特許第5819601号(P5819601)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 渡辺 昌規の特許一覧 ▶ 株式会社サタケの特許一覧

特許5819601米副産物のリン及びタンパク質の連続回収方法
<>
  • 特許5819601-米副産物のリン及びタンパク質の連続回収方法 図000002
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5819601
(24)【登録日】2015年10月9日
(45)【発行日】2015年11月24日
(54)【発明の名称】米副産物のリン及びタンパク質の連続回収方法
(51)【国際特許分類】
   C07K 1/02 20060101AFI20151104BHJP
   C07K 1/14 20060101ALI20151104BHJP
   C07K 1/30 20060101ALI20151104BHJP
   C01B 25/26 20060101ALI20151104BHJP
【FI】
   C07K1/02
   C07K1/14
   C07K1/30
   C01B25/26
【請求項の数】3
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2010-264909(P2010-264909)
(22)【出願日】2010年11月29日
(65)【公開番号】特開2012-116759(P2012-116759A)
(43)【公開日】2012年6月21日
【審査請求日】2013年11月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】305036850
【氏名又は名称】渡辺 昌規
(73)【特許権者】
【識別番号】000001812
【氏名又は名称】株式会社サタケ
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100138955
【弁理士】
【氏名又は名称】末次 渉
(74)【代理人】
【識別番号】100151873
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴 寛
(74)【代理人】
【識別番号】100109449
【弁理士】
【氏名又は名称】毛受 隆典
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 昌規
(72)【発明者】
【氏名】日高 晴太郎
(72)【発明者】
【氏名】立木 智裕
(72)【発明者】
【氏名】金本 繁晴
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 雄一
【審査官】 吉門 沙央里
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−065964(JP,A)
【文献】 特開2007−222053(JP,A)
【文献】 特開平01−093408(JP,A)
【文献】 特開2009−119322(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/FSTA/FROSTI/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質及びリンを含有する米副産物を酸性条件下にしてリンを溶解し、リン酸イオンを含有する第1の上清とタンパク質を含有する沈殿物とに固液分離
前記第1の上清を塩基性条件下にしてリン酸塩を生成させ、前記リン酸塩と第2の上清とに分離してリン酸塩を回収
前記タンパク質を含有する沈殿物と前記第2の上清とを混合し、塩基性条件下にしてタンパク質を溶解してタンパク質を含有する第3の上清を分離
前記第3の上清を酸性条件下にして不溶性となったタンパク質を回収する、
ことを特徴とする米副産物のリン及びタンパク質の連続回収方法。
【請求項2】
前記米副産物として洗米排水及び/又は洗米排水処理過程で生じる生成物を用いる、
ことを特徴とする請求項1に記載の米副産物のリン及びタンパク質の連続回収方法。
【請求項3】
前記米副産物として洗米排水からデンプンを主成分とする固形成分を原料としてエタノールを製造した際に生じる蒸留残渣を用いる、
ことを特徴とする請求項1に記載の米副産物のリン及びタンパク質の連続回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、米副産物のリン及びタンパク質の連続回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
洗米排水等の米副産物は、タンパク質やリン等、有用物質を含有している。タンパク質は、動物の必須栄養素の一つであり、機能性食品など、体内で合成不能な必須アミノ酸の製造に利用され得る物質である。また、リンは化学肥料の原料や、食品添加物など、種々の分野で利用され得る物質である。資源の有効活用の観点からも、このような洗米排水等の米副産物から、タンパク質やリン等の有用物質を回収して再利用することが望まれる。
【0003】
米からタンパク質を回収する方法としては、例えば、米又は米糠をアルカリ溶液に溶解し、得られた上清を酸で中和してタンパク質を回収する方法が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−222053号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
米には多量のリンが含まれていることから、特許文献1に開示の方法では、リンの存在によってタンパク質の回収率が低下するという問題がある。
【0006】
本発明は、上記事項に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、米副産物から回収するタンパク質の回収率を向上させ得る米副産物のリン及びタンパク質の連続回収方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る米副産物のリン及びタンパク質の連続回収方法は、
タンパク質及びリンを含有する米副産物を酸性条件下にしてリンを溶解し、リン酸イオンを含有する第1の上清とタンパク質を含有する沈殿物とに固液分離
前記第1の上清を塩基性条件下にしてリン酸塩を生成させ、前記リン酸塩と第2の上清とに分離してリン酸塩を回収
前記タンパク質を含有する沈殿物と前記第2の上清とを混合し、塩基性条件下にしてタンパク質を溶解してタンパク質を含有する第3の上清を分離
前記第3の上清を酸性条件下にして不溶性となったタンパク質を回収する、
ことを特徴とする。
【0008】
また、前記米副産物として洗米排水及び/又は洗米排水処理過程で生じる生成物を用いてもよい。
【0009】
また、前記米副産物として洗米排水からデンプンを主成分とする固形成分を原料としてエタノールを製造した際に生じる蒸留残渣を用いてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る米副産物のリン及びタンパク質の連続回収方法では、米副産物に含まれるリンを分離、回収して、タンパク質を回収している。リンを除いた後にタンパク質を回収するので、タンパク質の回収率を向上させることができる。
【0011】
また、リンをイオン化させた上清からリン酸塩としてリンを分離させた上清を再利用してタンパク質の回収を行っている。タンパク質を溶解させるための水を系外から別途調達する必要がなく、タンパク質の回収に要するコストの低減につながる。
【0012】
また、米副産物中にはMgやCa等が含有しているので、通常リンの回収に用いられるMAP(リン酸マグネシウムアンモニウム)やHAP(カルシウムヒドロキシアパタイト)等の副原料が不要であり、pH調整をするだけでリン酸塩として回収できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】タンパク質及びリンの連続回収方法の工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本実施の形態に係るリン及びタンパク質の連続回収方法は、図1の工程図に示すように、リン分離工程、リン回収工程、タンパク質分離工程、及び、タンパク質回収工程から構成される。
【0015】
リン分離工程では、米副産物を酸性条件下にすることで、リンを溶解させイオン化(リン酸化)させる。酸性条件にすべく、米副産物に塩酸等の酸性溶液を添加すればよい。リンは強酸性条件下で良好な溶解性を示すので、米副産物のpHを3以下にすることが好ましい。そして、リンが溶解した上清とタンパク質を含有する沈殿物とに分離する。分離は遠心分離等で行えばよい。
【0016】
リン回収工程では、分離したリンを含有する上清を塩基性条件下にしてリン酸塩を生成させる。溶液中、リンは主にリン酸イオンとして存在し、リン酸イオンは塩基性条件下においてリン酸塩を形成する。NaOH等のアルカリ性溶液を添加して、塩基性条件下にすればよい。米副産物にはカルシウムやマグネシウム等の金属イオンを含んでいるため、リン酸イオンがこれらの金属イオンと結合し、リン酸カルシウム等になる。このため、一般的にリンの回収に用いられるMAP(リン酸マグネシウムアンモニウム)やHAP(カルシウムヒドロキシアパタイト)等の副原料を別途添加する必要はない。リン酸塩が生成した後に上清と分離してリン酸を回収する。分離は遠心分離等で行うことができる。
【0017】
タンパク質分離工程では、まず、リン分離工程で分離した沈殿物とリン回収工程で分離した上清とを混合する。そして、塩基性条件下にすることで沈殿物に含有しているタンパク質が溶解する。NaOH等の塩基性物質を添加して塩基性条件にすればよい。また、NaOH等のアルカリ物質は粒状のものを用いれば、溶液の容積が増大することもない。タンパク質が溶解した後、上清と沈殿物とを遠心分離等で分離することで、タンパク質が溶解している上清を分離することができる。なお、リン回収工程で塩基性物質を過剰に添加した場合、タンパク質回収工程で別途塩基性物質を添加しなくてもよい。リン回収工程で分離した上清をリン分離工程で分離した沈殿物に混合すれば、塩基性条件下となりタンパク質が溶解する。
【0018】
タンパク質回収工程では、タンパク質分離工程で分離したタンパク質を含有する上清を酸性条件下にすることで、不溶性となったタンパク質を分離して回収する。酢酸等の酸性溶液を滴下して、上清のPHを3.5〜5.0とすればよい。タンパク質中のカルボキシル基とアミノ基は溶液のpHによって、アルカリ側のpHでは−COOと−NHとなり、酸性側のpHでは、−COOHと−NHになる。したがって、(正電荷の総和−負電荷の総和)=正味の電荷は溶液のpHによって負、0、正の値をとり、正味の電荷が0になるようなpHをそのタンパク質の等電点という。一般に水溶性タンパク質の水への溶解度は、等電点で極小になる。等電点では、電気的に中性になり、タンパク質分子間の静電反発力が弱くなるので、溶解度が減少する。このため、分子が凝集し、沈殿物として析出する。タンパク質が析出した後、遠心分離等で固液分離することで、タンパク質を回収することができる。
【0019】
このように、米副産物に含有するリンを分離、回収した後にタンパク質を回収するため、タンパク質の回収率が向上し、良質なタンパク質を回収することができる。
【0020】
回収後、スプレードライやフリーズドライ等、種々の乾燥方法によって、パウダー状のタンパク質を得ることができる。
【0021】
本実施の形態において、米副産物であればいずれをも用いることができる。たとえば、無洗米加工の際に生じる洗米排水や、洗米排水からデンプンを主成分とする固形成分を原料としてエタノールを製造した際に生じる蒸留残渣を用いることができる。蒸留残渣からは有用物質であるタンパク質及びリンを回収することができ、再利用することができる。
【0022】
また、精米の過程などで、細かく砕けてしまった砕米や、虫、熱、カビ、菌などによって損傷を受けた被害米等を用いてもよい。商品価値を消失したこれらの米からもタンパク質等を回収でき、有用である。そのほか、米を精米する際に生じる籾殻や米糠、胚芽、米糠から油を抽出した後の脱脂糠、稲藁などを用いてもよい。
【実施例】
【0023】
タンパク質画分及びリン画分を含有する米副産物からタンパク質及びリンを連続して回収した。
【0024】
洗米排水から固形成分を分離し、固形成分の液化、糖化を行った後、アルコール発酵、蒸留を行って生成したエタノールを蒸留により分離した蒸留残渣を米副産物として用いた。
【0025】
蒸留残渣1000mLに6N HClを添加してpH3.0に調整し、サンプルに含有しているリンを溶解した。
【0026】
遠心分離を行い、リンが溶解している上清(820mL)とタンパク質を含有する沈殿物(180mL)とに分離した。
【0027】
得られた上清に6N NaOHを添加してpH7.5に調整し、リン酸塩を生成した。その後、遠心分離を行い、上清(700mL)とリン画分に分離して回収した。回収したリン画分に含まれるリンの乾燥重量は9.6gであった。なお、リンの重量は、ICP発光分光分析法により測定した。
【0028】
タンパク質を含有する沈殿にリン画分を分離した上清を添加して混合した。そして、これに粒状のNaOH(1重量%)を添加し、タンパク質を溶解した。
【0029】
これを遠心分離して、上清と沈殿物に分離した。
【0030】
分離した上清に2N HAcを滴下してpHを4.0に調整し、タンパク質を溶出させた。そして遠心分離を行い、溶出したタンパク質画分を分離して回収した。
【0031】
回収したタンパク質画分を乾燥し、改良デュマ法(測定器:VariMAXCNエレメンタール社製:タンパク係数5.95)により、タンパク質画分中のタンパク質の重量を測定した。得られたタンパク質の重量は15g、タンパク質画分の50%以上であり、タンパク質の回収率は良好であった。
図1