特許第5820171号(P5820171)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5820171
(24)【登録日】2015年10月9日
(45)【発行日】2015年11月24日
(54)【発明の名称】包接化合物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 69/712 20060101AFI20151104BHJP
   C07C 67/343 20060101ALI20151104BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20151104BHJP
【FI】
   C07C69/712 ZCSP
   C07C67/343
   !C07B61/00 300
【請求項の数】3
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2011-155309(P2011-155309)
(22)【出願日】2011年7月14日
(65)【公開番号】特開2013-18761(P2013-18761A)
(43)【公開日】2013年1月31日
【審査請求日】2014年5月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004178
【氏名又は名称】JSR株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】592218300
【氏名又は名称】学校法人神奈川大学
(74)【代理人】
【識別番号】100078754
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 正彦
(72)【発明者】
【氏名】西久保 忠臣
(72)【発明者】
【氏名】工藤 宏人
【審査官】 緒形 友美
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/020035(WO,A1)
【文献】 特開2003−321423(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/016984(WO,A1)
【文献】 国際公開第2006/129574(WO,A1)
【文献】 特開2008−280269(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0190107(US,A1)
【文献】 特開2010−254640(JP,A)
【文献】 特開2013−1694(JP,A)
【文献】 特開2013−18927(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 69/712
C07C 67/343
C07B 61/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるカリックスレゾルシンアレーン環状オリゴマー誘導体よりなるホスト分子を有することを特徴とする包接化合物。
【化1】
〔一般式(1)において、R1 は、下記式(a)で表される基を示し、kは2または3であり、pは2〜15の整数である。〕
【化2】
〔式(a)において、R2 炭素数1〜4のアルキル基を示す。〕
【請求項2】
下記一般式(2)で表されるカリックスレゾルシンアレーン環状オリゴマーと、下記一般式(3)で表される化合物とを反応させることにより、請求項1に記載の一般式(1)で表されるカリックスレゾルシンアレーン環状オリゴマー誘導体を得る工程を有することを特徴とする包接化合物の製造方法。
【化3】
〔一般式(2)において、kは2または3であり、pは2〜15の整数である。〕
【化4】
〔一般式(3)において、R2 炭素数1〜4のアルキル基を示し、R3 はハロゲン原子を示す。〕
【請求項3】
レゾルシノールおよび炭素数が4〜17のアルキレン鎖を有するアルカンジアールを縮合反応させることにより、前記一般式(2)で表される化合物を得る工程を有することを特徴とする請求項2に記載の包接化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、包接化合物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、特徴的な構造および特性を有する大環状化合物の研究が注目されている。例えばクラウンエーテルやシクロデキストリンは、分子認識機能を有するため、ホスト−ゲスト化学の分野において多くの研究がなされている(非特許文献1および非特許文献2参照。)。このような大環状化合物においては、その特定の物質を包接する包接機能を利用することにより、混合物から特定の物質のみを分離するための材料や、不安定な分子を包接することによって当該分子を保護する分子カプセルの材料などとして、医薬医療分野における活用が期待されている。
然るに、包接機能を有する大環状化合物の合成においては、多段階の反応工程が必要となることから、得られる大環状化合物の収率が低い、という問題がある。
【0003】
このような事情から、最近においては、動的共有結合化学(Dynamic Covalent Chemistry)を利用した大環状化合物の合成が注目されている。動的共有結合化学は、共有結合でありながら、可逆的な結合の解離−再結合が可能な系であり、この系においては、化学反応によって初期に生じた化合物において、結合の解離−再結合(エラーチェック)が繰り返し行われることにより、最終的に安定な構造を有する化合物が生成される。
そして、このような動的共有化学を利用して合成される大環状化合物としては、カリックスアレーン、カリックスレゾルシンアレーン、或いはそれらの環状オリゴマーなどのアレーン系化合物が知られている(非特許文献3乃至非特許文献5参照。)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】早川隆士、築部浩著「分子認識と超高分子」三共出版(2007年)
【非特許文献2】C.J.Pedersen,Am,Chem.Soc.98,2495(1967)
【非特許文献3】C.D.Gutsche,and M.Iqbal,Org.Synth.,68,243(1990)
【非特許文献4】G.Cometti,E.Delcanale,A.D.Vosal and A.M.Levelut,J.Chem.Soc.,Chem.Commun.,163(1990)
【非特許文献5】H.Kudo,R.Hayashi,K.Mitani,T.Yokozawa,N.C.Kasuga,T.Nishikubo.Angew,Chem,Int,Ed.,45,7948(2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであって、その目的は、新規な包接化合物およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の包接化合物は、下記一般式(1)で表されるカリックスレゾルシンアレーン環状オリゴマー誘導体よりなるホスト分子を有することを特徴とする。
【0007】
【化1】
【0008】
〔一般式(1)において、R1 は、下記式(a)で表される基を示し、kは2または3であり、pは2〜15の整数である。〕
【0009】
【化2】
【0010】
〔式(a)において、R2 炭素数1〜4のアルキル基を示す。〕
【0011】
本発明の包接化合物の製造方法は、下記一般式(2)で表される化合物と、下記一般式(3)で表される化合物とを反応させることにより、前記一般式(1)で表されるカリックスレゾルシンアレーン環状オリゴマー誘導体を得る工程を有することを特徴とする。
【0012】
【化3】
【0013】
〔一般式(2)において、kは2または3であり、pは2〜15の整数である。〕
【0014】
【化4】
【0015】
〔一般式(3)において、R2 炭素数1〜4のアルキル基を示し、R3 はハロゲン原子を示す。〕
【0016】
本発明の包接化合物の製造方法においては、レゾルシノールおよび炭素数が4〜17のアルキレン鎖を有するアルカンジアールを縮合反応させることにより、前記一般式(2)で表される化合物を得る工程を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、新規な包接化合物およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】調製例1で得られた生成物のIRスペクトル図である。
図2】調製例1で得られた生成物の 1H−NMRスペクトル図である。
図3】合成例1で得られた生成物のIRスペクトル図である。
図4】合成例1で得られた生成物の 1H−NMRスペクトル図である。
図5】合成例2で得られた生成物のIRスペクトル図である。
図6】合成例2で得られた生成物の 1H−NMRスペクトル図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
本発明の包接化合物は、上記一般式(1)で表されるカリックスレゾルシンアレーン環状オリゴマー誘導体(以下、「特定の環状オリゴマー誘導体」ともいう。)よりなるホスト分子を有するものである。上記一般式(1)において、R1 は、上記式(a)で表される基であり、kは2または3であり、pは2〜15の整数、好ましくは2〜8の整数である。
上記式(a)において、R2 はアルキル基を示し、アルキル基としては、炭素数が1〜4のものが好ましい。
【0020】
特定の環状オリゴマー誘導体は、上記一般式(2)で表される化合物(以下、「カリックスレゾルシンアレーン環状オリゴマー」という。)と、上記一般式(3)で表される化合物(以下、「ハロゲノ酢酸エステル」という。)とを、触媒の存在下に、適宜の溶媒中で反応させることによって得られる。
【0021】
特定の環状化合物の合成工程において、ハロゲノ酢酸エステルとしては、ブロモ酢酸エチル、ブロモ酢酸メチル、ブロモ酢酸ブチル、クロロ酢酸エチル、クロロ酢酸メチル、クロロ酢酸ブチルなどを用いることができる。
触媒としては、テトラブロモアンモニウムブロマイド等の第四級アンモニウム塩、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸セシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどを用いることができる。
また、溶媒としては、N−メチルピロリジン、ジメチルスルフォキシド、ジメチルフォルムアミド、ジメチルアセトアミドなどを用いることができる。
また、反応温度は、例えば60℃であり、反応時間は例えば48時間である。
【0022】
また、カリックスレゾルシンアレーン環状オリゴマーは、レゾルシノールおよび炭素数が4〜17、好ましくは4〜10のアルキレン鎖を有するアルカンジアール(以下、「特定のアルカンジアール」という。)とを、酸触媒の存在下に、適宜の溶媒中において付加縮合反応させることによって得られる。
【0023】
カリックスレゾルシンアレーン環状オリゴマーの合成工程において、特定のアルカンジアールの具体例としては、1,6−ヘキサンジアール、1,7−ヘプタンジアール、1,8−オクタンジアール、1,9−ノナンジアール、1,10−デカンジアール、1,11−ウンデカンジアール、1,12−ドデカンジアールが挙げられる。
レゾルシノールと特定のアルカンジアールとの割合は、モル比で1:1〜4:1であることが好ましい。特定のアルカンジアールの割合が過大である場合には、特定のアルカンジアール同士の反応が生じ、反応系がゲル化する、という問題がある。
酸触媒としては、塩酸、硫酸、トリフルオロ酢酸、トリフルオロメタスルホン酸、ヨウ化水素などを用いることができる。酸触媒の使用量は、その種類によって適宜選択されるが、例えば酸触媒としてトリフルオロメタスルホン酸を用いる場合には、レゾルシノール6.7mmol(官能基当量13.4mmol)および特定のアルカンジアール1.7mmol(官能基当量3.4mmol)の反応系において、酸触媒の使用量は10〜18mmolであり、酸触媒の使用量が多いほどポリマーの生成を抑制することができる。
溶媒としては、例えばエタノール、エチレングリコールなどのアルコール類を用いることができる。
反応温度は、例えば70〜90℃であり、反応時間は例えば48時間である。
カリックスレゾルシンアレーン環状オリゴマーの合成プロセスを下記反応式(i)に示す。
【0024】
【化5】
【0025】
〔上記反応式(i)において、nは4〜17の整数である。〕
【0026】
以上の付加縮合反応において、特定のアルカンジアールとして、アルキレン鎖の炭素数が偶数のもの、具体的には、1,6−ヘキサンジアール、1,8−オクタンジアール、1,10−デカンジアール、1,12−ドデカンジアールを用いると、上記一般式(2)におけるkが2であるカリックスレゾルシンアレーン環状オリゴマーが生成されやすく、一方、アルキレン鎖の炭素数が奇数のもの、具体的には、1,7−ヘプタンジアール、1,9−ノナンジアール、1,11−ウンデカンジアールを用いると、上記一般式(2)におけるkが3であるカリックスレゾルシンアレーン環状オリゴマーが生成されやすい。
【0027】
本発明の包接化合物は、特定の環状オリゴマー誘導体よりなるホスト分子と、ゲスト分子とからなるものである。
ゲスト分子としては、ホスト分子を構成する特定の環状オリゴマー誘導体に包接され得るものであれば、特に限定されず、その具体例としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属などの金属類、ヘキサン、ペンタン、ノナン等の炭化水素類、クロロフォルム、四塩化炭素などのハロゲン化合物類などの有機溶媒類、ポリエチレンオキサイド、ポリテトラヒドロフランなどのポリマーなどが挙げられ、これらの物質がゲスト分子として、特定の環状オリゴマー誘導体よりなるホスト分子によって包接される。
【0028】
本発明の包接化合物は、特定の環状オリゴマー誘導体と、ゲスト分子を構成する物質またはゲスト分子を供給する物質とを適宜の溶媒中において混合することによって得られる。ゲスト分子を供給する物質として水溶性のものを用いる場合には、有機溶媒中に特定の環状オリゴマー誘導体が溶解されてなる溶液と、ゲスト分子を供給する物質の水溶液とを攪拌混合すればよい。
【0029】
本発明の包接化合物は、混合物から特定の物質のみを分離するための材料や、不安定分子を包接することによって保護する分子カプセルの材料などとして、医薬医療分野において有用である。
【実施例】
【0030】
以下、本発明の具体的な実施例について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0031】
[カリックスレゾルシンアレーン環状オリゴマーの調製]
〈調製例1〉
10mLナスフラスコ内において、エチレングリコール3mLにレゾルシノール0.74g(6.7mmol,官能基当量13.4mmol)を溶解させた。得られた溶液に、氷冷下にて1,6−ヘキサンジアール0.19g(1.7mmol,官能基当量3.4mmol)を滴下し、更に触媒としてトリフルオロ酢酸18mmolを滴下し、攪拌下に80℃で48時間加熱することにより反応させた。次いで、得られた反応溶液を水に注ぎ、生成物を沈殿させ、濾別した後、沈殿物をメタノールで洗浄し、室温で24時間減圧乾燥することにより、赤色固体よりなる生成物を得た。生成物の収量は0.1434g、収率は28%であった。
得られた生成物について、IR分析およびNMR分析を行った結果、生成物は、下記式(2−1)で表されるカリックスレゾルシンアレーン環状オリゴマーであることが確認された。また、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)、分子量分布(Mw/Mn)を測定したところ、数平均分子量(Mn)が1882、分子量分布が1.04であった。以下、この生成物を「環状オリゴマー(2−1)」とする。
【0032】
【化6】
【0033】
IR分析およびNMR分析の結果を下記に示し、IRスペクトル図を図1に、 1H−NMRスペクトル図を図2に示す。
IR (KRS,cm-1
3332(νO−H hydoroxyl),2931,2858(νCH methylen),1620,1501,1443(νC=C aromatic)
1H−NMR(600MHz,CDCl3 −d6 ,TMS)
δppm:1.25−2.39(m,32.0H,Ha andHb ),4.18(s,7.9H,Hc ),6.19(s,8.0H,Hc ),7.17(s,8.0H,Hd ),9.08(16.0H,Hf
【0034】
〈調製例2〉
25mLナスフラスコ内において、エチレングリコール3mLにレゾルシノール0.74g(6.67mmol,官能基当量13.4mmol)を溶解させた。得られた溶液に、氷冷下にて1,9−ノナンジアール0.261g(1.7mmol,官能基当量3.4mmol)を滴下し、更に触媒としてトリフルオロ酢酸11.25mmolを滴下し、攪拌下に90℃で48時間加熱することにより反応させた。次いで、得られた反応溶液を水に注ぎ、生成物を沈殿させ、濾別した後、沈殿物をメタノールて洗浄し、室温で24時間減圧乾燥することにより、赤色固体よりなる生成物を得た。収率は46%であった。
得られた生成物について、IR分析およびNMR分析を行った結果、生成物は、下記式(2−2)で表されるカリックスレゾルシンアレーン環状オリゴマーであることが確認された。以下、この生成物を「環状オリゴマー(2−2)」とする。
【0035】
【化7】
【0036】
[特定の環状オリゴマー誘導体の合成]
〈合成例1〉
20mL二つ口ナスフラスコに、環状オリゴマー(2−1)1.2g (1mmol,水酸基当量16mmol)、炭酸カリウム2.2g(16mmol)、テトラブチルアンモニウムブロマイド0.52(1.61mmol,環状オリゴマー(2−1)の水酸基に対して10mol%)を入れ、ナスフラスコ内を窒素で置換した後、N−メチルピロリジン5mLを加えて環状オリゴマー(2−1)を溶解した。得られた溶液に、ブロモ酢酸エチル2.65mL(24mmol,環状オリゴマー(2−1)の水酸基1当量に対して1.5当量)を加え、60℃で48時間反応させた。次いで、反応溶液をクロロホルムによって希釈し、得られた希釈液に対して、水で3回、飽和食塩水で1回分液操作を行った。得られた溶液の有機相を回収して無水硫酸マグネシウムよりなる乾燥剤で乾燥処理し、乾燥剤を濾別した後、濃縮して、メタノールに注ぎ、生成物を沈殿させた。この生成物を24時間減圧乾燥し、白色固体を得た。得られた生成物の収量は0.614g、収率は24%であった。
得られた生成物についてIR分析およびNMR分析を行ったところ、下記式(1−1)で表される特定の環状オリゴマー誘導体であることが確認された。
また、IR分析の結果から、水酸基によるピークが消失していることが確認され、このことから、水酸基に係る水素原子の99%以上が上記式(a)で表される基に置換されていることが確認された。
また、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)、分子量分布(Mw/Mn)を測定したところ、数平均分子量(Mn)が2150、分子量分布が1.01であった。
以下、この特定の環状オリゴマー誘導体を「環状オリゴマー誘導体(1−1)」とする。
【0037】

【化8】
【0038】
また、IR分析およびNMR分析の結果を下記に示し、IRスペクトル図を図3に、 1H−NMRスペクトル図を図4に示す。
IR (KRS,cm-1
2982,2931,2859(νCH methylen),1759,1753(νC=O carbonyl),1611,1587(νC=C aromatic),1207,1181(νC−O−C ester)
1H−NMR(600MHz,CDCl3 −d6 ,TMS)
δppm:0.99−1.29(br,49.7H,Hb ),1.84(bs,15.5H,Ha andHc ),6.00−7.72(m,16.0H,He andHd
【0039】
〈合成例2〉
20mL二つ口ナスフラスコに、環状オリゴマー(2−2)1.84g (0.9mmol,水酸基当量21mmol)、炭酸カリウム3.23g(21mmol)、テトラブチルアンモニウムブロマイド0.64(1.99mmol,環状オリゴマー(2−2)の水酸基に対して10mol%)を入れ、ナスフラスコ内を窒素で置換した後、N−メチルピロリジン4mLを加えて環状オリゴマー(2−2)を溶解した。得られた溶液に、ブロモ酢酸エチル3.7mL(32mmol,環状オリゴマー(2−2)の水酸基1当量に対して1.5当量)を加え、60℃で48時間反応させた。次いで、反応溶液をクロロホルムによって希釈し、得られた希釈液に対して、水で3回、飽和食塩水で1回分液操作を行った。得られた溶液の有機相を回収して無水硫酸マグネシウムよりなる乾燥剤で乾燥処理し、乾燥剤を濾別した後、濃縮して、メタノールに注ぎ、生成物を沈殿させた。この生成物を24時間減圧乾燥し、白色固体を得た。得られた生成物の収量は1.06g、収率は28%であった。
得られた生成物についてIR分析およびNMR分析を行ったところ、下記式(1−2)で表される特定の環状オリゴマー誘導体であることが確認された。
また、IR分析の結果から、水酸基によるピークが消失していることが確認され、このことから、水酸基に係る水素原子の99%以上が上記式(a)で表される基に置換されていることが確認された。
以下、この特定の環状オリゴマー誘導体を「環状オリゴマー誘導体(1−2)」とする。
【0040】

【化9】
【0041】
また、IR分析およびNMR分析の結果を下記に示し、IRスペクトル図を図5に、 1H−NMRスペクトル図を図6に示す。
IR (KRS,cm-1
2981,2925,2853(νC−H),1759,1732(νC=O),1203,1185(νC−O −C)
1H−NMR(600MHz,CDCl3 ,TMS)
δppm:1.12−1.27(m,137H,Hb andHf ),1.78,1.83(bs,28H,Ha ),4.15−4.22(m,70H,Hg ),4.33−4.39(m,22H,Hc ),4.61(s,15H,Hh ),6.15,6.22(s,12H,He ),6.44,6.80(s,12H,Hd
【0042】
[包接機能試験]
〈試験例1〉
合成例1で得られた環状オリゴマー誘導体(1−1)を塩化メチレンに濃度が2.5×10-4mol/dm3 となるよう溶解し、得られた溶液4mLに、濃度が2.5×10-4mol/dm3 のピクリン酸セリウム水溶液4mLを加え、24時間室温で攪拌した後、静沈させ、水溶液(水相)を回収した。そして、回収された水溶液および上記のピクリン酸セリウム水溶液の各々にについて、金属イオン(セリウムイオン)による紫外可視吸光スペクトルを測定することにより、特定の環状オリゴマー誘導体によって包接された金属イオン(セリウムイオン)の割合(以下、「イオン包接率」という。)を求めた。結果を下記表1に示す。
【0043】
〈試験例2〉
ピクリン酸セリウム水溶液の代わりに濃度が2.5×10-4mol/dm3 のピクリン酸ルビジウム水溶液4mLを用いたこと以外は試験例1と同様にしてイオン包接率を求めた。結果を下記表1に示す。
【0044】
〈試験例3〉
環状オリゴマー誘導体(1−1)の代わりに合成例2で得られた環状オリゴマー誘導体(1−2)を用いたこと以外は試験例1と同様にしてイオン包接率を求めた。結果を下記表1に示す。
【0045】
〈試験例4〉
ピクリン酸セリウム水溶液の代わりに濃度が2.5×10-4mol/dm3 のピクリン酸ルビジウム水溶液4mLを用い、環状オリゴマー誘導体(1−1)の代わりに合成例2で得られた環状オリゴマー誘導体(1−2)を用いたこと以外は試験例1と同様にしてイオン包接率を求めた。結果を下記表1に示す。
【0046】
〈試験例5〉
ピクリン酸セリウム水溶液の代わりに濃度が2.5×10-4mol/dm3 のピクリン酸マグネシウム水溶液4mLを用い、環状オリゴマー誘導体(1−1)の代わりに合成例2で得られた環状オリゴマー誘導体(1−2)を用いたこと以外は試験例1と同様にしてイオン包接率を求めた。結果を下記表1に示す。
【0047】
〈試験例6〉
ピクリン酸セリウム水溶液の代わりに濃度が2.5×10-4mol/dm3 のピクリン酸銀水溶液4mLを用い、環状オリゴマー誘導体(1−1)の代わりに合成例2で得られた環状オリゴマー誘導体(1−2)を用いたこと以外は試験例1と同様にしてイオン包接率を求めた。結果を下記表1に示す。
【0048】
〈比較試験例1〉
環状オリゴマー誘導体(1−1)の代わりに下記式(c1)で表されるカリックスレゾルシンアレーン誘導体(以下、「CRA誘導体」という。)を用いたこと以外は試験例1と同様にしてイオン包接率を求めた。結果を下記表1に示す。
【0049】
【化10】
【0050】
〈比較試験例2〉
ピクリン酸セリウム水溶液の代わりに濃度が2.5×10-4mol/dm3 のピクリン酸ルビジウム水溶液4mLを用い、環状オリゴマー誘導体(1−1)の代わりにCRA誘導体を用いたこと以外は試験例1と同様にしてイオン包接率を求めた。結果を下記表1に示す。
【0051】
〈比較試験例3〉
ピクリン酸セリウム水溶液の代わりに濃度が2.5×10-4mol/dm3 のピクリン酸マグネシウム水溶液4mLを用い、環状オリゴマー誘導体(1−1)の代わりにCRA誘導体を用いたこと以外は試験例1と同様にしてイオン包接率を求めた。結果を下記表1に示す。
【0052】
〈比較試験例4〉
ピクリン酸セリウム水溶液の代わりに濃度が2.5×10-4mol/dm3 のピクリン酸銀水溶液4mLを用い、環状オリゴマー誘導体(1−1)の代わりCRA誘導体を用いたこと以外は試験例1と同様にしてイオン包接率を求めた。結果を下記表1に示す。
【0053】

【表1】
【0054】
表1の結果から明らかなように、環状オリゴマー誘導体(1−1)および環状オリゴマー誘導体(1−2)は、種々の金属イオンを包接する包接機能を有するものであることが理解される。
これに対して、CRA誘導体においては、金属イオンを包接する包接機能が認められなかった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6