特許第5819790号(P5819790)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5819790
(24)【登録日】2015年10月9日
(45)【発行日】2015年11月24日
(54)【発明の名称】電解セル及び電解槽
(51)【国際特許分類】
   C25B 9/20 20060101AFI20151104BHJP
   C25B 9/02 20060101ALI20151104BHJP
【FI】
   C25B9/20
   C25B9/02 302
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-181096(P2012-181096)
(22)【出願日】2012年8月17日
(65)【公開番号】特開2014-37586(P2014-37586A)
(43)【公開日】2014年2月27日
【審査請求日】2014年12月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】303046314
【氏名又は名称】旭化成ケミカルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100133307
【弁理士】
【氏名又は名称】西本 博之
(72)【発明者】
【氏名】和田 一也
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 岳昭
【審査官】 伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/061766(WO,A1)
【文献】 特表2005−504893(JP,A)
【文献】 特開2008−063611(JP,A)
【文献】 特開2004−091834(JP,A)
【文献】 特開2007−321229(JP,A)
【文献】 特開2007−277662(JP,A)
【文献】 特開平04−214886(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第102395711(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/00−15/08
C02F 1/46− 1/48
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極室と陰極室とが隔壁を挟んで配置された電解セルであって、
前記陰極室は、枠体により画成されており、
前記陰極室には、
陰極と、
前記陰極と対向する第1面及び前記隔壁と対向する第2面を有する集電板と、
前記陰極と前記集電板の前記第1面との間に設けられ、導電性を有する弾性体とが設けられており、
前記陰極の周縁部の少なくとも一部が、前記集電板の縁部を跨いで該集電板の前記第2面側に折り込まれており、
前記枠体上部の表面には、下端部が前記第1面と対向するようにガスケットが設けられており、
前記陰極は、前記集電板と前記ガスケットとに挟持されていることを特徴とする電解セル。
【請求項2】
前記陰極の全周縁部が、前記集電板の縁部を跨いで該集電板の前記第2面側に折り込まれていることを特徴とする請求項1に記載の電解セル。
【請求項3】
前記陰極が前記集電板の前記第2面側に折り込まれる長さは、5mm以上20mm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の電解セル。
【請求項4】
前記陰極室には、前記隔壁と前記集電板の前記第2面側との間に配設され、前記集電板を当該陰極室内に支持固定する支持体が設けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載の電解セル。
【請求項5】
前記支持体がリブであることを特徴とする請求項4記載の電解セル。
【請求項6】
前記弾性体がマットレスであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項記載の電解セル。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の電解セルがイオン交換膜を介して2つ以上直列に連結されていることを特徴とする電解槽。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解セル及び電解槽に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アルカリ金属塩電気分解とは、食塩水等のアルカリ金属塩化物水溶液を電気分解(以下、電解)して、高濃度のアルカリ金属水酸化物、水素、塩素などを製造する方法である。その方法としては、水銀法や、隔膜法による電解が挙げられるが、近年では、電力効率の良いイオン交換膜法が主に用いられている。
【0003】
イオン交換膜法では、陽極と陰極を備えた電解セルを、イオン交換膜を介して多数並べた電解槽を用いて電解を行う。電解セルは、陰極を取り付けた陰極室と、陽極を取り付けた陽極室が、隔壁(背面板)を介して、背中合わせに配置された構造を有している。電解セルでは、陽極室にアルカリ金属塩化物水溶液を供給し、陰極室にアルカリ金属水酸化物を供給して、電解することで、陽極室では塩素ガスを生成し、陰極室ではアルカリ金属水酸化物や水素ガスを生成する。
【0004】
また、近年では、電力原単位をさらに向上させるため、イオン交換膜と陰極を接触させて電解を行うゼロギャップ電解が主流となってきている。例えば、特許文献1には、ゼロギャップ電解セルの構造が開示されている。通常、ゼロギャップ電解セルの陽極室内には、リブ、陽極が配置され、陰極室内には、リブ、集電板(導電性プレート)、マットレス、陰極が配置されている。陰極室内では、集電板、マットレス、陰極の順でこれらが配置されており、クッション性を有するマットレスにより陰極を押圧することで、電解時に、陰極をオン交換膜に接触させることが出来る。
【0005】
特許文献2には、従来公知な陰極を固定する方法として、テフロンピンを使用する方法や、溶接する方法が開示されている。溶接する方法としては、ニッケル製のテープを使い、陰極の周縁部を陰極室枠体のシール面上にスポット溶接して固定する方法がある。具体的には、陰極を陰極室枠体のシール面上にのせ、さらに、その上にニッケル製のテープをのせて、スポット溶接することで、陰極を固定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4453973号公報
【特許文献2】特開2010−111947号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、ニッケル製のテープを使用し、シール面上でスポット溶接により陰極を固定する方法では、陰極室枠体のシール面の腐食、陰極更新時のシール面の減肉、作業効率が悪いなどといった問題がある。
【0008】
また、電解セルでは、内容物が漏れないようにするため、電解セルの外周部にあたるシール面にガスケットが貼られる。この場合、図6に示すように、電解セル100のシール面102上に陰極104やニッケル製のテープ106が貼付されて固定されているため、凹凸が存在し、この部分に電解液が溜まりやすく、条件によってはシール面102が腐食(隙間腐食)されることがある。また、ガスケット交換時にガスケット108と共にニッケル製のテープ106が剥がれ、陰極104を引き裂くことがある。
【0009】
また、陰極104を交換する際には、古い陰極104を剥がし、陰極室110の枠体101のシール面102を洗浄し、新しい陰極をニッケル製のテープ106を用いてシール面102上にスポット溶接で固定する。溶接により固定するには、シール面102表層の酸化物を除去する必要がある。酸化物の除去には、シール面102の表層を削る必要があり、シール面102の板材が減肉するため、あまり好ましくはない。また、このように、従来の方法では、陰極の交換には多くの手間と時間がかかるといった問題があった。
【0010】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、容易に陰極を交換することができ、且つ、長期に渡って損傷なく使用することができる電解セル及び電解槽を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、陰極の端部に着目し、陰極部の周縁部に所定の処理を施すことにより、容易に陰極を交換することができ、長期に渡って損傷なく使用することが出来ることを発見し、本発明に至った。すなわち、本発明は以下の通りである。
【0012】
本発明に係る電解セルは、陽極室と陰極室とが隔壁を挟んで配置された電解セルであって、陰極室には、陰極と、陰極と対向する第1面及び隔壁と対向する第2面を有する集電板と、陰極と集電板の第1面との間に設けられ、導電性を有する弾性体とが設けられており、陰極の周縁部の少なくとも一部が、集電板の縁部を跨いで該集電板の第2面側に折り込まれていることを特徴とする。
【0013】
一実施形態においては、陰極の全周縁部が、集電板の縁部を跨いで該集電板の第2面側に折り込まれている。
【0014】
一実施形態においては、陰極が集電板の第2面側に折り込まれる長さは、5mm以上20mm以下である。
【0015】
一実施形態においては、陰極室には、隔壁と集電板の第2面側との間に配設され、集電板を当該陰極室内に支持固定する支持体が設けられている。
【0016】
一実施形態においては、支持体がリブである。
【0017】
一実施形態においては、弾性体がマットレスである。
【0018】
本発明に係る電解槽は、上記の電解セルがイオン交換膜を介して2つ以上直列に連結されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、容易に陰極を交換することができ、且つ、陰極を長期に渡って損傷なく使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】一実施形態に係る電解槽を模式的に示す正面図である。
図2】一実施形態に係る電解セルを示す正面図である。
図3図2に示す電解セルの断面構成を示す図である。
図4図3に示す電解セルの一部を拡大して示す断面図である。
図5】他の実施形態に係る電解セルの断面構成を示す図である。
図6】従来の電解セルの断面構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において同一又は相当要素には同一符号を付し、重複する説明は省略する。以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。また、添付図面は実施形態の一例を示したものであり、形態はこれに限定して解釈されるものではない。本発明は、その要旨の範囲内で適宜に変形して実施できる。なお、図面中上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとし、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0022】
図1は、一実施形態に係る電解槽を模式的に示す正面図である。図1に示すように、電解槽1は、複数の電解セル3がイオン交換膜5(図4参照)を介してプレス器7により直列に接続されて構成されている複極式イオン交換膜法電解槽である。電解槽1では、両端に位置する電解セル3の一方に陽極端子9が接続されており、他方に陰極端子11が接続されている。
【0023】
電解槽1における電解は、後述する電解セル3の陽極室22(図3参照)と、隣接する電解セル3の陰極室32(図3参照)との間のイオン交換膜5において分離されることで行われる。例えばナトリウムイオンは、電解セル3の陽極室22から、イオン交換膜5を通過して、隣接する電解セル3の陰極室32へ移動することになり、電解中の電流は、直列に連結した電解セル3の方向に沿って流れることになる。
【0024】
イオン交換膜5は、特に限定されず、公知のものを用いることができる。例えば、塩化アルカリ等の電気分解により塩素とアルカリを製造する場合、耐熱性及び耐薬品性等に優れるという観点から、含フッ素系イオン交換膜が好ましい。含フッ素系イオン交換膜としては、電解時に発生する陽イオンを選択的に透過する機能を有し、かつイオン交換基を有する含フッ素系重合体を含むもの等が挙げられる。ここでいうイオン交換基を有する含フッ素系重合体とは、イオン交換基、又は、加水分解によりイオン交換基となり得るイオン交換基前駆体、を有する含フッ素系重合体をいう。例えば、フッ素化炭化水素の主鎖からなり、加水分解等によりイオン交換基に変換可能な官能基をペンダント側鎖として有し、かつ溶融加工が可能な重合体等が挙げられる。
【0025】
続いて、電解セル3について詳細に説明する。図2は、一実施形態に係る電解セルを示す正面図であり、陰極側から見た図である。図3は、図2に示す電解セルの断面構成を示す図である。図3においてリブ(支持体)42は図示しない。図4は、図3に示す電解セルの一部を拡大して示す断面図である。各図に示すように、電解セル3は、陽極部20と、陰極部30と、陽極部20と陰極部30(陽極室22と陰極室32)とを隔てる隔壁50を備えている。陽極部20と陰極部30とは、電気的に接続されている。電解セル3は、ゼロギャップ電解セルである。
【0026】
陽極部20は、陽極室22を有している。陽極室22は、枠体24により画成されている。枠体24上部の表面には、ガスケット26が設けられている。陽極室22には、陽極28が設けられている。陽極28は、電解セル3の一側面側に設けられている。陽極28は、電解セル3の一側面側に設けられており、チタン基材の表面にルテニウム、イリジウムを成分とする酸化物を被覆したいわゆるDSA等の金属電極を用いることができる。
【0027】
陰極部30は、陰極室32を有している。陰極室32は、枠体34により画成されている。枠体34上部の表面(シール面)34aには、ガスケット36が設けられている。陰極室32には、陰極38と、集電板40と、リブ(支持体)42と、マットレス(弾性体)44とが設けられている。
【0028】
陰極38は、電解セル3の他側面側に設けられている。ゼロギャップ電解セルに使用できる陰極38としては、線径が細く、メッシュ数の小さい陰極が柔軟性も高く好ましい。このような陰極基材は、通常公知なものを使用できる。陰極38は、例えば、線径0.1mm〜0.5mmで、目開きが20メッシュから80メッシュ程度の範囲であればよい。
【0029】
陰極コーティングとしては、貴金属または、貴金属酸化物のコーティングで薄いことが好ましく、さらに貴金属に加えて希土類を含んでいてもよい。コーティングが厚くなると、陰極の柔軟性がなくなり、イオン交換膜5が局所的に傷つくことがある。コーティングを薄くするために、活性の高い貴金属または、貴金属酸化物のコーティングが好ましい。そのため、コーティング層の厚みは0.5μmから50μmが好ましく、さらに好ましくは、1μmから10μmである。
【0030】
集電板40は、陰極38に沿って配置されている。集電板40は、陰極38の集電効果を高めるためのものである。集電板40は、互いに対向する一対の表面(第1面)40aと裏面(第2面)40bとを有している。集電板40は、表面40aが陰極38と対向して配置されている。
【0031】
集電板40は、マットレス44及び陰極38に電気を伝導すると共に、マットレス44及び陰極38から押圧される荷重を支える。また、集電板40は、陰極38から発生する水素ガスを隔壁50側に通過させる機能を有する。そのため、集電板40としては、エクスパンドメタルや打ち抜き多孔板などが好ましい。集電板40に設けられる孔の開口率は、陰極38から発生した水素ガスを隔壁50側に抜き出すために、40%以上あることが好ましい。集電板40の材質は、耐食性の観点から、ニッケル、ニッケル合金、ステンレススチール、鉄などが利用できるが、導電性の観点からニッケルが好ましい。集電板40としては、ファイナイトギャップの電解セルで用いた陰極をそのまま利用することもできる。また、集電板40としては、エクスパンドメタルに酸化ニッケルをプラズマ溶射により被覆したファイナイトギャップ用の陰極等が利用できる。
【0032】
リブ42は、陰極室32内に位置し、隔壁50と集電板40の裏面40b側との間に配設されている。リブ42は、集電板40を支持固定する。リブ42は、隔壁50と集電板40とのそれぞれに、溶接固定されている。
【0033】
マットレス44は、陰極38と集電板40の表面40a側との間に配置されている。ゼロギャップの電解セル3では、陽極28の剛性を確保することにより、イオン交換膜5を押しつけても変形し難い構造されている。一方で、電解セル3では、陰極38側を柔軟な構造とすることにより、電解セル3の製作精度上の公差や電極の変形等による凹凸を吸収して、ゼロギャップを保つ構造としている。マットレス44は、陰極38側を柔軟な構造とするために用いられている。
【0034】
マットレス44は、電気を陰極38に伝える機能と、陰極38から発生した水素ガスを集電板40側に通過させる機能を有する。マットレス44は、イオン交換膜5に接する陰極38に対して、イオン交換膜5を損傷させない程度の適切で且つ均一な圧力を加える。これにより、陰極38は、イオン交換膜5に密着する。
【0035】
マットレス44としては、従来公知のものが使用できる。マットレス44の線径としては、0.05mm以上0.25mm以下のものが好適に用いられる。マットレス44の線径が0.05mmより細いと、マットレスが潰れやすく、また、マットレス44の線径が0.26mmより太いと、マットレス44の弾性力が強く、電解時に押し付け圧の増加により、イオン交換膜5の性能に影響を及ぼす。さらに好ましくは、0.08mm以上0.15mm以下の線径のマットレス44が良い。マットレス44の材質は、導電性、耐アルカリ性の観点からニッケルが使用される。例えば、線径0.1mm程度のニッケル製ワイヤーを織ったものを波付け加工したものでよい。
【0036】
マットレス44は、電解中に電解セル3の下端に垂れ下がるのを防止するため、通常公知な方法、例えば、スポット溶接や、樹脂製のピンや、金属製のワイヤー等で、集電板40に固定されている。マットレス44は、導電性の観点から、集電板40に部分的にスポット溶接して固定することが好ましい。なお、マットレス44と陰極38との間には、導電性シートを介在させてもよい。
【0037】
隔壁50は、陽極室22と陰極室32(陽極部20と陰極部30)の間に配置されている。隔壁50は、セパレータと称されることもあり、陽極室22と陰極室32とを区画するものである。隔壁50は、電解用のセパレータとして公知のものを使用することができ、例えば、陰極側にニッケル、陽極側にチタンからなる板を溶接した隔壁等が挙げられる。
【0038】
続いて、陰極38の取り付け構造及び取り付け方法について詳細に説明する。図4に示すように、陰極38は、その上端部(周縁部の一部)が集電板40の裏面40b側に折り込まれている。具体的には、陰極38の上端部は、枠体34と集電板40の縁部40cとの間に形成される隙間Sに挿入され、集電板40の縁部40cを跨いで裏面40b側に折り返される。枠体34と集電板40の縁部40cとの間に形成される隙間Sは、1mm以上3mm以下であることが好ましい。隙間Sが1mmより小さいと、陰極38を入れ込むことが困難となる。また、隙間Sが3mmより大きくなると、イオン交換膜5の収縮により、この部分にイオン交換膜5が落ち込み、イオン交換膜5を損傷させるおそれがある。
【0039】
上記の構造を実現するために、陰極38は、電解セル3の通電部よりも大き目に切断される。陰極38が集電板40の裏面40bに折り込まれる部分の寸法、すなわち通電部よりも長い部分を、以下折り込み長さLとする。折り込み長さLは、5mm以上20mm以下であることが好ましい。折り込み長さLが20mmより長いと、入れ込む部分の陰極38が完全に入り込まなくなる。また、折り込み長さLが5mmより短いと、陰極38が集電板40で固定されず、陰極38が集電板40から外れ易くなる。
【0040】
また、図4には、陰極38の上部の構成を示しているが、陰極38は、下端部も集電板40の裏面40b側に折り込まれていてもよい。すなわち、陰極38の両端部(全周縁部)が集電板40の裏面40b側に折り込まれる構成であってもよい。陰極38の上端部を集電板40の裏面40b側に折り込むことにより、陰極38を固定することができる。また、陰極38の下端部を集電板40の裏面40b側に折り込みことにより、陰極38をより強く集電板40に固定すると共に、マットレス44の垂れ下がりを防ぐことができる。さらに好ましくは、陰極38の外周縁部の全てを集電板40の裏面40b側へ折り込むことで、陰極38をさらに強固に固定することができる。
【0041】
集電板40に陰極38を取り付ける際、陰極38は、角部(コーナー部)を切り欠いておくことが好ましい。角部を切り欠くことにより、角部で陰極38を入れ込むことができる。角部に対角の切れ込みを入れ、入れ込むことも可能ではあるが、このように切断した場合には、陰極38がここを起点として裂けやすくなるため、好ましくない。
【0042】
陰極38を集電板40の裏面40b側に折り込むための治具としては、通常公知なものを使用することができる。具体的には、ヘラ、回転ローラーで陰極38の端部を集電板40のエッジに沿って電解セル3内に押し込むことで、陰極38を集電板40の裏面40b側に折り込み、固定することができる。作業性の観点から、陰極38を折り込む治具は回転ローラーが好ましい。回転ローラーの刃の厚みとしては、0.2mm以上が好ましい。0.2mmより厚みが小さくなると、剛性を失い、陰極38を入れ込むことが困難となる。また、集電板40と枠体34(ガスケット36のシール面34a)の隙間Sよりも厚みが大きくなると、回転ローラーそのものが入らなくなるため、陰極38を入れ込めない。そのため、さらに好ましくは、0.2mmから2mmの範囲である。回転ローラーの径としては、特に制限はなく、通常、直径100mm程度のものが操作しやすい。
【0043】
なお、陰極38を固定するための前工程として、陰極38の端部に曲げ形状をつけることが好ましい。陰極38の端部に曲げ形状をつけることにより、電解時、通電面の外周部の陰極38がイオン交換膜5に接触しなくなること防止することができる。曲げ形状としては、R=2mm以上でR=6mm以下であることが好ましい。R=2mmよりも小さいと、曲げ形状が急峻となり、弾性を有さず、この部分でイオン交換膜5を傷つけることがある。R=6mmよりも大きいと、曲げ形状が緩やかすぎ、電解時、通電面の外周部の陰極38がイオン交換膜5に接触しなくなることがあるため、好ましくない。
【0044】
以上説明したように、本実施形態では、陰極38の端部が、集電板40の縁部40cを跨いで集電板40の裏面40b側に折り込まれている。このような構成により、容易に陰極38を交換することができ、且つ、電解セル3を長期に渡って損傷なく使用することができる。
【0045】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態に加えて、図5に示すように、陰極38を、ガスケット36と集電板40とにより挟持される構成であってもよい。このような構成とすることにより、プレス器7により電解セル3が直列に接続された際に、シール面34に接していないガスケット36の先端でもイオン交換膜5を押圧することができ、ガスケット36とイオン交換膜5の間に苛性ソーダが侵入することを防止し、イオン交換膜5の損傷を抑制することができる。
【実施例】
【0046】
以下の実施例により本実施形態を更に詳しく説明するが、本実施形態は以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【0047】
電解槽として、横幅が2400mm、高さが1200mmの電解セルを、25個直列に並べ、両端には、陽極室のみを有する電解セル(陽極ターミナルセル)と、陰極室のみを有する電解セル(陰極ターミナルセル)を配置し、陽極ターミナルセルに陽極端子、陰極ターミナルセルに陰極端子を配置した。各電解セルの開口部の周縁部には、陽極側ガスケットと陰極側ガスケットを接着剤で貼り付け、各電解セルの間に、イオン交換膜ACIPLEX(登録商標)F6801を挟んで電解槽を組み立てた。
【0048】
陽極は、エクスパンデッドメッシュ加工したチタン板の表面に、ルテニウム、イリジウム、チタンを成分とする酸化物を被覆することにより製作し、陰極はニッケル製ファインメッシュ基材にルテニウムの酸化物を被覆したものを用いた。
【0049】
各電解セルを並べた電解槽の陽極室に、陽極液として300g/Lの塩水を供給し、陰極室には、排出付近で、苛性ソーダ濃度が32重量%となるように希薄苛性ソーダを供給し、電解温度90℃、陽極室側ガス圧を40kPa、陰極室側ガス圧を44kPa、電流密度6kA/mで1ヶ月間電解した。また、陽極液の排出付近の塩水のpHが2となるように、供給する塩水に塩酸を添加して電解を行った。
【0050】
[実施例1]
陰極の通電部の外周部をR=4mmで曲げ形状をつけた。さらに、折り込み長さを10mmとして、直径100mmの回転ローラーで陰極を、集電板裏面へ折り込んで固定した(図4に示される構成)。6kA/mで1年間運転を行い、イオン交換膜を外して観察したが、損傷は見られなかった。さらに、陰極シール面を観察したが、腐食はまったく見られなかった。
【0051】
[比較例1]
幅4mm、厚み0.08mmのニッケル製のテープを用いて、スポット溶接で陰極をシール面に固定した(図6に示される構成)。6kA/mで1年間運転を行い、イオン交換膜を外して観察したが、損傷は見られなかった。さらに、ニッケル製のテープを剥がしシール面を観察したところ、下部シール面に孔食と見られる直径0.5mmの穴が3カ所見つかった。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の電解セル及び電解槽は、塩素とアルカリ金属水酸化物を生産するためのイオン交換膜法アルカリ電解の分野をはじめとする幅広い分野で好適に利用できる。
【符号の説明】
【0053】
1…電解槽、22…陽極室、32…陰極室、38…陰極、40…集電板、44a…表面(第1面)、44b…裏面(第2面)、44c…縁部、42…リブ(支持体)、44…マットレス(弾性体)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6