(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5821887
(24)【登録日】2015年10月16日
(45)【発行日】2015年11月24日
(54)【発明の名称】触媒コンバーター
(51)【国際特許分類】
B01J 35/04 20060101AFI20151104BHJP
B01J 23/46 20060101ALI20151104BHJP
B01D 53/94 20060101ALI20151104BHJP
F01N 3/28 20060101ALI20151104BHJP
【FI】
B01J35/04 301A
B01J23/46 311A
B01D53/94 300
F01N3/28 301P
F01N3/28 301Q
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-77778(P2013-77778)
(22)【出願日】2013年4月3日
(65)【公開番号】特開2014-200728(P2014-200728A)
(43)【公開日】2014年10月27日
【審査請求日】2014年4月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100105463
【弁理士】
【氏名又は名称】関谷 三男
(74)【代理人】
【識別番号】100129861
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 滝治
(72)【発明者】
【氏名】青木 悠生
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 宏昌
(72)【発明者】
【氏名】松原 浩之
【審査官】
安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−140811(JP,A)
【文献】
特開2014−141911(JP,A)
【文献】
特開平10−244167(JP,A)
【文献】
特開平10−043603(JP,A)
【文献】
特開2008−018370(JP,A)
【文献】
特開2002−177794(JP,A)
【文献】
特開2006−281134(JP,A)
【文献】
特開2005−131551(JP,A)
【文献】
特開2013−244438(JP,A)
【文献】
特開2004−283692(JP,A)
【文献】
特開昭54−099090(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00〜38/74
B01D 53/94
F01N 3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セル構造の基材のセル壁面においてガスが流通する基材の長手方向に貴金属触媒からなる触媒層が形成されてなる触媒コンバーターであって、
基材は、セル密度が最も高い中央領域と、セル密度が次に高い中間領域と、セル密度が最も低い周辺領域とから構成され、
各領域の触媒層はいずれも、セル壁面側の下層と、その上方にあって排ガスに直接接する上層からなる2層構造を呈しており、
各領域の触媒層の下層の前記長手方向の長さは、中間領域が中央領域以上の長さを有し、周辺領域が中間領域以上の長さを有しており、
基材の前記長手方向の長さに対する中央領域の触媒層の下層の該長手方向の長さの比率が65%以上であることを特徴とする触媒コンバーター。
【請求項2】
周辺領域のセル密度に対する中央領域のセル密度が1倍より大きくて2倍以下の範囲である請求項1に記載の触媒コンバーター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガスの排気系統を構成する配管内に収容固定される触媒コンバーターに関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種産業界においては、環境影響負荷低減に向けた様々な取り組みが世界規模でおこなわれており、中でも、自動車産業においては、燃費性能に優れたガソリンエンジン車は勿論のこと、ハイブリッド車や電気自動車等のいわゆるエコカーの普及とそのさらなる性能向上に向けた開発が日々進められている。
【0003】
ところで、車両エンジンとマフラーを繋ぐ排ガスの排気系統には、排ガスを浄化するための触媒コンバーターが一般に配設されている。
【0004】
エンジンはCOやNOx、未燃焼のHCやVOCなど、環境に有害な物質を排出することがあり、こうした有害物質を許容可能な物質に変換するべく、パラジウムや白金のような貴金属触媒からなる触媒層が多数のセルを具備する基材のセル壁面に形成されている。より具体的には、多数のセルのセル壁面において、基材の長手方向であって排ガスが流通する方向に亘って触媒層が形成されており、このような構成の基材を具備する触媒コンバーターに排ガスを通すことにより、COはCO
2に転化され、NOxはN
2とO
2に転化され、VOCは燃焼してCO
2とH
2Oが生成されることになる。
【0005】
ところで、たとえばハニカム構造のセルを具備する基材において、基材のセル密度が一様な触媒コンバーターが一般的であるが、基材の断面中央領域における排ガスの流速分布が周辺領域に比して高くなることから、基材全体の触媒層を十分に活用できていないという課題がある。そこで、このような排ガスの流速分布を勘案して、基材の周辺領域に比して中央領域のセル密度が高い触媒コンバーターとすることにより、基材断面内における流速分布差を可及的に低減することができ、触媒コンバーター全体の触媒層を有効に活用した排ガス浄化をおこなうことが可能となる。
【0006】
ここで、特許文献1には、触媒コンバーター(ここでは触媒体)の全体としてセル密度が一様なたとえばハニカム構造の基材に対して、その中央領域(ここでは中心部)と周辺領域(ここでは外周部)で担持される貴金属触媒の量を変化させることによって排ガス浄化性能を向上させる技術が開示されている。より具体的には、触媒体のうち、ガス流れの多い中心部に担持される単位体積当たりの触媒量を外周部の1.1倍以上としたものである。しかしながら、この技術では、触媒全体としてセル密度が一様であるために高い排ガス浄化性能を期待し難いことに加えて、貴金属触媒の量を多くした場合には、排ガスを浄化する過程で悪臭の原因となる硫化水素が多く発生してしまうといった課題を含んでいる。
【0007】
また、特許文献2には、セル密度が中央領域から外周領域に亘って小さくなっているハニカム構造体が開示されている。このようにセル密度をハニカム構造体の断面内で変化させることにより、排ガスの流速分布をハニカム構造体の断面内で可及的均一に調整することができるものの、このようにセル密度の調整によって流速分布を可及的均一に調整するのみでは、排ガス浄化に際してハニカム構造体を構成する触媒層の全体を有効に利用できないことが特定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−177794号公報
【特許文献2】特開2006−281134号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記する問題に鑑みてなされたものであり、触媒コンバーターを構成する触媒全体を有効活用して排ガス浄化をおこなうことができ、もって排ガス浄化性能に優れた触媒コンバーターを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成すべく、本発明による触媒コンバーターは、セル構造の基材のセル壁面においてガスが流通する基材の長手方向に貴金属触媒からなる触媒層が形成されてなる触媒コンバーターであって、基材は、セル密度が最も高い中央領域と、セル密度が次に高い中間領域と、セル密度が最も低い周辺領域とから構成され、各領域の触媒層の前記長手方向の長さは、中間領域が中央領域以上の長さを有し、周辺領域が中間領域以上の長さを有しており、基材の前記長手方向の長さに対する中央領域の触媒層の該長手方向の長さの比率が65%以上となっているものである。
【0011】
本発明の触媒コンバーターは、たとえば多数のセルを具備する基材をセル密度の異なる中央領域と中間領域と周辺領域から構成し、セル密度を中央領域で最も高く、周辺領域で最も低くしたことによって、セル密度一様の基材に比して中央領域、中間領域、周辺領域の排ガスの流速分布の差を小さくすることができる。さらに、中央領域と中間領域、周辺領域の触媒層のそれぞれの長手方向の長さ(基材内を排ガスが流れる方向の長さ)に関し、中間領域が中央領域以上の長さを有し、周辺領域が中間領域以上の長さを有していることにより、触媒コンバーターを構成する触媒層全体を有効活用することができる。
【0012】
この理由を以下で説明する。すなわち、基材をその長手方向に沿う断面で切断した縦断面図において、単位体積当たりのセル密度が一様の基材に対して、中央領域のセル密度が相対的に高い基材では、セル密度が相対的に低い周辺領域へ流入する排ガス量が多くなる。セル壁面において基材の長手方向に形成される触媒層の長さ(基材の長手方向の長さに対し、触媒層の長手方向の長さは様々な比率で設定される)に関し、基材全体でセル密度が一様な従来の基材の触媒層を基準としてセル密度の異なる基材の触媒層に適用すると、セル密度が小さな周辺領域は従来のセル密度一様の基材に比して流入する排ガス量(浄化すべき排ガス量)が多く、したがって十分な浄化性能を得ることができない。そこで、セル密度を中央領域と中間領域、周辺領域で相違させることに加えて、中央領域に比して中間領域、周辺領域の触媒層の長手方向の長さを長くすることにより、中間領域や周辺領域における触媒層と排ガスの接触面積を増加させ、排ガス浄化性能を向上させることができる。
【0013】
ここで、中央領域、中間領域、周辺領域の順に、セル密度は段階的(階段状)に、もしくは連続的に小さくなる態様で各領域のセル密度を変化させることができる。また、中間領域が1つのみでなく、2以上であってもよく、したがって、セル密度の異なる領域が3つの形態以外にも、4以上の形態であってもよい。
【0014】
さらに本発明の触媒コンバーターでは、触媒層の比率に関し、基材の前記長手方向の長さに対する中央領域の触媒層の該長手方向の長さの比率が65%以上に規定されている。このように基材の長さに対する中央領域の触媒層の長さ比率を規定したことで、排ガス浄化性能に優れた触媒コンバーターとなる。
【0015】
セル壁面に形成される触媒層の実施の形態としては、セル壁面側の下層とその上方の上層からなる2層構造とし、それぞれの層を貴金属触媒であるPd、Pt、Rhのいずれか一種もしくは二種以上から形成した形態を適用できる。
【0016】
ここで、使用されるセル構造の基材としては、酸化マグネシウム、酸化アルミニウムおよび二酸化珪素の複合酸化物からなるコージェライトや炭化ケイ素等のセラミックス素材からなるもののほか、メタル素材等のセラミックス素材以外の素材のものを使用してもよい。また、その構成は、四角形や六角形、八角形等の多数の格子輪郭のセルを具備するいわゆるハニカム構造体が適用できる。
【0017】
さらに、周辺領域のセル密度に対する中央領域のセル密度が1倍より大きくて2倍以下の範囲となる形態が好ましい。
【0018】
セル密度の比率が1倍以下の場合には中央領域と周辺領域でのセル密度の相違による各領域のセルへ流入する排ガス量の制御が不十分なものとなること、セル密度の比率が2倍を超えると周辺領域へ流入する排ガス量が多くなり過ぎ、浄化性能が低下する恐れがあること、が数値範囲の上下限値の設定根拠である。
【0019】
本発明の触媒コンバーターは、好適には耐熱衝撃性に優れたコージェライトハニカム担体を有するものであるが、それ以外にも電気加熱式の触媒コンバーター(EHC:Electrically Heated Converter)であってもよい。この電気加熱式の触媒コンバーターは、たとえばハニカム触媒に一対の電極を取り付け、電極を通電することでハニカム触媒を加熱し、ハニカム触媒の活性を高めてこれを通過する排ガスを無害化するものであり、車両エンジンとマフラーを繋ぐ排ガスの排気系統に適用することで、常温時の排ガスを浄化することに加えて、冷間時には電気加熱によって触媒を活性化させて排ガスを浄化することができる。
【発明の効果】
【0020】
以上の説明から理解できるように、本発明の触媒コンバーターによれば、その構成要素である基材がセル密度が最も高い中央領域と次に高い中間領域、セル密度が最も低い周辺領域から構成され、さらに各領域の触媒層の長手方向の長さに関し、中間領域が中央領域以上の長さを有し、周辺領域が中間領域以上の長さを有していて、基材の長手方向の長さに対する中央領域の触媒層の長手方向の長さの比率が65%以上に規定されていることにより、排ガス浄化性能に優れた触媒コンバーターを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の触媒コンバーターの実施の形態を説明した模式図である。
【
図2】(a)は基材の中央領域のセル壁面の長手方向の長さと2層構造の触媒層の上層および下層の長手方向の長さを説明した模式図であり、(b)は基材の周辺領域のセル壁面の長手方向の長さと2層構造の触媒層の上層および下層の長手方向の長さを説明した模式図である。
【
図3】セル密度一様の基材と中央領域と周辺領域でセル密度が異なる基材の排ガスの流速分布を説明した図である。
【
図4】中央領域の触媒層の長さ(基材の長さに対する比率)が50%の場合に、周辺領域の触媒層の長さを変化させた際のNOxエミッション量を測定する実験結果を示した図である。
【
図5】中央領域の触媒層の長さ(基材の長さに対する比率)が65%の場合に、周辺領域の触媒層の長さを変化させた際のNOxエミッション量を測定する実験結果を示した図である。
【
図6】中央領域の触媒層の長さ(基材の長さに対する比率)が80%の場合に、周辺領域の触媒層の長さを変化させた際のNOxエミッション量を測定する実験結果を示した図である。
【
図7】中央領域の触媒層の長さ(基材の長さに対する比率)が50%の場合、65%の場合、80%の場合および100%の場合に、周辺領域の触媒層の長さを変化させた際のNOxエミッション量を測定する実験結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明の触媒コンバーターの実施の形態を説明する。
【0023】
(排ガスの排気系統)
まず、本発明の触媒コンバーターが介在する排ガスの排気系統を概説する。本発明の触媒コンバーターが適用される排ガスの排気系統は、エンジン、触媒コンバーター、三元触媒コンバーター、サブマフラーおよびメインマフラーが配されて相互に系統管で繋がれ、エンジンで生成された排ガスが系統管を介して各部を流通し、排気されるようになっている。次に、以下、触媒コンバーターの実施の形態を説明する。
【0024】
(触媒コンバーターの実施の形態)
図1は本発明の触媒コンバーターの実施の形態を説明した模式図であり、
図2aは基材の中央領域のセル壁面の長手方向の長さと2層構造の触媒層の上層および下層の長手方向の長さを説明した模式図であり、
図2bは基材の周辺領域のセル壁面の長手方向の長さと2層構造の触媒層の上層および下層の長手方向の長さを説明した模式図である。また、
図3はセル密度一様の基材と中央領域と周辺領域でセル密度が異なる基材の排ガスの流速分布を説明した図である。
【0025】
図1で示す触媒コンバーター10は、多数のセルを有する筒状の基材1と、セルを構成するセル壁面に形成された2層構造の触媒層とから大略構成されている。
【0026】
ここで、基材1の素材としては、酸化マグネシウム、酸化アルミニウムおよび二酸化珪素の複合酸化物からなるコージェライトや炭化ケイ素等のセラミックス素材、メタル素材等のセラミックス素材以外の素材を挙げることができる。また、基材のセル壁面に形成される触媒層を構成する担体としては、多孔質酸化物であるCeO
2、ZrO
2、Al
2O
3の少なくとも一つを主成分とする酸化物を挙げることができ、セリア(CeO
2)、ジルコニア(ZrO
2)およびアルミナ(Al
2O
3)のいずれか一種からなる酸化物や、二種以上からなる複合酸化物(いわゆるCZ材であるCeO
2-ZrO
2化合物、拡散障壁としてAl
2O
3が導入されたAl
2O
3-CeO
2-ZrO
2三元系複合酸化物(ACZ材)など)を挙げることができる。
【0027】
基材1は、四角形や六角形、八角形等の多数の格子輪郭のセルを具備するハニカム構造体からなり、各セル内を排ガスが流通するようになっている(X1方向)。
【0028】
基材1は、セル密度が最もに高い中央領域1Aと、次にセル密度が高い中間領域1B、セル密度が最も低い周辺領域1Cの3つの領域から構成されている。
【0029】
ここで、
図3を参照して排ガスの流速分布について説明する。なお、
図3で示す流速分布は、断面円形の基材の中心0を中心に直径の2つの端点を−1、1とし、その途中位置を半径に対する比率で示し、各位置における排ガスの流速を基材のセル密度が一様な触媒コンバーターの基材中心の流速に対する比率で示したものである。
【0030】
基材のセル密度が一様な触媒コンバーターでは、
図3の点線ラインで示すように基材の断面中央領域における排ガスの流速分布が周辺領域に比して格段に高くなる。そのため、基材全体の触媒層を十分に活用し難いという課題があった。これに対し、本発明の触媒コンバーター10のように基材1をセル密度の異なる3つの領域から形成し、周辺領域1Cのセル密度を相対的に低くしたことにより、同図の実線ラインで示すように、基材1の中央領域1Aと中間領域1B、さらには周辺領域1Cの流速分布の差を格段に低減でき、触媒コンバーター10の有する触媒層全体を有効に活用した排ガス浄化をおこなうことが可能となる。
【0031】
さらに、図示する触媒コンバーター10では、基材1の周辺領域1Cと中間領域1B、中央領域1Aにおいて、各領域のセル壁面に形成される触媒層の長さを変化させている。
【0032】
ここで、
図2aで示す中央領域1Aのセル壁面1Aaの表面に形成される触媒層2Aは、セル壁面1Aa側の下層2Aaとその上方であって排ガスに直接接する上層2Abからなる2層構造であり、それぞれの層は貴金属触媒であるPd、Pt、Rhのいずれか一種もしくは二種以上から形成されている。同様に、
図2bで示す周辺領域1Cのセル壁面1Caの表面に形成される触媒層2Cも、セル壁面1Ca側の下層2Caとその上方の上層2Cbからなる2層構造であり、それぞれの層は貴金属触媒であるPd、Pt、Rhのいずれか一種もしくは二種以上から形成されている。
【0033】
基材1の長手方向の長さ(排ガスが流れる方向の長さ)をt1とした際に、セル壁面1Aa、1Caも同様に長さはt1となり、これに対して、触媒層2A、2Cの上層2Ab,2Cbの長さはともにt1である一方で、触媒層2A、2Cの下層2Aa、2Caの長さはそれぞれt2、t3であり、t1>t3>t2の関係となっている。
【0034】
なお、図示を省略するが、中間領域の触媒層の長さに関しては、2層のうちの上層は触媒層2A、2Cの上層2Ab,2Cbの長さと同様にt1であり、下層は触媒層2A、2Cの下層2Aa、2Caの長さt2、t3の中間の長さ(たとえばt2とt3の和の半分の長さ)に設定される。
【0035】
このように、セル密度を中央領域1Aと中間領域1Bと周辺領域1Cで相違させることに加えて、中央領域1Aの触媒層2A(の下層2Aa)に比して中間領域の下層の触媒層の長さを長くし、さらにこの長さに比して周辺領域1Cの触媒層2C(の下層2Ca)の長手方向の長さを長くすることにより、触媒コンバーター10の良好な排ガス浄化性能を期待することができる。
【0036】
また、中央領域の触媒層の長手方向の長さに関しては、その長手方向の長さの基材全長に対する比率を65%以上に設定するのがよく、セル密度に関しては、周辺領域1Cのセル密度に対する中央領域1Aのセル密度を1倍より大きくて2倍以下の範囲に設定するのがよい。セル密度の比率が1以下の場合には中央領域1Aと周辺領域1Cでのセル密度の相違による各領域のセルへ流入する排ガス量の制御が不十分なものとなること、セル密度の比率が2倍を超えると周辺領域1Cへ流入する排ガス量が多くなり過ぎ、浄化性能が低下する恐れがあること、が数値範囲の上下限値の設定根拠である。
【0037】
なお、触媒層は
図2に示す2層構造以外にも、3層以上の構造であってもよい。また、中間領域1Bがさらに2つ以上の領域に分割された形態であってもよい。
【0038】
[中央領域の触媒層の長さ(基材の長さに対する比率)を一定とし、周辺領域の触媒層の長さを変化させた際のNOxエミッション量を測定する実験とその結果]
本発明者等は、以下で示す実施例1〜6および比較例1〜8のハニカム構造基材を製作して、中央領域の触媒層の長さ(基材の長さに対する比率)を50%、65%、80%および100%で規定し、それぞれの場合に、周辺領域の触媒層の長さ(基材の長さに対する比率)を変化させた際のNOx排出量を測定した実験をおこなった。なお、中間領域の触媒層の長さは中央領域と周辺領域の長さの半分の長さとしている。以下、本実験にて適用したハニカム構造体1、2の構成を説明し、実施例1〜6、比較例1〜8の仕様を表1に示す。
【0039】
(ハニカム構造体1の構成)
押出成形によってコージェライト製のハニカム構造基材を作製し、中央領域と中間領域、および周辺領域でセル密度を相違させた。ハニカム構造体のサイズは排ガスの流れ方向に直交する円形断面の直径がφ103mmで長手方向の長さt1が105mmであり、セル密度が最も低い周辺領域のセル密度が400cpsi(62個/cm
2)であり、次にセル密度の低い中間領域のセル密度が500cpsi(78個/cm
2)であり、セル密度が最も高い中央領域のセル密度が600cpsi(93個/cm
2)であり、セルの格子形状はいずれも四角形である。さらに、触媒層は2層構造であって下層がPt担持層で担持量は0.1g/L、上層がRh担持層で担持量は0.3g/L、触媒層の長さに関しては、上層が基材長さと同じ長さ(基材長さt1に対する比率が100%)であり、下層の長さは各領域で種々変化させた。
【0040】
(ハニカム構造体2の構成)
中央領域、中間領域、周辺領域といった切替はなく、断面全体でセル密度が一様で400cpsiである。
【0042】
(実験方法)
耐久試験では、実機エンジンを使用し、触媒床温950℃で、1分間にフィードバック、フューエルカット、リッチ・リーンを含むサイクルで50時間の耐久試験を実施した。浄化性能評価法は、実機エンジンを使用し、A/Fをリーン側(15.1)からリッチ側(14.1)に反転させ、リッチ雰囲気を保持した際のNOx排出量を測定した。
【0043】
(実験結果)
図4〜7に実験結果を示す。
【0044】
図4では比較例1を、
図5では比較例5を、
図6では実施例4をそれぞれ測定結果の基準値とし、各グラフにおいてはそれぞれの基準値に対する比率を示している。さらに、全ての結果をまとめた
図7では、セルの断面仕様が一様である比較例7の測定結果を基準値とし、この基準値に対する各実施例および比較例の測定結果の比率を示している。
【0045】
各図より、中央領域の触媒層の長さに対し、周辺領域の触媒層の長さが長くなるにつれてNOxエミッション量が低下する傾向にあることが分かる。
【0046】
特に、中央領域の触媒層の長さが65%以上の場合にNOxエミッション量の低下が顕著である。
【0047】
さらに、中央領域の触媒層の長さの比率が65%、80%、100%の各ケースにおいて、周辺領域の触媒層の長さが中央領域の触媒層の長さ以上の場合(中間領域の触媒層の長さも当然に中央領域の触媒層の長さ以上であり、かつ周辺領域の触媒層の長さ以下である)に、NOxエミッション量の低下が顕著であることが分かる。
【0048】
この実験結果より、中央領域の触媒層の長さは65%以上に設定するのがよいと考えられる。さらに、周辺領域の触媒層の長さを中央領域の触媒層の長さ以上に設定するのがよいと考えられる。より具体的には、周辺領域の触媒層の長さを中間領域の触媒層の長さ以上とし、中間領域の触媒層の長さを中央領域の触媒層の長さ以上に設定するのが望ましい。
【0049】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0050】
1…基材、1A…中央領域、1Aa…セル壁面、1B…中間領域、1C…周辺領域、1Ca…セル壁面、2A…触媒層(中央領域の触媒層)、2Aa…下層、2Ab…上層、2C…触媒層(周辺領域の触媒層)、2Ca…下層、2Cb…上層、10…触媒コンバーター