速度に依存しない成分をノイズ成分として板厚偏差から排除し、このノイズ成分が排除された板厚偏差を基に前記圧延材を圧延するワークロールのロール隙間を算出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の自動板厚制御方
法によれば、板厚の変動に起因した成分以外のノイズ成分が排除された板厚偏差を用いることにより、高精度な自動板厚制御を行うことが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の自動板厚制御部1を備えた圧延機2の実施の形態を、図面に基づき説明する。
図1に示すように、本実施の形態に係る圧延機2は、上下一対のワークロール3、中間ロール4、バックアップロール5を複数本組み合わせることによって構成されたクラスタ圧延機である。クラスタ圧延機は、各ロールの配置が側面視で葡萄の房のようになっているものである。図例のクラスタ圧延機6は、上下一対のワークロール3の周りに4本の中間ロール4(上下に2本ずつ)が配置され、中間ロール4の周りに6本のバックアップロール5(上下に3本ずつ)が配置されている12段圧延機である。クラスタ圧延機6は、ステンレス、チタン、特殊鋼、銅などの圧延材Wを冷間圧延して薄板材とするものであり、高精度の自動板厚制御をおこなうことが要求される。それ故、クラスタ圧延機に本発明の自動板厚制御方法を適用するのが好適である。とはいえ、本発明が適用される圧延機2としては、12段以外のクラスタ圧延機(例えば20段圧延機)でもよいし、クラスタ圧延機以外の圧延機であってもよい。
【0015】
圧延機6には、ワークロール3、3間のロール隙間を変更する圧下装置7が設けられている。この圧下装置7は、図示は省略するが、バックアップロール5によって支持されているワークロール3間のロール隙間を変更するウエッジと、このウエッジを移動させる移動機構(例えば、油圧シリンダ)とから構成されている。ウェッジはくさび状に形成されていて、水平方向に移動させることによりバックアップロール5を押し上げ又は押し下げ方向に移動させる構成となっている。
【0016】
圧延機6の入側(
図1の左側)、出側(
図1の右側)には、圧延材Wを巻き出す巻出リール8及び圧延された圧延材Wを巻き取る巻取リール9が備えられている。
さらに、圧延機6の入側には、圧延材Wの板厚を計測する入側板厚計10が設けられており、圧延機6の出側にも、圧延材Wの板厚を計測する出側板厚計11が設けられている。これらの入側板厚計10及び出側板厚計11は、非接触式の板厚計(例えば、X線板厚計など)で構成されている。なお、これらのリール8、9と板厚計10、11は、逆方向に圧延する場合は、その機能が反対になる。
さらに、圧延機2には、上下のワークロール3のロール隙間を制御する自動板厚制御部1を有している。この自動板厚制御部1は、フィードフォワード制御部12及びフィードバック制御部13を有しており、プロコンやシーケンサ、PLCなどの電気制御機器で構成されている。
【0017】
上述した圧延機2は、圧延材Wをワークロール3間に通板することで圧延が行われており、その際に上下のワークロール3のロール隙間を自動板厚制御部1により制御することによって所望の厚みの圧延材Wを圧延できる構成とされている。
図2に示すように、自動板厚制御部1のフィードフォワード制御部12は、概念的には、入側板厚偏差トラッキング手段14、出力タイミング調整手段15、出力量演算器16及び乗算器17から構成されている。ただし、これらの手段が物理的に独立した機器である必要はなく、これらの機能を備えていればよい。
【0018】
フィードフォワード制御部12では、まず、入側板厚偏差トラッキング手段14において、入側のデフレクタロールに接続されたパルスジェネレータ18が発するパルス信号に基づき、所定のサンプリング周期Tsで、入側板厚計10が測定した圧延材Wの板厚Hiと設定板厚Hsとの差である入側板厚偏差ΔHiを取り込んで保持する。その後、測定点に対応する圧延材W上の位置(測定点)がワークロール3の直下に到着した時点で、出力タイミング調整手段15から入側板厚偏差ΔHiが出力され、同じく、出力量演算器16から圧延機のミル定数に基づく係数が出力される。両出力は乗算器17で乗算されて、入側板厚偏差ΔHiを是正するロールギャップ変更量ΔS(ロール隙間の変更量)が算出され、圧下装置7への指令値として出力される。
【0019】
なお、フィードフォワード制御部12で行われる制御は、自動板厚制御技術において通常採用されているものであり、例えば、特開平3−254309号公報などに開示されている技術である。
このフィードフォワード制御はオープンループであるため、この修正量の過不足を出側板厚計11で計測すると共に、この計測値を基にしたフィードバック制御をフィードバック制御部13において併用している。
【0020】
ところで、
図1および
図2に示すように、本発明の自動板厚制御部1は、フィードフォワード制御部12と入側板厚計10との間に、入側板厚偏差補正演算部19を備えていることを特徴とする。
この入側板厚偏差補正演算部19は、入側板厚計10で測定された入側板厚を基にした板厚偏差を周波数成分に分解し、周波数空間上で一旦ノイズ成分を取り除いた後の値をフィードフォワード制御部12(入側板厚偏差トラッキング手段14)に入力するものである。
【0021】
以下、
図4〜
図6を用いて、入側板厚偏差補正演算部19での信号処理、言い換えれば本発明の自動板厚制御方法の特徴を簡単に説明する。
図4、
図5には、本発明の処理の考え方を示している。
すなわち、
図4(a)に示すように、入側板厚計10から取り込まれた入側板厚偏差ΔH
AをFFT処理して周波数成分に分解した場合に、[P1]〜[P5]の5つの周波数成分が得られたとする。この5つの周波数成分は、
図4(b)に示すノイズを含まない板厚偏差の周波数成分(真の板厚偏差)[P6]及び[P7]と、
図4(c)に示すノイズ成分[P8]〜[P11]と、を合成したものとなっている。つまり、
図4(a)の[P2]に着目すればその振幅は
図4(b)の[P6]の振幅と
図4(c)[P9]の振幅との和となっていて、実際にデータとして得られる[P2]の結果だけでは、これを[P6]と[P9]とに分離する(ノイズ成分だけを抽出する)ことはできない。
【0022】
一方、
図5は、
図4と同じ圧延材Wについて、その圧延速度を、例えば2倍に変化させた場合に得られる入側板厚偏差ΔH
Bの周波数成分(FFT処理結果)を示している。この
図5(a)から明らかなように、入側板厚偏差ΔH
Bの周波数成分もΔH
Aと同様に[P12]〜[P15]の4つの周波数成分から構成されている。
図5(c)に示すノイズ成分に着目すれば、[P18]〜[P21]はその振幅も発生する周波数も
図4(c)と同じであるが、
図5(b)に示すノイズを含まない板厚偏差の周波数成分(真の板厚偏差)に着目すれば、[P16]及び[P17]については発生する周波数が
図4(b)のときと異なっている。
【0023】
すなわち、これらのノイズを含まない板厚偏差の周波数成分は、圧延速度が2倍に変化するのに合わせて、発生周波数も2倍となっている。つまり、板厚偏差の周波数成分については、「ノイズを含まない板厚偏差の周波数成分の発生周波数は圧延速度の変化率に合わせて同じ変化率で変化する(10Hz→20Hz、15Hz→30Hz)が、ノイズ成分の発生周波数は圧延速度が変化しても同じ変化率では変化しない」という特性が見られる。それ故、この特性を用いれば、ノイズ成分を排除してノイズを含まない板厚偏差の周波数成分だけを抽出することが可能となる。
【0024】
とはいえ、
図4(c)、
図5(c)に示すノイズ成分は、実際には不明であり解らないので、本実施形態では、以下の手順(
図3のS1〜S11)にて、ノイズを含まない板厚偏差の周波数成分(真の板厚偏差)、言い換えれば補正板厚偏差を抽出するようにしている。
図3のS1〜S11の処理は、入側板厚偏差補正演算部19で行われる。
まず、
図3のS1では、圧延材Wの圧延速度Vを計測する。この圧延速度Vの計測は、ワークロール3の回転数に基づいて算出されるものであっても良いし、速度センサなどを用いて計測されるものであっても良い。ここでは、ワークロール3(正確にはワークロール3の中間ロール4)の回転数に基づいて圧延速度V=100mpmが計測された場合を考える。このようにして圧延速度Vが計測した後にS2に進む。
【0025】
次に、S2では、入側板厚計10を用いて圧延材Wの入側での板厚が計測される。その後、計測された板厚から設定板厚Hsを差し引いて、入側板厚偏差ΔH
Aを算出する。なお、この入側板厚偏差ΔH
Aには、ノイズ成分が分離不能な状態で含まれている。そこで、S3に進んで、この入側板厚偏差ΔH
Aを周波数成分に分解して、周波数成分に分解した状態で上述した特性を利用してノイズ成分を分離する。
【0026】
S3では、S2で算出された入側板厚偏差ΔH
AにFFT処理を施し、周波数成分に分割する。ここでは、入側板厚偏差ΔH
Aは、
図6(a)に示すように、[P1]〜[P5]の5つの周波数成分に分割されている。
[P1] 振幅0.01μm、周波数1Hz
[P2] 振幅0.83μm、周波数10Hz
[P3] 振幅0.90μm、周波数15Hz
[P4] 振幅0.04μm、周波数20Hz
[P5] 振幅0.02μm、周波数30Hz
この入側板厚偏差ΔH
Aは、上述した[P1]〜[P5]を用いると式(1)のように示される。
入側板厚偏差ΔH
A=0.01sin(2π×1×t)+0.83sin(2π×10×t)+0.9sin(2π×15×t)
+0.04sin(2π×20×t)+0.02sin(2π×30×t) ・・・(1)
このようにして入側板厚偏差ΔH
Aがそれぞれの周波数成分に分割されたら、S4に進む。
【0027】
図3のS4では、S1で計測された「圧延材Wの圧延速度Vが変更されたかどうか」を判断する。
具体的には、圧延材Wの圧延速度Vの変化を所定のサンプリング周期Ts毎に取り込み、連続して取り込まれた圧延速度Vの計測結果の間に所定の変化量以上の変化があるかどうかを判断する。圧延速度Vが所定の変化量以上で変化しているときは「圧延速度Vが変更された」と判断してS5に進み、所定の変化量未満であるときは「圧延速度Vが変更されていない」と判断してS4の最初に戻る。
【0028】
S5では、変更後の圧延速度をV’として、圧延速度の変化倍率を算出する。つまり、圧延材Wの圧延速度V’=200mpmがS1と同様にして計測された場合には、計測された圧延速度V’とS1で計測された圧延速度Vとを用いて、圧延速度の変化倍率(速度変化率)が(変化倍率)=V’/V=2.0と計算される。このようにして圧延速度の変化倍率V’/Vが得られたら、S6に進む。
【0029】
S6では、変更後の圧延速度に対して再び板厚偏差の計測が行われる。すなわち、S2の場合と同様な手順で入側板厚偏差ΔH
Bが算出される。このようにしてS6で算出された入側板厚偏差ΔH
Bについても、ノイズ成分が分離不能な状態で含まれているため、ノイズ成分を取り除きやすいようにS7に進んで入側板厚偏差ΔH
BにFFT処理を施し周波数成分に分離する。
【0030】
S7では、S3と同様に、S6で計測された入側板厚偏差ΔH
BをFFT処理により、周波数成分に分離する。ここでは、入側板厚偏差ΔH
Bは、
図6(b)に示すように、[P12]〜[P15]の4つの周波数成分に分離される。
[P12]振幅0.01μm、周波数1Hz
[P13]振幅0.03μm、周波数10Hz
[P14]振幅0.84μm、周波数20Hz
[P15]振幅0.92μm、周波数30Hz
つまり、この入側板厚偏差ΔH
Bは式(2)のように示される。
入側板厚偏差ΔH
B=0.01sin(2π×1×t)+0.03sin(2π×10×t)
+0.84sin(2π×20×t)+0.92sin(2π×30×t) ・・・(2)
このようにして入側板厚偏差ΔH
Bがそれぞれの周波数成分に分割されたら、S8に進んで計測された、入側板厚偏差ΔH
Aの周波数成分と入側板厚偏差ΔH
Bの周波数成分とを比較する。
【0031】
S8では、上述した「ノイズを含まない板厚偏差の周波数成分の発生周波数は圧延速度の変化率に合わせて同じ変化率で変化するが、ノイズ成分の発生周波数は圧延速度が変化しても同じ変化率では変化しない」という特性を利用して、得られた周波数成分からノイズ成分を分離し、ノイズを含まない板厚偏差の周波数成分だけを抽出する。
具体的には、まず圧延速度の変化倍率(速度変化率)に着目する。上述した例では変化倍率V’/V=2.0であるから、入側板厚偏差ΔH
Aの周波数成分が発生する周波数1Hz、10Hz、15Hz、20Hz、30Hz(
図6(a)参照)にこの速度変化率(2.0倍)を乗算して、周波数2Hz、20Hz、30Hz、40Hz、60Hzという周波数を得る(乗算周波数成分)。得られた周波数で、入側板厚偏差ΔH
Bの周波数成分が発生しているかどうかをチェックする。
【0032】
図6(b)に示されるように、圧延速度が変化した後における、入側板厚偏差ΔH
Bの周波数成分は周波数1Hz、10Hz、20Hz、30Hzで発生しているので、周波数20Hz、30Hzという周波数が「入側板厚偏差ΔH
Aの周波数成分が発生する周波数に変化倍率を乗算したもの(乗算周波数成分)」に該当するので、これらの周波数成分を抽出する。
つまり、この周波数20Hzの[P14]及び周波数30Hzの[P15]に、ノイズを含まない板厚偏差の周波数成分が含まれている。ただし、この[P14]及び[P15]にはノイズ成分も含まれている可能性が多いので、S9に進んでノイズ成分を排除する。
【0033】
S9では、入側板厚偏差ΔH
Bからノイズ成分だけを排除する。すなわち、
図6(a)において、20Hz、30Hzの位置に発生する周波数成分に着目する。これらの周波数成分がノイズ成分でない場合は、乗算周波数の40Hz、60Hzに周波数成分が発生するはずである。ところが40Hzにも60Hzにも周波数成分が発生していない。つまり、
図6(b)において20Hzや30Hzに発生している周波数成分はノイズ成分に他ならない。それ故、[P14]及び[P15]の振幅から[P4]及び[P5]の振幅を差し引くことで、式(3)に示すようにノイズを含まない板厚偏差の周波数成分(の振幅)を得ることができる。
ノイズを含まない板厚偏差ΔH=0.84sin(2π×20×t)+0.92sin(2π×30×t)
-0.04sin(2π×20×t)-0.02sin(2π×30×t)
=0.80sin(2π×20×t)+0.9sin(2π×30×t) ・・・(3)
このようにして、ノイズ成分が排除された板厚偏差ΔHをフィードフォワード制御部12に入力してロール隙間ΔSを制御すれば、ノイズ成分の影響を確実に排除して高精度な自動板厚制御を行うことが可能となる。
【0034】
このようにして、S10にてノイズ成分が排除された板厚偏差ΔHを「補正板厚偏差」としてフィードフォワード制御部12(入側板厚偏差トラッキング手段14)に入力してロール隙間変更量ΔSを制御すれば、ノイズ成分の影響を確実に排除して高精度な自動板厚制御を行うことが可能となる。
S11では、上記したS1〜S10の処理を再度行うか否かを判定する。このS1〜S10の処理は、圧延速度を複数回に亘って変更する場合は変更のたびに行うことができ、そのたびにノイズを排除してより高精度な自動板厚制御を行うことできる。
【0035】
ところで、上記したS1〜S11の処理は、圧延速度の変化倍率が2倍の例であったが、実際には変化倍率が2倍になるほど圧延速度を変化させなくても良い。また、この処理は、例えば圧延中において速度変化が発生した際に、すなわち1つの圧延材Wの加速時または減速時に実施してもよい。事前に本処理を行って、ノイズ成分(
図4(c)、
図5(c)に対応する波形、振幅)を事前に求めておくようにしてもよい。
【0036】
以上まとめれば、入側板厚偏差補正演算部19において、
(i) 圧延速度の変化前後における圧延速度の変化の割合である「速度変化率」を算出する、
(ii) 圧延速度の変化前と変化後とのそれぞれについて、板厚の偏差を計測すると共に計測された偏差を周波数成分に分解する、
(iii) 圧延速度の変化前における各周波数成分の周波数に、算出した速度変化率を乗じて「乗算周波数成分」として求める、
(iv) 圧延速度の変化後の各周波数成分に着目し、(iii)で求めた乗算周波数成分と等しくなる周波数成分を抽出する、
(v) 抽出した周波数成分に関して、圧延速度の変化後の振幅から圧延速度の変化前の振幅を差し引くことにより、前記ノイズ成分が排除された周波数成分の振幅を求める、
という処理を行うことで、ノイズ成分が排除された板厚偏差ΔHを得ることができ、高精度な自動板厚制御を行うことが可能となる。
【0037】
上記実施形態では、2つの異なる圧延速度における板厚偏差を計測したが、3つ以上の圧延速度を計測して制御をおこなってもよい。
なお、上記の実施形態において、明示的に開示されていない事項、例えば、圧延機の運転条件や操業条件、各種パラメータ、構成物の寸法、重量、体積などは、この技術分野において通常実施されている値を採用すればよい。