【実施例】
【0026】
次に、より具体的な実施例を示して本発明を更に詳細に説明する。
[実施例1]
厚み675μmの石英ガラス(65mm角)を光インプリント用モールド用基材として準備した。この基材の表面にスパッタリング法によりクロム薄膜(厚み15nm)を成膜し、その後、このクロム薄膜上に市販のレジストを塗布した。
次いで、市販の電子線描画装置内のステージ上に、基材の裏面がステージと対向するように基材を配置し、レジストに電子線を照射して、所望のパターン潜像を形成した。
次に、レジストを現像してレジストパターンを形成し、このレジストパターンをマスクとしてドライエッチングにより基材に凹凸パターンを形成した。形成した凹凸パターンは深さ200nm、ライン/スペースが100nm/100nmであった。この凹凸パターンが形成されたパターン領域は、基材の中央に位置する35mm角の領域であった。
【0027】
次に、この基材の表面(凹凸パターンを形成した面)側から、下記の条件でレーザー光を基材内部に収斂し絶縁破壊を生じさせてクラック部位からなる遮光部を深さ100〜500μmの位置に形成した。この遮光部の基材内側に向く端部(
図9に示される端部6a)が囲む領域は35mm角であり、上記のパターン領域の外側を囲むものであった。また、基材の側面に向く遮光部の端部は、基材の側面から約100μm内側に位置するものであった。これにより、
図3に示されるような光インプリント用モールドを作製した。
【0028】
尚、このような遮光部の形成位置は、基材の中央に位置し、かつ、上記のパターン領域の外側を囲む35mm角の光透過領域(
図2参照)を画定するものである。本実施例ではパターン領域と、遮光部が画定する光透過領域の大きさが同一となるよう作製することが可能であった。以下の実施例2〜5、比較例2〜3においても同様の光透過領域を画定するために遮光部を形成した。
(レーザー照射条件)
・使用レーザー : YAG
・照射エネルギー : 400μJ
上記のように遮光部を形成した部位と形成していない部位の光透過率を大塚電子(株)製 MCPDを用いて測定した結果、遮光部が形成された部位の光透過率は1%、形成されていない部位の光透過率は93%であった。
【0029】
[実施例2]
まず、気泡含有の石英ガラス(65mm角)を作製した。すなわち、石英粉末(ユミニン(株)製 IOTA−5、平均粒子径300μm)100重量部に対して、窒化ケイ素粉末(宇部興産(株)製 SN−E10、平均粒子径0.5μm)を0.01重量部、エタノール50重量部を添加して攪拌、混合した。次いで、エタノールを除去し乾燥して得た混合粉末300gをカーボン製るつぼに充填(充填密度1.4g/cm
3)し、電気炉内に入れ、雰囲気を1×10
-3mmHgとした。その後、室温から1800℃まで300℃/時間の昇温速度で加熱し、1800℃に10分間保持した後、電気炉内が常圧に達するまで窒素ガスを導入した。これにより得られた気泡含有の石英ガラスの気泡の平均径は72μm、気泡密度は9×10
5個/cm
3であった。
【0030】
次に、この石英ガラス(65mm角)の中心をフッ酸を用いて35mm角でくり抜いて、回廊形状の遮光部を作製した。その後、この遮光部のくり抜き箇所に石英ガラス(35mm角)をはめ込み、フッ酸接合で接合し、さらに、両面を機械研磨により平坦化して、厚み675μmの基材とした。
次いで、この基材の中央に位置する35mm角の領域(気泡を含有していない石英ガラス)に、実施例1と同様にして、凹凸パターン(深さ200nm、ライン/スペース100nm/100nm)を作製した。これにより、
図4に示されるような光インプリント用モールドを作製した。
上記のような遮光部(気泡含有の石英ガラス)と中央の石英ガラス(35mm角)の光透過率を実施例1と同様に測定した結果、遮光部の光透過率は1%、中央の石英ガラスの光透過率は93%であった。
【0031】
[実施例3]
実施例1と同様にして、基材の表面に凹凸パターンの形成までを行った。
次いで、この基材の裏面(凹凸パターンが形成されていない面)に市販のレジストを塗布し、所定のフォトマスクを介して露光し現像することにより、表面の凹凸パターンが中央に位置するように裏面に35mm角のレジストパターンを形成し、また、基材裏面の周辺部に幅が4mmのレジストパターンを形成した。このレジストパターンをマスクとしてドライエッチングにより基材の裏面をエッチングして深さ1μmの凹部を形成した。次いで、スパッタリング法により、上記の凹部内にクロム薄膜(厚み100nm)を形成し、上記のレジストパターンを剥離した。その後、このクロム薄膜を被覆するように溶融状態のSpin on Glassを配設し、硬化後に機械研磨によって基材裏面を平坦なものとした。これにより、基材内部にクロム薄膜(遮光性材料)が埋設されてなる遮光部を形成した(
図6参照)。この遮光部の基材内側に向く端部(
図9に示される端部6a)が囲む領域は35mm角であり、上記のパターン領域の外側を囲むものであった。また、基材の側面に向く遮光部の端部は、基材の側面から約4mm内側に位置するものであった。これにより、
図6に示されるような光インプリント用モールドを作製した。
【0032】
上記のように遮光部を形成した部位と形成していない部位の光透過率を実施例1と同様に測定した結果、遮光部が形成された部位の光透過率は0.1%、形成されていない部位の光透過率は93%であった。
【0033】
[実施例4]
まず、銅赤色ガラス(65mm角)を作製した。すなわち、ベースガラス(含有鉄分量はFe
2O
3換算で0.015重量%)を溶融窯で溶融し、これに接続するカララントフォアハース内で、酸化第二銅(CuO)13.965重量%、酸化第一スズ(SnO)5.98重量%、炭素0.05重量%を含むフリットを1.0重量%添加し、さらに、金属セレン(Se)1.344重量%を含むフリットを0.15重量%添加し均一に混合し、成形後、最高温度600℃において、60分間徐冷(熱処理)を行い、銅赤色ガラスとした。
次に、この銅赤色ガラス(65mm角)の中心をフッ酸を用いて35mm角でくり抜いて、回廊形状の遮光部を作製した。その後、この遮光部のくり抜き箇所に石英ガラス(35mm角)をはめ込み、フッ酸接合で接合し、さらに、両面を機械研磨により平坦化して、厚み675μmの基材とした。
次いで、この基材の中央に位置する35mm角の領域(石英ガラス)に、実施例1と同様にして、凹凸パターン(深さ200nm、ライン/スペース100nm/100nm)を作製した。これにより、
図4に示されるような光インプリント用モールドを作製した。
上記のような遮光部(銅赤色ガラス)と中央の石英ガラス(35mm角)の光透過率を実施例1と同様に測定した結果、遮光部の光透過率は1%、中央の石英ガラスの光透過率は93%であった。
【0034】
[実施例5]
実施例1と同様にして、基材の表面に凹凸パターンの形成までを行った。
次いで、この基材の裏面(凹凸パターンが形成されていない面)に実施例3で使用したのと同じ市販のレジストを塗布し、所定のフォトマスクを介して露光し現像することにより、表面の凹凸パターンが中央に位置するように裏面に35mm角のレジストパターンを形成した。このレジストパターンをマスクとしてドライエッチングにより基材の裏面をエッチングして深さ100nmの凹部を形成した。次いで、スパッタリング法により、上記の凹部内にクロム薄膜(厚み100nm)を形成し、上記のレジストパターンを剥離した。その後、機械研磨によって基材裏面を平坦なものとした。これにより、基材裏面の表層から深さ100nmまでクロム薄膜(遮光性材料)が埋め込まれてなる遮光部を形成した(
図10参照)。この遮光部の基材内側に向く端部(
図9に示される端部6a)が囲む領域は35mm角であり、上記のパターン領域の外側を囲むものであった。これにより、
図10に示されるような光インプリント用モールドを作製した。
上記のように遮光部を形成した部位と形成していない部位の光透過率を実施例1と同様に測定した結果、遮光部が形成された部位の光透過率は0.1%、形成されていない部位の光透過率は93%であった。
【0035】
[比較例1]
遮光部を形成しない他は、実施例1と同様にして、光インプリント用モールドを作製した。
【0036】
[比較例2]
実施例1と同様にして、基材の表面に凹凸パターンの形成までを行った。
次いで、この基材の裏面(凹凸パターンが形成されていない面)に実施例3で使用したのと同じ市販のレジストを塗布し、所定のフォトマスクを介して露光し現像することにより、表面の凹凸パターンが中央に位置するように裏面に35mm角のレジストパターンを形成した。このレジストパターンをマスクとしてスパッタリング法により、基板裏面にクロム薄膜(厚み100nm)を形成し、上記のレジストパターンを剥離した。これにより、基材裏面にクロム薄膜からなる遮光部を形成した。この遮光部の基材内側に向く端部(
図9に示される端部6a)が囲む領域は35mm角であり、上記のパターン領域の外側を囲むものであった。これにより、光インプリント用モールドを作製した。
上記のように遮光部を形成した部位と形成していない部位の光透過率を実施例1と同様に測定した結果、遮光部が形成された部位の光透過率は0.1%、形成されていない部位の光透過率は93%であった。
【0037】
[評価1]
上述のように作製した光インプリント用モールド(実施例1〜5、比較例1〜2)について、下記の各評価を行った。
<吸着保持の安定性>
外形が65mm角である各光インプリント用モールドの裏面を、下記の真空チャック1を用いて保持し、インプリント装置を使用してパターン転写を実施した。すなわち、6インチ径のシリコンウエハ基板の表面に厚み0.7μmの光硬化性樹脂層(東洋合成工業(株)製 PAK−01)を備えた被加工物を、インプリント装置の基板ステージに載置した。次いで、光硬化性樹脂層に光インプリント用モールドを押し当てた(光硬化性樹脂層への押し込み量=0.1μm)。この状態で光インプリント装置の照明光学系から紫外線(ピーク波長365nm)を照射し、光インプリント用モールドを透過した紫外線により光硬化性樹脂層を硬化させた。その後、光インプリント用モールドを被加工物から離型する。このようなパターン転写を10回実施し、吸着保持の安定性を下記の基準で判定して表1に示した。
【0038】
(真空チャック1)
光インプリント用モールドを、周囲から15mmの範囲で吸着保持するもので
あり、モールドと真空チャック1との接触領域における吸着部の分布は均一で
あり、かつ、モールドと真空チャック1との接触面積当りの吸着部の面積比率
は0.4である。したがって、真空チャック1の中心を光が通過してモールド
に対して光照射が可能な領域の大きさは35mm角である。
(吸着保持安定性の判定基準)
○ : 被加工物からの離型時に、モールドが真空チャック1に保持され
ている
× : 被加工物からの離型時に、被加工物側にモールドが貼り付くこと
がある
【0039】
<不要露光防止効果>
光インプリント用モールドを上記の真空チャック1により保持してインプリント装置に装着した。また、6インチ径のシリコンウエハ基板の表面に厚み0.7μmの光硬化性樹脂層(東洋合成工業(株)製 PAK−01)を備えた被加工物を、インプリント装置の基板ステージに載置した。
次いで、光硬化性樹脂層に光インプリント用モールドを圧着(光硬化性樹脂層への押し込み量=0.1μm)した。この状態でインプリント装置の照明光学系から紫外線(ピーク波長=365nm)を照射し、光インプリント用モールドを透過した紫外線により光硬化性樹脂層を硬化させた。その後、光インプリント用モールドを被加工物から離型し、光インプリント用モールドが有する凹凸パターンの反転凹凸構造が転写形成された樹脂層を得た。
【0040】
次いで、この樹脂層の未硬化部位をアセトンによって除去し、基板上に残存する樹脂層(反転凹凸構造が転写形成されている)を光硬化領域として測定した。この光硬化領域と、上述の光透過領域(35mm角)とを比較し、遮光部による不要露光防止効果を下記の基準で判定して表1に示した。
(不要露光防止効果の判定基準)
○ : 光硬化領域と光透過領域が一致している
△ : 光硬化領域が光透過領域よりも広く、その差は50μm未満
× : 光硬化領域が光透過領域よりも広く、その差は50μm以上
【0041】
<異物発生の有無>
各光インプリント用モールドを真空チャック1で保持し、着脱を50回繰り返した。この着脱の繰り返しは、6インチ径のシリコンウエハを下方に配して行い、50回の着脱が終了した後、6インチ径のシリコンウエハ上の異物を異物検査機((株)トプコン製 WM−7)で検査し、下記の基準で異物発生の有無を判定して表1に示した。
(異物発生有無の判定基準)
無 : 1.0μmの異物の増加数が10個/cm
2以下である
有 : 1.0μmの異物の増加数が10個/cm
2を超える
【0042】
【表1】
【0043】
表1に示されるように、吸着保持安定性を見ると、ここで使用した真空チャック1は、全てのモールドを安定して保持することが可能であることがわかる。
また、不要露光防止効果を見ると、比較例1では不要部が露光されることが明らかである。比較例1は、遮光部を具備していないので、真空チャック1が実質的に遮光部となる役割を果たしている。しかし、真空チャック1では、光透過領域(35mm角)以外の部位を遮光することができないため、不要部が露光されてしまっている。一般に、真空チャックの寸法精度、モールドとのアライメント精度の制約を考えると、光透過領域以外の部位を真空チャックで完全に保持することは事実上不可能であり、不要露光防止効果の面で、比較例1は実施例1〜5および比較例2に対して大きく劣るものとなっている。
【0044】
さらに、異物発生を見ると、比較例2において異物発生が確認された。これは、比較例2では、基材裏面に厚み100nmで形成したクロム薄膜からなる遮光部が真空チャック1と繰り返し接触することで、遮光部を構成するクロム薄膜が剥がれたものである。したがって、遮光部が基材内部に存在するか、基材と同一面となるように埋め込まれているモールド(実施例1〜5)は、従来のモールドである比較例2に比して優れていることが明らかである。
このような評価1の比較例2の結果から、基材裏面に突出するように設けられた遮光部に直接真空チャックが接触することが異物発生の原因であることが理解できた。そこで、真空チャックにより保持するための部位には遮光部を存在させないように比較例2を改善した下記の比較例3のモールドを作製した。
【0045】
[比較例3]
実施例2と同様にして、基材の表面に凹凸パターンの形成までを行った。
次いで、この基材の裏面(凹凸パターンが形成されていない面)に実施例3で使用したのと同じ市販のレジストを塗布し、所定のフォトマスクを介して露光し現像することにより、表面の凹凸パターンが中央に位置するように裏面に35mm角のレジストパターンを形成し、また、基材裏面の周辺部に幅が10mmのレジストパターンを形成した。た。このレジストパターンをマスクとしてスパッタリング法により、基板裏面にクロム薄膜(厚み100nm)を形成し、上記のレジストパターンを剥離した。これにより、基材裏面にクロム薄膜からなる遮光部を形成した。この遮光部の基材内側に向く端部(
図9に示される端部6a)が囲む領域は35mm角であり、上記のパターン領域の外側を囲むものであった。また、基材の側面に向く遮光部の端部は、基材の側面から約10mm内側に位置するものであった。これにより、光インプリント用モールドを作製した。
上記のように遮光部を形成した部位と形成していない部位の光透過率を実施例1と同様に測定した結果、遮光部が形成された部位の光透過率は0.1%、形成されていない部位の光透過率は93%であった。
上記のように遮光部を形成した部位と形成していない部位の光透過率を実施例1と同様に測定した結果、遮光部が形成された部位の光透過率は0.1%、形成されていない部位の光透過率は93%であった。
【0046】
[評価2]
上述のように作製した比較例3の光インプリント用モールドと、上記の実施例1〜5の光インプリントモールドについて、下記の真空チャック2を用いて、評価1と同様にして、吸着保持の安定性と異物発生の有無を判定して表2に示した。
(真空チャック2)
光インプリント用モールドを、周囲から5mmの範囲で吸着保持するものであ
り、モールドと真空チャック2との接触領域における吸着部の分布は均一であ
り、かつ、モールドと真空チャック2との接触面積当りの吸着部の面積比率は
0.4である。したがって、真空チャック2の中心を光が通過してモールドに
対して光照射が可能な領域の大きさは55mm角である。
【0047】
【表2】
【0048】
表2に示されるように、比較例3では、基材裏面に厚み100nmで形成したクロム薄膜からなる遮光部が、基材の側面から内側の約10mmの幅の部位には存在せず、真空チャック2は、このように遮光部が存在しないモールドの周辺部位を保持するので、異物の発生はみられなかった。
しかし、真空チャック2は真空チャック1に比べて保持部分の面積が十分ではなかったため、全てのモールド(実施例1〜5、比較例3)に対し、良好な吸着保持安定性を発現できないものであった。
以上の評価1、評価2の結果から、ナノインプリント装置が、例えば、モールドの裏面側を吸着保持することを必要とした場合、本発明のモールドでは異物を発生させず、不要部の露光が行われない状態であって、かつ吸着保持安定性を得ることが可能であるが、従来のモールドでは不可能であることが確認された。