特許第5823360号(P5823360)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5823360
(24)【登録日】2015年10月16日
(45)【発行日】2015年11月25日
(54)【発明の名称】内燃機関の潤滑油供給構造
(51)【国際特許分類】
   F01M 1/16 20060101AFI20151105BHJP
   F01M 1/06 20060101ALI20151105BHJP
   F16C 3/14 20060101ALI20151105BHJP
   F16C 33/54 20060101ALI20151105BHJP
【FI】
   F01M1/16 E
   F01M1/06 Q
   F01M1/06 A
   F16C3/14
   F16C33/54
【請求項の数】7
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2012-185337(P2012-185337)
(22)【出願日】2012年8月24日
(65)【公開番号】特開2014-43783(P2014-43783A)
(43)【公開日】2014年3月13日
【審査請求日】2014年11月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067840
【弁理士】
【氏名又は名称】江原 望
(74)【代理人】
【識別番号】100098176
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 訓
(74)【代理人】
【識別番号】100169111
【弁理士】
【氏名又は名称】神澤 淳子
(72)【発明者】
【氏名】平山 周二
【審査官】 赤間 充
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−310189(JP,A)
【文献】 特開2009−150307(JP,A)
【文献】 特開2002−332817(JP,A)
【文献】 実開平02−035948(JP,U)
【文献】 特開平01−303310(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01M 1/00〜 1/28
F16C 3/00〜 9/06
F16C 33/00〜33/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランクケース(5a)に、内燃機関(30)のクランク軸(51)のクランクジャーナル部(51bL)が軸受部材(54L)を介して回転自在に支承され、
前記クランクジャーナル部(51bL)よりも軸方向外側において、前記クランクケース(5a)と前記クランク軸(51)との間にオイルシール(101)が装着され、
前記軸受部材(54L)の外側面と前記オイルシール(101)との間に油室(100)が形成され、
前記クランクジャーナル部(51bL)に連なるクランクウエブ(51cL)の外側面(103)と、同外側面(103)に取付けられたサイドプレート(104)との間に油溜り(105)が形成され、同油溜り(105)は前記クランクジャーナル部(51bL)の外周面に形成された油溝(106)を介して前記油室(100)と連通し、
潤滑油が、前記クランク軸(51)で駆動されるオイルポンプ(72)によって前記油室(100)に導入されるとともに、前記油溜り(105)からクランクピン(51a)内の中空部(107)を介して所定の潤滑箇所へ給油される内燃機関の潤滑油供給構造において、
前記サイドプレート(104)には、前記油溜り(105)内の潤滑油の油量が所定以上となった場合に、潤滑油を排出する排出孔(108)が形成されたことを特徴とする内燃機関の潤滑油供給構造。
【請求項2】
前記軸受部材(54L)は、前記油室(100)側の外側面にシール部材(109)を有するシールベアリングであり、前記サイドプレート(104)は、前記クランクウエブ(51cL)の外周寄りの外側面(103)と、前記軸受部材(54L)の前記クランクジャーナル部(51bL)側における油溜り(105)側の側面とに当接したことを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の潤滑油供給構造。
【請求項3】
前記クランクウエブ(51cL)には、一端を開口させた前記中空部(107)を有する前記クランクピン(51a)が設けられるとともに、前記開口(107a)が前記油溜り(105)に臨んで配置され、前記中空部(107)の軸心(Y)よりもクランク軸(51)の軸心(X)側に前記排出孔(108)が設けられたことを特徴とする請求項2に記載の内燃機関の潤滑油供給構造。
【請求項4】
前記シールベアリング(54L)は、前記クランクケース(5a)に嵌合されたアウタレース(54Lo)と、前記クランクジャーナル部(51bL)に嵌合されるインナレース(54Li)と、前記アウタレース(54Lo)の内周と前記インナレース(54Li)の外周に保持されるボール部材(54Lb)とを備え、前記排出孔(108)は、前記アウタレース(54Lo)の内周と前記インナレース(54Li)の外周との間に臨んで設けられたことを特徴とする請求項2または請求項3に記載の内燃機関の潤滑油供給構造。
【請求項5】
前記排出孔(108)は、少なくとも2つ設けられ、1つの排出孔(108)に対し、位相が180°ずれた位置関係でもう1つの排出孔(108)が設けられたことを特徴とする請求項2ないし請求項4のいずれか1項に記載の内燃機関の潤滑油供給構造。
【請求項6】
前記クランクウエブ(51cL)には、一端を開口させた前記中空部(107)を有するクランクピン(51a)が設けられるとともに、前記開口(107a)が前記油溜り(105)に臨んで配置され、前記排出孔(108)は、前記クランクピン(51a)の開口(107a)と、前記開口(107a)に対して前記クランク軸(51)の回転方向(R)側にて最初に隣り合う前記油溝(106A)との間をはずした位置に設けられたことを特徴とする請求項2ないし請求項5のいずれか1項に記載の内燃機関の潤滑油供給構造。
【請求項7】
前記オイルポンプ(72)によって供給された潤滑油が前記油室(100)へ案内される油室入口(102)が、前記クランク軸(51)の軸心(X)よりも上方に設けられたことを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の内燃機関の潤滑油供給構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の潤滑油供給構造に関し、特に、クランクジャーナル部を支承する軸受部材の軸方向外側に油室を形成する潤滑油供給構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の内燃機関の潤滑油供給構造として、クランクジャーナル部を支承する軸受部材(ボールベアリング)の外側面とクランクケースとの間に形成される油室と、クランクケースとクランク軸との間に装着されて油室側を液密に保つオイルシールと、クランクジャーナル部の外周面に形成された油溝と、クランクジャーナル部に連なるクランクウエブとクランクウエブの外側面に取付けられるサイドプレートによって構成される油溜りとを備え、クランク軸によって駆動されるオイルポンプによってクランクケースのオイル溜めに貯留された潤滑油を吸入し、オイルポンプから吐出された潤滑油が油室に案内されるとともに、油溝を介して油溜りへ給油され、油溜りから所定潤滑箇所へ潤滑油が供給されるものが、例えば下記特許文献1に示されている。
下記特許文献1に示されるものにおいては、油室および油溜り内で潤滑油の圧力が高まってしまった場合に、オイルシールのズレや耐久性の低下等の影響を防止するため、その圧力がオイルシールへ直接影響し難いように、油室とオイルシールとの間にクランクケースの隔壁が設けられている。
【0003】
しかし、そのように隔壁を設けようとすると、クランクケースの構造が複雑になるだけでなく、クランクケースが軸方向に大型化してしまい、重量も増加してしまうおそれがある。また、軸方向への大型化を防止すべく、隔壁をクランクウエブ側に近づけようとすると、油室の大きさが制限されてしまうため、十分な容量の油室を確保することが難しくなり、結果として圧力が高まりやすい環境となってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4233680号公報(図2図4図6
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来技術に鑑み、クランクジャーナル部を支承する軸受部材の軸方向外側に油室を形成する潤滑油供給構造において、油室および油溜り内の圧力が必要以上に高まるのを防止でき、クランクケースに隔壁等を形成しなくとも、簡単な構造でオイルシールに油圧が掛かり難いようにすることができるとともに、油室の容量設計の自由度を高めることができる内燃機関の潤滑油供給構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、クランクケースに、内燃機関のクランク軸のクランクジャーナル部が軸受部材を介して回転自在に支承され、前記クランクジャーナル部よりも軸方向外側において、前記クランクケースと前記クランク軸との間にオイルシールが装着され、前記軸受部材の外側面と前記オイルシールとの間に油室が形成され、前記クランクジャーナル部に連なるクランクウエブの外側面と、同外側面に取付けられたサイドプレートとの間に油溜りが形成され、同油溜りは前記クランクジャーナル部の外周面に形成された油溝を介して前記油室と連通し、潤滑油が、前記クランク軸で駆動されるオイルポンプによって前記油室に導入されるとともに、前記油溜りからクランクピン内の中空部を介して所定の潤滑箇所へ給油される内燃機関の潤滑油供給構造において、前記サイドプレートには、前記油溜り内の潤滑油の油量が所定以上となった場合に、潤滑油を排出する排出孔が形成されたことを特徴とする内燃機関の潤滑油供給構造である。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の内燃機関の潤滑油供給構造において、前記軸受部材は、前記油室側の外側面にシール部材を有するシールベアリングであり、前記サイドプレートは、前記クランクウエブの外周寄りの外側面と、前記軸受部材の前記クランクジャーナル部側における油溜り側の側面とに当接したことを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の内燃機関の潤滑油供給構造において、前記クランクウエブには、一端を開口させた前記中空部を有する前記クランクピンが設けられるとともに、前記開口が前記油溜りに臨んで配置され、前記中空部の軸心よりもクランク軸の軸心側に前記排出孔が設けられたことを特徴とする。
【0009】
請求項4に記載の発明は、請求項2または請求項3に記載の内燃機関の潤滑油供給構造において、前記シールベアリングは、前記クランクケースに嵌合されたアウタレースと、前記クランクジャーナル部に嵌合されるインナレースと、前記アウタレースの内周と前記インナレースの外周に保持されるボール部材とを備え、前記排出孔は、前記アウタレースの内周と前記インナレースの外周との間に臨んで設けられたことを特徴とする。
【0010】
請求項5に記載の発明は、請求項2ないし請求項4のいずれか一項に記載の内燃機関の潤滑油供給構造において、前記排出孔は、少なくとも2つ設けられ、1つの排出孔に対し、位相が180°ずれた位置関係でもう1つの排出孔が設けられたことを特徴とする。
【0011】
請求項6に記載の発明は、請求項2ないし請求項5のいずれか一項に記載の内燃機関の潤滑油供給構造において、前記クランクウエブには、一端を開口させた前記中空部を有するクランクピンが設けられるとともに、前記開口が前記油溜りに臨んで配置され、前記排出孔は、前記クランクピンの開口と、前記開口に対して前記クランク軸の回転方向側にて最初に隣り合う前記油溝との間をはずした位置に設けられたことを特徴とする。
【0012】
請求項7に記載の発明は、請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載の内燃機関の潤滑油供給構造において、前記オイルポンプによって供給された潤滑油が前記油室へ案内される油室入口が、前記クランク軸の軸心よりも上方に設けられたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明の内燃機関の潤滑油供給構造によれば、サイドプレートに、油溜り内の潤滑油の油量が所定以上になった場合に潤滑油を排出する排出孔を形成したので、油室および油溜り内で潤滑油の圧力が必要以上に高まってしまった場合、すなわち、必要以上の潤滑油が供給されてしまった場合に、サイドプレートに形成された排出孔から潤滑油を排出することができ、油溜りおよび油溜りと連通する油室内において必要以上に圧力が高まることを防止することができる。
したがって、油室とオイルシールとの間においてクランクケースに隔壁等を形成しなくても、簡素な構造でオイルシールに大きな油圧が掛かり難いようにすることができ、オイルシールのズレや耐久性の低下等の影響を防止することができるとともに、油室の容量設計の自由度を高めることができる。
【0014】
請求項2の発明によれば、請求項1の発明の効果に加え、軸受部材をシールベアリングとすることで、油室と油溜りの間の不用意な潤滑油の流れを防止し、油室から油溝へ効率よく潤滑油を案内できるうえ、サイドプレートがクランクウエブの外周寄りの外側面と軸受部材のジャーナル軸側における油溜り側の側面とに当接するので、クランクジャーナル部の油溝から油溜りへ潤滑油の供給と、油溜りでの潤滑油の保持も効率よく行なうことができる。
【0015】
請求項3の発明によれば、請求項2の発明の効果に加え、油溜り内においては、遠心力によってクランク軸の軸心から遠い側から潤滑油が溜まっていくが、排出孔がクランクピンの中空部の軸心よりもクランク軸の軸心側に設けられたので、排出孔からの潤滑油の排出より優先して中空部に十分な潤滑油量を保持させることが可能となり、中空部から所定の潤滑箇所への給油も効率よく行なうことができる。
【0016】
請求項4の発明によれば、請求項2または請求項3の発明の効果に加え、排出孔から排出された潤滑油が、アウタレースの内周とインナレースの外周との間の隙間部分、すなわちボール部材収容部分に排出されるので、その隙間部分から容易に潤滑油が排出される。また、排出孔から排出された潤滑油の一部は、シールベアリングの潤滑油としても機能させることができる。
【0017】
請求項5の発明によれば、請求項2ないし請求項4のいずれか一項の発明の効果に加え、排出孔が位相180°ずれた位置関係で少なくとも2つ設けられるので、クランク軸の回転に対する潤滑油の排出確立をより高めることができ、油溜り、および油溜りと連通する油室内において必要以上に圧力が高まった場合に、すばやく不要な潤滑油を排出することができる。
【0018】
請求項6の発明によれば、請求項2ないし請求項5のいずれか一項の発明の効果に加え、排出孔が、クランクピンの開口と、この開口に対してクランク軸の回転方向側にて最初に隣り合う油溝との間をはずした位置に設けられるので、この油溝からクランクピンの開口までの潤滑油経路中に排出孔が臨まないようにすることで、油溝から油溜りに流れ込んだ潤滑油の不用意な排出を防止することができ、油溝からクランクピンの中空部へ効率よく潤滑油を導くことができる。
【0019】
請求項7の発明によれば、請求項1ないし請求項6のいずれか一項の発明の効果に加え、油室入口がクランク軸の軸心よりも上方に設けられたため、潤滑油を油室内に満たしやすくすることができ、十分な油量を油室に溜めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施形態に係る内燃機関の潤滑油供給構造を備えるパワーユニットを搭載した自動二輪車の左側面概要図である。
図2図1の自動二輪車における車体カバーを外したパワーユニット周辺の拡大図である。
図3図2中、III−III矢視によるパワーユニットの断面展開図である。
図4図3中、概ねIV−IV矢視による、ACジェネレータ等の図示を省略した、パワーユニットの右側面機器配置および油路説明図である。
図5図3中、概ねV−V矢視による、ベルト式無段変速機等の図示を省略した、パワーユニットの左側面機器配置および油路説明図である。
図6図5中、VI−VI矢視による、シリンダブロックにおける油路接続部の説明図である。
図7】図中(A)は、図3中の左クランクジャーナル部および左主ベアリング周辺の拡大断面図であり、図中(B)は、(A)中B−B矢視図である。 なお、(A)は、(B)中A−A矢視断面図に相当するが、油溝と排出孔の位相をずらして断面上に示している。
図8図3中、VIII−VIII矢視による、シリンダヘッドにおける右側面図である。
図9図3中のウォータポンプの、拡大断面図である。
図10図9中、X−X矢視によるウォータポンプの取付け面側の説明図である。 なお、図9は本図中のIX−IX矢視断面図に相当する。
図11図3中、XI矢視によるウォータポンプの取付け状態の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1から図11に基づき、本発明の一実施形態に係る内燃機関の潤滑油供給構造につき説明する。
なお、本明細書の説明および特許請求の範囲における前後左右上下等の向きは、本実施形態に係る内燃機関の潤滑油供給構造を備えたパワーユニットを、車両に搭載した状態での車両の向きに従うものとする。本実施形態において車両は小型車両であり、スクータ型自動二輪車である。
図中矢印FRは車両前方を、LHは車両左方を、RHは車両右方を、UPは車両上方を、それぞれ示す。
また、図中の黒小矢印は、潤滑油の流れを模式的に示す。
【0022】
図1に、本実施形態の内燃機関の潤滑油供給構造を備えるパワーユニット3を、スクータ型自動二輪車(以下、単に「自動二輪車」という)1に搭載された状態で示す。
【0023】
自動二輪車1は、車体前部1Aと車体後部1Bとが、低いフロア部1Cを介して連結されており、車体の骨格をなす車体フレーム2は、概ねダウンチューブ21とメインパイプ22とからなる。
すなわち車体前部1Aのヘッドパイプ20からダウンチューブ21が下方へ延出し、ダウンチューブ21は下端で水平に屈曲してフロア部1Cの下方を後方へ延び、その後端において車幅方向に配設された連結フレーム23を介して、左右一対のメインパイプ22が連結され、メインパイプ22は連結フレーム23から斜め後方に立ち上がって、途中、傾斜をゆるめるように屈曲して後方に延びている。
【0024】
メインパイプ22により燃料タンク11等が支持され、その上方にシート12が配置されている。
一方、車体前部1Aにおいては、ヘッドパイプ20に軸支されて上方にハンドル13が設けられ、下方にフロントフォーク14が延びてその下端に前輪15が軸支されている。
【0025】
メインパイプ22の傾斜部の下端付近にブラケット24が突設され、ブラケット24にリンク部材25を介してパワーユニット3が揺動可能に連結支持されている。
パワーユニット3は、その前部が単気筒4ストロークの水冷式内燃機関(本発明の「内燃機関」。以下、単に「内燃機関」という。)30であり、パワーユニットケース5にクランク軸51を車幅方向に配して回転自在に軸支し、シリンダブロック31を略水平に近い状態にまで大きく前傾した姿勢にあって、パワーユニットケース5の下端から前方に突出したハンガーアーム50の端部が、メインパイプ22のブラケット24に取付けられたリンク部材25に、ピボット軸26を介して連結されている。
【0026】
パワーユニット3には、パワーユニットケース5前方に略水平に大きく前傾してシリンダブロック31、シリンダヘッド32、シリンダヘッドカバー33が順次積み上げられるように締結されるほか、内燃機関30から後方にかけてベルト式無段変速機40が構成され、その後部に設けられた減速機構41の出力軸である後車軸42に後輪16が設けられている。
減速機構41のあるパワーユニット3の後部に立設されたブラケット52と、メインパイプ22の後部との間にリヤクッション17が介装されている。
【0027】
パワーユニット3の左側面図である図2に示されるように、パワーユニット3の上部では、内燃機関30の大きく前傾したシリンダヘッド32の上部から吸気管60が延出して後方に湾曲し、吸気管60に接続されたスロットルボディ61がシリンダブロック31の上方に位置し、スロットルボディ61に連結管62を介して連結されるエアクリーナ装置6が、ベルト式無段変速機40の上方に配設されている。
【0028】
なお、吸気管60には吸気ポートに向けて燃料を噴射するインジェクタ63が装着されている。
一方、シリンダヘッド32の下部から下方に延出した排気管65は、後方へ屈曲し右側に偏って後方に延びて後輪16の右側のマフラ66に接続される。
【0029】
自動二輪車1は車体カバー18を備え、車体前部1Aは、フロントカバー18aとレッグシールド18bにより前後から覆われフロントロアカバー18cにより下部を前方から左右側方にかけて覆われ、ハンドル11の中央部はハンドルカバー18dによって覆われる。
フロア部1Cはサイドカバー18eにより覆われ、また車体後部1Bは左右側方からボデイカバー18fによって覆われる。
【0030】
なお、図1図2において、27はパワーユニット3のパワーユニットケース5の前下部に取付けられたメインスタンドであり、28はパワーユニット3の略中央左方に取付けられたキックスタータアームである。
また、29は、メインフレーム22に取付けられた収納ボックス支持ステーであり、シート12の下方に設けられた収納ボックス19を支持する。
【0031】
図3は、パワーユニット3の、図2中III−III矢視による断面展開図である。
内燃機関30は、シリンダブロック31のシリンダライナ31a内を往復動するピストン34と
クランク軸51のクランクピン51aとをコネクティングロッド35が連結している。
ピストン34の頂部とシリンダヘッド32の間には燃焼室32aが形成される。
【0032】
パワーユニットケース5は、左右割りの左パワーユニットケース5Lと右パワーユニットケース5Rとを合体して構成されるもので、右パワーユニットケース5Rは、クランクケース部(本発明の「クランクケース」)5aの右半体をなし、左パワーユニットケース5Lは、前部がクランクケース部5aの左半体をなすとともに、後方に延設されて前後に長尺のベルト式無段変速機40を収容する変速機ケース4を形成する。
【0033】
左パワーユニットケース5L(変速機ケース4)の前後長尺の左側開放面53Lは、変速機ケースカバー43により覆われ、内部にベルト式無段変速機40が収納され、後部の右側開放面53Rは減速機ケース44により覆われ、内部に減速機構41が収納される。
【0034】
左パワーユニットケース5Lの前部と右パワーユニットケース5Rとの合体によるクランクケース部5a内には、クランク軸51が車幅方向に配向されて左右の主ベアリング54L,54Rに回転自在に支持され、左右水平方向に延びた延出部のうち右延出部にはカムチェーン駆動スプロケット55とオイルポンプ駆動ギヤ56、およびACジェネレータ57が設けられ、左延出部にはベルト式無段変速機40の遠心ウエイト45と駆動プーリ46が設けられる。
【0035】
ベルト式無段変速機40は、駆動プーリ46と減速機構41の入力軸41aに設けられる被動プーリ47とにVベルト48が掛け渡されて動力が伝達されるもので、変速比は、機関回転数に応じて移動する遠心ウエイト45により駆動プーリ46におけるVベルト48の巻掛け径が変化し、同時に被動プーリ47における巻掛け径が変化することにより自動的に変更され、無段変速する。
【0036】
被動プーリ47の回転は、遠心クラッチ49を介して減速機構41の入力軸41aに伝達される。
減速機構41はギア機構で、入力軸41aと中間軸41bとの間、および中間軸41bと後車軸42との間に、それぞれギアの噛合が構成されて、入力軸41aの回転を減速して後車軸42に伝え後輪16を回転駆動する。
【0037】
本実施形態の内燃機関30は、SOHC型式のバルブシステムを採用しており、シリンダヘッドカバー33内には動弁機構80が設けられ、動弁機構80に動力伝達を行うカムチェーン81がカムシャフト82とクランク軸51との間に架設されており、そのためのカムチェーン室83が、右パワーユニットケース5R,シリンダブロック31,シリンダヘッド32に連通して設けられている。
すなわち左右水平方向に指向したカムシャフト82の右端に嵌着された被動カムチェーンスプロケット84と、クランク軸51に嵌着された駆動カムチェーンスプロケット55との間にカムチェーン81がカムチェーン室83内を通って架渡されている。
【0038】
一方、シリンダヘッド32においてカムチェーン室83と反対側(左側)から燃焼室32aに向かって点火プラグ36が嵌挿されている。
大きく前傾したシリンダヘッド33の燃焼室33aからは図示しない吸気ポートが上方に湾曲して延出し前記の吸気管60に連結され、燃焼室33aから図示しない排気ポートが下方に湾曲して延出し前記の排気管65に連結される(図2参照)。
吸気ポートは図示しない吸気弁を介して、排気ポートは図示しない排気弁を介して、燃焼室33aと連通するが、吸気弁と排気弁は、動弁機構80によってクランク軸51の回転に対して所定のタイミングで開閉される。
【0039】
動弁機構80のカムシャフト82は、シリンダヘッド32の左側壁32bとカムチェーン室83を構成する内側壁32cにベアリング82a、82aを介して回転自在に軸支され、右側のベアリング82aより突出した右端に被動カムチェーンスプロケット84が嵌着されている。
カムシャフト82は、カムチェーン81によってクランク軸51の1/2の回転速度で回転駆動される。
【0040】
カムシャフト82の前方の斜め上下位置には吸気用ロッカシャフト85iと排気用ロッカシャフト85eが、カムシャフト82と平行に架設され、それぞれ吸気ロッカアーム86iと排気ロッカアーム86eが揺動自在に枢着される。
吸気ロッカアーム86iは回転するカムシャフト82の吸気カム87iに従い揺動し吸気弁を開閉動作させ、排気ロッカアーム86eは回転するカムシャフト82の排気カム87eに従い揺動し吸気弁を開閉動作させる。
【0041】
図3に示されるように、右パワーユニットケース5Rのカムチェーン室83を構成する側壁には大きな開口を有し、同開口は右方からボルトにより取り付けられる隔壁58により閉塞され、隔壁58の円筒部58aをクランク軸51が貫通している。
【0042】
ACジェネレータ57は、隔壁58の円筒部58aを貫通したクランク軸51の右端部にACGボス57aを介して碗状のアウタロータ57bが固着され、その内周面に周方向に亘って配設される磁石57cの内側にステータコイル57dの巻回されたインナステータ57eが隔壁58の円筒部58aに固定されている。
【0043】
アウタロータ57bの右側面には中央が膨出して円板状をしたファン基板59aが取り付けられており、ファン基板59aには右方に突出して複数のラジエータファン59が形成されている。
【0044】
ACジェネレータ57のアウタロータ57bの外周は、右パワーユニットケース5Rの側壁から右方に延出した周壁5Raに概ね囲繞され、ラジエータファン59の外周はラジエータ取付けベース90により囲繞され、ラジエータファン59の右方にはラジエータ91が近接して設けられ、ラジエータ91はルーバ付きのラジエータカバー92で覆われている。
ラジエータカバー92のルーバからラジエータファン59によって吸引された外気は、ラジエータ91を冷却した後、ラジエータ取付けベース90の外周にそって設けられた図示しない通気孔から排出される。
【0045】
本実施形態においては、図3に示されるように、ラジエータカバー92はラジエータ取付けベース90とともに、通しボルト93によって右パワーユニットケース5Rに共締めで締結されており、構成の簡素化が図られている。
【0046】
図3において、95は内燃機関水冷用のウォータポンプであり、シリンダヘッド32の右側面の円開口32dに取付けられ、そのウォータポンプ駆動軸95aの左端は、カムシャフト82の右端面に穿設された嵌合穴82bに嵌入されて直結され、同軸一体に回転するように構成されている。
【0047】
一方、図4に示されるように、クランクケース部5aの下部は、オイル溜め70に形成され、オイル溜め70に貯留された潤滑油はオイルフィルタ71を通してオイルポンプ72に吸入され、オイルポンプ72によってクランクシャフト51、その他の内燃機関各部に圧送される。
【0048】
オイルポンプ72は、右パワーユニットケース5Rに設けられるとともに、クランク軸51の右主ベアリング54Rからの右延出部に設けられたオイルポンプ駆動ギヤ56(図3参照)と噛合するオイルポンプ被動ギヤ73によって、オイルポンプ軸74が回転駆動される。
【0049】
オイルポンプ72の吐出ポート72aから吐出された潤滑油は、右パワーユニットケース5Rに前方に向け設けられた供給油路75aから、供給油路75aに接続し右パワーユニットケース5Rから左パワーユニットケース5Lへと横断的に穿設された横断油路75b(図4図5参照)を経て、横断油路75bに接続し左パワーユニットケース5Lにおいてクランク軸51の前方を上方に向けて穿設された上下油路75c(図5参照)を通り、クランクケース部5aのクランク軸51の軸心Xより上方の分岐部75dに至る。
【0050】
分岐部75dにおいて、前後方向を向いて交差する前後方向油路76が接続し、その前方端76aはクランクケース部5aとシリンダブロック31との分割面5bに開口し、シリンダブロック内油路77に接続する。
シリンダブロック内油路77は、図6に示されるように、シリンダブロック31をクランクケース部5aに締結するスタッドボルトが挿通されるスタッドボルト孔31bに接続し、シスタッドボルト孔31bを油路として送られた潤滑油は、シリンダヘッド32内に供給されて、動弁機構80等の潤滑に供される。
【0051】
図3および図7に示されるように、左クランクジャーナル部(本発明の「クランクジャーナル部」)51bLを回転自在に支承する左主ベアリング(本発明の「軸受部材」)54Lを保持するクランクケース部5aをなす左パワーユニットケース5Lの、左クランク軸孔5Laには、左クランクジャーナル部51bLよりも軸方向左外側において、クランクケース部5aとクランク軸51との間にオイルシール101が装着され、左主ベアリング54Lの外側面とオイルシール101との間に油室100が形成されている。
前後方向油路76の後方端76bは、図5に示されるように、クランク軸51の軸心Xより上方で油室100に連通し、油室入口102が形成される。
【0052】
一方、左クランクジャーナル部51bLに連なる左クランクウエブ(本発明の「クランクウエブ」)51cLのウエブ外側面(本発明の「外側面」)103と、ウエブ外側面103に取付けられた環状板状のサイドプレート104との間に油溜り105が形成され、油溜り105は左クランクジャーナル部51bLの外周面に軸方向に形成された油溝106を介して油室100と連通している。
また、左クランクウエブ51cLには、クランクピン51aの中空部107の左端がウエブ外側面103に開口させて設けられており、その開口107aは油溜り105に臨んで配置されている。
【0053】
したがって、潤滑油が、クランク軸51で駆動されるオイルポンプ72によって、供給油路75a、横断油路75b、上下油路75c、前後方向油路76を経由して、油室入口102から油室100に導入されると、左クランクジャーナル部51bLの外周面に形成された油溝106を介して油溜り105に潤滑油が送り込まれ、さらに、クランクピン51a内の中空部107を介して所定の潤滑箇所へ給油される。
【0054】
図7に示されるように、油溝106から送り込まれた油溜り105内の潤滑油は、クランク軸51の回転による遠心力で油溜り105の外周側から貯留され、左クランクウエブ51cLのウエブ外側面103に開口するクランクピン51aの中空部107へ流れ込むが、油溜り105内の潤滑油の油量が所定以上となった場合に、潤滑油を排出する排出孔108が、サイドプレート104に形成されている。
【0055】
したがって、油室100および油溜り105内で潤滑油の圧力が必要以上に高まってしまった場合、すなわち、必要以上の潤滑油が供給されてしまった場合に、サイドプレート104に形成された排出孔108から潤滑油を排出することができ、油溜り105および油溜り105と連通する油室100内において必要以上に圧力が高まることを防止することができる。
その結果、油室100とオイルシール101との間において、クランクケース部5a(左パワーユニットケース5L)側にオイルシール101へ掛かる油圧を低減させるための隔壁等を形成しなくても、簡素な構造でオイルシール101に大きな油圧が掛かり難いようにすることができ、オイルシール101のズレや耐久性の低下等の影響を防止することができるとともに、油室100の容量設計の自由度を高めることができるものとなっている。
【0056】
図7に示されるように、本実施形態において、左主ベアリング54Lは、油室100側の外側面にシール部材109を有するシールベアリングであり、サイドプレート104は、左クランクウエブ51cLの外周寄りのウエブ外側面103と、左主ベアリング54Lの左クランクジャーナル部51bL側における油溜り105側の内側面110とに当接している。
サイドプレート104は、左クランクジャーナル部51bLとともに回転する部材に摺動箇所無く固定され、油溜り105を形成している。
【0057】
したがって、左主ベアリング54Lをシールベアリングとすることで、油室100と油溜り105の間の不用意な潤滑油の流れが防止され、油室100から油溝106へ効率よく潤滑油を案内できる上、左クランクジャーナル部51bLの油溝106から油溜り105へ潤滑油の供給と、油溜り105での潤滑油の保持も効率よく行なうことができる。
【0058】
また、左主ベアリング54Lはシールベアリングであるとともに、クランクケース部5aに嵌合されたアウタレース54Loと、左クランクジャーナル部51bLに嵌合されるインナレース54Liと、アウタレース54Loの内周とインナレース54Liの外周に保持されるボール部材54Lbとを備え、排出孔108は、アウタレース54Loの内周とインナレース54Liの外周との間に臨んで設けられている。
【0059】
そのため、排出孔108から排出された潤滑油が、アウタレース54Loの内周とインナレース54Liの外周との間の隙間部分111、すなわちボール部材54Lbの収容部分に排出されるので、その隙間部分111から容易に潤滑油が排出される。また、排出孔108から排出された潤滑油の一部は、左主ベアリング54Lの潤滑油としても機能させることができる。
【0060】
また、左クランクジャーナル部51bLは、それより外方へ延びるジャーナル外方軸部51dLより大径になっており、したがって、左クランクジャーナル部51bLとジャーナル外方軸部51dLの間には、油室100に臨む環状段部112が形成される。左クランクジャーナル部51bLの外周面には、環状段部112から左クランクジャーナル部51bLの根元に達する前記の油溝106が一対設けられ、油溝106は、段部112への開口端が入口106aとなる。
【0061】
油溝106とサイドプレート104についてさらに述べると、油溝106は、図7に示されるように、クランク軸51の軸心Xと平行な軸を有する円筒状に(軸断面において円弧状に)左クランクジャーナル部51bL周面を切り欠くか、クランク軸51の鍛造時に形成されるもので、その形成を容易にすべく、左クランクジャーナル部51bLの回転中心に関してクランクピン51aと位相が略90°ずれた二箇所に配置される。
【0062】
一方、クランク軸51において、左クランクジャーナル部51bLと同側の左クランクウエブ51cLのウエブ外側面103には円形の凹部103aが形成されており、この凹部103aに、左クランクジャーナル部51bLを囲繞する環状のサイドプレート104が圧入され、このサイドプレート104と左クランクウエブ51cLとの間に環状で偏平な油溜り105が画成され、油溜り105の半径方向内側に油溝106の出口106bが開口し、中間部にクランクピン51aの中空部107が開口する。
【0063】
左クランクジャーナル部51bLには、左主ベアリング54Lのインナレース54Liが嵌合されているため、油溝106の底部(クランク軸51の軸心X側)106cとインナレース54Liの内周面113との間が実質的な溝部油路114となる。
なお、油溝106の出口106b側は、サイドプレート104が当接するので、サイドプレート104の内周円孔104aと油溝106断面が重複する範囲が、実質的な油溜り入口105aとなる。
【0064】
また、左クランクジャーナル部51bLの外周面には、左主ベアリング54Lのインナレース54Liの内側面(湯溜り側面)110から左クランクジャーナル部51bLの根元まで、クランクピン51aの断面位置に略対応するようなクランク軸51の軸心Xと平行な軸を有する円筒状に(軸断面において円弧状に)周面を切り欠くか、クランク軸51の鍛造時に形成される切欠き部115が設けられており、油溜り105からクランクピン51aの中空部107の開口107aへの潤滑油の円滑な流れが図られている。
【0065】
したがって、油溜り105から余剰の潤滑油を排出するための排出孔108は、アウタレース54Loの内周とインナレース54Liの外周との間の隙間部分111に臨んで設けられているが、排出孔108は、クランクピン51aの中空部107の軸心Yよりもクランク軸の軸心X側に設けられているので、油溝106を通って油溜り入口105aから湯溜り105に入った潤滑油は、クランク軸51の回転による遠心力によって、速やかに油溜り105の外周側に流れ、排出孔108に入ることが防止されて貯留されるとともに、開口107aから優先的にクランクピン51aの中空部107へ供給される。
【0066】
すなわち、油溜り105内においては、遠心力によってクランク軸51の軸心Xから遠い側から潤滑油が溜まっていくが、排出孔108がクランクピン51aの中空部107の軸心Yよりもクランク軸51の軸心X側に設けられたので、排出孔108からの潤滑油の排出より優先して中空部107に十分な潤滑油量を保持させることが可能となり、中空部107から所定の潤滑箇所への給油も効率よく行なうことができる。
【0067】
また、本発明において排出孔108は1つでも実施できるが、本実施形態においては、図7に示されるように、排出孔108は、2つ設けられ(2以上の遇数で可)、1つの排出孔108に対し、位相が180°ずれた位置関係でもう1つの排出孔108が設けられている。
そのため、クランク軸51の回転に対する潤滑油の排出確立をより高めることができ、油溜り105、および油溜り105と連通する油室100内において必要以上に圧力が高まった場合に、すばやく不要な潤滑油を排出することができる。
【0068】
また、排出孔108は、クランクピン51aの開口107aと、この開口107aに対してクランク軸51の回転方向R側にて最初に隣り合う油溝106Aとの間をはずした位置に設けられている。
すなわち、開口107aに対してクランク軸51の回転方向R側にて最初に隣り合う油溝106Aから、相対的に反回転方向に向かうクランクピン51aの開口107aまでの潤滑油経路S中に排出孔108が臨まないようにすることで、油溝106から油溜り105に流れ込んだ潤滑油の不用意な排出を防止することができ、油溝106からクランクピン51aの中空部107へ効率よく潤滑油を導くことができようになっている。
【0069】
そして、図5に明示されるように、オイルポンプ72によって供給された潤滑油が油室100へ案内される油室入口102が、クランク軸51の軸心Xよりも上方に設けられているため、潤滑油を油室100内に満たしやすくすることができ、十分な油量を油室100に溜めることができるものとなっている。
【0070】
なお、本実施形態におけるウォータポンプ95はその取付け方に特徴がある。
図3図9に示されるようにシリンダヘッド32の右側面には円開口32dが形成され、円開口32dにウォータポンプ95の円筒形状をしたウォータポンプボディ96が嵌着されている。
ウォータポンプ95のウォータポンプボディ96は、ウォータポンプ駆動軸95aをベアリング95bを介して回転自在に軸支し、シリンダヘッド32の円開口32dに嵌装される円筒部96aと、外向きの開口端を径方向に延出し、ウォータポンプ駆動軸95aに嵌着されるインペラ95cを部分的に収容する拡大部96bとからなり、ウォータポンプ駆動軸95aはカムシャフト82に同軸に結合されて駆動される。
ウォータポンプボディ96の拡大部96bの右開口を覆い、拡大部96bとともにインペラ95cを収容するウォータポンプカバー97が、拡大部96bの開口端面に重ね合わされる。
【0071】
図8に示されるように、シリンダヘッド32の右側面には、ウォータポンプボディ96の円筒部96aを嵌装させる円開口32dのほか、吸気用ロッカシャフト85iを取付ける際に挿通させる吸気用ロッカシャフト挿通孔32iと、排気用ロッカシャフト85eを取付ける際に挿通させる吸気用ロッカシャフト挿通孔32eが開けられ、それらを一面で繋ぐウォータポンプ接合面32fが形成されている。
また、ウォータポンプ接合面32fを囲むように、ウォータポンプ接合面32fからは離れてシリンダヘッド32の右側面から突出して、ウォータポンプ95を締結するための雌ネジを設けた上部ボス32m(図示左方)、下部ボス32n(図示右方)、後部ボス32o(図示下方)が配設されている。
【0072】
図10に示されるように、ウォータポンプ95の取付け面側には、シリンダヘッド32のウォータポンプ接合面32fと対応させて、取付け面96fが、ウォータポンプボディ96の拡大部96bに形成され、その外縁に沿ってシール部材溝99が設けられ、シール部材99aが装着されている。シール部材99aは、図9に示されるように、断面においてT字状をしており、その凸部がシール部材溝99に嵌入され、平板部がシリンダヘッド32のウォータポンプ接合面32fに圧接されるので、好ましい取付け性とシール性が得られる。
ウォータポンプ95を取付けた状態では、図9に示されるように、シール部材99aはウォータポンプ接合面32fに圧接され、シリンダヘッド31の円開口32dと、吸気用ロッカシャフト挿通孔32iと、排気用ロッカシャフト挿通孔32eが、環状のシール部材99aの内側でウォータポンプボディ96の取付け面96fで塞がれる。
【0073】
ウォータポンプボディ96の拡大部96bとウォータポンプカバー97には、相互を締結するとともに、シリンダヘッド32への取付けのための締結孔が取付け面96fを囲むように設けられている。
すなわち、拡大部96bとウォータポンプカバー97にはそれぞれ、シリンダヘッド32の上部ボス32mに対応して上部締結孔96m、97mが、下部ボス32nに対応して下部締結孔96n、97nが、後部ボス32oに対応して後部締結孔96o、97oが設けられている。
【0074】
以上によって、図11に示されるように、上部締結孔96m、97mが上部取付けボルト98mによって上部ボス32mに共締めで締結され、下部締結孔96n、97nが下部取付けボルト98nによって下部ボス32nに共締めで締結され、後部締結孔96o、97oが後部取付けボルト98oによって後部ボス32oに共締めで締結され、ウォータポンプ95がシリンダヘッド31に取付けられる。
【0075】
ここで、図9図10に示されるように、ウォータポンプボディ96の拡大部96bとウォータポンプカバー97には、その前部(図示上方)に前部締結孔96p、97pが設けられ、前部締結ボルト98pによって締結され、上下前後位置でバランスよくウォータポンプ95が組み立てられるが、前部締結ボルト98pは、図3図9に示されるように、その位置に対応したシリンダヘッド31ないしシリンダヘッドカバー32まで延在しておらず、ポンプ組み立てのみに供されている。したがって、シリンダヘッド31において前方へ突出させた締結ボス部を形成することが省略され、構造が簡素化されている。
【0076】
本実施形態のウォータポンプ95の取付け方によれば、シリンダヘッド32の右側壁とウォータポンプ95とは、円開口32dと円筒部96a、およびウォータポンプ接合面32fと拡大部96bの取付け面120とがシール部材122を介して接合し、シリンダヘッド32側の取り付け用の各ボス32m、32n、32oはシリンダヘッド32の右側面から突出しており、両者の当接面が限定されている。
したがって、冷却水用のウォータポンプ95へのシリンダヘッド32からの熱の伝達を抑制することができるものとなっている。
また、環状のシール部材99aで、シリンダヘッド31の円開口32dと、吸気用ロッカシャフト挿通孔32iと、排気用ロッカシャフト挿通孔32eを、一括してシール遮蔽できるので、構造が簡素で、取付け作業も容易である。
【0077】
以上、本発明の一実施形態につき説明したが、本発明の態様が上記実施形態に限定され
ず、本発明の要旨の範囲で、多様な態様で実施されるものを含むことは勿論である。
例えば、排出孔108や油溝106の数は本実施形態に限定されず、1つであってもよい。
尤も、上記実施形態のように排出孔108を2つで一対になるように設ければ、上述のようなより好ましい効果が得られる。
【符号の説明】
【0078】
1…自動二輪車(スクータ型自動二輪車)、3…パワーユニット、5…パワーユニットケース、5a…クランクケース部(本発明の「クランクケース」)、5L…左パワーユニットケース、5La…左クランク軸孔、5R…右パワーユニットケース、30…内燃機関(水冷式内燃機関)、31…シリンダブロック、31b…スタッドボルト孔、32…シリンダヘッド、33…シリンダヘッドカバー、51…クランク軸、51a…クランクピン、51bL…左クランクジャーナル部(本発明の「クランクジャーナル部」)、51cL…左クランクウエブ(本発明の「クランクウエブ」)、51dL…ジャーナル外方軸部、54L…左主ベアリング(本発明の「軸受部材」)、54Lb…ボール部材、54Li…インナレース、54Lo…アウタレース、56…オイルポンプ駆動ギヤ、70…オイル溜め、72…オイルポンプ、72a…吐出ポート、73…オイルポンプ被動ギヤ、100…油室、101…オイルシール、102…油室入口、103…ウエブ外側面(本発明の「外側面」)、104…サイドプレート、105…油溜り、106、106A…油溝、107…中空部、107a…開口、108…排出孔、109…シール部材、111…隙間部分、X…クランク軸51の軸心、Y…中空部107の軸心、R…クランク軸51の回転方向、S…潤滑油経路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11