特許第5820211号(P5820211)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5820211肝機能障害の抑制又は改善に有効な物質のスクリーニング方法及びそれに用いるプライマーセット
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  • 特許5820211-肝機能障害の抑制又は改善に有効な物質のスクリーニング方法及びそれに用いるプライマーセット 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5820211
(24)【登録日】2015年10月9日
(45)【発行日】2015年11月24日
(54)【発明の名称】肝機能障害の抑制又は改善に有効な物質のスクリーニング方法及びそれに用いるプライマーセット
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/68 20060101AFI20151104BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20151104BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20151104BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20151104BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20151104BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20151104BHJP
【FI】
   C12Q1/68 A
   C12Q1/02ZNA
   C12N15/00 A
   G01N33/15 Z
   G01N33/50 Z
   G01N33/50 P
   G01N33/68
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2011-206457(P2011-206457)
(22)【出願日】2011年9月21日
(65)【公開番号】特開2013-66412(P2013-66412A)
(43)【公開日】2013年4月18日
【審査請求日】2014年6月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000214272
【氏名又は名称】長瀬産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(74)【代理人】
【識別番号】100140578
【弁理士】
【氏名又は名称】沖田 英樹
(72)【発明者】
【氏名】位上 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 久富
(72)【発明者】
【氏名】中村 伸
【審査官】 藤井 美穂
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−259385(JP,A)
【文献】 特表2008−518610(JP,A)
【文献】 特開平05−262646(JP,A)
【文献】 特開2010−229041(JP,A)
【文献】 特開2010−267201(JP,A)
【文献】 日本補完代替医療学会学術集会プログラム・抄録集,2011年11月,Vol.14th,p.39, #O-11
【文献】 Toxicology and Applied Pharmacology,2008年,Vol.230,pp.41-56
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00 − 3/00
C12N 15/00 − 15/90
UniProt/GeneSeq
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
CAplus/WPIDS/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アセトアミノフェンの摂取による肝機能障害の抑制又は改善に有効な物質のスクリーニング方法であって、
非ヒト動物又はインビトロにおいて、肝細胞に被検物質を作用させる工程と、
前記肝細胞に、肝細胞に障害を起こす障害物質を作用させる工程と、
前記肝細胞におけるSTAC3遺伝子又は前記STAC3遺伝子がコードするタンパク質の発現量を測定する工程と、
前記発現量が、前記被検物質を作用させずに前記障害物質を作用させた前記肝細胞の前記STAC3遺伝子又は前記タンパク質の発現量と比較して多い場合、前記被検物質は肝機能障害の抑制又は改善に有効な物質であると判定する工程と、
を含み、
前記障害物質が、アセトアミノフェンである、スクリーニング方法。
【請求項2】
前記STAC3遺伝子が、
(A)配列表の配列番号1又は3に記載の塩基配列、
(B)配列表の配列番号1又は3に記載の塩基配列において1又は数個の塩基が置換、欠失、挿入又は付加された塩基配列、
(C)配列表の配列番号1又は3に記載の塩基配列に対して80%以上の配列同一性を有する塩基配列、及び
(D)配列表の配列番号1又は3に記載の塩基配列の相補鎖と、ストリンジェントな条件下にハイブリダイズする塩基配列、
からなる群から選択される塩基配列を有する、請求項1に記載のスクリーニング方法。
【請求項3】
プライマーセットを含む、アセトアミノフェンの摂取による肝機能障害用の評価剤であって、前記プライマーセットが、
(A)配列表の配列番号1又は3に記載の塩基配列、
(B)配列表の配列番号1又は3に記載の塩基配列において1又は数個の塩基が置換、欠失、挿入又は付加された塩基配列、
(C)配列表の配列番号1又は3に記載の塩基配列に対して80%以上の配列同一性を有する塩基配列、及び
(D)配列表の配列番号1又は3に記載の塩基配列の相補鎖と、ストリンジェントな条件下にハイブリダイズする塩基配列、
からなる群から選択される塩基配列中の連続した部分を有するポリヌクレオチドを含み、STAC3遺伝子の一部又は全部を増幅可能である、評価剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肝機能障害の抑制又は改善に有効な物質のスクリーニング方法及びそれに用いるプライマーセットに関する。
【背景技術】
【0002】
肝臓は代謝反応の中心的な臓器であり、脂質、糖質、アミノ酸等を代謝している。健康管理の観点から肝機能の障害(肝機能障害)の評価は、重要視されており、主に血液を用いた生化学的試験によって行われている。上記生化学的試験は、肝臓の炎症に伴って、肝細胞から血中に流出したグルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ(GOT)(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、ASTという場合もある)及びグルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ(GPT)(アラニンアミノトランスフェラーゼ、ALTという場合もある)等の酵素を検出し、肝機能障害の程度を評価する方法である。また、γ−グルタミルトランスペプチダーゼ(γ−GTP)もアルコール性肝障害等の肝機能障害及び習慣的な飲酒の程度を評価するための指標として広く利用されている(非特許文献1)。γ−GTPは肝細胞が炎症等によって破壊されることで血中から検出される。
【0003】
さらに、研究開発の場においては、AST、ALT、γ−GTP等の酵素の量を指標として、肝機能障害を抑制する薬剤及び肝機能障害を予防するための食材のスクリーニングが行われている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−262646号公報
【特許文献2】国際公開第2009/028457号
【特許文献3】国際公開第2004/058966号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】きょうの健康、日本放送出版協会、2004年、第201巻、12月号、p.66−69
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)において、血中のAST及びALTの量が少なくても肝炎を起こしている症例が報告されており(特許文献2)、血中のAST及びALTの量と肝機能障害の程度とは、必ずしも相関しない。また、血中のγ−GTPの量に関しても、肝機能障害の程度とは必ずしも相関せず、個体差も大きいことが知られている(特許文献3)。
【0007】
このような事情から、血液を用いた生化学的試験のみでは、肝機能障害を正しく評価できない場合がある。したがって、肝機能障害の抑制又は改善に有効な物質のスクリーニングを行うにあたっては、血液を用いた生化学的試験に代えて、又はこれと併用することのできる、他の肝機能障害の評価方法が求められていた。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、より高い確度で肝機能障害の抑制又は改善に有効な物質をスクリーニングすることを可能にする方法及びそれに用いるプライマーセットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意研究を行った結果、肝機能障害の程度と相関して、肝細胞中のSTAC3(SH3 and cysteine rich domain 3)遺伝子の発現量が変動することを見出し、本願発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明は、肝機能障害の抑制又は改善に有効な物質のスクリーニング方法であって、非ヒト動物又はインビトロにおいて、肝細胞に被検物質を作用させる工程と、上記肝細胞に、肝細胞に障害を起こす障害物質又はウイルスを作用させる工程と、上記肝細胞におけるSTAC3遺伝子又は上記STAC3遺伝子がコードするタンパク質の発現量を測定する工程と、上記発現量が、上記被検物質を作用させずに上記障害物質又は上記ウイルスを作用させた上記肝細胞の上記STAC3遺伝子又は上記タンパク質の発現量と比較して多い場合、上記被検物質は肝機能障害の抑制又は改善に有効な物質であると判定する工程と、を含む、スクリーニング方法を提供する。
【0011】
本発明に係るスクリーニング方法によれば、STAC3遺伝子の発現量によって肝機能障害を評価するので、より高い確度で肝機能障害の抑制又は改善に有効な物質をスクリーニングすることが可能になる。
【0012】
上記STAC3遺伝子は、(A)配列表の配列番号1又は3に記載の塩基配列、(B)配列表の配列番号1又は3に記載の塩基配列において1又は数個の塩基が置換、欠失、挿入又は付加された塩基配列、(C)配列表の配列番号1又は3に記載の塩基配列に対して80%以上の配列同一性を有する塩基配列、及び(D)配列表の配列番号1又は3に記載の塩基配列の相補鎖と、ストリンジェントな条件下にハイブリダイズする塩基配列、からなる群から選択される塩基配列を有することが好ましい。
【0013】
また本発明は、(A)配列表の配列番号1又は3に記載の塩基配列、(B)配列表の配列番号1又は3に記載の塩基配列において1又は数個の塩基が置換、欠失、挿入又は付加された塩基配列、(C)配列表の配列番号1又は3に記載の塩基配列に対して80%以上の配列同一性を有する塩基配列、及び(D)配列表の配列番号1又は3に記載の塩基配列の相補鎖と、ストリンジェントな条件下にハイブリダイズする塩基配列、からなる群から選択される塩基配列中の連続した部分を有するポリヌクレオチドを含み、STAC3遺伝子の一部又は全部を増幅可能である、肝機能障害を評価するために用いられるプライマーセットを提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、より高い確度で肝機能障害の抑制又は改善に有効な物質をスクリーニングすることを可能にする方法及びそれに用いるプライマーセットが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】肝細胞中のSTAC3遺伝子の発現量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0017】
本実施形態に係る肝機能障害の抑制又は改善に有効な物質のスクリーニング方法は、非ヒト動物又はインビトロにおいて、肝細胞に被検物質を作用させる工程と、上記肝細胞に、肝細胞に障害を起こす障害物質又はウイルスを作用させる工程と、上記肝細胞におけるSTAC3(SH3 and cysteine rich domain 3)遺伝子又は上記STAC3遺伝子がコードするタンパク質の発現量を測定する工程と、上記発現量が、上記被検物質を作用させずに上記障害物質又は上記ウイルスを作用させた上記肝細胞の上記STAC3遺伝子又は上記タンパク質の発現量と比較して多い場合、上記被検物質は肝機能障害の抑制又は改善に有効な物質であると判定する工程と、を含む。
【0018】
本実施形態において、「肝機能障害」とは、アセトアミノフェン等の薬剤の摂取、アルコールの過剰摂取、肝炎ウイルスの感染等によって、肝細胞に炎症等が誘発され、肝細胞の破壊等を招くことにより、肝臓の機能が低下する状態をいう。
【0019】
非ヒト動物又はインビトロにおいて、肝細胞に被検物質を作用させる工程は、非ヒト動物に被検物質を投与する又は培養した肝細胞にインビトロにおいて被検物質を接触させることによって行われる。
【0020】
被検物質は、動物試験又は培養細胞試験に用いることができ、肝機能障害を起こさない物質であれば特に限定されない。例えば、食品又は植物からの抽出物及び単一の化合物が挙げられる。上記被検物質は、市販により入手可能なものであってもよく、栽培又は化学合成によって得られたものであってもよい。植物からの抽出物の例として、発酵したオタネ人参(Panax ginseng)の抽出物(発酵オタネ人参抽出物)が挙げられる。
【0021】
上記発酵オタネ人参抽出物は、以下の方法によって得ることができる。まず、発酵オタネ人参を所望のサイズに裁断又は粉砕する。次いで粉状の発酵オタネ人参を適切な溶媒に浸漬させることで、発酵オタネ人参抽出物が得られる。抽出に使用する溶媒は、通常の植物からの抽出に使用される溶媒であれば特に限定されない。具体例としては、水、低級アルコール類又は水と低級アルコール類との混合溶媒が挙げられる。
【0022】
以下、非ヒト動物に被検物質を投与する場合について説明する。
【0023】
非ヒト動物(以下、単に動物という場合がある)は、ヒトを含まない動物を意味し、例えば、サル、マウス、ラット、犬及び牛等の哺乳類、アフリカツメガエル等の両生類、並びに、ゼブラフィッシュ等の魚類が挙げられる。上記動物は、市販されている動物であることが好ましく、取り扱い及び経済性の観点から、マウス及びラットがより好ましい。動物の系統及び性別は限定されない。入荷後検疫を行い、馴化期間を一週間以上設け、一般状態と体重成績で順調な発育が認められた健康な動物を試験に用いることが好ましい。上記動物の飼育は、当業者に公知の方法で行われる。
【0024】
動物に被検物質を投与する方法は、被検物質を強制的に経口投与する方法(強制経口投与)、飼料に混餌して自由摂取する方法、静脈に注射する方法等が挙げられる。このようにすることで、被検物質が上記動物の肝臓を構成する肝細胞に作用する。ラットを用いる場合、被検物質を0.3%CMC−Na溶液(カルボキシメチルセルロースナトリウム溶液)に溶解させ、ディスポーザルシリンジ又は経口ゾンデを用いて強制経口投与することができる。被検物質を1日1回、一週間以上連続して強制経口投与することが好ましい。
【0025】
次に、培養した肝細胞(以下、培養肝細胞という場合がある)にインビトロにおいて被検物質を接触させる場合について説明する。
【0026】
培養肝細胞は、例えば、上記動物の肝臓から分離した初代培養細胞及び市販されている又は公的機関に寄託された肝細胞株が挙げられる。
【0027】
初代培養細胞は、当業者に公知の方法で樹立することができる。例えばラットの場合、コラゲナーゼ還流法を用いて肝細胞を分離することができる。具体的には、深麻酔期のラットを開腹し、門脈及び下大静脈を切断して緩衝液を還流する。次に、上記緩衝液の代わりにコラゲナーゼ溶液を還流させ、メスを用いて肝臓を細分化する。その後、細分化した肝臓組織から遠心操作によって肝細胞を分離し、適当な培地にて肝細胞を培養する。
【0028】
市販されている又は公的機関に寄託された肝細胞株としては、例えば、ラット初代培養肝細胞(Normal Rat Hepatocyte、LONZA社製)及びヒト肝癌細胞株(HepG2、ATCC社製)が挙げられる。
【0029】
培養肝細胞に被検物質を接触させる方法としては、被検物質を培地に添加する方法が挙げられる。その際、被検物質は培地に完全に溶解することが好ましい。具体的には、被検物質を水、又はジメチルスルホキシド等の有機溶媒に溶解させ、適当な濃度となるように培地に添加し、12時間から48時間、培養肝細胞を培養する。
【0030】
上記被検物質の濃度は、培養肝細胞の生存率及び増殖率を低下させない濃度であることが好ましい。培養肝細胞の生存率及び増殖率は、公知の方法により測定することができる。具体的には、まずテトラゾリウム塩を培地に添加し、30分から3時間、37℃、5%二酸化炭素の条件下で、培養肝細胞を培養する。その後、培地の吸光度(波長450nm)を測定することによって培養肝細胞の生存率及び増殖率を測定することができる。上記吸光度が大きい程、培養肝細胞の生存率及び増殖率が高いと判定できる。
【0031】
被検物質を作用させた肝細胞に対して、肝細胞に障害を起こし得る障害物質又はウイルス(肝炎ウイルス等)を作用させる工程について説明する。本実施形態において、肝細胞に障害を起こすとは、肝細胞の破壊等によって肝細胞の機能が低下することを意味する。具体的には、以下の方法によって行われる。障害物質は、例えば、アルコール、四塩化炭素、及びアセトアミノフェンから選ばれる。
【0032】
上記肝細胞に被検物質を作用させる工程が、非ヒト動物に被検物質を投与することによって行われる場合、肝細胞に障害を起こす方法としては、例えば、当該非ヒト動物に障害物質を摂取又は投与する方法、及び、当該非ヒト動物を肝炎ウイルス等に感染させる方法が挙げられる。特に、当該非ヒト動物に障害物質を投与する方法が好ましい。具体的には、例えば、過剰量のアセトアミノフェンを腹腔内投与し、24時間、ラットを飼育する。アセトアミノフェンが、ラットの体内で高濃度であることによって、ラットの肝細胞に顕著な障害を起こすことができる。
【0033】
上記アセトアミノフェンは、市販されているものを用いることができる。アセトアミノフェンの腹腔内投与の量は、投与日における上記動物の体重に基づいて個体別に算出し、500mg/kgとなるようディスポーザブルシリンジ及び注射針を用いて投与することが好ましい。
【0034】
上記肝細胞に被検物質を作用させる工程が、培養肝細胞にインビトロにおいて被検物質を接触させることによって行われる場合、肝細胞に障害を起こす方法としては、アセトアミノフェン、アルコール、四塩化炭素等を培地中に添加する方法が挙げられる。また、当業者に公知の方法によって、培養肝細胞に肝炎ウイルス等を感染させてもよい。
【0035】
本実施形態に係る肝細胞におけるSTAC3遺伝子又は上記STAC3遺伝子がコードするタンパク質の発現量を測定する工程について説明する。
【0036】
本実施形態に係るSTAC3遺伝子は、配列番号1に記載の塩基配列を有するラット由来のSTAC3遺伝子及び配列番号3に記載の塩基配列を有するヒト由来のSTAC3遺伝子、並びに、それらの遺伝子多型を含むが、これに限られず、公知となっているサル、マウス、犬、牛、アフリカツメガエル、ゼブラフィッシュ等で発現しているホモログ及びそれらの遺伝子多型も含まれる。上記ホモログ及びそれらの遺伝子多型はそれぞれの種において、肝機能障害を評価する指標となりうる。
【0037】
上記STAC3遺伝子は、
(A)配列表の配列番号1又は3に記載の塩基配列、
(B)配列表の配列番号1又は3に記載の塩基配列において1又は数個の塩基が置換、欠失、挿入又は付加された塩基配列、
(C)配列表の配列番号1又は3に記載の塩基配列に対して80%以上の配列同一性を有する塩基配列、及び
(D)配列表の配列番号1又は3に記載の塩基配列の相補鎖と、ストリンジェントな条件下にハイブリダイズする塩基配列、からなる群から選択される塩基配列を有することが好ましい。
【0038】
上記(B)の塩基配列について、配列表の配列番号1又は3に記載の塩基の置換、欠失、挿入又は付加された塩基(変異された塩基)の数は、少なくとも1個、好ましくは、1個〜10個である。変異された塩基配列は、天然に存在する塩基配列、すなわち、自然発生による変異を有する塩基配列であってもよく、人為的に所望の部位に変異を行った塩基配列であってもよい。人為的に所望の部位に変異を行う場合、天然に存在する配列表の配列番号1又は3に記載の塩基配列の変異体に準じて人為的に変異を行ってもよい。人為的な変異は、例えば、PCR法を用いた部位特異的変異導入法等によって行われる。
【0039】
上記(C)において、配列同一性は、参照配列(例えば、配列表の配列番号1又は3に記載の塩基配列)に対して、クエリー配列(評価対象の塩基配列)を、適切にアラインメントし、算出された値である。具体的には、配列同一性は、CLUSTALアルゴリズム等で算出することができる。
【0040】
本実施形態においては、配列同一性は、高いほど好ましく、具体的には、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上又は98%以上である。
【0041】
上記(D)の「ストリンジェントな条件」とは、6×SSC(1×SSCの組成:0.15MのNaCl、0.015Mのクエン酸ナトリウム、pH7.0)と0.5%SDSと5×デンハルトと100μg/mLの変性サケ精子DNAと50%(v/v)ホルムアミドとを含む溶液中、室温にて12時間インキュベートし、更に0.5×SSCで50℃以上の温度で洗浄する条件をいう。さらに、よりストリンジェントな条件、例えば、45℃又は60℃にて12時間インキュベートすること、0.2×SSC又は0.1×SSCで洗浄すること、洗浄に際し60℃又は65℃以上の温度条件で洗浄すること等のより厳しい条件も含む。
【0042】
上記STAC3遺伝子の発現量を測定する方法としては、例えば、DNAマイクロアレイ法、RT−PCR法、蛍光in situハイブリダイゼーション法(FISH法)及びノーザンブロッティング法が挙げられる。DNAマイクロアレイ法、FISH法及びノーザンブロッティング法に用いられるプローブ、並びに、RT−PCR法等で用いられるプライマーセットは、上記STAC3遺伝子に基づいて、当業者に公知の方法で設計することができる。
【0043】
本実施形態において、プライマーセットは、
(A)配列表の配列番号1又は3に記載の塩基配列、
(B)配列表の配列番号1又は3に記載の塩基配列において1又は数個の塩基が置換、欠失、挿入又は付加された塩基配列、
(C)配列表の配列番号1又は3に記載の塩基配列に対して80%以上の配列同一性を有する塩基配列、及び
(D)配列表の配列番号1又は3に記載の塩基配列の相補鎖と、ストリンジェントな条件下にハイブリダイズする塩基配列、
からなる群から選択される塩基配列中の連続した部分を有するポリヌクレオチドを含み、STAC3遺伝子の一部又は全部を増幅可能である。このようなプライマーセットを用いることによって、RT−PCR法等でSTAC3遺伝子の発現量を測定することができる。
【0044】
上記プライマーセットの長さは、STAC3遺伝子が増幅可能であれば特に制限されないが、10〜35塩基が好ましく、15〜25塩基がより好ましい。
【0045】
本実施形態において、配列番号5及び配列番号6に記載の塩基配列を有するプライマーセットが特に好ましい。
【0046】
本実施形態において、上記STAC3遺伝子がコードするタンパク質(STAC3タンパク質)の発現量を測定してもよい。STAC3タンパク質としては、例えば、配列番号2又は4に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質、並びに、それらの変異体を含むが、これらに限られず、公知となっているサル、マウス、犬、牛、アフリカツメガエル、ゼブラフィッシュ等で発現しているホモログ及びそれらの変異体も含まれる。上記ホモログ及びそれらの変異体はそれぞれの種において、肝機能障害を評価する指標となりうる。
【0047】
上記STAC3タンパク質は、
(A)配列表の配列番号1又は3に記載の塩基配列、
(B)配列表の配列番号1又は3に記載の塩基配列において1又は数個の塩基が置換、欠失、挿入又は付加された塩基配列、
(C)配列表の配列番号1又は3に記載の塩基配列に対して80%以上の配列同一性を有する塩基配列、及び
(D)配列表の配列番号1又は3に記載の塩基配列の相補鎖と、ストリンジェントな条件下にハイブリダイズする塩基配列、からなる群から選択される塩基配列によってコードされることが好ましい。
【0048】
上記STAC3タンパク質の発現量を測定する方法は、例えば、ウェスタンブロット法、ELISA法及び免疫染色法が挙げられる。
【0049】
上記STAC3タンパク質の発現量は、STAC3タンパク質を特異的に認識する抗体を用いて測定できる。STAC3タンパク質を特異的に認識する抗体は、例えば、サンタクルズ社(SANTACRUZ社)のSTAC3(S−12)(商品名)又はシグマアルドリッチ社(SIGMA−ALDRICH社)のMONOCLONAL ANTI−STAC3 ANTIBODY PRODUSED IN MOUSE(商品名)が挙げられる。または、配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質等のSTAC3タンパク質を精製して抗原として用いることで、公知の方法によってポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体を作製することができる。抗原として、STAC3タンパク質に特異的なアミノ酸配列を有する合成ペプチドを用いることもできる。
【0050】
上述の免疫学的な定量方法には、抗体の特徴等を考慮して任意の方法を採用することができる。好ましくは、肝細胞の細胞懸濁液を試料として、ELISA法又はウェスタンブロッティング法をおこない、STAC3タンパク質の発現量を上記STAC3タンパク質に特異的な抗体によって検出する。また、肝細胞を直接試料として用いる場合、固定した細胞標本に対し、免疫染色を施すことによって、STAC3タンパク質の発現量を肝細胞内で観察することが可能である。
【0051】
上述の方法によって測定されたSTAC3遺伝子又はSTAC3タンパク質の発現量が、被検物質を作用させずに障害物質又はウイルスを作用させた肝細胞の上記STAC3遺伝子又は上記タンパク質の発現量と比較して多い場合、上記被検物質は肝機能障害の抑制又は改善に有効な物質であると判定できる。
【実施例】
【0052】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に特に限定されるものではない。
【0053】
[実施例1]
アセトアミノフェンを投与したラット(Wister、オス:日本SLC社より購入)、媒体(0.3%CMC−Na溶液)を投与したラットをそれぞれ、アセトアミノフェン投与群、媒体投与群とし、DNAマイクロアレイ法を用いてアセトアミノフェンによって発現量が変動する肝細胞中の遺伝子の探索を行った。操作は次のとおりである。
【0054】
ラットにアセトアミノフェンを500mg/kgの用量で腹腔内投与し、24時間後にエーテル麻酔を行った。その後、放血致死させて、肝臓を摘出した。媒体投与群のラットにおいては、アセトアミノフェンの代わりに媒体を用いたこと以外は、上記と同様の手順によって、ラットから肝臓を摘出した。それぞれのラットの肝臓30mgからIsogen(Invitrogen社製、商品名)を用いてRNAを抽出した。抽出液中に不純物として含まれるDNAは、DNAseを用いて分解した。RNeasey Micro Kit MinElute Spin Colum(QIAGEN社製、商品名)を用いて、抽出液からトータルRNAを精製し、RNAの濃度及び純度を260nm及び280nmにおける吸光度から算定した。
【0055】
Ambion Amino Allyl MessageAmp II aRNA Amplification Kit(APPLIED BIOSYSTEMS社製、商品名)を用い、100ngのトータルRNAからT7oligo(dt)プライマーを用い、mRNAに相補的な塩基配列を有する第一鎖cDNAを合成した。さらに、第一鎖cDNAを鋳型として、RNAseH、及びDNAポリメラーゼを用いて第一鎖cDNAに相補的な塩基配列を有する第二鎖DNAを合成した。得られた二本鎖cDNAを鋳型とし、RNAseH及びT7RNAポリメラーゼを用いてインビトロ転写を行うことにより、アミノアリルUTPを取り込んだアミノアリルアンチセンスRNAを合成した。
【0056】
それぞれのアミノアリルアンチセンスRNA10mgをGE Healthcare CyDye Post−Labeling Reactive Dye Pack(GE Healthcare社製、商品名)を用いて、アミノアリルアンチセンスRNAに蛍光色素であるCy3及びCy5を結合させて標識化した。
【0057】
CombiMatrix Custom rat 40Kチップ(Combi Matrix社製、商品名)を用いて、蛍光色素を標識したアミノアリルアンチセンスRNAをDNAマイクロアレイにハイブリダイゼーションした。GenePix4000B(Axon CNS社製、商品名)を用い、ハイブリダイゼーションに伴う蛍光色素の画像イメージを取得した。GenePix4000Bに付属のソフトウェアを用いて蛍光色素の蛍光強度を数値化し、それぞれの検出値のメディアン値を算出した。得られた蛍光強度のメディアン値を表計算ソフトにインポートし、ラットに存在しない遺伝子配列に対応する蛍光強度のメディアン値の平均をバックグラウンド値として算出した。ラットに存在する各遺伝子における発現量を示す蛍光強度のメディアン値から、上記バックグランド値を差し引き、蛍光強度のメディアン値を標準化した。標準化した数値を用いて、媒体投与群を基準として、アセトアミノフェン投与群の発現量の変化率(Ratio値)を算出した。
【0058】
表計算ソフトを用い、Ratio値を基に、発現量の亢進(Ratio値が2以上)、発現抑制(Ratio値が1/2以下)の変動が見られた遺伝子を抽出し、アセトアミノフェン投与群と媒体投与群との肝臓における遺伝子の発現量の変化について解析を行った。Ratio値で各群個体差が見られたため、少なくとも2個体でRatio値が1/2以下の変動が見られた遺伝子を抽出した。顕著に発現が抑制されていた遺伝子として、STAC3遺伝子を見出した。アセトアミノフェンの投与によって発現量が抑制された遺伝子を上位から5つ、表1に示す。
【0059】
【表1】
【0060】
[実施例2]
肝機能障害の改善に効果があるとして知られている発酵したオタネ人参(発酵オタネ人参)を摂取したラットに対し、アセトアミノフェンを投与し、発酵オタネ人参の肝機能障害に対する改善効果を観察した。操作は次のとおりである。発酵オタネ人参を7日間続けて1日1回、50mg/kgの用量で経口投与したラット10匹、及び発酵オタネ人参を経口投与せずに媒体(0.3%CMC−Na溶液)を投与したラット20匹を準備した。媒体を投与したラット10匹及び発酵オタネ人参を投与したラット10匹に、アセトアミノフェンを500mg/kgの用量で腹腔内投与した。アセトアミノフェンの投与から24時間後に、それぞれのラットの血液を採取した。採取した血液を遠心分離し、得られた血清についてAST及びALTの量を自動分析装置(日立ハイテクノロジーズ社製、商品名、日立自動分析装置7170)により測定した。媒体投与群(1群)、媒体及びアセトアミノフェン投与群(2群)、発酵オタネ人参及びアセトアミノフェン投与群(3群)におけるAST及びALTの測定値及び標準誤差を表2に示す。
【0061】
【表2】
【0062】
表2に示すように、1群と比較して2群では血清中のAST及びALTの値の顕著な増加が認められたことから、アセトアミノフェンの投与により肝機能障害が惹起されていることが認められた。しかしながら、3群では2群に比べて血清中のAST及びALTの値が減少していることから、発酵オタネ人参に肝機能障害の改善に効果があることが認められた。
【0063】
[実施例3]
発酵オタネ人参を経口投与したラットに対しアセトアミノフェンを投与した場合のSTAC3遺伝子の発現量を、媒体のみ経口投与したラットに対しアセトアミノフェンを投与した場合と比較した。操作は次のとおりである。媒体のみを経口投与したラット又は発酵オタネ人参を7日間続けて1日1回、50mg/kgの用量で経口投与したラットに、アセトアミノフェンを500mg/kgの用量で腹腔内投与した。アセトアミノフェン投与後、24時間後にラットにエーテル麻酔を行った。その後、放血致死させて肝臓を摘出した。一方、媒体のみを経口投与し、アセトアミノフェンを投与しなかったラットの肝臓を媒体投与群として用意した。それぞれのラットの肝臓からIsogenを用いてRNAを抽出した。抽出液中に不純物として含まれるDNAは、DNAseを用いて分解した。mRNAからOligo(dT)プライマーと逆転写酵素により、mRNAに相補的な塩基配列を有する第一鎖cDNAを合成した。得られた第一鎖cDNAをq−PCRに供してSTAC3遺伝子の発現量を求めた。このとき、配列表の配列番号5及び6に記載の塩基配列を有するプライマーセットを用いた。媒体投与群(1群)、媒体及びアセトアミノフェン投与群(2群)、並びに、発酵オタネ人参及びアセトアミノフェン投与群(3群)において、STAC3遺伝子の発現量を比較した結果を図1に示す。
【0064】
図1に示すように、1群と比較して2群ではアセトアミノフェンの投与によってSTAC3遺伝子の発現量が抑制された。しかしながら、発酵オタネ人参を投与した3群では、STAC3遺伝子の発現量が2群と比較して回復した。したがって、STAC3遺伝子が肝機能障害の抑制又は改善に有効な物質をスクリーニングするための指標として機能することが実証された。
【0065】
以上に具体的に示したように、本発明に係る肝機能障害の抑制又は改善に有効な物質のスクリーニング方法は、肝細胞内のSTAC3遺伝子の発現量を測定することによってスクリーニングが可能である。この方法は、培養肝細胞を用いる場合は、従来のAST及びALT等のタンパク質を検出する血液を用いた生化学的試験に比べて簡便である。さらに、動物を用いる場合は血液を用いた生化学的試験の後に、肝細胞を用いて試験することができる。血液を用いた生化学的試験と並行して、肝細胞内のSTAC3遺伝子又はSTAC3タンパク質の発現量を測定することによって、発酵オタネ人参を例とした肝機能障害の抑制又は改善に有効な物質のスクリーニングがより高い確度で行える。
図1
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]