特許第5821653号(P5821653)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5821653
(24)【登録日】2015年10月16日
(45)【発行日】2015年11月24日
(54)【発明の名称】車両制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 40/109 20120101AFI20151104BHJP
   B62D 6/00 20060101ALI20151104BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20151104BHJP
   B60T 8/172 20060101ALI20151104BHJP
   B60T 17/22 20060101ALI20151104BHJP
   B62D 101/00 20060101ALN20151104BHJP
   B62D 111/00 20060101ALN20151104BHJP
   B62D 113/00 20060101ALN20151104BHJP
   B62D 119/00 20060101ALN20151104BHJP
【FI】
   B60W40/109
   B62D6/00
   B62D5/04
   B60T8/172 Z
   B60T17/22 Z
   B62D101:00
   B62D111:00
   B62D113:00
   B62D119:00
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-10122(P2012-10122)
(22)【出願日】2012年1月20日
(65)【公開番号】特開2013-147182(P2013-147182A)
(43)【公開日】2013年8月1日
【審査請求日】2014年2月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100109047
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 雄祐
(74)【代理人】
【識別番号】100109081
【弁理士】
【氏名又は名称】三木 友由
(72)【発明者】
【氏名】狩野 岳史
(72)【発明者】
【氏名】山田 芳久
【審査官】 ▲高▼木 真顕
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−177729(JP,A)
【文献】 特開2007−008218(JP,A)
【文献】 特開平07−186662(JP,A)
【文献】 特開2001−027584(JP,A)
【文献】 特開2006−015794(JP,A)
【文献】 特開2008−031940(JP,A)
【文献】 特開2007−223583(JP,A)
【文献】 特開平07−290998(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 30/00 − 50/16
B60T 7/12 − 8/1769
B60T 8/32 − 8/96
F02D 29/00 − 29/06
B62D 6/00
B62D 5/00 − 5/32
B60G 1/00 − 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の横加速度を検出する横加速度センサと、
ステアリングホイールの操舵トルクを検出する操舵トルクセンサと、
前記横加速度センサが正常であるとき、前記横加速度センサおよび操舵トルクセンサでそれぞれ検出された横加速度と操舵トルクを対応させて記録するデータ記録部と、
前記データ記録部に記録されたデータから、横加速度と操舵トルクとの比例係数を算出する比例係数算出部と、
ステアリングホイールが切り込み時かまたは切り戻し時であるかに応じたマップに前記比例係数を記憶するマップ保持部と、
前記横加速度センサが故障と判定されたときに、前記マップ保持部内の切り込み時または切り戻し時のいずれかのマップを参照して比例係数を取得し、操舵トルクを比例係数で除して横加速度を算出する横加速度算出部と、
横加速度を利用した車両挙動制御を行う制御部と、
車速を検出する車速センサと、
を備え、
前記比例係数算出部は、車速毎に前記比例係数を算出することを特徴とする車両制御装置。
【請求項2】
予め定められた期間にわたり車速が所定の変動幅内に収まるか否かを判定する変動幅判定部をさらに備え、
前記データ記録部は、車速が所定の変動幅内に収まっているときに横加速度と操舵トルクを対応させて記録することを特徴とする請求項に記載の車両制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、横加速度を利用する車両挙動制御技術に関する。
【背景技術】
【0002】
VSC(Vehicle stability control)などの車両挙動制御技術では、車体に発生する横加速度を検出し、この横加速度を利用してブレーキ制御などが行われる。他の検出値を横加速度の代用とすることも知られている。例えば、特許文献1には、EPS(Electric Power Steering)アシスト電流値と横加速度との間に比例関係に近い相関関係が認められることに基づき、EPSアシスト電流値と横加速度との対応関係を示すマップを記憶しておき、横加速度センサの検出精度が低くなる所定の状態では、車両の横加速度の代わりにEPSアシスト電流値を利用して安定化制御を行うことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−273102号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、ステアリングホイールを切り込むときと切り戻すときではヒステリシス差が存在するので、切り込み時と切り戻し時とでEPSアシスト電流値と横加速度との対応関係は異なる。特許文献1に記載の技術では一つのマップを用いてこの対応関係を表しているので、切り込み時または切り戻し時のいずれかで横加速度の推定精度が低下してしまうという問題がある。
【0005】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、操舵トルクのヒステリシスを考慮することで、横加速度を精度良く推定する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様の車両制御装置は、車両の横加速度を検出する横加速度センサと、ステアリングホイールの操舵トルクを検出する操舵トルクセンサと、前記横加速度センサが正常であるとき、前記横加速度センサおよび操舵トルクセンサでそれぞれ検出された横加速度と操舵トルクを対応させて記録するデータ記録部と、前記データ記録部に記録されたデータから、横加速度と操舵トルクとの比例係数を算出する比例係数算出部と、ステアリングホイールが切り込み時かまたは切り戻し時であるかに応じたマップに前記比例係数を記憶するマップ保持部と、前記横加速度センサが故障と判定されたときに、前記マップ保持部内の切り込み時または切り戻し時のいずれかのマップを参照して比例係数を取得し、操舵トルクを比例係数で除して横加速度を算出する横加速度算出部と、横加速度を利用した車両挙動制御を行う制御部と、を備える。
【0007】
この態様によると、横加速度センサが故障するなどして横加速度を直接測定できない場合でも、操舵トルクから横加速度を間接的に算出することができる。したがって、横加速度を用いた車両制御を継続して実行することができる。また、ステアリングホイールの切り込み時と切り戻し時とで別々のマップを参照して横加速度を算出するので、ヒステリシスが存在しても横加速度を高精度で推定することができる。
【0008】
車速を検出する車速センサをさらに備え、前記比例係数算出部は、車速毎に前記比例係数を算出してもよい。操舵トルクと横加速度の対応関係は車速により変化するため、車速毎に比例係数を算出することで横加速度の推定精度が高まる。
【0009】
予め定められた期間にわたり車速が所定の変動幅内に収まるか否かを判定する変動幅判定部をさらに備え、前記データ記録部は、車速が所定の変動幅内に収まっているときに横加速度と操舵トルクを対応させて記録してもよい。これによると、車速毎に比例係数を算出するために、操舵トルクと横加速度を記録するときの車速変動幅を一定範囲に抑えることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、横加速度センサが故障するなどして横加速度を直接測定できない場合でも、操舵トルクから横加速度を精度良く推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係る車両制御装置を備えた車両の概略構成を示す図である。
図2図1のステアリングECUのうち、横加速度の推定に関与する部分の構成を示す機能ブロック図である。
図3】実施例1に対応するフローチャートである。
図4】一周期分の操舵データに対して比例係数を求める方法を説明する図である。
図5】マップ保持部に記録されるマップの一例を示す図である。
図6】実施例2に対応するフローチャートである。
図7】一周期分の操舵データに対して、実施例2にしたがって比例係数を求める方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、本発明の一実施形態に係る車両制御装置を備えた車両10の概略構成を示し、四輪の車両のうち前輪部分の模式図である。転舵輪である右前輪FRおよび左前輪FLを操舵することによって車両の進行方向が変更される。
【0013】
車両10は電動パワーステアリング装置(以下「EPS」と呼ぶ)を備える。EPSは、ドライバーにより操舵されるステアリングホイール12と、ステアリングホイールに連結されたステアリングシャフト14と、ステアリングシャフトの下端に設けられた減速機構44と、出力軸が減速機構44に接続された操舵アシスト用モータ24とを備える。操舵アシスト用モータ24は、ステアリングシャフト14を回転駆動することで、ステアリング操作を補助するためのアシスト力を付与する。
【0014】
ステアリングシャフト14には、ステアリングシャフトに生じているトルクを検出する操舵トルクセンサ16と、ステアリングホイール12の操舵角を検出する操舵角センサ18とが設置される。これらセンサの出力は、ステアリング電子制御ユニット(以下「ECU」と呼ぶ)100に送信される。
【0015】
ステアリングシャフト14は、自在継手30、32を介して、インターミディエイトシャフト17、ピニオンシャフト19に連結される。ピニオンシャフト19は、車両の左右方向(車幅方向)に延設され軸長方向に摺動するラックバー22を含むラックアンドピニオン機構20と連結されている。ラックアンドピニオン機構20は、ピニオンシャフト19の一端に形成されたピニオン歯とラック軸とを噛合させることにより構成される。
【0016】
ドライバーがステアリングホイール12を操作すると、ステアリングシャフト14の回転がシャフト17、19を通してラックアンドピニオン機構20に伝達され、ラックアンドピニオン機構20によってラックバー22の左右方向への直線運動に変換される。ラックバー22の両端には、それぞれタイロッド(図示せず)の一端が接続される。タイロッドの他端は、右前輪FR、左前輪FLを支持するナックルアーム(図示せず)に連結されている。ラックバー22が直線運動をすると、右前輪FRおよび左前輪FLが転舵される。
【0017】
車輪の近傍には、車輪の回転数を検出して車速を出力する車速センサ36が取り付けられる。車体の右方向の加速度を検出する横加速度センサ42も車体に設けられる。これらのセンサによる検出値はステアリングECU100に送信される。
【0018】
ステアリングECU100は、各センサから検出値を受け取る。そして、これらの値に基づき操舵トルクのアシスト値を算出し、これに応じた制御信号を操舵アシスト用モータ24に出力する。モータによりシャフトに与えられたトルクは、アシストトルクセンサ46によって検出される。なお、このようなEPSを含む操舵機構自体は周知であるため、本明細書ではこれ以上の詳細な説明を省略する。
【0019】
ステアリングECU100は、横加速度センサ42の故障などにより横加速度を直接測定できない場合に、操舵トルクを利用して横加速度を算出する。算出された横加速度は、車両制御ECU150に送られて、VSC(VeihicleStabilityControl)における制御作動許可判定や制御量演算などに利用される。
【0020】
上述のように、VSCなどの車両制御においては横加速度の値が必須であるため、従来の車両では、横加速度センサの無効時には制御を停止していた。しかしながら、この制御の停止は車両の運動性能の一時的な低下を招くおそれがある。
【0021】
そこで、本実施形態では、低μ路や不整地路などを走行中の場合を除き、ステアリング系から路面に伝達される実操舵トルクと横加速度とが比例関係にあることに着目し、横加速度センサの無効時でも、実操舵トルクの値から横加速度を算出するようにした。
【0022】
図2は、本実施形態に係るステアリングECU100のうち、横加速度の推定に関与する部分の構成を示す機能ブロック図である。ここに示す各ブロックは、ハードウェア的には、コンピュータのCPUやメモリをはじめとする素子や電気回路で実現でき、ソフトウェア的にはコンピュータプログラム等によって実現されるが、ここでは、それらの連携によって実現される機能ブロックとして描いている。したがって、これらの機能ブロックはハードウェア、ソフトウェアの組み合わせによっていろいろなかたちで実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0023】
車速幅判定部102は、車速センサ36の検出値を所定期間取得して、車速の変動幅が予め定められた車速に対して所定の範囲内(例えば、50km/hに対して±5km/h)であるか否かを判定する。実操舵トルクと横加速度との関係は車速に応じて変化するので、速度変化の少ない状態で実操舵トルクと横加速度のデータを取得するために、この判定が行われる。
【0024】
車速幅判定部102によって車速の変動幅が一定範囲内であると判定された場合、データ記録部104は、実操舵トルクと横加速度の一周期分の操舵データを取得する。ここで、「実操舵トルク」とは、操舵トルクセンサ16の検出値MTとアシストトルクセンサ46の検出値ATの合計値のことを言う。また、「一周期分の操舵データ」とは、ステアリングホイール12を中立位置から左右いずれかの方向に回転させ、その後元の中立位置までホイールを戻す間に各センサで検出された、横加速度と操舵トルクのデータのことを言う。例えば、車両が巡航中に直線路で車線変更を行う場合などに、一周期分の操舵データを取得することができる。
【0025】
比例係数算出部105は、データ記録部104で取得されたデータに基づき、実操舵トルクと横加速度との比例係数すなわち傾きαを算出する。この比例係数αは車速によって変化するので、比例係数算出部105は、所定の速度域(例えば10km/h刻み)毎に比例係数αを算出することが好ましい。比例係数αは車両の走行中に随時更新されていくため、横加速度の推定精度を高めることができる。算出された比例係数αは、速度域毎にマップ保持部106内に格納される。
【0026】
センサ故障判定部108は、横加速度センサ42が正常に機能しているか否かを判定する。横加速度センサ自体に診断機能が組み込まれている場合は、その診断結果を参照してもよいし、ブレーキ制御システムにおける既知の故障検出技術や断線検出技術などに基づいて故障判定を行ってもよい。
【0027】
横加速度算出部110は、センサ故障判定部108によって横加速度センサ42が故障と判定された場合、そのときの車速に応じた比例係数αをマップ保持部106から取得し、実操舵トルクをこの比例係数αで除した値を横加速度として算出する。算出された横加速度は、車両制御ECU150に送られてVSCなどの車両挙動制御に利用される。
【0028】
以下、フローチャートを参照して、ステアリングECU100の作用を説明する。
【0029】
図3は、実施例1に対応するフローチャートである。このフローは、車両の走行中に予め定められた頻度で繰り返し実行される。実施例1では、ステアリングホイールの切り込み時と切り戻し時の間に存在するヒステリシスの影響を無視して横加速度と操舵トルクとの関係を取得することで、比例係数の演算負荷を軽減する。
【0030】
まず、車速幅判定部102は、車速センサ36の検出値を所定期間取得して、車速の変動幅が予め定められた車速に対して所定の範囲内であるか否かを判定する(S10)。この判定は、後続のS14で車速に応じた比例係数αを算出するために行われるものであり、したがって所定の範囲の大きさは、車速に応じた比例係数αをどの程度の間隔でマップに記録するかによって変更することが好ましい。例えば、10km/h毎に比例係数αを記録する場合は所定の範囲を±5km/hにし、20km/h毎に比例係数αを記録する場合は所定の範囲を±10km/hにしてもよい。車速変動幅が所定の範囲に収まらない場合(S10のN)、比例係数αの算出に適していないので、S16に進む。
【0031】
車速変動幅が所定の範囲内に収まる場合(S10のY)、データ記録部104は、操舵角が所定値以上である、実操舵トルクと横加速度の一周期分の操舵データを取得する(S12)。一周期分の操舵データの一例が、横加速度を横軸、実操舵トルクを縦軸にしたグラフとして図4に示されている。一般に、横加速度と操舵トルクとの関係は、摩擦等に起因するヒステリシス成分が存在するために、グラフ上で左下から右上方向に延びた長円環状になる。
【0032】
比例係数算出部105は、グラフ上の各データを最も良く近似する直線(図4に実線で示す)の傾きを比例係数αとして算出する(S12)。一例として、横加速度と実操舵トルクが共に最大値になる点と、共に最小値となる点とを結んだ直線を求め、この直線の傾きを算出してもよいし、最小二乗誤差法を用いて直線を求めてもよい。
【0033】
マップ保持部106は、算出された比例係数αをそのときの車速とともにマップに記憶する(S14)。既にその車速に対する比例係数αが記憶されている場合は、その値を更新する。記憶する車速は、S10における予め定められた車速に対応しており、例えば10km/h、20km/h、30km/h・・・のように10km/h刻みであってもよい。
【0034】
続いて、センサ故障判定部108は、横加速度センサ42が正常に機能しているか否かを判定する(S16)。横加速度センサ42が正常である場合(S16のY)、横加速度センサの検出値そのものを使用して、車両制御ECU150が各種の挙動制御を実行する(S18)。横加速度センサ42が正常でない場合(S16のN)、横加速度算出部110は車速に応じた比例係数αをマップから取得し(S20)、実操舵トルクを比例係数αで除した値を横加速度として算出する(S22)。
【0035】
図5は、マップ保持部106に記録されるマップの一例である。図示するように、この例では、車速30km/h、60km/h、100km/hについてそれぞれ一つの比例係数αが記憶されている。
【0036】
図6は、実施例2に対応するフローチャートである。このフローは、車両の走行中に予め定められた頻度で繰り返し実行される。
【0037】
実施例1では、ステアリングホイールの切り込み時と切り戻し時の間に存在するヒステリシスの影響を無視して横加速度と操舵トルクとの関係を取得したが、実施例2では、ヒステリシスの影響を考慮して、一周期分の操舵データを四分割して各部分別の横加速度と操舵トルクの関係を取得するようにした。
【0038】
まず、データ記録部104は、実操舵トルクが正であるか否かを判定する(S30)。実操舵トルクが正である場合(S30のY)、データ記録部104は、操舵角センサ18の検出値に基づき、ステアリングホイールが切り込み中であるか、すなわち操舵角が大きくなる方向に回転中であるか否かを判定する(S32)。切り込み中である場合(S32のY)、データ記録部104はマップ1を選択する(S34)。切り込み中でなく切り戻し中である場合(S32のN)、データ記録部104はマップ2を選択する(S36)。実操舵トルクが負である場合(S30のN)、データ記録部104はステアリングホイールが切り込み中であるか否かを判定する(S38)。切り込み中である場合(S38のY)、データ記録部104はマップ3を選択する(S40)。切り込み中でなく切り戻し中である場合(S38のN)、データ記録部104はマップ4を選択する(S36)。S30〜S42は、実操舵トルクと横加速度との関係が、後述するグラフ中のいずれの部分に対応するかを特定するために行われる。
【0039】
いずれかのマップが選択されると、実施例1の場合と同様に、車速幅判定部102は、車速センサの検出値を所定期間取得して、車速の変動幅が予め定められた車速に対して所定の範囲内であるか否かを判定する(S44)。車速変動幅が所定の範囲に収まらない場合(S44のN)、比例係数αの算出に適していないので、S50に進む。
【0040】
車速変動幅が所定の範囲内に収まる場合(S44のY)、データ記録部104は、実操舵トルクと横加速度のデータを取得する(S46)。これらのデータは、図7に示すように、S30〜S42で選択されたマップ1〜4のうちのいずれかの領域において、略直線状に分布する。言い換えると、S30〜S42は、ヒステリシス成分が存在するためにグラフ上で左下から右上方向に延びた長円環状に分布するデータを、操舵トルクの正負および操舵方向にしたがって、直線近似可能な四つの領域に分割するための処理である。
【0041】
比例係数算出部105は、いずれかの領域内で、横加速度と実操舵トルクのデータを最も良く近似する直線(図7内に実線で示す)の傾きを比例係数αとして算出する(S44)。この場合も、横加速度と実操舵トルクが共に最大値になる点と、共に最小値となる点とを結んだ直線を求め、この直線の傾きを算出してもよいし、最小二乗誤差法を用いて直線を求めてもよい。
【0042】
マップ保持部106は、そのときの車速とともに、算出された比例係数αをS30〜S42で選択されたマップに記憶する(S48)。既にその車速に対する比例係数αが記憶されている場合は、その値を更新する。記憶する車速は、S44における予め定められた車速に対応しており、例えば10km/h、20km/h、30km/h・・・のように10km/h刻みであってもよい。
【0043】
続いて、センサ故障判定部108は、横加速度センサ42が正常に機能しているか否かを判定する(S50)。横加速度センサ42が正常である場合(S50のY)、横加速度センサの検出値そのものを使用して、車両制御ECU150が各種の挙動制御を実行する(S52)。横加速度センサが正常でない場合(S50のN)、横加速度算出部110は、S30〜S42で選択されたマップから車速に応じた比例係数αを取得し(S54)、実操舵トルクを比例係数αで除した値を横加速度として算出する(S56)。
【0044】
このように、実施例2では、ステアリングホイールの切り込み時と切り戻し時の間に存在するヒステリシスの影響を考慮して、横加速度と実操舵トルクとの関係を取得し、切り込み時と切り戻し時とで別々に比例係数αを算出することで、横加速度推定の精度を向上させる。
【0045】
以上説明したように、本実施形態によれば、車両の巡航中に横加速度と実操舵トルクとの関係の近似直線を求めておくことによって、たとえ横加速度センサが故障するなどして横加速度を直接測定できなくなった場合でも、横加速度を間接的に算出することが可能になる。したがって、横加速度センサの故障時でも、横加速度を利用したVSCなどの各種制御を継続して実行することができる。
【0046】
以上、本発明を実施の形態をもとに説明した。これらの実施の形態はあくまで例示であり、実施の形態どうしの任意の組み合わせ、実施の形態の各構成要素や各処理プロセスの任意の組み合わせなどの変形例もまた、本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0047】
本発明は、上述の各実施形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を加えることも可能である。各図に示す構成は、一例を説明するためのもので、同様な機能を達成できる構成であれば、適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0048】
36 車速センサ、 42 横加速度センサ、 46 アシストトルクセンサ、 48 ブレーキペダルセンサ、 100 ECU、 102 車速幅判定部、 104 データ記録部、 105 比例係数算出部、 106 マップ保持部、 108 センサ故障判定部、 110 横加速度算出部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7