(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施態様においては、c面及び非c面を有する種結晶と、種結晶のc面及び非c面を基点としてc面方向及び非c面方向に成長したc面成長部及び口径拡大部とを含むSiC単結晶であって、種結晶のc面に略平行な平面であって種結晶及び口径拡大部を含む平面内において、貫通転位が含まれない連続領域が前記平面内の周辺部に存在し、前記連続領域の面積が前記平面全体の面積に対して50%以上の面積を占める、SiC単結晶を対象とする。
【0014】
図3及び
図4に、本発明の一実施態様による種結晶を基点として口径拡大した成長結晶30の断面模式図を示す。c面成長部とは、
図3及び
図4に示すように、種結晶を基点として種結晶の下面(c面)方向に成長させた種結晶の直下領域48のSiC単結晶をいう。口径拡大部とは、
図3及び
図4に示すように、種結晶を基点として種結晶の側面方向に成長させた単結晶46をいう。SiC成長結晶30は、c面成長部48及び口径拡大部46を含む単結晶である。
【0015】
c面方向に成長とは、種結晶のc面に垂直方向(c軸方向)に成長することをいい、
図3及び
図4の領域48の結晶を成長させる。非c面方向に成長とは、種結晶の側面方向に所定の角度で口径を拡大させて成長することをいい、
図3及び
図4の口径拡大部46の結晶を成長させる。
【0016】
種結晶及び口径拡大部を含みc面に平行な平面内において、貫通転位が含まれない連続領域の面積は、平面全体の面積に対して、少なくとも50%以上であり、より好ましくは60%以上であり、さらに好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、さらにより好ましくは90%以上である。
【0017】
c面成長部及び口径拡大部を含む口径が拡大した成長結晶は、SiC種結晶のc面((0001)面または(000−1)面)及び非c面(a面及びm面)から同時にSiCをエピタキシャル成長させて得られ得る。c面成長させる下面、黒鉛軸に保持される上面、及び側面(非c面(a面及びm面))を有するSiC種結晶を準備し、坩堝内において、内部から表面に向けて温度低下する温度勾配を形成したSi−C溶液に、種結晶の下面及び側面を接触させてSiC単結晶を成長させることが有効である。
【0018】
Si−C溶液を、種結晶の下面に接触させるだけでなく種結晶の側面にSi−C溶液を濡れ上がらせることによって、SiC単結晶が、種結晶を基点として口径が拡大した成長形状を有しやすくなる。種結晶に貫通転位が含まれていても、貫通転位はc面に垂直方向(c軸に並行方向)に伝搬し得るため、c軸と垂直方向の口径拡大部には、貫通転位が伝搬しにくく、口径拡大部において、貫通転位が含まれないSiC単結晶を得ることができる。
【0019】
成長結晶の口径を拡大させる角度(以下、口径拡大角ともいう)は好ましくは35°〜90°、より好ましくは60°〜90°、さらに好ましくは78〜90°である。口径拡大角が大きいほど口径拡大部が大きく得られるので、貫通転位が含まれない連続領域の面積を効率よく得ることができる。
【0020】
口径拡大角とは、
図3及び
図4に示すように、種結晶の下面に垂直方向と成長結晶の上面との間の角度であって、成長初期の成長結晶の拡大角をいう。
図3は、口径拡大角を一定としながら、成長結晶が種結晶の側面から直線的に広がって成長した場合の断面模式図であり、
図4は、成長初期に口径拡大角を大きくして拡大成長し、次いで口径拡大角を変えながら成長した場合の断面模式図を示す。大きな口径を有する成長結晶を有するためには、大きな口径拡大角を示すことが好ましい。概して、メニスカスが寝ているほど(Si−C溶液面に対して並行に近いほど)口径拡大角は大きくなり、メニスカスが立っているほど(Si−C溶液面に対して垂直に近いほど)口径拡大角は小さくなる傾向がある。種結晶とSi−C溶液面との位置関係等を変更することによりメニスカスの角度を調節して口径拡大角を制御することができる。SiC単結晶の成長中に種結晶のSi−C溶液面からの高さを変更して、メニスカスの角度を調節して口径拡大角を変更してもよい。
【0021】
貫通転位の有無を観察し、その連続領域の面積を測定する面の位置を
図10及び
図11に示す。貫通転位の有無及び連続領域を観察し、その面積を測定する面は、種結晶の下面(c面)または成長させたSiC単結晶のc面に略平行な平面であって種結晶及び口径拡大部を含む平面である。
図10または
図11の領域36の任意の位置における種結晶及び成長結晶を含むSiC単結晶のc面に並行な面内で、貫通転位の有無を観察し、貫通転位が含まれない連続領域の面積を測定することができる。
【0022】
一態様において、種結晶及び口径拡大部を含むSiC単結晶を、種結晶の上面側から、種結晶のc面に略平行になるように研磨して、種結晶の下面に到達するまでの任意の位置において、種結晶及び口径拡大部を含む平面をだすことができる。本発明においては、SiC単結晶は口径が拡大した形状を有し得るので、種結晶の上面から下面に近づくほど口径拡大部が大きくなり貫通転位が含まれない連続領域の面積を大きくすることができる。そのため、領域36内では、種結晶の下面近傍の平面内において、平面全体の面積に対して、貫通転位が含まれない連続領域の面積率が最も大きくなる傾向がある。したがって、領域36のうちの種結晶の下面に到達するまでの任意の位置におけるc面に平行な平面内で、平面全体の面積に対する貫通転位が含まれない連続領域の面積率を測定して50%以上であればよく、必ずしも種結晶の下面近傍で測定する必要はない。
【0023】
図12に、
図10または
図11の領域36の任意の位置におけるc面に平行な面であって、種結晶及び成長結晶を含む平面38を表した模式図を示す。この平面内において、貫通転位が含まれ得る領域40、及び貫通転位が含まれない連続領域42について観察することができ、また、平面全体の面積に対する連続領域42の面積率を測定することができる。
【0024】
図12に示した平面内において、貫通転位が含まれない連続領域42は、中央部の貫通転位が含まれ得る領域40の周辺部に存在し得る。概して、中央部の貫通転位が含まれ得る領域40は種結晶領域であり、貫通転位が含まれない連続領域42は口径拡大部に相当する。種結晶としては、昇華法等により一般的に作成したSiC単結晶を用いることができ、概して、貫通転位が含まれ得るが、その周囲の口径拡大部には貫通転位が含まれ得ない。種結晶と成長結晶の境界近傍に欠陥等が発生することがあるが、この場合でも、種結晶の周囲の口径拡大部の大部分において貫通転位を含まない連続領域を得ることができる。好ましくは、口径拡大部の全体が貫通転位を含まない。
【0025】
一実施態様においては、種結晶及び口径拡大部を含む平面内において、口径拡大部の面積は、種結晶及び口径拡大部を含む平面全体の面積に対して、少なくとも50%以上であり、より好ましくは60%以上であり、さらに好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、さらにより好ましくは90%以上である。
【0026】
別の態様において、c面及び非c面を有する種結晶と、種結晶のc面及び非c面を基点としてc面方向及び非c面方向に成長したc面成長部及び口径拡大部とを含むSiC単結晶であって、SiC単結晶のc面に略平行な平面であってc面成長部及び口径拡大部を含む平面内において、貫通転位だけでなく、基底面転位及び積層欠陥が含まれない連続領域が前記平面内の周辺部に存在し、前記連続領域の面積が前記平面全体の面積に対して少なくとも50%以上の面積を占める、SiC単結晶を得ることができる。連続領域の面積率は、前記平面全体の面積に対してより好ましくは60%以上であり、さらに好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、さらにより好ましくは90%以上である。
【0027】
上述の、昇華法等の一般的な種結晶を用いて口径拡大させたSiC単結晶を得る一実施態様において、
図14及び15に示すように、口径を拡大させてSiC単結晶の成長を継続することで、種結晶の下面(c面)よりも下方(液面側)であって、種結晶のc面の直下よりも外側(口径拡大部)の領域44においても、貫通転位、基底面転位、及び積層欠陥が含まれないSiC単結晶を得ることができる。種結晶からの貫通転位の伝搬方向はc軸に平行方向であり、基底面転位及び積層欠陥の伝搬方向はc軸に垂直方向であるため、両方の影響を無くすことができる領域44を成長させることが高品質なSiC単結晶を得るために有効である。
【0028】
成長結晶の口径拡大角は、好ましくは35°〜90°、より好ましくは60°〜90°、さらに好ましくは78〜90°であり、口径拡大角が大きいほど大きな口径拡大部を得ることができるので、貫通転位、基底面転位、及び積層欠陥が含まれない連続領域を効率よく得ることができる。
【0029】
好ましい態様においては、貫通転位を含まない連続領域を少なくとも一部に有する種結晶を基点として成長した成長結晶を含むSiC単結晶であって、SiC単結晶のc面に並行な平面内において、貫通転位、基底面転位、及び積層欠陥が含まれない連続領域が前記平面内の少なくとも周辺部に存在し、前記連続領域の面積が、前記平面全体の面積に対して50%以上の面積を占める、SiC単結晶を得ることができる。連続領域の面積率は、前記平面全体の面積に対してより好ましくは60%以上であり、さらに好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、さらにより好ましくは90%以上である。
【0030】
上記の一実施態様において成長させたSiC単結晶におけるc面に略平行な平面であって種結晶及び口径拡大部を含む平面には、貫通転位が含まれない連続領域42が存在し得る。好ましい態様においては、この連続領域42を含むウエハを切り出して、
図13に示すように、連続領域42が存在するc面を下面として種結晶56として用いて、SiC単結晶をさらにc面成長させることができる。このようにして貫通転位が含まれない連続領域42を基点としてc面成長させた連続領域42の直下の成長結晶52には、貫通転位は含まれ得ない。さらに、基底面転位及び積層欠陥は、c面に並行に伝搬し得るがc軸方向には伝搬しないため、連続領域42を基点としてc面成長させた成長結晶52には、基底面転位及び積層欠陥も含まれ得ない。別の態様において成長させたSiC単結晶におけるc面に略平行な平面であってc面成長部及び口径拡大部を含む平面にも、貫通転位だけでなく、基底面転位及び積層欠陥が含まれない連続領域が存在し得るため、このSiC単結晶を種結晶として用いることもできる。
【0031】
本発明はまた、内部から表面に向けて温度低下する温度勾配を有するSi−C溶液にSiC種結晶を接触させて単結晶を成長させる、溶液法によるSiC単結晶の製造方法であって、
種結晶が、Si−C溶液の表面に並行に配置される下面、黒鉛軸に保持される上面、及び側面を有し、
種結晶の下面及び側面をSi−C溶液に接触させて、黒鉛軸にSi−C溶液が接触しないように種結晶の側面とSi−C溶液との間にメニスカスを形成すること、及び
種結晶から口径を拡大させながら結晶を成長させること、
を含む、SiC単結晶の製造方法を対象とする。
【0032】
本方法においては、種結晶の下面となるc面((0001)面または(000−1)面)及び種結晶の側面(非c面(a面及びm面))から同時にエピタキシャル成長を行うために、
図2に示すように、種結晶の下面にSi−C溶液を接触させるだけでなく、種結晶の側面にもSi−C溶液を濡れ上がらせて、種結晶の側面とSi−C溶液との間にメニスカスを形成してSiC単結晶を成長させる。その際、黒鉛軸にSi−C溶液が接触しないようにすることが必要である。
【0033】
このようにすることで、SiC単結晶を、種結晶の下面及び側面から同時にエピタキシャルに成長させることができ、種結晶を基点として効率よく口径を拡大させながら結晶成長させて、貫通転位が非常に少ない高品質のSiC単結晶を得ることができることが分かった。一方で、黒鉛軸にSi−C溶液が接触すると多結晶が発生するため、種結晶の側面にSi−C溶液を濡れ上がらせてメニスカスを形成しつつ、黒鉛軸にSi−C溶液が接触しないようにすることが重要であることが分かった。本願において、メニスカスとは、表面張力によって種結晶の側面に濡れ上がったSi−C溶液の表面に形成される凹状の曲面を言い、「メニスカスを形成」とは、種結晶の側面にSi−C溶液が濡れ上がっている状態を表す。
【0034】
本発明のSiC単結晶の製造方法においては溶液法が用いられる。SiC単結晶を製造するための溶液法とは、坩堝内において、内部から表面に向けて温度低下する温度勾配を有するSi−C溶液の表面に種結晶を接触させ、種結晶近傍のSi−C溶液を過飽和にすることによって種結晶上にSiC単結晶を成長させる方法である。
【0035】
本方法の第1の実施態様においては、SiC単結晶の製造で一般に用いられる品質のSiC単結晶を種結晶として用いることができる。例えば昇華法で一般的に作成したSiC単結晶を種結晶として用いることができる。このような昇華法で一般的に作成したSiC単結晶には、概して貫通転位並びに基底面転位及び積層欠陥が多く含まれている。
【0036】
第1の実施態様において用いられる種結晶は、Si−C溶液面に並行に接触される種結晶の下面をc面とし、下面との間の角度が90°の側面、または90°よりも大きい側面、及び黒鉛軸に保持させる上面を有する種結晶を用いる。種結晶の下面は、c面からのオフセット角度が0〜±10°、好ましくは0〜±5°、さらに好ましくは0〜±2°、さらに好ましくは0〜±1°の面であり、最も好ましくはc面に並行な面である。種結晶から成長結晶に伝搬し得る貫通転位はc面に垂直方向(c軸に並行方向)に形成され得るため、種結晶の下面がc面に並行であるほど、口径拡大部に貫通転位を生じにくくすることができる。本発明に用いられる種結晶の側面は非c面でありa面及びm面が含まれるが、本明細書においては、側面またはa面ともいい、同じ意味を表す。
【0037】
第1の実施態様においては、成長結晶において貫通転位が含まれない大きな面積のSiC単結晶を得ることができる。種結晶を基点としてc面成長だけでなく非c面方向にも口径が拡大した成長結晶を有することができ、c軸に対して大きな角度で側面方向に成長した口径拡大部を有することができる。
【0038】
第1の実施態様においては、種結晶のc面に対して略並行な平面であって種結晶及び口径拡大部を含む平面内において、口径拡大部が前記平面全体の面積に対して50%以上の面積を占め、口径拡大部に貫通転位が含まれない、SiC単結晶を得ることができる。
【0039】
種結晶及び口径拡大部を含む平面とは、
図10及び
図11に示すように、種結晶及び口径拡大部を含むSiC単結晶を、種結晶の上面側から、種結晶のc面に略平行になるように研磨していったときの、種結晶の下面に到達するまでの領域36の任意の位置における、口径拡大部を含む平面である。成長させたSiC単結晶は口径が拡大した形状を有するので、種結晶の上面から研磨した場合、種結晶の下面に近づくほど口径拡大部の面積を大きくすることができる。そのため、種結晶の下面近傍の平面内で口径拡大部の面積率が最も大きくなる傾向がある。したがって、種結晶の下面に到達するまでの領域36の任意の位置における平面内で口径拡大部の面積率を測定し、50%以上であればよく、必ずしも下面近傍で測定する必要はない。種結晶と口径拡大部の境界近傍に欠陥が発生することがあるが、概して口径拡大部には貫通転位が含まれないので、口径拡大部の面積が大きいほど貫通転位が含まれない領域の面積を大きくすることができる。
【0040】
種結晶及び口径拡大部を含む平面内において、口径拡大部分の面積は大きいほどよく、種結晶及び口径拡大部分を含むSiC単結晶の表面全体の面積の少なくとも50%以上であり、より好ましくは60%以上であり、さらに好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、さらにより好ましくは90%以上である。
【0041】
第1の実施態様においてさらに単結晶の成長を継続させて、成長結晶において貫通転位だけでなく、基底面転位及び積層欠陥も含まれないSiC単結晶を得ることもできる。
【0042】
図14及び15に示すように、口径を拡大させてSiC単結晶の成長を継続することで、種結晶の下面(c面)よりも下方(液面側)であって、種結晶のc面の直下よりも外側(口径拡大部)の領域44を得ることができる。種結晶からの貫通転位の伝搬方向はc軸に平行方向であり、基底面転位及び積層欠陥の伝搬方向はc軸に垂直方向であるため、領域44において、両方の伝搬の影響を無くすことができ、貫通転位、基底面転位、及び積層欠陥が含まれないSiC単結晶を得ることができる。
【0043】
この場合、SiC単結晶のc面に並行な平面であって口径拡大部の領域44を含む平面内において、貫通転位、基底面転位、及び積層欠陥が含まれない連続領域が前記平面内の周辺部に存在し、前記連続領域の面積が、前記平面全体の面積に対して50%以上、好ましくは60%以上、さらに好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、さらにより好ましくは90%以上の面積を占めることができる。
【0044】
貫通転位の有無の評価は、転位検出が可能である(0001)面を露出させるように、成長結晶をc面に並行に鏡面研磨して、溶融水酸化カリウム等によるエッチングを行って転位を強調させて、SiC単結晶の表面を顕微鏡観察することによって行われ得る。
【0045】
貫通転位だけでなく、基底面転位及び積層欠陥についても評価を行う場合は、c面に対して所定角度を傾けた面を研磨で出して、溶融水酸化カリウム等によるエッチングを行って転位及び欠陥を強調させて、顕微鏡観察することによって行われ得る。
【0046】
口径拡大角は好ましくは35°〜90°、より好ましくは60°〜90°、さらに好ましくは78〜90°である。口径拡大角が大きいほど口径拡大部分が大きく得られるため、貫通転位を含まない高品質のSiC単結晶を効率よく得ることができる。口径拡大角とは、
図3及び
図4に示すように、種結晶の下面に垂直方向と成長結晶の上面との間の角度をいう。
図3は、成長結晶が種結晶の側面から直線的に広がって成長した場合の断面模式図であり、
図4は、成長結晶が種結晶の側面から角度を変えながら広がって成長した場合の断面模式図を示す。
【0047】
種結晶の側面に対するSi−C溶液の濡れ上がりの程度は、種結晶の厚み、種結晶の形状、種結晶のSi−C溶液への浸漬深さ等に依存し得る。
【0048】
第1の実施態様において用いられ得る種結晶の形状は、種結晶の下面と側面との間の角度(以下、下面/側面角度)が90°の円盤状、円柱状、若しくは角柱状等であることができ、または種結晶の下面/側面角度が90°よりも大きい円錐台状若しくは角錐台状等であることができる。本願において、下面/側面角度とは、
図5に示すように、種結晶の下面と側面との間の角度34をいう。
【0049】
下面/側面角度が90°の円盤状、円柱状、または角柱状の種結晶の場合、種結晶試料の準備が比較的容易であり、種結晶の側面にSi−C溶液を濡れ上がらせ、メニスカスを形成することによって、c面+a面成長による口径を拡大させた成長結晶を得ることができる。90°よりも大きい円錐台状または角錐台状の種結晶は、円盤状、円柱状、若しくは角柱状の種結晶を切断、研磨等を行って準備することができる。下面/側面角度は90°以上、155°以下であることが好ましい。概して、種結晶の下面/側面角度が大きいほど、成長結晶の口径拡大角をより大きくしやすくなるが、種結晶の下面/側面角度が大きすぎると、a面成長を得にくくなることがある。
【0050】
第1の実施態様において用いられる種結晶の厚みは、種結晶の側面にSi−C溶液を濡れ上がらせて効果的にa面成長を行うために、0.5mm以上が好ましく、1mm以上がさらに好ましい。種結晶の厚みの上限は特にないが、実用上15mm以下のものを用いることが好ましい。例えば1〜5mm厚の種結晶を用いることができる。
【0051】
単結晶製造装置への種結晶の設置は、上述のように、種結晶の上面を黒鉛軸に保持させることによって行うことができる。
【0052】
種結晶のSi−C溶液への接触は、種結晶を保持した黒鉛軸をSi−C溶液面に向かって降下させ、種結晶の下面をSi−C溶液面に対して並行にしてSi−C溶液に接触させることによって行う。Si−C溶液面に対して種結晶を所定の位置に配置して、種結晶の下面だけでなく、種結晶の側面にもSi−C溶液を濡れ上がらせる。
【0053】
種結晶の保持位置は、種結晶の下面にSi−C溶液が接触しつつ種結晶の側面にSi−C溶液が濡れ上がり、且つ黒鉛軸にSi−C溶液が接触しないような位置にすればよい。種結晶の保持位置は、種結晶の下面の位置が、Si−C溶液面に一致するか、Si−C溶液面に対して下側にあるか、またはSi−C溶液面に対して上側にあってもよい。種結晶の下面をSi−C溶液面に対して上方の位置に保持する場合は、一旦、種結晶をSi−C溶液に接触させて種結晶の下面にSi−C溶液が接触しつつ種結晶の側面にSi−C溶液が濡れ上がってから引き上げることが好ましい。本発明においては、種結晶の側面にSi−C溶液を濡れ上がらせるため、種結晶の下面の位置が、Si−C溶液面に一致するか、またはSi−C溶液面よりも下側にあることが好ましい。これらの方法において、単結晶の成長中に種結晶の位置を調節してもよい。
【0054】
黒鉛軸はその端面に種結晶基板を保持する黒鉛の軸であり、円柱状、角柱状等の任意の形状にすることができ、種結晶の上面の形状と同じ端面形状の黒鉛軸を用いることができる。Si−C溶液の黒鉛軸への接触防止のために、種結晶を保持する部分の黒鉛軸の最大径が、種結晶の上面の最小径より小さい黒鉛軸を用いてもよい。黒鉛軸の種結晶を保持する端面の最大径を種結晶の上面の最小径よりも小さくすることによって、Si−C溶液が種結晶の側面を濡れ上がっても、表面張力のために種結晶の側面の最上部でSi−C溶液の濡れ上がりが止まりやすくなるため、Si−C溶液が黒鉛軸に接触しないように制御することが容易となる。
【0055】
種結晶の側面と上面との間の角度が90°以下である場合、Si−C溶液が種結晶の側面の最上部まで濡れ上がっても、最上部で濡れ上がりがより止まりやすくなり、黒鉛軸にSi−C溶液が接触するのをさらに防止しやすくなる。
【0056】
本発明における第2の実施態様において、上述の第1の実施態様によるSiC単結晶の製造方法によって成長させたSiC単結晶を、種結晶として用いてさらにSiC単結晶を成長させることができる。この場合、
図10または
図11に示すように、上述の第1の実施態様にしたがって成長させたSiC単結晶の口径拡大部分であって種結晶の下面よりも上方に成長させた口径拡大部50を含みc面に平行な面を有する単結晶ウエハを切り出して、種結晶として使用することができる。
【0057】
言い換えれば、領域36の任意の位置でc面に平行な面で種結晶14及び口径拡大部分50を含むようにして切り出したSiCウエハのc面を、次工程における種結晶の下面として利用してSiC単結晶をさらに成長させることができる。切り出したc面には、貫通転位が含まれない連続領域42が存在し得る。
【0058】
図13に示すように、周辺部に連続領域42が存在するc面を下面として種結晶56として用いて、SiC単結晶をさらにc面成長させることができる。連続領域42を基点としてc面成長させた連続領域42の直下の成長結晶52には、貫通転位は含まれ得ない。さらに、基底面転位及び積層欠陥は、種結晶56のc面に並行に伝搬し得るがc軸方向には伝搬しないため、連続領域42を基点としてc面成長させた成長結晶52には、基底面転位及び積層欠陥も含まれ得ない。
【0059】
SiCウエハのc面内には、
図12に示すように、貫通転位が含まれない連続領域42が存在し得る。
図13に示すように、周辺部に連続領域42が存在するc面を下面として種結晶56として用いて、SiC単結晶をさらにc面成長させることができる。連続領域42を基点としてc面成長させた連続領域42の直下の成長結晶52には、貫通転位は含まれ得ない。さらに、基点面転位及び積層欠陥は種結晶56のc面に並行方向に伝搬し得るがc軸方向には伝搬しないため、連続領域42を基点としてc面成長させた成長結晶52には、基底面転位及び積層欠陥も含まれ得ない。
【0060】
第2の実施態様で得られた単結晶は、貫通転位だけでなく、基底面転位及び積層欠陥も含まない領域を有することができる。貫通転位、基底面転位、及び積層欠陥を含まない領域は、種結晶の下面(c面)に略平行な平面内の周辺部に存在し、前記連続領域の面積は、前記平面全体の面積に対して少なくとも50%以上であり、より好ましくは60%以上であり、さらに好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上である。
【0061】
第2の実施態様によって成長させたSiC単結晶を、さらに種結晶として使用してSiC単結晶を成長させることができ、これを繰り返して行うことができる。
【0062】
第2の実施態様において用いられる種結晶として、第1の実施態様において成長させたSiC単結晶のうち、貫通転位を含まない口径拡大部50のみを切りだして用いることもできる。この場合、第2の実施態様において成長させた単結晶において、貫通転位、基底面転位、及び積層欠陥を含まない連続領域の面積率は、実質的に100%となり得る。
【0063】
本発明における第3の実施態様においては、
図14または
図15に示すように、上述の第1の実施態様における方法によって成長させたSiC単結晶の口径拡大部分であって種結晶の下面よりも下方に成長させた部分44を含みc面に平行な面を有する単結晶ウエハを切り出して、種結晶として使用することができる。
【0064】
切り出した単結晶のc面を、次工程における種結晶の下面として利用してSiC単結晶をさらに成長させることができる。種結晶の下面よりも下方に成長させた部分44の単結晶には、種結晶のc面及びa面から伝搬する貫通転位並びに基底面転位及び積層欠陥がほとんど含まれないようにし得るため、切り出したc面には、
図12に示した連続領域42と同様に、貫通転位、基底面転位、及び積層欠陥が含まれない連続領域が存在し得る。
【0065】
図13に示す態様と同様に、周辺部に転位及び欠陥が含まれない連続領域が存在するc面を下面として種結晶として用いて、SiC単結晶をさらにc面成長させることができる。前記連続領域を基点としてc面成長させた連続領域の直下の成長結晶には、貫通転位、基底面転位、及び積層欠陥は含まれ得ない。このようにして、貫通転位並びに基底面転位及び積層欠陥が含まれない高品質のSiC単結晶を得ることができる。
【0066】
基底面転位及び積層欠陥はc面に並行方向(c軸に垂直方向)に発生し得るが、c軸方向においても種結晶と成長結晶の境界近傍には欠陥等が発生することがあるため、好ましくは、種結晶の下面よりも下方に成長させた口径拡大部分であって、種結晶の下面から好ましくは10μm以上、より好ましくは50μm以上、下方の部分を含む単結晶を切り出して、種結晶として使用することができる。
【0067】
第3の実施態様において成長させた結晶において、貫通転位、基底面転位、及び積層欠陥を含まない領域は、種結晶の下面(c面)に略平行な平面内の周辺部に存在し、前記連続領域の面積は、前記平面全体の面積に対して少なくとも50%以上であり、より好ましくは60%以上であり、さらに好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上である。
【0068】
第3の実施態様によって成長させたSiC単結晶を、さらに種結晶として使用してSiC単結晶を成長させることができ、これを繰り返して行うことができる。
【0069】
第3の実施態様において用いられる種結晶として、第1の実施態様において成長させたSiC単結晶のうち、貫通転位を含まない口径拡大部50のみを切りだして用いることもできる。この場合、第3の実施態様において成長させた単結晶において、貫通転位、基底面転位、及び積層欠陥を含まない連続領域の面積率は、実質的に100%となり得る。
【0070】
本発明において、Si−C溶液とは、SiまたはSi/X(XはSi以外の1種以上の金属)の融液を溶媒とするCが溶解した溶液をいう。Xは一種類以上の金属であり、SiC(固相)と熱力学的に平衡状態となる液相(溶液)を形成できれば特に制限されない。適当な金属Xの例としては、Ti、Mn、Cr、Ni、Ce、Co、V、Fe等が挙げられる。例えば、坩堝内にSiに加えて、Cr、Ni等を投入し、Si−Cr溶液、Si−Cr−Ni溶液等を形成することができる。
【0071】
Si−C溶液は、その表面温度が、Si−C溶液へのCの溶解量の変動が少ない1800〜2200℃が好ましい。
【0072】
Si−C溶液の温度測定は、熱電対、放射温度計等を用いて行うことができる。熱電対に関しては、高温測定及び不純物混入防止の観点から、ジルコニアやマグネシア硝子を被覆したタングステン−レニウム素線を黒鉛保護管の中に入れた熱電対が好ましい。
【0073】
図1に、本発明の方法を実施するのに適したSiC単結晶製造装置の一例を示す。図示したSiC単結晶製造装置100は、SiまたはSi/Xの融液中にCが溶解してなるSi−C溶液24を収容した坩堝10を備え、Si−C溶液の内部から溶液の表面に向けて温度低下する温度勾配を形成し、昇降可能な黒鉛軸12の先端に保持された種結晶基板14をSi−C溶液24に接触させて、種結晶基板14の側面にSi−C溶液24を濡れ上がらせてメニスカスを形成しながら、SiC単結晶を成長させることができる。坩堝10及び黒鉛軸12を回転させることが好ましい。
【0074】
Si−C溶液24は、原料を坩堝に投入し、加熱融解させて調製したSiまたはSi/Xの融液にCを溶解させることによって調製される。坩堝10を、黒鉛坩堝などの炭素質坩堝またはSiC坩堝とすることによって、坩堝10の溶解によりCが融液中に溶解し、Si−C溶液が形成される。こうすると、Si−C溶液24中に未溶解のCが存在せず、未溶解のCへのSiC単結晶の析出によるSiCの浪費が防止できる。Cの供給は、例えば、炭化水素ガスの吹込み、または固体のC供給源を融液原料と一緒に投入するといった方法を利用してもよく、またはこれらの方法と坩堝の溶解とを組み合わせてもよい。
【0075】
保温のために、坩堝10の外周は、断熱材18で覆われている。これらが一括して、石英管26内に収容されている。石英管26の外周には、加熱用の高周波コイル22が配置されている。高周波コイル22は、上段コイル22A及び下段コイル22Bから構成されてもよく、上段コイル22A及び下段コイル22Bはそれぞれ独立して制御可能である。
【0076】
坩堝10、断熱材18、石英管26、及び高周波コイル22は、高温になるので、水冷チャンバーの内部に配置される。水冷チャンバーは、装置内の雰囲気調整を可能にするために、ガス導入口とガス排気口とを備える。
【0077】
Si−C溶液の温度は、通常、輻射等のためSi−C溶液の内部よりも表面の温度が低い温度分布となるが、さらに、高周波コイル22の巻数及び間隔、高周波コイル22と坩堝10との高さ方向の位置関係、並びに高周波コイルの出力を調整することによって、Si−C溶液24に、種結晶基板14が浸漬される溶液上部が低温、溶液下部が高温となるようにSi−C溶液24の表面に垂直方向の所定の温度勾配を形成することができる。例えば、下段コイル22Bの出力よりも上段コイル22Aの出力を小さくして、Si−C溶液24に溶液上部が低温、溶液下部が高温となる所定の温度勾配を形成することができる。温度勾配は、溶液表面から2〜3mm程度の範囲で、50℃/cm以下が好ましく、40℃/cm以下がより好ましい。
【0078】
Si−C溶液24中に溶解したCは、拡散及び対流により分散される。種結晶基板14の下面近傍は、コイル22の上段/下段の出力制御、Si−C溶液の表面からの放熱、及び黒鉛軸12を介した抜熱によって、Si−C溶液24の下部よりも低温となる温度勾配が形成されている。高温で溶解度の大きい溶液下部に溶け込んだCが、低温で溶解度の低い種結晶基板下面付近に到達すると過飽和状態となり、この過飽和度を駆動力として種結晶基板上にSiC単結晶が成長する。
【0079】
いくつかの態様において、SiC単結晶の成長前に、SiC種結晶基板の表面層をSi−C溶液中に溶解させて除去するメルトバックを行ってもよい。SiC単結晶を成長させる種結晶基板の表層には、転位等の加工変質層や自然酸化膜などが存在していることがあり、SiC単結晶を成長させる前にこれらを溶解して除去することが、高品質なSiC単結晶を成長させるために効果的である。溶解する厚みは、SiC種結晶基板の表面の加工状態によって変わるが、は加工変質層や自然酸化膜を十分に除去するために、およそ5〜50μmが好ましい。
【0080】
メルトバックは、Si−C溶液の内部から溶液の表面に向けて温度が増加する温度勾配、すなわち、SiC単結晶成長とは逆方向の温度勾配をSi−C溶液に形成することにより行うことができる。高周波コイルの出力を制御することによって上記逆方向の温度勾配を形成することができる。
【0081】
メルトバックは、Si−C溶液に温度勾配を形成せず、単に液相線温度より高温に加熱されたSi−C溶液に種結晶基板を浸漬することによっても行うことができる。この場合、Si−C溶液温度が高くなるほど溶解速度は高まるが溶解量の制御が難しくなり、温度が低いと溶解速度が遅くなることがある。
【0082】
いくつかの態様において、あらかじめ種結晶基板を加熱しておいてから種結晶基板をSi−C溶液に接触させてもよい。低温の種結晶基板を高温のSi−C溶液に接触させると、種結晶に熱ショック転位が発生することがある。種結晶基板をSi−C溶液に接触させる前に、種結晶基板を加熱しておくことが、熱ショック転位を防止し、高品質なSiC単結晶を成長させるために効果的である。種結晶基板の加熱は黒鉛軸ごと加熱して行うことができる。または、この方法に代えて、比較的低温のSi−C溶液に種結晶を接触させてから、結晶を成長させる温度にSi−C溶液を加熱してもよい。この場合も、熱ショック転位を防止し、高品質なSiC単結晶を成長させるために効果的である。
【実施例】
【0083】
(実施例1)
厚み1mm、直径12mm、及び下面/側面角度90°の円盤状4H−SiC単結晶であって、下面がc面に対して0°のオフセット角度を有するSiC単結晶を用意して種結晶基板として用いた。種結晶基板の上面を、長さ20cm及び直径9mmの円柱形状の黒鉛軸の端面の略中央部に、黒鉛軸の端面が種結晶の上面からはみ出さずに種結晶の上面内に入るように、黒鉛の接着剤を用いて接着した。
【0084】
図1に示す単結晶製造装置を用い、Si−C溶液を収容する内径40mm、高さ185mmの黒鉛坩堝に、Si/Cr/Ni/Ceを原子組成百分率で50:40:4:6の割合で融液原料として仕込んだ。単結晶製造装置の内部の空気をアルゴンで置換した。高周波コイルに通電して加熱により黒鉛坩堝内の原料を融解し、Si/Cr/Ni/Ce合金の融液を形成した。そして黒鉛坩堝からSi/Cr/Ni/Ce合金の融液に、十分な量のCを溶解させて、Si−C溶液を形成した。
【0085】
上段コイル及び下段コイルの出力を調節して黒鉛坩堝を加熱し、Si−C溶液の表面における温度を1820℃に昇温させ、黒鉛軸に接着した種結晶の下面をSi−C溶液面に並行なるように保ちながらSi−C溶液に種結晶を接触させ、種結晶下面の位置を、Si−C溶液の液面に一致する位置に配置して、Si−C溶液を種結晶の側面に濡れ上がらせた。
【0086】
さらに、Si−C溶液の表面における温度を1920℃まで昇温させ、並びに溶液表面から2mmの範囲で溶液内部から溶液表面に向けて温度低下する温度勾配が1℃/mmとなるように制御した。温度の測定は、昇降可能なタングステン−レニウム素線を黒鉛保護管の中に入れた熱電対を用いて行った。
【0087】
黒鉛軸に接着した種結晶の下面をSi−C溶液面に並行なるように保ちながらSi−C溶液に種結晶を接触させ、種結晶下面の位置を、Si−C溶液の液面に一致する位置に配置して、Si−C溶液を種結晶の側面に濡れ上がらせた。メニスカスを形成しながら、10時間、結晶を成長させた。Si−C溶液は、種結晶の側面の上端まで濡れ上がったが、Si−C溶液は黒鉛軸に接触しなかった。
【0088】
結晶成長の終了後、黒鉛軸を上昇させて、種結晶及び種結晶を基点として成長した結晶を含むSiC単結晶をSi−C溶液及び黒鉛軸から切り離して回収した。種結晶の下面に垂直方向への結晶の成長量は0.8mmであり、直径18mmまで口径拡大成長した六角柱状のSiC単結晶が得られた。本願において、成長結晶の直径とは、成長結晶の液面側の表面の内接円の直径をいう。本例で作成した成長結晶の口径拡大角は78°であった。
図6に成長させた結晶を側面から観察した写真を示す。
【0089】
(実施例2)
種結晶基板として、厚み5mm及び6mm×7mmの直方体状SiC単結晶、並びに黒鉛軸として、長さ20cm及び直径12mmの円柱形状の黒鉛軸を用いた以外は、実施例1と同様にして結晶成長を行った。結晶成長中、Si−C溶液は種結晶の下面から2mmの高さまで種結晶の側面を濡れ上がったが、黒鉛軸までは到達しなかった。
【0090】
種結晶の下面に垂直方向への結晶成長量は0.8mmであり、直径13mmまで口径拡大成長したSiC単結晶が得られた。成長結晶の口径拡大角は60°であった。
図7に種結晶から成長させた結晶の側面から観察した写真を示す。
【0091】
(実施例3)
厚みが2mm及び直径16mmの円盤状SiC単結晶をダイヤモンド粒含有研磨液で研磨して、厚みが2mm、下面(液面側)の直径が7.7mm、上面(黒鉛軸接着側)の直径が16mm、及び下面/側面角度155°の円錐台状結晶を用意して種結晶基板として用い、並びに黒鉛軸として、長さ20cm及び直径12mmの円柱形状の黒鉛軸を用いて、24時間、結晶を成長させた以外は、実施例1と同様にして結晶成長を行った。結晶成長中、Si−C溶液は、種結晶の下面から2mmの高さまで種結晶の側面を濡れ上がったが、Si−C溶液は黒鉛軸に接触しなかった。
【0092】
種結晶の下面に垂直方向への結晶成長量は1.4mmであり、直径24mmまで口径拡大成長したSiC単結晶が得られた。成長結晶の口径拡大角は35°であった。
図8Aに、下側(液面側)から観察したSiC単結晶、及び
図8B側面側から観察したSiC単結晶の写真を示す。
【0093】
(実施例4)
厚みが1mm及び直径12mmの円盤状SiC単結晶をダイヤモンド粒含有研磨液で研磨して、厚みが1mm、下面(液面側)の直径が11.3mm、上面(黒鉛軸接着側)の直径が12mm、及び下面/側面角度が110°の円錐台状結晶を用意して種結晶基板と用い、並びに黒鉛軸として、長さ20cm及び直径12mmの円柱形状の黒鉛軸を用いた以外は、実施例1と同様にして結晶成長を行った。Si−C溶液は、種結晶の下面から1mmの高さまで種結晶の側面を濡れ上がったが、Si−C溶液は黒鉛軸に接触しなかった。
【0094】
種結晶の下面に垂直方向への成長量は1.6mmであり、直径18mmまで口径拡大したSiC単結晶が得られた。成長結晶の口径拡大角は90°であった。
【0095】
(実施例5)
厚みが1mm及び直径12mmの円盤状SiC単結晶をダイヤモンド粒含有研磨液で研磨して、厚みが1mm、下面(液面側)の直径が10mm、上面(黒鉛軸接着側)の直径が12mm、及び下面/側面角度が134°の円錐台状結晶を用意して種結晶基板として用い、並びに黒鉛軸として、長さ20cm及び直径12mmの円柱形状の黒鉛軸を用いた以外は、実施例1と同様にして結晶成長を行った。Si−C溶液は、種結晶の下面から1mmの高さまで濡れ上がったが、Si−C溶液は黒鉛軸に接触しなかった。
【0096】
種結晶の下面に垂直方向への成長量は1.5mmであり、直径20mmまで口径拡大したSiC単結晶が得られた。成長結晶の口径拡大角は90°であった。
【0097】
(比較例1)
種結晶を取り付けた黒鉛軸を降下させて、種結晶の下面のみをSi−C溶液に接触させ、すぐに黒鉛軸を引き上げてSi−C溶液の液面から1.5mm上方の位置に配置して、種結晶の下面のみがSi−C溶液に濡れて種結晶の側面がSi−C溶液に濡れないように保持した以外は、実施例1と同様にして結晶成長を行った。
【0098】
種結晶の下面に垂直方向への成長量は1.0mmであったが、成長したSiC単結晶の結晶径は12mmであり、成長結晶はほとんど口径拡大しなかった。
【0099】
(比較例2)
黒鉛軸として、長さ20cm及び直径12mmの円柱形状の黒鉛軸を用いた以外は、実施例1と同様にして結晶成長を行った。
【0100】
SiC溶液が種結晶の側面を濡れ上がり黒鉛軸まで到達した。その結果、多結晶が生成して、SiC単結晶が得られなかった。
【0101】
表1に、各例における実施条件及び得られた成長結晶のデータを示す。
【0102】
【表1】
【0103】
実施例1〜5で得られたSiC単結晶を、種結晶のc面に並行になるようにして、種結晶の上面側から、エッチングにより転位検出が可能である(0001)面を露出させるように、実施例1、4、及び5については0.1mm、実施例2については3.1mm、実施例3については1.0mm研磨して、仕上げ研磨として粒径1μmのダイヤモンド粒含有研磨液でバフ研磨を行い、種結晶及び口径拡大部を含む平面をだした。次いで、510℃の溶融水酸化カリウムに4分間浸してエッチングを行い、金属顕微鏡観察により転位を検出した。
【0104】
実施例1〜5で得られたSiC単結晶の、種結晶及び口径拡大部を含む平面内にて、口径拡大部が貫通転位を含んでいないことを確認した。
【0105】
図9Aに実施例1で得られた種結晶及び種結晶を基点として成長した結晶を含むSiC単結晶の下側(液面側)からみた全体写真、
図9Bに研磨及びエッチングした口径拡大部であって貫通転位が含まれない連続領域の金属顕微鏡写真、並びに
図9Cに研磨及びエッチングした種結晶領域であって貫通転位が存在する領域の金属顕微鏡写真を示す。
図9Aに示す点線58は種結晶の直下領域を示す。
図9B及び
図9Cから、種結晶部分には貫通転位がみられたが、口径拡大部には貫通転位はみられないことが分かる。貫通転位が含まれない連続領域の面積は122mm
2であり、貫通転位が存在する領域(種結晶領域)の面積は113mm
2であり、貫通転位が含まれない連続領域の面積は、種結晶及び口径拡大部を含む平面全体の面積に対して52%を占めた。同様に、実施例2〜5で成長させたSiC単結晶における、種結晶及び口径拡大部を含む平面全体の面積に対する貫通転位が含まれない連続領域の面積率を測定し、それぞれ69%、90%、64%、75%であった。いずれの例においても口径拡大部の面積が貫通転位が含まれない領域の面積に実質的に等しかった。なお、比較例1においては、口径拡大成長はほとんど得られなかったが、成長結晶は六角形状であり、六角形の角の部分の面積の分、種結晶よりも面積が大きくなっており、その部分の全体の面積に対する面積率は27%であった。
【0106】
表2に、各例において作成したSiC単結晶における口径拡大部が、種結晶及び口径拡大部を含む平面全体の面積に占める割合を示す。
【0107】
【表2】
【0108】
(実施例6)
実施例1で得られたSiC単結晶を、次のようにして種結晶基板として用いて、SiC単結晶をさらに成長させた。
【0109】
図13に模式的に示すように、実施例1で作成したSiC単結晶のエッチングした観察測定面を鏡面研磨して種結晶の下面として使用した。種結晶の下面として使用した面は、直径18mmで六角形のc面に平行な面である。種結晶の下面がSi−C溶液面に並行になるように、長さ20cm及び直径12mmの円柱形状の黒鉛軸に、黒鉛の接着剤を用いて接着した。
【0110】
種結晶を取り付けた黒鉛軸を降下させて、種結晶の下面のみをSi−C溶液に接触させ、すぐに黒鉛軸を引き上げてSi−C溶液の液面から1.5mm上方の位置に配置して、種結晶の下面のみがSi−C溶液に濡れて種結晶の側面がSi−C溶液に濡れないように保持した以外は、実施例1と同様にして10時間、結晶成長を行った。
【0111】
種結晶の下面に垂直方向への結晶の成長量は0.6mmであり、18mmの直径の六角柱状の成長結晶を含むSiC単結晶が得られた。得られたSiC単結晶について、貫通転位だけでなく、基底面転位及び積層欠陥を検出するために、成長結晶の液面側の面からc面に対して4°のオフ角をつけて研磨及びエッチングを行った。仕上げの鏡面研磨として、粒径1μmのダイヤモンド粒含有研磨液でバフ研磨した。エッチングとして、510℃の溶融水酸化カリウムに4分間、研磨したSiC単結晶を浸漬した後、水で超音波洗浄を行った。
【0112】
得られたSiC単結晶のエッチング面について、貫通転位、基底面転位、及び積層欠陥の発生有無を、金属顕微鏡により観察した。
図16に、得られたSiC単結晶の貫通転位、基底面転位、及び積層欠陥が含まれない連続領域の金属顕微鏡写真を示す。実施例1で成長させたSiC単結晶の口径拡大部の直下に成長させたSiC単結晶には、貫通転位、基底面転位、及び積層欠陥が含まれていないことを確認した。エッチング面全体の面積に対する、貫通転位、基底面転位、及び積層欠陥が含まれない連続領域の面積率は52%であった。