特許第5821973号(P5821973)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5821973
(24)【登録日】2015年10月16日
(45)【発行日】2015年11月24日
(54)【発明の名称】排ガス浄化触媒及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/83 20060101AFI20151104BHJP
   B01J 37/04 20060101ALI20151104BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20151104BHJP
   B01D 53/86 20060101ALI20151104BHJP
【FI】
   B01J23/83 AZAB
   B01J37/04 102
   B01J37/08
   B01D53/86 100
【請求項の数】11
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2013-554178(P2013-554178)
(86)(22)【出願日】2012年6月18日
(86)【国際出願番号】JP2012065528
(87)【国際公開番号】WO2013108424
(87)【国際公開日】20130725
【審査請求日】2014年5月13日
(31)【優先権主張番号】特願2012-9146(P2012-9146)
(32)【優先日】2012年1月19日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100144417
【弁理士】
【氏名又は名称】堂垣 泰雄
(72)【発明者】
【氏名】新田 巖
(72)【発明者】
【氏名】澤田 直孝
【審査官】 山口 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−159134(JP,A)
【文献】 特開2008−284535(JP,A)
【文献】 特開2011−045840(JP,A)
【文献】 特開平09−122492(JP,A)
【文献】 特開平07−041313(JP,A)
【文献】 特開2004−267872(JP,A)
【文献】 特開2008−221200(JP,A)
【文献】 B. M. REDDY et al.,Copper promoted ceria-zirconia based bimetallic catalysts for low temperature soot oxidation,Catalysis Communications,2009, 10, 1350-1353.
【文献】 M.-F. LUO et al.,Catalyst characterization and activity of Ag-Mn, Ag-Co and Ag-Ce composite oxides for oxidation of volatile organic compounds,Applied Catalysis A: General,1998, 175, 121-129.
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J21/00−38/74
B01D53/86,94
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
CAplus(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セリア系担体、及び前記セリア系担体に担持されているコバルトと添加金属元素との複合酸化物を有し、
前記添加金属元素が、銅を含み、
前記複合酸化物が、スピネル型構造を有し、かつ
前記複合酸化物をリートベルト解析法によって解析したときに、前記添加金属元素を含有しない酸化コバルトと比較して、前記複合酸化物のスピネル型構造におけるMTET−O結合の距離が、0.04Å超伸張しており、かつ/又は前記複合酸化物のスピネル型構造におけるMOCT−O結合の距離が、0.03Å収縮している、
排ガス浄化触媒。
【請求項2】
前記セリア系担体が、セリア粒子、セリア−ジルコニア複合酸化物粒子、セリア−アルミナ複合酸化物粒子、セリア−チタニア複合酸化物粒子、セリア−シリカ複合酸化物粒子、及びセリア−ジルコニア−アルミナ複合酸化物粒子からなる群より選択される、請求項1に記載の排ガス浄化触媒。
【請求項3】
前記複合酸化物におけるコバルト(Co)と添加金属元素(M)とのモル比(Co:M)が、1:0.1〜1.0である、請求項1又は2に記載の排ガス浄化触媒。
【請求項4】
前記セリア系担体に対するコバルトの金属換算担持量が1〜20質量%である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒。
【請求項5】
前記複合酸化物が、スピネル型構造を有し、かつ
前記複合酸化物をリートベルト解析法によって解析したときに、前記添加金属元素を含有しない酸化コバルトと比較して、前記複合酸化物のスピネル型構造におけるMTET−O結合の距離が、0.04Å超伸張している、
請求項1〜4のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒。
【請求項6】
前記複合酸化物のスピネル型構造におけるMTET−O結合の距離が、0.05Å以上伸張している、請求項5に記載の排ガス浄化触媒。
【請求項7】
前記複合酸化物が、スピネル型構造を有し、かつ
前記複合酸化物をリートベルト解析法によって解析したときに、前記添加金属元素を含有しない酸化コバルトと比較して、前記複合酸化物のスピネル型構造におけるMOCT−O結合の距離が、0.03Å超収縮している、
請求項1〜のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒。
【請求項8】
前記セリア系担体にコバルト−銅複合酸化物が担持されており、かつ前記セリア系担体に対する銅の金属換算担持量が2〜3質量%である、請求項1に記載の排ガス浄化触媒。
【請求項9】
前記セリア系担体にコバルト−銅複合酸化物が担持されており、コバルト−銅複合酸化物が、平均粒径20〜100nmの酸化コバルト粒子を有しており、前記酸化コバルト粒子上に平均粒径2〜10nmの酸化銅粒子が分散して担持されており、かつ前記酸化コバルト粒子内に銅が少なくとも部分的に固溶している、請求項1に記載の排ガス浄化触媒。
【請求項10】
コバルト塩、前記添加金属元素の塩、及び錯化剤を含有する原料溶液を提供する工程、及び
前記原料溶液を前記セリア系担体に含浸させて、乾燥及び焼成を行う工程、
を含み、かつ前記錯化剤が、少なくとも一種の水酸基と少なくとも一種のカルボキシル基を有する有機酸である、請求項1〜のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒の製造方法。
【請求項11】
前記原料溶液が、多価アルコールを更に含有しており、かつ前記原料溶液を前記セリア系担体に含浸させた後であって、乾燥及び焼成を行う前に、前記原料溶液を加熱する、請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス浄化触媒及びその製造方法に関する。詳しくは本発明は、一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)等の未反応物を低温においても浄化することができる非貴金属系排ガス浄化触媒及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関、例えば自動車エンジンでは、運転開始時等の暖機が不充分な条件において、ガソリン、軽油等の燃料の燃焼が完全には行われないことによって、一酸化炭素、炭化水素等の未反応物が排ガス中に含まれていることがある。この排ガス中に含まれる一酸化炭素等を酸化して浄化する排ガス浄化触媒では、通常、貴金属が必須成分として用いられている。しかしながら、資源的な観点から、このような貴金属系触媒に代えて、非貴金属系の排ガス浄化触媒を用いることが求められている。
【0003】
このような非貴金属系の排ガス浄化触媒としては、酸化コバルト(Co)等の非貴金属の酸化物を担体に担持した触媒が知られているが、このような非貴金属系の排ガス浄化触媒は、排ガスの浄化活性、特に低温における排ガスの浄化性能が充分ではなく、その改良が求められている。
【0004】
また、非貴金属系の排ガス浄化触媒に関して、特許文献1には、銅(Cu)及び/又はコバルト(Co)を担持した酸化ジルコニウム又は酸化チタンと、銅置換型ゼオライトとを混合してなる排ガス浄化用触媒が、排ガス中の窒素酸化物及び一酸化炭素を除去し得ることが記載されている。この特許文献1では、具体例として、銅を金属換算担持量ジルコニア又はチタニアに担持した第1成分と、銅置換型ゼオライトである第2成分とを混合した触媒が示されている。
【0005】
また、特許文献2には、モルデナイト組織中に、銀(Ag)イオン又はその酸化物と、コバルト(Co)イオン又はその酸化物とを担持させた排ガス浄化触媒が、窒素酸化物(NO)の浄化性能を有することが記載されている。
【0006】
また、特許文献3では、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル及び銅からなる群より選ばれる遷移金属元素の酸化物と、セリウム、プラセオジウム、ネオジウム、イットリウム及びスカンジウムからなる群より選ばれる希土類元素の酸化物とからなる触媒粉末を含有する排ガス浄化触媒が、一酸化炭素、炭化水素等の未反応物を酸化でき、また窒素酸化物を還元できるとしている。特許文献3には、具体例として、硝酸コバルト水溶液と硝酸セリウム水溶液との混合液に水酸化ナトリウム水溶液を加え、析出物を形成し、この析出物を乾燥、焼成することによって得られた浄化触媒が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平2−107315号公報
【特許文献2】特開平10−94731号公報
【特許文献3】特開2010−104973号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、従来技術では、貴金属を用いない排ガス浄化触媒について様々な検討がなされている。
【0009】
しかしながら、これらの従来技術で提案されている非貴金属系排ガス浄化では、排ガス中の一酸化炭素等を低温で充分に酸化して浄化することは困難であった。
【0010】
したがって、本発明の目的は、排ガス中の一酸化炭素等を低温で酸化できる非貴金属系排ガス浄化触媒、及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
〈1〉セリア系担体、及び
上記セリア系担体に担持されているコバルトと添加金属元素との複合酸化物
を有し、かつ上記添加金属元素が、銅、銀、マグネシウム、ニッケル、亜鉛、及びそれらの組合せからなる群より選択される金属元素を含む、排ガス浄化触媒。
〈2〉上記添加金属元素が銅を含む、上記〈1〉項に記載の排ガス浄化触媒。
〈3〉上記セリア系担体が、セリア粒子、セリア−ジルコニア複合酸化物粒子、セリア−アルミナ複合酸化物粒子、セリア−チタニア複合酸化物粒子、セリア−シリカ複合酸化物粒子、及びセリア−ジルコニア−アルミナ複合酸化物粒子からなる群より選択される、上記〈1〉又は〈2〉項に記載の排ガス浄化触媒。
〈4〉上記複合酸化物におけるコバルト(Co)と添加金属元素(M)とのモル比(Co:M)が、1:0.1〜1.0である、上記〈1〉〜〈3〉項のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒。
〈5〉上記セリア系担体に対するコバルトの金属換算担持量が1〜20質量%である、上記〈1〉〜〈4〉項のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒。
〈6〉上記複合酸化物が、スピネル型構造を有し、かつ
上記複合酸化物をリートベルト解析法によって解析したときに、上記添加金属元素を含有しない酸化コバルトと比較して、上記複合酸化物のスピネル型構造におけるMTET−O結合の距離が、0.01Å以上伸張しており、かつ/又は上記複合酸化物のスピネル型構造におけるMOCT−O結合の距離が、0.01Å以上収縮している、
上記〈1〉〜〈5〉項のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒。
〈7〉上記複合酸化物が、スピネル型構造を有し、かつ
上記複合酸化物をリートベルト解析法によって解析したときに、上記添加金属元素を含有しない酸化コバルトと比較して、上記複合酸化物のスピネル型構造におけるMTET−O結合の距離が、0.01Å以上伸張している、
上記〈6〉項に記載の排ガス浄化触媒。
〈8〉上記複合酸化物が、スピネル型構造を有し、かつ
上記複合酸化物をリートベルト解析法によって解析したときに、上記添加金属元素を含有しない酸化コバルトと比較して、上記複合酸化物のスピネル型構造におけるMOCT−O結合の距離が、0.01Å以上収縮している、
上記〈6〉又は〈7〉項に記載の排ガス浄化触媒。
〈9〉上記セリア系担体にコバルト−銅複合酸化物が担持されており、かつ上記セリア系担体に対する銅の金属換算担持量が2〜3質量%である、上記〈1〉項に記載の排ガス浄化触媒。
〈10〉上記セリア系担体にコバルト−銅複合酸化物が担持されており、コバルト−銅複合酸化物が、平均粒径20〜100nmの酸化コバルト粒子を有しており、上記酸化コバルト粒子上に平均粒径2〜10nmの酸化銅粒子が分散して担持されており、かつ上記酸化コバルト粒子内に銅が少なくとも部分的に固溶している、上記〈1〉項に記載の排ガス浄化触媒。
〈11〉コバルト塩、上記添加金属元素の塩、及び錯化剤を含有する原料溶液を提供する工程、及び
上記原料溶液を上記セリア系担体に含浸させて、乾燥及び焼成を行う工程、
を含み、かつ上記錯化剤が、少なくとも一種の水酸基と少なくとも一種のカルボキシル基を有する有機酸である、上記〈1〉〜〈10〉項のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒の製造方法。
〈12〉上記原料溶液が、多価アルコール(例えばエチレングリコール)を更に含有しており、かつ上記原料溶液を上記セリア系担体に含浸させた後であって、乾燥及び焼成を行う前に、上記原料溶液を加熱する、上記〈11〉項に記載の方法。
〈13〉コバルト塩及び上記添加金属元素の塩を含有する原料溶液を提供する工程、及び
上記原料溶液に中和剤を加えて、上記複合酸化物の前駆体を析出させ、それによって上記前駆体スラリーを作製する工程、
上記前駆体スラリーを上記セリア系担体に含浸させる工程、
上記前駆体スラリーを含浸させたセリア系担体を、乾燥及び焼成する工程、
を含む、上記〈1〉〜〈10〉項のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒の製造方法。
〈14〉上記セリア系担体に対する銅の金属換算担持量が2〜3質量%となる割合で、コバルト塩及び銅塩を用意する工程、
上記コバルト塩及び銅塩と中和剤との混合溶液に超撹拌によるせん断応力を加えて混合溶液を撹拌し、コバルト−銅複合酸化物の前駆体を析出させ、それによって前記前駆体スラリーを作製する工程、
上記前駆体スラリーとセリア系担体粉末とを混合する工程、
得られた混合物から上記固形物の前駆体とセリア系担体粉末との固形混合物を分離し、乾燥、焼成する工程
を含む、上記〈1〉〜〈10〉項のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒の製造方法。
〈15〉上記コバルト塩を、上記セリア系担体に対するコバルトの金属換算担持量が5質量%となる割合で用いる、上記〈14〉項に記載の製造方法。
〈16〉上記中和剤が、無機塩基性化合物又は有機塩基性化合物である、上記〈14〉又は〈15〉項に記載の製造方法。
〈17〉上記超撹拌によるせん断応力が、反応容器中において5,000〜15,000rpmの回転速度で回転する撹拌機によって加えられる、上記〈14〉〜〈16〉項のいずれか一項に記載の製造方法。
〈18〉上記混合液が水溶液である、上記〈14〉〜〈17〉項のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の排ガス浄化触媒によれば、一酸化炭素等を低温においても酸化して浄化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、実施例Aにおいて製造した排ガス浄化触媒に関して、添加金属元素の種類と排ガス浄化性能との関係を示すグラフである。
図2図2は、参考例Bにおいて製造した排ガス浄化触媒に関して、添加金属元素の種類と排ガス浄化性能との関係を示すグラフである。
図3図3は、比較例Cにおいて製造した排ガス浄化触媒に関して、添加金属元素の種類と排ガス浄化性能との関係を示すグラフである。
図4図4は、実施例A参考例B、及び比較例Cにおいて製造した排ガス浄化触媒に関して、スピネル型複合酸化物におけるMTET−O結合の距離と排ガス浄化性能との関係を示すグラフである。
図5図5は、実施例A参考例B、及び比較例Cにおいて製造した排ガス浄化触媒に関して、スピネル型複合酸化物におけるMOCT−O結合の距離と排ガス浄化性能との関係を示すグラフである。
図6図6は、例E及び例Fにおいて製造した排ガス浄化触媒に関して、複合酸化物の組成と排ガス浄化性能との関係を示すグラフである。
図7図7は、例Gにおいて製造した排ガス浄化触媒に関して、添加元素の種類と排ガス浄化性能との関係を示すグラフである。
図8図8は、例Gにおいて製造した排ガス浄化触媒に関して、添加元素の種類と排ガス浄化性能との関係を示すグラフである。
図9図9は、スピネル型複合酸化物におけるMTET−O結合及びMOCT−O結合の位置を示す説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
《排ガス浄化触媒》
本発明の排ガス浄化触媒は、セリア系担体、及びセリア系担体に担持されているコバルトと添加金属元素との複合酸化物を有し、かつ添加金属元素が、銅、銀、マグネシウム、ニッケル、亜鉛、及びそれらの組合せからなる群より選択される金属元素、好ましくは銅を含む。
【0015】
〈複合酸化物〉
本発明に関して、「複合酸化物」は、少なくとも2種類の金属酸化物が少なくとも部分的に固溶している材料を意味している。したがって例えば、コバルトと添加金属元素との複合酸化物は、酸化コバルトと添加金属元素の酸化物とが少なくとも部分的に固溶しており、特にコバルトと添加金属元素とが、少なくとも部分的に、単一の結晶構造の酸化物、例えばスピネル型複合酸化物を共に形成していることを意味する。すなわち例えば、添加金属元素が銅である場合には、「複合酸化物」は、酸化コバルトと添加金属元素の酸化物とが固溶している部分だけでなく、酸化コバルトと添加金属元素の酸化物とがそれぞれ単独で存在している部分を有していてもよい。
【0016】
コバルト及び銅を用いる本発明の排ガス浄化触媒について走査透過型電子顕微鏡−エネルギー分散X線分光分析(STEM−EDX分析)を行ったところ、コバルト−銅複合酸化物が存在していること、すなわち酸化コバルトと酸化銅とが少なくとも部分的に固溶していることが確認された。
【0017】
また、下記の実施例A、参考例B、及び比較例Cに関して図4及び5で示されているように、コバルトを含有するスピネル型複合酸化物の一酸化炭素浄化性能は、この複合酸化物のMTET−O結合の距離及びMOCT−O結合の距離に対して明らかな相関を有していることが確認された。具体的には、添加金属元素を含有しない酸化コバルトと比較して、この複合酸化物のMTET−O結合の距離が伸張しており、かつこの複合酸化物のMOCT−O結合の距離が収縮している場合に、一酸化炭素等に対する酸化性能が改良されることが見出された。
【0018】
したがって、理論に限定されるものではないが、本発明の排ガス浄化触媒による低温での一酸化炭素浄化能は、添加金属元素を含有しないスピネル型酸化コバルトと比較して、金属−酸素間の結合の長さが変化しており、それによって一酸化炭素等に酸素を供与する活性点が作り出されていると考えられる。
【0019】
具体的には、本発明の排ガス浄化触媒では、スピネル型複合酸化物における金属−酸素間の結合距離に関して、複合酸化物をリートベルト解析法によって解析したときに、添加金属元素を含有しない酸化コバルトと比較して、複合酸化物のスピネル型構造におけるMTET−O結合の距離が、0.01Å以上、0.02Å以上、0.03Å以上、0.04Å以上、0.05Å以上伸張していてよい。また、この伸張は、例えば、0.15Å以下、0.10Å以下、0.09Å以下、0.08Å以下、0.07Å以下、又は0.06Å以下であってよい。
【0020】
また、具体的には、本発明の排ガス浄化触媒では、スピネル型複合酸化物における金属−酸素間の結合距離に関して、複合酸化物をリートベルト解析法によって解析したときに、添加金属元素を含有しない酸化コバルトと比較して、複合酸化物のスピネル型構造におけるMOCT−O結合の距離が、0.01Å以上、0.02Å以上、又は0.03Å以上収縮していてよい。また、この収縮は、例えば、0.10Å以下、0.09Å以下、0.08Å以下、0.07Å以下、0.06Å以下、又は0.05Å以下であってよい。
【0021】
なお、「スピネル型構造におけるMTET−O結合の距離」は、図9で示されるように、四面体酸素の中心位置にある金属元素(M2+)と配位酸素(O2−)との間の結合距離を意味しており、「スピネル型構造におけるMOCT−O結合の距離」は、図9で示されるように、八面体酸素の中心位置にある金属元素(M3+)と配位酸素(O2−)との間の結合距離を意味している。
【0022】
なお、リートベルト解析においては、測定されたX線回折の強度データ、及びスピネル結晶の構造モデルを入力値として与え、格子定数、原子の分率座標、原子の各サイトでの占有率、原子変位パラメータ等の構造パラメータなどを動かすことで、計算された回折強度と測定された回折強度ができるだけ一致するように精密化する。また、バックグラウンド、ゼロ点シフト、試料変位パラメータ、試料透過パラメータ、表面粗さパラメータ、プロファイルの対称性に関するパラメータ等の測定方法や試料の状態や装置に由来するパラメータも精密化する。
【0023】
本発明の排ガス浄化触媒では、本発明の排ガス浄化触媒の効果を得られる範囲で、複合酸化物においてコバルトと添加金属元素とを任意の割合で用いることができる。ただし、コバルト及び添加金属元素とは、得られる複合酸化物がスピネル構造を形成し易い範囲で用いることが好ましく、例えば複合酸化物におけるコバルト(Co)と添加金属元素(M)とのモル比(Co:M)が、1:0.1〜1.0、1:0.3〜0.8、1:0.4〜0.7、1:0.4〜0.6、又は約2:1であるようにして用いることができる。
【0024】
また、本発明の排ガス浄化触媒では、本発明の排ガス浄化触媒の効果を得られる範囲で、コバルトと添加金属元素との複合酸化物を、セリア系担体に担持して用いることができる。したがって、例えばセリア系担体に対するコバルトの金属換算担持量が、1質量%以上、2質量%以上、3質量%以上、又は4質量%以上であり、かつ/又は、20質量%以下、15質量%以下、又は10質量%以下であるようにして、コバルトと添加金属元素との複合酸化物を用いることができる。
【0025】
本発明の排ガス浄化触媒の1つの態様では、セリア系担体にコバルト−銅複合酸化物が担持されており、かつセリア系担体に対する銅の金属換算担持量が2〜3質量%である。
【0026】
また、本発明の排ガス浄化触媒の他の1つの態様では、セリア系担体にコバルト−銅複合酸化物が担持されており、コバルト−銅複合酸化物が、平均粒径20〜100nmの酸化コバルト粒子を有しており、酸化コバルト粒子上に平均粒径2〜10nmの酸化銅粒子が分散して担持されており、かつ酸化コバルト粒子内に銅が少なくとも部分的に固溶している。
【0027】
〈セリア系担体〉
下記の例Dに関して示されているように、コバルトと銅等との複合酸化物は、担体としてのセリア系担体に担持されているときに特に好ましい性質を示す。したがってセリアによる酸素給蔵能(OSC能)が、上記のような一酸化炭素等への酸素の供与を促進していると考えられる。
【0028】
本発明の排ガス浄化触媒で用いることができるセリア系担体は、セリアを含有している担体粒子、特にセリアと他の金属との複合酸化物担体粒子である。具体的には、本発明の排ガス浄化触媒で用いることができるセリア系担体は、セリア粒子、セリア−ジルコニア複合酸化物粒子、セリア−アルミナ複合酸化物粒子、セリア−チタニア複合酸化物粒子、セリア−シリカ複合酸化物粒子、及びセリア−ジルコニア−アルミナ複合酸化物粒子からなる群より選択することができる。
【0029】
〈製造方法〉
本発明の排ガス浄化触媒は含浸法、共沈法、ゾル−ゲル法等の任意の方法で製造することができ、特に下記の本発明の方法によって製造することができる。
【0030】
《排ガス浄化触媒の製造方法1−クエン酸合成法》
排ガス浄化触媒を製造する第1の本発明の方法は、下記の工程を含み、かつ下記の錯化剤が、少なくとも一種の水酸基と少なくとも一種のカルボキシル基を有する有機酸である:
コバルト塩、添加金属元素の塩、及び錯化剤を含有する原料溶液を提供する工程、及び
原料溶液をセリア系担体に含浸させて、乾燥及び焼成を行う工程。
【0031】
このような本発明の方法、すなわち複合酸化物のクエン酸合成法を用いる本発明の方法によれば、コバルトイオン、及び添加金属元素のイオンを、錯化剤で錯化することによって、比較的低い焼成温度であっても、均一な複合酸化物の形成を促進すること、すなわちコバルトと添加金属元素との固溶体の形成を促進することができる。この方法では例えば、原料溶液におけるコバルトイオン及び添加金属元素のイオンの合計濃度が、0.01M〜0.2Mになるようにして実施することができる。
【0032】
この方法において用いることができる錯化剤、すなわち少なくとも一種の水酸基と少なくとも一種のカルボキシル基を有する有機酸としては、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、グリコール酸を挙げることができる。この錯化剤は例えば、コバルトイオン及び添加金属元素のイオンの合計に対して、モル比で1〜10倍、又は1〜5倍の量で使用することができる。
【0033】
また、この方法においては、原料溶液が、多価アルコール、例えばエチレングリコールを更に含有しており、かつ原料溶液をセリア系担体に含浸させた後であって、乾燥及び焼成を行う前に、原料溶液を加熱することができる。この加熱は例えば、100℃〜160℃の温度で行うことができる。
【0034】
これによれば、コバルト及び添加金属元素の錯体と多価アルコールとのエステル重合によって、コバルト及び添加金属元素の錯体をゲル化し、均一な複合酸化物の形成を促進することができる。
【0035】
なお、この方法で用いることができるコバルト塩及び添加金属元素の塩、原料溶液の溶媒、反応容器、乾燥及び焼成条件等については、排ガス浄化触媒を製造する第2の本発明の方法に関する下記の記載を参照することができる。
【0036】
《排ガス浄化触媒の製造方法2−共沈合成法》
排ガス浄化触媒を製造する第2の本発明の方法は、下記の工程を含む:
コバルト塩及び添加金属元素の塩を含有する原料溶液を提供する工程、及び
原料溶液に中和剤を加えて、複合酸化物の前駆体を析出させ、それによって前駆体スラリーを作製する工程、
前駆体スラリーをセリア系担体に含浸させる工程、
前駆体スラリーを含浸させたセリア系担体を、乾燥及び焼成する工程。
【0037】
このような本発明の方法、すなわち複合酸化物の共沈合成法を用いる方法によれば、均一な複合酸化物の形成を促進することができる。
【0038】
コバルト塩としては、コバルトの硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩等を挙げることができる。また、添加金属元素の塩としては、添加金属元素の硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩等、特に銅の硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩等を挙げることができる。
【0039】
中和剤としては例えば、アンモニア(NH)、炭酸ナトリウム(NaCO)、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)等の無機塩基性化合物を挙げることができる。また、中和剤としては例えば、ピリジン、(ポリ)エチレンジアミン化合物の有機塩基性化合物を挙げることができ、好適には(ポリ)エチレンジアミン化合物を挙げることができる。
【0040】
好適な中和剤としての、(ポリ)エチレンジアミン化合物としては、エチレン単位を1〜10個有するもの、特にエチレン単位を1〜6個有するものを挙げることができる。具体的には、好ましいポリエチレンジアミン化合物としては、エチレンジアミン(EDA:HNCHCHNH)、ジエチレントリアミン(DETA:HNCHCHNHCHCHNH)、トリエチレンテトラミン(TETA:HNCHCHNHCHCHNHCHCHNH)、テトラエチレンペンタミン[TEPA:HN(CHCHNH)CHCHNH)]、ペンタエチレンヘキサミン[PEHA:HN(CHCHNH)CHNH]、特にエチレンジアミン(DDA)を挙げることができる。
【0041】
原料溶液の溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール、又は水、好適には水を挙げることができる。
【0042】
中和剤を加えて、複合酸化物の前駆体を析出させる工程においては、水溶液のpHを6〜9の範囲に調整することが好適である。これに関して、pHが低すぎると、コバルト及び添加金属元素の析出反応が起こらず、他方でpHが高すぎると、析出した前駆体が溶解することがある。
【0043】
原料溶液は更に、分散剤、例えばピロリドンンカルボン酸ナトリウム(PAA−Na)、ポリビニルピロリドン(PVP)を含有していてもよい。
【0044】
乾燥及び焼成は、排ガス浄化触媒を得ることができる任意の条件で行うことができる。例えば、乾燥は、空気中において、50以上200℃以下の温度で行うことができ、また、焼成は、300℃以上、600℃以上であって、800℃未満、700℃以下の温度で、1〜10時間、又は2〜8時間にわたって行うことができる。
【0045】
なお、この方法を実施するための反応容器は特に制限されるものではなく、バッチ式の反応装置又は連続式の反応装置を用いることができる。
【0046】
《排ガス浄化触媒の製造方法2−共沈合成法(超撹拌)》
排ガス浄化触媒を製造する第2の本発明の方法は、例えば、下記の工程を含む:
セリア系担体に対する銅の金属換算担持量が2〜3質量%となる割合で、コバルト塩及び銅塩を用意する工程、
コバルト塩及び銅塩と中和剤との混合溶液に超撹拌によるせん断応力を加えて混合溶液を撹拌し、コバルト−銅複合酸化物の前駆体を析出させ、それによって前記前駆体スラリーを作製する工程、
前駆体スラリーとセリア系担体粉末とを混合する工程、
得られた混合物から固形物の前駆体とセリア系担体粉末との固形混合物を分離し、乾燥、焼成する工程。
【0047】
このような本発明の方法、すなわちコバルト塩及び銅塩と中和剤との混合溶液に超撹拌によるせん断応力を加える工程を用いる方法によれば、均一な複合酸化物の形成を促進することができる。
【0048】
これに対して、酸化コバルトと酸化銅との物理的混合物では、酸化コバルト及び酸化銅のそれぞれが凝集し、粗大な二次粒子を形成し、それによって一酸化炭素酸化活性が低くなる。また、共沈反応のために超撹拌を用いる本発明の方法は、超撹拌を用いない共沈合成法と比較しても、均一な複合酸化物の形成を促進すると考えられる。
【0049】
なお、本発明に関して、超撹拌は、大きい剪断力を提供する撹拌、例えば例えば5,000〜15,000rpm、特に8,000〜12,000rpmの回転速度での撹拌を意味している。
【0050】
これに関して、撹拌の回転速度が小さすぎると、充分に撹拌されず、他方で大きすぎると、撹拌機のシャフトが発熱し、前駆体の溶解度が変化してしまい均一な前駆体(析出物)が得られないことがある。
【0051】
なお、この本発明の方法においては、複合酸化物の前駆体を析出させ、この前駆体に純水を加えて、遠心分離又はろ過、洗浄して、必要であれば水を加えて前駆体スラリーを作製することができる。
【0052】
〈排ガス浄化触媒の用途〉
本発明の排ガス浄化触媒は、自動車エンジンなどの内燃機関からの排ガスを浄化するための排ガス浄化用触媒として用いることができる。
【0053】
また、本発明の排ガス浄化触媒は、一酸化炭素及び/又は炭化水素の低温除去が必要な任意の分野で用いることができる。
【0054】
また、本発明の排ガス浄化触媒を用いて一酸化炭素及び炭化水素を除去する場合、温度を変えた少なくとも2つの領域を設けて用いてもよい。例えば、一酸化炭素浄化のための領域の温度を、一酸化炭素の浄化のための領域の温度よりも低温に設定することができる。
【0055】
また、本発明の排ガス浄化触媒は、通常ハニカム等の基材上にコートして触媒装置として用いることができる。
【0056】
基材として用いることができるハニカムは、コージェライト等のセラミックス材料、又はステンレス鋼等の金属材料で形成することができる。また、本発明の排ガス浄化触媒は任意の形状に成形して、例えばペレット状に成形して用いることができる。
【実施例】
【0057】
以下では、例を用いて本発明を説明するが、これらの例は本発明を限定するものではない。
【0058】
実施例A、参考例B、及び比較例C
実施例A、参考例B、及び比較例Cでは、コバルトと添加金属元素との複合酸化物をセリア系担体に担持する際に、添加金属元素の種類が、排ガス浄化触媒の性能に与える影響について検討した。また、実施例A、参考例B、及び比較例Cでは、複合酸化物を合成して担持する方法が、排ガス浄化触媒の性能に与える影響についても検討した。
【0059】
実施例A〉クエン酸合成法による排ガス浄化触媒の製造
実施例Aでは、セリア系担体にコバルトと添加金属元素との複合酸化物が担持されている排ガス浄化触媒の製造において、添加金属元素として、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、マグネシウム(Mg)、亜鉛(Zn)、鉄(Fe)、及びマンガン(Mn)のいずれか一種を用い、かつクエン酸合成法によって複合酸化物を得た。また、比較のために、添加元素の代わりにコバルトを用いて、すなわち金属酸化物の原料としてコバルトのみを用いて、クエン酸合成法によって酸化コバルトを得た。
【0060】
したがって、実施例Aでは、下記の表1に示すように、7種類の触媒構成の排ガス浄化触媒を得た。具体的には実施例Aでは、下記のようにして、排ガス浄化触媒を製造した。
【0061】
1.金属塩溶液の調製
硝酸コバルト及び添加金属元素の硝酸塩を、コバルト(Co)と添加金属元素(M)のモル比(Co:M)が1:0.5になるようにして、純水に溶解し、充分に撹拌及び混合して、金属塩溶液を得た。
【0062】
2.錯化剤溶液の調製
錯化剤としてのクエン酸(CA)、及びエステル化剤としてのエチレングリコール(EG)を、金属塩溶液のコバルト(Co)及び添加金属元素(M)の合計に対するクエン酸(CA)及びエチレングリコール(EG)のモル比(Co+M:CA:EG)が、1:3:3になるようにして、純水に加え、充分に撹拌及び混合して、錯化剤溶液を得た。
【0063】
3.複合酸化物の合成及び担持
金属塩溶液及び錯化剤溶液を室温において充分に撹拌して、原料混合溶液を得た。この原料混合溶液に、担体としてのセリア−ジルコニア複合酸化物(CeO−ZrO)担体粉末(株式会社キャタラー製、ACTALYSLISA)を、担体粉末に対するコバルトの金属換算担持量が5質量%になる量で加えて、室温で充分に撹拌し、エバポレーターにて、70℃で2時間にわたって減圧下で還流を行い、そして140℃で4時間にわたって加熱することによって、ゲル状前駆体生成物を得た。
【0064】
4.乾燥及び焼成
得られたゲル状前駆体生成物を、電気炉において9時間にわたって400℃まで段階的に加熱し、そしてその後で、焼成炉において600℃で4時間にわたって焼成して、触媒粉末を得た。
【0065】
5.ペレット化
得られた触媒粉末を、1トンの圧力の冷間等方圧プレス(CIP)によって、ペレット状に成形して、実施例Aの排ガス浄化触媒を得た。なお、個々のペレットは、0.17cmの体積を有していた。
【0066】
参考例B〉共沈合成法による排ガス浄化触媒の製造
参考例Bでは、セリア系担体にコバルトと添加金属元素との複合酸化物が担持されている排ガス浄化触媒の製造において、添加金属元素として、銅、銀、ニッケル、マグネシウム、亜鉛、鉄、及びマンガンのいずれか一種を用い、かつ共沈合成法によって複合酸化物を得た。また、比較のために、添加元素の代わりにコバルトを用いて、すなわち金属酸化物の原料としてコバルトのみを用いて、共沈合成法によって酸化コバルトを得た。
【0067】
したがって、参考例Bでは、下記の表1に示すように、8種類の触媒構成の排ガス浄化触媒を得た。具体的には参考例Bでは、下記のようにして、排ガス浄化触媒を製造した。
【0068】
1.複合酸化物の合成
参考例Bでは、実施例Aでのようにして得た金属塩溶液に、金属塩溶液のpHが9になるまで、ピペットで水酸化ナトリウム溶液を滴下することによって、コバルトと添加金属元素との複合酸化物の前駆体を析出させて、スラリーを得た。得られたスラリーをろ過によって水洗して、複合酸化物の前駆体を含有するスラリーを得た。
【0069】
2.複合酸化物の担持
複合酸化物の前駆体を含有するスラリーを、実施例Aで用いたのと同じ担体粉末に含浸させ、120℃で乾燥し、そして600℃で焼成して、触媒粉末を得た。
【0070】
3.ペレット化
得られた触媒粉末を、実施例Aと同様にして、ペレット状に成形して、参考例Bの排ガス浄化触媒を得た。
【0071】
比較例C〉含浸合成法による排ガス浄化触媒の製造
比較例Cでは、セリア系担体にコバルトと添加金属元素との複合酸化物が担持されている排ガス浄化触媒の製造において、添加金属元素として、銅、銀、ニッケル、マグネシウム、亜鉛、鉄、及びマンガンのいずれか一種を用い、かつ含浸合成法によって複合酸化物を得た。また、比較のために、添加元素の代わりにコバルトを用いて、すなわち金属酸化物の原料としてコバルトのみを用いて、含浸合成法によって酸化コバルトを得た。
【0072】
すなわち、比較例Cでは、下記の表1に示すように、8種類の触媒構成の排ガス浄化触媒を得た。具体的には比較例Cでは、下記のようにして、排ガス浄化触媒を製造した。
【0073】
1.複合酸化物の合成及び担持
比較例Cでは、実施例Aでのようにして得た金属塩溶液を、実施例Aで用いたのと担体粉末に含浸させ、120℃で乾燥し、そして600℃で焼成して、触媒粉末を得た。
【0074】
2.ペレット化
得られた触媒粉末を、実施例Aと同様にして、ペレット状に成形して、比較例Cの排ガス浄化触媒を得た。
【0075】
〈評価方法〉一酸化炭素浄化性能
実施例A、参考例B、及び比較例Cのそれぞれの排ガス浄化触媒について、下記の条件で評価ガス温度を600℃まで徐々に上げていき、一酸化炭素の浄化率が50%になる温度(T50)を調べた:
【0076】
評価ガス組成:
CO:0.65mol%
:0.05mol%(1500ppmC)
:0.58mol%
:残部
使用触媒量: 約0.75g
ガス流量: 1リットル/分
空燃比(A/F): 15.02
空間速度(SV): 90,000h−1
【0077】
〈評価の整理1〉添加金属元素の種類に基づく評価結果の整理
実施例A(クエン酸合成法)、参考例B(共沈合成法)、及び比較例C(含浸合成法)で得られた排ガス浄化触媒についての一酸化炭素浄化性能の評価結果を、表1に示している。また、明確さのために、実施例A参考例B、及び比較例Cで得られた排ガス浄化触媒についての評価結果を、それぞれ図1〜3に示している。
【0078】
【表1】
【0079】
表1、並びに図1及び2から理解されるように、実施例A(クエン酸合成法)及び参考例B(共沈合成法)によって製造された排ガス浄化触媒、すなわちコバルトと添加元素との複合酸化物の形成を促進する製造方法によって製造された排ガス浄化触媒では、銅(Cu)、銀(Ag)、ニッケル(Ni)、マグネシウム(Mg)、及び亜鉛(Zn)を添加元素として用いた場合に、一酸化炭素浄化性能が改良された。
【0080】
また、実施例A(クエン酸合成法)によって製造された排ガス浄化触媒は、参考例B(共沈合成法)によって製造された排ガス浄化触媒と比較しても優れた一酸化炭素浄化性能を有していた。これは、実施例A(クエン酸合成法)が、参考例B(共沈合成法)よりも良好にコバルトと添加金属元素との固溶体の形成を促進することによると考えられる。
【0081】
ただし、実施例A(クエン酸合成法)及び参考例B(共沈合成法)によって排ガス浄化触媒を製造した場合であっても、鉄及びマンガンを添加元素として用いた場合には、一酸化炭素浄化性能が改良されなかった。すなわち、コバルトと鉄の複合酸化物、及びコバルトとマンガンの複合酸化物は、コバルト酸化物と同等の排ガス浄化性能しか有していなかった。
【0082】
なお、比較例C(含浸合成法)によって製造された排ガス浄化触媒では、実施例A(クエン酸合成法)及び参考例B(共沈合成法)によって製造された排ガス浄化触媒とは異なる傾向を示した。これは、含浸法によっては、適切な複合酸化物が形成されにくいことによると考えられる。
【0083】
なお、炭化水素の浄化率の評価においても、一酸化炭素浄化性能と同様の傾向が観察された。
【0084】
〈評価の整理2〉結晶構造のゆがみの大きさに基づく評価結果の整理
〈結晶構造のゆがみの評価〉
担体粉末を用いなかったことを除いて参考例B(共沈合成法)でのようにして得た複合酸化物粒子を、X線回折分析によって分析した。また、X線回折解析結果に基づいて、リートベルト解析方法によって、複合酸化物のスピネル型構造におけるMTET−O結合の距離、及びMOCT−O結合の距離を求めた。
【0085】
また、担体粉末を用いなかったことを除いて実施例A(クエン酸合成法)でのようにして得た複合酸化物粒子を、同様に評価を行った。ただし、ここでは、添加金属元素として銅のみを用いた。すなわち、実施例Aに関しては、コバルト−銅複合酸化物のみを評価した。
【0086】
また、比較例Cでのようにして得た触媒粉末について、同様に評価を行った。ただし、ここでは、添加金属元素として銅のみを用いた。すなわち、比較例Cに関しては、コバルト−銅複合酸化物のみを評価した。
【0087】
実施例A(クエン酸合成法)、参考例B(共沈合成法)、及び比較例C(含浸合成法)で得られた排ガス浄化触媒について、上記のようにして得られたMTET−O結合の距離及びMOCT−O結合の距離に対する一酸化炭素(CO)浄化性能の評価結果を、表2に示している。また、明確さのために、MTET−O結合の距離に対する一酸化炭素浄化性能の評価結果を図4に、MOCT−O結合の距離に対する一酸化炭素浄化性能の評価結果を図5に示している。
【0088】
【表2】
【0089】
表2、並びに図4及び5から理解されるように、コバルト(Co)を含有するスピネル型複合酸化物の一酸化炭素浄化性能は、この複合酸化物のMTET−O結合の距離及びMOCT−O結合の距離に対して明らかな相関を有していた。すなわち、添加金属元素を含有しない酸化コバルトと比較して、この複合酸化物のスピネル型構造におけるMTET−O結合の距離が伸張している場合、及び/又はこの複合酸化物のスピネル型構造におけるMOCT−O結合の距離が収縮している場合には、スピネル型複合酸化物が優れた一酸化炭素浄化性能を有していた。
【0090】
《例D》
例Dでは、コバルトと添加金属元素との複合酸化物を担持する担体の種類が、排ガス浄化触媒の性能に与える影響について検討した。
【0091】
例Dでは、担体として、ジルコニア(ZrO)担体粒子、チタニア(TiO)担体粒子、アルミナ(Al)担体粒子、及びシリカ(SiO)担体粒子のいずれか一種を用いたことを除いて、参考例Bと同様にして、共沈法によって、コバルトと銅との複合酸化物を担体に担持して触媒粉末を得た。
【0092】
また、得られた触媒粉末を、実施例Aと同様にして、ペレット状に成形して、例Dの排ガス浄化触媒を得た。
【0093】
得られた排ガス浄化触媒について、実施例A、参考例B、及び比較例Cと同様にして、一酸化炭素浄化性能を評価した。評価結果を、表3に示している。
【0094】
【表3】
【0095】
表3から理解されるように、排ガス浄化触媒の一酸化炭素浄化性能は、担体の種類に大きく依存しており、担体としてセリア系担体を用いた場合にのみ、良好な一酸化炭素浄化性能が得られていた。
【0096】
これは、セリアの酸素給蔵放出能(OSC能)によって、コバルトと銅との複合酸化物から一酸化炭素等への酸素の供与を促進されていることによると考えられる。また、アルミナにコバルト−銅複合酸化物が担持されている排ガス浄化触媒(Co−Cu複合酸化物/Al)に800℃で熱耐久を行うと、排ガス浄化性能が大きく低下した。これは、この複合酸化物がアルミナに対して反応性を有していることを示唆している。
【0097】
《例E及び例F》
例E及び例Fでは、コバルトの量を一定にし、又はコバルトを用いずに、銅の量を変化させることによって、排ガス浄化触媒の性能に銅の量が与える影響について検討した。
【0098】
〈例E〉
例E〜例Fでは、コバルトの量を一定にしつつ、銅の量を変化させることによって、排ガス浄化触媒の性能に銅の量が与える影響について検討した。
【0099】
1.金属塩溶液の調製
コバルトの金属換算担持量が、担体に対して5質量%となるように秤量した硝酸コバルト、並びに銅の金属換算担持量が、担体に対して、0.5質量%、1.0質量%、2.0質量%、2.75質量%、3.0質量%、4.0質量%、及び5.0質量%となるように秤量した硝酸銅を、純水に溶解し、充分に撹拌混合して、金属塩溶液を得た。
【0100】
なお、コバルトの金属換算担持量が、担体に対して5質量%であり、かつ銅の金属換算担持量が、担体に対して、2.75質量%のときに、コバルトと銅のモル比(Co:Cu)が約2:1であった。
【0101】
2.中和剤溶液の調製
1mol/Lの水酸化ナトリウム(NaOH、アルドリッチ社製)、及び純水からなる混合水溶液を充分に撹拌混合して、中和剤溶液を得た。
【0102】
3.中和反応(共沈反応)
撹拌装置付の反応器(SAリアクター)に、上記のようにして得た金属塩溶液及び中和剤溶液をそれぞれ2.5mL/分の送液速度で導入し、0〜50℃の温度範囲を維持して、約1時間の中和反応を行わせて、コバルト−銅複合酸化物の前駆体を析出させた。なお、この中和反応の間には、8,000〜12,000rpmの回転速度による超撹拌によって、強いせん断応力を混合水溶液に提供していた。
【0103】
4.ろ過及び洗浄
得られた前駆体に純水を導入し、遠心分離、ろ過、及び洗浄を行って、前駆体スラリーを得た。
【0104】
5.担持、乾燥及び焼成
得られた前駆体スラリーに、担体としてのセリア−ジルコニア複合酸化物(CeO−ZrO)担体粉末(株式会社キャタラー製、ACTALYSLISA)を導入して、蒸発乾固し、解砕し、そして600℃で大気下において4時間にわたって焼成して、排ガス浄化触媒を得た。
【0105】
得られた排ガス浄化触媒について、走査型透過電子顕微鏡(STEM)による担持触媒の分散状態の観察、及びX線回折(XRD)測定によるピーク強度の測定を行った。これによれば、酸化コバルト平均粒径は約40nmであり、酸化コバルト粒子上に、平均粒径約10nmの酸化銅粒子が高分散に分布していることが確認された。
【0106】
また、STEM−EDX分析により、酸化コバルト粒子内に銅が一部固溶していることが確認された。
【0107】
6.ペレット成型
得られた触媒粉末を、実施例Aと同様にして、ペレット状に成形して、例Dの排ガス浄化触媒を得た。
【0108】
〈例F〉
例Fでは、コバルトを用いずに、銅の量を変化させることによって、排ガス浄化触媒の性能に銅の量が与える影響について検討した。
【0109】
硝酸コバルトを用いず、かつ銅の金属換算担持量が、担体に対して、1.0質量%、3.0質量%、5.0質量%、及び6.0質量%となるように秤量した硝酸銅を用いたことを除いて、例Eと同様にして、排ガス浄化触媒を得た。
【0110】
〈評価方法〉一酸化炭素浄化性能
実施例A、参考例B、及び比較例Cと同様にして、例E及び例Fのそれぞれの排ガス浄化触媒について、一酸化炭素の浄化率が50%になる温度(T50)を調べた。評価結果を図6に示している。
【0111】
図6からは、コバルト−銅複合酸化物を用いる排ガス浄化触媒では、銅の金属換算担持量が2〜3質量%のときに、特に良好な結果が得られることが理解される。
【0112】
《比較例G》
例Gでは、コバルトと共に用いる添加金属元素の種類を変化させることによって、排ガス浄化触媒の性能に添加金属元素の種類が与える影響について検討した。
【0113】
硝酸銅に代えて、硝酸マグネシウム、硝酸マンガン、硝酸鉄、硝酸ニッケル、及び硝酸銀、硝酸セリウムのうちのいずれか一種を用いたことを除いて、例Eと同様にして、排ガス浄化触媒を得た。なお、コバルト(Co)とマグネシウム等の添加金属(M)のモル比(Co:M)は、いずれも約2:1であった。また、硝酸銅を用いなかったことを除いて、例Eと同様にして、すなわち金属酸化物の原料としてコバルトのみを用いて、排ガス浄化触媒を得た。
【0114】
〈評価方法1〉一酸化炭素浄化性能1
実施例A、参考例B、及び比較例Cと同様にして、例Gのそれぞれの排ガス浄化触媒について、一酸化炭素の浄化率を調べた。ただし、ここでは、一酸化炭素の浄化率が50%になる温度(T50)の代わりに、各温度に対する一酸化炭素の浄化率を調べた。評価結果を図7に示している。
【0115】
図7からは、添加元素として銅(Cu)、銀(Ag)、セリウム(Ce)、ニッケル(Ni)、マグネシウム(Mg)を用いたときに、一酸化炭素の浄化率、特に低温における一酸化炭素の浄化率が有意に改良されることが示されている。
【0116】
〈評価方法2〉一酸化炭素浄化性能2
例Gの排ガス浄化触媒のうち、添加金属元素として銅(Cu)、ニッケル(Ni)、及びマグネシウム(Mg)を用いた排ガス浄化触媒、並びに添加金属元素を用いなかった排ガス浄化触媒について、下記の条件で評価ガス温度を600℃まで徐々に上げる昇温プログラム還元(CO−TPR)試験を行って、発生する二酸化炭素(CO)の量を評価した:
【0117】
使用触媒量:約0.3g
ガス流量:100mL/min
ガス組成: CO:1%、Air:10%、He:89%
【0118】
評価結果を図8に示している。
【0119】
この評価結果からは、銅(Cu)等の添加元素を用いることによって、一酸化炭素(CO)が二酸化炭素(CO)に添加される温度が低下したことが理解される。これは、コバルト−銅複合酸化物等が、比較的低い温度から、一酸化炭素を酸化する活性を有していることを示している。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9