特許第5821789号(P5821789)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5821789斜杭施工時の杭倒れ防止装置、当該装置を用いた斜杭施工方法、及び全周回転機
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5821789
(24)【登録日】2015年10月16日
(45)【発行日】2015年11月24日
(54)【発明の名称】斜杭施工時の杭倒れ防止装置、当該装置を用いた斜杭施工方法、及び全周回転機
(51)【国際特許分類】
   E02D 13/00 20060101AFI20151104BHJP
   E02D 7/22 20060101ALI20151104BHJP
   E02D 13/04 20060101ALI20151104BHJP
   E02D 7/16 20060101ALI20151104BHJP
【FI】
   E02D13/00 Z
   E02D7/22
   E02D13/04
   E02D7/16
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-140538(P2012-140538)
(22)【出願日】2012年6月22日
(65)【公開番号】特開2014-5619(P2014-5619A)
(43)【公開日】2014年1月16日
【審査請求日】2014年8月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】阿部 幸夫
(72)【発明者】
【氏名】日下 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】久保田 一男
【審査官】 富山 博喜
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−308249(JP,A)
【文献】 特開2004−339794(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 13/00
E02D 7/16
E02D 7/22
E02D 13/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の角度に設置された全周回転機に杭を挿入し、杭の外周を把持しながら所定のストローク分だけ地盤に回転貫入させた後、杭の把持を解放して杭の上方をつかみ直し、再び杭の外周を把持しながら杭を地盤に回転貫入させる動作を繰り返すことで斜杭施工を行う場合において、前記全周回転機の隣り合う複数の把持部分が形成する複数の隙間のうち、すべての隙間の少なくとも一部に、杭受け材を設置したことを特徴とする、斜杭施工時の杭倒れ防止装置。
【請求項2】
前記杭受け材は、前記全周回転機の前記把持部分を支持する支持リングに着脱可能に固定されていることを特徴とする、請求項1に記載の斜杭施工時の杭倒れ防止装置。
【請求項3】
前記杭受け材は、前記杭と接する部分に、前記杭との摩擦を低減する摩擦低減手段を備えることを特徴とする、請求項1又は2に記載の斜杭施工時の杭倒れ防止装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の杭倒れ防止装置を用いた斜杭施工方法であって、
前記杭の傾斜角度から、前記杭受け材より下側の杭重量と上側の杭重量とのバランスを算定し、前記杭受け材を支点として杭が倒れない長さの杭を用いることを特徴とする、斜杭施工方法。
【請求項5】
前記杭として先端に翼部を有する回転貫入鋼管杭を用いる場合において、杭長を3m以上6m以下としたことを特徴とする、請求項4に記載の斜杭施工方法。
【請求項6】
杭の側面を把持する複数の把持部分と、隣り合う前記複数の把持部分が形成する複数の隙間とを有し、前記複数の隙間のうち、すべての隙間の少なくとも一部に杭受け材を備えることを特徴とする、全周回転機。
【請求項7】
前記杭受け材が、前記把持部分を支持する支持リングに着脱可能に固定されていることを特徴とする、請求項6に記載の全周回転機。
【請求項8】
前記杭受け材は、前記杭と接する部分に、前記杭との摩擦を低減する摩擦低減手段を備えることを特徴とする、請求項6又は7に記載の全周回転機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に土木・建築用の基礎部材として、杭を地面に対して傾斜した状態で貫入する場合において、杭の把持が解放された際、杭の倒れを防止するための装置及びその装置を用いた斜杭施工方法、並びに、杭の倒れを防止可能な全周回転機に関する。
【背景技術】
【0002】
土木や建築の分野において、構造物の基礎として地盤に杭を埋設することが行われている。杭の種類や杭の埋設方法にはいくつもの種類があるが、例えばその中で、管状である鋼管杭を回転させながら地盤に貫入する回転貫入鋼管杭工法がある。鋼管杭は、杭の本体である鋼管の先端部に所定の形状に形成された先端翼を有する。このような鋼管杭を回転させることにより地盤中で先端翼に推進力が発生し、地盤深くに鋼管杭を貫入させることができる。ここで、鋼管杭は地盤の深さ方向を長手方向として埋設されるのが基本であるが、鋼管杭に傾斜をつけて埋設させることもある。傾斜をつけて埋設する杭は斜杭と呼ばれ、斜杭は地震時等に生じる水平方向の変位を効果的に抑制することができ、耐震構造物の基礎として採用される場合がある。
【0003】
斜杭施工は、例えば、所定の角度にて設置された全周回転機に杭を挿入し、杭の外周を把持しながら所定のストローク分、杭を地盤に回転貫入させた後、杭の把持を解放して杭の上部をつかみ直し、再び杭の外周を把持しながら杭を地盤に回転貫入させる動作を繰り返すことにより行われる。このように、全周回転機においては杭の把持と解放とが繰り返されることとなるが、斜杭の場合においては杭の解放の際に杭が倒れてしまう虞がある。
【0004】
斜杭施工時の杭倒れ防止技術としては、例えば特許文献1に、バックホーに斜杭施工用支持装置を取り付け、所定の角度で杭を支えながら施工する技術が開示されている。或いは特許文献2には、全周回転機のステージ上に湾曲形状の杭支持部材を設置し、この杭支持部材の両端に設置されたワイヤーの長さを調整することで、杭を所定の角度で支持しながら施工する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−278131号公報
【特許文献2】特許第4121414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1、2に開示された技術によれば斜杭施工時の杭倒れを防止することができる。しかしながら、特許文献1に開示された技術にあっては、バックホーのアーム部分に杭支持装置を設けており、当該アーム部分が作業者の運転によって動作させるもので細かな調整が効かないため、杭を所定の角度で支えるための位置決めが困難である。また、杭が倒れる方向にバックホーが位置するため、作業時の安全性に問題があるほか、そもそもバックホーで杭を支えることは建設機械の目的外使用であり、このような形態を実際に採用することは好ましくない。また、特許文献2に開示された技術にあっては、杭支持部材がワイヤーで固定されているため、杭が振れやすく不安定でありやはり安全性に問題がある。また、杭の外径が変わる毎に、ベアリングが設置された高価な杭支持部材を制作する必要があり、コスト的な問題もある。
【0007】
そこで本発明は、簡易な構成であるとともに作業者の安全性にも優れた、斜杭施工時の杭倒れ防止装置、当該装置を用いた斜杭施工方法、及び斜杭施工時の杭倒れを防止可能な全周回転機を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが鋭意研究を進めたところ、全周回転機のチャック部の内側において、把持部分による杭の解放時に杭を支持可能な杭受け材を設けることにより、効果的に斜杭施工時の杭倒れを防止することができることを知見した。
【0009】
本発明は、上記知見に基づいてなされたものである。すなわち、
第1の本発明は、所定の角度に設置された全周回転機に杭を挿入し、杭の外周を把持しながら所定のストローク分だけ地盤に回転貫入させた後、杭の把持を解放して杭の上方をつかみ直し、再び杭の外周を把持しながら杭を地盤に回転貫入させる動作を繰り返すことで斜杭施工を行う場合において、全周回転機の隣り合う複数の把持部分が形成する複数の隙間のうち、すべての隙間の少なくとも一部に、杭受け材を設置したことを特徴とする、斜杭施工時の杭倒れ防止装置である。
【0010】
尚、本発明において「全周回転機の把持部分」とは、杭の側面に向かって移動することにより杭を把持する一方、杭の側面から離れるように移動することで杭を解放する部分をいい、全周回転機のチャック部に備えられている把持部分をいう。「把持部分が形成する隙間」とは、把持部分により杭が把持された状態において生じる隙間部分をいい、すなわち、チャック部分の内側であって、把持部分の移動経路上にない部分をいう。「全周回転機の隣り合う複数の把持部分が形成する複数の隙間のうち、すべての隙間の少なくとも一部に、杭受け材を設置した」とは、杭受け材が把持部分の動作を妨げることなく、且つ、把持部分が杭を解放した際に、杭が杭受け材の少なくとも一部と接触して支持されるように、すべての隙間の少なくとも一部に杭受け材を設置することを意味する。
【0011】
第1の本発明において、杭受け材は、全周回転機の把持部分を支持する支持リングに着脱可能に固定されていることが好ましい。杭受け材が着脱可能とされることで、杭受け材を外した状態で、例えば先端翼が付いた回転杭を全周回転機に容易に挿入できる。また、杭受け材を杭径ごとに合った形状のものに、容易に取替えることも可能である。
【0012】
尚、本発明において「支持リング」とは、その内側に、杭が挿入される空間が形成され、また、その内側で全周回転機チャック部の把持部分を支持するものである。すなわち、把持部分は支持リングの内側において、支持リングの中心に向かって移動することで杭の側面と接触し、杭が把持され、支持リングの中心から外側に向かって移動することで杭の側面から離され、杭が解放される。
【0013】
第1の本発明において、杭受け材は、杭と接する部分に、杭との摩擦を低減する摩擦低減手段を備えることが好ましい。全周回転機による杭の把持が解放されて杭の上をつかみ直す場合、杭受け材と杭とが接触しながらスライドすることとなるが、杭受け材の接触部分に摩擦を低減する機構または材料を設置することで、杭受け材が杭に沿って滑らかに移動可能となる。
【0014】
第2の本発明は、第1の本発明に係る杭倒れ防止装置を用いた斜杭施工方法であって、杭の傾斜角度から、杭受け材より下側の杭重量と上側の杭重量とのバランスを算定し、杭受け材を支点として杭が倒れない長さの杭を用いることを特徴とする、斜杭施工方法である。杭施工開始時においては、地盤への杭貫入長さが短い場合、杭が倒れる虞がある。この場合、杭受け材を支点とする杭の重量バランスを考慮し、倒れない長さの杭を用いることで、より安全に配慮した施工が可能となる。
【0015】
第2の本発明において、杭として先端に翼部を有する回転貫入鋼管杭を用いる場合、杭長を3m以上6m以下とすることが好ましい。このような長さであれば、斜杭施工時の重量バランスに優れ、杭倒れを一層容易に防止しつつ、適切に斜杭施工が可能となる。
【0016】
第3の本発明は、杭の側面を把持する複数の把持部分と、隣り合う複数の把持部分が形成する複数の隙間とを有し、複数の隙間のうち、すべての隙間の少なくとも一部に杭受け材を備えることを特徴とする、全周回転機である。
【0017】
第3の本発明において、杭受け材が、把持部分を支持する支持リングに着脱可能に固定されていることが好ましい。
【0018】
第3の本発明において、杭受け材は、杭と接する部分に、杭との摩擦を低減する摩擦低減手段を備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明においては、全周回転機の把持部分の隙間に杭受け材を設置することで、把持部分による杭の把持を解放して杭をつかみ直す際、杭受け材で杭を支持できるので、杭が倒れることがなく、所定の杭芯、杭傾斜角度を保持した状態で安定的に斜杭施工できる。また、杭受け材は簡易な構造であるため低コストで作製・設置することができ、さらに、作業者の安全性の問題もない。すなわち、本発明によれば、簡易な構成であるとともに作業者への安全性に優れた斜杭施工時の杭倒れ防止装置、当該装置を用いた斜杭施工方法、及び斜杭施工時の杭倒れを防止可能な全周回転機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】斜杭施工時の全周回転機や杭の状態を説明するための概略図である。
図2】従来の全周回転機における杭の把持及び解放の動作を説明するための上面概略図である。(A)が杭解放時、(B)が杭把持時である。
図3】本発明に係る杭倒れ防止装置を備えた全周回転機における杭の把持及び解放の動作を説明するための上面概略図である。(A)が杭解放時、(B)が杭把持時である。
図4】一実施形態に係る杭受け材の固定方法を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
1.従来における斜杭施工時の問題点
全周回転機を用いた斜杭施工について、図1、2を参照しつつ具体的に説明する。図1は斜杭施工時の全周回転機10や杭1の状態を説明するための概略図である。図2は、全周回転機10における杭1の把持及び解放の動作を説明するための上面概略図であり、杭1が挿入された全周回転機10のチャック部10aの形態を概略的に示している。図2(A)が杭解放時、図2(B)が杭把持時である。
【0022】
図1、2に示すように、斜杭施工の際は、傾斜架台2によって全周回転機10を地盤に対して所定の角度θだけ傾斜させて設置し、ここに杭1を挿入する。図2(A)に示すように、全周回転機10に杭1を挿入する際は、全周回転機10のチャック部10aにおいて、支持リング11に支持された把持部分12、12、…が杭1の外周を把持することなく、杭1を解放した状態にある。そして杭1の挿入が完了した後、図2(B)に示すように、チャック部10aにおいて把持部分12、12、…が支持リング11の中心に向かって移動し、杭1の外周を把持する。尚、図2(B)に示すように、把持部分12、12、…が杭1を把持した場合、隣り合う把持部分12、12、…の間には隙間13、13、…が生じる。このように杭1の外周を把持しつつ所定のストローク分だけ杭1を回転させて、杭1を地中に貫入させる。ここで、杭1の先端には所定の形状に形成された先端翼1aが設けられているため、このような杭1を回転させることによって地盤中で先端翼1aに推進力が発生し、杭1を地盤深くに貫入させることができる。杭1を所定のストローク分だけ地盤に回転貫入させた後は、図2(A)に示すように杭1の把持を解放し、その後、図2(B)に示すように杭1の上方をつかみ直し、再び杭1の外周を把持しながら杭1を地盤に回転貫入させる動作を繰り返す。
【0023】
ここで、全周回転機10により斜杭施工する際、把持部分12、12、…により把持していた杭1を解放した場合、支えを失った杭1は、図2(A)にXで示される間隔の分だけ、傾き方向に向かってさらに倒れ込む虞がある。特に斜杭施工初期においては、杭1が地中深くに十分に貫入されておらず、杭1が倒れやすい状態にあり、杭1の傾きが大きくずれて、所望の角度に杭1を貫入させることができなくなる虞等があった。
【0024】
2.斜杭施工時の杭倒れ防止装置
本発明に係る杭倒れ防止装置は、全周回転機10のチャック部10aにおいて把持していた杭1を解放した場合に、杭1の倒れ込みを防止するものである。図3に、本発明に係る杭倒れ防止装置を備えた全周回転機10のチャック部10aの上面概略図を示す。図3図2と対応しており、図3(A)が杭解放時、図3(B)が杭把持時である。図3において図2と同一の部材については同符号を付す。
【0025】
図3に示すように、本発明に係る斜杭施工時の杭倒れ防止装置は、斜杭施工を行う全周回転機10において、当該全周回転機10の把持部分12、12、…の隙間13、13、…の少なくとも一部に、杭受け材15、15、…を設置したことを特徴とする。
【0026】
図3において、杭受け材15、15、…は、把持部分12、12、…を支持する支持リング11によって支持されており、当該支持リング11の内側面から杭1の外周に向かって(すなわち、支持リング11の中心に向かって)立設された部材である。ここで、杭受け材15、15、…の内接円の径は杭1の外径と同一か、それよりも若干大きいものとされる。すなわち、杭1の外径よりも杭受け材15、15、…の内接円の径が小さい場合、杭1の挿入及びスライドの際、杭1と杭受け材15、15、…とが干渉しあって不具合が生じるため、杭1と杭受け材15、15、…との間にはある程度の余裕を持たせ、杭1が杭受け材15、15、…の内側をスライド可能とされている必要がある。杭受け材15、15、…の内接円の径については、用いる杭1の外径に応じて相対的に決定することができる。例えば、杭受け材15、15、…の内接円の径が製作精度を考慮した杭1の最大外径よりも大きいことが好ましく、具体的には、杭1が鋼管杭である場合は、杭1の外径よりも0.5%以上大きいことが好ましい。
【0027】
図3に示すように、杭受け材15、15、…は、把持部分12、12、…の間の隙間13、13、…に設けられているため、把持部分12、12、…の把持・解放動作を阻害することはない。また、杭受け材15、15、…が設けられることで、杭解放時(図3(A))において杭1が傾き方向にさらに倒れ込もうとしても、杭受け材15、15、…に引っ掛かって支持され、これにより杭倒れを防止することができる。
【0028】
杭受け材15、15、…の形状は、杭1を適切に保持可能な形態であれば特に限定されるものではない。例えば、板状、角柱状、円柱状等の種々の形状を採用することができる。また、杭受け材15、15、…の材質についても特に限定されるものではない。金属、セラミック、プラスチック、木材等、種々の材質を採用することができる。いずれにせよ、本発明において杭受け材15は複雑な形態とする必要がなく安価に作製可能である。
【0029】
杭受け材15、15、…のチャック部10aにおける固定方法については、特に限定されるものではなく、杭受け材15、15、…の内接円が、杭倒れを防止できるとともに杭受け材15、15、…の内側にて杭1をスライドさせることが可能な径を維持できるものであればよい。特に、杭受け材15、15、…は、把持部分12、12、…を支持する支持リング11に着脱可能に固定されていることが好ましい。
【0030】
図4に、支持リング11に着脱可能に固定された杭受け材15の一例を概略的に示す。図4図3(A)の一部を拡大した上面概略図に相当する。図4に示すように、支持リング11の内側には、杭受け材15を固定するための固定ガイド11a、11aが設けられている。固定ガイド11a、11aは、好ましくは溶接等の適当な手段によって、支持リング11に固定されている。図4においては、支持リング11の内側に設けられた固定ガイド11a、11aの内側に杭受け材15の一端に設けられた被固定片15b、15bが下向きに差し込まれることによって、杭受け材15が支持リング11の内側面に着脱可能に固定されている。これにより、杭受け材15は、被固定片15bとは反対側の一端(先端)15aにて杭1を受け止め、杭倒れを防止することができる。尚、把持部分12、12、…による杭1のつかみ替えの際、杭受け材15と杭1とが接触したとしても、その摩擦力方向は杭受け材15を下向きに動かす方向であるため、杭受け材15が固定ガイド11a、11aから上に外されることはない。
【0031】
このように、杭受け材15が着脱可能とされることで、杭受け材15を取り外した状態で、先端翼1aを備える杭1を全周回転機10に容易に挿入できる。また、杭受け材15を杭径に合った形状のものに、容易に取替えることも可能である。すなわち、斜杭施工作業者は、杭の径に応じた杭受け材を適宜選択することで、一台の全周回転機で様々な外径の杭について、杭倒れを防止しつつ順次斜杭施工することができる。また、杭1を全周回転機10に挿入し、回転貫入施工前に杭受け材15を設置することができるため、施工途中で杭受け材15を調整するような作業は必要なく、安全面に一層配慮しつつ斜杭施工を行うことができる。
【0032】
本発明において杭受け材15は、杭1と接する部分(上記の先端15a)に、杭1との摩擦を低減する摩擦低減手段を備えることが好ましい。斜杭施工においては、全周回転機10による杭1の把持が解放されて杭1の上をつかみ直す場合、杭受け材15と杭1とが接触しながらスライドすることとなるが、杭受け材15の接触部分に摩擦を低減する手段を設けることで、杭1が滑らかに移動可能となるためである。摩擦低減手段の具体例としては、ローラー、ボールベアリング、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)板、グリース等、杭1との摩擦を低減させ得るあらゆる手段を採用することができる。
【0033】
以上のように、本発明に係る杭倒れ防止装置においては、全周回転機10の把持部分12、12、…の隙間13、13、…の少なくとも一部に杭受け材15が設置されてなることで、把持部分12、12、…による杭1の把持を解放して杭1をつかみ直す際、杭受け材15で杭1を支持できるので、杭1が倒れることがなく、所定の杭芯、杭傾斜角度を保持した状態で安定的に斜杭施工できる。杭受け材15は簡易な構造であるため低コストで作製・設置することができ、また作業者の安全性の問題もない。すなわち、本発明によれば、簡易な構成であるとともに作業者への安全性に優れた斜杭施工時の杭倒れ防止装置を提供することができる。
【0034】
3.杭倒れ防止装置を用いた斜杭施工方法
本発明に係る斜杭施工方法は、上記本発明に係る杭倒れ防止装置を用いた斜杭施工方法であって、杭1の傾斜角度から、杭受け材15より下側の杭重量と上側の杭重量とのバランスを算定し、杭受け材15を支点として杭1が倒れない長さの杭を用いることを特徴とする。斜杭施工開始時においては、地盤への杭1の貫入長さが短いため、杭1が倒れやすいが、本発明のように、杭受け材15を支点とする杭1の重量バランスを考慮し、倒れない長さの杭1を用いることで、より安全に配慮した施工が可能となる。
【0035】
特に、杭1として、先端に翼部を有する回転貫入鋼管杭を用いる場合、杭1の傾斜角度、鋼管の径・板厚、先端の翼部重量により値がある程度変わるものの、重量バランスから杭1が倒れない杭長を求めると、概ね6m以下となる。また、地面から全周回転機10の把持部分12、12、…までの高さを考慮すると、杭長は、通常、最低3m必要である。したがって、本発明に係る斜杭施工方法において杭1として先端に翼部を有する回転貫入鋼管杭を用いる場合は、杭長を3m以上6m以下とすることが好ましい。
【0036】
全周回転機に本発明に係る杭倒れ防止装置を設置することで、杭倒れを適切に防止しつつ斜杭施工を行うことができるが、さらに上記の本発明に係る斜杭施工方法に従って斜杭施工を行うことで、施工時の杭倒れを一層適切に防止することができる。
【0037】
4.全周回転機
上記説明においては、本発明の杭倒れ防止装置としての側面、或いは、斜杭施工方法としての側面を説明した。一方、本発明は、全周回転機そのものとしての側面をも有する。すなわち、本発明に係る全周回転機は、杭1の側面を把持する複数の把持部分12、12、…と複数の把持部分12、12、…の間に設けられた隙間13、13、…とを有し、把持部分12、12、…の隙間13、13、…の少なくとも一部に杭受け材15を備えることを特徴とする。各構成については、上記した通りであるため、ここでは説明を省略する。
【0038】
本発明に係る全周回転機においても、杭受け材15が、把持部分12、12、…を支持する支持リング11に着脱可能に固定されていることが好ましい。上述したように、杭1の挿入が容易となるほか、杭1の外径に応じて杭受け材15の形態を選択することで、様々な外径の杭について、杭倒れを防止しつつ容易に斜杭施工することが可能となるためである。
【0039】
また、本発明に係る全周回転機においても、杭受け材15は、杭1と接する部分(先端15a)に、杭1との摩擦を低減する摩擦低減手段を備えることが好ましい。
【0040】
本発明に係る全周回転機は、杭受け材15を設けたことにより、チャック部10aにおける把持部分12、12、…による杭1の解放の際に、杭1が杭受け材15によって支持されるため、杭1が倒れることがなく、所定の杭芯、杭傾斜角度を保持した状態で安定的に斜杭施工できる。杭受け材15は簡易な構造であるため低コストで作製・設置することができ、また作業者の安全性の問題もない。すなわち、本発明によれば、簡易な構成であるとともに作業者への安全性に優れ、斜杭施工時の杭倒れを防止可能な全周回転機を提供することができる。
【0041】
以上、現時点において、もっとも、実践的であり、かつ、好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う斜杭施工時の杭倒れ防止装置、当該装置を用いた斜杭施工方法、及び、全周回転機もまた本発明の技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。
【0042】
例えば、上記説明においては、本発明に係る杭倒れ防止装置として、把持部分12、12、…の隙間13、13、…のすべてに杭受け材15、15、…を備える形態を例示したが、本発明は当該形態に限定されるものではない。杭1が傾いて、杭1を保持する必要がある部分にのみ杭受け材15を設けるだけであってもよい。ただし、杭倒れを確実に防止できる観点からは、隙間13、13、…の複数箇所に杭受け材15、15、…を備えることが好ましく、隙間13、13、…のすべてに杭受け材15、15、…を備えることが特に好ましい。
【0043】
また、上記説明においては、本発明に係る杭倒れ防止装置として、支持リング11に杭受け材15、15、…が固定される形態を例示したが、本発明は当該形態に限定されるものではない。把持部材12、12、…の間の隙間13、13、…の少なくとも一部に杭受け材15が設置され、杭受け材15の一端15aにて杭を支持して、杭倒れを適切に防止可能とされてさえいれば、全周回転機10の支持リング11以外の部分に、杭受け材15の他端が固定されていてもよい。ただし、容易且つ一層適切に杭受け材15を機能させる観点からは、把持部分12、12、…を固定する支持リング11に、杭受け材15を固定することが好ましい。
【0044】
また、上記説明においては、本発明に係る杭倒れ防止装置として、杭受け材15が、固定ガイド11a、11aと被固定片15b、15bとの関係によって支持リング11に着脱可能に固定される形態を例示したが、本発明は当該形態に限定されるものではない。杭受け材15の一端をネジ等の固定部材によって支持リング11の内側面に対して着脱可能に固定してもよい。ただし、より容易に杭受け材15を着脱可能に固定する観点からは、固定ガイド11a、11aに被固定片15b、15bを落とし込んで差し込むことで、杭受け材15を着脱可能に固定する形態が好ましい。
【0045】
また、上記説明においては、杭1が先端翼1aを有するものとして説明したが、本発明は当該形態に限定されるものではない。例えば鋼管の先端に掘削ビットを取り付けた杭等、種々の杭を用いることも可能である。ただし、地盤への貫入性に優れ、無排土、低振動・低騒音で斜杭施工が可能な観点から、杭1として先端翼1aを有するもの、特に先端翼1aを有する回転貫入鋼管杭を用いることが好ましい。
【0046】
また、上記説明においては、全周回転機10のチャック部10a以外の部分について、具体的な説明を省略したが、チャック部10a以外の部分については従来の全周回転機の構成を適宜採用することができる。チャック部10a以外の部分の具体例としては、例えば、特許第4121414号公報に記載されたような構成を採用可能である。さらに、全周回転機10の傾斜架台2の形態についても、従来から用いられてきた傾斜架台2をいずれも採用可能である。例えば、特開2012−36588号公報に記載されたような斜杭貫入用架台を好ましく採用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、主に土木・建築用の基礎部材として、杭を地面に対して傾斜した状態で貫入する場合において、貫入機による杭の把持が解放された際、杭の倒れを防止するための装置及びその装置を用いた斜杭施工方法、並びに、杭の倒れを防止可能な全周回転機として利用可能である。
【符号の説明】
【0048】
1 杭
1a 先端翼
2 傾斜架台
10 全周回転機
10a チャック部
11 支持リング
11a 固定ガイド
12 把持部分
13 隙間
15 杭受け材
15a 先端
15b 被固定片
図1
図2
図3
図4