特許第5823206号(P5823206)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5823206
(24)【登録日】2015年10月16日
(45)【発行日】2015年11月25日
(54)【発明の名称】X線管装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 35/14 20060101AFI20151105BHJP
   H01J 35/30 20060101ALI20151105BHJP
   H01J 35/16 20060101ALI20151105BHJP
【FI】
   H01J35/14
   H01J35/30
   H01J35/16
【請求項の数】18
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2011-173374(P2011-173374)
(22)【出願日】2011年8月8日
(65)【公開番号】特開2013-37910(P2013-37910A)
(43)【公開日】2013年2月21日
【審査請求日】2014年7月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】503382542
【氏名又は名称】東芝電子管デバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】特許業務法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】阿武 秀郎
【審査官】 小野 健二
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−144654(JP,A)
【文献】 特開2002−352757(JP,A)
【文献】 特開2008−071549(JP,A)
【文献】 特開2009−158138(JP,A)
【文献】 特開2009−187947(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 35/00−35/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1方向に向けて電子ビームを放出する陰極と、前記電子ビームが入射されることにより前記第1方向とは異なる第2方向を中心軸とする利用X線束を放出する焦点が形成されるターゲット面を有した陽極ターゲットと、前記陽極ターゲット及び陰極を収容し、内部が真空状態であり、前記利用X線束を外部に取り出すためのX線透過窓を有した真空外囲器と、前記真空外囲器内の前記焦点及びX線透過窓間に位置し、前記電子ビーム及び利用X線束を通過させる通過部を有し、前記焦点以外から前記X線透過窓に向かうX線を遮蔽するX線シールド部材と、を具備したX線管と、
前記陰極から放出される電子ビームを偏向させ、前記電子ビームを、前記ターゲット面に、前記第1方向とは異なる第3方向に向けて入射させる偏向部と
前記陽極ターゲットに対向配置され、前記焦点から飛び出す反跳電子を捕捉する捕捉体と、を備えたことを特徴とするX線管装置。
【請求項2】
前記焦点が形成される位置の前記ターゲット面に接する平面を第1平面、前記焦点を通り前記ターゲット面の上方を向き前記第1平面に垂直な方向を第4方向、前記第2方向及び第4方向を含む平面を第2平面、前記第3方向及び第4方向を含む平面を第3平面、とすると、
前記第3平面が、前記第2平面に対して内側になす角度は、−30°乃至+30°の範囲内の何れかであり、
前記第3方向が前記第1平面からなす角度は、5°乃至60°の範囲内の何れかであることを特徴とする請求項1に記載のX線管装置。
【請求項3】
前記陽極ターゲット及びX線シールド部材は、同電位であることを特徴とする請求項1又は2に記載のX線管装置。
【請求項4】
前記通過部は、前記X線シールド部材に形成された円形の開口部であり、
前記X線シールド部材は、前記第3方向に向かう前記電子ビームが前記開口部の中心を通過するように位置していることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載のX線管装置。
【請求項5】
前記ターゲット面は、平面であることを特徴とする請求項1に記載のX線管装置。
【請求項6】
前記ターゲット面は、円錐面であることを特徴とする請求項1に記載のX線管装置。
【請求項7】
前記ターゲット面は、円周面であることを特徴とする請求項1に記載のX線管装置。
【請求項8】
前記偏向部は、永久磁石であり、磁場により前記電子ビームに作用するローレンツ力を利用することを特徴とする請求項1乃至7の何れか1項に記載のX線管装置。
【請求項9】
前記焦点の位置を微調整する焦点位置補正部をさらに備えていることを特徴とする請求項8に記載のX線管装置。
【請求項10】
前記焦点位置補正部は、前記偏向部の磁場に重畳する補正磁場を発生させることを特徴とする請求項9に記載のX線管装置。
【請求項11】
前記焦点位置補正部は、前記偏向部の磁場が作用する領域より前記陰極に近い領域に、補正磁場を発生させることを特徴とする請求項9に記載のX線管装置。
【請求項12】
前記焦点が前記ターゲット面上を周期的に移動するように前記電子ビームを偏向させる他の偏向部をさらに備えていることを特徴とする請求項1乃至11の何れか1項に記載のX線管装置。
【請求項13】
前記他の偏向部は、前記偏向部の磁場が作用する領域より前記陰極に近い領域で、前記電子ビームを偏向させることを特徴とする請求項12に記載のX線管装置。
【請求項14】
前記他の偏向部は、さらに、前記焦点の位置を微調整することを特徴とする請求項12に記載のX線管装置。
【請求項15】
前記第2方向が前記第1平面からなす角度は、5°乃至25°の範囲内の何れかであることを特徴とする請求項2に記載のX線管装置。
【請求項16】
前記陽極ターゲットを固定し、回転軸に沿って延出して筒状に形成され、前記回転軸を中心に回転可能な回転体と、
前記回転軸に沿って延出して前記回転体の内部に嵌合され、前記回転体を回転可能に支持する固定体と、
前記固定体及び回転体間に設けられた軸受けと、をさらに備えていることを特徴とする請求項1乃至15の何れか1項に記載のX線管装置。
【請求項17】
前記X線透過窓は、アルミニウム、チタン、ニッケル、ステンレス鋼、クロム鋼、鉄合金のうちの何れか1つを主成分として形成されていることを特徴とする請求項1乃至16の何れか1項に記載のX線管装置。
【請求項18】
第1方向に向けて電子ビームを放出する陰極と、前記電子ビームが入射されることにより前記第1方向とは異なる第2方向を中心軸とする利用X線束を放出する焦点が形成されるターゲット面を有した陽極ターゲットと、前記陽極ターゲット及び陰極を収容し、内部が真空状態であり、前記利用X線束を外部に取り出すためのX線透過窓を有した真空外囲器と、前記真空外囲器内の前記焦点及びX線透過窓間に位置し、前記電子ビーム及び利用X線束を通過させる通過部を有し、前記焦点以外から前記X線透過窓に向かうX線を遮蔽するX線シールド部材と、を具備したX線管と、
前記陰極から放出される電子ビームを偏向させ、前記電子ビームを、前記ターゲット面に、前記第1方向とは異なる第3方向に向けて入射させる偏向部と、を備え、
前記焦点が形成される位置の前記ターゲット面に接する平面を第1平面、前記焦点を通り前記ターゲット面の上方を向き前記第1平面に垂直な方向を第4方向、前記第2方向及び第4方向を含む平面を第2平面、前記第3方向及び第4方向を含む平面を第3平面、とすると、
前記第3平面が、前記第2平面に対して内側になす角度は、−30°乃至+30°の範囲内の何れかであり、
前記第3方向が前記第1平面からなす角度は、5°乃至60°の範囲内の何れかであることを特徴とするX線管装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、X線管装置に関する。
【背景技術】
【0002】
X線管装置は、X線管を備えている。X線管は、陽極ターゲットに電子ビームを衝突させてX線を発生する構成になっている。このようなX線管装置は、医療用の診断装置あるいは工業用の非破壊検査装置や材料分析装置など、多くの用途に利用されている。
【0003】
X線管装置では、陰極から放射された電子ビームは、陰極と陽極ターゲット間の電位勾配により加速、集束され、典型的には20〜150keVのエネルギを持って、陽極ターゲットのターゲット面にほぼ垂直(90°±20°)に衝突してX線発生源となる焦点を形成する。焦点に高いエネルギを持った電子ビームが衝突すると、電子ビームはターゲット材により急速に減速されるためX線が放出される。X線に変換される割合は、陽極ターゲットに衝突する電子の運動エネルギの中の1%以下とわずかである。残りのエネルギは熱に変換される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−216683号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ターゲット面から広い角度範囲に亘って、反跳電子は、焦点から飛び出す。従って、X線透過窓方向に飛び出した反跳電子は、X線透過窓を直撃し、X線透過窓を加熱することになり、その結果、X線管内の真空度が低下して放電を起こしたり、X線透過窓が破損したりする恐れがあった。X線透過窓の温度上昇は、特にX線透過窓が陽極ターゲットと同電位である場合に深刻である。
【0006】
そして、上記したX線透過窓の加熱が原因となって、X線出力を増大させるために電子ビーム出力をより増加させたり、より頻繁にX線を放出させたり、より長時間に亘ってX線を連続的に放出させることに限界が生じてしまうという問題がある。さらに、X線透過窓の加熱は、冷却液中に溶け出したX線遮蔽材料である鉛や、X線管や冷却器の配管の材料である銅などの重金属がX線透過窓の外側に堆積する現象を促進し、短期間でX線透過窓のX線透過特性が損なわれてしまうという問題もある。
【0007】
また、ターゲット面の焦点から飛び出した反跳電子の一部は再びターゲット面に戻り、焦点の周りに比較的密度の高い衝突領域を形成する。衝突領域からもX線は放出される。このため、焦点から放出される利用X線束に、衝突領域から放出される不所望なX線(焦点外X線)が混入してしまう。
【0008】
さらに、焦点から放出されたX線は、X線透過窓から逸れると、陰極や真空外囲器の内面で散乱してしまう。このため、焦点から放出される利用X線束に、散乱した不所望なX線(焦点外X線、散乱X線)の一部も混入してしまう。上記のように、焦点以外からX線透過窓にX線が向かうと、X線撮影像の解像度を劣化させてしまうことにもなる。
【0009】
この発明は以上の点に鑑みなされたもので、その目的は、X線透過窓への反跳電子の直撃を抑制し、X線透過窓の温度上昇を確実に低減することができ、焦点以外からX線透過窓に向かうX線を低減することができるX線管装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
一実施形態に係るX線管装置は、
第1方向に向けて電子ビームを放出する陰極と、前記電子ビームが入射されることにより前記第1方向とは異なる第2方向を中心軸とする利用X線束を放出する焦点が形成されるターゲット面を有した陽極ターゲットと、前記陽極ターゲット及び陰極を収容し、内部が真空状態であり、前記利用X線束を外部に取り出すためのX線透過窓を有した真空外囲器と、前記真空外囲器内の前記焦点及びX線透過窓間に位置し、前記電子ビーム及び利用X線束を通過させる通過部を有し、前記焦点以外から前記X線透過窓に向かうX線を遮蔽するX線シールド部材と、を具備したX線管と、
前記陰極から放出される電子ビームを偏向させ、前記電子ビームを、前記ターゲット面に、前記第1方向とは異なる第3方向に向けて入射させる偏向部と
前記陽極ターゲットに対向配置され、前記焦点から飛び出す反跳電子を捕捉する捕捉体と、を備えたことを特徴としている。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、第1の実施形態に係るX線装置を示す模式図であり、ターゲット面に垂直な方向から見た図である。
図2図2は、図1に示したX線装置を示す他の模式図であり、ターゲット面に沿った方向から見た図である。
図3図3は、図1及び図2に示した陽極ターゲット及びX線シールド部材を示す斜視図であり、電子ビームを偏向させることで、焦点を形成している様子を示す図である。
図4図4は、第2の実施形態に係るX線装置の陽極ターゲット及びX線シールド部材を示す斜視図であり、電子ビームを偏向させることで、焦点を形成している様子を示す図である。
図5図5は、第3の実施形態に係るX線装置の陽極ターゲット及びX線シールド部材を示す斜視図であり、電子ビームを偏向させることで、焦点を形成している様子を示す図である。
図6図6は、第4の実施形態に係るX線装置の陽極ターゲット及びX線シールド部材を示す斜視図であり、電子ビームを偏向させることで、焦点を形成している様子を示す図である。
図7図7は、第5の実施形態に係るX線装置の陽極ターゲット及びX線シールド部材を示す斜視図であり、電子ビームを偏向させることで、焦点を形成している様子を示す図である。
図8図8は、第6の実施形態に係るX線装置の陽極ターゲット及びX線シールド部材を示す斜視図であり、電子ビームを偏向させることで、焦点を形成している様子を示す図である。
図9図9は、上記第1の実施形態に係るX線装置の変形例を示す模式図であり、上記陰極及びX線シールド部材の位置を変更し、第3方向の向きを変更する様子を示す図である。
図10図10は、図9に示したX線装置を示す他の模式図であり、ターゲット面に沿った方向から見た図である。
図11図11は、上記第1の実施形態に係るX線装置の他の変形例を示す模式図であり、ターゲット面に沿った方向から見た図である。
図12図12は、図11に示した陽極ターゲット及びX線シールド部材を示す斜視図であり、電子ビームを偏向させることで、焦点がターゲット面上を移動する様子を示す図である。
図13図13は、第7の実施形態に係るX線装置のX線管装置を示す断面図である。
図14図14は、図13の線XIV−XIVに沿ったX線管装置を示す断面図である。
図15図15は、第8の実施形態に係るX線装置のX線管装置を示す断面図である。
図16図16は、第9の実施形態に係るX線装置のX線管装置を示す断面図である。
図17図17は、図16の線XVII−XVIIに沿ったX線管装置を示す断面図である。
図18図18は、上記X線シールド部材の変形例を概略的に示す正面図である。
図19図19は、上記X線シールド部材の他の変形例を概略的に示す正面図である。
図20図20は、上記X線シールド部材の他の変形例を概略的に示す正面図である。
図21図21は、上記X線シールド部材の他の変形例を概略的に示す正面図である。
図22図22は、上記X線シールド部材の他の変形例を概略的に示す正面図である。
図23図23は、上記X線シールド部材の他の変形例を概略的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら第1の実施形態に係るX線装置について詳細に説明する。第1の実施形態では、X線装置の基本的な概念を説明する。
図1図2及び図3に示すように、X線装置は、X線管装置10を備えている。X線管装置10は、X線管30と、偏向部70と、を備えている。X線管30は、陽極ターゲット35と、陰極36と、真空外囲器31と、X線シールド部材5と、を備えている。
【0013】
陰極36は、第1方向d1に向けて電子ビームを放出する。陰極36の電子放出源36aには陰極36に印加される電圧及び電流が供給される。電子放出源36aは、電極や、コイル状のフィラメント等で形成されている。ここでは、電子放出源36aは、コイル状のフィラメントで形成されている。
【0014】
陽極ターゲット35は、この陽極ターゲットの外面の一部に設けられたターゲット面35bを有している。ターゲット面35bは、陰極36から放射される電子ビームが入射されることにより第1方向d1とは異なる第2方向d2を中心軸とする利用X線束を放出する焦点Fが形成される。この実施形態において、ターゲット面35bは平面である。陽極ターゲット35は、タングステン合金等の金属で形成されている。陰極36には相対的に負の電圧が印加され、陽極ターゲット35には相対的に正の電圧が印加される。
【0015】
真空外囲器31は、陽極ターゲット35及び陰極36を収容している。真空外囲器31は、真空容器32、X線透過窓33及び金属表面部34を有している。真空外囲器31の内部は真空状態である。真空容器32は、銅、ステンレス、アルミニウム等の金属、及びガラス、セラミクス等の絶縁物で形成されている。
【0016】
X線透過窓33は、利用X線束を外部に取り出すためのものである。例えば、X線透過窓33は、焦点Fから第2方向d2に向かう方向が中心位置を通るように配置されている。X線透過窓33は、真空容器32に気密に設けられている。ここでは、X線透過窓33は、ベリリウムで形成されている。X線透過窓33のX線透過方向の厚みは、0.1乃至2mmである。その他、X線透過窓33は、アルミニウム、チタン、ニッケル、ステンレス鋼、クロム鋼、鉄合金のうちの何れか1つを主成分として形成することも可能である。
【0017】
金属表面部34は、真空側のX線透過窓33の表面側を含む真空外囲器31の内側に設けられている。ここでは、金属表面部34は、接地電位(0V)に設定されている。
【0018】
X線シールド部材5は、真空外囲器31内の焦点F及びX線透過窓33間に位置している。X線シールド部材5は、陰極36から焦点Fに向かう電子ビーム及び利用X線束を通過させる通過部を有している。この実施形態において、X線シールド部材5は、円環状に形成されている。このため、上記通過部は、X線シールド部材5に形成された円形の開口部5aである。
【0019】
X線シールド部材5は、少なくともX線を遮蔽する材料で形成されている。X線シールド部材5は、焦点F以外からX線透過窓33に向かうX線を遮蔽するものである。
また、X線シールド部材5は、X線を遮蔽し、導電性を示す材料で形成されていてもよい。X線シールド部材5は、後述する第3方向d3に向かう電子ビームが開口部5aの中心を通過するように位置していてもよい。このため、開口部5aは、通過する電子ビームの軌道を中心に軸対称に形作られている。
【0020】
X線シールド部材5は、真空外囲器31内で位置が固定されている。この実施形態では、X線シールド部材5は、真空外囲器31に固定されている。そして、X線シールド部材5は、金属表面部34に電気的に接続されている。X線シールド部材5は、真空外囲器31(金属表面部34)と同電位(ほぼ同電位)である。
【0021】
なお、X線シールド部材5は、真空外囲器31以外の部材に固定されていてもよい。また、X線シールド部材5は、陽極ターゲット35と同電位(ほぼ同電位)となるように設定されていてもよい。
【0022】
偏向部70は、陰極36から放出される電子ビームを偏向させ、上記電子ビームを、ターゲット面35bに、第1方向d1とは異なる第3方向d3に向けて入射させる。この実施形態において、偏向部70は、磁気偏向部であり、より詳しくは永久磁石である。偏向部70は、真空外囲器31の外側で、電子ビームの軌道を取り囲む位置に設けられている。偏向部70は、磁場Ha1により運動する電子ビームに作用するローレンツ力を利用するものである。ここでは、偏向部70は、電子ビームを90°近く偏向させている。
【0023】
ここで、焦点Fが形成される位置のターゲット面35bに接する平面を第1平面S1とする。焦点Fを通りターゲット面35bの上方を向き第1平面S1に垂直な方向を第4方向d4とする。第2方向d2及び第4方向d4を含む平面を第2平面S2とする。第3方向d3及び第4方向d4を含む平面を第3平面S3とする。
【0024】
また、第3方向d3が第1平面S1からなす角度をαとする。第3平面S3が、第2平面S2に対して内側になす角度をβとする。第2方向d2が第1平面S1からなす角度をγとする。
【0025】
角度αは、5°乃至60°の範囲内の何れかである。角度βは、特に限定されるものではないが、−30°乃至+30°の範囲内の何れかである。なお、角度αは、第1方向d1及び磁場Ha1の向きに依存している。角度γは、特に限定されるものではないが、例えば、5°乃至25°の範囲内に設定されている。この実施形態において、角度αは30°であり、角度βは0°であり、角度γは15°である。
なお、磁場Ha1は、第1平面S1に平行であり、第2平面S2及び第3平面S3に垂直である。
【0026】
X線管30には、高電圧電源15が接続されている。高電圧電源15は、陰極36及び陽極ターゲット35に高電圧を供給するためのものである。この実施形態において、高電圧電源15は、陰極36にのみ高電圧を供給する。
【0027】
X線管30の陰極36及び陽極ターゲット35間に、管電圧Vが印加されている。陽極ターゲット35の電位をVA、陰極36の電位をVCとすると、管電圧Vは、VA−VCである。管電圧Vは、20kV乃至200kVである。
【0028】
この実施形態において、高電圧電源15は、陰極36に−Vの電圧を供給している。陽極ターゲット35、X線透過窓33を含む真空外囲器31の金属部、及びX線シールド部材5は接地されている(0V)。
【0029】
陰極36の電位は、−Vに限定されるものではなく、−V乃至0Vの範囲内の何れかに設定されていればよい(−V≦VC≦0)。陽極ターゲット35の電位は、接地電位に限定されるものではなく、接地電位以上、+V以下の範囲内の何れかに設定されていればよい(0≦VA≦+V)。例えば、陰極36及び真空外囲器31の金属部の電位が0Vに、陽極ターゲット35の電位及びX線シールド部材5の電位が+Vに、それぞれ設定されていてもよい。
【0030】
特に、陰極36の電位が−V乃至−V/2の範囲内の何れかに設定され(−V≦VC≦−V/2)、陽極ターゲット35の電位が接地電位以上、+V/2以下の範囲内の何れかに設定されていれている(0≦VA≦+V/2)場合、X線透過窓33への反跳電子の直撃を抑制することができる。
【0031】
このように構成されたX線管30では、例えば、陰極36に−100kV以上の負の高電圧を印加する。陽極ターゲット35及び真空外囲器31は接地されている。陰極36の電子放出源36aには、±100V以下の低電圧及び電流がさらに与えられる。
【0032】
これにより陰極36から放出される電子ビームは、偏向部70により偏向され、陽極ターゲット35のターゲット面35bに入射される。そして、ターゲット面35bに形成される焦点FからX線が放射され、X線(利用X線束)は、X線透過窓33を透過して外部へ放射される。
【0033】
上記のように構成された第1の実施形態に係るX線装置によれば、X線管30は、陽極ターゲット35と、陰極36と、真空外囲器31と、X線シールド部材5と、を備えている。陰極36は負の高電位に設定され、陽極ターゲット35と、X線透過窓33を含む真空外囲器31と、X線シールド部材5と、は接地されている。
【0034】
第1方向d1は、ターゲット面35bに垂直であるが、偏向部70による磁場Ha1の作用により、角度αを30°とすることができる。反跳電子は、焦点Fから第3平面S3に沿って入射電子があたかもターゲット面35bで鏡面反射する方向に最も多くなり、かつ電子が入射してくる方向で最も少なくなるような角度分布をもって飛び出すものである。電子ビームは、X線透過窓33側からターゲット面35bに入射されるため、X線透過窓33への反跳電子の直撃を抑制することができ、X線透過窓33の加熱を抑制することができる。そして、X線透過窓33の破損を防止することができる。なお、焦点Fから飛び出す反跳電子の殆どは、X線透過窓33から外れた真空容器32の内面に衝撃を与えることとなる。上記の効果は、角度αが5°乃至60°の範囲内の何れかである場合に得ることができる。
【0035】
また、反跳電子は真空外囲器31、または後述するターゲット面35bの上方に配置された捕捉体60により捕捉されるため、焦点F近傍を含むターゲット面35bへの反跳電子の再衝突を抑制することができる。これにより、ターゲット面35b(焦点F)の温度上昇や、ターゲット面35bに引き起こされる荒れを抑制でき、放電の発生やX線の出力低下を抑制することができる。さらに、焦点F以外からのX線の放射を抑制できるため、X線画像の明瞭度の低下を抑制することができる。 上記の効果は、角度αが5°乃至60°の範囲内の何れかである場合に得ることができる。
【0036】
X線シールド部材5は、開口部5aを有している。このため、陰極36から焦点Fに向かう電子ビームと、焦点Fから放出される利用X線束と、の軌道を遮ること無しに焦点F以外からX線透過窓33に向かうX線を遮蔽することができる。
【0037】
また、上記のように、陽極ターゲット35と、X線透過窓33を含む真空外囲器31と、X線シールド部材5と、は接地されている。陽極ターゲット35及びX線シールド部材5は、同電位である。このため、X線シールド部材5は、焦点Fに向かう電子ビームを加速させる加速電極として機能することができる。
【0038】
さらに、第3方向d3に向かう電子ビームが開口部5aの中心を通過するようにX線シールド部材5が位置することにより、X線シールド部材5は、焦点Fに向かう電子ビームを集束させる集束電極として機能することができる。
【0039】
上記したことから、X線透過窓33への反跳電子の直撃を抑制し、X線透過窓33の温度上昇を確実に低減することができ、焦点F以外からX線透過窓33に向かうX線を低減することができるX線装置を得ることができる。これにより、例えば、X線撮影像の解像度を向上させることが可能となる。また、より頻繁にX線を放出させたり、より長時間に亘ってX線を連続的に放出させたりすることが可能となる。
【0040】
さらに、X線透過窓33の厚みを減少させたり、X線透過窓33を形成する材料を、より安価なアルミニウム、チタン、ニッケル、ステンレス鋼、クロム鋼、鉄合金のうちの何れか1つに代替したりすることが可能となる。
【0041】
次に、第2の実施形態に係るX線装置について説明する。第2の実施形態では、X線装置の構成の基本的な他の概念を説明する。この実施形態において、上記第1の実施形態と同一機能部分には同一符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0042】
図4に示すように、X線装置は、陰極36の位置が異なっている点と、偏向部70が電子ビームに作用させる磁場Ha1の大きさが異なっている点以外、上記第1の実施形態のX線装置と同様に形成されている。
【0043】
陰極36は、第2平面S2に沿い、X線透過窓33側に向かう第1方向d1に電子ビームを放出する。磁場Ha1は、第1平面S1に平行であり、第2平面S2及び第3平面S3に垂直である。偏向部70は、ここでは、電子ビームを180°近く偏向させている。角度αは、5°乃至60°の範囲内の何れかである。角度βは0°である。角度γは、5°乃至25°の範囲内に設定されている。
【0044】
上記のように構成された第2の実施形態に係るX線装置によれば、X線管30は、陽極ターゲット35と、陰極36と、真空外囲器31と、X線シールド部材5と、を備えている。第1方向d1は、第2平面S2に沿い、X線透過窓33側に向かう方向であるが、偏向部70による磁場Ha1の作用により、角度αを5°乃至60°の範囲内の何れかとすることができる。このため、第2の実施形態に係るX線装置は、上述した第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0045】
また、陰極36を、第1平面S1に沿って平行となるように寝かせた状態にして配置することができるため、第4方向d4に立たせた状態にして配置した場合に比べて、第4方向d4に沿ったX線管30のサイズをよりコンパクトにすることができる。
【0046】
上記したことから、X線透過窓33への反跳電子の直撃を抑制し、X線透過窓33の温度上昇を確実に低減することができ、焦点F以外からX線透過窓33に向かうX線を低減することができるX線装置を得ることができる。これにより、例えば、X線撮影像の解像度を向上させることが可能となる。また、より頻繁にX線を放出させたり、より長時間に亘ってX線を連続的に放出させたりすることが可能となる。さらに、X線透過窓33の厚みを減少させたり、X線透過窓33を形成する材料をより安価な材料に代替したりすることが可能となる。
【0047】
次に、第3の実施形態に係るX線装置について説明する。第3の実施形態では、X線装置の構成の基本的な他の概念を説明する。この実施形態において、上記第1の実施形態と同一機能部分には同一符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0048】
図5に示すように、X線装置は、陰極36の位置が異なっている点と、偏向部70が電子ビームに作用させる磁場Ha1の向き及び大きさが異なっている点以外、上記第1の実施形態のX線装置と同様に形成されている。
【0049】
陰極36は、第1平面S1に平行であり、第3平面S3に垂直となる第1方向d1に電子ビームを放出する。偏向部70は、第4方向d4の逆方向から傾斜した方向に磁場Ha1を作用させる。磁場Ha1は、第3平面S3に平行であり、第1方向d1及び第3方向d3を含む平面に垂直である。偏向部70は、ここでは、電子ビームを90°偏向させている。角度αは、5°乃至60°の範囲内の何れかである。角度βは0°である。角度γは、5°乃至25°の範囲内に設定されている。
【0050】
上記のように構成された第3の実施形態に係るX線装置によれば、X線管30は、陽極ターゲット35と、陰極36と、真空外囲器31と、X線シールド部材5と、を備えている。第1方向d1は、第3平面S3に垂直であるが、偏向部70による磁場Ha1の作用により、角度αを5°乃至60°の範囲内の何れかとすることができる。このため、第3の実施形態に係るX線装置は、上述した第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0051】
また、陰極36を、第1平面S1に平行となるように寝かせた状態にして配置することができるため、第4方向d4に沿ったX線管30のサイズをよりコンパクトにすることができる。
【0052】
上記したことから、X線透過窓33への反跳電子の直撃を抑制し、X線透過窓33の温度上昇を確実に低減することができ、焦点F以外からX線透過窓33に向かうX線を低減することができるX線装置を得ることができる。これにより、例えば、X線撮影像の解像度を向上させることが可能となる。また、より頻繁にX線を放出させたり、より長時間に亘ってX線を連続的に放出させたりすることが可能となる。さらに、X線透過窓33の厚みを減少させたり、X線透過窓33を形成する材料をより安価な材料に代替したりすることが可能となる。
【0053】
次に、第4の実施形態に係るX線装置について説明する。第4の実施形態では、X線装置の構成の基本的な他の概念を説明する。この実施形態において、上記第1の実施形態と同一機能部分には同一符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0054】
図6に示すように、X線装置は、陰極36の位置が異なっている点と、他の偏向部をさらに備えている点以外、上記第3の実施形態のX線装置と同様に形成されている。
【0055】
陰極36は、第1平面S1に平行であり、X線透過窓33側に向かう第1方向d1に電子ビームを放出する。第1の偏向部は、第4方向d4の逆方向に磁場Ha1を作用させる。第1の偏向部は、ここでは、電子ビームを90°偏向させている。
【0056】
第2の偏向部は、磁場Ha1によって偏向された電子ビームをさらに偏向させ、上記電子ビームを、ターゲット面35bに、第1方向d1とは異なる第3方向d3に向けて入射させる。この実施形態において、2つの偏向部は、磁気偏向部であり、より詳しくは永久磁石である。2つの偏向部は、真空外囲器31の外側で、電子ビームの軌道を取り囲む位置に設けられている。
角度αは、5°乃至60°の範囲内の何れかである。角度βは0°である。角度γは、5°乃至25°の範囲内に設定されている。
【0057】
上記のように構成された第4の実施形態に係るX線装置によれば、X線管30は、陽極ターゲット35と、陰極36と、真空外囲器31と、X線シールド部材5と、を備えている。第1方向d1は、X線透過窓33側に向かう方向であるが、第1の偏向部による磁場Ha1の作用及び第2の偏向部による磁場Ha2の作用により、角度αを5°乃至60°の範囲内の何れかとすることができる。このため、第4の実施形態に係るX線装置は、上述した第3の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0058】
また、陰極36を、第1平面S1に平行となるように寝かせた状態にして配置することができるため、第4方向d4に沿ったX線管30のサイズをよりコンパクトにすることができる。
【0059】
上記したことから、X線透過窓33への反跳電子の直撃を抑制し、X線透過窓33の温度上昇を確実に低減することができ、焦点F以外からX線透過窓33に向かうX線を低減することができるX線装置を得ることができる。これにより、例えば、X線撮影像の解像度を向上させることが可能となる。また、より頻繁にX線を放出させたり、より長時間に亘ってX線を連続的に放出させたりすることが可能となる。さらに、X線透過窓33の厚みを減少させたり、X線透過窓33を形成する材料をより安価な材料に代替したりすることが可能となる。
【0060】
次に、第5の実施形態に係るX線装置について説明する。第5の実施形態では、X線装置の構成の基本的な他の概念を説明する。この実施形態において、上記第1の実施形態と同一機能部分には同一符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0061】
図7に示すように、X線装置は、陰極36の位置が異なっている点と、偏向部70が電子ビームに作用させる磁場Ha1の向き及び大きさが異なっている点以外、上記第3の実施形態のX線装置と同様に形成されている。
【0062】
陰極36は、第2平面S2及び第3平面S3に垂直であり、第1平面S1から角度αだけ傾斜した第1方向d1に電子ビームを放出する。偏向部70は、第4方向d4の逆方向に磁場Ha1を作用させる。偏向部70は、ここでは、電子ビームを90°偏向させている。角度αは、5°乃至60°の範囲内の何れかである。角度βは0°である。角度γは、5°乃至25°の範囲内に設定されている。
【0063】
上記のように構成された第5の実施形態に係るX線装置によれば、X線管30は、陽極ターゲット35と、陰極36と、真空外囲器31と、X線シールド部材5と、を備えている。第1方向d1は、第3平面S3に垂直であるが、第1平面S1から角度αだけ傾斜していることにより、また、偏向部70による磁場Ha1の作用により、角度αを5°乃至60°の範囲内の何れかとすることができる。このため、第5の実施形態に係るX線装置は、上述した第3の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0064】
また、陰極36を、第1平面S1に平行となるように寝かせた状態にして配置することができるため、第4方向d4に沿ったX線管30のサイズをよりコンパクトにすることができる。
【0065】
上記したことから、X線透過窓33への反跳電子の直撃を抑制し、X線透過窓33の温度上昇を確実に低減することができ、焦点F以外からX線透過窓33に向かうX線を低減することができるX線装置を得ることができる。これにより、例えば、X線撮影像の解像度を向上させることが可能となる。また、より頻繁にX線を放出させたり、より長時間に亘ってX線を連続的に放出させたりすることが可能となる。さらに、X線透過窓33の厚みを減少させたり、X線透過窓33を形成する材料をより安価な材料に代替したりすることが可能となる。
【0066】
次に、第6の実施形態に係るX線装置について説明する。第6の実施形態では、X線装置の構成の基本的な他の概念を説明する。この実施形態において、上記第1の実施形態と同一機能部分には同一符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0067】
図8に示すように、X線装置は、陰極36の位置が異なっている点と、磁場Ha2の向き及び大きさが異なっている点以外、上記第4の実施形態のX線装置と同様に形成されている。
【0068】
陰極36は、第1平面S1から角度αだけ傾斜し、X線透過窓33側に向かう第1方向d1に電子ビームを放出する。第1の偏向部は、第4方向d4の逆方向に磁場Ha1を作用させる。第1の偏向部は、ここでは、電子ビームを90°偏向させている。
【0069】
第2の偏向部は、磁場Ha1によって偏向された電子ビームをさらに偏向させ、上記電子ビームを、ターゲット面35bに、第1方向d1とは異なる第3方向d3に向けて入射させる。この実施形態において、2つの偏向部は、磁気偏向部であり、より詳しくは永久磁石である。2つの偏向部は、真空外囲器31の外側で、電子ビームの軌道を取り囲む位置に設けられている。
【0070】
第2の偏向部は、第4方向d4の逆方向に磁場Ha2を作用させ、電子ビームを90°偏向させている。
角度αは、5°乃至60°の範囲内の何れかである。角度βは0°である。角度γは、5°乃至25°の範囲内に設定されている。
【0071】
上記のように構成された第6の実施形態に係るX線装置によれば、X線管30は、陽極ターゲット35と、陰極36と、真空外囲器31と、X線シールド部材5と、を備えている。第1方向d1は、X線透過窓33側に向かう方向であるが、偏向部70による磁場Ha1の作用及び他の偏向部による磁場Ha2の作用により、角度αを5°乃至60°の範囲内の何れかとすることができる。このため、第6の実施形態に係るX線装置は、上述した第4の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0072】
また、陰極36を、第1平面S1に平行となるように寝かせた状態にして配置することができるため、第4方向d4に沿ったX線管30のサイズをよりコンパクトにすることができる。
【0073】
上記したことから、X線透過窓33への反跳電子の直撃を抑制し、X線透過窓33の温度上昇を確実に低減することができ、焦点F以外からX線透過窓33に向かうX線を低減することができるX線装置を得ることができる。これにより、例えば、X線撮影像の解像度を向上させることが可能となる。また、より頻繁にX線を放出させたり、より長時間に亘ってX線を連続的に放出させたりすることが可能となる。さらに、X線透過窓33の厚みを減少させたり、X線透過窓33を形成する材料をより安価な材料に代替したりすることが可能となる。
【0074】
次に、上述した第1乃至第6の実施形態に係るX線装置の角度βの変形例について説明する。
角度βは、0°に限らず、−30°乃至+30°の範囲内の何れかであってもよい。この場合であっても、X線シールド部材5(開口部5a)のサイズを大きくしたり、軸対称ではなくなるがX線シールド部材5(開口部5a)の形状を楕円形にするなど調整したりすることで、陰極36から焦点Fに向かう電子ビームと、焦点Fから放出される利用X線束と、の軌道を遮ること無しに焦点F以外からX線透過窓33に向かうX線を遮蔽することができる。
【0075】
また、上記のように、角度βを設定しても、焦点Fに大きなぼけや歪みが生じたりしないため、より良いX線撮影画像の取得への寄与を維持することができる。又、このように角度βを設定しても、X線透過窓33を衝撃する反跳電子の数が増大することはないため、X線透過窓33の温度低減の効果を維持することができる。
【0076】
角度βを−30°乃至+30°の範囲内の何れかに設定するための手法としては、(1)例えば、図9及び図10に示すように、陰極36の位置を変更して第3方向d3の向きを変更することや、(2)陰極36の位置を変えず、X線透過窓33の位置を変更して第2方向d2の向きを変更することや、(3)1以上の磁場を作用させることにより、第3方向d3を所望の向きに設定することにより、対応することができる。上記(3)においては、磁場の替わりに電界を利用することにより、対応することも可能である。
【0077】
次に、上述した第1乃至第6の実施形態に係るX線装置のターゲット面35bの変形例について説明する。ターゲット面35bは、平面に限らず、円錐面や、円周面であってもよい。
【0078】
ターゲット面35bが円錐面の場合とは、例えば、X線管30が回転陽極型のX線管であり、陽極ターゲット35が円盤状に形成され、ターゲット面35bが、陽極ターゲット35の一端面を形成している場合が挙げられる。
【0079】
ターゲット面35bが円周面の場合とは、例えば、X線管30が回転陽極型のX線管であり、陽極ターゲット35が円盤状に形成され、ターゲット面35bが、陽極ターゲット35の外周面を形成している場合が挙げられる。
【0080】
次に、上述した第1乃至第6の実施形態に係るX線装置の変形例であり、ターゲット面35b上を焦点Fを移動させる場合ついて説明する。
X線装置は、焦点Fがターゲット面35b上を周期的に移動するように電子ビームを偏向させる他の偏向部をさらに備えていてもよい。上記他の偏向部は、偏向部70の磁場Ha1が作用する領域(磁場Ha2が作用する場合においては磁場Ha1、Ha2が作用する領域)より陰極36に近い領域で、電子ビームを偏向させるものである。
【0081】
例えば、図11及び図12に示すように、X線装置は、X線管装置10の他、偏向電源81及び偏向電源制御部82をさらに備えている。X線管装置10は、他の偏向部としての偏向部80をさらに備えている。
【0082】
偏向部80は、偏向部70の磁場Ha1が作用する領域より陰極36に近い領域で、電子ビームを偏向させるものである。偏向部80は、真空外囲器31の外側で、電子ビームの軌道を取り囲む位置に設けられている。偏向部80は、第1方向d1に向かう電子ビームに磁場Hb1を作用させ、偏向角θが得られるよう、上記電子ビームを偏向させるものである。
【0083】
偏向電源81は偏向部80に電圧を供給するものである。偏向電源制御部82は、偏向電源81が偏向部80に供給する電圧を制御するものである。偏向部80、偏向電源81及び偏向電源制御部82は、焦点位置移動用の偏向磁場発生ユニットを形成している。
【0084】
偏向電源制御部82は、焦点Fが連続的又は間欠的に移動するよう偏向電源81が偏向部80に供給する電圧を制御することができる。偏向部80は、制御された電圧が供給されることにより、陰極36から放出される電子ビームを第3平面S3に沿った方向に偏向させ、焦点Fの位置を第3平面S3に沿ったターゲット面35b上で移動させることができる。言い換えると、偏向部80は、電子ビームをターゲット面35b上を周期的(連続的又は間欠的)に走査させることができる。
【0085】
また、X線装置をCT装置に搭載した場合、焦点位置を切り替えながらスキャンを行うことができるため、フライングフォーカス(焦点位置シフト)方式のCT装置に応用することができる。
【0086】
さらに、電子ビームは、偏向部80によってターゲット面35bを十分速い速度で走査されるため、焦点F温度の上昇を軽減することができる。そのため、電子ビームを走査しない場合には陽極ターゲットが溶けてしまい実用できない固定陽極型のX線装置の場合でも、使用を可能とすることができる。
【0087】
角度αが90°付近(90°±20°)の場合、焦点Fの位置を移動させるため、電子ビームの偏向角θを比較的大きくする必要がある。このため、偏向電源81は偏向部80に比較的高い電圧を供給する必要がある。この場合、電子ビームをエネルギ効率よく偏向できるX線装置を実現することができない。
【0088】
これに対し、角度αが5°乃至60°の範囲内の何れかである場合、角度αを90°付近とした場合に比べ、焦点Fを同じ距離だけ移動させるための電子ビームの偏向角θを小さくすることができる。すなわち、偏向電源81が偏向部80に供給する電圧を低くできることから、電子ビームをエネルギ効率よく偏向することができる。
【0089】
図11及び図12に示したX線装置の場合であっても、X線シールド部材5(開口部5a)のサイズを大きくしたり、軸対称ではなくなるがX線シールド部材5(開口部5a)の形状を楕円形にするなど調整したりすることで、陰極36から焦点Fに向かう電子ビームと、焦点Fから放出される利用X線束と、の軌道を遮ること無しに焦点F以外からX線透過窓33に向かうX線を遮蔽することができる。
【0090】
次に、第7の実施形態に係るX線装置について説明する。この実施形態において、X線管は回転陽極型のX線管であり、以下、回転陽極型のX線管を備えた回転陽極型のX線装置について説明する。この実施形態において、上記第5の実施形態と同一機能部分には同一符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0091】
図13及び図14に示すように、X線装置は、X線管装置10を備えている。図示しないが、X線装置は、上述した偏向電源81及び偏向電源制御部82も備えている。X線管装置10は、矩形箱状のハウジング20と、ハウジング20内に収納されたX線管30と、ハウジング20の内部に充填され、X線管30及びハウジング20間を満たす冷却液7と、回転駆動装置としてのステータコイル910と、捕捉体60と、偏向部70と、他の偏向部としての偏向部80と、焦点位置補正部90とを備えている。
【0092】
ハウジング20は、分断された2つの分割部20a、20cを有している。分割部20aは、開口端の外縁側に枠部20bを有している。分割部20cは、開口端の外縁側に枠部20dを有している。枠部20dは、枠部20bに対向した側に形成された枠状の溝部が形成されている。
【0093】
分割部20a、20cは、枠部20b、20dが対向するよう接触され、図示しない締め具により締め付けられている。枠部20b及び枠部20d間の隙間は、上記溝部に設けられた枠状のOリングにより液密にシールされている。上記Oリングは、ハウジング20外部への冷却液7の漏れを防止する機能を有している。
ハウジング20には、ゴムベローズ21が設けられ、冷却液7の圧力調整が行われている。ハウジング20は、X線を透過しハウジング20外部に放射するX線放射窓24を有している。
【0094】
X線管30は、真空外囲器31を備えている。真空外囲器31は、金属で形成された真空容器32と、支持部材40と、絶縁部材50とを備えている。この実施形態において、絶縁部材50は、高電圧絶縁部材で形成されている。支持部材40には陽極ターゲット35が間接的に取り付けられ、絶縁部材50には陰極36が間接的に取り付けられている。陰極36は、陽極ターゲット35に電子ビームを放射するものである。陽極ターゲット35及び陰極36は、真空外囲器31に収納されている。
【0095】
真空外囲器31の内部は真空状態である。X線透過窓33は、真空容器32に気密に設けられている。ここでは、X線透過窓33は、ベリリウムで形成されている。金属表面部34は、真空側のX線透過窓33の表面側を含む真空容器32の内側に設けられ、接地電位に設定される。
【0096】
陽極ターゲット35は、円盤状に形成されている。陽極ターゲット35は、この陽極ターゲットの外面の一部に設けられたターゲット層35aを有している。ターゲット層35aは、陰極36から放射される電子ビームが衝突されることによりX線(利用X線束)を放出する。ターゲット層35aは、モリブデン、モリブデン合金、タングステン合金等の金属で形成されている。ターゲット層35aはターゲット面35bを有している。ターゲット面35bは円錐面である。陽極ターゲット35は、回転軸A(管軸)を中心に回転可能である。この実施形態において、陽極ターゲット35は接地電位に設定される。
【0097】
陰極36には陰極支持部材37が接続されている。電圧供給端子54は、陰極支持部材37の内部を通って陰極36に接続されている。電圧供給端子54は、陰極36に負の高電圧を印加するともに陰極36の電子放出源36aに電圧及び電流を供給するものである。
【0098】
真空容器32の内側には、集束電極9が位置している。集束電極9は、電子ビームを集束するものである。集束電極9は、陰極36から焦点Fに向かう電子ビームの軌道を取り囲むように設けられている。集束電極9は、例えば、陰極支持部材37に取り付けられている。集束電極9には、調整された負の高電圧が供給される。
【0099】
真空容器32の内側には、加速電極8が位置している。加速電極8は、陰極36及び集束電極9から焦点Fに向かう電子ビームの軌道を取り囲み、電子ビームを加速させてターゲット面35bに入射させるものである。図示しないが、加速電極8は真空容器32に取り付けられ、加速電極8の電位は真空容器32及び陽極ターゲット35と同電位(接地電位)に固定されている。
【0100】
X線シールド部材5は、真空外囲器31内の焦点F及びX線透過窓33間に位置している。X線シールド部材5は、陰極36から焦点Fに向かう電子ビーム及び利用X線束を通過させる通過部を有している。この実施形態において、X線シールド部材5は、円環状に形成されている。このため、上記通過部は、X線シールド部材5に形成された円形の開口部5aである。
【0101】
X線シールド部材5は、X線を遮蔽し、導電性を示す材料で形成されている。X線シールド部材5は、焦点F以外からX線透過窓33に向かうX線を遮蔽するものである。X線シールド部材5は、開口部5aの中心を電子ビームが通過するように位置している。
【0102】
X線シールド部材5は、真空外囲器31に固定されている。そして、X線シールド部材5は、金属表面部34に電気的に接続されている。X線シールド部材5は、真空外囲器31(金属表面部34)と同電位(ほぼ同電位)である。
【0103】
X線管30は、ロータ920、軸受け930、固定体1及び回転体2を備えている。固定体1は円柱状に形成され、支持部材40に固定されている。固定体1は回転体2を回転可能に支持する。回転体2は筒状に形成され、固定体1と同軸的に設けられている。回転体2の外面にロータ920が取り付けられている。回転体2及び陽極ターゲット35は、継手部35cを介して接合されている。回転体2は、陽極ターゲット35とともに回転可能に設けられている。
【0104】
支持部材40は、真空外囲器31の一部を形成している。支持部材40は、筒部46と、筒部46の一端側を閉塞した底部47とで形成されている。筒部46の他端は、真空容器32に気密に接合されている。
【0105】
支持部材26は、円環状に形成され、真空容器32に気密に接続されている。支持部材26は絶縁部材50に接着されている。支持部材26は、分割部20a(ハウジング20)に対向している。支持部材26は、分割部20aと対向した側に形成された円環状の溝部を有している。支持部材26及び分割部20a間の隙間は、上記溝部に設けられた円環状のOリングによりシールされている。上記Oリングは、支持部材26及び分割部20a間の隙間から外部への冷却液7の漏れを防止する機能を有している。
【0106】
絶縁部材50は、支持部材26に気密に取り付けられ、真空外囲器31の一部を形成している。絶縁部材50は、ハウジング20の外部に露出した外部端面50Sを有している。この実施形態において、外部端面50Sは平面である。
【0107】
絶縁部材50の内部には、陰極36に接続され、外部端面50S側へ導出する電圧供給端子54が設けられている。この実施形態において、電圧供給端子54は高電圧供給端子である。電圧供給端子54は、外部端面50Sを貫通して設けられ、陰極36に高電圧を供給するものである。
【0108】
ケーブル102は、ハウジング20の開口部に設けられた絶縁部材20eにより固定されている。ケーブル102は、固定体1に電気的に接続されている。ケーブル102は、固定体1等を介して陽極ターゲット35を接地電位に設定する他、真空容器32(真空外囲器31)等を接地電位に設定するものである。
【0109】
高電圧コネクタ200は、有底筒状のハウジング201と、ハウジング201内にその先端が挿入されたケーブル202と、ハウジング201内に充填され、ケーブル202の端子をハウジング201の開口部側に向けて固定するエポキシ樹脂材製の固定部203と、この固定部203と絶縁部材50の外部端面50Sとの間に挿入されたシリコーン樹脂材製のシリコーンプレート204とを備えている。この実施形態において、ケーブル202は高電圧ケーブルである。固定部203は、電気絶縁材である。
【0110】
この実施形態において、高電圧コネクタ200の電気絶縁材としての固定部203は、絶縁部材50の外部端面50Sに間接的に密着されている。なお、固定部203は、外部端面50Sに直接密着されていても良い。高電圧コネクタ200は、電圧供給端子54に高電圧を与えるものである。
【0111】
このように構成されたX線管装置10では、次のように用いられる。高電圧コネクタ200をハウジング20に取り付ける際に、シリコーンプレート204が、それぞれ固定部203と、絶縁部材50の外部端面50Sとに密着するように押圧する。
【0112】
X線遮蔽部としてのX線遮蔽キャップ400は、高電圧コネクタ200を覆うようにハウジング20に着脱可能に取り付けられている。X線遮蔽キャップ400は、X線不透過材を含む材料で形成されている。
【0113】
冷却液7は、ハウジング20内に充填され、X線管30及びハウジング20間を満たしている。冷却液7としては、絶縁油又は水系冷却液を用いることができる。この実施形態において、冷却液7として水系冷却液を用いている。
【0114】
図7図13及び図14に示すように、陰極36は、第2平面S2及び第3平面S3に垂直であり、第1方向d1に電子ビームを放出する。
【0115】
偏向部70(永久磁石)は、ヨーク71で接続されている。偏向部70は、第5の実施形態と異なり、第4方向d4の逆方向から傾斜した方向であり、回転軸Aに沿った方向に磁場Ha1を作用させる。偏向部70は、ここでは、電子ビームを90°偏向させている。角度αは、5°乃至60°の範囲内の何れかである。角度βは0°である。角度γは、5°乃至25°の範囲内に設定されている。
【0116】
偏向部80は、偏向部70の磁場Ha1が作用する領域より陰極36に近い領域で、電子ビームを偏向させるものである。偏向部80は、真空外囲器31の外側で、電子ビームの軌道を取り囲む位置に設けられている。偏向部80は、第2平面S2及び第3平面S3に平行であり、回転軸Aに垂直な方向に磁場Hb1を作用させるものである。
【0117】
偏向部80は、第1方向d1に向かう電子ビームに磁場Hb1を作用させて電子ビームを第1平面S1から角度αだけ傾斜してターゲット面35bに入射させ、かつ焦点Fがターゲット面35b上を周期的に移動するように上記電子ビームを偏向させるものである。焦点Fは、第3平面S3に沿ったターゲット面35b上を移動することになる。
【0118】
焦点位置補正部90は、真空容器32の外側で、電子ビームの軌道を取り囲む位置に設けられている。焦点位置補正部90は、偏向部70の磁場Ha1が作用する領域より陰極36に近い領域に、補正磁場Hc1を発生させる。焦点位置補正部90は、偏向部80と同一平面上に位置し、第2平面S2及び第3平面S3に平行であり、回転軸Aに平行となる方向に補正磁場Hc1を作用させるものである。補正磁場Hc1は、磁場Hb1に直交している。焦点位置補正部90は、焦点Fの位置を微調整するものである。
【0119】
図示しないが、X線装置は、焦点位置補正部90に電圧を供給する補正電源と、補正電源が焦点位置補正部90に供給する電圧を制御する補正電源制御部とをさらに備えている。焦点位置補正部90、補正電源及び補正電源制御部は、焦点位置補正用の他の偏向磁場発生ユニットを形成している。
【0120】
捕捉体60は、真空容器32に気密に接合され、真空外囲器31の一部を形成している。捕捉体60は、銅、銅合金、グリッドコップ、モリブデン、モリブデン合金、銅タン(スポンジ構造のタングステン材に銅を含浸させた材料)等の金属で形成可能である。捕捉体60は、陽極ターゲット35に対向配置されている。捕捉体60は、焦点Fから飛び出す反跳電子を捕捉するものである。捕捉体60は、陽極ターゲット35に対向した側に、凹凸面60Sを有している。凹凸面60Sは、捕捉体60の表面に形成された複数の突出部で形成されている。複数の突出部は、第3平面S3に沿った方向に並べられ、第3平面S3に垂直な方向に延出して形成されている。
【0121】
焦点Fから飛び出した反跳電子の半分は捕捉体60で捕捉され、残りの半分は捕捉体60で反射される。しかしながら、捕捉体60は凹凸面60Sを有しているため、多重反射により、反跳電子の残りの半分も凹凸面60Sで、より多く捕捉することができる。
【0122】
捕捉体60の内部は、冷却液7の流路を形成している。捕捉体60が反跳電子を捕捉することにより加熱されても、冷却液7により、捕捉体60、特に凹凸面60Sを冷却することができる。捕捉体60は、ハウジング20の内部に開口した取入口及び吐出口を有している。捕捉体60の吐出口とハウジングに設けられた排出口20oは、ホース等により連結されている。
【0123】
ハウジング20の外部には、図示しない冷却機構が設けられている。冷却機構は、ハウジング20の導入口20i及び排出口20oに連結されている。冷却機構は、冷却液7の流れをハウジング20内及び捕捉体60内に作り出す冷却液循環ポンプと、冷却液7の熱を外部に放出する熱交換器と、を有している。このため、冷却液7は、導入口20iからハウジング20内に導入され、排出口20oからハウジング20外に排出される。
【0124】
この実施形態において、冷却液7は、ハウジング20内に導入された後に捕捉体60内に導入されるが、これに限らず、捕捉体60内に導入された後にハウジング20内に導入されてもよい。
【0125】
このように構成されたX線管装置10では、ステータコイル910に所定の電流を印加することでロータ920が回転し、陽極ターゲット35が回転する。次に、高電圧コネクタ200に所定の高電圧を印加する。
【0126】
ケーブル102を介し、固定体1、軸受け930、回転体2、継手部35c、及び陽極ターゲット35は接地電位に設定される。高電圧コネクタ200に印加された高電圧は、電圧供給端子54を介して陰極36に与えられる。X線透過窓33を含む真空外囲器31は、接地されている。陰極36の電位は、−Vに設定される。陽極ターゲット35の電位は、接地電位に設定される。X線シールド部材5の電位は、接地電位に設定される。
【0127】
これにより、陰極36から放出された電子ビームは、磁場Ha1により偏向され、陽極ターゲット35のターゲット面35bに入射され、ターゲット面35bに焦点Fが形成される。焦点Fの位置は、補正磁場Hc1により補正することが可能である。そして、焦点Fは、磁場Hb1により、ターゲット面35b上を周期的に移動する。焦点Fから放出される利用X線束は、X線透過窓33及びX線放射窓24を透過して外部へ放射される。
【0128】
上記のように構成された第7の実施形態に係るX線装置によれば、X線管30は、陽極ターゲット35と、陰極36と、真空外囲器31と、X線シールド部材5と、を備えている。陰極36は負の高電位に設定され、陽極ターゲット35、X線透過窓33を含む真空外囲器31及びX線シールド部材5は接地されている。
【0129】
第1方向d1は、第3平面S3に垂直であるが、偏向部70による磁場Ha1の作用により、角度αを5°乃至30°の範囲内の何れかとすることができる。このため、第7の実施形態に係るX線装置は、上述した第5の実施形態と同様の効果を得ることができ、X線透過窓33への反跳電子(2次電子)の直撃を抑制することができる。
【0130】
また、陽極ターゲット35の上方へ散乱する反跳電子は、捕捉体60により捕捉することができるため、焦点F近傍を含むターゲット面35bへの反跳電子の再衝突を抑制することができる。これにより、ターゲット面35b(焦点F)の温度上昇や、ターゲット面35bに引き起こされる荒れを抑制でき、放電の発生やX線の出力低下を抑制することができる。焦点F以外からのX線の放出を抑制できるため、X線画像の明瞭度の低下を抑制することができる。
【0131】
焦点F以外からX線が放出されたとしても、X線シールド部材5は、焦点F以外からX線透過窓33に向かうX線(焦点外X線)を遮蔽することができるため、よりX線画像の明瞭度の低下を抑制することができる。
【0132】
さらに、陰極36を、第1平面S1に概ね平行となるように寝かせた状態にして配置することができるため、回転軸Aに沿ったX線管30のサイズをよりコンパクトにすることができる。
【0133】
偏向部80は、電子ビームをターゲット面35b上を周期的(連続的又は間欠的)に走査させることができる。X線装置をCT装置に搭載した場合、焦点位置を切り替えながらスキャンを行うことができるため、フライングフォーカス方式のCT装置に応用することができる。また、電子ビームは、偏向部80によってターゲット面35bを十分速い速度で走査されるため、焦点F温度の上昇を軽減することができる。
【0134】
角度αが5°乃至60°の範囲内の何れかである場合、角度αを90°付近とした場合に比べ、焦点Fを同じ距離だけ移動させるための電子ビームの偏向角θを小さくすることができる。すなわち、偏向電源81が偏向部80に供給する電圧を低くできることから、電子ビームをエネルギ効率よく偏向することができる。
【0135】
冷却液7として、熱伝達率が最も高い、水を主成分とする水系冷却液を用いることができる。このため、冷却液7は、真空容器32、捕捉体60、支持部材40、絶縁部材50、支持部材26に伝わる熱を最も有効に奪うことができる。また、水系冷却液は、絶縁油に比べて、比熱が大きい(絶縁油の約2倍)ため、X線管30の放熱による冷却液の温度上昇が低く抑えられる。
【0136】
支持部材40は冷却液7に接するため、陽極ターゲット35からの熱を効果的に冷却液7に放散することができる。支持部材26は冷却液7に接するため、陰極36から絶縁部材50に伝わった熱を効果的に冷却液7に放散でき、絶縁部材50に接続された高電圧コネクタ200の温度を低くでき、長期にわたって高電圧コネクタ200の絶縁性を確保することができる。
【0137】
捕捉体60や真空容器32は、焦点Fから飛び出す反跳電子の殆どが衝撃したり、高温となった陽極ターゲット35からの熱輻射を受けて加熱されたりするが、真空容器32の外面や捕捉体60の内部は冷却液7に接するため、これらの熱を効果的に冷却液7に放散することができる。
【0138】
上記したことから、X線透過窓33への反跳電子の直撃を抑制し、X線透過窓33の温度上昇を確実に低減することができ、焦点F以外からX線透過窓33に向かうX線を低減することができるX線装置を得ることができる。これにより、例えば、X線撮影像の解像度を向上させることが可能となる。また、より頻繁にX線を放出させたり、より長時間に亘ってX線を連続的に放出させたりすることが可能となる。さらに、X線透過窓33の厚みを低減させたり、X線透過窓33を形成する材料をより安価な材料に代替したりすることが可能となる。
【0139】
次に、第8の実施形態に係るX線装置について説明する。この実施形態において、X線管は回転陽極型のX線管であり、以下、回転陽極型のX線管を備えた回転陽極型のX線装置について説明する。この実施形態において、上記第7の実施形態と同一機能部分には同一符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0140】
図15に示すように、焦点位置補正部90は、ヨーク71に巻かれたコイルで形成されている。焦点位置移動用の他の偏向磁場発生ユニットは、焦点位置補正部90(コイル)に定電流を与えることが可能である。これにより、焦点位置補正部90は、偏向部70の磁場Ha1に重畳する補正磁場Hc1を発生させることができる。
【0141】
上記のように構成された第8の実施形態に係るX線装置によれば、X線管30は、陽極ターゲット35と、陰極36と、真空外囲器31と、X線シールド部材5と、を備えている。陰極36は負の高電位に設定され、陽極ターゲット35、X線透過窓33を含む真空外囲器31及びX線シールド部材5は接地されている。
【0142】
この実施形態の焦点位置補正部90は、第7の実施形態と同様に、焦点Fの位置を微調整することができるものである。このため、第8の実施形態に係るX線装置は、上述した第7の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0143】
上記したことから、X線透過窓33への反跳電子の直撃を抑制し、X線透過窓33の温度上昇を確実に低減することができ、焦点F以外からX線透過窓33に向かうX線を低減することができるX線装置を得ることができる。これにより、例えば、X線撮影像の解像度を向上させることが可能となる。また、より頻繁にX線を放出させたり、より長時間に亘ってX線を連続的に放出させたりすることが可能となる。さらに、X線透過窓33の厚みを低減させたり、X線透過窓33を形成する材料をより安価な材料に代替したりすることが可能となる。
【0144】
次に、第9の実施形態に係るX線装置について説明する。この実施形態において、X線管は回転陽極型のX線管であり、以下、回転陽極型のX線管を備えた回転陽極型のX線装置について説明する。この実施形態において、上記第1の実施形態と同一機能部分には同一符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0145】
第9の実施形態に係るX線装置は、図16及び図17に示す通りであり、X線装置の構成は、上述した実施形態を参照することにより、図16及び図17より了解できるものである。以下、X線装置の偏向部70、偏向部80及び焦点位置補正部90について説明する。
【0146】
図3図16及び図17に示すように、偏向部70は、陰極36から放出される電子ビームを偏向させ、上記電子ビームを、ターゲット面35bに、第1方向d1とは異なる第3方向d3に向けて入射させる。この実施形態において、偏向部70は、磁気偏向部であり、より詳しくは永久磁石である。偏向部70は、真空外囲器31の外側で、電子ビームの軌道を取り囲む位置に設けられている。偏向部70は、第2平面S2及び第3平面S3に垂直な方向に磁場Ha1を利用させる。ここでは、偏向部70は、電子ビームを90°偏向させている。角度αは、5°乃至60°の範囲内の何れかである。角度βは0°である。角度γは、5°乃至25°の範囲内に設定されている。
【0147】
偏向部80は、偏向部70の磁場Ha1が作用する領域より陰極36に近い領域で、電子ビームを偏向させるものである。偏向部80は、真空外囲器31の外側で、電子ビームの軌道を取り囲む位置に設けられている。偏向部80は、第2平面S2及び第3平面S3に平行であり、回転軸Aに垂直な方向に磁場Hb1を作用させるものである。
【0148】
偏向部80は、第1方向d1に向かう電子ビームに磁場Hb1を作用させ、焦点Fがターゲット面35b上を周期的に移動するように上記電子ビームを偏向させるものである。焦点Fは、ターゲット面35b上を、第3平面S3に垂直な方向に移動することになる。
【0149】
焦点位置補正部90は、真空外囲器31の外側で、電子ビームの軌道を取り囲む位置に設けられている。焦点位置補正部90は、偏向部70の磁場Ha1及び偏向部80の磁場Hb1が作用する領域より陰極36に近い領域に、補正磁場Hc1を発生させる。焦点位置補正部90は、第2平面S2及び第3平面S3に垂直であり、回転軸Aに直交する方向に補正磁場Hc1を作用させるものである。補正磁場Hc1は、磁場Hb1に直交している。焦点位置補正部90は、焦点Fの位置を微調整するものである。
【0150】
さらに、焦点位置補正部90は、他の偏向部として機能し、焦点Fがターゲット面35b上を周期的に移動するように電子ビームを偏向させるものであってもよい。この場合、焦点位置補正部90は、磁場Ha1、Hb1が作用する領域より陰極36に近い領域に、磁場Hb2を作用させ、電子ビームを偏向させるものである。
【0151】
焦点位置補正部90は、第2平面S2及び第3平面S3に垂直であり、回転軸Aに直交する方向に磁場Hb2を作用させるものである。
【0152】
焦点位置補正部90は、第1方向d1に向かう電子ビームに磁場Hb2を作用させ、焦点Fがターゲット面35b上を周期的に移動するように上記電子ビームを偏向させるものである。焦点Fは、ターゲット面35b上を、第3平面S3に沿った方向に移動することになる。
【0153】
X線シールド部材5は、真空外囲器31内の焦点F及びX線透過窓33間に位置している。X線シールド部材5は、陰極36から焦点Fに向かう電子ビーム及び利用X線束を通過させる通過部を有している。この実施形態において、X線シールド部材5は、円環状に形成されている。このため、上記通過部は、X線シールド部材5に形成された円形の開口部5aである。
【0154】
X線シールド部材5は、X線を遮蔽し、導電性を示す材料で形成されている。X線シールド部材5は、焦点F以外からX線透過窓33に向かうX線を遮蔽するものである。
【0155】
X線シールド部材5は、真空外囲器31に固定されている。そして、X線シールド部材5は、金属表面部34に電気的に接続されている。X線シールド部材5は、真空外囲器31(金属表面部34)と同電位(ほぼ同電位)である。
【0156】
上記のように構成された第9の実施形態に係るX線装置によれば、X線管30は、陽極ターゲット35と、陰極36と、真空外囲器31と、X線シールド部材5と、を備えている。陰極36は負の高電位に設定され、陽極ターゲット35、X線透過窓33を含む真空外囲器31及びX線シールド部材5は接地されている。
【0157】
第9の実施形態に係るX線装置は、偏向部70により電子ビームを偏向することができるため、上述した第1の実施形態と同様の効果を得ることができ、X線透過窓33への反跳電子の直撃を抑制することができる。
【0158】
上記したことから、X線透過窓33への反跳電子の直撃を抑制し、X線透過窓33の温度上昇を確実に低減することができ焦点F以外からX線透過窓33に向かうX線を低減することができるX線装置を得ることができる。これにより、例えば、X線撮影像の解像度を向上させることが可能となる。また、より頻繁にX線を放出させたり、より長時間に亘ってX線を連続的に放出させたりすることが可能となる。さらに、X線透過窓33の厚みを低減させたり、X線透過窓33を形成する材料をより安価な材料に代替したりすることが可能となる。
【0159】
なお、この発明は上記実施の形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化可能である。また、上記実施の形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【0160】
例えば、X線シールド部材5及びX線シールド部材5の通過部のサイズ及び形状は上述した実施形態に限定されるものではなく、種々変形可能である。図18に示すように、X線シールド部材5は矩形状であり、開口部5aは円形であってもよい。図19に示すように、X線シールド部材5は矩形状(例えば長方形)であり、開口部5aは楕円形であってもよい。図20に示すように、X線シールド部材5及び開口部5aは、楕円形であってもよい。
【0161】
図21に示すように、X線シールド部材5は、電子ビーム及び利用X線束を通過させる通過部として、スリット5bを有していてもよい。図22に示すように、X線シールド部材5は、電子ビーム及び利用X線束を通過させる通過部として、スリット5cを有していてもよい。その他、X線シールド部材5は、例えば、互いに間隔を置いて位置した一対の板状部材で形成することにより、スリットを形成することができる。
【0162】
図23に示すように、X線シールド部材5が厚く形成される場合、通過部の内面(内周面)をテーパ面としてもよい。テーパ面は、X線(利用X線束)の通過する方向に沿って次第に拡大するように形作られている。これにより、X線シールド部材5は、より広範囲にX線(利用X線束)を通過させることができる。
【0163】
偏向部70は、永久磁石に限らず、電子ビームを偏向させる磁場を作用させるものであればよい。また、偏向部70、偏向部80及び焦点位置補正部90は、磁気偏向部に限らず、静電偏向部であってもよい。例えば、偏向部70が静電偏向部の場合、偏向部70は、電子ビームの軌道を取り囲むように真空容器32の内側に設けられ、電子ビームに電界を作用させることにより、電子ビームを偏向させることができる。
この発明は、上記X線管装置及びX線装置に限らず、各種X線管装置及びX線装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0164】
1…固定体、2…回転体、5…X線シールド部材、5a…開口部、5b…スリット、5c…スリット、7…冷却液、10…X線管装置、20…ハウジング、24…X線放射窓、30…X線管、31…真空外囲器、32…真空容器、33…X線透過窓、34…金属表面部、35…陽極ターゲット、35a…ターゲット層、35b…ターゲット面、36…陰極、36a…電子放出源、40…支持部材、50…絶縁部材、60…捕捉体、60S…凹凸面、70…偏向部、71…ヨーク、80…偏向部、81…偏向電源、82…偏向電源制御部、90…焦点位置補正部、102…ケーブル、200…高電圧コネクタ、202…ケーブル、A…回転軸、d1…第1方向、d2…第2方向、d3…第3方向、d4…第4方向、F…焦点、Ha1,Ha2,Hb1,Hb2,Hc1…磁場、S1…第1平面、S2…第2平面、S3…第3平面、α,β,γ…角度、θ…偏向角。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図17
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図23