【実施例】
【0010】
<1>全体の工程。
本発明の吹付による擁壁の構築工法の主要工程は、1)地山からの湧水を排出する工程、2)地山表層を補強するロックボルトを打設する工程、3)ロックボルトの頭部に鉄筋を固定して鉄筋格子を形成する工程、4)鉄筋格子の上面に合成樹脂短繊維を混入したモルタルを吹付ける工程、5)吹付モルタルの表面にシラン・シロキサン系浸透性吸水防止剤を塗布する工程によって構成する。以下各工程について説明する。
【0011】
<2>湧水を排出する工程。
擁壁の施工予定の面の清掃を行い、モルタルの附着を阻害する根株や浮石、土砂を除去し、施工する上部境界地点附近に略水平方向に透水マット60を布設する。
この透水マット60に連接して鉛直方向に法面の下部に向けて透水マット60を、例えば1.5mピッチで張設し、アンカーボルト等によって固定する。
さらに縦方向に設置した透水マット60の下部、端部では塩ビパイプに連接して、擁壁下部で排出する。
【0012】
<3>密着金網の敷設工程。
上記の背面排水工の設置後、施工面全体にアンカーボルト等で固定する密着金網70を張設することも可能である。
特に風化の激しい岩盤法面や膨張性法面、侵食され易い法面では地山全体に密着するように、例えば菱形金網径2.0mm、網目50×50の亜鉛メッキ金網を、径16mm×400mm及び径9mm×200mmのアンカーボルトを用いて地山に固定する。
この密着金網70上に厚さ2cm程度でモルタルの吹付けを行うと、切土して侵食され易い法面や風化の激しい岩盤法面では、切土直後に密閉する事になり風化や侵食を受けることなく、安定を確保することができる。
また、密着金網70が未だ露出しているため、後述の工程において短繊維混合モルタル10を吹き付けた場合にその附着が容易となる。
【0013】
<4>ロックボルトを打設する工程。
次いで、法面に地山表層を補強するロックボルト40を打設する。
そのために削孔位置を、例えば上下1.5mピッチで均等に割り付け、所定の長さまで削孔する。
削孔終了後はセメントミルクを注入し、ロックボルト40もしくは異形鉄筋を挿入して固定する。
例えば、D19×3000mmのロックボルト40、異形鉄筋を、法面のX、Y方向均等に1.5mピッチで打設し、セメントミルクを注入して固定する。
固定したロックボルト40の頭部にアンカープレート20を取り付ける。
例えば、厚さ9mm、160×160、高さ90mmの断面形状が略コの字形状の埋設型アンカープレート20を取付け、ナットで固定する方法を採用できるが、アンカープレート20の構造の詳細については後述する。
【0014】
<5>鉄筋格子を形成する工程。
ロックボルト40の露出端に固定したアンカープレート20には、くさび状の切欠き部と折り曲げ部を形成してある。
その部分に、例えば異形鉄筋D10を固定すると、法面に沿って、かつ法面から一定の距離だけ離した状態で、XY方向に配置した鉄筋格子を形成することができる。
【0015】
<6>隔離金網の敷設工程。
次いで、法面から一定距離だけ離れた位置に、すなわち法面から浮いた状態で隔離金網50を敷設する。
この隔離金網50は例えば、径2.6mm網目、100×100の溶接金網を使用する。
法面から一定の距離だけ離すために、さや鋼管51を使用して設置する。
さや鋼管51は、例えば外径34mm、長さ150mmのさや鋼管51を使用し、このさや鋼管51を貫通して地山にアンカーボルト52を打設する。
アンカーボルト52は、例えばφ16×400mmの頭部に略L字状のフックを設けたものである。
その結果、隔離金網50を、地山から150mm程度離れた位置に、全面にわたって敷設することができる。
【0016】
<7>モルタルの吹付工程。
完成した鉄筋格子の上面に、合成樹脂製の短繊維を混入したモルタルあるいはコンクリートを吹付ける。
その場合に、例えば合成樹脂短繊維材が、長さ20〜50mm、太さ0.5〜2mmであって、その表面が凹凸加工/もしくは突起を設けた合成樹脂短繊維材を採用することができる。
短繊維混入モルタル10の吹付けに際しては、プラントで製造したモルタルのアジテーター車の上部投入口より、径0.7mm 長さ30mmで表面エンボス加工したポリプロピレン短繊維材を1VOL%の割合で投入し、充分混練した後モルタル・コンクリート吹付機によって、厚さ100mm〜200mmとなるまで一層で吹付ける。
【0017】
<8>吸水防止剤を塗布する工程。
モルタルを吹付けた上記の工程で擁壁の構築は完了するが、さらに吹き付けたモルタルの表面にシラン・シロキサン系浸透性吸水防止剤80を塗布することができる。
その際に事前の処理として、例えば水量120L/min、吐出圧8MPa以上の高圧洗浄水によってモルタル吹付けの表面のリバウンドを清掃しておく。
その後、吹付表層30mm程度の乾燥を確認してシラン・シロキサン系浸透性吸水防止剤80をエアレスガンを用いて、1平方メートル当たり例えば200gの割合で塗布する。
【0018】
<9>載荷実験。
上記したように本発明の施工方法は、短繊維を混合したモルタルの吹付によって擁壁を構築するものである。
この工法の実用性を確認するためにテストピースTを作成して載荷実験を行った。
実験装置90の仕様は
図6に示す通りである。
テストピースTの材料は、1:4のモルタル、混入したポリプロピレン短繊維は長さ3cm、太さ0.7mmで、混入量はモルタルの1.0%VOLである。
テストピースTの寸法は、1.5m×1.5m、厚さ7cmである。
荷重は、荷重用タンク91に投入した砂であり、3,270kgである。
【0019】
<10>実験の結果。
3,270kgの荷重を載荷した直後の、テストピースTにおける初期弾性歪撓みは635μm、その後の変化は
図7に示す通りであり、200日経過したところで表面にクラックが発生した。
その時点での撓みは4800μm、クラックの中央付近で間隔幅が0.8〜1.2mm、深さ6〜10mm、その他の部分では間隔幅0.2〜0.4mm、深さ4〜5mm程度であった。
その後、クラックは若干増加しているが、発生後1年経過してもクラック間隔幅は広がらず、剥離、剥落は発生していない。
【0020】
<11>実験のまとめ。
実験の結果によって本発明の短繊維混合モルタル10を擁壁構築用に吹き付けた場合、下記のような機能を達成できると推測される。
1)クラックは発生するが、剥離や剥落は発生せず、繊維の引張応力により吹付け時の擁壁の形状を維持する。
2)擁壁に、脆性崩落は発生しない。
3)モルタルの引張抵抗力より、ポリプロピレン短繊維の引張抵抗力の方が大きく、曲げタフネスが機能して、擁壁の形状を維持する。
4)短繊維混合モルタル10は、引張応力を受ける擁壁として十分に機能を発揮する。
【0021】
<12>アンカープレートの構造。
次に本願発明において、縦横の鉄筋30を把持するアンカープレート20の実施例の詳細を
図4、5において説明する。
【0022】
<13>基本的構成。
本発明のアンカープレート20は、鋼製の部材であり、基板21と、その一部に形成した鉄筋把持部22と、他の部分に形成した鉄筋受溝23とで構成する。
なおアンカープレート20自体では「上下」「左右」「鉛直」「水平」といった方向は決められないが、図に沿った説明の便宜のために、明細書、および特許請求の範囲では図のようなアンカープレート20の平面視を前提としてそのように称呼することにする。
その際に「鉛直」と称しても数学的な鉛直性を意味するものではなく、縦方向という程度の意味である。
【0023】
<14>基板。
本発明のアンカープレート20はほぼ矩形の鋼製の板の上下を帯状に折り上げて形成した部材である。
このように鋼板の上下の縁をほぼ直角に折り上げて鉄筋把持部22と鉄筋受溝23を位置させる構造であると、特にこれをプレス加工で一度に形成すると経済的に製造することができる。
製造工程の順に説明すると、まず矩形の板体の上下の縁を帯状に直角に折り上げると、側面視で平皿状の部材を形成することができる。
側面視で平皿状の底板に当たる平面部が基板21である。
基板21の上下の縁に折り上げた帯状部に、後述する鉄筋把持部22と鉄筋受溝23が位置する。
ただし製造工程はプレスに限定するものではなく、鉄筋把持部22も鉄筋受溝23も、例えばU字状のパイプを基板21の周囲に溶接して製造すること等も可能である。
基板21のほぼ中央には、ロックボルト40を直交方向に貫通するための貫通孔24を開口する。
【0024】
<15>鉄筋把持部。
基板21の上下で折り上げた縁の両端には、外向きに開口した切り込みを、鉄筋把持部22として形成する。
この鉄筋把持部22の切り込みは、その内部に鉄筋鉛直31を収納できる幅と深さを備えた、有底のスリットである。
この鉄筋把持部22によって、基板21の左右に鉛直に位置させた鉛直鉄筋31を把持することができる。
切込みをクサビ状のすることで、施工時、鉛直鉄筋31をクサビ内部に軽く打ち込めば、鉄筋把持部22に鉛直鉄筋31を仮止めすることができる。
【0025】
<16>鉄筋受溝。
基板21の上で折り上げた縁の上側、および基板21の下側で折り上げた縁の下側には鉄筋受溝23を形成する。
鉄筋受溝23は折り上げた縁から側面視で水平に、すなわち基板21と平行に庇状に外向きに張り出した板体で構成することができる。
外向きに張り出しただけでは、水平鉄筋32を把持できないが、後述するようにアンカープレート20は法面に直接、あるいは間接に張り付けるから、上側の鉄筋受溝23では法面との間隔で、水平鉄筋32を収納して位置を維持することができる。
下側の鉄筋受溝23では水平鉄筋32を維持できないから、作業員が結束線で結束して固定する。
また、下側の鉄筋受溝23は、縁を上に折り上げて形成することもできる。
この場合、下側の鉄筋受溝23は縁の上方に形成されるため、結束線等を使用しなくても、水平鉄筋32を載せて維持することができる。