(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1の車両用無線通信装置1は、アンテナモジュール100とECU200とを備えており、車車間通信および路車間通信の両方またはいずれかを行なう無線通信装置である。車車間通信および路車間通信の通信周波数には、たとえば5.9GHz帯が用いられる。
【0011】
まず、アンテナモジュール100の構成を説明する。アンテナモジュール100は、車車間通信および路車間通信用の構成として、2つのアンテナ110A、110B、3つの切り替え回路120A、120B、120C、分配器130、移相器140、2つのローノイズアンプ150A、150B、パワーアンプ160を備える。
【0012】
それ以外に、このアンテナモジュール100は、GNSS(Global Navigation Satellite Systems)用アンテナ170、ローノイズアンプ180、携帯電話回線用アンテナ190を備える。GNSS用アンテナ170はローノイズアンプ180に接続され、そのローノイズアンプ180は同軸ケーブル30に接続されている。電話回線用アンテナ190は同軸ケーブル40に接続されている。
【0013】
2つのアンテナ110A、110Bは、受信および送信の両方に用いられる。受信時には、切り替え回路120Aにより、アンテナ110Aとローノイズアンプ150Aが接続される。このローノイズアンプ150Aは同軸ケーブル10によりECU200と接続されている。
【0014】
また、受信時には、切りえ回路120Bにより、アンテナ110Bとローノイズアンプ150Bが接続される。また、受信時は、ローノイズアンプ150Bは切り替え回路120Cにより同軸ケーブル20に接続される。したがって、受信時は、2つのアンテナ110A、110Bが用いられる。なお、切り替え回路120A、120B、120Cは、ECU200が備えているアンテナ切り替えスイッチ240により接続位置が切り替えられる。
【0015】
送信時は、切り替え回路120Cは同軸ケーブル20とパワーアンプ160を接続する。パワーアンプ160は分配器130に接続されている。分配器130はパワーアンプ160から入力された信号を、アンテナ110Aとアンテナ110Bへ分配する。
【0016】
分配器130とアンテナ110Aの間には、切り替え回路120Aが位置しており、送信時は、切り替え回路120Aは分配器130とアンテナ110Aとを接続する。分配器130とアンテナ110Bとの間にも切り替え回路120Bが設けられており、送信時、切り替え回路120Bは分配器130とアンテナ110Bとを接続する。
【0017】
また、分配器130とアンテナ110Bとの間には、切り替え回路120Bに加えて、その切り替え回路120Bよりも分配器130側に移相器140が設けられている。この移相器140により位相が変化させられた信号がアンテナ110Bへ送られる。一方、アンテナ110Aと分配器130との間には移相器は設けられていない。したがって、アンテナ110Aから送信される電波の位相とアンテナ110Bから送信される電波の位相は互いに異なった位相となる。
【0018】
次に、ECU200の構成を説明する。ECU200は、演算部210、通信チップ220、切り替え回路230、アンテナ切り替えスイッチ240、GNSS受信部250、セキュリティアクセスモジュール(SAM)260、携帯電話送受信部270、電源280を備える。
【0019】
GNSS受信部250は、同軸ケーブル30を介してGNSS用アンテナ170と接続されており、GNSS用アンテナ170から供給される信号をろ波、増幅、復調して受信データを演算部210へ供給する。SAM260は、車車間通信または路車間通信により送受信する信号を暗号化、復号化する。携帯電話送受信部270は、同軸ケーブル40を介して携帯電話回線用アンテナ190と接続されており、携帯電話回線へ接続するための送受信機能を持つ。携帯電話回線への送信データは演算部210から入力され、また、携帯電話回線からの受信データは演算部210へ出力される。電源280は、このECU200の内部の種々の構成部品に電力を供給するとともに、アンテナモジュール100の構成部品にも電力を供給する。
【0020】
演算部210は、CPU211、メモリ212、インターフェース(I/F)213を備える。このメモリ212は不揮発性であり、後述する移相量情報が記憶される。図示していないが、これ以外に揮発性メモリも備えられている。I/F213は車両内の通信ネットワークであるCAN300に接続されている。演算部210は、I/F213およびCAN300を介して車両内の種々の情報を取得し、または車両内の機器へ情報提供できる。
【0021】
通信チップ220は、2つの受信部221、222、送信部223、ベースバンド部224を備える。本実施形態では、IEEE802.11pの通信規格により車車間通信および路車間通信を行なう仕様となっている。
【0022】
受信部221は、同軸ケーブル10と接続されており、この同軸ケーブル10を介してアンテナ110Aが受信した信号が入力される。受信部221は、入力される信号をろ波、増幅してベースバンド部224へ送る。もう一つの受信部222も、機能は上述の受信部221と同じである。この受信部222は、切り替え回路230、同軸ケーブル20を介してアンテナ110Bと接続される。
【0023】
送信部223も切り替え回路230と接続されている。切り替え回路230は、受信部222と同軸ケーブル20とが接続された状態と、送信部223と同軸ケーブル20とが接続された状態とを切り替える。この切り替え回路230は、アンテナ切り替えスイッチ240により接続状態が切り替えられる。アンテナ切り替えスイッチ240は通信チップ220の通信状態をもとにした送受信の切り替えの機能を持つ。ベースバンド部224は、変調、復調を行なう。受信時は、受信ダイバーシティ(ここでは最大比合成ダイバーシティ)が行われる。
【0024】
上記構成の通信チップ220は、演算部210との間で相互に通信が可能となっている。電波受信時、電波送信時とも、通信チップ200と演算部210との相互の通信が行われる。
【0025】
図2に車両用無線通信装置1の搭載状態を示している。この図はアンテナ110A、110Bと車両ルーフ2との位置関係を示すための図であり、ECU200やアンテナモジュール100が備える部品のうちアンテナ110A、110B以外は省略してある。
【0026】
図2に示すように、車両用無線通信装置1は、外観デザイン上の理由により、車両前方から車両後方にかけて流線形を有する形状(いわゆるシャークフィン形状)に形成されている。
【0027】
地板4は、略長方形をなす平面形状であり金属板により構成される。車両用無線通信装置1が車両ルーフ2のルーフ面2aに搭載された状態では、地板4は車両ルーフ2のルーフ面2aに沿う。地板4の上面部である地板面4aには樹脂からなる平面形状の基板5が略垂直(垂直に近い状態も含む)に立設されている。
【0028】
基板5の一方側の面5aにはアンテナグランド6が導体パターン(導体膜)により形成されていると共に、アンテナグランド6と地板4とを電気的に接続する接続部7が導体パターンにより形成されている。すなわち、アンテナグランド6は、地板4の地板面4aから所定間隔を存して形成されており、接続部7により地板4と同電位となっている。なお、アンテナグランド6は、垂直方向および水平方向の双方にある程度の幅を有する矩形状に形成されている。
【0029】
アンテナグランド6の上端部6aにアンテナ110Aが接続されている。アンテナ110Aは、垂直偏波を送受信する直線形状のモノポール型であり、基端部110Aaが電気的に接続されている。
【0030】
アンテナ110Aは、その基端部110Aaから先端部110Abに向かうにしたがってアンテナグランド6から略垂直方向に離れるように接続されている。アンテナ110の長さ(エレメント長)は、電気的に「1/4」波長であり、例えば5.9GHz帯の電波の波長に対して「1/4」を乗じ、更に基板5の材質の比誘電率による波長短縮率を乗じた長さである。
【0031】
また、アンテナ110の基端部110Aaにはアンテナ110に電力を供給する給電点9が設けられている。アンテナ110Aは、地板面4aから基端部110Aaまでの高さが約40[mm]となる位置に設けられている。
【0032】
同様に、アンテナグランド6の下端部6bには、アンテナ110Bが接続されている。アンテナ110Bも、垂直偏波を送受信する直線形状のモノポール型であり、基端部110Baが電気的に接続されている。
【0033】
アンテナ110Bは、その基端部110Baから先端部110Bbに向かうにしたがってアンテナグランド6から略垂直方向に離れるように接続されている。アンテナ110Bの長さ(エレメント長)も、電気的に「1/4」波長であり、例えば5.9GHz帯の電波の波長に対して「1/4」を乗じ、更に基板5の材質の比誘電率による波長短縮率を乗じた長さである。
【0034】
また、アンテナ110Bの基端部110Baにはアンテナ110Bに電力を供給する給電点12が設けられている。アンテナ110Bは、地板面4aから基端部110Baまでの高さが約20[mm]となる位置に設けられている。
【0035】
アンテナ110A、110Bのそれぞれの軸は、アンテナグランド6の中心部6cから水平方向にずれている。アンテナグランド6の水平方向の幅は、例えば5.9GHz帯の電波の波長に対して「1/4」を乗じ、更に基板5の材質の比誘電率による波長短縮率を乗じた長さよりも広いことが望ましい。また、給電点9および12同士の間隔は、空間ダイバーシティとしてのアンテナ110および11同士の相関を抑制するように、例えば5.9GHz帯の電波の波長に対して「1/2」を乗じ、更に基板5の材質の比誘電率による波長短縮率を乗じた長さよりも広いことが望ましい。
【0036】
図3には、
図2に示した構成におけるアンテナ110Aおよび110Bの水平面指向性のシミュレーション結果を示す。ただし、本実施形態では、
図3にそれぞれ指向性を示したアンテナ110A、110Bを択一的に用いて送信を行なうのではなく、移相器140により位相差が生じるようにしつつ、2つのアンテナ110A、110Bから電波を放射する。
【0037】
移相器140によりアンテナ110Bから放射する位相を調整することにより、2つのアンテナ110A、110Bからの放射を合成した合成放射特性(合成指向性)を変化させることができる。
【0038】
また、
図2に示すように、2つのアンテナ110A、110Bは、水平方向の位置が互いに異なり、且つ、車両前後方向の位置も互いに異なる。このように2つのアンテナ110A、110Bが配置されていると、移相器140で位相差を生じさせることにより、水平面の指向性および垂直面の指向性をともに変化させることができる。
【0039】
図4に水平面の指向性の変化を示す。また、
図5に垂直面の指向性の変化を示す。なお、
図4、
図5では、いずれも下側のアンテナ110Bの位相を進めている。
図4から分かるように、移相器140により位相差を調整することで、水平面の指向性を、前方指向性としたり、無指向性としたり、後方指向性としたりすることができる。なお、無指向性とは、完全な無指向性にかぎらず、それに近い状態とみなせるものも含む。
【0040】
また、
図5から分かるように、移相器140により位相差を調整することで、垂直面の指向性を仰角小としたり、仰角大としたりすることもできる。
【0041】
このように、第1実施形態の車両用無線通信装置1は、分配器130を備えており、受信ダイバーシティを行う際に用いる2つのアンテナ110A、110Bを、ともに送信時にも用いて送信を行なっている。しかも、一方のアンテナ110Bと分配器130との間に移相器140を設けており、この移相器140の移相量を調整することで合成指向性を変化させて、設置状態の角度等に応じた適切な指向性とすることができる。よって、送信性能が向上する。
【0042】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態を説明する。なお、第2実施形態以下の説明において、それまでに使用した符号と同一番号の符号を有する要素は、特に言及する場合を除き、それ以前の実施形態における同一符号の要素と同一の要素である。
【0043】
図6に示す第2実施形態のアンテナモジュール100−1は、第1実施形態のアンテナモジュール100の構成を全て備えている。加えて、DCカップリング部112、電源部114、3つのバンドパスフィルタ(BPF)122、124、126、送信電力検出部128、キャリアセンス部132、切り替え制御部134を備えている。また、アンテナ110A(
図6には図示せず)と切り替え回路120Aとの間は同軸ケーブル50で接続され、アンテナ110B(
図6には図示せず)と切り替え回路120Bとの間は同軸ケーブル60で接続されている。
【0044】
DCカップリング部112は切り替え回路120Cと同軸ケーブル20との間の信号線路に接続されており、上記伝送線路の信号がDCカップリング部112を介して電源部114に入力される。
【0045】
バンドパスフィルタ122、124、126は、いずれも、アンプ150A、150B、160とアンテナ110A、110Bとの間に設けられており、不要な輻射を抑制あるいは受信帯域外信号による被干渉を抑制するためのものである。送信電力検出部128は、送信電力モニター信号をECU200内の通信チップ220へ送信する。通信チップ220はこの送信電力モニター信号に応じて出力電力を調整する。
【0046】
切り替え制御部134は切り替え回路120A〜Cの接続状態を切り替える制御を行う。キャリアセンス部132は、同軸ケーブル20により入力される送信信号を検出し、送信中かどうかの判断を行う。切り替え制御部134はキャリアセンス部132の判断結果を用いて切り替え回路120A〜Cの接続状態を制御する。なお、第2実施形態では、この切り替え制御部134により切り替え回路120A〜Cの接続状態が切り替えられるので、ECU200には、アンテナ切り替えスイッチ240は備えられていない。
【0047】
(第3実施形態)
図7のアンテナモジュール100−2において、移相器140は電子的に移相量が制御可能な構成である。この移相器140に、ECU200から移相量を指示する制御値が入力される。その他の構成は
図6と同じである。
【0048】
この第3実施形態では、移相器140の移相量をECU200が制御することができるので、車両に搭載された後、通信環境に応じた適切な指向性で電波を送信することができるようになる。
【0049】
(第4実施形態)
図8に第4実施形態の車両用無線通信装置1−1の構成を示す。
図8に示すように、第1実施形態ではアンテナモジュール100が備えていた切り替え回路120A、120B、分配器130、移相器140、ローノイズアンプ150A、150B、パワーアンプ160を、この第4実施形態ではECU200−1が備える。
【0050】
この第4実施形態のように、分配器130、移相器140、送受信アンプ(ローノイズアンプ150A、150B、パワーアンプ160)等を、ECU200−1が備える構成でもよい。
【0051】
(第5実施形態)
図9に示す第5実施形態では、移相器140は電子的に移相量が制御可能な構成である。この移相器140に、演算部210から移相量を指示する制御値が入力される。
【0052】
また、アンテナモジュール100−2は、これまでの実施形態と同じように、2つのアンテナ110A、110Bを備えており、それら2つのアンテナ110A、110Bに対して、それぞれ、4つの切り替え回路120D、E、F、G、1つのローノイズアンプ150C、150D、1つのパワーアンプ161A、Bを備える。
【0053】
なお、この
図9では省略しているが、4つの切り替え回路120D、E、F、Gは、いずれも、ECU200−1のアンテナ切り替えスイッチ240により切り替え制御される。
【0054】
各アンテナ110Aに対してそれぞれ備えられている2つの切り替え回路120D、EF、Gにより、送信時は、アンテナ110A、110Bは、パワーアンプ161A、161Bに接続される。
【0055】
送信時に、2つのアンテナ110A、110Bにそれぞれパワーアンプ161A、161Bが接続されることにより、総送信電力を容易に上げることができる。なお、このように構成すると、同軸ケーブル10、20の長さやパワーアンプ161A,161Bの特性の違いにより移相量が変化してしまう。そこで移相器140の移相量の調整を演算部210が行なうように構成している。
【0056】
(第6実施形態)
以下の実施形態は、移相器140の移相量の設定方法を示す実施形態である。これまでに説明した実施形態のうち、移相器140の位相量を調整可能な構成であれば、どの構成でも、以下の実施形態において用いることができる。また、以下に説明するフローチャートの各ステップは、移相量情報を入力するステップを除き、ECU200の演算部210が実行する。
【0057】
第6実施形態では、製造時、取り付け時など、通信前に
図10に示す処理を行い、実際の通信時に
図11に示す処理を行なう。
図10において、ステップS1では、移相量情報を作業者が所定の入力装置から入力する。入力した移相量情報はメモリ212に記憶される(ステップS2)。
【0058】
通信時には、
図11に示すように、移相量情報をメモリ212から読み出して(ステップS11)、その読み出した移相量情報に基づいて、移相量制御のための制御値を設定する(ステップS12)。この制御値を移相器140へ入力する。
【0059】
(第7実施形態)
第7実施形態では、前述の
図10、
図11に代えて、
図12、
図13に示す処理を実行する。
図12は、
図10と同様、通信前に予め行なう。ステップS21では、路車間通信用の移相量情報を入力する。入力した路車間通信用の移相量情報はメモリ212に記憶される(ステップS22)。
【0060】
次いで、車車間通信用の移相量情報を入力する(ステップS23)。入力した車車間通信用の移相量情報もメモリ212に記憶される(ステップS24)。なお、路車間通信用の移相量情報および車車間通信用の移相量情報は、予め実験に基づいてどのような値がよいかを決定しておく。
【0061】
通信時には、
図13に示すように、まず、路車間通信か否かを判断する(ステップS31)。この判断は、たとえば、送信する信号の種類により行なう。他車両に対する信号であればこの判断がNOになり、路側機に対する信号であればこの判断がYESになる。なお、送信する信号が定まる前に、種々の条件(たとえば、場所、受信信号の送信装置が車載機であるか路側機であるかなど)で、この判断を行なってもよい。
【0062】
路車間通信であれば(S31:YES)、路車間通信用の移相量情報をメモリ212から読み出す(ステップS32)。一方、車車間通信であれば(S31:NO)、路車間通信用の移相量情報をメモリ212から読み出す(ステップS33)。
【0063】
ステップS32あるいはS33を実行したら、読み出した移相量情報に基づいて、移相量制御のための制御値を設定する(ステップS34)。
【0064】
このようにすれば、車車間通信の場合も、路車間通信の場合も、同じアンテナ110A、110Bを用いつつ、それぞれの通信に適した送信指向性で電波を送信することができる。
【0066】
図14において、ステップS41では、仰角大通信用の移相量情報を入力する。入力した仰角大通信用の移相量情報はメモリ212に記憶される(ステップS42)。ステップS43では、仰角小通信用の移相量情報を入力する。入力した仰角小通信用の移相量情報もメモリ212に記憶される(ステップS44)。なお、仰角大および仰角小は、一方が他方に対して仰角大あるいは小であることを意味し、仰角大通信用の移相量情報および仰角小通信用の移相量情報は、たとえば、
図5に示す位相差30°、270°である。
【0067】
通信時には、
図15に示すように、まず、CAN300とI/F213を介して車速情報を読み込む(ステップS51)。そして、その車速情報から、所定車速を超える高速走行中か否かを判断する(ステップS52)。
【0068】
高速走行中と判断すれば(S52:YES)、ステップS53に進んで仰角小用の移相量情報をメモリ212から読み出す。一方、高速走行中でないと判断すれば(S52:NO)、ステップS54に進んで仰角大用の移相量情報をメモリ212から読み出す。
【0069】
ステップS55では、ステップS53あるいはS54で読み出した移相量情報に基づいて、移相量制御のための制御値を設定する。なお、高速走行中か否かは市街地を走行中か否かを判断するために行なっている。高速走行中(市街地ではない場所を走行中)である場合に仰角
小とし、
低速走行中(市街地を走行中)は仰角
大とするのは、市街地では仰角大のほうが良好に通信できることを実験により発見したからである。
【0070】
また、移相量情報を仰角大通信用と仰角小通信用の2種類に限定せず、仰角が異なる3種類以上の移相量情報をメモリ212に記憶しておき、それら3種類以上の移相量情報を車速に応じて設定してもよい。
【0071】
(第9実施形態)
第9実施形態では、第8実施形態おける
図15に代えて
図16を実行する。
図14の処理は第9実施形態でも行なう。
【0072】
通信時には、
図16に示すように、まず、CAN300とI/F213を介してカメラセンサ情報を読み込む(ステップS61)。そして、そのカメラセンサ情報から、すぐ前方に大型車が存在するか(1台前の車が大型車であるか)を判断する(ステップS62)。
【0073】
前方に大型車が存在すると判断すれば(S62:YES)、ステップS63に進んで仰角大用の移相量情報をメモリ212から読み出す。一方、前方に大型車が存在しないと判断すれば(S62:NO)、ステップS64に進んで仰角小用の移相量情報をメモリ212から読み出す。
【0074】
ステップS65では、ステップS63あるいはS64で読み出した移相量情報に基づいて、移相量制御のための制御値を設定する。このようにすれば、前方に大型車が存在する場合にも、その大型車による電波の遮蔽の影響を抑制して良好な通信が行える。また、前方に大型車が存在しない場合には仰角小とするので、仰角大とする場合よりも通信距離を確保できる。
【0075】
なお、第9実施形態でも、仰角が異なる3種類以上の移相量情報をメモリ212に記憶しておいてもよい。この場合、それら3種類以上の移相量情報を、前方車両の高さに応じて設定する。また、前方車両の高さに加えて前方車両までの距離も考慮し、前方車両の高さが高いほど、また、前方車両までの距離が近いほど、大きな仰角の移相量情報を用いるようにしてもよい。
【0076】
(第10実施形態)
第10実施形態では、通信前に予め行なう処理として
図17に示す処理を行なう。
図17において、ステップS71では、無指向性型の移相量情報を入力する。入力した無指向性型の移相量情報はメモリ212に記憶される(ステップS72)。ステップS73では、前方指向性型の移相量情報を入力する。入力した前方指向性型の移相量情報もメモリ212に記憶される(ステップS74)。なお、無指向性型の移相量情報および前方指向性型の移相量情報は、たとえば、
図4に示す位相差90°、180°である。
【0077】
通信時には、
図18に示すように、まず、CAN300とI/F213を介して車速情報を読み込む(ステップS81)。そして、その車速情報をもとにして、高速道路走行中か否かを判断する(ステップS82)。なお、車速情報に代えて、地図情報と現在位置情報から高速道路走行中か否かを判断してもよい。
【0078】
高速走行中と判断すれば(S82:YES)、ステップS83に進んで前方指向性型の移相量情報をメモリ212から読み出す。一方、高速走行中でないと判断すれば(S82:NO)、ステップS84に進んで無指向性型の移相量情報をメモリ212から読み出す。
【0079】
ステップS85では、ステップS83あるいはS84で読み出した移相量情報に基づいて、移相量制御のための制御値を設定する。高速道路を走行中である場合に前方指向性型とするのは、高速道路走行中は前後方向にしか通信対象(車両や路側機)が存在しないので、交差方向への電波送信は不要だからである。
【0080】
この第10実施形態では、高速道路走行中か否かで水平方向の指向性を変化させていることから、高速道路走行中も、高速道路以外を走行中も、良好な送信性能が確保できる。
【0081】
(第11実施形態)
第11実施形態では、製造時に
図19に示す処理を行なう。
図19において、ステップS91では、車両モデルX用の移相量情報を入力する。入力した車両モデルX用の移相量情報はメモリ212に記憶される(ステップS92)。ステップS93では、車両モデルY用の移相量情報を入力する。この車両モデルY用の移相量情報もメモリ212に記憶される(ステップS94)。さらに、車両モデルZ用の移相量情報も入力する(ステップS95)。この車両モデルZ用の移相量情報もメモリ212に記憶される(ステップS96)。なお、この
図19では、3つの車両モデルX、Y、Zの移相量情報を入力、記憶しているが、2つ、あるいは、4つ以上の車両モデルの移相量情報を記憶するようにしてもよい。
【0082】
この実施形態では、実際の通信時に
図20の処理を行なう。
図20において、ステップS101では、CAN300とI/F213を介して車両モデル情報を読み込む。
【0083】
続いて、読み込んだ車両モデルが何であったかを判断する。読み込んだ車両モデルがXであればステップS103へ進み、車両モデルX用の移相量情報をメモリ212から読み出す。読み込んだ車両モデルがYであればステップS104へ進み、車両モデルY用の移相量情報をメモリ212から読み出す。読み込んだ車両モデルがZであればステップS105へ進み、車両モデルZ用の移相量情報をメモリ212から読み出す。
【0084】
ステップS106では、ステップS103、104、105のいずれかで読み出した移相量情報に基づいて、移相量制御のための制御値を設定する。
【0085】
このようにすれば、車両モデルにより異なるルーフ傾斜に応じた適切な指向性を設定することができる。
【0086】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、次の実施形態も本発明の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。
【0087】
たとえば、前述の実施形態では、2つのアンテナ110A、110Bは、車両前後方向の位置が相違し、且つ、上下方向の位置も相違していた。しかし、2つのアンテナを、上下方向の位置は同じとして前後方向の位置のみを異ならせてもよい(変形例1)。これ以外にも、2つのアンテナの相対的位置関係は種々変更してもよい。また、アンテナの数は3つ以上でもよい(変形例2)。また、前述の実施形態は車両用であったが、本発明は車両用以外にも適用できる。