(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記光源は、1nm毎の分光放射照度の最大値と最小値との強度差が測定範囲内において1000倍以上であることを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項に記載の紫外線防御効果の評価装置。
【背景技術】
【0002】
従来、紫外線による日焼けを防止するためのサンケア商品等の皮膚外用剤の紫外線防御効果を表す尺度として、in vivo SPF値が用いられている。in vivo SPF値は、紫外線による日焼けから肌を守り、日焼けを防ぐ効果を示す指数である。
【0003】
このin vivo SPF値は、皮膚外用剤を使用した場合に、かすかに赤みを起こさせるために必要な紫外線量を、皮膚外用剤を使用しない場合に、かすかに赤みを起こさせるために必要な紫外線量で除した値により定義される。例えば、in vivo SPF値が10のサンケア化粧品を使用すると、素肌の場合の10倍日焼けしにくい。
【0004】
in vivo SPF値は、太陽光に非常に近い人工光(ソーラシミュレーター)を用いて、皮膚外用剤を塗布していない肌と塗布した肌に、それぞれ一定量の紫外線を照射し、翌日、日焼け(紅斑)を起こしたかどうかを調べることにより、測定することができる。
【0005】
in vivo SPF値を用いれば、皮膚外用剤の紫外線防御効果の客観的な評価が可能となる。しかしながら、in vivo SPF値を測定するためには、特定の肌タイプの多数の被験者の協力が不可欠であるので、多大な費用と日数を必要とする。
【0006】
そこで、特許文献1〜3には、被験者を用いずに、in vitro SPF予測値を測定するin vitro SPF評価法が開示されている。各特許文献に開示されたin vitro SPF評価法では、測定試料(皮膚外用剤)が塗布された皮膚代替膜と評価装置を用いて評価が行われている。
【0007】
この評価装置は、紫外線を含む光線を照射する光源と、紫外線を分光する分光器と、紫外線を検出する検出器等を有している。そして、測定試料に対して光源から紫外線を含む光線を照射し、次に分光器を用いて当該測定試料及び皮膚代替膜を透過した光線から紫外線を分光し、この分光された紫外線を検出器で検出する。そして、このように得られた紫外線の検出結果に基づき、in vitro SPF評価することが行われていた。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明の実施の形態について図面と共に説明する。
【0016】
図1は、本発明の一実施形態である紫外線防御効果の評価装置10(以下、単に評価装置という)の構成図である。この評価装置10は、サンケア化粧品等の皮膚外用剤を測定試料15とし、後述するようにこの測定試料15に光源11から所定の光線を照射した際、測定試料15を透過してくる紫外線を測定するものである。
【0017】
評価装置10は、光源11、フィルタ12、光ファイバ13、照射ポート14、測定試料15が塗布された皮膚代替膜16、積分球18、分光器19、光検出器20、電気信号処理・解析装置(電算機21)等を有した構成とされている。なお、皮膚代替膜16は、必要に応じて、紫外線透過特性に優れる石英等の基板上に配置されていてもよい。
【0018】
光源11としては、特に限定されないが、紫外線、可視光線及び赤外線を含む白色光の光源であるキセノンランプ等を用いることができる。なお、キセノンランプから照射される白色光は、擬似的な太陽光線として用いることができる。
【0019】
フィルタ12は、光源11から照射される光の進行方向の近傍にあり、光源11から照射された光を紫外線(例えば、波長が290nm〜400nmである紫外線)に補正し、フィルタ12を透過した紫外線は光ファイバ13に照射される。フィルタ12としては、特に限定されないが、WG320、UG11(SCHOTT社製)等が挙げられる。
【0020】
光ファイバ13は、光源11から入射された光線を照射ポート14に導く。照射ポート14に導かれた光線は、皮膚外用剤15が塗布された皮膚代替膜16に照射される。なお、光ファイバ13の先端が照射ポートを兼ねることも可能であり、その場合、照射ポート14は省略される。
【0021】
皮膚代替膜16は、照射ポート14と積分球18の入射部18aとの間に装着される。よって各構成要素の配置は、光線の進行方向に対して、照射ポート14、皮膚外用剤15、皮膚代替膜16及び積分球18の順に配置される。
【0022】
積分球18は、皮膚外用剤15及び皮膚代替膜16を透過した紫外線を含む光線を受光し、集光し、空間的に積分して均一にする。積分球18において均一化された光線は、出射部18bから出射される。なお、積分球18は、省略することができる。
【0023】
出射部18bから出射された光線は、分光器19に導入される。この際、本実施形態では積分球18と分光器19との間の光線の経路途中には、ガードフィルタGFが配設されている。なお、このガードフィルタGFの詳細については、説明の便宜上、後述するものとする。
【0024】
分光器19は、積分球18から出射されガードフィルタGFを通過した光線を、任意の波長範囲で分光する分光手段であり、in vitro SPF予測値測定では通常、290nm〜400nmの波長範囲で1nm間隔で分光されることが好ましいが、紫外線領域の測定であればこれに限定されるものではない。分光器19としては、紫外線に感度特性が調整されており、特に、波長が290nm〜400nmの範囲で感度特性が優れた回折格子19a,19bを用いることにより、分光性能を高感度とすることができる。このような回折格子19a,19bとしては、特に限定されないが、凹面回折格子(型番10−015)(島津製作所社製)等を用いることができる。
【0025】
光検出器20は、分光器19により分光された紫外線を、光センサーにより検出し、それぞれの波長の光線の強度を電流又は電圧による信号に変換する。この電流又は電圧による信号は、電気的に配線接続されている電算機21に送信される。
【0026】
光検出器20としては、紫外線に感度特性が調整されており、特に、波長が290nm〜400nmの範囲で感度特性が優れた光電子増倍管を用いることにより、紫外線を検出する感度を向上させることができる。このような光電子増倍管としては、特に限定されないが、In、Ga、N、Al、O、Cs等からなる光電面、具体的には、InGaN光電面を有するものが挙げられる。また、光検出器20としては、In、Ga、N、Al、O等からなる半導体光検出器等も用いることができる。
【0027】
電算機21は光検出器20からの信号を受信し、評価装置10のユーザに判りやすくするようにデータを処理し、結果を画面に表示したり、結果を記録紙に打ち出したり、結果を記憶媒体に保存したりできるようにする。
【0028】
この電算機21としては、汎用のパーソナルコンピュータ等を用いることができ、入力手段等によるユーザからの指示等により、評価装置10の各機能を実行させることができる。
【0029】
上記構成とされた評価装置10を用いて測定試料15(皮膚外用剤)の紫外線透過特性の評価方法としては、特に限定されないが、特許第3337832号公報、特開2008−111834号公報に開示されているin vitro SPF評価法を用いることができる。これにより、in vitro SPF予測値を測定することができる。
【0030】
評価装置10を用いて紫外線透過特性を測定する際、その測定範囲は紫外線領域であれば特に限定されるものではないが、地上における太陽光に含まれる紫外線領域が良好であり、より好ましくは290nm〜400nmである。
【0031】
次に、ガードフィルタGFについて説明する。
【0032】
図2は、本実施形態に係る評価装置10を構成する光源11の光源測定を行った結果を示している。同図において横軸は波長であり、縦軸は分光放射照度を示している。同図に示されるように、光源11は約290nm〜400nmのレンジを有するが、その両端である290nm近傍及び400nm近傍においては、分光放射照度が小さくなっている。
【0033】
これに対して310nm以上においては分光放射照度が急激に増大しており、特に350nm〜370nmにおける分光放射照度は、290nm近傍或いは400nm近傍の分光放射照度に比べて約1000倍以上の強度となっていることが判る。なお、この光源11の光源測定は、下記の表1に示す条件により測定を実施した。
【0034】
【表1】
一方、光検出器20として光電子増倍管を用いた場合、強い光が光電面に照射されると光電変換効率が低下し、また光電面が損傷する可能性があることは前述した通りである。また、光検出器20として半導体光検出器等を用いた場合も略同様の現象が発生する。
【0035】
そこで、本実施形態に係る評価装置10では、光源11から照射された光線が測定試料15を透過した後、光検出器20に至るまでの経路途中に、光線の強度を光検出器20の検出可能な光強度に変換するガードフィルタGFを設けた構成とした。本実施形態では、
図1に示すように、ガードフィルタGFを積分球18の出射部18bと分光器19との間に配設した構成としている。
【0036】
図3はガードフィルタGFの特性を示し、横軸は波長を示し、縦軸はガードフィルタGFの透過率を示している。同図に示すように、本実施形態に係るガードフィルタGFは波長が310nm以上の光の透過率が低くなるよう設定されている。よって、ガードフィルタGFを上記のように評価装置10に配設することにより、光源11から照射され測定試料15を透過した光線のうち、310nm以上の波長の光(即ち、光強度の大きい光)はガードフィルタGFにより低減される。
【0037】
なお、本発明におけるガードフィルタGFの透過率特性は310nm以上の透過光を低減させる目的であれば
図3に限定されるものではなく、また、390nm以上の透過率を上げることで390nm以上のダイナミックレンジを改善するような設計をしていても良い。
【0038】
図4は、測定試料15を装着しない状態の評価装置10で測定処理を行ったときの測定結果であるブランクスペクトルを示している(図中、矢印Aで示す)。また
図4には、
図1に示す評価装置10からガードフィルタGFを取り除いた構成の評価装置で測定処理を行ったときの測定結果も合わせて示している(図中矢印Bで示す)。なお、
図4における横軸は波長であり、縦軸は強度(透過光量の相対値)を示している。
【0039】
ガードフィルタGFが配設されてない評価装置における透過光量の強度(矢印Bで示す)は、310nm以上において強くなっており、
図2に示した光源11の測定結果と対応した値となっている。よって、ガードフィルタGFを設けない評価装置では、光検出器20に過剰に強い光線が入射する可能性がある。
【0040】
これに対してガードフィルタGFを設けた本実施形態に係る評価装置10では、ガードフィルタGFが310nm以上の波長の透過を規制するため、透過光の310nm以上における強度が大きく低減されていることが判る(図中、矢印Aで示す)。
【0041】
図5は、
図4における強度値0〜7の範囲を拡大して示す図である。同図に示すように、ガードフィルタGFを設けることにより光線の強度は、ガードフィルタGFを設けない構成に比べて低下しているが、測定に必要なダイナミックレンジは維持されている。従って、ガードフィルタGFを設けた構成としても、測定試料15を透過してくる光線に含まれる紫外線の測定精度が低下するようなことはない。
【0042】
図6及び
図7は、ガードフィルタGFを設けることにより紫外線の測定精度の向上を図れることを実証するための実験結果を示している。各図において、横軸は波長を示し縦軸は分光透過率を示している。
【0043】
図6に示す実験では、2機の評価装置10(実施例1,実施例2で示す)を用意し、それぞれについて標準フィルタを装着して分光透過率を求める実験を行った。
【0044】
これに対して
図7に示す実験では、本実施形態に係る評価装置10からガードフィルタGFを取り除いた構成である従来構成の評価装置を4機作成し(参考例1〜4で示す)、これに標準フィルタを装着して分光透過率を求める実験を行った。
【0045】
また、本実施形態に係る評価装置10による測定結果の測定精度を評価するため、分光光度計を用いて標準フィルタの分光透過率を測定し、これを比較例として
図6及び
図7に合わせて記載した。なお、本実験では、分光光度計として株式会社島津製作所:UV−2550を使用した。
【0046】
なお、上記の標準フィルタは290nm〜400nmで透過率が変化する色ガラスフィルタであればどのようなものでも良く、例えばschott社製のブルーグリーンフィルター等を用いることができる。また、本実験で用いた評価装置10の仕様は、下記の表2に示す通りである。
【0047】
【表2】
先ず
図6に注目すると、実施例1,2の何れにおいても比較例と近似した特性となっていることが判る。即ち、ガードフィルタGFが設けられた本実施形態に係る評価装置10により測定された分光透過率特性(スペクトル)は、分光光度計で測定された分光透過率特性と精度よく一致している。
【0048】
次に
図7に注目すると、何れの参考例1〜4も比較例から乖離した特性となっていることが判る。即ち、ガードフィルタGFが設けられていない評価装置により測定された分光透過率特性は、分光光度計で測定された分光透過率特性から大きくずれており、よって測定精度が低いことが判る。
【0049】
よって、
図6及び
図7に示す実験結果より、光線の光強度を光検出器20の検出可能な光強度に変換しうるガードフィルタGFを設けることにより、分光透過率の測定精度を向上できることが実証された。
【0050】
特に、
図7に示されるようにガードフィルタGFが設けられていない評価装置では、光源11の光強度が強くなる310nm以上の波長領域において比較例に対する各参考例の乖離が増大する。これに対し、
図6に示すガードフィルタGFを有した実施例1,2では、310nm以上の波長領域においても比較例との線形性が保たれている。よって、この点からも310nm以上の波長光を遮断するガードフィルタGFが有効に機能していることが証明された。
【0051】
図8は、本実施形態に係る評価装置10の効果を他の観点から評価した結果を示している。同図は評価装置に発生する不具合の発生率を示している。
【0052】
同図に示すように、ガードフィルタGFが装着されていない従来の評価装置を13機用意し、これに対して不具合発生を調べたところ、6機に対して不具合が発生した(不具合率46.2パーセント)。この不具合は、何れも光検出器(光電子増倍管)において発生した。
【0053】
これに対し、ガードフィルタGFを設けた本実施形態に係る評価装置10を4機用意し、この4機について同様の不具合の発生を調べたところ、何れの評価装置10においても不具合は発生しなかった。
【0054】
図6〜
図8を用いて説明した実験結果より、ガードフィルタGFを設けた本実施形態に係る評価装置10によれば、測定精度の向上を図れると共に、不具合の発生が抑制されて歩留まりを向上できることが実証された。
【0055】
次に、上記した実施形態に係る評価装置10の変形例について説明する。
【0056】
図9は、評価装置10の変形例を説明するための図である。前記した実施形態に係る評価装置10では、ガードフィルタGFを積分球18と分光器19との間に配置した(
図9中、ガードフィルタGF1で示す)。
【0057】
しかしながら、ガードフィルタGFの配設位置は積分球18と分光器19の間位置に限定されるものではなく、測定試料15を透過した光線が光検出手段に至るまでの経路途中であれば、他の位置に配設することも可能である。第1の変形例では、ガードフィルタGFを分光器19の内部に配設したことを特徴とする(
図9にガードフィルタGF2と示す)。また、第2の変形例では、ガードフィルタGFを分光器19と光検出器20との間に配設したことを特徴とする(
図9にガードフィルタGF3と示す)。
【0058】
なお、
図9では図示及び説明の便宜上、ガードフィルタGF1〜GF3を同一の図面に一括的に記載しているが、実際の評価装置にはガードフィルタGF1〜GF3の何れか一つが選択的に配設される。
【0059】
図10は、先に
図6及び
図7で説明したと同一の実験条件において、第1及び第2の変形例に係る評価装置を用いて標準フィルタの分光透過率を測定した結果を示している。また同図では、分光光度計を用いて標準フィルタの分光透過率を測定した結果(比較例)、及びガードフィルタGFを何も設けてない評価装置により標準フィルタの分光透過率を測定した結果(従来例)も合わせて示している。
【0060】
同図より、ガードフィルタGF2を設けた第1の変形例に係る評価装置による分光透過率の測定結果(図中、矢印Cで示す)、及びガードフィルタGF3を設けた第2の変形例に係る評価装置による分光透過率の測定結果(図中、矢印Dで示す)の何れにおいても、上記した本実施形態に係る評価装置10の測定結果(図中、矢印Bで示す)と同様に、分光光度計による測定結果(図中、矢印Aで示す)と線形性が保たれていることが判る。
【0061】
従って
図10の結果より、ガードフィルタGFの配設位置は、測定試料15の配置位置以降で光検出器20に至るまでの光線の経路途中に設定すれば、何れの位置においても測定精度の向上を図ることができることが実証された。また実験結果の図示は省略するが、第1及び第2の変形例においても、
図8で説明したと同様の不具合発生率の低下が見られた。よって、第1及び第2の変形例の構成によっても、測定精度の向上を図れると共に歩留まりの向上を図ることができる。
【0062】
以上、本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は上記した特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能なものである。