特許第5823276号(P5823276)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5823276
(24)【登録日】2015年10月16日
(45)【発行日】2015年11月25日
(54)【発明の名称】作業機
(51)【国際特許分類】
   F16H 48/30 20120101AFI20151105BHJP
   A01C 11/02 20060101ALI20151105BHJP
   A01B 63/10 20060101ALI20151105BHJP
   F16H 1/16 20060101ALI20151105BHJP
   F16H 29/00 20060101ALI20151105BHJP
【FI】
   F16H48/30
   A01C11/02 331B
   A01B63/10 E
   F16H1/16 Z
   F16H29/00
【請求項の数】2
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2011-269242(P2011-269242)
(22)【出願日】2011年12月8日
(65)【公開番号】特開2013-119937(P2013-119937A)
(43)【公開日】2013年6月17日
【審査請求日】2014年8月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006781
【氏名又は名称】ヤンマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080621
【弁理士】
【氏名又は名称】矢野 寿一郎
(72)【発明者】
【氏名】竹山 智洋
(72)【発明者】
【氏名】土井 邦夫
【審査官】 塚本 英隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−310265(JP,A)
【文献】 特開2011−037359(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 48/30
A01B 63/10
A01C 11/02
F16H 1/16
F16H 29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンギヤと、プラネタリギヤを回転自在に支持するプラネタリキャリアと、リングギヤと、の三つの要素を備える遊星歯車機構からなる左右の差動装置と、
前記左右の遊星歯車機構にエンジンからの動力を伝達する入力軸と、
前記左右の遊星歯車機構からの動力を伝達し、左右の後車輪に動力を伝達する左右の後輪伝動軸と、
前記左右の遊星歯車機構に動力を伝達する左右のウォームギヤ機構と、
前記左右のウォームギヤ機構に動力を伝達可能な左右のワンウェイクラッチと、
前記左右のワンウェイクラッチに対して、分岐した動力を伝達可能なアクチュエータと、
操向操作具の操作に応じて前記アクチュエータを制御する制御部とを備え、
前記左右のウォームギヤ機構を構成する左右のウォームホイールが、前記左右の遊星歯車機構に動力を入力し、
前記左右のウォームギヤ機構を構成する左右のウォーム軸が、前記左右のワンウェイクラッチと連結されている
ことを特徴とする作業機。
【請求項2】
前記左右のウォームギヤ機構及び左右のワンウェイクラッチは、前記左右の差動装置の間に配置される請求項1に記載の作業機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無段変速装置を備える作業機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、操向ハンドルの操作量に応じて旋回方向側の後車輪が適切な回転速度となるように減速させて、圃場を荒らすことなくスムーズに旋回を行うことができるように構成された作業機が公知である(例えば特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載の作業機は、無段変速装置から左右の後車輪までの駆動力伝達経路の間に、車体の左右で対をなすように差動装置が設けられ、左側の差動装置に左後車輪と左側の電動モータが接続され、右側の差動装置に右後車輪と右側の電動モータが接続される。そして、操向ハンドルの操作量に応じて左右の電動モータを駆動して、該電動モータで無段変速装置の出力を打ち消すことで、後車輪を減速するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010―208446号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の作業機は、左右の後車輪に対応する左右の電動モータによって旋回方向側の後車輪を減速する構成であるので、アクチュエータである電動モータが二つ必要であった。
【0006】
本発明は、上記の如き課題を鑑みてなされたものであり、一つのアクチュエータで旋回方向側の後車輪を減速して旋回性の向上を図ることができる作業機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0008】
請求項1においては、サンギヤと、プラネタリギヤを回転自在に支持するプラネタリキャリアと、リングギヤと、の三つの要素を備える遊星歯車機構からなる左右の差動装置と、前記左右の遊星歯車機構にエンジンからの動力を伝達する入力軸と、前記左右の遊星歯車機構からの動力を伝達し、左右の後車輪に動力を伝達する左右の後輪伝動軸と、前記左右の遊星歯車機構に動力を伝達する左右のウォームギヤ機構と、前記左右のウォームギヤ機構に動力を伝達可能な左右のワンウェイクラッチと、前記左右のワンウェイクラッチに対して、分岐した動力を伝達可能なアクチュエータと、操向操作具の操作に応じて前記アクチュエータを制御する制御部とを備え、前記左右のウォームギヤ機構を構成する左右のウォームホイールが、前記左右の遊星歯車機構に動力を入力し、前記左右のウォームギヤ機構を構成する左右のウォーム軸が、前記左右のワンウェイクラッチと連結されている作業機である。
【0009】
請求項2においては、前記左右のウォームギヤ機構及び左右のワンウェイクラッチは、前記左右の差動装置の間に配置されるものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0011】
請求項1においては、2つのアクチュエータを設けることなく、一つのアクチュエータで旋回方向側の後車輪を減速して旋回性の向上を図ることができる。
【0012】
また、ウォームギヤ機構は、セルフロック機能を有しているので、差動装置からの動力をワンウェイクラッチに伝達させず遮断する。
【0013】
即ち、左右のリングギヤからの動力を左右のワンウェイクラッチに伝達させず遮断することができるのである。
【0014】
請求項2においては、左右のウォームギヤ機構及び左右のワンウェイクラッチを左右の差動装置の外側に配置する構成に比べて、コンパクトに構成することができ、小さなスペース内に配置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】田植機の基本的な構造を示す右側面図。
図2】田植機の駆動力伝達機構を示す模式図。
図3】リヤアクスルケース内の構成を示す模式図。
図4】電動モータの制御構成を示すブロック図。
図5】右旋回操作時における電動モータの動力の流れを示す模式図。
図6】左旋回操作時における電動モータの動力の流れを示す模式図。
図7】別実施形態のリヤアクスルケース内の構成を示す模式図。
図8】別実施形態のリヤアクスルケース内の構成を示す模式図。
図9】別実施形態のリヤアクスルケース内の構成を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1に示すように、本実施形態の作業機としての田植機1は、エンジン2と、運転座席3と、操向ハンドル10と、変速ペダル11と、前車輪20L・Rと、後車輪21L・21Rと、植付部6と、を備えた車体を有している。
【0017】
エンジン2は、一般的なガソリンエンジンとして構成されているが、例えばディーゼルエンジンとして構成されていても良い。このエンジン2から図略のPTO軸(動力取出し軸)によって駆動力が取り出され、図略の植付変速部によって変速された後、植付部6に伝達されることにより、当該植付部6を駆動することができる。また、エンジン2からの駆動力が後述の駆動力伝達機構を介して左右の前車輪20L・20R及び後車輪21L・21Rに伝達されることにより、田植機1の車体を走行させることができる。
【0018】
植付部6は、左右に往復摺動可能な苗載台7と、上下昇降可能に構成された植付爪8を有する植付機構と、を備えている。植付部6は、苗載台7に苗マットを載置して田植機1が圃場を走行することにより、苗マットから植付爪8によって苗を1株ずつ取り出して植え付ける植付動作を連続的に行うことができるように構成されている。
【0019】
走行装置としての前車輪20L・20R及び後車輪21L・21Rは、それぞれ車体の左右に対になって設けられている(従って、田植機1は計4つの車輪を有する)。また、田植機1は四輪駆動式とされ、駆動力が各車輪に伝えられるように構成されている。
【0020】
操作部4は、操向操作具となる操向ハンドル10と、変速操作具となる変速ペダル11と、を備える。
【0021】
操向ハンドル10は、ステアリングホイール式の操向操作具として構成され、左右に回転させることができるように構成されている。田植機1のオペレータは、この操向ハンドル10を回転操作することにより、前車輪20L・20Rの切れ角を変更して田植機1を旋回させることができる。なお、操向操作具を操向ハンドル10ではなくジョイスティックで構成することも可能である。
【0022】
変速ペダル11は踏み込み可能に構成され、当該変速ペダル11の操作量に応じて車体の走行速度を変更可能に構成されている。例えば変速ペダル11を最も踏み込むと田植機1が最高速で走行し、変速ペダル11の踏み込みを停止すると田植機1の走行が停止する。変速ペダル11は操作位置を無段階に調整できるように構成されており、田植機1のオペレータは、変速ペダル11の操作に応じて、田植機1の走行速度を無段階に調整することができる。
【0023】
次に、図2を参照して、エンジン2からの駆動力を変速して各車輪に伝達するための構成について説明する。なお、植付部6は省略されている。
【0024】
図2に示すように、田植機1は、電動モータ30と、ジェネレータ(発電機)22と、HST(静油圧式無段変速装置)9と、を備えている。電動モータ30は、図略のバッテリから電力の供給を受けて回転することができる。一方、ジェネレータ22はエンジン2の回転軸に連結されており、当該回転軸の回転によって発電して、前記バッテリを充電するように構成されている。
【0025】
HST9には、エンジン出力軸を介してエンジン2からの出力が入力されている。このHST9は、可動斜板式のアキシャルピストンポンプとして構成された油圧ポンプ9aと、固定斜板式のアキシャルピストンモータとして構成された油圧モータ9bと、を有し、油圧ポンプ9aと油圧モータ9bとが油圧回路によって接続された構成である。HST9によって入力を無段階に変速して出力する構成は公知であるので詳細な説明は省略するが、このHST9は、エンジン出力軸によって油圧ポンプ9aを駆動するとともに、油圧モータ9bによってHST出力軸を回転駆動するように構成されている。
【0026】
前記可動斜板は、図略のトラニオン軸を揺動軸として、その傾斜角を無段階に変更可能に構成されている。この傾斜角を変更することで、油圧ポンプ9aからの圧油の吐出量が変更され、油圧モータ9bから取り出される回転駆動力を変更することができる。また、前記可動斜板の傾斜角は、変速ペダル11の操作量に連動して変更されるように構成されている。ただし、変速ペダル11の操作と連動して、可動斜板の傾斜角とともにエンジン2の回転数が変更される構成とすることも可能である。以上の構成で、オペレータが変速ペダル11を操作することにより、エンジン2の出力をHST9によって無段階に変速し、HST出力軸から出力することができる。
【0027】
そして、HST9の出力とエンジン2からの出力が、ミッションケース24に内装された遊星歯車機構24aにより合成された後に、主変速装置24bにより変速される。変速後の動力は、二方向に分岐されて、一方の動力はミッションケース24内の差動装置24cを介して、左右の前車輪20L・20Rに伝達され、他方の動力は、リヤアクスルケース25内の左右の差動装置60L・60R及び左右の最終減速装置70L・70Rを介して左右の後車輪21L・21Rに伝達される。こうして、左右の前車輪20L・20R及び後車輪21L・21Rが回転して、田植機1の走行が行われる。
【0028】
次に、図2から図6を参照して、リヤアクスルケース25の内部の構成について詳細に説明する。
【0029】
図2及び図3に示すように、リヤアクスルケース25の内部には、後輪走行入力軸31と、分配軸34と、左右の後輪伝動軸36L・36Rと、左右のウォームギヤ機構40L・40Rと、左右のワンウェイクラッチ50L・50Rと、左右の差動装置60L・60Rと、左右の最終減速装置70L・70Rと、が設けられる。また、リヤアクスルケース25の外部には、アクチュエータとしての電動モータ30が設けられる。
【0030】
ここで、左右の後輪伝動軸36L・36Rと、左右のウォームギヤ機構40L・40Rと、左右のワンウェイクラッチ50L・50Rと、左右の差動装置60L・60Rと、最終減速装置70L・70Rと、がそれぞれ左右略対称であり、その構成は略同じであることから、以下の説明では、左側の後輪伝動軸36Lと、左側のウォームギヤ機構40Lと、左側のワンウェイクラッチ50Lと、左側の差動装置60Lと、左側の最終減速装置70Lと、の構成を中心に説明する。
【0031】
後輪走行入力軸31は、リヤアクスルケース25の前部で、長手方向を前後方向として配置される。後輪走行入力軸31は、リヤアクスルケース25の前面から突出されて、該突出部からエンジン2からの動力を入力するように構成される。後輪走行入力軸31の後端部には、ベベルギヤ32が固設される。
【0032】
分配軸34は、左右の差動装置60L・60R(詳細には、左右のサンギヤ61・61)にエンジン2からの動力を入力する入力軸である。分配軸34は、後輪走行入力軸31の後方で、長手方向を左右方向として配置される。分配軸34の左右中途部には、前記ベベルギヤ32と歯合するベベルギヤ33が固設される。分配軸34の左右両端部は、左右の差動装置60L・60Rと連結される。
【0033】
前記分配軸34の近傍には、回転数センサ82が配設される。回転数センサ82は、変速後のエンジン2の出力回転数(回転速度)を検出するものである。但し、回転数センサ82は、変速後のエンジン2の出力回転数を検出できるものであればよく、例えば、後輪走行入力軸31の回転数を検出する構成とすることも可能である。
【0034】
差動装置60Lは、分配軸34からの動力と、ウォームギヤ機構40Lからの動力と、の差動動力を後輪伝動軸36Lに伝達するものである。差動装置60Lは、分配軸34の左側に配置される。差動装置60Lは、サンギヤ61と、プラネタリギヤ62を回転自在に支持するプラネタリキャリア63と、リングギヤ64と、の三つの要素を備える遊星歯車機構で構成される。
【0035】
サンギヤ61は、分配軸34の左端に固設される。プラネタリキャリア63は、後輪伝動軸36Lの右端に固設される。リングギヤ64は内歯64aと外歯64bを有し、リングギヤ64の内歯64aはプラネタリギヤ62と歯合され、リングギヤ64の外歯64bは入力ギヤ37Lと歯合される。つまり、プラネタリギヤ62はサンギヤ61とリングギヤ64の内歯64aと歯合される。
【0036】
後輪伝動軸36Lは、後車輪21Lに差動装置60Lからの動力を伝達させるものである。後輪伝動軸36Lは、差動装置60Lの左側に、分配軸34と同軸上に配置される。前述のように、後輪伝動軸36Lの右端には、差動装置60Lのプラネタリキャリア63が固設される。後輪伝動軸36Lの左端には、複数の平歯車で構成された最終減速装置70Lが設けられ、後輪伝動軸36Lに伝達された動力は、最終減速装置70Lで減速された後に、後車輪21Lに伝達される(図2参照)。
【0037】
ウォームギヤ機構40Lは、差動装置60Lのリングギヤ64にワンウェイクラッチ50Lからの動力を伝達させるものである。ウォームギヤ機構40Lは、セルフロック機能を有しており、差動装置60Lからの動力をワンウェイクラッチ50Lに伝達させず遮断する。ウォームギヤ機構40Lは、分配軸34の後方で、入力ギヤ37Lの右方に配置される。ウォームギヤ機構40Lは、ウォーム軸41と、ウォームホイール42と、ウォーム出力軸43と、を備える。
【0038】
ウォーム軸41は、分配軸34の後方で差動装置60Lよりも右側に、長手方向を前後方向として配置される。ウォーム軸41の長手方向途中部には、螺旋状に形成されたウォーム41aが設けられる。ウォームホイール42は、ウォーム41aと歯合している。ウォーム出力軸43は、長手方向を左右方向として配置される。ウォーム出力軸43の右端は、ウォームホイール42に固設される。ウォーム出力軸43の左端には、入力ギヤ37Lに固設されている。つまり、ウォームホイール42が、ウォーム出力軸43及び入力ギヤ37Lを介して、リングギヤ64と連結される。
【0039】
ワンウェイクラッチ50Lは、ウォームギヤ機構40Lの後部に配置される。ワンウェイクラッチ50Lの一方は、電動モータ30の出力軸となるモータ出力軸38Lの前端と連結されて、ワンウェイクラッチ50Lの他方は、ウォーム軸41の後端と連結される。つまり、ウォームギヤ機構40Lを構成するウォーム軸41が、ワンウェイクラッチ50Lと連結される。
【0040】
モータ出力軸38Lは、ワンウェイクラッチ50Lの後部で、ウォーム軸41と同軸上に配置される。モータ出力軸38Lには、モータ出力ギヤ39Lが固設される。また、これらモータ出力軸38L及びモータ出力ギヤ39Lと左右対称にモータ出力軸38R及びモータ出力ギヤ39Rが構成されて、モータ出力ギヤ39L・39Rがそれぞれ歯合される。また、左側のモータ出力軸38Lのみ、リヤアクスルケース25から後方に突出して、該突出部が電動モータ30と連結されている。
【0041】
電動モータ30は、左右の差動装置60L・60Rに伝達された変速後のエンジン2の動力を打ち消すものである。電動モータ30は、モータ出力軸38Lと連結されて、該モータ出力軸38Lを介してワンウェイクラッチ50Lに動力を伝達可能に構成される。また、電動モータ30は、モータ出力軸38L、モータ出力ギヤ39L・39R、及びモータ出力軸38Rを介して、クラッチ50Rに動力を伝達可能に構成される。電動モータ30は、正逆転可能に構成される。
【0042】
電動モータ30が正転方向に回転すると、モータ出力軸38Lがα1方向(図5参照)に回転してワンウェイクラッチ50Lが「入」となり、ウォームギヤ機構40Lに電動モータ30からの動力が伝達可能とされる。また、電動モータ30が逆転方向に回転すると、モータ出力軸38L、モータ出力ギヤ39L、モータ出力ギヤ39Rを介して、モータ出力軸38Rがβ1方向(図6参照)に回転してワンウェイクラッチ50Rが「入」となり、ウォームギヤ機構40Rに電動モータ30からの動力が伝達可能とされる。つまり、左右のワンウェイクラッチ50L・50Rは、左右のウォームギヤ機構40L・40Rの一方に電動モータ30からの動力を伝達可能に構成される。
【0043】
電動モータ30は、図4に示す制御部80と接続される。制御部80は、操向ハンドル10の操作(操作量及び操作方向)に応じて電動モータ30の回転方向及び回転速度を制御する。制御部80には、ハンドルセンサ81と、回転数センサ82と、前後進検出センサ83と、が接続されている。ハンドルセンサ81は、操向ハンドル10の回動基部等に設けられて、操向ハンドル10の回転角度を検出する。前後進検出センサ83は、主変速レバーまたは前後進切り換えレバーの変速位置を検出する。
【0044】
制御部80は、ハンドルセンサ81の検出値に応じて、電動モータ30の回転方向を制御する。例えば、操向ハンドル10が左旋回操作されて、ハンドルセンサ81が基準値(操向ハンドル10が直進位置(中立位置)時に検出される値)よりも大きい値(または小さい値)を検出すると、制御部80は、電動モータ30を正転方向(または逆転方向)に回転させる。また、操向ハンドル10が右旋回操作されて、ハンドルセンサ81が前記基準値よりも小さい値(または大きい値)を検出すると、制御部80は、電動モータ30を逆転方向(または正転方向)に回転させる。
【0045】
制御部80は、ハンドルセンサ81及び回転数センサ82の検出値に応じて、電動モータ30の回転速度を制御する。制御部80は、ハンドルセンサ81の検出値と回転数センサ82の検出値との関係を示す制御マップを有しており、この制御マップから、電動モータ30の目標回転速度を算出し、この目標回転速度となるように電動モータ30の回転速度を制御する。なお、制御部80は、前後進検出センサ83により田植機1が後進時と判断されると、ハンドルセンサ81及び回転数センサ82の検出値によらず、電動モータ30を停止させる。
【0046】
以上のような構成の田植機1において、前進時に操向ハンドル10が直進位置に位置する場合は、ハンドルセンサ81の検出値が基準値となり、制御部80は、電動モータ30を停止させる。これにより、電動モータ30の動力が左右の差動装置60L・60Rに伝達されることがない。この際、左右の差動装置60L・60Rにおいて、エンジン2の動力が分配軸34に伝達されて、該分配軸34とともにサンギヤ61・61が回転するが、ウォームギヤ機構40L・40Rのセルフロック機能によりリングギヤ64・64が制動(ロック)される。つまり、左右の後輪伝動軸36L・36Rが同じ回転数となるので、左右の差動装置60L・60Rがデフロックされた状態となる。これにより、左右の後車輪21L・21Rが同じ回転数となるので、田植機1の直進性の向上が図れる。
【0047】
また、操向ハンドル10が直進位置から左旋回操作されると、ハンドルセンサ81の検出値が基準値よりも大きく(または小さく)なり、制御部80は、電動モータ30を正転方向(または逆転方向)に回転させる。これにより、図5に示すように、モータ出力軸38Lがα1方向に回転して、ワンウェイクラッチ50Lが「入」となる。そして、太い二点鎖線に示すように、電動モータ30の動力が、ウォームギヤ機構40Lに伝達されて、このウォームギヤ機構40Lから入力ギヤ37Lを介して、左側の差動装置60Lに伝達される。この際、差動装置60Lのリングギヤ64は、エンジン2の動力で回転するサンギヤ61と反対方向に回転するので、左側の差動装置60Lに伝達されたエンジン2の動力を打ち消すことができ、左側の後車輪21Lを減速させることができる。
【0048】
なお、モータ出力軸38Lがα1方向に回転すると、左右のモータ出力ギヤ39L・39Rを介してモータ出力軸38Rがβ2方向に回転するが、ワンウェイクラッチ50Rが「切」となる。これにより、電動モータ30の動力が、ウォームギヤ機構40Rに伝達されず、差動装置60Rにも伝達されない。つまり、右側の後車輪21Rを減速させることもない。
【0049】
また、操向ハンドル10が直進位置から右旋回操作されると、ハンドルセンサ81の検出値が基準値よりも小さく(または大きく)なり、制御部80は、電動モータ30を逆転方向(または正転方向)に回転させる。これにより、図6に示すように、モータ出力軸38Lがα2方向に回転して、このモータ出力軸38Lの回転により左右のモータ出力ギヤ39L・39Rを介してモータ出力軸38Rがβ1方向に回転して、ワンウェイクラッチ50Rが「入」となる。そして、太い二点鎖線に示すように、電動モータ30の動力が、ウォームギヤ機構40Rに伝達されて、このウォームギヤ機構40Rから入力ギヤ37Rを介して、右側の差動装置60Rに伝達される。この際、差動装置60Rのリングギヤ64は、エンジン2の動力で回転するサンギヤ61と反対方向に回転するので、右側の差動装置60Rに伝達されたエンジン2の動力を打ち消すことができ、右側の後車輪21Rを減速させることができる。
【0050】
なお、モータ出力軸38Lがα2方向に回転すると、ワンウェイクラッチ50Lが「切」となる。これにより、電動モータ30の動力が、ウォームギヤ機構40Lに伝達されず、差動装置60Lにも伝達されない。つまり、左側の後車輪21Lを減速させることもない。
【0051】
このように、操向ハンドル10の操作量に応じて、電動モータ30の回転方向を変更することで、左右何れかの後車輪21L・21Rを減速させることができるので、一つの電動モータ30で旋回方向側の後車輪を減速させることができる。つまり、従来に用いられる左右の電動モータを一つの電動モータ30で兼ねることができ、二つの電動モータが不要となるので、コストの低減を図ることができる。また、ウォームギヤ機構40L・40Rのセルフロック機能によりリングギヤ64・64を制動させることができるので、ブレーキ付の電動モータが不要となり、電動モータ30のコストアップや重量が増加することなく、直進性の向上が図れる。
【0052】
また、左右旋回操作時において、制御部80は、操向ハンドル10の直進位置に対する回動角度が大きいほど、電動モータ30の回転数は増加されて、後車輪21L又は後車輪21Rの減速量が大きく、小旋回半径となり、また、操向ハンドル10の回動角度が一定で、走行速度が変更されたときも同じ旋回半径となるように、その走行速度に合わせて、電動モータ30の回転数を変更し、左右の後車輪21L・21Rの速度比が同じとなるように制御している。これにより、田植機1は、圃場を荒らすことなく最適な旋回ができ旋回性能の向上が図れる。
【0053】
なお、ワンウェイクラッチ50L・50Rをそれぞれ電磁クラッチで構成して、これらを制御部80と接続し、左旋回操作が行われてハンドルセンサ81の検出値が基準値より大きい(または小さい)場合は、左側の電磁クラッチを「入」、右側の電磁クラッチを「切」とし、差動装置60Lに動力を伝達して後車輪21Lを減速するように構成し、右旋回操作が行われてハンドルセンサ81の検出値が基準値よりも小さい(または大きい)場合は、左側の電磁クラッチを「切」、右側の電磁クラッチを「入」とし、差動装置60Rに動力を伝達して後車輪21Rを減速するように構成することも可能であるが、本実施形態のようにワンウェイクラッチ50L・50Rを用いることで、安価でコンパクトに構成することができる。
【0054】
なお、田植機1が後進時には、電動モータ30を停止させて、左右の差動装置60L・60Rをともにデフロックさせた状態で左右旋回が行われることとなるが、ワンウェイクラッチ50L・50Rではなくツーウェイクラッチや電磁クラッチで構成して、これらを主変速レバーや前後進切り換えレバーの後進操作と連動して、前進操作時と逆側にこれらクラッチを切り換えるようにして、後進時においても旋回方向側の後車輪の回転速度を減速させるように構成することも可能である。この場合、後進時における旋回性能の向上が図れる。
【0055】
なお、本実施形態によると、遊星歯車機構の第一の要素となるサンギヤ61・61に、分配軸34を介してエンジン2からの動力を伝達し、遊星歯車機構の第二の要素となるプラネタリキャリア63・63からは、後輪伝動軸36L・36Rを介して後車輪21L・21Rを駆動する構成とし、遊星歯車機構の第三の要素となるリングギヤ64・64に、ウォームギヤ機構40L・40R及びワンウェイクラッチ50L・50Rを介して電動モータ30からの動力を伝達する構成としているが、次のような組み合わせとすることも可能である。
【0056】
つまり、サンギヤ61・61、プラネタリキャリア63・63、リングギヤ64・64の歯数を適宜選択することにより、リングギヤ64・64にエンジン2からの動力を伝達し、プラネタリキャリア63・63から後車輪21L・21Rを駆動し、サンギヤ61・61に電動モータ30からの動力を伝達する構成としたり(図7参照)、サンギヤ61・61にエンジン2からの動力を伝達し、リングギヤ64・64から後車輪21L・21Rを駆動し、プラネタリキャリア63・63に電動モータ30からの動力を入力する構成としたり(図8参照)、することも可能である。
【0057】
また、図7及び図8に示す左右のウォームギヤ機構40L・40R及び左右のワンウェイクラッチ50L・50Rは、左右の差動装置60L・60Rの間に配置される。これにより、左右のウォームギヤ機構40L・40R及び左右のワンウェイクラッチ50L・50Rを左右の差動装置60L・60Rの外側に配置する構成に比べて、コンパクトに構成することができ、小さなスペース内に配置することができる。
【0058】
また、図3に示す差動装置60L・60Rによると、電動モータ30の動力がウォームギヤ機構40L・40Rから、入力ギヤ37L・37Lを介して差動装置60L・60Rに伝達される構成とされるが、図9に示すようにリングギヤ64・64の外周にウォームギヤ機構40のウォームホイール42・42を構成して、ウォームギヤ機構40・40から差動装置60L・60Rに直接動力を伝達する構成とすることも可能である。つまり、リングギヤ64・64の外歯64b・64bをウォームギヤ機構40・40のウォームホイール42・42として構成するのである。この場合、入力ギヤ37L・37Rやウォーム出力軸43・43が不要となるので、部品点数を削減することができる。
【0059】
なお、左右の差動装置60L・60Rは、大きな減速比を有しており、従来の減速装置としての機能を兼ねることができる。さらに、差動装置60L・60Rが有する大きな減速比により、電動モータ30を駆動させるために必要なトルクを低減することができ、電動モータ30の小型化が可能となる。これにより、電動モータ30を安価で軽量に構成することができる。
【0060】
なお、本実施形態の田植機1においては、直進時の左右の前車輪20L・20Rの回転速度が左右の後車輪21L・21Rよりも僅かに早くなるように構成している。これにより、田植機1の直進性が高くなる。
【0061】
以上のように、本発明の一実施形態に係る作業機となる田植機1においては、サンギヤ61と、プラネタリギヤ62を回転自在に支持するプラネタリキャリア63と、リングギヤ64と、の三つの要素を備える遊星歯車機構からなる左右の差動装置60L・60Rと、前記遊星歯車機構の左右の第一の要素となるサンギヤ61・61にエンジン2からの動力を伝達する入力軸となる分配軸34と、前記遊星歯車機構の左右の第二の要素となるプラネタリキャリア63・63と連結され、左右の後車輪21L・21Rに動力を伝達する左右の後輪伝動軸36L・36Rと、前記遊星歯車機構の左右の第三の要素となるリングギヤ64・64に動力を伝達する左右のウォームギヤ機構40L・40Rと、前記左右のウォームギヤ機構40L・40Rの一方に動力を伝達可能な左右のワンウェイクラッチ50L・50Rと、前記左右のワンウェイクラッチ50L・50Rに動力を伝達可能なアクチュエータである電動モータ30と、操向操作具となる操向ハンドル10の操作量に応じて前記電動モータ30の回転方向及び回転速度を制御する制御部80と、を備える作業機であるので、一つの電動モータ30で旋回方向側の後車輪を減速して旋回性の向上を図ることができる。
【0062】
また、前記左右のウォームギヤ機構40L・40R及び左右のワンウェイクラッチ50L・50Rは、前記左右の差動装置60L・60Rの間に配置されるものであるので、左右のウォームギヤ機構40L・40R及び左右のワンウェイクラッチ50L・50Rを左右の差動装置60L・60Rの外側に配置する構成に比べて、コンパクトに構成することができ、小さなスペース内に配置することができる。
【0063】
また、前記左右のウォームギヤ機構40L・40Rを構成する左右のウォームホイール42・42が前記左右の第三要素となるリングギヤ64・64と連結され、前記左右のウォームギヤ機構40L・40Rを構成する左右のウォーム軸41・41が前記左右のワンウェイクラッチ50L・50Rと連結されるものであるので、左右のリングギヤ64・64からの動力を左右のワンウェイクラッチ50L・50Rに伝達せず遮断することができる。
【符号の説明】
【0064】
1 田植機(作業機)
2 エンジン
10 操向ハンドル(操向操作具)
21L 左側の前車輪
21R 右側の後車輪
30 電動モータ(アクチュエータ)
34 分配軸(入力軸)
36L 左側の後輪伝動軸
36R 右側の後輪伝動軸
40L 左側のウォームギヤ機構
40R 右側のウォームギヤ機構
50L 左側のワンウェイクラッチ
50R 右側のワンウェイクラッチ
60L 左側の差動装置
60R 右側の差動装置
61 サンギヤ(第一の要素)
63 プラネタリキャリア(第二の要素)
64 リングギヤ(第三の要素)
80 制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9