特許第5822010号(P5822010)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5822010
(24)【登録日】2015年10月16日
(45)【発行日】2015年11月24日
(54)【発明の名称】無線通信端末
(51)【国際特許分類】
   H01Q 1/24 20060101AFI20151104BHJP
   G06K 19/077 20060101ALI20151104BHJP
   H04B 5/02 20060101ALI20151104BHJP
【FI】
   H01Q1/24 Z
   G06K19/077 196
   G06K19/077 212
   H04B5/02
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-163515(P2014-163515)
(22)【出願日】2014年8月11日
(62)【分割の表示】特願2014-512398(P2014-512398)の分割
【原出願日】2013年3月1日
(65)【公開番号】特開2015-65646(P2015-65646A)
(43)【公開日】2015年4月9日
【審査請求日】2014年8月11日
(31)【優先権主張番号】特願2012-99838(P2012-99838)
(32)【優先日】2012年4月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001449
【氏名又は名称】特許業務法人プロフィック特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】武岡 誠
(72)【発明者】
【氏名】道海 雄也
(72)【発明者】
【氏名】村山 博美
【審査官】 岩井 一央
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−250097(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/005080(WO,A1)
【文献】 特開2002−330082(JP,A)
【文献】 特開2007−041629(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 1/00−25/04
G06K 19/077
H04B 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
RFIDシステム用の無線IC素子と、他のIC素子と、前記他のIC素子に接続されたグランド導体と、を備えた無線通信端末であって、
前記無線IC素子は、アンテナ素子に接続されるアンテナ用端子と、前記他のIC素子に有線にて接続される有線接続用端子とを備え、
前記グランド導体は、前記アンテナ用端子に接続され、前記RFIDシステムのアンテナ素子として利用されており、
前記無線IC素子は前記アンテナ用端子に接続されたインピーダンス整合回路を含む回路基板に搭載されており、
前記回路基板には、さらに、前記他のIC素子と前記有線接続用端子との間に配置されたキャリア信号を減衰させるための高周波遮断回路が設けられ、
前記無線IC素子はデジタルインターフェース部を含み、
前記有線接続用端子は前記デジタルインターフェース部に接続されており、
前記高周波遮断回路は前記他のIC素子と前記デジタルインターフェース部との間に設けられたインダクタンス素子であり、
前記有線接続用端子は前記グランド導体に接続されるグランド電極を含み、
前記インダクタンス素子は前記グランド電極と前記グランド導体との間に接続されていること、
を特徴とする無線通信端末。
【請求項2】
RFIDシステム用の無線IC素子と、他のIC素子と、前記他のIC素子に接続されたグランド導体と、を備えた無線通信端末であって、
前記無線IC素子は、アンテナ素子に接続されるアンテナ用端子と、前記他のIC素子に有線にて接続される有線接続用端子とを備え、
前記グランド導体は、前記アンテナ用端子に接続され、前記RFIDシステムのアンテナ素子として利用されており、
前記無線IC素子は前記アンテナ用端子に接続されたインピーダンス整合回路を含む回路基板に搭載されており、
前記回路基板には、さらに、前記他のIC素子と前記有線接続用端子との間に配置されたキャリア信号を減衰させるための高周波遮断回路が設けられ、
前記無線IC素子はデジタルインターフェース部を含み、
前記有線接続用端子は前記デジタルインターフェース部に接続されており、
前記高周波遮断回路は前記他のIC素子と前記デジタルインターフェース部との間に設けられたインダクタンス素子であり、
前記有線接続用端子は前記他のIC素子に接続された電源ラインに接続される電源電極を含み、
前記インダクタンス素子は前記電源電極と前記電源ラインとの間に接続されていること、
を特徴とする無線通信端末。
【請求項3】
RFIDシステム用の無線IC素子と、他のIC素子と、前記他のIC素子に接続されたグランド導体と、を備えた無線通信端末であって、
前記無線IC素子は、アンテナ素子に接続されるアンテナ用端子と、前記他のIC素子に有線にて接続される有線接続用端子とを備え、
前記グランド導体は、前記アンテナ用端子に接続され、前記RFIDシステムのアンテナ素子として利用されており、
前記無線IC素子は前記アンテナ用端子に接続されたインピーダンス整合回路を含む回路基板に搭載されており、
前記回路基板には、さらに、前記他のIC素子と前記有線接続用端子との間に配置されたキャリア信号を減衰させるための高周波遮断回路が設けられ、
前記無線IC素子はデジタルインターフェース部を含み、
前記有線接続用端子は前記デジタルインターフェース部に接続されており、
前記高周波遮断回路は前記他のIC素子と前記デジタルインターフェース部との間に設けられたインダクタンス素子であり、
前記他のIC素子はホストICを含み、
前記インダクタンス素子は前記無線IC素子のクロック電極と前記ホストICとの間に接続されていること、
を特徴とする無線通信端末。
【請求項4】
RFIDシステム用の無線IC素子と、他のIC素子と、前記他のIC素子に接続されたグランド導体と、を備えた無線通信端末であって、
前記無線IC素子は、アンテナ素子に接続されるアンテナ用端子と、前記他のIC素子に有線にて接続される有線接続用端子とを備え、
前記グランド導体は、前記アンテナ用端子に接続され、前記RFIDシステムのアンテナ素子として利用されており、
前記無線IC素子は前記アンテナ用端子に接続されたインピーダンス整合回路を含む回路基板に搭載されており、
前記回路基板には、さらに、前記他のIC素子と前記有線接続用端子との間に配置されたキャリア信号を減衰させるための高周波遮断回路が設けられ、
前記無線IC素子はデジタルインターフェース部を含み、
前記有線接続用端子は前記デジタルインターフェース部に接続されており、
前記高周波遮断回路は前記他のIC素子と前記デジタルインターフェース部との間に設けられたインダクタンス素子であり、
前記他のIC素子はホストICを含み、
前記インダクタンス素子は前記無線IC素子のデータ電極と前記ホストICとの間に接続されていること、
を特徴とする無線通信端末。
【請求項5】
前記RFIDシステムはUHF帯を利用したRFIDシステムであること、を特徴とする請求項1ないし請求項のいずれかに記載の無線通信端末。
【請求項6】
前記回路基板は複数の基材層を積層してなる積層体であり、
前記無線IC素子は前記積層体の表面に搭載されており、
前記インピーダンス整合回路及び前記高周波遮断回路は前記積層体の内部に配置されていること、
を特徴とする請求項1ないし請求項のいずれかに記載の無線通信端末。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信端末、特にRFID(Radio Frequency Identification)システムに用いられる無線IC素子を備えた無線通信端末に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、物品の情報管理システムとして、誘導磁界を発生するリーダライタと、物品に付されたRFIDタグ(無線ICデバイスとも称する)とを電磁界を利用した非接触方式で通信し、所定の情報を伝達するRFIDシステムが実用化されている。例えば、無線通信端末などの電子機器の基板に無線ICデバイスを実装し、電子機器の基板や本体の情報管理に用いられている。
【0003】
特に、最近では、所定の情報を記憶し、所定の無線信号を処理する無線ICチップとしては、無線通信によるRFインターフェースだけではなく、有線通信によるデジタルインターフェースを搭載したデュアルインターフェース通信ICが開発され、注目されている。
【0004】
携帯端末などの電子機器の基板の管理などに利用されるRFIDシステムにおいて、例えば特許文献1には、無線ICデバイスのアンテナとして機器に内蔵されたプリント基板のグランド導体を利用することが記載されている。これによれば、専用のアンテナが不要となるので、電子機器の小型化を達成できるとともに、アンテナとして機能する放射板(グランド導体)の利得を向上させることができる。
【0005】
しかしながら、前記デュアルインターフェース通信ICにおいて、アンテナを機器本体のグランド導体と共用すると、グランド導体はデジタルインターフェースの基準電位でもあるため、RFIDシステムの通信特性に影響(例えば、周波数特性が変動したり、読取り距離が低下する)が出てしまう。また、デジタルインターフェースではグランド導体と高周波的に絶縁されていない回路も存在するため、それらの回路の接続状態によっても通信特性に影響が出てしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4535209号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、アンテナの通信特性に悪影響を及ぼさないようにした無線通信端末を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の形態である無線通信端末は、
RFIDシステム用の無線IC素子と、他のIC素子と、前記他のIC素子に接続されたグランド導体と、を備えた無線通信端末であって、
前記無線IC素子は、アンテナ素子に接続されるアンテナ用端子と、前記他のIC素子に有線にて接続される有線接続用端子とを備え、
前記グランド導体は、前記アンテナ用端子に接続され、前記RFIDシステムのアンテナ素子として利用されており、
前記無線IC素子は前記アンテナ用端子に接続されたインピーダンス整合回路を含む回路基板に搭載されており、
前記回路基板には、さらに、前記他のIC素子と前記有線接続用端子との間に配置されたキャリア信号を減衰させるための高周波遮断回路が設けられ
前記無線IC素子はデジタルインターフェース部を含み、
前記有線接続用端子は前記デジタルインターフェース部に接続されており、
前記高周波遮断回路は前記他のIC素子と前記デジタルインターフェース部との間に設けられたインダクタンス素子であり、
前記有線接続用端子は前記グランド導体に接続されるグランド電極を含み、
前記インダクタンス素子は前記グランド電極と前記グランド導体との間に接続されていること、
を特徴とする。
本発明の第2の形態である無線通信端末は、
RFIDシステム用の無線IC素子と、他のIC素子と、前記他のIC素子に接続されたグランド導体と、を備えた無線通信端末であって、
前記無線IC素子は、アンテナ素子に接続されるアンテナ用端子と、前記他のIC素子に有線にて接続される有線接続用端子とを備え、
前記グランド導体は、前記アンテナ用端子に接続され、前記RFIDシステムのアンテナ素子として利用されており、
前記無線IC素子は前記アンテナ用端子に接続されたインピーダンス整合回路を含む回路基板に搭載されており、
前記回路基板には、さらに、前記他のIC素子と前記有線接続用端子との間に配置されたキャリア信号を減衰させるための高周波遮断回路が設けられ、
前記無線IC素子はデジタルインターフェース部を含み、
前記有線接続用端子は前記デジタルインターフェース部に接続されており、
前記高周波遮断回路は前記他のIC素子と前記デジタルインターフェース部との間に設けられたインダクタンス素子であり、
前記有線接続用端子は前記他のIC素子に接続された電源ラインに接続される電源電極を含み、
前記インダクタンス素子は前記電源電極と前記電源ラインとの間に接続されていること、
を特徴とする。
【0009】
本発明の第3の形態である無線通信端末は、
RFIDシステム用の無線IC素子と、他のIC素子と、前記他のIC素子に接続されたグランド導体と、を備えた無線通信端末であって、
前記無線IC素子は、アンテナ素子に接続されるアンテナ用端子と、前記他のIC素子に有線にて接続される有線接続用端子とを備え、
前記グランド導体は、前記アンテナ用端子に接続され、前記RFIDシステムのアンテナ素子として利用されており、
前記無線IC素子は前記アンテナ用端子に接続されたインピーダンス整合回路を含む回路基板に搭載されており、
前記回路基板には、さらに、前記他のIC素子と前記有線接続用端子との間に配置されたキャリア信号を減衰させるための高周波遮断回路が設けられ、
前記無線IC素子はデジタルインターフェース部を含み、
前記有線接続用端子は前記デジタルインターフェース部に接続されており、
前記高周波遮断回路は前記他のIC素子と前記デジタルインターフェース部との間に設けられたインダクタンス素子であり、
前記他のIC素子はホストICを含み、
前記インダクタンス素子は前記無線IC素子のクロック電極と前記ホストICとの間に接続されていること、
を特徴とする。
本発明の第4の形態である無線通信端末は、
RFIDシステム用の無線IC素子と、他のIC素子と、前記他のIC素子に接続されたグランド導体と、を備えた無線通信端末であって、
前記無線IC素子は、アンテナ素子に接続されるアンテナ用端子と、前記他のIC素子に有線にて接続される有線接続用端子とを備え、
前記グランド導体は、前記アンテナ用端子に接続され、前記RFIDシステムのアンテナ素子として利用されており、
前記無線IC素子は前記アンテナ用端子に接続されたインピーダンス整合回路を含む回路基板に搭載されており、
前記回路基板には、さらに、前記他のIC素子と前記有線接続用端子との間に配置されたキャリア信号を減衰させるための高周波遮断回路が設けられ、
前記無線IC素子はデジタルインターフェース部を含み、
前記有線接続用端子は前記デジタルインターフェース部に接続されており、
前記高周波遮断回路は前記他のIC素子と前記デジタルインターフェース部との間に設けられたインダクタンス素子であり、
前記他のIC素子はホストICを含み、
前記インダクタンス素子は前記無線IC素子のデータ電極と前記ホストICとの間に接続されていること、
を特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、アンテナの通信特性に悪影響を及ぼすことが解消される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】一実施例である無線ICデバイスを等価回路とともに示す断面図である。
図2】前記無線ICデバイスの回路図である。
図3】前記無線ICデバイスを含む無線通信端末の電気回路を示すブロック図である。
図4】前記無線通信端末のマザー基板に設けたアンテナ兼用グランド導体を示す斜視図である。
図5】前記アンテナ兼用グランド導体の要部を示す斜視図である。
図6】前記無線ICデバイスの回路基板を分解して示す斜視図である。
図7】前記無線ICデバイスの通信特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る無線通信端末の実施例について添付図面を参照して説明する。なお、各図において、共通する部品、部分は同じ符号を付し、重複する説明は省略する。
【0013】
一実施例である無線ICデバイス10は、RFIDシステムにおいてUHF帯の通信に用いられるものであり、図1に示すように、積層体として構成されている回路素子(回路基板15)上に無線IC素子(無線ICチップ20)を実装し、樹脂材19にて封止したものである。無線ICチップ20のRFID用アンテナは、図4に示すグランド導体30が部分的に兼用されている。グランド導体30のうちアンテナとして使用される部分31を図4及び図5に斜線を付して示す。アンテナ部分31にはインピーダンス整合用線路32が形成されている。この整合用線路32は図3においてはインダクタLとして示されている。
【0014】
無線ICチップ20は、図3に示すように、デジタルインターフェース部21、コントローラ部22、変復調部23、パワーマネージメント部24、メモリ部25を備えたRF信号を処理する集積回路素子である。この集積回路素子は、無線通信によるRFインターフェースと、有線通信による有線インターフェースとを備えたデュアルインターフェースICである。無線ICチップ20は、通常、シリコンなどの半導体基板をベースとして形成されているが、ベアチップICであってもよく、パッケージICであってもよい。回路基板15には、図2及び図3に示すように、電源電極VDD、クロック電極CLOCK、データ電極DATA、グランド電極GND、差動型の入出力電極I/Oa,I/Obが設けられている。
【0015】
回路基板15は、複数の基材層41a〜41j(図6参照)を積層してなる積層体からなり、無線ICチップ20とアンテナ部分31とのインピーダンスを整合させる整合回路及び無線ICチップ20に対する高周波遮断回路として機能するインダクタンス素子L2,L3,L4を内蔵している。整合回路は、無線ICチップ20に対して直列接続されたインダクタンス素子L1aと、無線ICチップ20に対して並列接続されたインダクタンス素子L1bと、を含んでいる。インダクタンス素子L1aの一端は半田などの導電性接合材16を介して入出力電極I/Oaに接続されている。インダクタンス素子L1aの他端はコンデンサ素子C1aを介して電極P1に接続され、該電極P1は前記整合用線路32の一端部32a(図5参照)に接続されている。
【0016】
インダクタンス素子L1bの一端は前記インダクタンス素子L1aの他端及びコンデンサ素子C1aに接続されている。インダクタンス素子L1bの他端は導電性接合材16を介して入出力電極I/Obに接続されている。さらに、インダクタンス素子L1bの他端はコンデンサ素子C1bを介して電極P2に接続され、該電極P2は前記整合用線路32の一端部32b(図5参照)に接続されている。換言すると、インダクタンス素子L1aは差動信号線路に対して直列的に接続されており、インダクタンス素子L1bは差動信号線路間に設けられている。
【0017】
また、回路基板15の裏面に形成された電極P4(インダクタンス素子L3に接続されている)は、グランド導体30の線路33に接続されている。
【0018】
図1に示すように、インダクタンス素子L1a,L1bは、それぞれの巻回軸がほぼ同軸上に位置するように、かつ、各インダクタンス素子L1a,L1bに生じる磁界M1,M2の向きが互いに逆向きになるように、巻回、配置されている。詳しくは、各インダクタンス素子L1a,L1bはその巻回軸が回路基板15の積層方向に沿うように積層体の内部に配置されている。つまり、インダクタンス素子L1aにて電流aで発生する磁界M1の方向とインダクタンス素子L1bにて電流bで発生する磁界M2の方向とが互いに向かい合っている。そして、インダクタンス素子L1a,L1bは、符号Mで示すように磁気結合し、コンデンサ素子C1a,C1bとで共振回路を形成している。この共振回路は無線ICチップ20に対する給電回路としても機能する。
【0019】
インダクタンス素子L1aは、無線ICチップ20側の直列のインダクタンス成分であり、このインダクタンス成分は、主にインピーダンスチャート上における虚数軸方向にインピーダンスを移動させるという機能を有している。一方、インダクタンス素子L1bは、アンテナ部分31側の直列のインダクタンス成分であり、アンテナ部分31の二つの接続部を跨ぐように設けられ、主にアドミタンスチャート上における虚数軸上にインピーダンスを移動させるという機能を有する。以上のように、2種類のインダクタンス素子L1a,L1bにそれぞれ前記のような役割を持たせることで、インピーダンスを効率よくマッチングさせることができる。
【0020】
さらに、回路基板15には、第2のインダクタンス素子L2,L3,L4が内蔵されている。インダクタンス素子L2は電源電極VDDと電源ライン35に接続されている電極P3との間に設けられている。インダクタンス素子L3はグランド電極GNDとグランド導体30に接続されている電極P4との間に設けられている。インダクタンス素子L4はクロック電極CLOCKとホストIC36に接続されている電極P5との間に設けられている。また、データ電極DATAとホストIC36に接続されている電極P6との間にインダクタンス素子L5を設けてもよい。
【0021】
無線通信端末(典型的には携帯電話機)は、図3に示すように、前記無線ICチップ20や整合回路、インダクタンス素子L2〜L4を含む無線ICデバイス10に加えて、マザー基板29(図4参照)に設けた電源ライン35、アンテナ兼用グランド導体30を含み、さらに、ホストIC36、パワーマネージメントIC37、LCD用制御IC38を含んでいる。これらのIC36,37,38は、電源ライン35及びアンテナ兼用グランド導体30に接続されている。マザー基板29は、ポリイミドやPETなどの熱可塑性樹脂材を好適に使用することができる。グランド導体30は、マザー基板29上のほぼ全面に設けられた銀、銅、アルミニウムなどを主成分とする金属膜によって形成されている。
【0022】
無線ICデバイス10においては、無線ICチップ20から所定の高周波信号が整合回路を介してアンテナ部分31に伝達され、所定のキャリア周波数を有するキャリア信号として外部に放射される。アンテナ部分31が外部からのキャリア信号を受信した場合も、同様に、整合回路を介して無線ICチップ20に電力が供給される。これにて、無線ICチップ20と図示しないリーダライタとが交信することになる。即ち、無線ICチップ20はアンテナ部分31に接続されるアンテナ用端子(I/Oa,I/Ob)と、他のIC素子(36,37,38)に有線にて接続される有線接続用端子(VDD,CLOCK,DATA,GND)と、を備えている。
【0023】
無線ICデバイス10において、インダクタンス素子L1a,L1bが互いの巻回軸がほぼ同軸上に位置するように、かつ、各インダクタンス素子L1a,L1bに生じる磁界M1,M2の向きが逆向きになるように、巻回、配置されているため、インダクタンス素子L1a,L1bが磁気結合し、複数の共振点が生じて広い周波数帯にて高周波信号の送受信が可能であり、かつ、素子数が少ないので回路基板15が小型化し、ひいては無線ICデバイス10自体も小型化する。
【0024】
また、無線ICデバイス10において、無線ICチップ20に接続されたインピーダンス整合回路を含む回路基板15には、無線ICチップ20に対する高周波遮断回路として接続されたインダクタンス素子L2,L3,L4が設けられているため、無線ICチップ20のアンテナを無線ICデバイス10のグランド導体30と兼用する場合であっても、アンテナ部分31と無線ICデバイス10の基準電位として機能するグランド導体30との間で干渉することが実質的に解消され、RFIDシステムとしての通信特性に悪影響を生じることがない。高周波遮断回路は、電源回路、グランド、クロック回路からのノイズ電流やキャリア信号のショートカット電流を減衰させるためのものである。
【0025】
無線ICデバイス10とリーダライタとの読取り距離の変化を図7に曲線Aで示す。本無線ICデバイス10は860〜910MHz帯で動作するように設計されたものである。アンテナ兼用グランド導体30のサイズは、長辺が100mm、短辺が40mm、マザー基板29の厚さは1mmである。比較例としてインダクタンス素子L2,L3,L4が設けられていない(その他の構成は本無線ICデバイス10と同じ)無線ICデバイスの読取り距離の変化を図7に曲線Bで示す。
【0026】
前記比較例にあっては、アンテナ部分31とグランド導体30との間で電磁界的に干渉を生じ、ピーク周波数が高帯域側にシフトし、かつ、読取り距離が低下している。これに対して、本無線ICデバイス10は、キャリア信号がアンテナ用端子以外の端子から無線ICチップ20に戻ってきてしまうのを避けることができるため、設計値とほぼ同じピーク周波数を維持し、かつ、読取り距離の低下もほとんど見られない。
【0027】
ところで、整合回路を形成するインダクタンス素子L1a,L1b及び高周波遮断回路を形成するインダクタンス素子L2,L3,L4は、電磁界的に結合していない、又は、結合度が小さいことが好ましい。これらのインダクタンス素子が結合していると、本来遮断すべきノイズ電流やショートカット電流が整合回路を介して無線ICチップ20に入ってきてしまうことがあるためである。結合を防止する点では、それぞれのインダクタンス素子がコイルからなる場合、回路基板15内においてコイルの巻回軸が異なる位置に配置されていること、あるいは、それぞれのコイルの巻回軸が平面視で重なっていないことが好ましい。
【0028】
また、インダクタンス素子L1a,L1b及び/又はインダクタンス素子L2,L3,L4を閉磁路型とし、互いのインダクタンス素子を閉磁路から離間して配置することにより、電磁界結合を回避することができる。所望の高周波遮断特性を得るために、インダクタンス素子L2,L3,L4の線路を長くしなければならない場合は、インダクタンス素子L2,L3,L4を閉磁路型とすることが好ましい。無線ICチップ20と無線ICデバイス10の各電極の配置関係により、回路基板15の配線が交差する場合は、磁界が最も強くなる部分を避けてそれぞれのインダクタンス素子を配置してもよい。
【0029】
ここで、回路基板15の積層構造について図6を参照して説明する。積層体は誘電体あるいは磁性体からなる基材層41a〜41jを積層、圧着、焼成したものである。但し、積層体を構成する基材層はセラミックに限定されるものではなく、例えば、ポリイミドや液晶ポリマなどのような熱可塑性樹脂や、エポキシ樹脂などのような熱硬化性樹脂であってもよい。
【0030】
最下層の基材層41aにはその裏面に電極P1〜P6が形成され、その表面にコンデンサ電極C1a−1,C1b−1が形成されている。基材層41bにはその表面にコンデンサ電極C1a−2,C1b−2が形成されている。基材層41c〜41iにはそれぞれの表面に導体パターンL1a−1〜L1a−4,L1b−1,L2−1〜L2−6,L3−1〜L3−7,L4−1〜L4−6,42,43が形成されている。最上層の基材層41jにはその表面に電極I/Oa,I/Ob,CLOCK,VDD,DATA,GNDが形成されている。また、各基材層41a〜41jには、図6に点線で示すように、各種電極及び導体パターンを層間で接続するためのビアホール導体が形成されている。
【0031】
以上の基材層41a〜41jを積層することにより前記インダクタンス素子L1a,L1b,L2,L3,L4、コンデンサ素子C1a,C1bが構成され、かつ、図2に示した回路が形成される。また、基材層41i上に形成した導体パターン42はデータ線路となる。
【0032】
なお、本発明に係る無線通信端末は前記実施例に限定するものではなく、その要旨の範囲内で種々に変更できることは勿論である。
【0033】
例えば、インピーダンス整合回路を含む回路素子は、無線IC素子が搭載された基板として構成されていてもよいが、無線IC素子の機能面に設けられた再配線層であってもよい。即ち、無線ICデバイスは、いわゆるチップサイズパッケージとして構成されていてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0034】
以上のように、本発明は、無線通信端末に有用であり、特に、アンテナの通信特性に悪影響を及ぼすことが解消される点で優れている。
【符号の説明】
【0035】
10…無線ICデバイス
15…回路基板
20…無線ICチップ
29…マザー基板
30…アンテナ兼用グランド導体
31…アンテナ部分
L1a,L1b…第1のインダクタンス素子
L2,L3,L4…第2のインダクタンス素子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7