特許第5821902号(P5821902)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5821902
(24)【登録日】2015年10月16日
(45)【発行日】2015年11月24日
(54)【発明の名称】鍵盤楽器の黒鍵
(51)【国際特許分類】
   G10C 3/12 20060101AFI20151104BHJP
   G10B 3/12 20060101ALI20151104BHJP
【FI】
   G10C3/12 100
   G10B3/12 100
【請求項の数】2
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-124208(P2013-124208)
(22)【出願日】2013年6月12日
(62)【分割の表示】特願2011-156773(P2011-156773)の分割
【原出願日】2007年7月24日
(65)【公開番号】特開2013-210671(P2013-210671A)
(43)【公開日】2013年10月10日
【審査請求日】2013年6月12日
(31)【優先権主張番号】特願2006-201983(P2006-201983)
(32)【優先日】2006年7月25日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100145481
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 昌邦
(72)【発明者】
【氏名】島野 賞二
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 伸彦
【審査官】 松田 直也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−131729(JP,A)
【文献】 特開平06−270110(JP,A)
【文献】 特開2001−034268(JP,A)
【文献】 特開2003−080584(JP,A)
【文献】 特開平10−301559(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10C 3/12
G10B 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒色染料により染色された木粉と熱可塑樹脂と、前記木粉と前記熱可塑性樹脂とを合わせた質量に対して0.5〜2質量%の黒色顔料と相溶化剤とを含み、
前記黒色染料により染色された木粉における前記黒色染料の固形分の含有率である染料固形分濃度が3.6%以上であり、
前記熱可塑樹脂が、ポリプロピレンであり、
前記黒色染料により染色された木粉と前記熱可塑樹脂との質量比(木粉/熱可塑樹脂)が、60/40であり、
前記黒色染料により染色された木粉の粒径が300μm以下である木粉含有樹脂形成体からなることを特徴とする鍵盤楽器の黒鍵。
【請求項2】
黒色染料により染色された木粉と熱可塑樹脂と、前記木粉と前記熱可塑性樹脂とを合わせた質量に対して0.5〜2質量%の黒色顔料と相溶化剤とを含み、
前記黒色染料により染色された木粉における前記黒色染料の固形分の含有率である染料固形分濃度が3.6%以上であり、
前記熱可塑樹脂が、ABSであり、
前記黒色染料により染色された木粉と前記熱可塑樹脂との質量比(木粉/熱可塑樹脂)が、70/30〜60/40であり、
前記黒色染料により染色された木粉の粒径が300μm以下である木粉含有樹脂形成体からなることを特徴とする鍵盤楽器の黒鍵。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木粉含有樹脂形成体からなる鍵盤楽器の黒鍵に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ピアノ等の鍵盤楽器の黒鍵の素材としては、黒檀が用いられてきた。黒檀を用いた黒鍵は、表面硬度、演奏性、触感、色などの外観の良好なものとなる。しかしながら、黒檀は希少な木材であり、将来入手できなくなる恐れがあるし、非常に高価である。
【0003】
この問題を解決するために、黒色着色剤および合成樹脂液からなる含浸液を木材に減圧注入し、加熱重合した樹脂処理部を有する木材製黒鍵を、黒檀に代わる黒鍵の素材として用いることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
また、黒檀に代わる黒鍵の素材として、染色していない木粉と樹脂とを含む木粉含有樹脂形成体を用いて、表面を黒色に着色して用いる方法がある。また、黒鍵の素材として、染色していない木粉と黒色に着色された着色樹脂とを混練して成形することによって得られる木粉含有樹脂形成体を用いる方法もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−73030号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の技術を用いる場合、演奏性、触感、色などの外観を全て満足させるためには、縞黒檀やマンソニアなどの希少な木材を使用しなければならなかった。また、黒鍵の素材として木材を用いる場合、材質自体が不均一なものであるので、得られた黒鍵の触感や外観のばらつきが大きいという不都合があった。さらに、特許文献1に記載の技術を用いた場合、表面のみに色がついているので、経年変化によって色落ちし、本来の木材の色が露出して外観が劣化するという問題があった。
【0006】
また、黒鍵として表面を黒色に着色した木粉含有樹脂形成体を用いた場合も、表面のみに色がついているので、経年変化によって色落ちするため、木粉の色が露出して外観が劣化するという問題があった。
また、黒鍵として黒色の着色樹脂を含有する木粉含有樹脂形成体を用いた場合には、表面に木粉が露出するため木粉の色が外観を劣化させるため、良好な外観が得られないという問題があった。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、希少木材を用いることなく、良好な外観と木材に近い触感および演奏性とが得られ、品質のばらつきが少ない鍵盤楽器の黒鍵を提供することを目的とする。
また、本発明は、上記黒鍵の素材として好適に用いることができ、希少木材を用いることなく得られ、品質のばらつきが少なく、良好な外観と木材に近い触感とを有する木粉含有樹脂形成体を提供することを目的とする。
さらに、本発明は、上記木粉含有樹脂形成体を製造する木粉含有樹脂形成体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明は以下の構成を採用した。
本発明の鍵盤楽器の黒鍵は、黒色染料により染色された木粉と熱可塑樹脂と、前記木粉と前記熱可塑性樹脂とを合わせた質量に対して0.5〜2質量%の黒色顔料と相溶化剤とを含み、前記黒色染料により染色された木粉における前記黒色染料の固形分の含有率である染料固形分濃度が3.6%以上であり、前記熱可塑樹脂が、ポリプロピレンであり、前記黒色染料により染色された木粉と前記熱可塑樹脂との質量比(木粉/熱可塑樹脂)が、60/40であり、前記黒色染料により染色された木粉の粒径が300μm以下である木粉含有樹脂形成体からなることを特徴とする。
また、本発明の鍵盤楽器の黒鍵は、黒色染料により染色された木粉と熱可塑樹脂と、前記木粉と前記熱可塑性樹脂とを合わせた質量に対して0.5〜2質量%の黒色顔料と相溶化剤とを含み、前記黒色染料により染色された木粉における前記黒色染料の固形分の含有率である染料固形分濃度が3.6%以上であり、前記熱可塑樹脂が、ABSであり、前記黒色染料により染色された木粉と前記熱可塑樹脂との質量比(木粉/熱可塑樹脂)が、70/30〜60/40であり、前記黒色染料により染色された木粉の粒径が300μm以下である木粉含有樹脂形成体からなることを特徴とする。
本発明の木粉含有樹脂形成体によれば、良好な外観と木材に近い触感とが得られる。なお、本発明の木粉含有樹脂形成体においては、木粉が染色されたものであるので、表面に木粉が露出したとしても、外観を劣化させることはない。また、本発明の木粉含有樹脂形成体では、表面を着色した場合のように、色落ちによる外観の劣化は生じない。さらに、本発明の木粉含有樹脂形成体は、木材と比較して、品質のばらつきの小さい均一な品質のものとなる。また、本発明の木粉含有樹脂形成体は、希少木材を用いることなく製造できる。
【0009】
また、上記の木粉含有樹脂形成体においては、前記木粉と前記樹脂との質量比(木粉/樹脂)が、上記の範囲なので、触感などの品質が非常に木材に近く、なおかつ、十分な表面硬度を備えたものとなる。
【0010】
また、上記の目的を達成するために、本発明の鍵盤楽器の黒鍵は、上記の木粉含有樹脂形成体からなることを特徴とする。
本発明の鍵盤楽器の黒鍵によれば、希少木材を用いることなく、良好な外観と木材に近い触感(演奏性)とが得られる。また、本発明の鍵盤楽器の黒鍵によれば、木材からなる鍵盤楽器の黒鍵と比較して、品質のばらつきが少ないものとなる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、黒鍵の素材として好適に用いることができ、希少木材を用いることなく得られ、品質のばらつきが少なく、良好な外観と木材に近い触感とを有する木粉含有樹脂形成体およびその製造方法を提供できる。
また、本発明によれば、希少木材を用いることなく、良好な外観と木材に近い触感および演奏性とが得られ、品質のばらつきが少ない優れた鍵盤楽器の黒鍵を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は本実施形態の木粉含有樹脂形成体の一例を示す斜視図である。
図2図2図1に示す木粉含有樹脂形成体の製造方法の一例を説明するための模式図である。
図3図3図1に示す木粉含有樹脂形成体の製造方法の一例を説明するための模式図である。
図4図4図1に示す木粉含有樹脂形成体の製造方法の一例を説明するための模式図である。
図5図5は本実施形態の木粉含有樹脂形成体の一例を示す斜視図である。
図6図6図5に示す木粉含有樹脂形成体の製造方法の一例を説明するための模式図である。
図7図7は本実施形態の木粉含有樹脂形成体の一例を示す斜視図である。
図8図8は鍵盤楽器の黒鍵の一例を示す斜視図である。
図9図9は、木粉含有樹脂形成体の断面を示した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。尚、以下に示す図面は、本実施形態に係る木粉含有樹脂形成体等の構成を説明するためのものであり、図示される各部の大きさや厚さや寸法等は、実際の木粉含有樹脂形成体等の寸法関係とは異なる場合がある。
<第1実施形態>
図1は本実施形態の木粉含有樹脂形成体の一例を示す斜視図であり、図2図4図1に示す木粉含有樹脂形成体の製造方法の一例を説明するための模式図である。
【0014】
図1に示す木粉含有樹脂形成体1は、黒色に染色された木粉と樹脂と黒色顔料とを含むものであって、板状の形状を有するものである。
図1に示す木粉含有樹脂形成体1を製造する場合、はじめに木粉を染色する(染色工程)。染色工程は、例えば、図2に示すミキサ20を用いて行なうことができる。図2に示すミキサ20は、容器21と、容器21の底部に設けられた回転羽根22とを備えている。図2に示すミキサ20を用いて染色工程を行なうには、まず、ミキサ20の容器21に所定量の木粉が入れられる。
【0015】
木粉含有樹脂形成体1に用いられる木粉としては、特に限定されないが、例えば、針葉樹からなるものを用いることができる。また、木粉としては、粒径の小さいものである程、密度が均一で、ばらつきが少なく、良好な外観を有する木粉含有樹脂形成体1を得ることができるため、好ましい。具体的には、木粉の粒径は、300μm以下であることが望ましく、70〜150μmのものを用いることがより望ましい。木粉の粒径が300μmを超えると、木粉含有樹脂形成体1の視感・触感などを十分に木材に近づけることができない虞がある。
【0016】
次に、図3に示すように、容器21の上面に密閉可能な蓋25を載置する。蓋25には、図3に示すように、供給手段24が設けられている。供給手段24は、原料投入口24aと、蓋25を貫通する脚部24bとからなるものであり、原料投入口24aに投入された原料を所定の供給量で容器21内に供給可能なものである。そして、回転羽根22を回転させて容器21内を攪拌しながら、所定量の黒色染料を含む染料液を容器21内に供給手段24を介して少量ずつ投入し、木粉の色が均一な黒色となるまで攪拌する。
【0017】
木粉の染色に用いられる黒色染料を含む染料液としては、黒色染料を希釈剤によって希釈して得られるものが用いられる。
黒色染料としては、木粉を黒色に染色できるものであればよく、特に限定されないが、例えば、直接染料、金属錯塩酸性染料、油溶染料、塩基性染料、媒染染料、反応染料などが例示できる。より具体的には、直接染料としてはDirect Black51、金属錯塩酸性染料としてはAcid Black52、油溶染料としてはSolvent Black22、塩基性染料としてはBasic Black2、媒染染料としてはMordant Black11、反応染料としてはReactive Black4などが例示できる。
【0018】
また、希釈剤としては、有機溶剤や水などが用いられ、黒色染料の種類などに応じて適宜選択される。黒色染料を含む染料液中における黒色染料(固形分)の濃度(染料濃度)は、例えば、5〜40質量%程度とされることが望ましい。
【0019】
なお、染色工程は、上述した方法に限定されるものではなく、木粉を染色できればいかなる方法であってもよく、例えば、黒色染料を含む染料液中に木粉を浸漬させることにより木粉を染色してもよい。
【0020】
また、染色工程においては、黒色染料を含む染料液に含まれる希釈剤が容器21の内壁に結露することを防ぐために、容器21内を蓋25の上部に設けられた吸引管26を用いて吸引しながら行なってもよい。
【0021】
次いで、容器21内の染料液中の希釈剤を蒸発させて、染色された木粉を乾燥させる。
その後、染色された木粉の入れられた図3に示す容器21内に、樹脂と黒色顔料と相溶化剤とを投入し、混練して混錬物23とする(混錬工程)。
ここで用いられる樹脂としては、特に限定されないが、混錬工程や成形工程において木粉に焦げが生じることのないように、メルティングポイント(溶融点)が250℃以下のものを用いることが望ましい。具体的には、樹脂として、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブテン、ABS、ASから選ばれる1種または2種以上の熱可塑樹脂などが例示できる。
混錬物における木粉と樹脂との質量比(木粉/樹脂)は、90/10〜50/50の範囲とすることが好ましい。木粉と樹脂との質量比が、90/10を超えると、得られる木粉含有樹脂形成体1の表面硬度が不十分なものとなる場合や、木粉と樹脂との結合が不十分となり、摩擦などによって木粉が剥がれて表面がボソボソになる場合がある。木粉と樹脂との質量比が、50/50未満であると、触感などの品質を十分に木材に近づけることができないため、好ましくない。
【0022】
また、顔料としては、例えば、黒色のものとして、カーボンブラック、鉄黒、グラファイトなどが例示できる。顔料は、木粉と樹脂とを合わせた質量に対して0.5〜2質量%となるように添加されることが望ましい。
相溶化剤としては、変性ポリプロピレン、変性ポリエチレン、変性スチレン系樹脂などが例示できる。相溶化剤は、木粉と樹脂とを合わせた質量に対して1〜4質量%となるように添加されることが望ましい。
【0023】
次に、混錬工程において得られた混錬物23を例えば1mm以下の粒径となるまで粉砕する。その後、粉砕された混錬物を、例えば、図4に示す圧縮成形機を用いて成形する(成形工程)。図4に示す圧縮成形機は、上型32と下型33とからなる金型31を備えたものである。図4に示す金型31は、上型32と下型33とが一体化されることにより、木粉含有樹脂形成体1の外径形状に対応する形状を有するキャビティ35が形成されるものである。図4に示す圧縮成形機を用いて木粉含有樹脂形成体1を形成するには、図4に示すように、金型31のキャビティ35内に混錬物を注入し、160〜180℃の温度で加熱しながら、15〜18MPaの圧力で加圧し、その後、60℃以下に冷却し、キャビティ35内で樹脂を固化させる方法によって得られる。
【0024】
このようにして得られた木粉含有樹脂形成体1は、黒色に染色された木粉と樹脂と黒色顔料とを含むものであるので、黒鍵の素材として好適に用いることができ、希少木材を用いることなく得られ、品質のばらつきが少なく、良好な外観と木材に近い触感とを有するものとなる。
また、本実施形態の木粉含有樹脂形成体1では、染色された木粉の色と顔料の色とが、ともに黒色であるため、表面のみでなく木粉含有樹脂形成体1の内部まで全体が黒色となる。よって、例えば、木粉含有樹脂形成体1を切削することにより、表面に木粉が露出したとしても、木粉の色が目立つことはなく、外観を劣化させることはない。また、樹脂として、熱可塑樹脂を用いた場合、木粉含有樹脂形成体1を切削した際に発生した切削くずは、回収して再び木粉含有樹脂形成体の材料として利用できる。
【0025】
<第2実施形態>
図5は本実施形態の木粉含有樹脂形成体の一例を示す斜視図であり、図6図5に示す木粉含有樹脂形成体の製造方法の一例を説明するための模式図である。
本実施形態の木粉含有樹脂形成体2は、断面視矩形の棒状の形状を有するものであり、図1に示す木粉含有樹脂形成体1と同様に、黒色に染色された木粉と樹脂と黒色顔料とを含むものである。
【0026】
図5に示す木粉含有樹脂形成体2を製造するには、まず、図1に示す木粉含有樹脂形成体1と同様にして、木粉を染色(染色工程)する。
次に、例えば、図6に示す押出成形機41を用いて、染色された木粉と樹脂と黒色顔料と相溶化剤とを混練して混錬物とし(混錬工程)、得られた混錬物を押し出し成形する(成形工程)。図6に示す押出成形機41は、原料投入口42と、内部にスクリューが設けられた加熱シリンダ43と、ダイ44とを備えたものである。図6に示す押出成形機41を用いて木粉含有樹脂形成体2の混錬工程および成形工程を行なうには、例えば、加熱シリンダ43内に、染色された木粉と樹脂と黒色顔料と相溶化剤とを原料投入口42を介して所定量投入し、加熱シリンダ43内で170〜200℃の温度で加熱しながら、スクリューを1.5〜7.5rpmで回転させて混錬し、得られた混錬物をダイ44を介して7〜15Mpaの圧力で押し出す方法によって得られる。
【0027】
このようにして得られた木粉含有樹脂形成体2は、図1に示す木粉含有樹脂形成体1と同様に、黒色に染色された木粉と樹脂と黒色顔料とを含むものであるので、黒鍵の素材として好適に用いることができ、希少木材を用いることなく得られ、品質のばらつきが少なく、良好な外観と木材に近い触感とを有するものとなる。
【0028】
<第3実施形態>
図7は本実施形態の木粉含有樹脂形成体の一例を示す斜視図である。
本実施形態の木粉含有樹脂形成体3は、鍵盤楽器の黒鍵の形状を有するものであり、図1に示す木粉含有樹脂形成体1と同様に、黒色に染色された木粉と樹脂と黒色顔料とを含むものである。
【0029】
図7に示す木粉含有樹脂形成体3を製造するには、まず、図1に示す木粉含有樹脂形成体1と同様にして、木粉を染色(染色工程)し、染色された木粉と樹脂と黒色顔料と相溶化剤とを混練して混錬物とし(混錬工程)、得られた混錬物を粉砕する。
本実施形態においては、混錬物における木粉と樹脂との質量比(木粉/樹脂)は、80/20〜50/50の範囲とすることが好ましい。木粉と樹脂との質量比が80/20を超えると、混錬物の流動性が不十分で、成形圧力にかかわらず射出成形できず、黒鍵の形状にできないため、好ましくない。
次に、例えば、射出成形機を用いて、粉砕された混錬物を射出成形する(成形工程)。
ここでの射出形成としては、例えば、木粉含有樹脂形成体3の外形形状に対応する形状を有するキャビティが形成された金型を用い、金型のキャビティ内に混錬物を注入し、キャビティ内で樹脂を加熱・冷却して固化させる方法によって得られる。
【0030】
このようにして得られた木粉含有樹脂形成体3は、図1に示す木粉含有樹脂形成体1と同様に、黒色に染色された木粉と樹脂と黒色顔料とを含むものであるので、黒鍵の素材として好適に用いることができ、希少木材を用いることなく得られ、品質のばらつきが少なく、良好な外観と木材に近い触感とを有するものとなる。
【0031】
<第4実施形態>
図8は本実施形態の木粉含有樹脂形成体からなる鍵盤楽器の黒鍵の一例を示す斜視図である。
図8に示す鍵盤楽器の黒鍵5は、図1に示す木粉含有樹脂形成体1を用いて得られたものである。図8に示す黒鍵5を製造するには、例えば、図1に示す板状の木粉含有樹脂形成体1を、図1に示す破線に沿って短冊状に切断して棒状とし、切削することによって所定の形状にするとともに、不織布表面処理材やサンドペーパーなどによる研削により表面51に木材特有の導管模様に似た研削すじからなる導管模様を付与する(仕上げ工程)ことによって得られる。
【0032】
また、図8に示す黒鍵5は、図5に示す断面視矩形の棒状の木粉含有樹脂形成体2を用いて製造してもよい。この場合、図2に示す棒状の木粉含有樹脂形成体2を、所定の長さ寸法に切断してから切削することによって、所定の形状にするとともに、表面51に木材特有の導管模様を付与する(仕上げ工程)ことによって得られる。
【0033】
また、図8に示す黒鍵5は、図7に示す鍵盤楽器の黒鍵の形状を有する木粉含有樹脂形成体3を用いて製造してもよい。この場合、図7に示す棒状の木粉含有樹脂形成体3を研削することによって、表面の樹脂層を例えば、木粉含有樹脂形成体3の表面から深さ10〜200μm取り除いて所定の形状にするとともに、表面51に木材特有の導管模様を付与する(仕上げ工程)ことによって得られる。
なお、仕上げ工程後、導管模様の付与された黒鍵5の表面51には、例えば、ウレタン塗料やオイル系塗料などの塗料を塗布してもよい。
【0034】
図8に示す黒鍵5は、図1図5図7のいずれかの木粉含有樹脂形成体を用いて得られたものであるので、希少木材を用いることなく、良好な外観と木材に近い触感および演奏性とが得られる。また、図8に示す鍵盤楽器の黒鍵5によれば、木材からなる鍵盤楽器の黒鍵と比較して、品質のばらつきが少ないものとなる。
また、本実施形態においては、木粉が黒色に染色されたものであり、顔料が黒色顔料であるので、仕上げ工程において木粉含有樹脂形成体を切削することで表面に木粉が露出したとしても、露出した木粉が目立たず、外観を劣化させることはない。
【0035】
なお、上述した実施形態においては、木粉が黒色に染色されたものであり、顔料が黒色顔料であり、鍵盤楽器の黒鍵として好適な木粉含有樹脂形成体を例に挙げて説明したが、木粉の色や顔料の色は用途等に応じて適宜変更でき、特に限定されない。すなわち、染色された木粉の色や顔料の色は、熱などによって木粉が変色した場合に支障をきたすことのない濃色であることが好ましいが、何色であってもよいし、染色された木粉の色と顔料の色とは、同じ色であってもよいし、異なっていてもよく、デザインなどによって適宜決定できる。
この場合においても、デザイン性に優れた良好な外観と木材に近い触感とが得られ、表面に木粉が露出したとしても、外観を劣化させることはない。また、表面を着色した場合のように、色落ちによる外観の劣化も生じない。
【0036】
また、本発明の木粉含有樹脂形成体は、上述した鍵盤楽器の黒鍵のほか、例えば、鍵盤楽器などの楽器用構造材や、内装材、外装材などとして好適に使用できる。
【0037】
<木粉と樹脂との質量比と、木粉含有樹脂形成体の成形方法および樹脂の種類との関係>
木粉と樹脂との質量比の好ましい範囲は、成形方法や樹脂の種類によって異なる。より具体的には、例えば、成形方法が表1に示す3種類の成形方法(プレス、押出、射出)であり、樹脂が表1に示す2種類の樹脂(PE、PPなど、ABS,ASなど)である場合、木粉と樹脂との好ましい質量比またはより好ましい質量比は表1に示す範囲とされる。
【0038】
【表1】
【0039】
成形方法や樹脂の種類に関わらず、木粉と樹脂との質量比における木粉の割合が大きいほど得られる黒鍵の木質感は向上するが、木粉の割合が表1に示される好ましい範囲を超える場合には、木粉含有樹脂形成体を成形する際に好ましい成形性が得られない場合がある。また、木粉と樹脂との質量比における樹脂の割合が表1に示される好ましい範囲を超える場合には、木粉含有樹脂形成体を用いて得られた黒鍵の外観や触感が十分な木質感を有するものとならない場合がある。すなわち、樹脂の割合が多いために、黒鍵の外観や触感がプラスチックに近いものとなってしまい、従来の木材製の黒鍵の代替品として用いることができない場合がある。
【実施例】
【0040】
「実験例1〜実験例6」
図2および図3に示すミキサ20の容器に以下に示す木粉を投入し、ミキサ20を500rpmで回転させながら、表2に示すA〜Dの黒色染料を含む染料液を表3に示す割合で投入し、その後、木粉の色が均一となるまでミキサ20を1000rpmで回転させ、木粉を黒色に染色(染色工程)した。
【0041】
【表2】
【0042】
【表3】
【0043】
なお、木粉としては、粒径が70〜150μの針葉樹(商品名:LIGNOCEL S−150TR、レッテンマイヤー社製)を用いた。
また、表3において染料液とは、木粉の使用量を100としたときの黒色染料を含む染料液の使用量の割合(質量比)を意味している。また、染料固形分濃度とは、木粉中の黒色染料の固形分の質量(質量(%)濃度)を意味している。
【0044】
このようにして得られた実験例1〜実験例6の染色された木粉の色を目視により観察した。なお、表3において、○は「均一に染色されている」、×は「染色されていない木粉が多く、全体として灰色である」、△は「全体として黒色であるが、染色されていない木粉が散見される」であることを意味する。
その結果を表3に示す。
表3に示すように、染料液Aを染料固形分濃度3.6%の割合で使用した実験例1、染料液Bを染料固形分濃度4.8%、8%の割合で使用した実験例3、実験例4、染料液Dを染料固形分濃度3.6%の割合で使用した実験例6では、木粉が、鍵盤楽器の黒鍵として使用される木粉含有樹脂形成体を製造する場合に好適な黒色に染色されたことが確認できた。
【0045】
続いて、染料液に含まれる希釈剤を蒸発させて、実験例1〜実験例6の染色された木粉を乾燥させた。その後、染色された木粉の入れられたミキサ20の容器内に、以下に示す樹脂と相溶化剤と黒色顔料とを表4に示す割合で投入し、160〜170℃の温度で加熱しながら、ミキサ20を2800rpmで回転させて混錬物とし(混錬工程)、得られた混錬物を1mm以下の粒径となるまで粉砕機で粉砕した。
その後、粉砕された混錬物を、図4に示す圧縮成形機の金型31のキャビティ35内に入れ、160〜180℃の温度で加熱しながら、15〜18MPaの圧力で加圧し、キャビティ35内で樹脂を固化させて(成形工程)、木粉含有樹脂形成体を得た。
【0046】
【表4】
【0047】
なお、樹脂としては、ポリプロピレン(PP)(商品名:PM930V、サンアロマー社製)を用い、黒色顔料としては、カーボンブラック(商品名:PBF−640BL、レジノカラー社製)を用い、相溶化剤としては、Ma酸変性ポリプロピレン(商品名:ユーメックス1010、三洋化成社製)を用いた。
表4において、木粉および樹脂の数値は、木粉と樹脂との質量比を示し、相溶化剤の数値は、木粉と樹脂とを合わせた質量に対する相溶化剤の質量を示し、顔料の数値は、木粉と樹脂とを合わせた質量に対する顔料の質量を示す。
【0048】
実験例1〜実験例6の染色された木粉を用い、圧縮成形機を用いて得られた木粉含有樹脂形成体の外観を目視により観察するとともに、手で触ることにより触感を調べた。その結果、得られた木粉含有樹脂形成体は、いずれも良好な外観と木材に近い触感とを有していた。
【0049】
また、図6に示す押出成形機41の加熱シリンダ43内に、実験例1〜実験例6の染色された木粉と上記と同様の樹脂と黒色顔料と相溶化剤とを上記と同様の割合で原料投入口42を介して投入し、加熱シリンダ43内で170〜180℃の温度で加熱しながら、スクリューを1.5〜7.5rpmで回転させて混錬し、得られた混錬物をダイ44を介して7〜15Mpaの圧力で押し出すことによって木粉含有樹脂形成体を得た。
【0050】
実験例1〜実験例6の染色された木粉を用い、押出成形機を用いて得られた木粉含有樹脂形成体の外観を目視により観察するとともに、手で触ることにより触感を調べた。その結果、得られた木粉含有樹脂形成体は、いずれも良好な外観と木材に近い触感とを有していた。
【0051】
「比較例」
染色工程を行なわず、染色されていない木粉を用いたこと以外は、実験例1〜実験例6と同様にして混錬工程を行い、実験例1〜実験例6と同様にして圧縮成形機を用いて成形工程を行い木粉含有樹脂形成体を得た。
このようにして得られた比較例の木粉含有樹脂形成体と、実験例1〜実験例6の染色された木粉を用いて圧縮成形された木粉含有樹脂形成体とを、切断して断面を観察した。その結果を図9に示す。
【0052】
図9は、木粉含有樹脂形成体の断面を示した写真であり、図9(a)は実験例1〜実験例6の木粉を用いた木粉含有樹脂形成体であり、図9(b)は比較例の木粉含有樹脂形成体である。
実験例1〜実験例6の木粉を用いた木粉含有樹脂形成体は、図9(a)に示すように、いずれも断面に露出した木粉の色が目立たず、良好な外観を有していた。
これに対し、図9(b)に示すように、比較例の木粉含有樹脂形成体では、断面に露出した木粉の色が目立った。
【0053】
「実験例7〜実験例13」
木粉として実験例1の染色された木粉を用い、表5に示す割合で表5に示す樹脂と相溶化剤と黒色顔料とを用いたこと以外は、上述した実験例1の木粉含有樹脂形成体と同様にして実験例7〜実験例13の木粉含有樹脂形成体を得た。得られた木粉含有樹脂形成体は、長さ305mm、幅55mm、厚さ15mmの板状であった。
【0054】
【表5】
【0055】
なお、ポリプロピレン(PP)としては(商品名:PM930V、サンアロマー社製)のものを用い、黒色顔料としては、カーボンブラック(商品名:PBF−640BL、レジノカラー社製)を用い、相溶化剤としては、Ma酸変性ポリプロピレン(商品名:ユーメックス1010、三洋化成社製)を用いた。
また、表5において、木粉および樹脂の数値は、木粉と樹脂との質量比を示し、相溶化剤の数値は、木粉と樹脂とを合わせた質量に対する相溶化剤の質量を示し、顔料の数値は、木粉と樹脂とを合わせた質量に対する顔料の質量を示す。
【0056】
このようにして得られた実験例7〜実験例13の木粉含有樹脂形成体を、短冊状に切断して棒状とし切削することによって所定の形状にし、実験例7〜実験例13の黒鍵を得た。そして、実験例7〜実験例13の黒鍵のそれぞれについて、黒味、艶、触感、及び摩擦堅牢度を以下に示す基準に基づいて評価した。その結果を表5に示す。
なお、表5において実験例7は比較例である。
【0057】
「黒み」、「艶」
黒鍵としての実用性を目視によって評価した。
「A」良好(従来の木材製黒鍵と同等以上)。
「B」黒鍵として実際の使用が可能なレベル(従来の木材製黒鍵とほぼ同等、もしくは、若干劣る)。Bは、例えば、黒鍵がAに比べて艶がない場合である。
「C」黒鍵として実際の使用ができないレベル。Cは、例えば、木粉の染色状態が悪い、色がグレーに近い場合等である。また、Cは、従来木材製黒鍵に比べて艶が無く、全体的に白っぽく見える場合なども含む。
【0058】
「触感」
黒鍵としての実用性を官能評価した。
「A」良好(従来の木材製黒鍵と同等以上)。
「B」黒鍵として実際の使用が可能なレベル(従来の木材製黒鍵とほぼ同等、もしくは、若干劣る)。Bは、例えば、黒鍵の触感がAに比べてプラスチックに近い場合や、Aに比べてざらつきやぼそぼそしている場合等である。
「C」黒鍵として実際の使用ができないレベル。Cは、例えば、明らかにざらつきが感じられる場合や、指のすべりが著しく悪い場合等である。
【0059】
「摩擦堅牢度」
荷重500gでガーゼを黒鍵に押さえつけて、摩擦堅牢度試験機を用いて3500回往復操作を行い、ガーゼへの色移りを目視によって評価した。
「A」良好(従来の木材製黒鍵と同等以上)。即ち、Aは、従来の木材製黒鍵を試験した場合のガーゼへの色移りを基準として、色移りが同じ程度であるか、従来の木材製黒鍵よりも少ない場合である。
「B」黒鍵として実際の使用が可能なレベル(従来の木材製黒鍵とほぼ同等、もしくは、若干劣る)。即ち、Bは、従来の木材製黒鍵を試験した場合のガーゼへの色移りを基準として、色移りが同じ程度であるか、従来の木材製黒鍵よりも若干多い場合である。
「C」黒鍵として実際の使用ができないレベル。Cは、例えば、木粉が剥がれ落ちた場合や、色移りが著しい場合である。
【0060】
表5に示すように、樹脂としてPPを用いた場合、木粉と樹脂との質量比(木粉/樹脂)が70/30である実験例9では、Aの評価が3つとなり良好であった。また、樹脂としてPPを用いた場合、木粉と樹脂との質量比(木粉/樹脂)が60/40である実験例10では、全ての評価がAとなり非常に良好であった。
また、樹脂としてABSを用いた場合、木粉と樹脂との質量比(木粉/樹脂)が50/50である実験例13では、Aの評価が3つとなり良好であった。また、樹脂としてABSを用いた場合、木粉と樹脂との質量比(木粉/樹脂)が70/30である実験例11および60/40である実験例12では、全ての評価がAとなり非常に良好であった。
【符号の説明】
【0061】
1、2、3…木粉含有樹脂形成体、5…黒鍵、20…ミキサ、21…容器、22…回転羽根、23…混錬物、24…供給手段、24a、42…原料投入口、25…蓋、26…吸引管、31…金型、32…上型、33…下型、35…キャビティ、41…押出成形機、43…加熱シリンダ、44…ダイ、51…表面。
図2
図3
図4
図6
図1
図5
図7
図8
図9