特許第5820102号(P5820102)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5820102ハードバイアス構造およびその形成方法、ならびに磁気再生ヘッド
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5820102
(24)【登録日】2015年10月9日
(45)【発行日】2015年11月24日
(54)【発明の名称】ハードバイアス構造およびその形成方法、ならびに磁気再生ヘッド
(51)【国際特許分類】
   G11B 5/39 20060101AFI20151104BHJP
【FI】
   G11B5/39
【請求項の数】23
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2010-143540(P2010-143540)
(22)【出願日】2010年6月24日
(65)【公開番号】特開2011-8907(P2011-8907A)
(43)【公開日】2011年1月13日
【審査請求日】2013年6月10日
(31)【優先権主張番号】12/456,935
(32)【優先日】2009年6月24日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500475649
【氏名又は名称】ヘッドウェイテクノロジーズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100109656
【弁理士】
【氏名又は名称】三反崎 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100098785
【弁理士】
【氏名又は名称】藤島 洋一郎
(74)【復代理人】
【識別番号】110001357
【氏名又は名称】特許業務法人つばさ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】張 坤亮
(72)【発明者】
【氏名】李 民
(72)【発明者】
【氏名】周 宇辰
(72)【発明者】
【氏名】鄭 敏
【審査官】 長谷川 直也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−310264(JP,A)
【文献】 特開平05−315135(JP,A)
【文献】 特開2008−186543(JP,A)
【文献】 特開2001−216611(JP,A)
【文献】 特表2006−518099(JP,A)
【文献】 特開2008−107323(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0117552(US,A1)
【文献】 特開2009−094464(JP,A)
【文献】 特開平04−295617(JP,A)
【文献】 特開平06−060333(JP,A)
【文献】 特開2008−293581(JP,A)
【文献】 S. Mangin, 外5名,Current-induced magnetization reversal in nanopillars with perpenducular anisotropy,Nature Materials,2006年 2月19日,Vol. 5,p. 210〜215
【文献】 Randall Law, 外3名,Effects of Ta seed layer and annealing on magnetoresistance in CoFe/Pd-based pseudo-spin-valves with,Applied Physics Letters,2007年12月12日,Vol. 91,p. 242504-1〜242504-3
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 5/31− 5/39、5/62− 5/858、
H01L 27/22、29/82、43/00−43/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フリー層を含む複数の層を有すると共に上面および側壁を有するセンサ積層体に隣接され、前記フリー層に長手バイアスを印加するハードバイアス構造であって、
(a)基体の上に形成されたTa層と、そのTa層の上に形成されると共にRu、CuまたはAuを含む金属層(M1)と、を含む複合シード層と、
(b)前記複合シード層の上に形成され、(R1/R2)x で表される多層構造を有すると共に垂直磁気異方性を有するハードバイアス層と、
(c)前記ハードバイアス層の上に形成されると共にTaおよびRuのうちの少なくとも一方を含む保護層と
を備え、
前記複合シード層は、前記センサ積層体における複数の層の膜面に平行な方向に延在する第1部分と、前記センサ積層体の側壁に沿う方向に延在すると共に前記第1部分に連結された第2部分とを有し、
前記ハードバイアス層において、前記R1層はCoまたはCoFe、前記R2層はNi、NiFeまたはNiCo、前記xは整数であると共に、各R2層の厚さt2は各R1層の厚さt1よりも大きく、
前記センサ積層体の上面と前記複合シード層の上面と前記ハードバイアス層の上面と前記保護層の上面とは、同一面内に位置し、
前記複合シード層は、前記金属層(M1)の上に形成された金属層(M2)を含むことにより、Ta/M1/M2で表される多層構造を有し、
前記金属層(M2)は、Cu、Ti、Pd、W、Rh、AuまたはAgであり、
前記金属層(M1)と前記金属層(M2)とは、異なる種類である
ことを特徴とするハードバイアス構造。
【請求項2】
前記保護層は、Ru/Ta/Ruで表される多層構造を有する
ことを特徴とする請求項1記載のハードバイアス構造。
【請求項3】
前記xは10以上70以下、前記厚さt1は0.05nm以上0.5nm以下、前記厚さt2は0.2nm以上1nm以下である
ことを特徴とする請求項1記載のハードバイアス構造。
【請求項4】
前記Ta層の厚さは0.5nm以上10nm以下、前記金属層(M1)の厚さは1nm以上10nm以下である
ことを特徴とする請求項1記載のハードバイアス構造。
【請求項5】
記Ta層の厚さは0.5nm以上10nm以下、前記金属層(M1)の厚さは1nm以上10nm以下、前記金属層(M2)の厚さは0.1nm以上10nm以下であ
ことを特徴とする請求項1記載のハードバイアス構造。
【請求項6】
前記基体は、下部シールドの上に形成された絶縁層であり、
前記絶縁層は、金属酸化物、金属窒化物および金属酸窒化物のうちの少なくとも1種である
ことを特徴とする請求項1記載のハードバイアス構造。
【請求項7】
前記CoFeはCo(100-w) Few (0原子%<w≦90原子%)で表される組成を有し、
前記NiFeはNi(100-y) Fey (0原子%<y≦50原子%)で表される組成を有し、
前記NiCoはNi(100-z) Coz (0原子%<z≦50原子%)で表される組成を有する
ことを特徴とする請求項1記載のハードバイアス構造。
【請求項8】
(a)上面を有する下部シールドと、
(b)前記下部シールドの上面に形成され、フリー層を含む複数の層を有すると共に上面および側壁を有するセンサ積層体と、
(c)前記下部シールドの上面および前記センサ積層体の側壁に沿うように形成され、金属酸化物、金属窒化物および金属酸窒化物のうちの少なくとも1種である絶縁層と、
(d)前記絶縁層の上に形成されたTa層と、そのTa層の上に形成されると共にRu、CuまたはAuを含む金属層(M1)と、を含む複合シード層と、
(e)前記複合シード層の上に形成され、(R1/R2)x で表される多層構造を有すると共に垂直磁気異方性を有するハードバイアス層と、
(f)前記ハードバイアス層の上に形成されると共にTaおよびRuのうちの少なくとも一方を含む保護層と、
(g)前記保護層の上に形成され、前記センサ積層体の上面に隣接するように延在する非磁性分離層と、
(h)前記非磁性分離層の上に形成され、その非磁性分離層および前記センサ積層体を介して前記下部シールドと電気的に接続された上部シールドとを備え、
前記複合シード層は、前記センサ積層体における複数の層の膜面に平行な方向に延在する第1部分と、前記センサ積層体の側壁に沿う方向に延在すると共に前記第1部分に連結された第2部分とを有し、
前記ハードバイアス層において、前記R1層はCoまたはCoFe、前記R2層はNi、NiFeまたはNiCo、前記xは整数であると共に、各R2層の厚さt2は各R1層の厚さt1よりも大きく、
前記センサ積層体の上面と前記複合シード層の上面と前記ハードバイアス層の上面と前記保護層の上面とは、同一面内に位置し、
前記複合シード層は、前記金属層(M1)の上に形成された金属層(M2)を含むことにより、Ta/M1/M2で表される多層構造を有し、
前記金属層(M2)は、Cu、Ti、Pd、W、Rh、AuまたはAgであり、
前記金属層(M1)と前記金属層(M2)とは、異なる種類である
ことを特徴とする磁気再生ヘッド。
【請求項9】
前記前記xは10以上70以下、前記厚さt1は0.05nm以上0.5nm以下、前記厚さt2は0.2nm以上1nm以下である
ことを特徴とする請求項記載の磁気再生ヘッド。
【請求項10】
前記Ta層の厚さは0.5nm以上10nm以下であり、
前記金属層(M1)の厚さは1nm以上10nm以下である
ことを特徴とする請求項記載の磁気再生ヘッド。
【請求項11】
記Ta層の厚さは0.5nm以上10nm以下、前記金属層(M1)の厚さは1nm以上10nm以下、前記金属層(M2)の厚さは0.1nm以上10nm以下であ
ことを特徴とする請求項記載の磁気再生ヘッド。
【請求項12】
前記非磁性分離層はRuであり、その厚さは1.5nm以上10nm以下である
ことを特徴とする請求項記載の磁気再生ヘッド。
【請求項13】
前記保護層は、Ru/Ta/Ruで表される多層構造を有する
ことを特徴とする請求項記載の磁気再生ヘッド。
【請求項14】
前記CoFeはCo(100-w) Few (0原子%<w≦90原子%)で表される組成を有し、
前記NiFeはNi(100-y) Fey (0原子%<y≦50原子%)で表される組成を有し、
前記NiCoはNi(100-z) Coz (0原子%<z≦50原子%)で表される組成を有する
ことを特徴とする請求項記載の磁気再生ヘッド。
【請求項15】
フリー層を含むスピンバルブ構造を有するセンサ積層体に隣接され、前記フリー層に長手バイアスを印加するハードバイアス構造の形成方法であって、
(a)基体の上に、前記フリー層を含む複数の層を有すると共に上面および側壁を有する前記センサ積層体を形成する工程と、
(b)前記基体および前記センサ積層体の側壁に沿うように、金属酸化物、金属窒化物および金属酸窒化物のうちの少なくとも1種である絶縁層を形成する工程と、
(c)前記絶縁層の上に、その絶縁層の上に形成されたTa層と、そのTa層の上に形成されると共にRu、CuまたはAuを含む金属層(M1)と、を含む複合シード層を形成する工程と、
(d)前記複合シード層の上に、(R1/R2)x で表される多層構造を有すると共に垂直磁気異方性を有するハードバイアス層を形成し、そのハードバイアス層において、前記R1層がCoまたはCoFe、前記R2層がNi、NiFeまたはNiCo、前記xが整数であると共に、各R2層の厚さt2が各R1層の厚さt1よりも大きくなるようにする工程と、
(e)前記ハードバイアス層の上に、TaおよびRuのうちの少なくとも一方を含む保護層を形成する工程と、
(f)前記センサ積層体の上面と前記複合シード層の上面と前記ハードバイアス層の上面と前記保護層の上面とが同一面内に位置するように、化学機械研磨を用いて前記センサ積層体、前記複合シード層、前記ハードバイアス層および前記保護層を研磨する工程と
を含み、
前記複合シード層は、前記金属層(M1)の上に形成された金属層(M2)を含むことにより、Ta/M1/M2で表される多層構造を有し、
前記金属層(M2)は、Cu、Ti、Pd、W、Rh、AuまたはAgであり、
前記金属層(M1)と前記金属層(M2)とは、異なる種類である
ことを特徴とするハードバイアス構造の形成方法。
【請求項16】
0.5時間以上10時間以下の時間および200℃以上280℃以下の温度の条件で、前記ハードバイアス構造をアニールする工程を含む
ことを特徴とする請求項15記載のハードバイアス構造の形成方法。
【請求項17】
前記ハードバイアス層を形成する工程において、200W未満のRFパワーおよび15cm3 /分よりも大きなアルゴンガス流量を含む条件で、DCマグネトロンスパッタリング法を用いて前記R1層および前記R2層を形成する
ことを特徴とする請求項15記載のハードバイアス構造の形成方法。
【請求項18】
前記基体は下部シールドである
ことを特徴とする請求項15記載のハードバイアス構造の形成方法。
【請求項19】
前記Ta層の厚さは0.5nm以上10nm以下であり、
前記金属層(M1)の厚さは1nm以上10nm以下である
ことを特徴とする請求項15記載のハードバイアス構造の形成方法。
【請求項20】
記Ta層の厚さは0.5nm以上10nm以下、前記金属層(M1)の厚さは1nm以上10nm以下、前記金属層(M2)の厚さは0.1nm以上10nm以下であ
ことを特徴とする請求項15記載のハードバイアス構造の形成方法。
【請求項21】
前記xは10以上70以下、前記厚さt1は0.05nm以上0.5nm以下、前記厚さt2は0.2nm以上1nm以下である
ことを特徴とする請求項15記載のハードバイアス構造の形成方法。
【請求項22】
Ru/Ta/Ruで表される多層構造を有するように前記保護層を形成する
ことを特徴とする請求項15記載のハードバイアス構造の形成方法。
【請求項23】
前記CoFeはCo(100-w) Few (0原子%<w≦90原子%)で表される組成を有し、
前記NiFeはNi(100-y) Fey (0原子%<y≦50原子%)で表される組成を有し、
前記NiCoはNi(100-z) Coz (0原子%<z≦50原子%)で表される組成を有する
ことを特徴とする請求項15記載のハードバイアス構造の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、隣接接合型の再生センサ素子に適用され、フリー層を含むセンサ積層体の側壁に隣接されると共にそのフリー層に長手バイアスを印加するハードバイアス構造およびその形成方法、ならびにハードバイアス構造を備えた磁気再生ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
スピンバルブ磁気抵抗(SVMR:spin valve magnetoresistance)効果または巨大磁気抵抗(GMR:giant magnetoresistance )効果を利用する磁気再生ヘッドを搭載した磁気記録デバイスでは、記録密度を増加させるために磁気再生ヘッドを安定に作動させる必要がある。この目的を達成するための1つの方法は、磁気ディスクからエアベアリング面(ABS:air bearing surface )を浮上させる磁気再生ヘッド(再生センサ素子)のサイズを減少させることである。再生センサ素子は、磁気再生ヘッドにおいて再生処理を担う重要なデバイスであり、その再生センサ素子では、センス電流を流しながら抵抗変化をモニタすることにより、磁気ディスクの磁気信号(異なる磁化状態)が検出される。
【0003】
GMR効果を利用する一般的な再生センサ素子において、スピンバルブ構造を有するセンサ積層体では、2つの強磁性層が非磁性導電層を介して分離されている。一方の強磁性層は、いわゆるピンド層である。このピンド層には、反強磁性(AFM:anti-ferromagnetic)ピンニング層が隣接されており、そのピンド層の磁化方向は、交換結合により所定の方向に固定されている。これに対して、他方の強磁性層は、いわゆるフリー層である。このフリー層の磁化方向(磁気モーメント)は、外部磁界に応じて回転可能である。外部磁界がない状態では、フリー層の磁化方向は、センサ積層体の両側に配置されたハードバイアス層の影響により、ピンド層の磁化方向に対して垂直な方向に向いている。磁気ディスクからABSを浮上させながら再生センサ素子が通過すると、フリー層の磁化方向は、外部磁界(磁気ディスクからの信号磁界)に応じて、ピンド層の磁化方向と平行な方向に回転する。なお、トンネル磁気抵抗(TMR:tunneling magnetoresistance )効果を利用する再生センサ素子では、2つの強磁性層が薄い非磁性絶縁層を介して分離されている。
【0004】
センス電流は、センサ積層体の抵抗を検出するために用いられ、フリー層の磁化方向とピンド層の磁化方向とが平行である場合に低くなる。膜面直交電流(CPP:current-perpendicular-to-the-plane)型の再生センサ素子において、センス電流は、センサ積層体における各層の膜面と直交する方向に流れる。一方、面内電流(CIP:current-in-plane)型の再生センサ素子において、センス電流は、膜面と平行な方向に流れる。
【0005】
100ギガビット/インチ2 を超える超高密度の記録用途では、高感度な磁気再生ヘッドが必要であり、その磁気再生ヘッドに搭載される再生センサ素子のABSにおける端面の面積は、0.1μm×0.1μmよりも小さくなる。電流記録型の磁気再生ヘッドでは、一般的に、隣接接合型の再生センサ素子が用いられている。隣接接合型の再生センサ素子では、フリー層を含むセンサ積層体の両側に隣接するようにハードバイアス層が配置される。記録密度は益々増加し、それに応じてトラック幅は益々減少する傾向にあるため、フリー層のエッジ近傍(センサ積層体とハードバイアス層との隣接面近傍)において、そのフリー層の磁化状態を安定化させることが重要である。言い替えれば、外部要因に対してフリー層の磁化状態(単磁区構造)を安定化させると共に、外部磁界に対して再生センサ素子を高感度化するためには、そのフリー層に水平方向のバイアス(長手バイアス)を印加する必要がある。
【0006】
長手バイアスを印加することが可能な磁気再生ヘッドのヘッドデザインでは、センサ積層体の側面(フリー層のエッジ)に隣接するように高保持力の膜(ハードバイアス層)が配置される。この場合には、フリー層とハードバイアス層との間に薄いシード層が介在する場合もある。このヘッドデザインでは、磁束の流れが等しくなるようにフリー層にハードバイアス層を隣接させることにより、エッジ近傍に磁極が生じないため、フリー層はエッジ近傍において消磁しなくなる。高記録密度化の要求に応じて再生センサ素子の限界寸法は急速に減少する傾向にあるが、その厚さは穏やかに薄くなる傾向にあるため、フリー層の磁化状態を安定化させるために必要な長手バイアスの強度は増加することになる。
【0007】
フリー層などの硬質磁性薄膜の磁化状態が不完全であると、再生センサ素子の応答特性にヒステリシスまたは非線形応答が生じるため、ノイズが生じてしまう。一般的に、記録済みの磁気メディアから生じた漂遊磁界によりフリー層の磁化状態が乱されないようにするために、ハードバイアス層の保持力を増加させることが望ましい。ハードバイアス層では、長手バイアスを安定に印加するために、面内方向において高保持力が必要である。この長手バイアスにより、フリー層の磁化状態が維持されると共に、それに応じてバルクハウゼンノイズの発生も抑制される。この場合の条件は、ハードバイアス層の面内における残留磁化(Mr)により表され、特に、長手バイアスの強度はハードバイアス層の厚さ(t)に依存するため、MrTにより表されてもよい。MrTは、長手バイアスを印加してフリー層の磁化状態を安定化させるために十分に大きくなければならないが、外部磁界の影響を受けてフリー層の磁化方向が回転することを防止するために大きすぎてはならない。この他、ハードバイアス層の形成材料としては、角型比(S)が大きな材料が望ましい。言い替えれば、S=Mr/Ms(Msはハードバイアス層の形成材料の飽和磁化)は、できるだけ1に近い必要がある。
【0008】
磁気再生ヘッドの性能を安定化させるために、長手バイアスを印可するハードバイアス層の形成材料としては、一般的に、CoPtまたはそれを含む合金(CoPtX:XはCr、BまたはTaなど)が用いられている。しかしながら、高記録密度化の要求に応じてトラック幅は益々減少しているため、ハードバイアス層によるバイアス効率は低下する傾向にある。バイアス効率が低下する理由の1つは、狭いエッジ近傍の領域においてCoPt粒子の容易軸がランダムに配向するからである。我々は、以前に、垂直磁気異方性(PMA:perpendicular magnetic anisotropy )を有するCoCrPtまたはそれを含む合金(CoCrPtX:XはBまたはOなど)などの磁性材料(PMA材料)を紹介した(例えば、特許文献1参照。)。このPMA材料は、容易軸が垂直に配向することを助けるため、CPP−GMR型またはTMR型の再生センサ素子では、良好な長手バイアスが得られる。この他、CoPt、CoPt−SiO2 、Tb(Fe)CoまたはFePtなどのPMA材料がいくつかの文献において報告されている。
【0009】
しかしながら、PMA材料を用いる場合には、1つの大きな問題が生じる。スピンバルブ構造を有するセンサ積層体を備えた再生センサ素子にPMA材料を適用する場合には、激しいアニール(加熱処理)を行わないことが好ましい。残念ながら、FePtまたはTb(Fe)Coを用いる場合には、大きなPMAを得るために、高温でのアニールを必要としてしまう。この場合には、高温下において再生センサ素子がダメージを受けるため、その高温に起因する問題は、デバイスの集積化などを考えると見逃すことができない大きな問題である。隣接接合型の再生センサ素子では、フリー層の磁化状態を安定化させるためにPMAを十分に大きくしなければならず、そのようにPMAを大きくするために厚いシード層が必要になるため、CoPtまたはそれを含む合金(CoCrPtまたはCoPt−SiO2 など)を用いることは望ましくない。Co/X(XはPt、Pd、Au、NiまたはIrなど)で表される新規な多層構造から外れてしまうからである。Co/Pt、Co/PdまたはCo/Irなどの多層構造は、PMAを得るための望ましい構造であるとは言えない。Pt、PdまたはIrなどの厚い高価なシード層が必要になるからである。さらに、Co/Pt、Co/PdまたはCo/Irなどの多層構造では、一般的に、非磁性元素であるPt、PdまたはIrを用いているため、磁気モーメントが小さくなる。Auは、高コストであると共に、隣接する他の層と容易に相互拡散しやすいため、Co/Auは、PMAを得るための多層構造としては実用性に乏しい。これに対して、Co/Niは、いくつかの利点を有するため、PMAを得るための多層構造の候補として有力である。この利点とは、(a)Co層、Ni層およびCo/Ni界面においてスピン偏極が著しく高くなり、(b)Ni層により良好なロバスト性(構造安定性)が得られ、(c)飽和磁化が著しく高くなり、その飽和磁化は1テスラまたは他のCo/M(Mは金属)の2倍程度に達し、(d)低コストになることである。
【0010】
Co/Niで表される多層構造を用いて大きなPMAを得るために、いくつかの文献においてさまざまな検討がなされているが、いずれの場合においても、厚いシード層が必要である。例えば、G.Daalderop 等およびF.den Broeder 等は、シード層としてAu層(200nm厚)を用いている(例えば、非特許文献1,2参照。)。V.Naik等およびY.Zhang 等は、複合シード層としてAu(50nm厚)/Ag(50nm厚)を用いている(例えば、非特許文献3,4参照。)。Jaeyong Lee 等は、シード層としてCu層(100nm厚)を用いている(例えば、非特許文献5参照。)。P.Bloemen 等は、シード層としてTi層(50nm厚)またはCu層(50nm厚)を用いていると共に、150℃でアニールしている(例えば、非特許文献6参照。)。W.Chen等は、複合シード層としてCu(100nm厚)/Pt(20nm厚)/Cu(10nm厚)を用いている(例えば、非特許文献7参照。)。
【0011】
この他、シード層を用いずに、ハードバイアス層としてCoNi層が用いられている(例えば、特許文献2参照。)。シード層であるCr層またはNiAl層の上に、ハードバイアス層であるCoNi層が形成されているが(例えば、特許文献3参照。)、PMAについては言及されていない。シード層であるCr層、Ti層、Mo層またはWMo層と、ハードバイアス層であるCoPt層またはCoCrPt層とを含むハードバイアス構造が用いられていると共に、そのハードバイアス構造の上に中間層としてTa層が形成されている(例えば、特許文献4参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許出願公開2008/0117552
【特許文献2】米国特許出願公開2007/0026538
【特許文献3】米国特許第7134185号明細書
【特許文献4】米国特許第7433161号明細書
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】”Prediction and Confirmation of Perpendicular Magnetic Anisotropy in Co/Ni Multilayers ”Phys.Rev.Lett.68,682(1992)
【非特許文献2】”Co/Ni multilayer with perpendicular magnetic anisotropy:Kerr effect and thermomagnetic writing”,Appl.Phys.Lett.61,1648(1992)
【非特許文献3】”Effect of (111) texture on the perpendicular magnetic anisotropy of Co/Ni maultilayers”J.Appl.Phys.84,3273(1998)
【非特許文献4】”Magnetic and magneto-optic properties of sputtered Co/Ni multilayers”,J.Appl.Phys.75,6495(1994)
【非特許文献5】”Perpendicular magnetic anisotropy of the epitaxial fcc Co/60-Angstrom-Ni/Cu(001) system”,Phys,Rev.B57,R5728(1997)
【非特許文献6】”Magnetic anisotropies in Co/Ni(111) multilayers”,J.Appl.Phys.72,4840(1992)
【非特許文献7】”Spin-torque driven ferromagnetic resonance of Co/Ni synthetic layers in spin valves”,Appl,Phys.Lett.92,012507(2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
スピントロニクス用のデバイスにおいて、PMAを得るためにCo/Niで表される多層構造と一緒に厚いシード層を用いることは、実用的でない。一般的に、性能が適正化されたデバイスでは、スピンバルブ構造を有するセンサ積層体における各層の膜面に垂直な方向に空間的な制限がある。また、基板とセンサ積層体の上面との間の距離は、高記録密度用途では小さくなる傾向にあり、空間的な制限もあることから、センサ積層体に隣接するハードバイアス構造の厚さは薄くなければならない。シード層の厚さが10nmよりも大きくなると、ハードバイアス構造の総厚を維持するために、ハードバイアス層を薄くせざるを得ない。しかしながら、ハードバイアス層を薄くすると、MrTとの関係からPMAおよび長手バイアスの強度が減少してしまう。よって、長手バイアスの強度を確保するためには、ハードバイアス層の厚さを維持しつつ、シード層を薄くする必要がある。このため、上記した問題を解消できる新たなシード層が望まれている。この新たなシード層は、高記録密度化の要求に対応するために十分に薄く、かつ、薄いにもかかわらずにCo/Niで表される多層構造において大きなPMAが得られるようにするものでなければならない。
【0015】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その第1目的は、隣接接合型の再生センサ素子に悪影響を与える可能性があるアニールを必要とせずに、薄いシード層によりハードバイアス層に大きな垂直磁気異方性を付与することが可能なハードバイアス構造およびその形成方法、ならびに磁気再生ヘッドを提供することにある。
【0016】
また、本発明の第2目的は、15000×103 /(4π)A/m(=15000Oe)を超える異方性磁界Hkと、1に近い角型比と、同等の厚さを有するCoPt層よりも大きなMrT値を得ることが可能なハードバイアス構造およびその形成方法、ならびに磁気再生ヘッドを提供することにある。
【0017】
さらに、本発明の第3目的は、ハードバイアス層において面心立方(111)結晶構造を得ることが可能なハードバイアス構造およびその形成方法、ならびに磁気再生ヘッドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明のハードバイアス構造は、フリー層を含む複数の層を有すると共に上面および側壁を有するセンサ積層体に隣接され、そのフリー層に長手バイアスを印加するものである。このハードバイアス構造は、(a)基体の上に形成されたTa層と、そのTa層の上に形成されると共にRu、CuまたはAuを含む金属層(M1)とを含む複合シード層と、(b)複合シード層の上に形成され、(R1/R2)x で表される多層構造を有すると共に垂直磁気異方性を有するハードバイアス層と、(c)ハードバイアス層の上に形成されると共にTaおよびRuのうちの少なくとも一方を含む保護層とを備えている。複合シード層は、センサ積層体における複数の層の膜面に平行な方向に延在する第1部分と、そのセンサ積層体の側壁に沿う方向に延在すると共に第1部分に連結された第2部分とを有している。ハードバイアス層において、R1層はCoまたはCoFe、R2層はNi、NiFeまたはNiCo、xは整数であると共に、各R2層の厚さt2は各R1層の厚さt1よりも大きい。センサ積層体の上面と複合シード層の上面とハードバイアス層の上面と保護層の上面とは、同一面内に位置する。複合シード層は、金属層(M1)の上に形成された金属層(M2)を含むことにより、Ta/M1/M2で表される多層構造を有している。金属層(M2)は、Cu、Ti、Pd、W、Rh、AuまたはAgであり、金属層(M1)と金属層(M2)とは、異なる種類である。
【0019】
本発明の磁気再生ヘッドは、(a)上面を有する下部シールドと、(b)下部シールドの上面に形成され、フリー層を含む複数の層を有すると共に上面および側壁を有するセンサ積層体と、(c)下部シールドの上面およびセンサ積層体の側壁に沿うように形成され、金属酸化物、金属窒化物および金属酸窒化物のうちの少なくとも1種である絶縁層と、(d)絶縁層の上に形成されたTa層と、そのTa層の上に形成されると共にRu、CuまたはAuを含む金属層(M1)とを含む複合シード層と、(e)複合シード層の上に形成され、(R1/R2)x で表される多層構造を有すると共に垂直磁気異方性を有するハードバイアス層と、(f)ハードバイアス層の上に形成されると共にTaおよびRuのうちの少なくとも一方を含む保護層と、(g)保護層の上に形成され、センサ積層体の上面に隣接するように延在する非磁性分離層と、(h)非磁性分離層の上に形成され、その非磁性分離層およびセンサ積層体を介して下部シールドと電気的に接続された上部シールドとを備えている。複合シード層は、センサ積層体における複数の層の膜面に平行な方向に延在する第1部分と、そのセンサ積層体の側壁に沿う方向に延在すると共に第1部分に連結された第2部分とを有している。ハードバイアス層において、R1層はCoまたはCoFe、R2層はNi、NiFeまたはNiCo、xは整数であると共に、各R2層の厚さt2は各R1層の厚さt1よりも大きい。センサ積層体の上面と複合シード層の上面とハードバイアス層の上面と保護層の上面とは、同一面内に位置する。複合シード層は、金属層(M1)の上に形成された金属層(M2)を含むことにより、Ta/M1/M2で表される多層構造を有している。金属層(M2)は、Cu、Ti、Pd、W、Rh、AuまたはAgであり、金属層(M1)と金属層(M2)とは、異なる種類である。
【0020】
本発明のハードバイアス構造の形成方法は、フリー層を含むスピンバルブ構造を有するセンサ積層体に隣接され、そのフリー層に長手バイアスを印加するハードバイアス構造を形成する方法である。このハードバイアス構造の形成方法は、(a)基体の上に、フリー層を含む複数の層を有すると共に上面および側壁を有するセンサ積層体を形成する工程と、(b)基体およびセンサ積層体の側壁に沿うように、金属酸化物、金属窒化物および金属酸窒化物のうちの少なくとも1種である絶縁層を形成する工程と、(c)絶縁層の上に、その絶縁層の上に形成されたTa層と、そのTa層の上に形成されると共にRu、CuまたはAuを含む金属層(M1)とを含む複合シード層を形成する工程と、(d)複合シード層の上に、(R1/R2)x で表される多層構造を有すると共に垂直磁気異方性を有するハードバイアス層を形成し、そのハードバイアス層において、R1層がCoまたはCoFe、R2層がNi、NiFeまたはNiCo、xが整数であると共に、各R2層の厚さt2が各R1層の厚さt1よりも大きくなるようにする工程と、(e)ハードバイアス層の上に、TaおよびRuのうちの少なくとも一方を含む保護層を形成する工程と、(f)センサ積層体の上面と複合シード層の上面とハードバイアス層の上面と保護層の上面とが同一面内に位置するように、化学機械研磨を用いてセンサ積層体、複合シード層、ハードバイアス層および保護層を研磨する工程とを含む。複合シード層は、金属層(M1)の上に形成された金属層(M2)を含むことにより、Ta/M1/M2で表される多層構造を有している。金属層(M2)は、Cu、Ti、Pd、W、Rh、AuまたはAgであり、金属層(M1)と金属層(M2)とは、異なる種類である。
【発明の効果】
【0021】
本発明のハードバイアス構造またはその形成方法、あるいは磁気再生ヘッドでは、ハードバイアス構造は、複合シード層の上に、垂直磁気異方性を有するハードバイアス層を有していると共に、そのハードバイアス層の上に、保護層を有している。複合シード層は、Ta層の上に金属層(M1)が形成されると共に金属層(M1)の上に金属層(M2)が形成された多層構造(Ta/M1/M2)を有している。金属層(M1)は、Ru、CuまたはAuを含んでいる。金属層(M2)は、Cu、Ti、Pd、W、Rh、AuまたはAgであり、金属層(M1)と金属層(M2)とは、異なる種類である。ハードバイアス層は、(R1/R2)x (R1=CoまたはCoFe、R2層=Ni、NiFeまたはNiCo、x=整数、各R2層の厚さt2>各R1層の厚さt1)で表される多層構造を有している。保護層は、TaおよびRuのうちの少なくとも一方を含んでいる。センサ積層体の上面と複合シード層の上面とハードバイアス層の上面と保護層の上面とは、同一面内に位置している。
【0022】
この場合には、ハードバイアス層において大きな垂直磁気異方性が安定に得られると共に、そのハードバイアス層によりフリー層に印加される長手バイアスの強度が増加する。よって、隣接接合型の再生センサ素子に悪影響を与える可能性があるアニール処理を必要とせずに、薄いシード層(複合シード層)によりハードバイアス層に大きな垂直磁気異方性を付与することができる。これにより、15000×103 /(4π)A/mを超える異方性磁界Hkと、1に近い角型比と、同等の厚さを有するCoPt層よりも大きなMrT値を得ることができる
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の一実施形態の磁気再生ヘッドの構成(ハードバイアス構造を省略)を表す図である。
図2】本発明の一実施形態の磁気再生ヘッドの初期化前における構成(ハードバイアス構造を含む)を表す図である。
図3】本発明の一実施形態の磁気再生ヘッドの初期化後における構成(ハードバイアス構造を含む)を表す図である。
図4】単層シード層を用いたハードバイアス構造に関するMH曲線である。
図5】複合シード層を用いたハードバイアス構造に関するMH曲線である。
図6】複合シード層を用いたハードバイアス構造に関する他のMH曲線である。
図7】複合シード層を用いたハードバイアス構造に関するさらに他のMH曲線である。
図8】複合シード層を用いたハードバイアス構造に関するアニール前後のMH曲線である。
図9】複合シード層を用いたハードバイアス構造に関するさらに他のMH曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0025】
[磁気再生ヘッドの構成]
まず、図1図3を参照して、本発明の一実施形態の磁気再生ヘッドの構成について説明する。なお、本発明のハードバイアス構造は磁気再生ヘッドに適用されるものであるため、そのハードバイアス構造については以下で併せて説明する。
【0026】
図1図3は、エアベアリング面(ABS)側から見た磁気再生ヘッドの構成を表している。図1ではハードバイアス構造の図示を省略しているのに対して、図2および図3ではハードバイアス構造を図示している。図2は初期化前の状態、図3は初期化後の状態をそれぞれ示している。なお、図1図3に示したヘッド構成はあくまで一例であり、図示した態様だけに本発明を限定しているわけではない。
【0027】
この磁気再生ヘッドは、図1図3に示したように、下部シールド1と非磁性分離層11および上部シールド2との間に再生センサ素子100が設けられたものである。
【0028】
下部シールド1は、上面1aを有しており、下部リードとしての役割を果たす。この下部シールド1は、例えば、ニッケル鉄合金(商品名:パーマロイ)などを含んでいると共に、セラミックなどの基板(図示せず)の上に形成されている、
【0029】
再生センサ素子100は、隣接接合構造を有するCPP−GMR型またはTMR型のMRデバイスであり、スピンバルブ構造を有するセンサ積層体30の両側(側壁20,21)に絶縁層3を介してハードバイアス構造50が隣接されたものである。
【0030】
センサ積層体30は、下部シールド1と非磁性分離層11との間に形成されており、いわゆるスピンバルブ構造を有している。このセンサ積層体30は、例えば、図1に示したように、TMR型であり、下部シールド1に近い側から順に、下部層6と、リファレンス層(ピンド層)7と、トンネルバリア層8と、フリー層9と、保護層10とが積層された多層構造を有している。
【0031】
下部層6は、いわゆるピンニング層であり、例えば、下部シールド1の上面1aに形成されたシード層と、その上に形成された反強磁性(AFM)層とを含む多層構造を有している。リファレンス層7は、いわゆるピンド層であり、例えば、CoFeなどのCo合金を含んでいる。トンネルバリア層8は、例えば、酸化アルミニウムなどの絶縁材料を含んでいる。フリー層9は、例えば、リファレンス層7と同様の材料を含んでいる。保護層10は、上面10aを有しており、例えば、単層構造を有していてもよいし、多層構造を有していてもよい。具体的には、保護層10は、例えば、Taを含む単層であり、その厚さは、例えば、4nm〜8nmである。または、保護層10は、例えば、Ru/Ta/Ruなどのように、Ta層と少なくとも1つのRu層とを含む多層構造を有している。Ru層は、酸化抵抗が高いことから好ましいと共に、Ta層は、化学機械研磨(CMP:chemical mechanical polishing )工程またはイオンビームエッチング(IBE:ion beam etching)工程などにおいてウェットエッチャントまたはドライエッチャントに対する耐性を有することから好ましい。この他、保護層10は、公知の材料および構成(層構造)でもよい。なお、保護層10の上に、センサ積層体30を形成する場合に用いられるパターニング用のハードマスクが上部層(図示せず)として形成されていてもよい。
【0032】
このセンサ積層体30は、全体として、上面10aと、互いに対向する2つの側壁20,21とを有している。センサ積層体30の断面形状は、特に限定されないが、例えば、台形である。また、センサ積層体30の上面10aの平面形状は、ここでは図示していないが、特に限定されず、例えば、円形、楕円形または多角形などである。
【0033】
なお、センサ積層体30は、TMR型に代えてCPP−GMR型でもよい。この場合には、トンネルバリア層8に代えて非磁性スペーサ層が用いられる。この非磁性スペーサ層は、例えば、Ruなどの非磁性導電材料を含む。この他、センサ積層体30は、当業者により既に知られているように、トップスピンバルブ型またはデュアルスピンバルブ型などの他の構造を有していてもよい。
【0034】
絶縁層3は、トラック幅方向(図1図3における左右方向)におけるセンサ積層体30の一方側において、下部シールド1の上面1aおよびセンサ積層体30の側面20に沿って形成されている。また、絶縁層3は、トラック幅方向におけるセンサ積層体30の他方側において、下部シールド1の上面1aおよびセンサ積層体30の側面21に沿って形成されている。このため、絶縁層3は、上面1aに沿って形成された部分3aと、側壁20,21に形成された部分3bとを含んでいる。この絶縁層3は、例えば、金属酸化物、金属窒化物または金属酸窒化物などの絶縁材料の1種類または2種類以上を含んでいる。一例を挙げると、絶縁層3の形成材料は、アルミニウムの酸化物、窒化物または酸窒化物である。
【0035】
ハードバイアス構造50は、センサ積層体30(特にフリー層9)に長手バイアスを印加するものであり、複合シード層22と、その上に形成されたハードバイアス層25とを含む多層構造を有している。このハードバイアス層25は、垂直磁気異方性(PMA)を有している。
【0036】
複合シード層22は、基体である絶縁層3の上に形成されたTa層と、その上に形成された金属層(M1)とを含む多層構造を有している。この金属層(M1)は、ハードバイアス層25の結晶性を向上させる(面心立方(111)結晶構造が得られる)ようにするために、面心立方(111)結晶構造または六方最密(001)結晶構造を有している。以下では、前者の結晶構造をfcc(face centered cubic )(111)結晶構造、後者の結晶構造をhcp(hexagonal close-packed)(001)結晶構造とそれぞれ呼称する。なお、複合シード層22は、センサ積層体30を構成する複数の層の膜面に平行な方向に延在する部分22a(第1部分)と、そのセンサ積層体30の側壁20,21に沿う方向に延在すると共に部分22aに連結された部分22b(第2部分)とを有している。
【0037】
この複合シード層22は、例えば、Ta/M1で表される多層構造を有している。M1は、上記したように、fcc(111)結晶構造またはhcp(001)結晶構造を有する金属層であり、例えば、Ru、CuまたはAuなどを含んでいる。ただし、M1は、1層でもよいし、2層以上でもよい。この場合において、例えば、Ta層の厚さは0.5nm〜10nm、金属層(M1)の厚さは1nm〜10nmである。この複合シード層22により、上記したように、ハードバイアス層25の結晶性が向上するため、そのハードバイアス層25のPMAも向上する。
【0038】
具体的には、複合シード層22は、例えば、Ta/Ru/Cuで表される3層構造を有している。この場合において、例えば、Ta層の厚さは0.5nm〜10nm、Ru層の厚さは1nm〜10nm、Cu層の厚さは0.1nm〜10nmである。
【0039】
または、複合シード層22は、例えば、Ta/Ruで表される2層構造を有している。この場合において、例えば、Ta層の厚さは0.5nm〜10nm、Ru層の厚さは1nm〜10nmである。なお、Ru層は、fcc(111)結晶構造またはhcp(001)の結晶構造を有する他の金属層に置き換えられてもよい。
【0040】
なお、複合シード層22は、金属層(M1)の上に形成された金属層(M2)を含むことにより、Ta/金属層(M1)/金属層(M2)で表される多層構造を有していてもよい。この場合において、M2は、例えば、Cu、Ti、Pd、W、Rh、AuまたはAgを含んでおり、そのM2の厚さは、例えば、0.1nm〜10nmである。M1の厚さは、例えば、1nm〜10nmである。ただし、M1とM2とは異なる種類である。なお、M2がPd、AuまたはAgである場合には、コストを抑えるために、M2の厚さはできるだけ薄いことが好ましい。
【0041】
この他、複合シード層22は、例えば、NiCrと、TaおよびRuのうちの少なくとも一方とを含んでいてもよい。
【0042】
ハードバイアス層25は、(R1/R2)x で表される多層構造を有しており、上面25sを有している。なお、絶縁層3、複合シード層22およびハードバイアス層25のそれぞれの一端面(上面25sを含む一連の端面)は、例えば、センサ積層体30の上面10aと同一面内にある。このハードバイアス層25のPMAは、上記したように、薄い複合シード層22の上にハードバイアス層25が形成されており、それに応じてハードバイアス層25の結晶性が向上することにより得られる。なお、ハードバイアス構造25は、さらに、ハードバイアス層25の上に形成された保護層26を含んでいてもよい。
【0043】
この(R1/R2)x で表されるハードバイアス層25において、R1層はCoまたはCoFeを含むと共に、R2層はNi、NiFeまたはNiCoを含む。また、xは整数であり、その値は要求されるMsT値などの条件に応じて決定されるが、例えば、10〜70である。各R1層の厚さは、例えば、0.05nm〜0.5nm、好ましくは0.15nm〜0.3nmである。各R2層の厚さは、例えば、0.2nm〜1nm、好ましくは0.35nm〜0.8nmである。ただし、各R2層の厚さt2は、各R1層の厚さt1よりも大きくなっている。中でも、隣接し合うR1層とR2層との界面におけるスピン相互作用を適正化するために、厚さt2は厚さt1の2倍以下であることが好ましい。なお、厚さT1が0.2nmである場合、R1層は”最密”層であると考えられてもよいが、必ずしも(111)結晶構造を有している必要はない。
【0044】
CoFeは、例えば、Co(100-w) Few で表される組成を有しており、そのwは、0原子%<w≦90原子%、好ましくは0原子%<w<90原子%である。NiFeは、例えば、Ni(100-y) Fey で表される組成を有しており、そのyは、0原子%<y≦50原子%、好ましくは0原子%<y<50原子%である。NiCoは、例えば、Ni(100-z) Coz で表される組成を有しており、そのzは、0原子%<z≦50原子%、好ましくは0原子%<z<50原子%である。
【0045】
(R1/R2)x で表される多層構造を有するハードバイアス層25は、その多層構造中においてR1/R2界面が安定に維持されると共に、所望の結晶構造(fcc(111)結晶構造)を得られるようにするために、複合シード層22が薄くても済むような方法により形成されていることが好ましい。
【0046】
(R1/R2)x の具体的な層構造は、上記した条件を満たしていれば特に限定されないが、例えば、(Co/Ni)x などである。この場合において、ハードバイアス層25のPMAは、Co原子およびNi原子における3d電子および4s電子のスピン軌道相互作用に起因して生じ、そのスピン軌道相互作用は、軌道モーメントを生じさせる。この軌道モーメントは、(111)結晶構造における結晶軸に対して異方性を示すと共に、その軌道モーメントに応じて、スピンモーメントが配列される。(Co/Ni)x で表される多層構造では、PMAを得るためにfcc(111)結晶構造を有することが不可欠である。
【0047】
背景技術として説明したように、従来は、(Co/Ni)x で表される多層構造においてPMAを得るために、完全なfcc結晶構造を有するAu、Au/Ag、Ti、CuまたはAu/Cuなどの厚いシード層を必要とする。G.Daalderop 等およびF.den Broeder 等によれば、Co原子およびNi原子が最密充填された超薄層の界面の存在によりPMAが得られると信じられている。CoとNiとでは価電子の数が1つだけ異なるため、Co/Ni界面の存在は大きな磁気異方性を生じさせる。
【0048】
本発明では、R1層およびR2層を堆積させる適切な方法を見出した。この方法では、R1層およびR2層が交互に堆積された多層構造においてR1/R2界面が得られると共に安定に維持されるため、ハードバイアス構造50が大きなPMAを得るために必要なシード層(複合シード層22)が薄くて済む。この場合には、例えば(Co/Ni)x などである(R1/R2)x の積層数xが10〜70まで十分に大きくなると、Co原子およびNi原子における価電子の数が十分に多くなるため、スピン軌道相互作用により得られるPMAが大きくなる。これにより、ハードバイアス層50において大きなPMAが得られるだけでなく、そのハードバイアス層50により印可される長手バイアスの強度も増加するため、フリー層9の磁化状態が安定化する。
【0049】
図2では、ハードバイアス層25中における磁性粒子の容易軸を表しており、矢印40aは絶縁層3(部分3a)の上に形成されたハードバイアス層25における容易軸、矢印40bは絶縁層3(部分3b)の上に形成されたハードバイアス層25における容易軸をそれぞれ示している。
【0050】
複合シード層22の上にハードバイアス層25が形成される場合には、そのハードバイアス層25において、複合シード層22の膜面に対して垂直になるように容易軸40a,40bが配向する。このため、容易軸40a,40bは、いずれも複合シード層22の膜面に対して垂直な方向を向いている。ハードバイアス層25による初期化は、ハードバイアス層25の形成材料の異方性磁界を超える面内磁界がx軸方向(左から右へ向かう方向)に印加されることにより行われ、その磁界に応じてハードバイアス層25の磁化も配向される。このハードバイアス層25は、初期化により、センサ積層体30近傍では容易軸40a,40bに沿う(側壁20,21に対して垂直になる)ように磁化されるため、フリー層9に限りなく近い場所において表面チャージが生じる。重要なことは、ハードバイアス層25のうち、絶縁層3(部分3a)の上に形成された部分における磁性粒子のチャージではなく、絶縁層3(部分3b)の上に形成された部分における磁性粒子のチャージであり、後者のチャージにより磁界(長手バイアス)が生じる。この磁界が取り去られると、ハードバイアス層25中における磁性粒子の磁化は、長手方向に対して小さな角度で傾斜した方向に容易軸を向けるように緩和される。ハードバイアス層25の磁化は、上部シールド2の形成後に行われることが好ましい。ハードバイアス層25では、側壁20に沿って磁性粒子が成長するため、それによる磁化は、容易軸の方向に向くが、側壁20の方向に向く。このため、ハードバイアス層25からのチャージは、主に、エッジ近傍の領域23において磁性粒子による表面チャージとなる。このようなチャージ状態は、センサ積層体30(フリー層9)において強い長手バイアイスを生じさせるために最適な状態である。なぜなら、センサ積層体30の近傍(側壁20)においてチャージが生じ、そのチャージの立体角が最大になるからである。
【0051】
絶縁層3(部分3a)の上において磁性粒子が成長すると、ハードバイアス層25における容易軸40aの向きは下部シールド2の上面1aに対して垂直となり、その磁化の向きは、理論上は、初期化後においてランダムになる。チャージは、絶縁層3(部分3a)の上の領域において、複合シード層22との界面および非磁性分離層11との界面の近傍に生じる。しかしながら、磁性粒子により決定されるフリー層9に対する立体角は、側壁20近傍において絶縁層3(部分3b)の上において磁性粒子が成長した場合よりも小さくなるため、それらの領域にはランダム磁化が影響しない。これにより、絶縁層3(部分3a)の上のハードバイアス層25におけるチャージは、領域23における表面チャージよりも著しく小さくなる。
【0052】
ランダム磁化に関する他の検討事項は、センサ積層体30(フリー層9)がハードバイアス層25の面中央近傍に位置すると、絶縁層3(部分3a)の上のハードバイアス層25において、もしも存在するならば、そのハードバイアス層25の上面および下面におけるネットチャージからの磁界の強度は同等で反対符号になるため、互いに打ち消し合うことである。
【0053】
なお、センサ積層体30の反対側(側壁21側)におけるハードバイアス層25では、図3に示したように、側壁21に沿った磁化が生じる。この側壁21近傍の磁化状態は、側壁20近傍の磁化状態と同様であるが、その磁化は、側壁21から離れる方向に向く。
【0054】
このように側壁20,21近傍において2種類の異なる磁化状態が生じるハードバイアス層25では、アモルファス相が生じると共に長手バイアスに変化が生じると考えられる。しかしながら、そのバイアスメカニズムは、フリー層9において長手バイアスを生じさせるチャージに依存しない。また、ハードバイアス層25の厚さは、容易軸40a,40bが交わる領域において、アモルファス相の効果を最小にするために小さくなる。
【0055】
詳細には、図3に示したように、ハードバイアス層25のうち、側壁20に近い部分の磁化は矢印24bで表されると共に、側壁21に近い部分の磁化は矢印24cで表され、ハードバイアス層25による初期化は、(+)x軸方向に行われる。磁化24bは、側壁20に垂直であると共に、その側壁20に近づく側を向く。磁化24cは、側壁21に垂直であると共に、その側壁21から離れる側を向く。なお、ハードバイアス層25のうち、側壁20,21から遠い部分、すなわち絶縁層3(部分3a)の上に位置する部分の磁化24aは、ランダムに配向する。この場合には、磁化24b,24cにより、フリー層9に長手バイアスが印加される。ただし、磁化24aは、フリー層9の安定化には寄与しない。
【0056】
保護層26は、例えば、TaおよびRuのうちの少なくとも1種、好ましくはTaを含んでおり、その厚さは、例えば、4nm〜8nmである。
【0057】
非磁性分離層11は、再生センサ素子100と上部シールド2との間に形成されており、より具体的には、センサ積層体30(上面10a)、絶縁層3(部分3b)、ハードバイアス層25(上面25s)および保護層26と上部シールド2との間に介在している。この非磁性分離層11は、特に、ハードバイアス層25と上部シールド2との間における磁気的相互作用を防止する役割を果たす。このため、非磁性分離層11は、例えば、センサ積層体30(保護層10)と上部シールド2とを電気的に接続させることが可能なRuなどの非磁性導電材料を含んでおり、その厚さは、例えば、1.5nm〜10nmである。なお、非磁性分離層11は、センサ積層体30およびハードバイアス層25などの上において、必ずしも水平に延在している必要はない。例えば、非磁性分離層11のうち、センサ積層体30の上に形成された部分は、ハードバイアス層25の上に形成された部分よりも下部シールド1から遠い側に位置していてもよい。この場合には、後者の部分と下部シールド1との間の距離が前者の部分と下部シールド1との間の距離よりも大きくなる。
【0058】
上部シールド2は、非磁性分離層11の上に形成されており、上部リードとしての役割を果たす。この上部シールド2は、例えば、下部シールド1と同様の材料を含んでいる。
【0059】
[磁気再生ヘッドの製造方法]
次に、上記した磁気再生ヘッドの製造方法について説明する。なお、本発明のハードバイアス構造の形成方法は磁気再生ヘッドの製造方法に適用されるものであるため、そのハードバイアス構造の形成方法については以下で併せて説明する。ただし、以下では、磁気再生ヘッドに関する一連の構成要素の材質および寸法などについて既に詳細に説明したので、それらの説明を随時省略する。
【0060】
最初に、電気鍍金法などを用いて、下部シールド1を形成する。続いて、スパッタ堆積法などを用いて、基体である下部シールド1の上面1aを被覆するように、センサ積層体30を構成するフリー層9などの一連の層を順に堆積させることにより、下部層6から保護層10までが積層された積層構造体を形成する。
【0061】
続いて、積層構造体の上にフォトレジスト層(図示せず)を形成したのち、フォトリソグラフィ法を用いてフォトレジスト層をパターニングすることにより、フォトレジストマスク(図示せず)を形成する。
【0062】
続いて、既存のエッチング法を用いて、フォトレジストマスクをエッチング用のマスクとして積層構造体をパターニングすることにより、上面10aおよび側壁20,20を有するセンサ積層体30を形成する。この場合には、1回に限らず、2回以上のパターニング工程を行ってもよい。
【0063】
続いて、下部シールド1の上面1aおよびセンサ積層体20,21に沿うように絶縁層3を形成したのち、その絶縁層3の上にハードバイアス構造50を形成する。この場合には、例えば、上記したフォトレジストマスクをリフトオフ用のマスクとして用いることにより、センサ積層体30により互いに分離されるように絶縁層3およびハードバイアス構造50を形成してもよい。このフォトレジストマスクは、ハードバイアス構造50を形成したのちに除去される。
【0064】
ハードバイアス構造50を形成する場合には、絶縁層3の上に、Ta/M1を含む多層構造を有する複合シード層22と、(R1/R2)x を含む多層構造を有するハードバイアス層25と、保護層26とをこの順に形成して積層させる。
【0065】
絶縁層3およびハードバイアス構造50の各層を形成する場合には、例えば、単ポンプ工程(single pump down step)ののち、スパッタ堆積法などを用いる。この場合には、例えば、薄膜スパッタリングシステム(Anelva製C-7100)を用いてもよい。このシステムは、例えば、物理蒸着(PVD:physical vapor deposition)チャンバ、酸化チャンバおよびスパッタエッチングチャンバなどを備えている。スパッタ堆積工程では、例えば、スパッタガスとしてアルゴンガスなどの不活性ガスを用いた超高真空条件が採用されると共に、堆積させる材料(例えば金属または合金など)により形成されたターゲットが用いられる。
【0066】
なお、ハードバイアス層25などの厚い層を形成する場合には、スパッタ堆積工程を2回以上行ってもよい。この場合には、最初の堆積工程においてスパッタ角度(または蒸着角度)を相対的に小さくすると共に、それ以降の堆積工程においてスパッタ角度を相対的に大きくすることが好ましい。これにより、上面1aおよび側壁20,21に沿うようにハードバイアス層25などを厚く形成できる。なお、重ね合わせ(overspray)を最小にするために、イオンビーム堆積(IBD:ion beam deposition)における形削り盤(shaper)を用いてもよい。
【0067】
上記したスパッタ堆積法を用いることにより、いくつかの利点が得られる。第1に、低RFパワーおよび高圧力の条件下において堆積プロセスが行われるため、既に形成済みであるセンサ積層体30などにダメージが及ぶことを防止できる。第2に、ハードバイアス層25において、PMAが損なわれないようにR1層およびR2層が堆積されると共に、R1/R2界面が安定に維持される。より具体的には、R1層およびR2層の堆積時に、R1/R2界面においてイオンエネルギー衝突が抑制されるため、その界面がイオン衝撃に起因してダメージを受けにくくなる。このようにR1/R2界面が維持されることにより、複合シード層22が薄くても、ハードバイアス層25において大きなPMAが得られる。
【0068】
一例を挙げると、ハードバイアス層25として(Co/Ni)x を形成する場合には、例えば、DCマグネトロンスパッタ堆積チャンバを用いると共に、RFパワー=200W未満、ガス流量=15×6×10-53 /h(=15sccm)とする。この場合には、Co層またはNi層の堆積に要する時間が約1分未満になると共に、(Co/Ni)20を形成するために要する時間が約1時間未満になる。
【0069】
なお、絶縁層3の形成方法としては、スパッタ堆積法に代えて、上記したシステムとは別個の堆積ツールによるPVD法または化学蒸着法などを用いてもよい。
【0070】
必要に応じて、イオンビームエッチング法などを用いて、ハードバイアス層25および保護層26などの一部を除去してもよい。詳細には、図2に示したように、センサ積層体30およびハードバイアス構造50を形成する場合において、絶縁層3(部分3a)の上に形成されているハードバイアス構造50(容易軸40aを有する部分)の厚さは、センサ積層体30の側壁20に沿って形成されているハードバイアス構造50(容易軸40bを有する部分)の厚さよりも大きくなる。よって、そのような厚さの違いを生じさせるために、必要に応じてハードバイアス層25および保護層26などの一部を除去してもよい。
【0071】
続いて、必要に応じて、CMP法などを用いて、ハードバイアス構造50(上面25sなど)がセンサ積層体30(上面10a)と同一面内になるように、センサ積層体30およびハードバイアス構造50を研磨してもよい。
【0072】
続いて、ハードバイアス構造50をアニールする。このアニール条件は、例えば、温度=200℃〜280℃、時間=0.5時間〜10時間である。ただし、アニール時に磁界印加は不要である。ハードバイアス層25のPMAは、上記したように、複合シード層22の結晶構造と、ハードバイアス層25におけるR1/R2界面のスピン軌道相互作用とに由来して得られるからである。
【0073】
続いて、センサ積層体30およびハードバイアス構造50の上に非磁性分離層11を形成する。この場合には、例えば、スパッタ堆積法を用いると共に、センサ積層体30、絶縁層3およびハードバイアス構造50(複合シード層22、ハードバイアス層25および保護層26)のそれぞれに非磁性分離層11を隣接させる。
【0074】
最後に、下部シールド1と同様の形成方法により、非磁性分離層11の上に上部シールド2を形成する。これにより、図2および図3に示したように、隣接接合型の再生センサ素子100を備えた磁気再生ヘッドが完成する。
【0075】
[磁気再生ヘッドおよびその製造方法の作用および効果]
本実施形態の磁気再生ヘッドおよびその製造方法では、隣接接合型の再生センサ素子100において、センサ積層体30の側壁20,21にハードバイアス構造50が隣接されている。このハードバイアス構造50は、複合シード層22の上に、PMAを有するハードバイアス層25が形成された多層構造を有している。複合シード層22は、Ta層の上に金属層(M1)が形成された多層構造を有しており、その金属層(M1)は、fcc(111)結晶構造またはhcp(001)結晶構造を有している。ハードバイアス層25は、(R1/R2)x で表される多層構造(R1=CoまたはCoFe、R2層=Ni、NiFeまたはNiCo、x=整数、各R2層の厚さt2>各R1層の厚さt1)を有している。
【0076】
この場合には、複合シード層22によりハードバイアス層25の結晶性が向上するため、そのハードバイアス層25において大きなPMAが得られると共に長手バイアスの強度が増加する。このため、複合シード層22は薄くて済む。また、長手バイアスの強度は、同等の厚さを有するCoPt層またはそれを含む合金よりも大きくなり、ハードバイアス層25の積層数xに応じて容易に調整可能である。しかも、ハードバイアス層25の形成工程では、Co/Ni界面などのR1/M2界面が安定に維持されるため、PMAも安定に維持される。
【0077】
よって、隣接接合型の再生センサ素子30に悪影響を与える可能性があるアニールを必要とせずに、薄いシード層(複合シード層22)によりハードバイアス層25に大きなPMAを付与することができる。これにより、15000×103 /(4π)A/mを超える異方性磁界Hkと、1に近い角型比と、同等の厚さを有するCoPt層よりも大きなMrT値を得ることができる。さらに、ハードバイアス層25の結晶性を向上させるために、そのハードバイアス層25においてfcc(111)結晶構造を得ることができる。
【実施例】
【0078】
次に、本発明の実施例について詳細に説明する。
【0079】
以下の実験により、ハードバイアス構造に適用されるシード層の厚さを薄くすることに関して、(Co/Ni)x で表される多層構造を有するハードバイアス層の有効性を調べた。
【0080】
(実験例1)
単層のシード層(Cu)、ハードバイアス層として[Co(t1=0.2nm厚)/Ni(t2=0.4nm厚)]20、保護層としてRu(1nm厚)/Ta(4nm厚)/Ru(3nm厚)を用いてハードバイアス構造を形成したのち、振動試料磁力計(VSM:vibrating sample magnometer )を用いてMH曲線(図4)を測定してPMAを調べた。この場合には、シード層の厚さを100nm(図4(A))、50nm(図4(B))、20nm(図4(C))または10nm(図4(D))とした。図4(A)〜図4(D)において、上段のヒステリシス曲線は膜面と平行な方向における磁界成分、下段のヒステリシス曲線は膜面に垂直な方向における磁界成分(PMA)をそれぞれ示している。
【0081】
図4に示したように、下段のヒステリシス曲線において距離S1〜S4が生じていることは、ハードバイアス層においてPMAが得られていることを表しており、その距離S1 〜S4 の大きさは、PMAの大きさに比例している。単層のシード層(Cu)を用いた場合には、十分なPMAが得られず、そのPMAは、シード層の厚さが小さくなると著しく減少してしまった。ただし、シード層の厚さが極薄(=10nm)になっても、PMAはかろうじて得られている。
【0082】
なお、トルク測定(torque measurement)から、シード層=Cu(10nm厚)およびハードバイアス層=(Co/Ni)20である場合の異方性磁界Hkは、15000×103 /(4π)A/mよりも大きくなると推定された。
【0083】
(実験例2)
複合シード層の有効性を確認するために、Ta/M1/M2(M1≠M2)で表される複合シード層としてTa(3nm厚)/Ru(2nm厚)/Cuを用いたことを除き、実験例1と同様の多層構造を有するハードバイアス層を形成すると共に、MH曲線(図5)を測定してPMAを調べた。この場合には、複合シード層におけるCu層の厚さを200nm(図5(A))、20nm(図5(B))、10nm(図5(C))または5nm(図5(D))とした。
【0084】
図5に示したように、複合シード層を用いた場合には、単層のシード層を用いた場合(図4)よりもPMAが改善された。このようにPMAが改善されたことは、Cu層の厚さが同じ(=10nm)である場合において、距離S5 図5(C))が距離S4 図4(D))よりも大幅に大きくなっていることから、明らかである。この結果は、Cu層が薄い場合には、複合シード層(Ta/Ru/Cu)を用いると、単層のシード層(Cu)を用いる場合よりもハードバイアス層においてPMAが大きくなることを表している。しかも、複合シード層を用いた場合には、単層のシード層を用いた場合よりも、ヒステリシス曲線の中央部における傾斜が急になった(より垂直に近くなった)ため、垂直磁気特性も改善された。特に、複合シード層を用いた場合には、Cu層の厚さが極薄である場合(=5nm:図5(D))でさえ、単層のシード層(Cu)を用いると共にその厚さを大きくした場合(=100nm:図4(A))よりもPMAが大きくなった。
【0085】
なお、トルク測定から、シード層=Ta(3nm厚)/Ru(2nm厚)/Cu(5nm厚)およびハードバイアス層=(Co/Ni)20である場合の異方性磁界Hkは、15000×103 /(4π)A/mよりも大きくなると推定された。
【0086】
(実験例3)
実験例2で用いた複合シード層に関して、Cu層の厚さをさらに薄くした場合の効果を確認するために、複合シード層としてTa(3nm厚)/Ru(5nm厚)/Cu、ハードバイアス層として[Co(t1=0.2nm厚)/Ni(t2=0.5nm厚)]20を用いると共に、複合シード層におけるCu層の厚さを変更したことを除き、実験例2と同様の多層構造を有するハードバイアス層を形成すると共に、MH曲線(図6)を測定してPMAを調べた。この場合には、複合シード層におけるCu層の厚さを5nm(図6(A))、3nm(図6(B))または0nm(図6(C))とした。
【0087】
図6に示したように、複合シード層を用いた場合には、Cu層の厚さを薄くし、さらにCu層を除去しても、大きなPMAが得られた。
【0088】
(実験例4)
絶縁層(酸化アルミニウム)の上に、複合シード層としてTa(1nm厚)/Ru(2nm厚)/Cu(1nm厚)、ハードバイアス層として[Co(t1=0.2nm厚)/Ni(t2=0.4nm厚)]30、保護層としてTa(6nm厚)を用いてハードバイアス構造を形成すると共に、MH曲線(図7)を測定してPMAを調べた。
【0089】
図7に示したように、ハードバイアス層の積層数xを増加させた場合(x=30)においても、[Co(t1=0.2nm厚)/Ni(t2=0.4nm厚)]20と同等のPMAが得られた。この場合には、優れたバイアス効果により、異方性磁界Hk>15000×103 /(4π)A/m、MrT>2memu/cm2 、角型比≒1であった。このため、上記した複合シード層およびハードバイアス層をCPP−GMR型またはTMR型の再生センサ素子に適用すると、良好なバイアス効果が得られるため、フリー層の磁化状態が安定化される。もちろん、ハードバイアス層の積層数xは、ここでは30としたが、それに限られずに任意に増減されてもよい。
【0090】
(実験例5)
複合シード層としてTa(3nm厚)/Ru(5nm厚)/Cu(10nm厚)、ハードバイアス層として[Co(t1=0.2nm厚)/Ni(t2=0.5nm厚)]20、保護層としてRu(1nm厚)/Ta(4nm厚)/Ru(3nm厚)を用いてハードバイアス構造を形成したのち、そのハードバイアス構造をアニールすると共に、MH曲線(図8)を測定してPMAを調べた。図8において、左側はアニール前、右側はアニール後のMH曲線である。アニール条件は、温度=220℃および時間=2時間とし、アニール時には磁界を印加しなかった。
【0091】
図8に示したように、複合シード層を用いた場合には、アニールせず、またはアニール時に磁界を印加しなくても、大きなPMAが得られた。この場合には、特に、アニールすると、PMAがより大きくなった。アニールにより得られた結晶磁気異方性定数Kuおよび異方性磁界Hkは、それぞれ5.64×106 ×103 /(4π)A/m(=5.64×106 Oe)および17161×103 /(4π)A/m(=17161Oe)であった。
【0092】
(実験例6)
絶縁層(酸化アルミニウム)の上に、複合シード層としてTa(1nm厚)/Ru(2nm厚)/Cu(1nm厚)、ハードバイアス層として[Co(t1=0.2nm厚)/Ni(t2=0.4nm厚)]30、保護層としてTa(6nm厚)を用いてハードバイアス構造を形成すると共に、MH曲線(図9)を測定してPMAを調べた。この場合には、複合シード層をより薄くした。ハードバイアス層では、図2を参照して説明したように、複合シード層の膜面に垂直な方向に容易軸が配向する。
【0093】
図9に示したように、やはり大きなPMAが得られると共に、優れたバイアス効果により異方性磁界Hk>15000×103 /(4π)A/m、MrT>2memu/cm2 、角型比≒1であった。この場合には、20nm厚のCoPt層と同等のMrT値を得るためには、(Co/Ni)30の厚さは18nmで済む。なお、長手バイアスの強度を増加させるためには、ハードバイアス層の積層数xを大きくしたり、Co層の厚さt1およびNi層の厚さt2を大きくすればよい。
【0094】
以上、実施形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は実施形態で説明した態様に限定されず、種々の変形が可能である。例えば、磁気ヘッドにおける一連の構成要素の材質、寸法および形成方法などは、適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0095】
1…下部シールド、2…上部シールド、3…絶縁層、11…非磁性分離層、22…複合シード層、25…ハードバイアス層、26…保護層、30…センサ積層体、50…ハードバイアス構造、100…再生センサ素子。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9