特許第5819920号(P5819920)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5819920
(24)【登録日】2015年10月9日
(45)【発行日】2015年11月24日
(54)【発明の名称】自動車用のトルク伝達機構
(51)【国際特許分類】
   F16D 27/118 20060101AFI20151104BHJP
   F16H 48/08 20060101ALI20151104BHJP
【FI】
   F16D27/10 361
   F16H48/08
【請求項の数】11
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-250305(P2013-250305)
(22)【出願日】2013年12月3日
(65)【公開番号】特開2014-114958(P2014-114958A)
(43)【公開日】2014年6月26日
【審査請求日】2013年12月5日
(31)【優先権主張番号】10 2012 111 971.6
(32)【優先日】2012年12月7日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】510238096
【氏名又は名称】ドクター エンジニール ハー ツェー エフ ポルシェ アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Dr. Ing. h.c. F. Porsche Aktiengesellschaft
(74)【代理人】
【識別番号】100098914
【弁理士】
【氏名又は名称】岡島 伸行
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル クノープラッハ
(72)【発明者】
【氏名】ジーモン シンガー
【審査官】 稲垣 彰彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭63−235748(JP,A)
【文献】 特開2009−14134(JP,A)
【文献】 特開2008−286408(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 27/10
F16H 48/00−48/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ギア装置(6)及びシフトクラッチ装置(8)を介して互いに接続された駆動要素(4)と少なくとも1つの出力要素とを有する自動車用のトルク伝達機構(2)であって、
前記シフトクラッチ装置(8)がアクチュエータ(40)を有し、前記アクチュエータ(40)が、変位要素(48)を介して、第1のクラッチ要素(32)を第2のクラッチ要素(34)の方向へ軸方向に移動させ、それにより前記駆動要素(4)と前記出力要素との間にかみ合い連結(Formschuluss)を確立することができ、前記第1のクラッチ要素(32)が、軸方向で軸方向軸受構成(50)を介して前記変位要素(48)に当接し、前記軸方向軸受構成(50)が、転がり軸受(58)と、前記第1のクラッチ要素(32)に向けられた軸受ディスク要素(62)とを有するものであると共に、
変換器要素(38)を有するセンサが設けられ、前記変換器要素(38)が前記軸方向軸受構成(50)と前記第1のクラッチ要素(32)との間に配置され、
前記変換器要素(38)が、心合わせ面(64)によって前記軸受ディスク要素(62)を心合わせするセンサディスクとして設計されることを特徴とするトルク伝達機構(2)。
【請求項2】
前記転がり軸受(58)が、前記軸受ディスク要素(62)とは反対に位置する側にストップディスク(63)を有することを特徴とする請求項1に記載のトルク伝達機構。
【請求項3】
前記第1のクラッチ要素(32)が、ばね要素(36)によるプレストレスを受けていることを特徴とする請求項1または2に記載のトルク伝達機構。
【請求項4】
前記センサディスク(38)と前記軸受ディスク要素(62)とが一部片で設計されることを特徴とする請求項1に記載のトルク伝達機構。
【請求項5】
前記軸受ディスク要素(62)が、前記転がり軸受(58)を心合わせするためのショルダ(60)を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のトルク伝達機構。
【請求項6】
前記転がり軸受(58)が、針状ころ軸受として設計されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のトルク伝達機構。
【請求項7】
駆動要素(4)としてリングギアが設けられ、2つの車軸側シャフトが出力要素として設けられ、前記ギア装置(6)がディファレンシャルギア装置として設計され、前記シフトクラッチ装置(8)がシフト爪クラッチとして設計されることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のトルク伝達機構。
【請求項8】
前記第1のクラッチ要素(32)がシフトスリーブとして設計され、前記第2のクラッチ要素(34)がシフト歯車要素として設計されることを特徴とする請求項7に記載のトルク伝達機構。
【請求項9】
前記アクチュエータ(40)が、前記変位要素(48)に作用する電磁アクチュエータとして設計され、前記変位要素(48)が、環状ピストン(42)として設計された磁性要素と、スリーブ(44)とを有する請求項1〜8のいずれか一項に記載のトルク伝達機構。
【請求項10】
前記環状ピストン(42)が強磁性材料から製造され、前記スリーブ(44)が常磁性または非磁性材料から製造されることを特徴とする請求項9に記載のトルク伝達機構。
【請求項11】
前記軸受ディスク要素(62)が常磁性または非磁性材料から製造されることを特徴とする請求項1〜11のいずれか一項に記載のトルク伝達機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ギア装置及びシフトクラッチ装置を介して互いに接続された駆動要素と少なくとも1つの出力要素とを有する自動車用のトルク伝達機構であって、シフトクラッチ装置がアクチュエータを有し、アクチュエータが、変位要素を介して、第1のクラッチ要素を第2のクラッチ要素の方向へ軸方向に移動させ、それにより駆動要素と出力要素との間にかみ合い連結(Formschuluss)を確立することができ、第1のクラッチ要素が、軸方向で軸方向軸受構成を介して変位要素に当接するトルク伝達機構に関する。
【背景技術】
【0002】
そのようなトルク伝達機構は、従来技術よりよく知られている。それらのトルク伝達機構は、自動車の分野で、駆動デバイス(例えば内燃機関または電動機など)によって出力デバイス(例えば自動車の車輪など)に向けて生成されるトルク伝達のために使用される。ここでは様々な用途において、動力の流れを遮断したり接続したりする必要がある。この例として、必要に応じて駆動軸を始動できる電気駆動機構を用いた設計を例示することができる。この場合、クラッチはアクチュエータによって作動される。アクチュエータは、固定ハウジング部分に配置される。従ってアクチュエータは、変位要素及び軸方向軸受構成を介して、シフトクラッチ装置の第1のクラッチ要素に動作可能に接続される。設置上の難点、少ない設置スペース、軽量化の要請のため、一般的なタイプのトルク伝達機構の既知の軸方向軸受構成は、すべり軸受を有する。しかし、これらの軸方向軸受構成は、非作動状態、即ち非係合状態にていくらかの空気ギャップを有し、その結果として、シフトクラッチの作動に異常が起こりやすいという欠点を持っている。更に、すべり軸受のせいで、システム全体への熱の放散が増加する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従って、本発明の目的は、前述した欠点を克服することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的は、本発明によれば、軸方向軸受構成が、転がり軸受と、第1のクラッチ要素に向けられた軸受ディスク要素とを有することによって達成される。驚くべきことに、転がり軸受を、対応する軸受ディスク要素と共に使用することにより、シフトの動力伝達をかなり改良することができた。ここで、シフト作動は、完全に遊びのない状態で進み、熱の侵入を最小限に抑えることが可能である。更に結果として、より低い摩耗及びより改良された引きずりトルクに関して更なる利点が得られる。ここでは、転がり軸受が、軸受ディスク要素とは反対に位置する側にストップディスクを有する場合に特に有利である。非作動状態で第1のクラッチ要素が確実に係合解除していることを保証するために、第1のクラッチ要素は、ばね要素によるプレストレスを受けている。係合及び係合解除動作を確実に監視することができるように、変換器要素を有するセンサが設けられる。変換器要素は、軸方向軸受構成と第1のクラッチ要素との間に配置される。ここで、変換器要素が、心合わせ面によって軸受ディスク要素を心合わせするセンサディスクとして設計されると特に有利である。あるいは、センサディスクと軸受ディスク要素とが一部片で設計されることが考えられる。
【0005】
有利な様式においては、軸受ディスク要素は、転がり軸受を心合わせするためのショルダを有することができる。特に有利な様式においては、全体のスペースが小さいため、転がり軸受は、針状ころ軸受として設計される。
【0006】
有利な実施形態では、トルク伝達機構がドライブトレインの一部であり、駆動要素がリングギアとして設計され、2つの車軸側シャフトが出力要素として設けられ、ギア装置がディファレンシャルギア装置として設計され、シフトクラッチ装置がシフト爪クラッチとして設計される。更なる有利な実施形態では、第1のクラッチ要素がシフトスリーブとして設計され、第2のクラッチ要素がシフト歯車要素として設計されることが考えられる。
【0007】
ここで、有利な様式でアクチュエータを、変位要素に作用する電磁アクチュエータとして設計することができる。前記変位要素は、環状ピストンとして設計された磁性要素と、スリーブとを有する。ここで、環状ピストンを強磁性材料から製造することができ、スリーブを常磁性または非磁性材料から製造することができる。ここでは、軸受ディスク要素が常磁性または非磁性材料から製造されることも当然有利である。常磁性または非磁性材料の使用によって、電磁アクチュエータの領域内で望ましくない磁束または短絡が生じないことが保証される。
【0008】
以下、図面を参照して本発明をより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明によるトルク伝達機構の断面図である。
図2図1からの軸方向軸受構成の詳細図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1に、自動車(詳細には図示せず)のための本発明によるトルク伝達機構2を示す。この場合、設けられる駆動要素4はリングギアである。駆動要素4から、トルクが、ギア装置6を介して、更にシフトクラッチ装置8を介して出力要素(詳細には図示せず)に伝達される。この例示的実施形態では、出力要素は車軸側シャフトからなり、上記車軸側シャフトは、既知の様式で駆動輪に接続され、定速ジョイント10、12を介して本発明によるトルク伝達機構2に取り付けられる。
【0011】
本発明の例示的実施形態において、ギア装置6は、それ自体が周知であるディファレンシャルギア装置として設計され、従ってここでは単なる一例として述べられている。ディファレンシャルギア装置6は、2部品ディファレンシャルケージ14、16を有する。2部品ディファレンシャルケージ14、16は、リングギア4と共に回転するようにリングギア4に接続される。更に、ディファレンシャルキャリア18が設けられ、ディファレンシャルキャリア18は、ディファレンシャルケージ部品16内に摺動可能に取り付けられる。更に、ジャーナル24に回転可能に取り付けられる、2つの補償歯車20、22が見られる。ジャーナル24は、ディファレンシャルキャリア18と共に回転するようにディファレンシャルキャリア18に接続される。2つの補償歯車20、22は、既知の様式でサイドシャフトギア26、28と係合する。サイドシャフトギア26、28は、それぞれの長手方向歯車30、31を介して、車軸側シャフト(詳細には図示せず)の対応する歯車と係合する。
【0012】
シフトクラッチ装置8(これについては図2も参照のこと)は、シフト爪クラッチとして設計され、実質的に、シフトスリーブとして設計された第1のクラッチ要素32を有する。第1のクラッチ要素32は、第2のクラッチ要素34の方向へ軸方向に移動可能である。第2のクラッチ要素34は、一部片または複数部片でシフト歯車要素として設計される。第2のクラッチ要素34は、ディファレンシャルキャリア18に固定接続される。第1のクラッチ要素32は、非係合位置では、ばね要素36によるプレストレスを受けている。この例示的実施形態では、ばね要素36は更に、センサディスクとして設計された変換器要素38に当接する。変換器要素38は、既知の様式でホールセンサ(詳細には図示せず)に動作するように取り付けられる。更に、シフトクラッチ装置8は、電磁アクチュエータ40を備える。電磁アクチュエータ40は、既知の様式で、環状ピストンとして設計された磁性要素42に対して作用する。磁性要素42は、ここでは強磁性材料から製造される。更に、磁性要素42は、スリーブ44に対して押圧される。スリーブ44は、すべり軸受46を介して、非磁性材料からなる部品57上に配置される。スリーブ44は、ここでは、磁束の漏れを防止するために非磁性材料から製造される。
【0013】
環状ピストン42とスリーブ44は変位要素48を形成する。変位要素48は、軸方向転がり軸受構成50を介して変換器要素38に対して作用する。従って変位要素48は第1のクラッチ要素32に対しても作用し、通電中に第1のクラッチ要素32が第2のクラッチ要素34の方向へ軸方向に変位され、従ってトルクの伝達が保証される。
【0014】
図2は、図1におけるシフトクラッチ装置8の詳細図である。ここでは、電磁アクチュエータ40を明瞭に見ることができる。電磁アクチュエータ40は、既知の様式でハウジング52を有する。上記ハウジング52は、その内部に配置されたコイル54と電磁回路とを備える。電磁回路は、例えば軟磁性材料からなるリターンデバイス56と、上記リターンデバイス56に溶接された、例えばステンレス鋼など非磁性材料からなる部品57と、磁性要素42とから構成される。スリーブ44は、軸方向転がり軸受構成50の軸方向針状ころ軸受58と直接接触する。この軸方向針状ころ軸受58は、更に、軸受ディスク要素62のショルダ60によって心合わせされ、軸受ディスク要素62とは反対に位置する側にストップディスク63を有する。ここで例示する実施形態は、1つの可能な変形形態を示すにすぎない。例えば、軸受ディスク要素62とストップディスク63の配置は、軸方向針状ころ軸受58に対して相互に交換することができる。
【0015】
軸受ディスク要素62は、変換器要素38の心合わせ面64によって心合わせされる。軸受ディスク要素62は、面66を介して変換器要素38に対して作用することができ、それにより、スリーブ46の軸方向移動を、シフトスリーブとして設計された第1のクラッチ要素32に伝達することができる。また、ここではばね要素36を明瞭に見ることができる。ばね要素36はプレストレス状態にあり、それにより、アクチュエータ40の停止中、第1のクラッチ要素32が非係合位置に自動的に移行される。
【符号の説明】
【0016】
2 トルク伝達機構
4 駆動要素
6 ギア装置
8 シフトクラッチ装置
32 第1のクラッチ要素
34 第2のクラッチ要素
36 ばね要素
38 変換器要素
40 アクチュエータ
42 環状ピストン
44 スリーブ
48 変位要素
50 軸方向軸受構成
58 転がり軸受
60 ショルダ
62 軸受ディスク要素
63 ストップディスク
64 心合わせ面
図1
図2