(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
軸受部材と、軸受部材の内周に挿入された軸部材と、軸受部材の内周面と軸部材の外周面との間に形成されるラジアル軸受隙間とを備え、軸部材の外周面に軸方向に離隔した二つのラジアル軸受面が形成され、該ラジアル軸受面のそれぞれに、ラジアル軸受隙間に介在する潤滑流体に動圧作用を発生させるための凹部が複数設けられた流体動圧軸受装置の製造方法であって、
軸部材に、軸素材に熱処理を施すことで硬度450Hv以上の表面硬化層を形成し、前記表面硬化層に転造加工を施すことで前記凹部を形成することを特徴とする流体動圧軸受装置の製造方法。
軸部材の外周面のうち、二つのラジアル軸受面の間に位置する領域に、前記凹部の底部よりも小径に形成された円筒状の中逃げ部が設けられた請求項1に記載の流体軸受装置の製造方法。
軸部材が、前記凹部を有する軸部と、軸部の一端に取り付け固定され、軸受部材の端面との間にスラスト軸受隙間を形成するフランジ部とを備える請求項1に記載の流体動圧軸受装置の製造方法。
スラスト軸受隙間を形成するフランジ部の端面に、スラスト軸受隙間に介在する潤滑流体に動圧作用を発生させるための凹部が複数設けられた請求項4に記載の流体動圧軸受装置の製造方法。
【背景技術】
【0002】
流体動圧軸受装置は、軸受隙間に生じる潤滑流体(例えば、潤滑油)の動圧作用で、軸受部材と、軸受部材の内周に挿入された軸部材を相対回転自在に非接触支持する軸受装置である。この流体動圧軸受装置は、高速回転、高回転精度、低騒音等の特徴を有するものであり、近年ではその特徴を活かして、ディスク駆動装置(例えば、HDD等の磁気ディスク駆動装置や、CD、DVD、ブルーレイディスク等の光ディスク駆動装置)のスピンドルモータ、レーザビームプリンタ(LBP)のポリゴンスキャナモータ、電気機器のファンモータ等のモータ用軸受装置として好適に使用されている。
【0003】
例えばディスク駆動装置のスピンドルモータに組み込まれる流体動圧軸受装置は、軸受部材と軸部材のラジアル方向における相対回転を支持するラジアル軸受部と、軸受部材と軸部材のスラスト方向における相対回転を支持するスラスト軸受部とを具備しており、両軸受部のうち、ラジアル軸受部はいわゆる動圧軸受で構成されるのが一般的である。ラジアル軸受部を動圧軸受で構成する場合、ラジアル軸受隙間を介して対向する軸受部材の内周面又は軸部材の外周面に、ラジアル軸受隙間に流体動圧を発生させるための凹部(例えば動圧溝)が複数設けられる。動圧溝は、その溝深さや溝幅が数μm〜十数μm程度の微小溝に形成されるのが一般的であり、このような微小溝を精度良く形成するための方法として、例えば下記の特許文献1に記載されたものが公知である。
【0004】
詳しくは、軸受部材に加工される円筒状の焼結金属素材の内周に、外周面に動圧溝形状に対応した溝型部を有するコアロッドを挿入した状態で焼結金属素材に圧迫力を加え、焼結金属素材の内周面をコアロッドの外周面に食い付かせて溝型部の形状を焼結金属素材の内周面に転写し、その後、圧迫力の解放により生じる焼結金属素材のスプリングバックを利用して、動圧溝の形状を崩すことなく、焼結金属素材の内周からコアロッドを抜き取る、という方法である。
【0005】
しかしながら、上記のようにして焼結金属素材の内周面に動圧溝を型成形する際には、相当に大きな圧迫力を焼結金属素材に加える必要があることから、コアロッドや、焼結金属素材の外周面を拘束するために焼結金属素材の外周に配置される金型(ダイ)に加わる力も相当に大きなものとなる。そのため、コアロッドやダイが摩耗等し易く、頻繁に型交換を実施する必要があり、このことが動圧溝の形成コスト、ひいては流体動圧軸受装置の製造コストを増大させる一因となっている。そこで、動圧溝の形成コストを低廉化するための手段として、軸部材の外周面に動圧溝を形成することが再度注目されるに至っている。
【0006】
軸部材は、焼入れされたステンレス鋼等、高強度・高剛性の金属材料で形成されるのが一般的である。このような金属製軸部材の外周面に複数の動圧溝を形成するための手法として、切削、エッチングあるいは転造などを採用することができるが、この中でも、高精度の動圧溝を比較的容易かつ低コストに形成し得る転造が重用される傾向にある。例えば、下記の特許文献2には、軸部材の外周面に動圧溝を転造形成するに際して一般的に採用される具体的手順が記載されている。詳述すると、まず、所定の軸径に仕上げられた軸素材に転造型を押し付け、軸素材の外周面に動圧溝を形成した後、この軸素材に熱処理を施して焼入れ軸を得る。そして、外周面に動圧溝が形成された焼入れ軸の外周面に研削等の最終仕上げを施すことにより、動圧溝およびこれを画成する丘部を含め、外周面が所定精度に形成された完成品としての軸部材を得る、というものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献2に記載されているように、未熱処理の軸素材に転造加工を施せば、素材の肉が塑性流動し易いために、動圧溝を容易に形成することができるという利点がある。しかしながらその反面、転造型を押し付けるのに伴って素材の肉が凸部100の両側で大きく盛り上がるために、動圧溝101相互間で溝深さが大きくばらつき易いこと(
図10を参照)、軸素材に内部応力が蓄積された状態で熱処理が施されるため、歪みによる変形が生じ易いこと、などの理由から、所望の回転精度を確保するためには研削等の最終仕上げが必須であり、かつ最終仕上げによる肉の取り代が大きい(材料ロスが多い)という問題がある。
【0009】
また、軸素材に熱処理を施すと、焼入れ軸の表面(表面硬化層の表層部)には、「黒皮」と称される酸化皮膜が形成される。黒皮が残存したままでは、軸受運転中にラジアル軸受隙間の流体圧力が高まるのに伴って黒皮が剥離し、これがコンタミとなって軸受性能を低下させるおそれがある。そのため、軸部材の製造過程では、研削等の最終仕上げとは別に、黒皮を除去するための除去加工を施すのが一般的である。上記した手順のように、動圧溝を形成してから軸素材に熱処理を施した場合には、各動圧溝内にも黒皮が残存することとなるが、溝深さや溝幅がミクロンオーダーの微小溝に形成される動圧溝内に残存する黒皮を完全に除去するのは容易ではない。もちろん、バレル加工等の除去加工を施せば動圧溝内の黒皮を除去することができるが、バッチ処理が必要となり、加工コストの増大を招来する。
【0010】
そこで、本発明は、軸部材の外周面に、ラジアル軸受隙間に介在する潤滑流体に動圧動圧作用を発生させるための凹部を転造で形成する際の手間を軽減しつつ、動圧発生用の凹部を高精度に形成することを可能とし、これにより、所期の軸受性能を発揮可能な流体動圧軸受装置の低コスト化を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明者らは、ラジアル軸受隙間に介在する潤滑流体に動圧発生を発生させるための凹部(動圧発生用の凹部)に必要とされる深さ寸法がミクロンオーダーであるとの知見に基づき、上記の目的を達成するための具体的手段を見出すに至った。
【0012】
すなわち、上記の目的を達成するために創案された本発明は、軸受部材と、軸受部材の内周に挿入された軸部材と、軸受部材の内周面と軸部材の外周面との間に形成されるラジアル軸受隙間とを備え、軸部材の外周面に軸方向に離隔した二つのラジアル軸受面が形成され、該ラジアル軸受面のそれぞれに、ラジアル軸受隙間に介在する潤滑流体に動圧作用を発生させるための凹部が複数設けられた流体動圧軸受装置
の製造方法であって、軸部材
に、軸素材に熱処理を
施すことで硬度450Hv以上の表面硬化層を
形成し、前記表面硬化層に転造加工を施すことで
前記凹部を形成
することを特徴とする。なお、ここでいう「凹部」の形状は特に問わず、軸方向に延びた軸方向溝や軸方向に対して傾斜した傾斜溝等のいわゆる動圧溝の他、ディンプル(窪み)などが含まれる。
【0013】
上記のように、軸部材の外周面に設けられる動圧発生用の凹部は、必要とされる深さ寸法がミクロンオーダーであることから、熱処理により形成された表面硬化層(焼入れ軸)に転造加工を施した場合でも所定の深さ寸法を具備した凹部を形成することができる。そして、表面硬化層に転造加工を施すことによって凹部を形成するようにすれば、未熱処理の軸素材に転造加工を施す場合と比較して、転造により生じる凸部の両側での肉の盛り上がり量が小さくなり、凹部相互間で深さ寸法にばらつきが生じるのを抑制することができる。しかも、凹部を転造形成した後、すなわち軸素材に内部応力が蓄積された状態で軸素材に熱処理を施す必要がなくなるため、歪みによる変形が生じ難くなる。従って、場合によっては最終仕上げを省略することができ、また、最終仕上げを施す場合であってもその加工量を少なくすることができる。さらに、本発明の構成上、転造加工を施すよりも先に、表面硬化層の表層部(焼入れ軸の外表面)に形成された黒皮の除去加工を実行することができる。転造加工前の焼入れ軸の外周面は、動圧発生用の凹部等の微小な凹凸が存在しない概ね平滑な円筒面状を呈することから、黒皮を容易に除去することができる。これにより、黒皮が軸部材から剥離してコンタミとなり、軸受性能が低下するような問題が生じ難くなる。
【0015】
ラジアル軸受隙間は、軸方向に離隔した二箇所に形成することができる。このようにすれば、回転トルクの上昇を抑制しつつ、モーメント剛性を高めることができる。この場合、軸部材の外周面のうち、二つのラジアル軸受隙間の間に位置する領域に、凹部の底部よりも小径に形成された円筒状の中逃げ部を設けておくのが望ましい。このようにすれば、軸受部材の内周面を径一定の真円状円筒面に形成して、その製造コストを低廉化しつつ、軸部材の外周面と軸受部材の内周面との間に潤滑流体溜りを設けることができる。軸方向に隣接する二つのラジアル軸受隙間間に潤滑流体溜りが設けられていれば、ラジアル軸受隙間を常時潤沢な潤滑流体で満たすことが可能となり、ラジアル方向における回転精度の安定化が図られる。
【0016】
軸受部材を焼結金属製とすれば、その内部気孔に保持された潤滑流体をラジアル軸受隙間に滲み出させることができるので、ラジアル軸受隙間に介在させるべき潤滑流体が不足するような事態が一層効果的に防止される。また、ラジアル軸受隙間に流体動圧を発生させるための凹部が軸部材の外周面に設けられる本発明の構成上、軸受部材の内周面に動圧発生用の凹部を設ける必要がなく、軸受部材の内周面を平滑な円筒面に形成することができる。そのため、軸受部材を焼結金属で形成したとしても、動圧発生用の凹部を焼結金属製の軸受部材の内周面に型成形する場合に懸念される製造コストの増大も可及的に防止される。
【0017】
軸部材は、動圧発生用の凹部を有する軸部と、軸部の一端に設けられ、軸受部材の端面との間にスラスト軸受隙間を形成するフランジ部とを備えるものとすることができる。軸部とフランジ部は一体的に設けることも可能であるが、動圧発生用の凹部を転造で形成する本発明の構成上、フランジ部が軸部と一体的に設けられていると凹部の加工性が低下する可能性がある。従って、フランジ部は、適宜の手段で軸部の一端に取り付け固定するのが望ましい。軸部に対するフランジ部の固定方法は特に問わず、フランジ部の形状や形成材料等に応じて、圧入、接着、圧入接着(圧入と接着の併用)、溶接、溶着、加締め等を採用することができる。
【0018】
この場合、軸受部材の端面との間にスラスト軸受隙間を形成するフランジ部の端面に、スラスト軸受隙間に流体動圧を発生させるための凹部を複数設けることができる。このようにすれば、スラスト軸受隙間を介して対向する軸受部材の端面に、スラスト軸受隙間に流体動圧を発生させるための凹部を形成する必要がなくなるので、軸受部材の製造コストを低廉化することができる。
【0019】
以上で述べた本発明に係る流体動圧軸受装置はステータコイルと、ロータマグネットとを有するモータ、例えばディスク駆動装置用のスピンドルモータに組み込んで好適に使用可能である。
【0021】
前記表面硬化層に転造加工を施す際には、少なくとも前記凹部を形成するための凹部形成部が、表面硬化層よりもHV100以上高硬度に形成された転造型を用いるのが好ましい。これにより、表面硬化層に、所定形状・所定深さの動圧発生用凹部を形成することができる。
【0022】
前記軸素材の熱処理後、前記表面硬化層に転造加工を施すまでの間に、表面硬化層の
酸化被膜(黒皮)を除去する
のが好ましい。上記したように、本発明の構成上、転造加工前の焼入れ軸の外周面は、微小な凹凸が存在しない概ね平滑な円筒面状に形成されることから、黒皮を容易に除去することができる。これにより、黒皮が軸部材から剥離してコンタミとなり、軸受性能が低下するような問題が生じるのを容易に防止することが可能となる。
【0023】
前記表面硬化層に転造加工を施した後、軸部材の外周面を所定精度に仕上げるための仕上げ工程をさらに設けることもできる。上記したように、本発明の構成を採用すれば、転造加工により生じる肉の盛り上がり量を小さくすることができることに加え、焼入れにより生じる変形の程度が小さくなることから、場合によっては仕上げ加工を省略しても構わない。従って、この仕上げ工程は必要に応じて設ければ足りる。なお、仕上げ加工の手法は特に問わず、研削、研磨、塑性加工等を採用することができる。
【発明の効果】
【0024】
以上に示すように、本発明によれば、軸部材の外周面に、ラジアル軸受隙間に流体動圧を発生させるための凹部を転造で形成する際の手間を軽減しつつ、上記凹部を高精度に形成することが可能となる。これにより、所期の軸受性能を発揮可能な流体動圧軸受装置の低コスト化を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0027】
図1に、流体動圧軸受装置が組み込まれた情報機器用スピンドルモータの一構成例を概念的に示す。このスピンドルモータは、HDD等のディスク駆動装置に用いられるものであり、軸部材2を回転自在に支持する流体動圧軸受装置1と、軸部材2に固定されたディスクハブ3と、例えば半径方向のギャップを介して対向させたステータコイル4およびロータマグネット5と、モータベース6とを備えている。ステータコイル4はモータベース6の外周に取付けられ、ロータマグネット5はディスクハブ3の内周に取付けられる。流体動圧軸受装置1の軸受部材9は、モータベース6の内周に固定される。ディスクハブ3にはディスクDが一又は複数枚(図示例は2枚)保持され、ディスクDは、軸部材2にねじ止めされたクランパ(図示省略)とディスクハブ3とで軸方向に挟持固定される。以上の構成において、ステータコイル4に通電すると、ステータコイル4とロータマグネット5との間の電磁力でロータマグネット5が回転し、それによって、ディスクハブ3およびディスクハブ3に保持されたディスクDが軸部材2と一体に回転する。
【0028】
図2に、本発明の第1実施形態に係る流体動圧軸受装置1を示す。この流体動圧軸受装置1は、軸方向の両端部が開口した軸受部材9と、軸受部材9の内周に挿入された軸部材2と、軸受部材9の一端開口を閉塞する蓋部材10とを構成部材として備え、内部空間には潤滑流体としての潤滑油(密な散点ハッチングで示す)が充填されている。本実施形態では、軸部材2を内周に挿入した軸受スリーブ8と、軸受スリーブ8を内周に保持(固定)したハウジング7とで軸受部材9が構成される。なお、以下では、便宜上、蓋部材10が設けられた側を下側、その軸方向反対側を上側として説明を進める。
【0029】
軸受スリーブ8は、焼結金属からなる多孔質体、例えば、銅あるいは鉄を主成分とする焼結金属の多孔質体で円筒状に形成される。軸受スリーブ8は、焼結金属以外のその他の多孔質体、例えば多孔質樹脂やセラミックスで形成することもできるし、黄銅、ステンレス鋼等の中実(非多孔質)の金属材料で形成することもできる。軸受スリーブ8の内周面8aは、凹凸のない平滑な円筒面に形成され、また軸受スリーブ8の外周面8dは、円周方向の一又は複数箇所に軸方向溝8d1が設けられている点を除き、凹凸のない平滑な円筒面に形成されている。軸受スリーブ8の下側端面8bは凹凸のない平坦面に形成されており、上側端面8cには、環状溝8c1と、外径端が環状溝8c1に繋がった径方向溝8c2とが形成されている。
【0030】
蓋部材10は、金属材料でプレート状に形成される。詳細は後述するが、蓋部材10の上側端面10aは、軸部材2のフランジ部22の下側端面22bとの間に第2スラスト軸受部T2のスラスト軸受隙間を形成する環状領域を有する。この環状領域は平滑な平坦面に形成されており、動圧溝等、スラスト軸受隙間に介在する潤滑油に動圧作用を発生させるための凹部は設けられていない。
【0031】
ハウジング7は、溶製材(例えば、黄銅やステンレス鋼等の中実の金属材料)で軸方向両端が開口した略円筒状に形成されており、軸受スリーブ8および蓋部材10を内周に保持した本体部7aと、本体部7aの上端から内径側に延びたシール部7bとを一体に有する。本体部7aの内周面には、相対的に小径の小径内周面7a1と、相対的に大径の大径内周面7a2とが設けられ、小径内周面7a1および大径内周面7a2には、軸受スリーブ8および蓋部材10がそれぞれ固定されている。ハウジング7に対する軸受スリーブ8および蓋部材10の固定手段は特に問わず、圧入、接着、圧入接着、溶接等、適宜の手段で固定することができる。本実施形態では、本体部7aの小径内周面7a1に軸受スリーブ8を隙間嵌めし、この隙間に接着剤を介在させるいわゆる隙間接着により、ハウジング7の内周に軸受スリーブ8が固定されている。小径内周面7a1の軸方向所定箇所には、接着剤溜りとして機能する環状溝7a3が形成されており、この環状溝7a3内に接着剤が充填され、固化することにより、ハウジング7に対する軸受スリーブ8の接着強度の向上が図られる。
【0032】
シール部7bの内周面7b1は、下方に向けて漸次縮径したテーパ面状に形成され、対向する軸部材2(軸部21)の外周面21aとの間に下方に向けて径方向寸法を漸次縮小させたくさび状のシール空間Sを形成する。シール部7bの下側端面7b2(の内径側領域)には、軸受スリーブ8の上側端面8cが当接しており、これにより、ハウジング7に対する軸受スリーブ8の軸方向における相対的な位置決めがなされている。シール部7bの下側端面7b2の外径側領域は、外径側に向かって徐々に上側に後退して軸受スリーブ8の上側端面8cとの間に環状隙間を形成している。環状隙間の内径端部は、軸受スリーブ8の上側端面8cの環状溝8c1に繋がっている。
【0033】
以上の構成を有するハウジング7は、樹脂の射出成形品とすることもできる。この場合、軸受スリーブ8をインサート部品としてハウジング7を樹脂で射出成形しても良い。また、ハウジング7は、マグネシウム合金やアルミニウム合金等に代表される低融点金属の射出成形品とすることもできるし、いわゆるMIM成形品とすることもできる。
【0034】
軸部材2は、焼入れされたステンレス鋼(例えばSUS420J2)で中実軸状に形成された軸部21と、軸部21の下端から外径側に張り出したフランジ部22とを備える。フランジ部2bは、例えば、軸部21と同種のステンレス鋼、あるいは焼結金属の多孔質体で円環状に形成され、軸部21の下端外周に圧入、接着、圧入接着、溶接等の適宜の手段で固定されている。軸部21の外周面21aのうち、フランジ部22の固定領域には環状溝21bが形成されており、例えば接着剤を使用してフランジ部22を軸部21に固定するときには、環状溝21bが接着剤溜りとして機能するため軸部21に対するフランジ部22の固定強度向上が図られる。また、フランジ部22の内周面に形成した凸部を環状溝21bに嵌合させることにより、フランジ部22の抜け強度を高めることも可能である。
【0035】
軸部21の外周面21aには、対向する軸受スリーブ8の内周面8aとの間にラジアル軸受隙間を形成するラジアル軸受面A1,A2となる円筒状領域が軸方向の二箇所に離隔形成されている。ラジアル軸受面A1,A2には、それぞれ、ラジアル軸受隙間に介在する潤滑油に動圧作用を発生させる凹部としての動圧溝Aa(
図2中、クロスハッチングで示す)が円周方向に複数設けられており、ここでは、複数の動圧溝Aaがヘリングボーン形状に配列されている。本実施形態において、上側のラジアル軸受面A1に設けられた各動圧溝Aaは、軸方向中心m(上下の傾斜溝間領域の軸方向中央)に対して軸方向非対称に形成されており、軸方向中心mより上側領域の軸方向寸法X1が下側領域の軸方向寸法X2よりも大きくなっている。一方、下側のラジアル軸受面A2に設けられた各動圧溝Aaは軸方向対称に形成されている。各動圧溝Aaの溝深さは、数μm程度とされる。
【0036】
軸部21の外周面21aのうち、2つのラジアル軸受面A1,A2間には、動圧溝Aaの底部よりも内径側に後退した(小径に形成された)円筒状の中逃げ部23が設けられている。軸部21の外周面21aにこのような中逃げ部23を設けたことにより、径一定の円筒面に形成された軸受スリーブ8の内周面8aとの間に円筒状の潤滑油溜りが形成される。これにより、軸受運転中には、潤滑油溜りと軸方向に隣接する2つのラジアル軸受隙間を常時潤沢な潤滑油で満たすことが可能となるので、ラジアル方向における回転精度の安定化が図られる。
【0037】
図3(a)に示すように、フランジ部22の上側端面22aには、対向する軸受スリーブ8の下側端面8bとの間に第1スラスト軸受部T1のスラスト軸受隙間を形成するスラスト軸受面Bが設けられる。スラスト軸受面Bには、第1スラスト軸受部T1のスラスト軸受隙間に介在する潤滑油に動圧作用を発生させる凹部としての動圧溝Baが円周方向に複数設けられており、ここでは、動圧溝Baがスパイラル形状に配列されている。また、
図3(b)に示すように、フランジ部22の下側端面22bには、対向する蓋部材10の上側端面10aとの間に、第2スラスト軸受部T2のスラスト軸受隙間を形成するスラスト軸受面Cが設けられる。スラスト軸受面Cには、第2スラスト軸受部T2のスラスト軸受隙間に介在する潤滑油に動圧作用を発生させる凹部としての動圧溝Caが円周方向に複数設けられており、ここでは、動圧溝Caがスパイラル形状に配列されている。動圧溝Ba,Caの何れか一方又は双方は、ヘリングボーン形状に配列することもできる。
【0038】
以上の構成を有する軸部材2は、
図4に示すように、軸素材製作工程P1、熱処理工程P2、除去工程P3、転造工程P4および仕上げ工程P5を順に経て製作された軸部21の下端に、別工程で製作したフランジ部22を固定することで完成する。以下、軸部21を製作するための各工程について詳述する。
【0039】
(1)軸素材製作工程P1
この軸素材製作工程P1では、長尺のバー材から所定長さに切り出された短尺のバー材に所定の加工を施すことにより、動圧溝Aaを除く部位が完成品としての軸部21に近似した形状に仕上げられた軸素材を得る。詳しくは、例えば、短尺のバー材に旋削加工を施すことにより、外周面に中逃げ部23や環状溝21bが形成されると共に、上記バー材の一端にタップ加工を施すことにより、一端面に開口したねじ孔(クランパをねじ止めするためのもの。図示は省略している)が形成された軸素材を得る。なお、軸素材の概略形状は、旋削等の機械加工以外にも、鍛造等の塑性加工で得ることも可能である。
【0040】
(2)熱処理工程P2
この熱処理工程P2では、軸素材製作工程P1で得られた軸素材のうち、少なくとも外周面に熱処理を施すことにより、硬度がHV450以上、より好ましくはHV500以上の表面硬化層を有する焼入れ軸21’[
図5(a)参照]を得る。熱処理方法は特に問わず、高周波焼入れ、真空焼入れ、浸炭焼入れあるいは浸炭窒化焼入れ等の焼入れ、および焼入れ後の焼戻しなどを適宜組み合わせることができる。熱処理は、形成すべき動圧溝Aaの溝深さよりも厚みの大きい表面硬化層が形成されるように施せば良く、必ずしも軸素材の全体が高硬度化(焼入れ)されるように施さなくても良い。
【0041】
(3)除去工程P3
この粗仕上げ工程P3では、軸素材に熱処理を施すことにより焼入れ軸21’(表面硬化層)を形成するのに伴って、焼入れ軸21’の表面に形成される黒皮とも称される酸化皮膜が除去される。黒皮(酸化皮膜)は、例えば焼入れ軸21’にセンタレス研磨を施すことによって除去される。
【0042】
(4)転造工程P4
この転造工程P4では、(表面の黒皮が除去された)焼入れ軸21’の表面硬化層に転造加工を施すことにより、焼入れ軸21’の外周面に動圧溝Aaを形成する。本実施形態では、
図5(a)(b)に示すように、相対スライド可能に設けられた一対の転造型31,32を用いて焼入れ軸21’の外周面に凹部としての動圧溝Aaを転造形成する。各転造型31,32の相手側との対向面には、凹部形成部としての動圧溝形成部34が設けられている。動圧溝形成部34は、個々の動圧溝Aa形状に対応する凸部33をヘリングボーン形状に並べて構成される。凸部33の高さ寸法は、後述する仕上げ工程P5で動圧溝Aaを画成する凸状の丘部を含めて焼入れ軸21’の外周面を所定量研削することを考慮し、ここでは、必要とされる動圧溝Aaの溝深さよりも所定量大きく設定される。また、転造型31,32のうち、少なくとも動圧溝形成部34(複数の凸部33)の硬度は、焼入れ軸21’の表面硬化層よりもHV100以上高硬度に設定される。
【0043】
そして、
図5(a)に示すように、焼入れ軸21’を転造型31,32間に導入した後、転造型31,32を相対移動させ、転造型31,32の動圧溝形成部34を焼入れ軸21’の外周面に押し付ける。これにより、
図5(b)に示すように、焼入れ軸21’の外周面のうち、動圧溝形成部34の凸部33が押し付けられた部位にあった肉が塑性流動して周囲に押し出され、動圧溝Aaを画成する丘部が形成され、またこれと同時に動圧溝Aaが形成される。なお、本実施形態では、上記のとおり、動圧溝形成部34を構成する各凸部33の高さ寸法が、必要とされる動圧溝Aaの溝深さよりも大きく設定されていることから、この段階での動圧溝Aaの溝深さは、完成品としての軸部21(軸部材2)の外周面に設けられた動圧溝Aaの溝深さよりも深くなっている。
【0044】
なお、焼入れ軸21’の外周面に動圧溝Aaを形成するための凸部33(動圧溝形成部34)は、転造型31,32の何れか一方にのみ設けることも可能である。
【0045】
(5)仕上げ工程P5
この仕上げ工程P5では、転造工程P4にて外周面に動圧溝Aaが転造形成された焼入れ軸21’の外周面が所定精度に仕上げられる。具体的には、焼入れ軸21’の外周面のうち、転造加工が施されることによって動圧溝Aaが形成された円筒状領域(軸部21のうち、ラジアル軸受面A1,A2となる円筒状領域)に研削、研磨、あるいは塑性加工を施すことにより、動圧溝Aaを画成する凸状の丘部Abが所定高さに仕上げられると共に、所定深さの動圧溝Aaが得られる。さらには、ラジアル軸受面A1,A2となる軸方向領域以外の軸方向領域、例えば中逃げ部23も所定精度に仕上げられる(以上、
図6を参照)。これにより、完成品としての軸部21が得られる。
【0046】
以上の構成からなる流体動圧軸受装置1において、軸部材2が回転すると、軸部21のラジアル軸受面A1,A2と、これらに対向する軸受スリーブ8の内周面8aとの間にそれぞれラジアル軸受隙間が形成される。そして軸部材2の回転に伴い、両ラジアル軸受隙間に形成される油膜の圧力が動圧溝Aa,Aaの動圧作用によって高められ、その結果、軸部材2をラジアル方向に非接触支持するラジアル軸受部R1,R2が軸方向の二箇所に離隔形成される。これと同時に、フランジ部22の上側端面22aに設けたスラスト軸受面Bとこれに対向する軸受スリーブ8の下側端面8bとの間、および、フランジ部22の下側端面22bに設けたスラスト軸受面Cとこれに対向する蓋部材10の上側端面10aとの間に、第1および第2スラスト軸受隙間がそれぞれ形成される。そして、軸部材2の回転に伴い、両スラスト軸受隙間に形成される油膜の圧力が、動圧溝Ba,Caの動圧作用によってそれぞれ高められ、その結果、軸部材2をスラスト両方向に非接触支持する第1および第2スラスト軸受部T1,T2が形成される。
【0047】
また、シール空間Sが、ハウジング7の内部側に向かって径方向寸法を漸次縮小させたくさび形状を呈しているため、シール空間S内の潤滑油は毛細管力による引き込み作用によってハウジング7の内部側に向けて引き込まれる。また、シール空間Sは、ハウジング7の内部空間に充填された潤滑油の温度変化に伴う容積変化量を吸収するバッファ機能を有し、想定される温度変化の範囲内で潤滑油の油面を常にシール空間S内に保持する。そのため、ハウジング7内部からの潤滑油漏れが効果的に防止される。
【0048】
また、上述したように、上側の動圧溝Aaは、軸方向中心mより上側領域の軸方向寸法X1が下側領域の軸方向寸法X2よりも大きくなっているため、軸部材2の回転時、動圧溝Aaによる潤滑油の引き込み力は上側領域が下側領域に比べて相対的に大きくなる。このような引き込み力の差圧により、軸受スリーブ8の内周面8aと軸部21の外周面21a1との間の隙間に充満された潤滑油は下方に流動し、第1スラスト軸受部T1のスラスト軸受隙間→軸受スリーブ8の軸方向溝8d1で形成される軸方向の流体通路11→軸受スリーブ8の上端外周チャンファ等で形成される環状空間→軸受スリーブ8の環状溝8c1および径方向溝8c2で形成される流体通路という経路を循環して、第1ラジアル軸受部R1のラジアル軸受隙間に再び引き込まれる。
【0049】
このような構成とすることで、潤滑油の圧力バランスが保たれると同時に、局部的な負圧の発生に伴う気泡の生成、気泡の生成に起因する潤滑油の漏れや振動の発生等の問題を解消することができる。上記の循環経路には、シール空間Sが連通しているので、何らかの理由で潤滑油中に気泡が混入した場合でも、気泡が潤滑油に伴って循環する際にシール空間S内の潤滑油の油面(気液界面)から外気に排出される。従って、気泡による悪影響は一層効果的に防止される。
【0050】
上記したように、軸部材2(軸部21)の外周面21aに設けられる動圧溝Aaは、必要とされる溝深さがミクロンオーダーであることから、焼入れ軸21’(表面硬化層)に転造加工を施した場合でも、必要最低限の条件さえ満たしていれば、所定の溝深さを具備した動圧溝Aaを形成することができることを本願発明者らは見出した。そして、焼入れ軸21’の表面硬化層に転造加工を施すことによって動圧発生用の凹部としての動圧溝Aaを形成すれば、未熱処理の軸素材に転造加工を施す場合と比較して、転造により生じる凸部Ab(
図6を参照)の両側での肉の盛り上がり量が小さくなり、転造直後における動圧溝Aa相互間で溝深さにばらつきが生じ難くなる。しかも、動圧溝Aaを転造形成した後、すなわち軸素材に内部応力が蓄積された状態で軸素材に熱処理を施す必要がなくなるため、軸素材に歪みによる変形が生じ難くなる。従って、本実施形態のように仕上げ工程P5を設け、該仕上げ工程P5にて焼入れ軸21’に対して所定の最終仕上げを施す場合であっても、その加工量を少なくすることができる。
【0051】
さらに、本発明の構成上、転造加工を施すよりも先に、焼入れ軸21’の外表面に形成された黒皮の除去加工を実行することができる。転造加工前の焼入れ軸21’の外周面は、動圧溝Aaおよびこれを画成する丘部Ab等の微小な凹凸(凹凸の繰り返し)が存在しない概ね平滑な円筒面状を呈することから、黒皮を容易に除去することができる。従って、軸部21の外周面21aに形成した動圧溝Aaの溝底に黒皮は存在せず、表面硬化層が露出する。これにより、流体動圧軸受装置1の運転中に軸部材2の軸部21から黒皮が剥離してコンタミとなり、軸受性能が低下するような問題が生じるのを効果的に防止することができる。
【0052】
また、ラジアル軸受隙間を形成する二面のうち、軸部21の外周面21aに動圧溝Aaを設けると共に、軸部21の外周面21aに中逃げ部23を設けた関係で、軸受スリーブ8の内周面8a(軸受部材の内周面)は凹凸のない平滑な円筒面に形成される。従って、焼結金属製とされる軸受スリーブ8を製造する際には、原料粉末の圧粉成形体を焼結することにより得られる焼結体に対して内周面および外周面の矯正加工(サイジング)を行うことで製造工程が完了し、内周面に動圧発生用の凹部を加圧成形する工程を設ける必要がない。従って、形状の単純化を通じて金型コストの低廉化が図られ、軸受スリーブ8、ひいては流体動圧軸受装置1全体としての製造コストを低廉化することができる。
【0053】
以上のことから、本発明によれば、軸部材2の外周面に、ラジアル軸受隙間に流体動圧を発生させるための凹部としての動圧溝Aaを転造で形成する際の手間を軽減しつつ、動圧溝Aaを高精度に形成することが可能となる。これにより、所期の軸受性能を発揮可能な流体動圧軸受装置1の低コスト化を図ることができる。
【0054】
以上の説明では、外周面21aに動圧溝Aaが形成された軸部21を得るための製造過程で、焼入れ軸21’の外周面を所定精度に仕上げるための仕上げ工程P5を設けたが、本発明の構成上、動圧溝Aaを従来方法に比べて高精度に形成することができるので、仕上げ工程P5は必ずしも設けなくとも足りる。仕上げ工程P5を省略すれば、軸部材2、ひいては流体動圧軸受装置1の一層の低コスト化に寄与することができる。
【0055】
また以上では、軸部材2を構成する軸部21とフランジ部22とを別体とし、外周面21aに動圧溝Aaが形成された軸部21の下端に、別工程で製作したフランジ部22を固定することで軸部材2を得るようにしたが、軸素材として、フランジ部22となる円盤状の部分を一体に備えたものを用いることにより、軸部21とフランジ部22とを一体形成することも可能である。
【0056】
本発明は、上記の実施形態に限定適用されるものではない。以下、本発明を適用可能な他の実施形態に係る流体動圧軸受装置1について図面を参照しながら説明する。以下に示す他の実施形態においては、説明を簡略化する観点から、上述した実施形態と実質的に同一の部材・部位には同一の参照番号を付し、重複説明を省略する。
【0057】
図7は、本発明の第2実施形態に係る流体動圧軸受装置1の含軸断面図である。同図に示す流体動圧軸受装置1が、
図2に示すものと異なる主な点は、ハウジング7に、円筒状の本体部7aの下端を閉塞する円盤状の底部7cを一体的に設けると共に、本体部7aの上端内周に固定したリング状のシール部材12でシール空間Sを形成した点にある。すなわち、第2スラスト軸受部T2の第2スラスト軸受隙間は、フランジ部22の下側端面22bとハウジング底部7cの上側端面7c1との間に形成され、また、シール空間Sは、シール部材12の内周面12aと軸部21の外周面21aとの間に形成される。なお、ハウジング7の本体部7aと底部7cの境界部には段部7dが設けられており、この段部7dに軸受スリーブ8の下側端面8bを当接させることによって、ハウジング7に対する軸受スリーブ8の軸方向相対位置が決定付けられる。
【0058】
図8は、本発明の第3実施形態に係る流体動圧軸受装置1の含軸断面図である。同図に示す流体動圧軸受装置1が
図2に示すものと異なる主な点は、環状部3aと、環状部3aの外径端から軸方向に延びた略円筒状の筒状部3bとを一体に有するディスクハブ3を軸部材2(軸部21)の上端部に設け、このディスクハブ3の環状部3aの下側端面3a1と、これに対向するハウジング7(本体部7a)の上側端面7a4との間に第2スラスト軸受部T2の第2スラスト軸受隙間が設けられる点、およびハウジング7の上部外周面7a5とディスクハブ3の筒状部3bの内周面3b1との間にシール空間Sが設けられる点にある。また、この実施形態では、軸部21が厚肉の円筒状に形成され、フランジ部22が軸部21の下端にねじ止め固定されている。
【0059】
図9は、本発明の第4実施形態に係る流体動圧軸受装置1の含軸断面図である。同図に示す流体動圧軸受装置1が
図2に示すものと異なる主な点は、軸受スリーブ8の上側に配置したフランジ部24を軸部21の外周面21aに固定し、軸部材2を構成する両フランジ部22,24の外周面22c,24cとハウジング7(本体部7a)の内周面7a1との間に潤滑油の油面を保持したシール空間Sをそれぞれ形成した点、およびフランジ部24の下側端面24aと軸受スリーブ8の上側端面8cとの間に第2スラスト軸受部T2の第2スラスト軸受隙間が形成される点にある。
【0060】
以上で説明した実施形態では、軸受部材9を、ハウジング7と、ハウジング7の内周に固定した軸受スリーブ8とで構成したが、軸受部材9は、ハウジング7に相当する部分と軸受スリーブ8に相当する部分とが一体的に設けられたもので構成することもできる。
【0061】
また、以上では、軸部21の外周面21aに動圧発生用の凹部としての動圧溝Aaをヘリングボーン形状に配列することにより、動圧軸受からなるラジアル軸受部R1,R2を構成する場合について説明を行ったが、動圧溝Aaは、スパイラル形状やステップ形状(軸方向に沿って延びる軸方向溝を円周方向に複数配列したもの)に配列することもできる。また、動圧発生用の凹部は、上記したような溝状ではなく、窪み状のディンプルで構成することもできる。
【0062】
また、以上の実施形態では、動圧発生用の凹部としての動圧溝Ba,Caをフランジ部22の端面にスパイラル形状(あるいはヘリングボーン形状)に配列することにより、動圧軸受からなるスラスト軸受部T1,T2を構成した場合について説明を行ったが、動圧溝Ba,Caの何れか一方又は双方は、径方向に延びる放射状に形成することもできる(ステップ軸受)。また、動圧発生用の凹部は、スラスト軸受隙間を介してフランジ部22の端面22a,22bと対向する部材端面(
図2に示す実施形態で言えば軸受スリーブ8の下側端面8bや蓋部材10の上側端面10a)に設けることも可能である。さらに、図示は省略するが、軸部材2にフランジ部22を設けずに、軸部21の一端(下端)を接触支持する、いわゆるピボット軸受でスラスト軸受部を構成することも可能である。
【0063】
また、以上の実施形態では、流体動圧軸受装置1の内部空間に充填する潤滑流体として潤滑油を用いたが、潤滑グリース、磁性流体、さらには空気等の気体を潤滑流体として用いた流体動圧軸受装置1にも本発明は好ましく適用し得る。
【0064】
また、以上では、軸部材2を回転側、軸受スリーブ8等を静止側とした流体動圧軸受装置1に本発明を適用した場合について説明を行ったが、これとは逆に、軸部材2を静止側、軸受スリーブ8等を回転側とした流体動圧軸受装置1にも本発明は好ましく適用することができる。