(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5821803
(24)【登録日】2015年10月16日
(45)【発行日】2015年11月24日
(54)【発明の名称】自動車のフードストッパ構造
(51)【国際特許分類】
B62D 25/12 20060101AFI20151104BHJP
【FI】
B62D25/12 M
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-177194(P2012-177194)
(22)【出願日】2012年8月9日
(65)【公開番号】特開2014-34315(P2014-34315A)
(43)【公開日】2014年2月24日
【審査請求日】2014年11月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(72)【発明者】
【氏名】大塚 雄介
(72)【発明者】
【氏名】高瀬 裕章
【審査官】
畔津 圭介
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−096282(JP,A)
【文献】
米国特許第07690722(US,B2)
【文献】
特開2009−166603(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 25/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車のフードをフードストッパにより下方から支持する自動車のフードストッパ構造であって、
上端面を有し、該上端面において支持可能な支持部と、
前記支持部の上端面において支持される樹脂構造体であって、前記支持部より前方に配置された前側構造部と、前記支持部より後方に配置され、前記フードストッパが取り付けられるストッパ取付部とが一体的に形成された樹脂構造体と
を備え、
前記樹脂構造体の前記ストッパ取付部の支持部側に、前記樹脂構造体の他の部分よりも強度が低い脆弱部が形成されている、自動車のフードストッパ構造。
【請求項2】
前記脆弱部が切り欠き部である、請求項1に記載の自動車のフードストッパ構造。
【請求項3】
前記脆弱部が、前記支持部の上端面の後縁に近接して形成されている、請求項1又は2に記載の自動車のフードストッパ構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のフードストッパ構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車のフードストッパ構造として、下記特許文献1および引用文献2に開示されたような、自動車前部にフード閉止時の緩衝材として機能するストッパ手段が取り付けられた構造が知られている。
【0003】
特許文献1に開示された自動車のフードストッパ構造では、
図3、4に示すように、自動車前部100において車両の幅にわたって延在する横材122上にストッパ手段130が取り付けられている。ストッパ手段130は、ゴム材等からなるフードストッパ132と、このフードストッパ132を支持する支持部材134とによって構成されている。そして、フード閉止時の衝撃荷重をフードストッパ132の弾性変形によって吸収すると共に、フード閉止時より大きな衝撃荷重は支持部材134の座屈変形によって吸収する。特許文献2に開示されたフードストッパ構造では、フードストッパは、取付部材、連結部材および支持部材を介して、ラジエータサポートアッパに支持されている。フードストッパは、ラジエータサポートアッパの捩れ中心に対し、後方にオフセットして配置されており、フードストッパに大きな衝撃荷重が加わると、ラジエータサポートアッパが捩れ変形して衝撃を吸収する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2007−537091号公報
【特許文献2】特開2010−95056号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した従来技術には、以下に示すような課題が存在している。すなわち、特許文献1に開示されたフードストッパ構造では、支持部材134の上記座屈変形を考慮して、支持部材134の高さhの分だけスペースを確保しておく必要がある。また、特許文献2に開示されたフードストッパ構造では、金属製(板金製)フレームであるラジエータサポートアッパについて、ラジエータの支持部材として高い剛性が求められ、且つ、フードストッパへの入力を捩れにより吸収する衝撃吸収部材として変形代が求められる、という相反する要求を満たす必要がある。このように、引用文献1および引用文献2のフードストッパ構造はどちらも設計の自由度が制限されていた。
【0006】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、設計の自由度の向上が図られた自動車のフードストッパ構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る自動車のフードストッパ構造は、自動車のフードをフードストッパにより下方から支持する自動車のフードストッパ構造であって、上端面を有し、該上端面において支持可能な支持部と、支持部の上端面において支持される樹脂構造体であって、支持部より前方に配置された前側構造部と、支持部より後方に配置され、フードストッパが取り付けられるストッパ取付部とが一体的に形成された樹脂構造体とを備え、樹脂構造体のストッパ取付部の支持部側に、樹脂構造体の他の部分よりも強度が低い脆弱部が形成されている。
【0008】
このフードストッパ構造においては、フード閉止時の衝撃荷重をフードストッパの弾性変形によって吸収すると共に、フード閉止時より大きな衝撃荷重は脆弱部における樹脂構造体の破断または屈折によって吸収する。そのため、大きな衝撃荷重を受けたときに座屈する長身のフードストッパ支持部材を必要とせず、フードストッパ自体の高さのみで設定できるため、高い設計の自由度を実現することができる。また、従来技術に係るフードストッパ支持部材を必要としないため、部品点数およびコストを削減することができる。
【0009】
また、脆弱部が切り欠き部である態様であってもよい。この場合、切り欠き部により、樹脂構造体の他の部分よりも確実に強度の低下が図られる。
【0010】
さらに、脆弱部が、支持部の上端面の後縁に近接して形成されている態様であってもよい。この場合、フードストッパに衝撃荷重が加わった際に、脆弱部に高い応力を負荷することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、設計の自由度の向上が図られた自動車のフードストッパ構造が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係るフードストッパ構造の断面図である。
【
図2】
図2は、
図1に示すフードストッパ構造が大きな衝撃荷重を受けたときの状態を示した断面図である。
【
図3】
図3は、従来技術に係るフードストッパ構造を示した概略斜視図である。
【
図4】
図4は、
図3に示したフードストッパ構造の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0014】
以下、
図1、2を参照しつつ、本発明の実施形態に係る自動車のフードストッパ構造について説明する。
【0015】
まず、
図1に示すように、自動車の前部1は、フード10と、フード10を支持するフードストッパ構造20とを備えている。
【0016】
フード10は、主に、フードアウター12とフードインナー14とによって構成されている。フード10は、その後端付近に設けられた図示しないヒンジ部によって、その前端が上下方向に回動することで開閉される。
【0017】
フードストッパ構造20は、フード10を下方から支持する構造であり、樹脂構造体22およびバンパーリテーナ24を備えている。
【0018】
バンパーリテーナ24は、本発明の支持部に相当し、自動車の左右方向に延びる長尺部材である。バンパーリテーナ24は、板金によって形成されており、そのため高い剛性を有する。そして、バンパーリテーナ24には、曲げ加工により、略平面である上端面25が形成されている。
【0019】
樹脂構造体22は、樹脂で構成された一体成型体であり、バンパーリテーナ24の上端面25において支持され、図示しない固定具により取り付けられている。樹脂構造体22は、図に示すように、バンパーリテーナ24に関して前後に張り出しており、バンパーリテーナ24より前方のフロントバンパー26と、バンパーリテーナ24より後方のストッパ取付部28とを有している。
【0020】
フロントバンパー26は、本発明の前側構造部に相当し、その前端はフード10よりも前側に突き出ている。
【0021】
ストッパ取付部28は、フードストッパ30が取り付けられる部分であり、バンパーリテーナ24の上端面25から後方に略水平方向に延びている。ストッパ取付部28には、厚さ方向に取付穴28aが設けられており、この取付穴28aにフードストッパ30を嵌設することでフードストッパ30が上向きに取り付けられる。
【0022】
フードストッパ30は、ゴム等の弾性体で構成された円筒状部材である。フードストッパ30は、ストッパ取付部28に上向きに取り付けられているため、上下方向の衝撃を弾性変形によりある程度吸収することができる。
【0023】
また、樹脂構造体22には、本発明の脆弱部に相当する切り欠き部29が形成されている。この切り欠き部29の形成位置は、樹脂構造体22のストッパ取付部28のバンパーリテーナ24側である。より詳しくは、切り欠き部29の形成位置は、バンパーリテーナ24の上端面25の縁部25a、25bのうち、後縁25bに近接する位置である。たとえば、後縁25bの真上の位置もしくは真上よりわずかに後方の位置である。
【0024】
切り欠き部29の部分は、局部的に薄肉になっており応力集中しやすいため、樹脂構造体22の他の部分よりも強度(例えば、破断強度)が低くなっている。なお、切り欠き部29は、樹脂構造体22を成型した後に切り欠いて形成してもよく、切り欠き部29が形成される型を用いて成型時に形成してもよい。
【0025】
続いて、上述したフードストッパ構造20によるフード10の衝撃吸収について説明する。
【0026】
まず、通常のフード開閉時に、フード10の閉止に起因する衝撃荷重がフードストッパ構造20に加わったときには、フードインナー14がフードストッパ30の上部を上方から押圧することにより、その衝撃がフードストッパ30に伝わる。そして、その衝撃は、フードストッパ30が弾性変形することにより、フードストッパ自体が吸収する。
【0027】
次に、たとえば車両前方における衝突等により、フード10の閉止に起因する衝撃荷重よりも大きな衝撃荷重がフードストッパ構造20に加わったときには、やはり、フードインナー14がフードストッパ30の上部を上方から押圧することにより、その衝撃がフードストッパ30に伝わる。ただし、衝撃荷重が大きい場合には、フードストッパ30のみでは吸収できず、ストッパ取付部28にも下向きの力が加わる。
【0028】
その結果、切り欠き部29に応力が加わり、ストッパ取付部28が下方に押し下げられるように弾性変形する。
【0029】
そして、その切り欠き部29の弾性変形が所定の大きさ(弾性限界)を超えると、切り欠き部29の塑性変形が生じ、最終的に、切り欠き部29において樹脂構造体22が破断される。それにより、
図2に示すように、切り欠き部29より後方のストッパ取付部28が、フードストッパ30と共に樹脂構造体22から切り離されて落下する。
【0030】
すなわち、フードストッパ構造20に大きな衝撃荷重が加わったときには、第一段階としてフードストッパ30の弾性変形により衝撃が吸収され、第二段階として切り欠き部29の弾性変形により衝撃が吸収され、最終段階として切り欠き部29の塑性変形および破断により衝撃が吸収される。このように段階的に衝撃を吸収することで、衝撃の反力も抑制され、優れた衝撃吸収特性が実現される。
【0031】
以上で説明したとおり、フードストッパ構造20においては、フード閉止時の衝撃荷重をフードストッパ30の弾性変形によって吸収すると共に、フード閉止時より大きな衝撃荷重は切り欠き部29における樹脂構造体22の破断によって吸収する。そのため、従来技術に係るフードストッパ支持部材のような大きな衝撃荷重を受けたときに座屈する長身のフードストッパ支持部材を必要とせず、フードストッパ30自体の高さのみで設定できるため、高い設計の自由度を実現することができる。
【0032】
また、ストッパ取付部28をフロントバンパー26と一体成形でき、従来技術に係る別部品としてのフードストッパ支持部材を必要としないため、部品点数およびコストを削減することができる。
【0033】
さらに、ストッパ取付部28とフロントバンパー26とは一体成形できるが、バンパーリテーナ24の上端面に取り付けられた状態では、前側のフロントバンパー26と、後側のフードストッパ構造の機能が干渉することがない。このため、ストッパ取付部28の形状、幅、厚みと、脆弱部としての切り欠き部29の形状は、設計の自由度が高く、各々の車両にて衝撃吸収のために要求される仕様に対し、対応が容易である。
【0034】
また、切り欠き部29の形成位置を、後縁25bに近接する位置(たとえば、後縁25bの真上の位置もしくは真上よりわずかに後方の位置)にすることで、フードストッパ30に衝撃荷重が加わった際に、切り欠き部29に高い応力が負荷され、大きな衝撃荷重に対し、確実に切り離しがおこなわれる。
【0035】
なお、本発明は上述した実施形態に限らず、様々な変形が可能である。
【0036】
たとえば、フードストッパ構造20に大きな衝撃が加わったときに、切り欠き部29が破断してストッパ取付部28およびフードストッパ30が落下する態様を示したが、必ずしも落下する必要はなく、切り欠き部29において屈折してストッパ取付部28が樹脂構造体22につながったままの態様であってもよい。
【0037】
また、前側構造部は、フロントバンパー26に限らず、たとえば樹脂で構成されたラジエーターグリル等であってもよい。
【0038】
さらに、脆弱部は、切り欠き部29に限らず、周辺部分よりも局部的に厚さが薄くなっている薄肉部であってもよい。
【符号の説明】
【0039】
10…フード、20…フードストッパ構造、22…樹脂構造体、24…バンパーリテーナ、25…上端面、26…フロントバンパー、28…ストッパ取付部、29…切り欠き部、30…フードストッパ。