【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の態様によれば、コンクリートまたはモルタル、特に従来のコンクリートを補強するのに適した鋼繊維が提供される。この鋼繊維は、中央部分と2つの端部、すなわち、中央部分の一つの端の第1の端部および中央部分のもう一方の端の第2の端部を有する。中央部分の引張強さR
m(単位はMPa)は、少なくとも1000MPaである。さらに、本発明に従う鋼繊維、およびより具体的には、本発明に従う鋼繊維の中央部分は、最大荷重時伸びA
g+eが少なくとも2.5%である。
【0013】
最大荷重時伸び
本発明の文脈において、破断点伸びA
tでない最大荷重時伸びA
g+eは、鋼繊維の、より具体的には鋼繊維の中央部分の伸びを特徴づけるために使用される。一度最大荷重に達すると、鋼繊維の利用可能な表面の収縮が開始し、それよりも大きな荷重は引き受けられないためである。最大荷重時伸びA
g+eは、最大荷重時の塑性伸びA
gと弾性伸びの合計である。最大荷重時伸びは、鋼繊維の中央部分の波状特性(ある場合)に起因し得る構造伸びA
sを含まない。波状の鋼繊維の場合、その鋼繊維を最初に真っ直ぐにしてからA
g+eが測定される。
【0014】
本発明に従う鋼繊維の中央部分の最大荷重時伸びA
g+eは、少なくとも2.5%である。本発明の特定の実施形態によれば、鋼繊維の中央部分の最大荷重時伸びA
g+eは、2.75%よりも高いか、3.0%よりも高いか、3.25%よりも高いか、3.5%よりも高いか、3.75%よりも高いか、4.0%よりも高いか、4.25%よりも高いか、4.5%よりも高いか、4.75%よりも高いか、5.0%よりも高いか、5.25%よりも高いか、5.5%よりも高いか、5.75%よりも高いか、またはさらに6.0%よりも高い。
【0015】
高度の最大荷重時伸びA
g+eは、熱処理などの特定の応力除去処理を鋼繊維の原料となる鋼ワイヤに適用することによって得ることができる。
【0016】
従来の鋼繊維は、比較的小さい最大荷重時伸びA
g+e(最大荷重時伸びA
g+eは最大2%)をもつワイヤから作られている。従って従来のコンクリート中の従来の鋼繊維は、母材から引き抜かれるように設計されている(かぎ形の端部をもつ繊維)。当技術分野で公知のその他の鋼繊維は、ULSで必要とされるよりも低いCMODで破断するため、ULSで機能しない。かかる鋼繊維の例は、円錐形の端部をもつ鋼繊維である。
【0017】
本発明に従う繊維は、高い最大荷重時伸びA
g+eをもつ鋼ワイヤに起因して伸長する。それらは伸長し、ULSに達するまで破断しない。さらに、本発明に従う繊維は高い引張強さを有するので、この種類の鋼繊維で補強されたコンクリートは、高い荷重に耐えることができる。
【0018】
この最大荷重でのワイヤの高い伸び値は、0.5mmよりも大きい亀裂開口変位をブリッジさせるはずであり、通常のレベルの添加量で、従来の補強の代わりに、または従来の補強に加えて、荷重を引き受けるはずである。そのため新しい種類の鋼繊維は、コンクリート構造の終局限界状態(ULS)を改善する。この新しい繊維は、耐久性を改善するだけでなく、支持力または荷重容量も改善する。
【0019】
引張強さR
m
本発明に従う鋼繊維、すなわち、本発明に従う鋼繊維の中央部分は、高い引張強さR
mを有することが好ましい。引張強さR
mは、鋼繊維が引張試験の間に耐える最大の応力である。鋼繊維の中央部分の引張強さR
m(すなわち、最大荷重容量F
mを鋼繊維の元の断面積で割ったもの)は、好ましくは1000MPaより上、より具体的には1400MPaより上、例えば、1500MPaより上、例えば、1750MPaより上、例えば、2000MPaより上、例えば、2500MPaより上である。本発明に従う鋼繊維の高い引張強さは、該鋼繊維が高い荷重に耐えることを可能にする。このように、より高い引張強さは、従来のコンクリート中に必要な繊維の、より低い添加量に直接反映される。
【0020】
発明に従う鋼繊維の高い延性または高い伸びのために、繊維は、EN 14651に従う三点曲げ試験において、1.5mmより上、2.5mmより上または3.5mmより上のCMODで破断しない。鋼繊維の高い延性または伸びによって、より広い開口部をもつ亀裂がブリッジされることが可能となり、亀裂の発生後のコンクリートの亀裂後強度は、亀裂幅の増大とともに増大する。または、一度コンクリートが亀裂すると、繊維補強コンクリートは、曲げ補剛挙動(bending stiffening behaviour)を示す。
【0021】
好ましい実施形態では、鋼繊維は、中央部分および、コンクリートまたはモルタルに鋼繊維を定着させるための定着端部(anchorage end)を含む。そのような好ましい実施形態では、コンクリートまたはモルタル中の鋼繊維の定着力は、鋼繊維の中央部分の最大荷重容量F
mの50%よりも高いことが好ましい。定着力は、引抜試験の間に到達する最大荷重によって決まる。この引抜試験に関して、鋼繊維は1つの端部をコンクリートまたはモルタルに埋め込まれている。この試験は、さらにより詳細に説明される。
【0022】
本発明の好ましい実施形態によれば、鋼繊維は、より高い定着力、例えば最大荷重容量F
mの60%よりも高い、70%よりも高い、または80%よりも高い定着力を有する。より好ましくはコンクリートまたはモルタル中の鋼繊維の定着力は、さらに90%よりも高い、例えば92%、95%、98%よりも高い、またはさらに99%よりも高い。
【0023】
コンクリートまたはモルタル中の鋼繊維の定着の程度が高いほど、コンクリートまたはモルタルの残留強度は高い。鋼繊維がコンクリートから滑り出るのをうまく抑制されればされるほど、鋼繊維の中央部分の最大限の強度がうまく使用される。例えば、コンクリートまたはモルタル中の鋼繊維の定着力が90%である場合、鋼繊維の中央部分の最大限の強度の90%が使用され得る。
【0024】
コンクリートにおける高度の定着は、例えば、端部を厚くするかまたは大きくすることにより、冷間圧造により、鋼繊維を平らにすることにより、鋼繊維の端部に顕著なフックを作成することにより、端部を波形にすること(ondulating)により、あるいはこの組合せにより、様々な方法で得ることができる。定着端部は、例えば厚くなった定着端部、増大した定着端部、冷間圧造された(cold headed)定着端部、扁平な定着端部、曲がった定着端部、波状の(ondulated)定着端部またはそれらのあらゆる組合せである。
【0025】
いくつかの端部がその他の端部よりも良好な定着をもたらす機構については、完全に理解されておらず、定着の程度は、例えば数学的なモデリングによって予測することができない。したがって、本発明によれば、1つの端部がコンクリートまたはモルタル中にあるという条件で鋼繊維を埋め込むことによって、かつ、鋼繊維を引抜試験(荷重変位試験)に供することによって、鋼繊維の定着力を決定することが提案される。
【0026】
鋼繊維、より具体的には鋼繊維の中央部分は、一般に0.10mm〜1.20mmの範囲の直径Dを有する。鋼繊維の断面、より具体的には鋼繊維の中央部分が円形でない場合、直径は、鋼繊維の中央部分の断面と同じ表面積をもつ円の直径に等しい。鋼繊維、より具体的には鋼繊維の中央部分は、一般に40〜100の範囲の長さ対直径比L/Dを有する。
【0027】
鋼繊維の中央部分は、一直線または直線状(rectilinear)であってよい。あるいは、うねり状(wavy)または波状(ondulated)であってよい。
【0028】
本発明の第2の態様によれば、本発明に従う鋼繊維を含むコンクリート構造が提供される。コンクリート構造は、例えば従来のコンクリートを含む。コンクリート構造のULSでの平均亀裂後残留強度は、3MPaを上回る、例えば、4MPaより大きい、例えば、5MPa、6MPa、7MPa、7.5MPaより大きい。コンクリート構造中の鋼繊維の添加量は、好ましくは、必ずしもそうである必要はないが、80kg/m
3未満、好ましくは60kg/m
3未満である。コンクリート中の鋼繊維の添加量は、一般に20kg/m
3〜50kg/m
3、例えば、30kg/m
3〜40kg/m
3の範囲であってよい。
【0029】
本発明の第3の態様によれば、コンクリートの荷重支持構造のための、上記のような鋼繊維の使用が提供される。特に、本発明は、従来のコンクリート、鉄筋コンクリート、プレストレストコンクリートまたはポストテンションコンクリートの構造における、新しい種類の鋼繊維の使用に関する。
【0030】
本発明は、添付の図面を用いて以下の説明においてさらに説明される。