(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1水冷工程における水冷が、0.05秒間以上の間隔を隔てた2以上の水冷からなり、前記2以上の各々の水冷が、460℃/s超の冷却速度で20℃以上60℃以下の温度区間を冷却するものである、請求項1または請求項2に記載の熱延鋼板の製造方法。
前記熱間圧延を施す最終の圧延機が複数の圧延スタンドを備えるタンデム式圧延機であって、前記タンデム式圧延機の最終圧延スタンドの一つ前の圧延スタンドにおいて前記熱間圧延を完了する、請求項1から請求項3までのいずれかに記載の熱延鋼板の製造方法。
前記第2水冷工程の後、600℃以上720℃以下の温度域に1秒間以上滞留させることをさらに含む、請求項1から請求項4までのいずれかに記載の熱延鋼板の製造方法。
請求項1から請求項4までのいずれかに記載の製造方法により得られた熱延鋼板に、酸洗処理、総圧下率35%以上の冷間圧延処理および1000℃以下の焼鈍処理を施す、冷延鋼板の製造方法。
【背景技術】
【0002】
自動車をはじめとする輸送用機械や各種産業機械の構造用部材等の素材として供される鋼板には、強度、加工性、靱性などの機械的特性のみならず、部品組み立て時の溶接性や、使用時の耐食性が求められる場合がある。鋼板の機械特性を総合的に高めるには、鋼板の組織を微細化することが有効である。そのため、鋼板の組織を微細するための方法が数多く提案されてきている。
【0003】
従来技術における組織微細化の手段を総括すると、(i)大圧下圧延法、(ii)制御圧延法、(iii)合金元素添加法、(iv)急速冷却法、またはこれらの組み合わせである。
【0004】
(i)大圧下圧延法は、圧下率を50%程度以上と大きくして、1パスの圧延で大きな歪みを蓄積させ、その後オーステナイトから微細フェライトへと変態させるか、または大歪みを利用して比較的粗大なフェライトを微細フェライトへ再結晶させる手法である。かかる手法によれば、1000℃近傍以下の温度に加熱した後、700℃近傍の低温域で大圧下圧延を行うことによって、1〜3μmの超微細フェライト組織が得られる。しかし、この方法は、工業的に実現し難いばかりか、微細フェライト組織が熱処理によって粒成長し易いので、溶接を行うと溶接部が軟化する、あるいは溶融Znめっきを施すと所期の機械特性を失うなどの問題を有している。
【0005】
(ii)制御圧延法は、一般的に800℃近傍以上の温度で、圧延1パス当たりの圧下率を20〜40%以下として、多パスの圧延を施した後、冷却する方法である。圧延温度をAr
3点近傍の狭い温度域にする方法、圧延のパス間の時間を短縮する方法、また、歪み速度と温度を制御してオーステナイトを動的再結晶させる方法などの多くの方法が開示されている。しかし、圧延後の冷却に関する検討は十分には行われていない。圧延の直後から水冷するほうが好ましいとされているが、直後冷却といっても圧延後0.2秒以上経過してからの冷却開始であり、冷却速度もせいぜい250℃/秒程度である。このような方法では、単純組成の低炭素鋼のフェライト結晶粒径は5μm程度にしかならない。したがって、機械特性を十分に高めることができない。
【0006】
(iii)合金元素添加法は、オーステナイトの再結晶化や回復を抑制する合金元素の微量の添加によってフェライト結晶粒の微細化を促進するものである。Nb、Ti等の合金元素は、炭化物を形成したり、粒界に偏析したりして、オーステナイトの回復と再結晶を抑制するため、熱間圧延後のオーステナイト粒が微細化して、オーステナイトからの変態で得られるフェライト結晶粒も微細化する。この(iii)の合金元素添加法は、上記(i)の大圧下圧延法や(ii)の制御圧延法と組み合わせて用いる場合が多い。この(iii)の合金元素添加法は、熱処理の際にもフェライトの粒成長を抑制する効果を示す。しかし、フェライトの結晶粒径を小さくはするものの、フェライトの体積率を低下させるという問題があり、また、超微細フェライト結晶粒の溶接や溶融Znめっき工程での粒成長を抑制するには不十分である。したがって、適用できる鋼種が限定される。また、添加する合金元素の分だけ、原料コストが嵩む。
【0007】
(iv)急速冷却法は、γ域での熱間圧延の直後に、圧延仕上げ温度から700℃程度以下の温度まで数百℃/s以上という速い冷却速度で冷却し、圧延歪みの解放を抑制すことでγ→α変態の核生成を促進して、微細粒化を図る方法である。(i)の大圧下圧延法と組み合わせることが効果的であることが開示されている。しかし、この方法は、(1)多量の冷却水を圧延機の直後に噴射する必要があり、圧延機から数メーター以上に亘る区間が水冷域となるため、板厚や板形状、板温の計測が圧延直後に行えない、(2)数百℃/s以上の急速冷却を700℃近傍の低温まで続けるため板温の制御が困難で、圧延途中から圧延速度を増加させる加速圧延が困難となり、生産性が低下する、(3)多量の冷却水の排水が困難である、(4)冷却設備設置および稼働費用が嵩む、等の問題を有している。
【0008】
これらの(i)大圧下圧延法、(ii)制御圧延法および(iii)合金元素を添加する方法に言及した先行文献として、特許文献1がある。この文献には、(Ar
1+50℃)から(Ar
3+100℃)の温度域で1秒以内に1回または2回以上の合計圧下率が50%以上の加工を加え、加工終了後の600℃以上の温度域で20℃/秒以上の冷却速度の強制冷却を行う方法が開示されている。
【0009】
特許文献2には、動的再結晶温度域での圧下を5スタンド以上の圧下パスにて行い、かつ、この動的再結晶温度域で圧下を加える最初のスタンド入り側と最後のスタンド出側の温度差を60℃以下にする方法が開示されている。
【0010】
(iv)急速冷却法に言及した先行文献として、特許文献3、4がある。特許文献3では、微細粒化には言及していないものの、圧延後0.3〜1秒程度の時間の後に400℃/s以上の冷却速度で700℃程度以下の温度まで冷却する方法、特許文献4では、圧延後から0.4秒以内に720℃以下の温度まで400℃/s以上の冷却速度で急冷して微細粒化する方法が開示されている。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明に係る熱延鋼板および冷延鋼板の製造方法について説明する。以下の説明において、鋼の化学組成に関する「%」表示は「質量%」を意味する。
【0024】
(A)化学組成について
C:0.8%以下
Cは、オーステナイトからフェライトへの変態温度を低下させて、熱間圧延温度を低下させることを可能にするので、フェライト結晶粒の微細化を促進するのに有用な元素である。また、強度を確保するためにも有効な元素である。このため、C含有量は0.001%以上とすることが好ましい。また、フェライト結晶粒の微細化をより促進するためには、Cを0.03%以上含有させるのが好ましい。ただし、Cを過度に含有させると、熱延後のフェライト変態が遅延し、フェライトの体積率が低下するためC含有量は0.8%以下とする。好ましくは0.5%以下であり、さらに好ましくは0.3%以下である。
【0025】
本発明では、鋼の化学組成は炭素含有量以外の点では制限されないが、鋼の製造時に一般に添加される各種元素および不純物として含有される元素、さらには鋼の高強度化のために添加される元素を含有させてもよい。以下には、そのような任意添加元素とその好ましい含有量について説明する。
【0026】
Si:
Siは、強度向上を目的として含有させることが好ましい。ただし、過剰に含有させると、延性の劣化が著しくなるうえに、熱間圧延時の表面酸化の問題が生じるので、含有量を3%以下とすることが好ましい。好ましくは2%以下、より好ましくは1.8%以下である。下限は不純物レベルでもよいが、フェライト組織中に残留オーステナイトを生成させる場合には、Si+Alの総量で1%以上含有させることが好ましい。
【0027】
Mn:
Mnは、強度確保のため、含有させることが好ましい。また、オーステナイトからフェライトへの変態温度を低下させて、熱間圧延における仕上温度を低下させることを可能にするので、フェライト結晶粒の微細化を促進する目的でも含有させることが好ましい。ただし、過度に含有させると、熱間圧延後のフェライト変態が遅延し、フェライトの体積率が低下するため、含有量を4%以下とすることが好ましい。より好ましくは3.0%以下である。下限は不純物レベルでもよいが、強度向上を目的として添加する場合には0.2%以上含有させることが好ましい。また、フェライト組織中に残留オーステナイトを生成させる場合には、0.5%以上含有させることが好ましく、1.0%以上含有させることがより好ましい。また、フェライト組織中にマルテンサイトを生成させる場合には、Si+Mnの総量で1%以上含有させることが好ましく、1.5%以上含有させることがより好ましい。
【0028】
sol.Al:
Alは、延性を向上させるために含有させてもよい。しかし、過度に含有させると、高温でのオーステナイトが不安定化し熱間圧延における仕上温度を過度に上昇させる必要が生じること、また、安定した連続鋳造を困難にすることから、含有量を3%以下とすることが好ましい。下限は不純物レベルでもよいが、フェライト組織中に残留オーステナイトを生成させる場合には、Si+Alの総量で1%以上含有させることが好ましい。
【0029】
P:
Pは、強度を増加させるために含有させても良い。しかし、過度に含有させると、粒界偏析による脆化が生じるので、含有させる場合には、含有量を0.5%以下とすることが好ましい。より好ましくは0.2%以下、さらに好ましくは、0.1%以下である。下限は不純物レベルでもよい。通常、製鋼段階で0.01%程度のPは混入してくる。
【0030】
Ti:
Tiは、炭化物又は窒化物として析出して強度を増加させるために、また、この析出物がオーステナイトやフェライトの粗大化を抑制して、熱延時の結晶粒の微細化を促進し、熱処理の際には粒成長を抑制するので、含有させても良い。ただし、過度に含有させると、熱延以前の加熱時に粗大なTi炭化物又は窒化物が多量に発生して、延性や加工性を阻害するので、炭素含有量が0.01%以上の場合、Ti含有量を0.3%以下とすることが好ましい。フェライトの生成を容易にするため、好ましくはTi+Nbの総量で0.1%以下、より好ましくは0.03%以下、よりより好ましくは0.01%以下である。なお、下限は不純物レベルでもよい。製鋼上、一般に0.001%程度のTiは混入する。
【0031】
Nb:
Nbは、炭化物又は窒化物として析出し強度を増加させるために、また、この析出物がオーステナイトやフェライトの粗大化を抑制して、熱延時の結晶粒の微細化を促進し、熱処理の際には粒成長を抑制するので、含有させても良い。ただし、過度に含有させると、熱延以前の加熱時に粗大なNbCが多量に発生して、延性や加工性を阻害するので、炭素含有量が0.01%以上の場合、Nb含有量を0.1%以下とすることが好ましい。フェライトの生成を容易にするため、好ましくはTi+Nbの総量で0.1%以下、より好ましくは0.03%以下、さらに好ましくは0.01%である。なお、下限は不純物レベルでもよい。製鋼上、一般に0.001%程度のNbは混入する。
【0032】
V:
Vは、炭化物として析出し強度を増加させるために、また、この析出物がフェライトの粗大化を抑制して、結晶粒の微細化を促進するので、含有させても良い。ただし、Ti、Nbと同様な理由で、延性や加工性を阻害するので、含有量を1%以下とすることが好ましい。より好ましくは0.5%以下であり、さらに好ましくは0.3%以下である。なお、下限は不純物レベルでもよい。製鋼上、一般に0.001%程度のVは混入する。
【0033】
Cr:
Crは、焼き入れ性を増加させ、フェライト組織中にマルテンサイトやベイナイトを生成させる作用を有するため、これらの作用を目的として含有させても良い。ただし、多量に含有させるとフェライトの生成が抑制されるため、含有量を1%以下とすることが好ましい。なお、下限は不純物レベルでもよい。製鋼上、一般に0.02%程度のVは混入する。
【0034】
Cu:
Cuは、低温で析出して強度を増加させる作用を有するため、これらの作用を目的として含有させても良い。ただし、スラブの粒界割れなどを引き起こすおそれがあるため、含有量を3%以下とすることが好ましい。より好ましくは2%以下である。上記目的で添加する場合は、含有量を0.1%以上とすることが好ましい。なお、下限は不純物レベルでもよい。製鋼上、一般に0.02%程度のCuは混入する。
【0035】
Ni:
Niは、高温でのオーステナイトの安定度を増加する目的で含有させても良い。また、Cuを含有させる場合はスラブの粒界脆化を防止するために含有させても良い。ただし、過度に含有させると、フェライトの生成が抑制されるため、含有量を1%以下とすることが好ましい。なお、下限は不純物レベルでもよい。製鋼上、一般に0.02%程度のNiは混入する。
【0036】
Mo:
Moは、MoCを析出し強度を増加させるため、また、この析出物がフェライトの粗大化を抑制して、結晶粒の微細化を促進するため、含有させても良い。ただし、Ti、Nbと同様な理由で、延性や加工性を阻害するので、含有量を1%以下とすることが好ましい。より好ましくは0.5%以下であり、さらに好ましくは0.3%以下である。なお、下限は不純物レベルでもよい。製鋼上、一般に0.001%程度のMoは混入する。
【0037】
Ca、REM、B:
Ca、希土類元素(REM)、およびBは凝固中に析出する酸化物や窒化物を微細化して、鋳片の健全性を保つため、その1種又は2種以上を含有させても良い。ただし、高価であるため、総含有量で0.005%以下とすることが好ましい。下限は不純物レベルでもよい。
【0038】
ここで、REMは、Sc、Yおよびランタノイドの合計17元素を指し、上記REMの含有量は、これらの元素の合計含有量を指す。ランタノイドの場合、工業的にはミッシュメタルの形で添加される。
【0039】
なお、鋼中に混入する「不純物」としてはS、N、Sn等が挙げられる。S、Nについては、できればその含有量を以下のように規制するのが望ましい。
【0040】
S:
Sは、硫化物系介在物を形成して加工性を低下させる不純物元素であるため、その含有量は0.05%以下に抑えるのが望ましい。そして、一段と優れた加工性を確保したい場合には0.008%以下とすることが好ましい。より好ましくは0.003%以下である。
【0041】
N:
Nは加工性を低下させる不純物元素であり、その含有量は0.01%以下に抑えることが望ましい。より好ましくは、0.006%以下である。
【0042】
(B)熱延鋼板の組織
本発明に係る方法により製造される熱延鋼板の組織は限定しない。しかし、本方法により製造される熱延鋼板は、体積率で30%以上の微細なフェライトまたはベイナイトまたはその双方を主相とし、第2相として、パーライト、マルテンサイト、残留オーステナイト、セメンタイト、その他炭化物を含有する組織を有するようになる。ここで「主相」とは組織を構成する相のうち該組織に占める割合が最大となる相であるという意味である。このような組織を有することによって、加工性が向上する。
【0043】
フェライトの結晶粒径(直径)は、熱延鋼板の機械特性と熱的安定性、さらには加工性に大きく影響するので、次に述べるようにすることが好ましい。
【0044】
C含有量が0.01%超である場合、本発明に係る熱延鋼板の鋼板表面から板厚の1/4の深さにおけるフェライトの平均結晶粒径D(μm)は、十分な強度と延性や熱的安定性さらには加工性が確保されることから、下記の式(1)および式(2)を満足することが好ましい:
1.2≦D≦7 ・・・・・ (1)式
D≦3.0+5000/(5+350・C+40・Mn)
2 ・・・ (2)式
(2)式におけるCおよびMnは鋼中のそれぞれの元素の含有量(質量%)である。
【0045】
すなわち、板厚の1/4の深さにおけるフェライトの平均結晶粒径Dは、1.2μmを下限とし、3.0+5000/(5+350・C+40・Mn)
2μmおよび7μmのうちの小さい方の値を上限とする範囲であることが好ましい。
【0046】
フェライトの平均結晶粒径Dが1.2μm未満では、加工硬化係数が極端に減少して延性や加工性が劣化するだけでなく、微細フェライト組織の熱的安定性も劣化して、高温下で容易に粒成長する。一方、フェライトの平均結晶粒径Dが3.0+5000/(5+350・C+40・Mn)
2μmおよび7μmのいずれかの値を超えると、十分な強度が得られなくなる。なお、ここでは15°以上の結晶方位差を持つ大角粒界で囲まれた領域を一つの結晶粒と定義し、15°未満の小角の粒界は粒界とは見なさない。
【0047】
ただし、C含有量が0.01%以下の極低炭素鋼では、D≦20とする。すなわち、このような極低炭素鋼の場合には、上記(2)式は適用されず、Dは、1.2≦D≦20を満たせばよい。
【0048】
(C)冷延鋼板の組織
本発明に係る方法により製造される冷延鋼板の組織は限定しない。しかし、本方法による冷延鋼板は、体積率で30%以上の微細なフェライトもしくはベイナイトもしくはその双方を主相とし、第2相として、パーライト、マルテンサイト、残留オーステナイト、セメンタイト、その他の炭化物を含有する組織を有するようになる。ここで「主相」とは組織を構成する相のうち該組織に占める割合が最大となる相であるという意味である。このような組織とすることによって、加工性が向上する。
【0049】
フェライトの結晶粒径(直径)は、冷延鋼板の機械特性と熱的安定性、さらには加工性に大きく影響するので、次に述べるようにすることが好ましい。
【0050】
本発明に係る冷延鋼板は、C含有量が0.03%以上であれば、鋼板表面から板厚の1/4の深さにおけるフェライトの平均結晶粒径D(μm)が下記式(3)式および式(4)を満足する一定の範囲に入ることが好ましく、これによって十分な強度と延性や熱的安定性さらには加工性が確保される。
【0051】
1.2≦D≦9.3 ・・・・・ (3)式
D≦5.0−2.0・Cr+5000/(5+350・C+40・Mn)
2・・・(4)式
(4)式におけるCr、C、Mnは鋼中のそれぞれの元素の含有量(質量%)である。
【0052】
すなわち、板厚の1/4の深さにおけるフェライトの平均結晶粒径Dは、1.2μmを下限とし、そして、D≦5.0−2.0・Cr+5000/(5+350・C+40・Mn)
2μmおよび9.3μmのうちの小さい方の値を上限とする範囲内であることが好ましい。
【0053】
ただし、C含有量が0.03%未満の低炭素鋼では、D≦20とする。すなわち、このような低炭素鋼の場合には、上記(3)式は適用されず、Dは、1.2≦D≦20を満たせばよい。
【0054】
(D)熱間圧延工程
熱間圧延工程における熱間圧延は、レバースミルまたはタンデムミルを用いて、オーステナイト温度域で行う。工業的生産性の観点からは、少なくとも圧延パスの最終数パスはタンデムミルを用いることが好ましい。熱間圧延に供する鋼材は、連続鋳造や鋳造・分塊により得たスラブ、ストリップキャスティングにより得た鋼板、必要によってはそれらに一度、熱間または冷間加工を加えたものを用い、それらが冷片であれば次に述べる温度に加熱して熱間圧延に供する。
【0055】
(熱間圧延に供する鋼材の温度:1000℃超1350℃以下)
熱間圧延に供する鋼材の温度が1000℃以下では、圧延荷重が過大になり、十分な圧下率による圧延が困難になるばかりか、十分な圧下率の圧延をAr
3点以上の温度で完了することも困難となり、所望の機械特性や熱的安定性を得ることが困難となる。したがって、熱間圧延に供する鋼材の温度は1000℃超とする。好ましくは1025℃以上、さらに好ましくは1050℃以上である。
【0056】
一方、熱間圧延に供する鋼材の温度が1350℃超では、オーステナイト粒が粗大化してしまい、目的とする微細な組織を得ることが困難となる。また、鋼材を加熱してから熱間圧延に供する場合には、設備費用や加熱燃料費が嵩む。したがって、熱間圧延に供する鋼材の温度は1350℃以下とする。好ましくは1250℃以下である。
【0057】
TiCやNbCなどの析出物をオーステナイト中に十分に固溶させる必要がない鋼種を用いる場合には、上記温度域の中でも比較的低温域である1050℃以上1150℃以下の温度域に再加熱することが好ましい。初期のオーステナイト結晶粒が微細化し、最終のフェライト結晶粒も微細化し易くなるからである。
【0058】
(熱間圧延温度:Ar
3点以上かつ815℃以上)
熱間圧延温度がAr
3点未満では、熱間圧延中にフェライト変態が生じてしまい、熱間圧延後常温迄の冷却過程においてオーステナイトからフェライトへと一気に変態させることで組織の微細化を図ることが困難となる。したがって、熱間圧延温度はAr
3点以上とする。
【0059】
また、熱間圧延温度が815℃未満では、圧延荷重が増大して十分な圧下を加えることが困難となるばかりか、圧延パス間におけるオーステナイトの再結晶が抑制されてしまい、オーステナイトの集合組織が発達し、最終製品である鋼板の異方性が増大し、さらには、圧延中に鋼材の表層部においてフェライト変態が生じる場合がある。したがって、熱間圧延温度は815℃以上とする。好ましくは830℃以上である。
【0060】
なお、0.01%以上のNb、0.03%以上のTi、または0.1%以上のVもしくはMoを含有する鋼材では、これらの元素の影響により、オーステナイトの再結晶が一層抑制されてしまうので、さらに高い温度である880℃以上で熱間圧延を施すことが好ましい。
【0061】
すなわち、熱間圧延温度の下限は、Ar
3点と815℃のいずれか高い方になる。通常は熱間圧延完了温度がこの下限を満たすように熱間圧延を実施すればよい。熱間圧延温度の上限は上に述べた熱間圧延に供する鋼材の温度となる。必要であれば、熱間圧延の途中で鋼材を再加熱することもできる。また、熱間圧延の途中で高圧水デスケーリングを実施してもよい。
【0062】
熱間圧延における総圧下量は、フェライトの微細化を促進するため板厚減少率で90%以上とすることが好ましい。さらに、好ましくは92%、特に好ましくは94%以上である。同様の観点から、圧延完了温度以上(圧延完了温度+100℃)以下の温度域における板厚減少率は40%以上とすることが好ましく、圧延完了温度以上(圧延完了温度+80℃)以下の温度域における板厚減少率を60%以上とすることがさらに好ましい。
【0063】
熱間圧延を多パス圧延により実施する場合、1パス当たりの圧下率を15%以上とすることにより、オーステナイトへの歪みを効率的に蓄積させることができ、熱間圧延後常温迄の冷却過程においてオーステナイトからフェライトへと変態させることで組織の微細化を図ることが容易になる。したがって、1パス当たりの圧下率は15%以上とすることが好ましい。また、1パス当たりの圧下率を60%以下とすることにより、圧延荷重の過度な増大が抑制されるので、圧延設備の大型化を避けることが可能になるばかりでなく、板形状の制御も容易になる。したがって、1パス当たりの圧下率は60%以下とすることが好ましい。本発明によれば、1パス当たりの圧下率を40%以下とした複数パスの圧延でも微細なフェライト結晶粒を得ることができる。したがって、特に板形状の制御を容易にしたいときには、最終の2パスの圧下率を40%/パス以下とすることが好ましい。
【0064】
(G)第1水冷工程
上記熱間圧延工程においてAr
3点以上かつ815℃以上の温度域で熱間圧延を完了した後、第1水冷工程として、熱間圧延完了後0.15秒間以内に、(熱間圧延完了温度−50℃)以下の温度域まで水冷する。このように熱間圧延完了後、極めて短時間で水冷を行うのは、熱間圧延によりオーステナイトに導入された加工歪みの解放が抑制されている間に、この歪みを駆動力として熱間圧延後常温迄の冷却過程においてオーステナイトからフェライトへと一気に変態させることで組織の微細化を図るためである。
【0065】
熱間圧延完了後(熱間圧延完了温度−50℃)以下の温度域まで水冷する時間が0.15秒間を超えると、熱間圧延によりオーステナイトに導入された加工歪みが解放されてしまい、組織の微細化を図ることが困難になる。したがって、熱間圧延完了後0.15秒間以内に(熱間圧延完了温度−50℃)以下の温度域まで水冷する。熱間圧延完了後0.1秒間以内に(熱間圧延完了温度−50℃)以下の温度域まで水冷することが好ましい。
【0066】
上記水冷は、0.05秒間以上の間隔を隔てた2以上の水冷からなるものとし、かつこの2以上の水冷の各々の水冷を、460℃/s超の冷却速度で20℃以上60℃以下の温度区間を冷却するものとすることが好ましい。このように第1水冷工程における水冷を分割することにより、冷却水の排水を効率よく行うことが可能となり、冷却能力を大幅に向上させるとともに、冷却に要する水量を軽減させることが可能となる。また、各々の水冷を460℃/s超の冷却速度で20℃以上60℃以下の温度区間を冷却するものとすることにより、熱間圧延によりオーステナイトに導入された加工歪みの解放をさらに抑制することができ、組織の微細化を一層図ることが可能となる。
【0067】
上記熱間圧延を施す最終の圧延機が複数の圧延スタンドを備えるタンデム式圧延機である場合には、上記タンデム式圧延機の最終圧延スタンドの一つ前の圧延スタンドにおいて上記熱間圧延を完了し、熱間圧延完了後0.15秒間以内に(熱間圧延完了温度−50℃)以下の温度域まで水冷する水冷の一部または全部を、上記タンデム式圧延機の最終圧延スタンドの一つ前の圧延スタンドから最終スタンドまでのパス間において行ってもよい。このとき最終圧延スタンドは、水切りのために鋼板との接触を目的としたダミー圧延機として用いてもよく、10%以下の軽圧下圧延機として用いてもよい。最終圧延スタンドにおける圧下率は5%以下とすることが好ましく、2%以下とすることがさらに好ましい。
【0068】
最終圧延スタンドを軽圧下圧延機として用いると、上記水冷開始直前の圧延パスの圧下率を高めることが容易になり、オーステナイトへの歪みを効率的に蓄積させることができ、熱間圧延後常温迄の冷却過程においてオーステナイトからフェライトへと変態させることで組織の微細化を図ることが一層容易になる。なぜなら、最終圧延スタンドの一つ前の圧延スタンドにおいて高圧下圧延により板の形状が悪化しても、最終圧延スタンドの軽圧下圧延により再度形状制御を行うことが可能となるからである。また、熱間圧延完了後0.15秒間以内に(熱間圧延完了温度−50℃)以下の温度域まで水冷する水冷の一部を、上記タンデム式圧延機の最終圧延スタンドの一つ前の圧延スタンドから最終スタンドまでのパス間において行うことにより、第1水冷工程における水冷を分割することが容易になる。
【0069】
(H)水冷停止工程
上記第1水冷工程の後、760℃超の温度域で0.3秒間以上1.0秒間未満連続して水冷を停止する。水冷を停止している間は、大気放冷としてもよく、または空冷としてもよい。このように水冷を停止するにことよって、冷却の温度ばらつきを軽減させることができ、材料の特性の均一性が向上する。また、この水冷停止区間を利用して、板厚、板形状、板温等の計測を行うことにより、加速圧延を行うことが可能になり、生産性が飛躍的に高まる。
【0070】
上記水冷停止の時間が0.3秒間未満では、冷却の温度ばらつきを十分に軽減することが困難となり、材料の特性の均一性を向上させることが困難となる。また、この水冷停止区間を利用して、板厚、板形状、板温等の計測を行うことが困難となり、加速圧延による生産性の向上を望むことが困難となる。したがって、上記水冷停止の時間が0.3秒間以上とする。好ましくは0.4秒以上である。
【0071】
一方、上記水冷停止の時間が1.0秒間以上では、熱間圧延によりオーステナイトに導入された加工歪みが解放されてしまい、組織の微細化を図ることが困難になる。したがって、上記水冷停止の時間は1.0秒間未満とする。好ましくは0.8秒間未満である。また、上記水冷停止の温度が760℃以下の場合は、フェライト変態が高温域において進行してしまうため、組織の微細化を図ることが困難になる。したがって、上記水冷停止の温度は760℃超とする。
【0072】
(I)第2水冷工程
上記水冷停止工程の後、再度水冷を施して、熱間圧延完了後3.0秒間以内に750℃以下の温度域まで冷却する。
【0073】
熱間圧延完了後750℃以下の温度域まで冷却するのに要する時間が3.0秒間超の場合も、フェライト変態が高温域において進行してしまうため、組織の微細化を図ることが困難になる。したがって、熱間圧延完了後750℃以下の温度域まで冷却するのに要する時間は3.0秒間以下とする。この時間は好ましくは2.5秒間以下、さらに好ましくは2.0秒間以下である。
【0074】
高温域におけるフェライト変態をさらに抑制し、一層の組織の微細化を図る観点からは、上記水冷停止工程の後に施す水冷は、100℃/s以上の冷却速度で720℃以下の温度域まで冷却するものであることが好ましい。上記冷却速度は150℃/s以上であることがさらに好ましく、200℃/s以上であることが特に好ましい。
【0075】
温度が720℃以下に達すると、フェライト変態が特に活発化する変態温度域に入る。上記のフェライト組織が得られるフェライト変態温度域は、この720℃から600℃までの間の温度域である。したがって、720℃以下に達した後、冷却を一次停止、もしくはその速度を鈍化させて、この温度域で1秒間以上保持することによって、上記の熱的に安定なフェライト結晶粒組織をより確実に得ることができる。この温度域での保持時間が短いと上記の熱的に安定なフェライト結晶粒組織の形成が阻害されるおそれがある。より好ましくは、620℃以上700℃以下の温度域で2秒間以上滞留させるのがよい。微細なベイナイト組織とするには620℃以下まで冷却した後、冷却を一次停止、もしくはその速度を鈍化させることが好ましい。
【0076】
微細なフェライト結晶粒組織を主相とし、その中に体積率で5%以上のマルテンサイトを分散させた複相組織鋼とする場合は、上述の600℃以上720℃以下、好ましくは620℃以上700℃以下の温度域での保持の後、350℃以下の温度域まで冷却することが好ましい。40℃/s以上の冷却速度で250℃以下の温度まで冷却するのが、より好ましい。なお、350℃以下の温度までの冷却を20℃/s以下の冷却速度で行うと、ベイナイトが発生し易くなって、マルテンサイト生成を阻害するおそれがある。
【0077】
一方、微細なフェライト結晶粒組織を主相とし、体積率で3〜30%の残留オーステナイトが分散した複相組織鋼とする場合は、上述の600℃以上720℃以下、好ましくは620℃以上700℃以下の温度域での保持の後、20℃/s以上の冷却速度で350℃以上500℃以下の温度域まで冷却し、その後、60℃/h以下の冷却速度で徐冷することが好ましい。400℃以上500℃以下の温度域までの冷却速度は50℃/s以上とすることがより好ましい。
【0078】
(J)冷却設備
本発明において、上記の冷却を行う設備は限定されない。工業的には、水量密度の高い水スプレー装置を用いることが好適である。例えば、圧延板搬送ローラーの間に水スプレーヘッダーを配置し、板の上下から十分な水量密度の高圧水を噴射することで冷却することができる。
【0079】
(K)冷延鋼板の製造方法
上記製造方法により得られた熱延鋼板は、微細な組織を有するとともに熱的安定性に優れているので、斯かる熱延鋼板に、酸洗処理、冷間圧延処理および焼鈍処理を施すことにより得られる冷延鋼板もまた、微細な組織を有するとともに熱的安定性に優れている。ここで、酸洗処理は常法で構わないが、冷間圧延処理の圧下率は35%以上とし、焼鈍処理の焼鈍温度は1000℃以下とする。冷間圧延の圧下率が35%未満であったり、焼鈍処理の焼鈍温度が1000℃超であったりすると、粒成長が過度に促進され、組織が粗大化する場合があるからである。
【0080】
(L)その他
本発明に係る方法で製造された熱延鋼板および冷延鋼板は、めっきを施してめっき鋼板とすることができる。適用されるめっき種に制限はないが、典型的には亜鉛または亜鉛合金めっきであり、電気めっきと溶融めっきのいずれのめっきであってもよい。また、裸の熱延鋼板もしくは冷延鋼板またはめっき鋼板に、化成処理、潤滑処理、塗装処理などを常法に従って施すこともできる。
【実施例1】
【0081】
表1に示す化学組成を有する鋼を溶製して鋳造した後、熱間鍛造によって30〜40mm厚さの鋼片とした。得られた鋼片を1100〜1250℃に加熱し、試験用小型タンデムミルにて表2に示す条件で熱間圧延を施して、1.7〜2.0mmの板厚に仕上げた。このとき、[圧延完了温度+100℃]から圧延完了温度までの温度域における圧下率は、板厚減少率で60〜80%とした。
【0082】
表2に示す熱延条件からかわかるように、すべての圧延において、圧延完了温度は、各鋼種のAr
3点よりも高い温度とし、さらに、圧延完了温度以上(圧延完了温度+100℃)以下の温度域内で3パス以上の多パス圧延を行なった。表2には、総圧下率および最終3パスの圧下率を示す。
【0083】
圧延完了後の水冷による冷却は、表2に示すように、第一次冷却、第二次冷却、および第三次冷却により行い、場合により第三次冷却を省略するか、或いは第三次冷却後の第四次冷却を実施した。第一次冷却が本方法における第1水冷工程に相当し、第二次冷却以降が本方法における第2水冷工程に相当する。
【0084】
得られた熱延鋼板について、SEM(走査型電子顕微鏡)およびEBSD(電子線後方散乱回折)法を用いて、鋼板板厚の断面を観察し、第二相の組織を調査するとともに、それぞれ鋼板表面から100μm深さ位置、1/4深さ位置および板厚中心位置におけるフェライトの平均粒径Ds、D、Dcを求めるとともに、1/4深さ位置におけるフェライト相およびベイナイト相の面積率を測定した。SEMによる金属組織観察は、実施例4に述べる方法で実施した。EBSD観察では、15゜以上の結晶方位差で囲まれた領域を一つの結晶粒と定義して算出した。
【0085】
機械的性質については、圧延方向と直交する方向から採取したJIS5号引張試験片を用いて常温引張試験を行い、引張強度TS、降伏強度YSおよび全伸びElを評価した。
【0086】
表3に、鋼組織および機械特性の調査結果を示す。第二相の種類を示す残部組織の欄において、Mはマルテンサイト、θはセメンタイト、Pはパーライトをそれぞれ意味する。
【0087】
【表1】
【0088】
【表2】
【0089】
【表3】
【0090】
表2、3からわかるように、試験番号2および10は熱間圧延完了から(熱間圧延完了温度−50℃)以下の温度域まで水冷する時間が0.15秒超のため、試験番号3、4および10は第一次冷却停止後の水冷停止時間が1.0秒超のため、主相組織が十分に細粒化しておらず、フェライト平均粒径Dは(2)式を満たしていなかった。そのため、これら比較例の熱延鋼板は、本発明に従って製造された発明例の熱延鋼板と比較して、特に降伏強度(YS)および引張強度×全伸び(TS×El)が低く、機械特性に劣っていた。
【実施例2】
【0091】
実施例1の試験番号4、6、9、10の熱延鋼板を母材とし、この母材に表4に記載する条件で冷間圧延および焼鈍を施して冷延鋼板を作成した。その鋼板の組織について、実施例1記載の方法で調査した。また、機械的性質については、圧延方向と平行に採取したJIS5号引張試験片を用いて常温引張試験を行い、引張強度TS、降伏強度YSおよび全伸びElを評価した。その結果を表4に併記する。本発明の方法によって、冷延鋼板についても微細組織が得られることがわかる。比較例の冷延鋼板は、特に降伏強度が低くなった。
【0092】
【表4】
【実施例3】
【0093】
表5に示す化学組成の鋼片を、1250℃に加熱した後、実験圧延機を使用して、表6に示す条件で熱間圧延および冷却制御を行った。第三次冷却(試験番号8と15は第二次冷却)終了後、冷却停止温度に保持した電気炉に装入し、その温度で30分保持した後、20℃/時で冷却することで熱延巻取りをシミュレーションした。
【0094】
得られた熱延鋼板の組織は、走査型電子顕微鏡を用いて板厚の断面を観察することにより調べた。フェライトの平均粒径Dについては、鋼板表面から板厚の1/4深さ位置をEBSD法で評価し、15゜以上の結晶方位差で囲まれた領域を一つの結晶粒と定義して算出した。
【0095】
残留オーステナイトの体積率は、鋼板表面から板厚の1/4深さ位置についてX線回折測定により求めた。
【0096】
機械的性質については、引張り特性および穴拡げ性を以下の方法で調査した。引張り特性は、圧延方向と平行に採取したJIS5号試験片を用いて常温引張り試験を行うことにより、引張強度(TS)および全伸び(El)を測定した。穴拡げ性は、熱延鋼板から縦横100mmの正方形の試験片を採取し、その中央にポンチにて直径10mmの打ち抜き穴をあけ、先端角60°の円錐ポンチでこの穴を拡げて、穴の縁にクラックが貫通した時の穴直径から計算される限界穴拡げ率(λ)で評価した。表7に製造された各熱延鋼板の組織と機械特性の評価結果を示す。
【0097】
【表5】
【0098】
【表6】
【0099】
【表7】
【0100】
本発明に従って製造された試験番号1〜7、12、14、16の熱延鋼板は、フェライト平均粒径が2.8μm以下の微細粒組織を有しており、その結果としてTS×El>24000MPa%の強度−延性バランスおよびTS
1.7×λ>5000000MPa
1.7%の強度−穴拡げ性バランスを有し、延性と伸びフランジ性の両方に優れていた。
【0101】
これに対し、比較例の熱延鋼板は、フェライト平均粒径が4.1μm以上と本発明に比べて粗粒であり、TS×ElまたはTS
1.7×λの特性が低く、強度と延性および/または伸びフランジ性とのバランスが劣っていた。
【実施例4】
【0102】
表8に示す化学組成の鋼片を、1250℃に加熱した後、実験圧延機を使用して、表9に示す条件で熱間圧延および冷却制御を行った。第三次冷却(試験番号8は第二次冷却)終了後、冷却停止温度に保持した電気炉に装入し、その温度で30分保持した後、20℃/hで冷却することで熱延巻取りをシミュレーションした。熱延鋼板の板厚は2mmとした。
【0103】
得られた熱延鋼板の組織は、走査型電子顕微鏡を用いて板厚の断面を観察することにより調べた。bcc粒の平均粒径については、鋼板表面から板厚の1/4深さ位置をEBSP法で評価し、15゜以上の結晶方位差で囲まれた領域を一つの結晶粒と定義して算出した。表9に熱延板のbcc粒の平均粒径を併記する。
【0104】
得られた熱延鋼板を酸洗して冷間圧延母材とし、圧下率50%で冷間圧延を施し、厚さ1.0mmの冷延鋼板を得た。連続焼鈍シミュレーターを用いて、得られた冷延鋼板を、10℃/sの加熱速度で550℃まで加熱した後、2℃/sの加熱速度で表10に示す種々の均熱温度まで加熱し、この温度で95秒間均熱した。その後、700℃まで2℃/sで一次冷却し、さらに平均冷却速度を60℃/sとして、表3に示す種々の冷却停止温度まで二次冷却し、その温度に330秒間保持した後、室温まで冷却して焼鈍鋼板を得た。
【0105】
焼鈍鋼板からSEM観察用試験片を採取し、圧延方向に平行な縦断面を研磨した後、ナイタールで腐食処理し、鋼板表面から板厚の1/4深さ位置における金属組織を観察し、画像処理により、ベイナイト、マルテンサイト、ポリゴナルフェライトの面積率を測定した。また、鋼板表面から板厚の1/4深さ位置についてX線回折測定を行い、残留オーステナイトの体積率を求めた。
【0106】
焼鈍鋼板の機械的性質については、以下のように評価した。引張強度(TS)、全伸び(El)は、焼鈍鋼板から圧延方向と直交する方向に沿ってJIS5号引張試験片を採取し、引張試験により求めた。穴拡げ率(λ)は、実施例4に記載したのと同じ方法で測定した。表10に、焼鈍鋼板の金属組織観察結果および性能評価結果を示す。
【0107】
【表8】
【0108】
【表9】
【0109】
【表10】
【0110】
本発明に従って製造された試験番号1〜3、5、6、10〜15の熱延鋼板は、bcc粒の平均粒径が4.5μm以下の微細粒組織を有していた。その結果として、この熱延鋼板を母材として冷間圧延および焼鈍後にえられた焼鈍鋼板も、機械特性に優れ、TS×El>19500MPa%の強度−延性バランスおよびTS
1.7×λ>5500000MPa
1.7%の強度−穴拡げ性バランスを有し、延性と伸びフランジ性の両方に優れていた。
【0111】
これに対し、比較例の熱延鋼板は、フェライト平均粒径Dが5.8μm以上と本発明に比べて粗粒であり、焼鈍鋼板のTS×ElまたはTS
1.7×λが低く、延性と伸びフランジ性とのバランスが劣っていた。
【実施例5】
【0112】
表11に示す化学組成の鋼片を、1200℃に加熱した後、実験圧延機を使用して、表12に示す条件で熱間圧延、冷却制御および巻取りシミュレーションを行い、板厚3.5mmの熱延鋼板を得た。ここで、冷却停止後の温度から、巻取りシミュレーションの温度までは放冷を行った。得られた熱延鋼板について、実施例3に記載したのと同様の方法で、板厚1/4深さ位置でのフェライト平均粒径Dを求めた。
【0113】
一部の熱延鋼板について、表面のスケールを酸洗により除去した後、圧下率80%の冷間圧延をして板厚0.7mmとした。得られた冷延鋼板に焼鈍温度820℃、均熱時間30秒の焼鈍を施した後、1%の調質圧延を行って、焼鈍鋼板を得た。
【0114】
巻取りシミュレーションとは、巻取り温度まで冷却した鋼板を、巻取り温度に相当する温度に保持した電気炉に装入し、その温度で30分保持した後、20℃/時で冷却することにより行うものであり、巻取り後の温度履歴を模擬したものである。
【0115】
上記の焼鈍ずみ冷延鋼板について、圧延方向に対して0°、45°および90°方向のJIS5号試験片を採取して引張試験を行い、圧延方向に対して0°、45°および90°方向のr値(それぞれ、r0、r45およびr90と表記する)を求めた。これらの値より、次式で平均r値を求めた:
平均r値=(r0+r90+r45×2)/4
試験結果を表12に併せて示す。表12において、平均r値の欄に記載がない試験番号は、引張試験を実施しなかったことを意味する。
【0116】
【表11】
【0117】
【表12】
【0118】
表12から明らかなように、本発明に従って製造された試験番号2〜3、5〜7および9では、比較例である試験番号1、4および8に比べ、熱延鋼板において、顕著な細粒化効果が得られた。また、本発明の条件を満たす試験番号2〜3および9の熱延鋼板に、冷間圧延と焼鈍を施した冷延鋼板では、本発明の条件を外れる試験番号1および8の熱延鋼板に冷間圧延と焼鈍を施した冷延鋼板に比べ、平均r値が顕著に向上した。従って、深絞り加工性が向上していた。