(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
被検物質によって呈色反応を生ずる反応領域を有する試験片を用い、当該試験片の反応領域における呈色の程度によって当該被検物質を検出する分析装置を点検するための点検用試験片において、
非吸湿性材料よりなる光透過性基板を備えており、
前記光透過性基板には、当該光透過性基板の一面の一部にカラー標識が形成されており、当該カラー標識を含む当該光透過性基板の一面に、当該カラー標識とは異なる色の基準領域が形成されており、
前記光透過性基板の他面において当該カラー標識の色濃度が測定されることを特徴とする点検用試験片。
前記カラー標識は、同一の標識形成材料による色濃度の異なる2つ以上の帯状層により構成されていることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれかに記載の点検用試験片。
前記光透過性基板に、前記カラー標識の色濃度に係る基準値の情報を含むコードが表示されるコード領域が設けられていることを特徴とする請求項1〜請求項6に記載の点検用試験片。
【背景技術】
【0002】
例えば、血液や尿などの被検査液中の被検物質を分析する分析装置の或る種のものとしては、イムノクロマトグラフィ法(免疫学的クロマトグラフィ法)を利用した構成のものが開示されている(特許文献1参照。)。
この特許文献1の分析装置においては、被検物質によって呈色反応を生ずる反応領域を一面の一部に有する試験片(以下、「分析用試験片」ともいう。)を用いて分析が行われる。この分析用試験片は、例えば
図4に示すように、ケース(以下、「分析用ケース」ともいう。)63に収容された状態で用いられるものである。この分析用ケース63には、分析用試験片61の反応領域Rを外部に露出させるための開口64Aと、分析用試験片61における反応領域Rと離間した位置に分析液を滴化するための開口64Bとが並設されている。
具体的に、特許文献1の分析装置は、分析用試験片61における反応領域Rに光を照射する光照射部と、当該光照射部によって光が照射されている状態の反応領域Rを撮影する撮影部とを備えている。そして、撮影部において得られた反応領域Rの撮影データ情報に基づいて、当該反応領域Rにおける呈色の程度によって被検物質を検出する。
図4において、分析用試験片61には、便宜上斜線が付されている。
【0003】
このような分析装置においては、分析用試験片61として、例えば、多孔質体よりなる基材の一面の一部に、被検物質(抗原)に特異的に結合する固定化抗体が固定されてなる呈色部分62を有する反応領域Rが形成されたものが用いられる。この分析用試験片61は、開口64Bから分析液が滴下されることにより、この分析液が毛細管現象によって反応領域Rに移動される。この分析液は、被検査液に対して、被検物質(抗原)に特異的に結合する標識化抗体が添加されたものであるので、滴下された分析液の移動に伴って、被検物質と標識化抗体とが反応領域Rまで移動される。そして、被検物質と標識化抗体とが反応領域Rに至ることにより、呈色部分62上において、被検物質と、固定化抗体および標識化抗体とによる抗原抗体反応が生じ、呈色部分62が着色もしくは発色して呈色状態になる。分析用試験片61の具体例としては、例えばニトロセルロースよりなる矩形状の基材の一面の一部に、金コロイドが呈色状態となることによって着色する呈色部分62が、当該基材の短手方向に伸びるように帯状に形成されて、反応領域Rが設けられたものが挙げられる(例えば、特許文献2参照。)。
【0004】
而して、このような分析装置には、光照射部において照明装置が用いられ、また撮影部において撮影装置が用いられているため、これらの装置が適切に機能しているか、具体的には、照明装置による照度が十分か否か、撮影装置における撮影素子の感度に劣化がないか否かなどを定期的に点検する必要がある。
そこで発明者らは、例えば、ニトロセルロースよりなる矩形平板状の基材の一面の一部に、呈色状態の金コロイドよりなるカラー標識が、当該基材の短手方向に伸びるように帯状に形成されてなる構成の点検用試験片を用いて分析装置の点検を行うことを検討した。すなわち、点検用試験片を、分析用試験片の構成材料を用いて形成することを検討した。
具体的な点検手法としては、分析装置によって点検用試験片におけるカラー標識の呈色の程度、すなわちカラー標識の既知の色濃度(呈色濃度)を測定し、得られた測定値が、予め定めた基準値の範囲内であれば装置が正常な状態であり、一方、当該基準値の範囲外であれば装置に異常があると判断する。
【0005】
しかしながら、分析装置においては、試験片における呈色部分の呈色の程度が、基材の色を基準とし、呈色部分と基材との光学濃度差に基づいて求められることから、点検用試験片において、ニトロセルロースなどの多孔質体を基材の構成材料として用いることには、種々の問題があることが明らかとなった。ここに、試験片における呈色部分の呈色の程度とは、分析用試験片においては反応領域の呈色の程度、または点検用試験片においてはカラー標識の呈色の程度(カラー標識の色濃度)を示す。
具体的に説明すると、ニトロセルロースなどの多孔質体が、毛細管現象を利用して液体を移動させることのできる特性を有しており、よって高い吸湿性を有するものである。そのため、点検用試験片をそのままの状態で大気環境下において保管した場合には、基材の吸湿に伴って経時的に基材の色、あるいは基材上に形成されたカラー標識の色が変化することから、正確な点検結果を得ることができなくなる。従って、未使用の点検用試験片であっても、例えばアルミニウム製の密閉袋内に乾燥剤と共に入れるなどして、大気に晒されることのないように厳重に保存したものでなければ、使用することができない。勿論、点検用試験片を再利用することはできない。
また、基材におけるカラー標識が形成された一面において、カラー標識の呈色の程度(カラー標識の色濃度)が測定されるため、保管の際だけでなく、点検動作中においても取り扱いには注意が必要である。すなわち、点検動作中において、点検用試験片のカラー標識が形成された一面、特にカラー標識および当該カラー標識の周囲に汚れが付着した場合には、その汚れを取り除くことができないことから、正確な点検結果を得ることができなくなるおそれがある。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0021】
図1は、本発明の点検用試験片がケースに収容された状態を示す説明用正面図であり、
図2は、
図1のケースに収容された状態の点検用試験片の断面を示す説明用断面図であり、
図3は、
図1の点検用試験片における、カラー標識の色濃度の測定に供される一面を示す説明図である。
この点検用試験片10は、例えば血液や尿などの被検査液中の被検物質によって呈色反応を生ずる反応領域を有する試験片(分析用試験片)を用い、当該分析用試験片の反応領域における呈色の程度によって被検物質を検出する分析装置を点検するために用いられる。この分析装置において、分析用試験片61は、
図4に示すように、略矩形平板状の外観形状を有するケース(分析用ケース)63に収容された状態で用いられる。この分析用ケース63には、分析用試験片61の反応領域Rを外部に露出させるための開口64Aと、反応領域Rにおいて生じる呈色反応に関連する情報を含むコード(例えば、二次元コード)65が表示されるコード領域Cとが並設されている。
【0022】
点検用試験片10は、矩形平板状の光透過性基板11を備えており、この光透過性基板11の下面(
図2における下面)には、当該下面の一部に、カラー標識14が形成されている。また、光透過性基板11の下面においては、カラー標識14を覆うようにして、当該カラー標識14とは異なる色の被覆層18が形成されている。そして、この被覆層18により、点検用試験片10における基準領域が構成されている。
この図の例において、点検用試験片10は、点検対象である分析装置において用いられる分析用試験片61と略同様の外観形状を有している。また、カラー標識14は、分析用試験片61の反応領域Rに対応する位置に形成されている。
また、光透過性基板11の下面においては、当該下面の全域にわたって被覆層18が形成されている。すなわち、被覆層18は、光透過性基板11の下面において、カラー標識14を覆うと共に、このカラー標識14が形成されておらず、当該光透過性基板11の下面が露出されている領域全域を覆うように形成されている。
【0023】
光透過性基板11は、非吸湿性材料よりなるものであり、非吸湿性と共に、分析装置における光照射部(
図7参照)からの光を透過する光透過性を有している。
また、光透過性基板11においては、上面(
図2における上面)側から、下面に形成されたカラー標識14と基準領域との色の違いを視認できることが必要とされる。
ここに、本明細書中において、「非吸湿性材料」とは、容易に水分を取り込んで保持することがなく、実質的に吸湿性を有さない材料を示す。
【0024】
また、光透過性基板11は、上面が平坦であることが好ましい。
光透過性基板11の上面が平坦でなくて起伏がある場合には、光透過性基板11の上面に汚れや水分が付着した際に、その汚れや水分が吸着するおそれがある。
【0025】
光透過性基板11の厚みは、0.5〜1mmであることが好ましい。
光透過性基板11の厚みが1mmを超える場合には、分析装置における撮影部(
図7参照)において、光照射部によって光が照射された状態の点検用試験片10の撮影を行う際に、その撮影環境が、光の屈折により分析用試験片61の撮影環境と異なってしまう。そのため、適切な点検を行うことができなくなるおそれがある。一方、光透過性基板11の厚みが0.5mm未満である場合には、破損するおそれがある。
【0026】
光透過性基板11の材質としては、例えばガラスおよびスチレン系樹脂「クリアパクト」(DIC(株)製)等の樹脂などが挙げられる。
そして、光透過性基板11は、上面側からのカラー標識14と基準領域との視認性、耐環境性および製造上必要とされる耐熱性などの観点から、ガラスからなることが好ましい。
【0027】
カラー標識14は、標識形成材料よりなるものである。
そして、カラー標識14は、
図1〜
図3に示されているように、同一の標識形成材料よりなり、当該標識形成材料の濃度、すなわち色の濃淡が異なる2つ以上(図の例においては2つ)の帯状層15,16により構成されていることが好ましい。
この図の例において、2つの帯状層15,16は、光透過性基板11の下面において、当該光透過性基板11の短手方向に直線状に伸びるように形成されている。また、2つの帯状層15,16は、光透過性基板11の長手方向において、互いに離間して形成されている。
【0028】
カラー標識14が同一の標識形成材料による濃度の異なる2つ以上の帯状層15,16により構成されていることにより、分析装置の測定範囲全域の精度を確認することができるため、分析装置の点検をより高い信頼性をもって行うことができる。
具体的に説明すると、カラー標識14が1つの帯状層よりなるものである場合には、分析装置において、当該1つの帯状層における標識形成材料の濃度(以下、「標識色濃度」ともいう。)を正常に測定(検出)できるか否かのみが確認される。すなわち、標識色濃度が既知である点検用試験片10を用いて点検を行うことによれば、点検用試験片10の帯状層における標識色濃度と同等の呈色を示す分析用試験片61についてのみ、正常な測定(検出)を行うことができるか否かが確認されるだけである。そのため、分析用試験片61の反応領域Rにおける呈色の程度が、点検用試験片10の帯状層における標識色濃度と異なるときに、正常な測定(検出)できるか否かを確認することができない。このように、分析装置の状態判断(正常状態にあるか異常状態にあるかの判断)を、1つの点検データ、すなわち1つの帯状層における標識色濃度を正常に測定(検出)できるか否かのみで行うこととなる。
而して、カラー標識14が同一の標識形成材料による濃度の異なる2つ以上の帯状層15,16よりなるものである場合には、分析装置において、当該2つ以上の帯状層15,16における標識色濃度、およびその帯状層15,16における標識色濃度以外の濃度を正常に測定(検出)できるか否かを確認することができる。すなわち、2つ以上の帯状層15,16における標識色濃度の各々を正常に測定(検出)できるか否かを確認することができる。その上、得られた複数の点検データに基づいて、点検用試験片10の2つ以上の帯状層15,16における標識色濃度と異なる推定データを得ることができるので、標識色濃度が既知である点検用試験片10を用いて点検を行うことによれば、点検用試験片10の2つの帯状層における標識色濃度と同等の呈色を示す分析用試験片61についてだけでなく、異なる呈色を示す分析用試験片61についても、正常な測定(検出)ができるか否かを推定することができる。このように、複数の点検データおよび当該複数の点検データから得られる推測データに基づいて分析装置の状態判断を行うことができる。具体的には、例えば、2つ以上の帯状層15,16の全てに関して正常な測定(検出)ができるという点検データが得られた場合に、分析装置の測定範囲全域において正常に測定(検出)ができると推定し、その推定データに基づいて分析装置の状態判断が行われる。また、複数の点検データに基づいて推定データを得、この推定データを、予め定めた基準値と比較することにより、分析装置の状態判断が行われる。
従って、カラー標識14を同一の標識形成材料による濃度の異なる2つ以上の帯状層15,16により構成することによれば、複数の点検データから推定データを得ることができることから、分析装置の測定範囲全域の精度を確認することができるため、分析装置の点検を高い信頼性で行うことができる。そのため、点検用試験片10は、定期的に行われる分析装置の日常点検だけでなく、製造時やメンテナンス時の校正にも好適に用いることができるものとなる。
【0029】
カラー標識14を構成する2つ以上の帯状層15,16における標識色濃度は、分析装置の状態判断の信頼性の観点から、標識色濃度が最も高い帯状層が、分析装置の測定範囲の上限値に係る濃度と略同等の濃度を有し、また標識色濃度が最も低い帯状層が、分析装置の測定範囲の下限値に係る濃度と略同様の濃度を有することが好ましい。
この図の例において、一方の帯状層(以下、「高濃度帯状層」ともいう。)15は、他方の帯状層(以下「低濃度帯状層」ともいう。)16に比して標識色濃度が高いものであり、その標識色濃度は、分析装置の測定範囲の上限値に係る濃度とされている。また、低濃度帯状層16における標識色濃度は、分析装置の測定範囲の下限値に係る濃度とされている。
【0030】
また、カラー標識14を構成する2つ以上の帯状層15,16において、幅(
図1〜
図3における左右方向の寸法)および互いに隣接する帯状層間の離間距離などは、適宜に定めることができる。
具体的には、2つの帯状層15,16は、各々、幅が例えば1mmである。また、2つの帯状層15,16の離間距離は、例えば3〜4mmである。
【0031】
標識形成材料としては、一般的な分析用試験片61において、反応領域Rの呈色部分62を呈色状態とするために抗体標識用に用いられる物質を好適に用いることができる。
この標識形成材料の具体例としては、例えば金コロイドおよび青色ラテックスなどが挙げられる。
【0032】
点検用試験片10において、基準領域は、非透明性を有していると共に、カラー標識14とは異なる色を有している。
この点検用試験片10において、基準領域の色は、白色であることが好ましい。
基準領域の色を白色とすることにより、当該基準領域の色が一般的な分析用試験片61の基材と略同等の色となる。すなわち、分析用試験片61の反応領域Rにおける呈色の程度を検出するための基準とされる色と略同等の色となる。そのため、分析装置の制御部において、点検動作を制御するための点検動作プログラムの一部を、分析動作を制御するための分析プログラムと共有化することができることから、点検用プログラムを簡素化することができる。
【0033】
この基準領域を構成する被覆層18は、光透過性基板11に対して付着性を有すると共に、カラー標識14を構成する帯状層15,16に対しても付着性を有するものであることが好ましい。
【0034】
また、被覆層18は、非吸湿性を有することが好ましい。
被覆層18が非吸湿性を有することにより、被覆層18が大気に晒された状態であっても、カラー標識14および基準領域の色が経時的に変化することを防止、または抑制することができる。
【0035】
被覆層18の構成材料の具体例としては、例えば白色の顔料インクなどが挙げられる。
【0036】
被覆層18の厚みは、50〜100μmであることが好ましい。
【0037】
このような構成の点検用試験片10は、種々の手法によって製造することができる。
具体的には、例えば、先ず、矩形平板状のガラス平板の一面に、金コロイドからなるカラー標識形成材料の塗布液を、当該ガラス平板の短手方向に伸びるように直線状に塗布することにより、2つの金コロイド塗膜を形成する。次いで、2つの金コロイド塗膜が形成されたガラス平板の一面全面に、当該ガラス平板の一面における露出面(金コロイド塗膜が形成されていない領域)および2つの金コロイド塗膜の表面を被覆するように、スクリーン印刷法によって白色顔料インクの被覆膜を形成する。このようにして、ガラスからなる光透過性基板11の下面に、金コロイドからなる帯状層15,16により構成されるカラー標識14と、白色顔料インクからなる被覆層18により構成される基準領域とが形成されてなる点検用試験片10が得られる。
また、点検用試験片10を大量に作製する場合には、例えば
図5に示すように、長尺な矩形状のガラス平板11Aを用意し、この長尺なガラス平板11Aに金コロイド塗膜15A,16Bを形成した後、白色顔料インクよりなる被覆膜18Aを形成し、その後、分断する手法を用いることもできる。
具体的に説明すると、先ず、
図5(A)に示すように、長尺な矩形状のガラス平板11Aの一面に、金コロイドからなるカラー標識形成材料の塗布液を、当該ガラス平板11Aの長手方向に伸びるように直線状に塗布することにより、金コロイド塗膜15A,16Aを形成する。次いで、2つの金コロイド塗膜15A,16Aが形成されたガラス平板11Aの一面全面に、当該ガラス平板11Aの一面における露出面(金コロイド塗膜15A,16Aが形成されていない領域)および2つの金コロイド塗膜15A,16Aの表面を被覆するように、スクリーン印刷法によって白色顔料インクの被覆膜18Aを形成する。更に、
図5(B)に示すように、金コロイド塗膜15A,16Aおよび被覆膜18Aが形成されたガラス平板11Aを、各分断片が所望の大きさとなるように分断する。このようにして、ガラスからなる光透過性基板11の下面に、金コロイドからなる帯状層15,16により構成されるカラー標識14と、白色顔料インクからなる被覆層18により構成される基準領域とが形成されてなる点検用試験片10が得られる。
ここに、前述の手法によれば、得られる点検用試験片10において、カラー標識14を構成する2つの帯状層15,16の表面全面を被覆層18によって被覆された状態とすることができる。一方、後述の手法においては、得られる点検用試験片10において、2つの帯状層15,16の端面17A,17Bが露出した状態となることがある。
【0038】
このような点検用試験片10は、
図1および
図2に示されているように、ケース(以下、「点検用ケース」ともいう。)30に収容されていてもよい。
点検用試験片10を点検用ケース30に収容することにより、光透過性基板11がガラスよりなるものであっても、点検用試験片10の取扱が容易となる。
また、点検用ケース30が点検用試験片10よりも表面積が大きなものであることから、点検に必要とされる情報を含むコードを表示するためのコード領域Cの設計の自由度が大きくなる。具体的には、コード領域Cに種々の情報を表示することができる。
更に、点検用試験片10の大部分を点検用ケース30によって覆われた状態とすることができるため、点検用試験片10の設計の自由度が大きくなる。具体的には、例えば被覆層18が非吸湿性を有さないものであっても、あるいは、点検用試験片10において、カラー標識14を構成する帯状層15,16の端面17A,17Bが露出された状態であっても、点検用試験片10における被覆層18および露出された状態の帯状層15,16の端面17A,17Bが大気に晒されないようにすることができる。
【0039】
点検用試験片10を収容するための点検用ケース30は、例えば上ケース部31と下ケース部33とよりなり、内部に点検用試験片10を収容するための空間が区画されており、略矩形平板状の外観形状を有するものである。この点検用ケース30において、上ケース部31と下ケース部33とは、ヒンジ部34を介して互いに開閉自在に連結されている。
また、点検用ケース30において、上ケース部31の中央部分には、点検用試験片10における光透過性基板11の上面の一部分(具体的には、下面においてカラー標識14および基準領域が形成されている一部分である。以下、「上面露出部分」ともいう。)を外部に露出させるための開口31Aが形成されている。このようにして、点検用ケース30は、点検用試験片10における上面露出部分以外の部分を覆い、この上面露出部分以外の部分が大気に晒されることのない構造とされている。
そして、点検用ケース30に収容された点検用試験片10においては、点検用ケース30の開口31Aを介して外部に露出される上面露出部分により、標識領域Sが構成されている。
この図の例において、点検用ケース30は、分析用試験片61を収容するための分析用ケース63と略同様の外観形状を有している。具体的には、分析装置に対して、試験片挿入口(
図6参照)から挿入して装着することのできる形状を有している。
また、点検用ケース30において、開口31Aは、矩形状であり、分析用ケース63の開口64Aに対応する位置に形成されている。
また、点検用試験片10において、標識領域Sは、光透過性基板11の上面の中央部分によって構成されており、当該上面の周縁部分は含まれていない。そのため、点検用試験片10が点検用ケース30に収容されることにより、カラー標識14を構成する2つの帯状層15,16の端面17A,17Bが露出された状態であっても、この端面17A,17Bは点検用ケース30に覆われ、よって大気に晒されることはない。
【0040】
また、上ケース部31の上面(
図2における上面)には、開口31Aと離間した位置に、例えばQRコード(登録商標)などの二次元コード36が設けられており、これにより、コード領域Cが形成されている。
二次元コード36に含まれる情報としては、例えば点検用の試験片であることの識別情報、ロット番号などの点検用試験片10の基本情報、および、例えば基準領域とカラー標識14との光学濃度差の基準値(以下、「光学濃度差基準値」ともいう。)などの点検用試験片10に固有のカラー標識の色濃度に係る基準値の情報などを例示することができる。
この図の例において、二次元コード36は、分析用ケース63のコード領域Cに対応する位置に形成されている。具体的には、開口31Aと点検用ケース30の長手方向に並ぶようにして、一端側部分(
図1および
図2における右端側部分)に位置されている。
【0041】
点検用ケース30の材質としては、例えばABS樹脂などの樹脂が挙げられる。
また、点検用ケース30は、分析装置における光照射部からの光が反射することを抑制する観点から、黒色であることが好ましい。特に、点検用ケース30の表面は、分析装置における光照射部からの光が散乱するように拡散面を有していることが好ましい。
【0042】
以上の点検用試験片10は、光透過性基板11の下面にカラー標識14と基準領域とが形成されており、この光透過性基板11の上面においてカラー標識14の色濃度(カラー標識14の呈色の程度)が測定される構成とされている。そのため、カラー標識14および基準領域における測定に供される面(
図2における上面)は、光透過性基板11によって保護された状態とされていることから、大気に晒されることがなく、また汚れが付着することもない。その結果、光透過性基板11の上面が大気に晒された状態であっても、カラー標識14および基準領域の色が経時的に変化するという弊害を伴うことなく保管することができる。その上、再利用することもできる。また、点検動作中などに光透過性基板11の上面に汚れが付着した場合であっても、カラー標識14および基準領域には汚れが付着することがなく、しかも、その汚れを拭き取ることが可能である。
従って、点検用試験片10によれば、点検に際して利用される一面が大気に晒された状態であっても、カラー標識14および基準領域の色が経時的に変化することが抑制されると共に、カラー標識および基準領域における点検に際して利用される面に汚れが付着することが防止されることから、取扱容易性が得られ、また分析装置の点検を高い信頼性をもって行うことができる。
【0043】
また、点検用試験片10は、カラー標識14が、同一の標識形成材料よりなり、当該標識形成材料の濃度が異なる2つの帯状層15,16により構成されていることから、分析装置の測定範囲全域の精度を確認することができるため、分析装置の点検をより高い信頼性をもって行うことができる。
【0044】
また、点検用試験片10は、点検用ケース30に収容された状態で用いられるものであり、その点検用ケース30は、点検用試験片10における標識領域S(上面露出部分)以外の部分が大気に晒されることのないような構造とされている。そのため、点検用ケース30に収容された状態の点検用試験片10は、カラー標識14および基準領域の色が経時的に変化するという弊害を伴うことなく、そのままの状態で大気環境下において保管することができる。
【0045】
このような点検用試験片10においては、水分によって特性変化が生じる物質を弊害を伴うことなく標識形成材料として用いることができる。従って、標識形成材料として、金コロイドを好適に用いることができる。そして、この金コロイドは、分析用試験片61において、反応領域Rを呈色状態とするための抗体標識用として広く用いられている物質である。そのため、カラー標識14の色が、分析用試験片61における反応領域Rの呈色状態の呈色部分62の色と略同等の色となる。その結果、分析装置の制御部において、点検動作を制御するための点検動作プログラムの一部を、分析動作を制御するための分析プログラムと共有化することができることから、点検用プログラムを簡素化することができる。
【0046】
図6は、本発明の分析装置の構成の一例における外観を示す説明用斜視図であり、
図7は、
図6の分析装置を構成する分析点検機構の構成の概略を示す説明用斜視図である。
この分析装置40は、試験片(具体的には、分析用試験片61および点検用試験片10)によって分析あるいは点検を行うための分析点検機構50が筺体41内に収容されてなるものである。この筺体41には、ケースに収容された状態の試験片(具体的には、分析用ケース63に収容された分析用試験片61、および点検用ケース30に収容された点検用試験片10)を挿入するための試験片挿入口42が設けられている。この試験片挿入口42において、点検用ケース30に収容された点検用試験片10は、標識領域Sおよびコード領域Cを有する面が上方を向いた状態で、水平な姿勢で挿入される。また、分析用ケース63に収容された分析用試験片61は、反応領域Rおよびコード領域Cを有する面が上方を向いた状態で、水平な姿勢で挿入される。
図6において、43は電源スイッチであり、44は、分析に係る情報および点検に係る情報などを入力すると共に動作指令信号を入力するタッチパネルである。
【0047】
分析装置40における分析点検機構50は、試験片の有無を検出する試験片検出用センサ51と、試験片が適正な位置にセットされた状態において、試験片に光を照射する照明装置52よりなる光照射部と、この光照射部によって光が照射されている状態の試験片を撮影する撮影装置54よりなる撮影部とを備えている。また、分析点検機構50には、試験片検出用センサ51、照明装置52よりなる光照射部および撮影装置54よりなる撮影部の各々の動作を制御する制御部(図示せず)が設けられている。
試験片検出用センサ51としては、例えばフォトインタラプタなどを用いることができる。
【0048】
撮影部を構成する撮影装置54は、試験片が適正な位置にセットされた状態において、分析用試験片61における反応領域Rおよびコード領域Cを含む分析領域、および点検用試験片10における標識領域Sおよびコード領域Cを含む点検領域(以下、これらをまとめて「分析点検領域」ともいう。)を視野領域(
図1および
図4において二点鎖線で示す。)Iに含むものである。
この撮影装置54は、試験片の分析点検領域による反射光を受光して試験片の分析点検領域全体における光強度分布像を撮影するものであり、例えばCMOS(Complementary Metal- Oxide Semiconductor)イメージセンサ41よりなる撮影素子を具えてなるものにより構成されていることが好ましい。
【0049】
光照射部を構成する照明装置52は、少なくとも試験片における視野領域Iを含む領域(
図1および
図4において破線で示す領域であり、以下、「照明領域」ともいう。)Lを照明するものである。
この照明装置52としては、例えば、点検用試験片10が標識形成材料として金コロイドが用いられたものである場合には、カラー標識14の帯状層15,16の色がピンク色となることから、例えば発光ピーク波長が525nm付近にある緑色光を発するLED53を光源として備えてなるものであることが好ましい。ここに、照明装置52における光源としては、試験片における呈色部分(具体的には、分析用試験片61における反応領域Rの呈色部分、および点検用試験片10におけるカラー標識14)の呈色濃度とのコントラストが大きくなる色光を照射するものであればよく、例えば半導体レーザや、ランプとバンドパスフィルターとが組み合わされたものなどにより構成されていてもよい。
照明領域Lの大きさは、例えば照明装置52の試験片の表面に対する配置位置(離間距離)によって調整することができる。
【0050】
制御部は、撮影装置54による撮影条件を調整して互いに異なる第1の撮影条件および第2の撮影条件で撮影した、試験片における分析点検領域についての2つの画像データを、第1の撮影条件によるものをコード読み取り用画像データ、第2の撮影条件によるものを被検物質検出用画像データまたは装置状態判断用画像データとして取得し、各々の画像データを分析する機能を有する。
コード読み取り画像データ、被検物質検出用画像データおよび装置状態判断用画像データは、例えば0〜255の256階調の濃淡画像で表現されるものであって、例えば、点検用試験片10において、標識領域Sおよびコード領域Cに係る最大階調部が、それぞれ、例えば200から250の範囲内であれば、コード領域Cにおいて表示される情報の読み取り、および、標識領域Sの呈色状態の読み取りを適正に行うことができる。
【0051】
また、制御部は、装置状態判断用画像データにより取得される、カラー標識14の光学濃度情報および基準領域の光学濃度情報に基づいて、点検用試験片10におけるカラー標識14と基準領域との光学濃度差を算出し、この光学濃度差を、予め定めた基準値(光学濃度差基準値)と比較する機能を有している。
この図の例において、カラー標識14の光学濃度情報としては、カラー標識14を構成する2つの帯状層15,16の光学濃度の値が得られる。そして、カラー標識14と基準領域との光学濃度差としては、2つの帯状層15,16の各々についての光学濃度差の値、具体的には、高濃度帯状層15と基準領域との光学濃度差の値、および低濃度帯状層16と基準領域との光学濃度差の値が得られる。また、光学濃度差基準値としては、2つの帯状層15,16の各々についての光学濃度差に係る基準値が定められている。
【0052】
光学濃度差基準値は、範囲を有するものであり、具体的には、例えばカラー標識14と基準領域との光学濃度差の真値に対して±10%以内の範囲内の値を示す。
【0053】
また、制御部は、コード読み取り用画像データより取得される検量線情報に基づいて、被検物質検出用画像データより被検物質の濃度を算出する濃度算出機構も有している。
【0054】
撮影装置54による撮影条件を調整する手法としては、例えば、撮影装置54におけるCMOSイメージセンサ55の電子シャッターのシャッタースピード(シャッター時間)を制御することにより露光時間を調整し、これにより、露光量(CMOSイメージセンサ55に受光される光の光量)を調整する方法、あるいは、照明装置52におけるLED53の発光量を制御することにより露光量を調整する方法などを用いることが好ましい。ここに、露光時間を調整して露光量を調整する方法としては、例えば、CMOSイメージセンサ55のゲイン(感度)または絞りを調整する方法もあるが、CMOSイメージセンサ55のゲインを大きくして露光量を大きくするとノイズが増え、また、絞りを変えると写り方が変化するため、CMOSイメージセンサ55の電子シャッターのシャッタースピード(シャッター時間)を制御することにより露光時間を調整する方法が望ましい。
【0055】
撮影装置54による第1の撮影条件は、試験片の分析点検領域におけるコード領域Cの撮影に最適な明るさとなるよう設定されている。具体的には、例えば、点検用試験片10においては、2次元コード36の周辺の最も明るい箇所がCMOSイメージセンサ55の最大階調を超えないよう、CMOSイメージセンサ55の電子シャッターのシャッタースピード(露光時間)および/または照明装置52におけるLED53の発光量の大きさを制御することにより、CMOSイメージセンサ55に対する露光量の大きさが設定されている。
【0056】
撮影装置54による第2の撮影条件は、試験片の分析点検領域における反応領域Rおよび標識領域Sの撮影に最適な明るさとなるよう設定されており、具体的には例えば、露光量が第1の撮影条件より大きくなる条件、点検用試験片10において標識領域Sにおけるカラー標識14以外の最も明るい箇所がCMOSイメージセンサ55の最大階調を超えない範囲内において、CMOSイメージセンサ55の電子シャッターのシャッタースピード(露光時間)および/または照明装置52におけるLED53の発光量の大きさが、第1の撮影条件より大きくなる条件に設定されている。
第2の撮影条件におけるCMOSイメージセンサ55に対する露光量は、第1の撮影条件におけるCMOSイメージセンサ55に対する露光量の例えば1.3倍程度である。
【0057】
以上において、CMOSイメージセンサ55の電子シャッターのシャッタースピードの調整は、例えばCMOSカメラモジュールの動作条件を変更することにより行うことができる。
また、LED53の発光量の調整は、例えばLED53に対する供給電流の大きさを変更することにより行うことができる。
【0058】
以下、上記の分析装置40の点検動作の一例について説明する。
分析装置40の電源スイッチ43が投入されると、タッチパネル44にメニュー画面が表示されて測定可能な状態とされる。
図8に示すように、タッチパネル44おいて測定ボタンを押すと(S1)、分析点検機構50における照明装置52のLED53が点灯状態とされる(S2)。その後、点検用ケース30に収容された状態の点検用試験片10を試験片挿入口42にコード領域C側から挿入する。
【0059】
分析点検機構50における試験片検出用センサ51によって試験片がセットされたことが検出されると(S3)、制御部によって第1の撮影条件に調整された状態において、撮影装置54によって点検用試験片10における点検領域の画像が撮影され、当該画像がコード領域Cに設けられた二次元コード36に表示された情報を検出するためのコード読み取り用画像データとして取得される。その後、取得されたコード読み取り用画像データにおけるコード領域Cについて適宜の画像解析が制御部によって行われることにより、二次元コード36に表示された点検用試験片10に固有の情報、例えば光学濃度差基準値などの点検用試験片10に固有のカラー標識の色濃度に係る基準値の情報などが読み取られてメモリに記録される(S4)。
【0060】
そして、試験片として点検用試験片10がセットされたことが制御部によって検出されると(S5)、撮影装置54による撮影条件を第2の撮影条件に変更して点検用試験片10における点検領域の画像が撮影装置54によって撮影され、当該画像が分析装置40の状態を判断するための装置状態判断用画像データとして取得されると共に、照明装置52が消灯状態とされる(S6)。
なお、制御部によって試験片として分析用試験片61がセットされたことが検出された場合(S5)には、動作モードが、点検動作モードから分析動作モードに変更される(S7)。
【0061】
取得された装置状態判断用画像データにおける標識領域Sについては、制御部によって適宜の画像解析が行われることにより、標識領域Sにおけるカラー標識14と基準領域との光学濃度差が算出される(S8)。
その後、取得された光学濃度差基準値と、標識領域Sにおける光学濃度差とが比較され、その比較の結果に基づいて、分析装置の状態が判断される。
具体的には、先ず、光学濃度差基準値と高濃度帯状層15に係る光学濃度差とが比較され(S9)、高濃度帯状層15に係る光学濃度差が光学濃度差基準値の範囲内にあることが確認されると、次いで、光学濃度差基準値と低濃度帯状層16に係る光学濃度差とが比較される(S10)。そして、低濃度帯状層16に係る光学濃度差が光学濃度差基準値の範囲内にある確認された場合には、分析装置40が正常状態である判断され、その結果が点検結果としてタッチパネル44に表示される(S11)。一方、低濃度帯状層16に係る光学濃度差が光学濃度差基準値の範囲内にないことが確認された場合には、分析装置40が異常状態であると判断され、その結果が点検結果としてタッチパネル44に表示される(S13)。
また、光学濃度差基準値と高濃度帯状層15に係る光学濃度差との比較により(S9)、高濃度帯状層15に係る光学濃度差が光学濃度差基準値の範囲内にないことが確認された場合には、更に光学濃度差基準値と低濃度帯状層16に係る光学濃度差とが比較される(S12)。そして、低濃度帯状層16に係る光学濃度差が光学濃度差基準値の範囲内にある場合、および光学濃度差基準値の範囲内にない場合のいずれの場合であっても、分析装置40が異常状態であると判断され、その結果が点検結果としてタッチパネル44に表示される(S13)。
【0062】
このように、分析装置40においては、制御部が、点検用試験片10の撮影データ情報に基づいて、当該点検用試験片10におけるカラー標識14と基準領域との光学濃度差を算出し、この光学濃度差を、予め定めた光学濃度基準値と比較する機能を有するものであるため、本発明の点検用試験片を用いて容易に点検を行うことができる。
【0063】
本発明においては、上記の実施の形態に限定されず、種々の変更を加えることが可能である。
例えば、点検用試験片において、基準領域は、光透過性基板におけるカラー標識が形成されてなる一面に形成されていればよい。具体的には、光透過性基板におけるカラー標識が形成されてなる一面全面に形成されたものでなくてもよく、また、カラー標識を覆うように形成されたものでなくてもよい。
また、点検用試験片は、カラー標識の色濃度に係る基準値の情報を含むコードが表示されるコード領域が設けられてなるものであってもよい。このコード領域は、点検用試験片において、光透過性基板の上面側から認識することができるように形成されていることが好ましい。
また、分析装置全体の構造は、
図6および
図7に示すものに限定されず、種々の構成を採用することができる。
【0064】
以下、本発明の作用効果を確認するために行った実験例について説明する。
【0065】
〔実験例1〕
図1〜
図3の構成に従って、ガラスよりなる光透過性基板(11)の一面に、金コロイドよりなるカラー標識(14)と、白色顔料インクよりなる被覆層(18)とが形成されてなる試験片(以下、「試験片(1)」ともいう。)を作製した。
具体的には、先ず、矩形平板状のガラス平板の一面に、金コロイドからなるカラー標識形成材料の塗布液を、当該ガラス平板の短手方向に伸びるように直線状に塗布することにより、2つの金コロイド塗膜を形成した。次いで、2つの金コロイド塗膜が形成されたガラス平板の一面全面に、当該ガラス平板の一面における露出面(金コロイド塗膜が形成されていない領域)および2つの金コロイド塗膜の表面を被覆するように、スクリーン印刷によって白色顔料インクの被覆膜を形成した。このようにして、ガラスからなる光透過性基板(11)の下面に、金コロイドからなる帯状層(15,16)により構成されるカラー標識14と、白色顔料インクからなる被覆層18により構成される基準領域とが形成されてなる試験片(1)を得た。
【0066】
得られた試験片(1)において、カラー標識(14)は、標識色濃度の高い帯状層(以下、「高濃度帯状層」ともいう。)(15)と、標識色濃度の低い帯状層(以下、「低濃度帯状層」ともいう。)(16)とよりなり、これらの帯状層(15,16)は、各々、幅が1mmであり、また、高濃度帯状層15と低濃度帯状層16との離間距離は3mmである。
また、カラー標識(14)を構成する2つの帯状層(15,16)の表面全面が被覆層18によって被覆された状態とされている。すなわち、2つの帯状層(15,16)の端面(17A,17B)が露出することなく、被覆層18に覆われている。
【0067】
また、ニトロセルロースよりなる基材の一面に、金コロイドよりなるカラー標識が設けられてなる比較用の試験片(以下、「比較用試験片(1)」ともいう。)を作製した。
この比較用試験片(1)は、ガラス製の光透過性基板(11)に代えてニトロセルロース製の基材を用い、このニトロセルロール製の基材の一面に被覆層(18)が設けられていないこと以外は、試験片(1)と同様の構成を有するものである。この比較用試験片(1)においては、ニトロセルロース製の基材によって基準領域が構成されている。
【0068】
作製した試験片(1)および比較用試験片(1)を、湿度90RH%、室温(25℃)の環境下において、試験片(1)は60日間にわたり、比較用試験片(1)は240日間にわたって保管した。保管に際しては、試験片(1)はそのままの状態で保管し、一方、比較用試験片(1)は、アルミニウム製の袋に入れた状態で保管した。保管期間中、カラー標識を構成する2つの帯状層に係る吸光度(基準領域との光学濃度差)を測定した。結果を
図9〜
図12に示す。ここに、
図9は、試験片(1)における高濃度帯状層(15)に係る吸光度と経過日数との関係を示すグラフであり、
図10は、試験片(1)における低濃度帯状層(16)に係る吸光度と経過日数との関係を示すグラフである。また、
図11は、比較用試験片(1)における高濃度帯状層に係る吸光度と経過日数との関係を示すグラフであり、
図12は、比較用試験片(1)における低濃度帯状層に係る吸光度と経過日数との関係を示すグラフである。
【0069】
以上の結果から、本発明の実施例に係る試験片(1)は、大気環境下において大気に晒された状態であっても、カラー標識を構成する帯状層に係る吸光度(基準領域との光学濃度差)が殆ど変化しないことが明らかとなった。
一方、比較用試験片(1)においては、アルミニウム製の袋に入れた状態で保管をしたものの、カラー標識を構成する帯状層に係る吸光度(基準領域との光学濃度差)が経時的に大きく変化した。
従って、本発明に係る試験片(1)によれば、大気環境下において保管した場合であっても、分析装置の点検を高い信頼性をもって行うことができることが確認された。