(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記フィルタ更新部は、前記複数の第1制御信号それぞれと前記第2制御信号の差を抑制するように、前記第1デジタルフィルタを更新する、請求項1に記載の能動消音装置。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、必要に応じて図面を参照しながら、実施形態に係る能動消音装置を説明する。なお、以下の実施形態では、同一の番号を付した部分については同様の動作を行うものとして、重ねての説明を省略する。
【0010】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る能動消音装置100を概略的に示している。この能動消音装置100は、
図1に示されるように、参照信号生成部110、フィルタ処理部120、平均化部130、制御スピーカ140、誤差マイク(エラーマイクともいう)150、及びフィルタ更新部160を備える。
【0011】
参照信号生成部110は、騒音源190から発せられた騒音に基づいて異なる複数の(n個の)参照信号r
1〜r
nを生成する。ここで、nは2以上の整数である。本実施形態では、参照信号生成部110は、異なる位置に配置される複数の(n個の)参照マイク112−1〜112−nを含み、これら複数の参照マイク112−1〜112−nはそれぞれ、騒音源190からの騒音の音圧を検出して検出信号を参照信号r
1〜r
nとして出力する。
【0012】
フィルタ処理部120は、デジタルフィルタC
1〜C
nで参照信号r
1〜r
nをフィルタ処理して第1制御信号u
1〜u
nを生成する。デジタルフィルタC
1〜C
nは、複数の参照マイク112−1〜112−nそれぞれに対応して設けられる。例えば、デジタルフィルタC
iは、参照マイク112−iで取得される参照信号r
iから第1制御信号u
iを生成するために使用される。ここで、iは、1≦i≦nを満たす整数である。平均化部130は、第1制御信号u
1〜u
nを算術平均化して第2制御信号(制御入力ともいう)uを生成する。具体的には、平均化部130は、第1制御信号u
1〜u
nを加算する加算器132、及び加算器132の出力信号に1/nを乗算する乗算器134を含む。
【0013】
制御スピーカ140は、第2制御信号uを音に変換する。制御スピーカ140が発する音を制御音と呼ぶ。誤差マイク150は、騒音源190からの騒音と制御スピーカ140からの制御音との合成音圧を検出し、検出した合成音圧を示す誤差信号e
cを生成する。フィルタ更新部160は、誤差信号e
cを最小にするように、デジタルフィルタC
1〜C
nを更新する。
【0014】
本実施形態の能動消音装置100は、誤差マイク150の設置位置において騒音源190からの騒音の音圧を最小にするために、騒音源190からの騒音を制御スピーカ140からの制御音で制御している。騒音源190が発する騒音のようなある音源から発せられる制御すべき音を制御対象音とも称する。
【0015】
次に、
図1及び
図2を参照して、フィルタ更新部160がデジタルフィルタC
1〜C
nを更新する処理を説明する。
フィルタ更新部160は、
図2に示すように、デジタルフィルタC
1〜C
n、K
1〜K
n、D
1〜D
n、参照信号r
1〜r
n、制御信号u、及び誤差信号e
cに基づいて2n個の仮想誤差信号e
11〜e
1n、e
21〜e
2nを生成する。デジタルフィルタK
1〜K
nは、参照マイク112−1〜112−nそれぞれに対応して設けられ、参照マイク112−1〜112−nそれぞれについて、制御スピーカ140と誤差マイク150との間の空間特性を同定する。デジタルフィルタD
1〜D
nは、参照マイク112−1〜112−nそれぞれに対応して設けられ、参照マイク112−1〜112−nそれぞれと誤差マイク150との間の空間特性を同定する。例えば、仮想誤差信号e
1i、e
2iは、デジタルフィルタC
i、K
i、D
i、参照信号r
i、制御信号u、及び誤差信号e
cに基づいて算出される。フィルタ更新部160は、後述するように、仮想誤差信号e
11〜e
1n、e
21〜e
2nを最小にし、且つ、デジタルフィルタK
1〜K
nを同一のデジタルフィルタに収束させるように、デジタルフィルタC
1〜C
n、K
1〜K
n、D
1〜D
n(具体的にはデジタルフィルタC
1〜C
n、K
1〜K
n、D
1〜D
nのフィルタ係数)を更新する。これにより、誤差信号e
cの最小化を達成することができる。
【0016】
まず、各種信号及び伝達関数を定義する。騒音源190が発する騒音をs(k)とし、参照マイク112−iで取得される参照信号をr
i(k)とし、誤差マイク150で取得される誤差信号をe
c(k)とする。ここで、kは時間を表す。さらに、騒音源190から参照マイク112−iまでの伝達関数をG
2i(z)とし、制御スピーカ140から誤差マイク150までの伝達関数をG
4(z)とし、騒音源190から誤差マイク150までの伝達関数をG
1(z)とする。参照マイク112−iに対応する適応フィルタをC
i(z,k)、K
i(z,k)、D
i(z,k)とし、そのFIR(finite impulse response)表現をθ
Ci、θ
Ki、θ
Diとする。さらに、参照マイク112−iに対応する仮想誤差信号をe
1i(k)、e
2i(k)とする。参照信号r
i(k)をフィルタC
i(z,k)でフィルタ処理して得られる第1制御信号をu
i(k)とする。第1制御信号u
1(k)〜u
n(k)を平均化することで得られる第2制御信号をu(k)とする。さらに、参照信号r
i(k)をフィルタK
i(z,k)でフィルタ処理して得られる補助信号をx
i(k)とする。補助信号x
i(k)及び参照信号r
i(k)の時系列ベクトルをそれぞれφ
i(k)、ξ
i(k)とする。さらに、第2制御信号u(k)の時系列ベクトルをζ(k)とする。
【0017】
複数の参照マイクを利用する利点について説明する。直接法では、1つの参照マイクで取得される参照信号及び1つの誤差マイクで取得される誤差信号に基づいて二次経路(具体的には制御スピーカから誤差マイクまでの経路の伝達特性)を推定している。しかしながら、騒音発生初期のように参照信号が急激に変化する過渡期には、参照信号及び誤差信号から得られる情報量が少なく、誤差信号をゼロにするフィルタθ
D、θ
K、θ
Cの組み合わせは多数存在する。このことは、過渡期における二次経路の推定誤りを引き起こす。その結果、制御スピーカへの入力(制御入力)が過渡的に増加することで騒音が増大するなど制御が不安定になる。一方、制御入力の増加を抑えるためにステップサイズを小さくすると、適応フィルタの収束速度が遅くなる。
【0018】
本実施形態に係る複数の参照マイクを使用するANC(active noise control)手法では、複数の参照マイクから複数の参照信号が得られるので、過渡期において情報量が増大する。それにより、誤差信号をゼロにするフィルタθ
D、θ
K、θ
Cの組み合わせが減るので、二次経路の推定誤りが直接法に比べて減少する。即ち、二次経路の推定精度が向上する。また、二次経路の推定精度が向上するので、制御が安定し、それによりステップサイズを大きくすることができる。この結果、適応フィルタの収束速度を向上させ(即ち、制御効果の速さを高め)、且つ、制御の安定性を増すことができる。
【0019】
次に、本実施形態に係るANC手法を具体的に説明する。本実施形態に係るANC手法で使用する適応フィルタの更新則は、参照マイク112−iに関して下記式(1)、(2)、(3)で表される。
【数1】
【0020】
ここで、式(2)の第3項は、他の参照マイクと協調して更新する項であり、コンセンサス項と称する。αはコンセンサス項に対する重みである。重みαは、参照マイク112−1〜112−n間での協調動作(相互作用)の強さを調整するためのパラメータである。
【0021】
本実施形態に係るANC手法で使用する更新則は、直接法の更新則にコンセンサス項を追加したものに一致する。比較として、直接法の更新則を式(4)、(5)、(6)として示す。直接法では、最急降下法を基本とした更新則であるLMS(Least Mean Square)と呼ばれる更新則を利用する。
【数2】
【0022】
単純に直接法の更新則を本実施形態の能動消音装置100に適用した場合、参照マイク112−1〜112−nごとに二次経路の同定結果が異なるものになる。その結果、二次経路同定の精度の向上は達成されない。さらに、更新則の収束条件も満たさなくなる。本実施形態に係るANC手法では、コンセンサス項を追加した更新則を用いることで、二次経路の同定結果が同じになる。
【0023】
次に、本実施形態の更新則(式(1)、(2)、(3))を用いた場合の収束性について説明する。
図2を参照すると、参照マイク112−iに対応する2つの仮想誤差信号e
1i(k)、e
2i(k)は、下記式(7)、(8)のように表される。
【数3】
【0024】
式(8)中の補助信号x
i(k)は下記式(9)のように表される。
【数4】
【0025】
ここで、l
kは数ステップ前のフィルタKiを用いることを意味する。
【0026】
参照マイク112−iに関連する仮想誤差信号e
1i(k)と仮想誤差信号e
2i(k)の和は、式(7)、(8)、(9)から下記式(10)のように導出される。
【数5】
【0027】
ここで、制御スピーカ140に供給される第2制御信号u(k)は、下記式(11)のように表される。式(11)のl
cは数ステップ前のフィルタC
iを用いることを意味する。
【数6】
【0028】
全ての参照マイク112−1〜112−nについての仮想誤差信号の和は、下記式(12)のように表される。
【数7】
【0029】
ここで、二次経路の推定結果が各参照マイクで一致すると仮定すると、即ち、下記式(13)を満たすと仮定すると、式(12)は下記式(14)のように変形される。
【数8】
【0030】
式(14)からは、次の3つの条件が満たされるように適応フィルタを更新することで、誤差信号e
cがゼロに収束することが分かる。
【0031】
第1の条件は、参照マイク112−iに対応する仮想誤差信号e
1i、e
2iがゼロに収束することである。
第2の条件は、フィルタK
i、C
iが収束することである。
第3の条件は、式(13)が満たされることである。
【0032】
本実施形態に係るANC手法は、直接法の収束条件に第3の条件を追加したものに相当する。第3の条件は、二次経路が全ての参照マイク112−1〜112−Nにとって等しいことを意味する。本実施形態では、
図1に示されるように、制御スピーカから誤差マイクまでの経路の伝達特性は全ての参照マイク112−1〜112−Nに関して等しいので、上記第3の条件は、システム構成上合理的な条件である。
【0033】
第1及び第2の条件は、直接法のように、LMSベースの更新則(式(4)、(5)、(6))を使用すれば満たされる。しかしながら、単純にLMSベースの更新則を使用した場合、第3の条件は満たされない。本実施形態では、第3の条件を満たすようにするために、式(2)に示されるように、フィルタK
i(z,k)の更新則にコンセンサス項を追加している。この方法は、勾配項(式(2)の第2項)のみでは、各参照マイクに関する評価関数を下げる方向に進むが、コンセンサス項を追加することにより、各参照マイクに関する評価関数を下げつつ他の参照マイクと協調する方向に進む更新となる。それにより、最終的には第3の条件が満たされる。参照マイク112−iに関する評価関数J
iは、参照マイク112−iに対応する仮想誤差信号e
1i、e
2iに関連し、例えば下記式(15)のように定義される。
【数9】
【0034】
式(2)中の重みαは、上述したように、参照マイク112−1〜112−n間での協調動作の強さを調整するためのパラメータである。式(2)において重みαを大きくする場合、参照マイク112−1〜112−n間での協調動作の強さが増す。これは、デジタルフィルタK
1〜K
nを同一のデジタルフィルタに収束させる度合いを増して、式(15)に示されるような各参照マイクに関する評価関数を最小化する度合いを弱めることに一致する。反対に、重みαを小さくする場合、即ち、参照マイク112−1〜112−n間での協調動作の強さを弱める場合、デジタルフィルタK
1〜K
nを同一のデジタルフィルタに収束させる度合いが弱まり、各参照マイクに関する評価関数を最小化する度合いが増す。従って、重みαを変更することで、各参照マイクに関する評価関数を最小化する度合いとデジタルフィルタK
1〜K
nを同一のデジタルフィルタに収束させる度合いの優先度を調整することが可能である。
【0035】
フィルタ更新部160は、騒音制御中に重みαを調整することができる。一例では、フィルタ更新部160は、騒音発生初期には、各参照マイクは初期フィルタの情報のみしか保持しないため、フィルタ更新を積極的に行う必要があるので、αの値をある程度小さくする(例えば0.5にする)。更新がある程度進んだ後は、他の参照マイクと積極的に協調をとるためにαの値を徐々に1まで増加させる。他の例では、重みαは固定値であり得る。
【0036】
フィルタC
iの更新則を式(3)から下記式(16)に変更すると、過渡期における制御入力の増加をより抑えることができる。フィルタC
iの更新則を式(16)に変更すると、LMSにおける評価関数は、下記式(17)から下記式(18)に変わる。このようにすると、各参照マイクから出力される第1制御信号u
i(k)が制御スピーカへ供給される第2制御信号(制御入力)u(k)から極端に離れることがなくなり、過渡期の制御入力の増加を抑えることができる。α
2は、第1制御信号u
i(k)と第2制御信号u(k)の差を調整するための重みパラメータである。具体的には、重みα
2を大きくすると、フィルタ更新部160は、第1制御信号u
i(k)と第2制御信号u(k)の差が小さくなるように、適用フィルタC
iを更新することになる。
【数10】
【0037】
以上説明したように、本実施形態に係るANC手法では、複数の参照マイクを使用することにより、得られる情報量が増大する。情報量の増大に加えて、同定すべき二次経路(G
4)が複数の参照マイクに関して同一であることから、二次経路の同定の精度を向上することができる。さらに、各参照マイクで取得される参照信号には一般に観測ノイズが含まれるが、複数の参照マイク間での協調動作(式(2)のコンセンサス項)によって観測ノイズの影響が抑制される。また、直接法を用いたANC手法では、参照マイクの配置によって制御効果が変動することが知られているが、本実施形態に係るANC手法では、協調動作によって、複数の参照マイクの中で最良の配置の参照マイクに対応した制御効果を得ることができる。さらにまた、二次経路が精度よく同定されることにより、ANCを行うに当たり必要となる他の経路特性(G
1/G
2、G
1/(G
2G
4))をより正確な情報を用いて同定することが可能となり、システム全体として適応フィルタの収束が速まる。即ち、制御効果がより速まる。
【0038】
図3は、
図1の能動消音装置100を実現するシステム構成を例示している。
図3に示されるように、能動消音装置100は、n個の参照マイク112−1〜112−nを備える。参照マイク112−1〜112−nで取得された参照信号r
1〜r
nは、フィルタ301を通過し、アナログデジタル変換器302でデジタル信号に変換される。フィルタ301は、アンチエイリアス対策及び制御帯域の調整のために設置される。コントローラ303の制御信号演算周期をt[s]とすると、エイリアスを引き起こさないためには、コントローラ303へ供給される信号は、1/(2t)[Hz]以下でなくてはならない。フィルタ301は、ローパスフィルタとして機能する。
【0039】
デジタル信号に変換された参照信号r
1〜r
nは、コントローラ303へ供給される。コントローラ303は、
図1に示したフィルタ処理部120、平均化部130、フィルタ更新部160を実現するものであり、例えば、パーソナルコンピュータ(PC)、集積回路、ディジタルシグナルプロセッサ(DSP)などで実現することができる。
【0040】
コントローラ303で生成された制御信号uは、デジタルアナログ変換器304でアナログ信号に変換されてフィルタ305を通過し、制御スピーカ140へ供給される。フィルタ305は、制御スピーカ140の保護のために設けられる。出力可能な周波数帯域はスピーカごとに決まっており、それ以外の周波数の信号を入力するとスピーカが破損する虞がある。フィルタ305は、制御スピーカ140の破損を防ぐために、制御信号uから制御スピーカ140で出力不可能な信号成分を除去する。
【0041】
誤差マイク150で取得された誤差信号e
cは、フィルタ306を通過し、アナログデジタル変換器307でデジタル信号に変換される。フィルタ306は、フィルタ301と同様に、アンチエイリアス対策及び制御帯域の調整のために設置される。フィルタ306は、同定理論でいわれるプレフィルタの役目を果たすために制御帯域を調整することができる。
【0042】
以上のように、第1の実施形態に係る能動消音装置によれば、騒音(制御対象音)に基づく参照信号を生成する参照マイクを複数備えることにより、得られる情報が増大し、二次経路を精度よく同定することが可能になる。さらに、二次経路が精度よく同定されることにより、適応フィルタの収束が速まる。即ち、騒音を効率的に低減させることができる。
【0043】
(第2の実施形態)
第1の実施形態では、複数の参照マイクを利用しているのに対し、第2の実施形態では、1つの参照マイクを利用する。第2の実施形態では、第1の実施形態と異なる点を中心に説明し、重複する説明を適宜省略する。
【0044】
図4は、第2の実施形態に係る能動消音装置400のシステム構成を概略的に示している。能動消音装置400は、
図4に示されるように、騒音源190から発せられた騒音の音圧を検出して検出信号を出力する1つの参照マイク412を備える。
図4の能動消音装置400は、参照信号生成部を除いて、第1の実施形態に係る能動消音装置100(
図1及び
図3に示される。)と同様の構成を持つ。
【0045】
図5(a)は、本実施形態に係る参照信号生成部の一例510を示し、
図5(b)は、この参照信号生成部510によって生成される複数の仮想参照マイク512−1〜512−nを示している。参照信号生成部510は、
図5(a)に示されるように、1つの参照マイク412、及びこの参照マイク412が出力する検出信号に空間特性フィルタH
1〜H
nを畳み込むことで異なる複数の参照信号r
1〜r
nを生成するフィルタ処理部514を備える。ここで、nは2以上の整数である。フィルタ処理部514は、
図5(b)に示されるように、異なる位置に配置される複数の参照マイク512−1〜512−nを仮想的に生成する。空間特性フィルタH
1〜H
nはそれぞれ、参照マイク412から仮想参照マイク512−1〜512−nまでの空間特性を示す。参照信号生成部510は、1つの参照マイク412で取得された検出信号から異なる複数の参照信号を生成することで、複数の参照マイクを備える参照信号生成部(例えば
図1の参照信号生成部110)と同様の機能を実現することができる。
【0046】
図6(a)は、本実施形態に係る参照信号生成部の他の例610を示し、
図6(b)は、この参照信号生成部610によって生成される複数の仮想参照マイク612−1〜612−nを示している。参照信号生成部610は、
図6(a)に示されるように、1つの参照マイク412、及びこの参照マイク412が出力する検出信号を遅延フィルタH
1〜H
nでフィルタ処理することにより異なる複数の参照信号r
1〜r
nを生成するフィルタ処理部614を備える。参照信号r
1〜r
nは、参照マイクの検出信号を異なる遅延時間だけ遅延させたものである。例えば、フィルタ処理部614は、
図6(b)に示されるように、騒音の伝播方向に沿って一列に配置される複数の参照マイク612−1〜612−nを仮想的に生成する。参照信号生成部610もまた複数の参照マイクを備える参照信号生成部と同様の機能を実現することができる。
【0047】
なお、フィルタ処理部514又はフィルタ処理部614で生成される参照信号のうちの1つ(例えば参照信号r
1)は、参照マイク412で取得される検出信号そのものであってもよい。即ち、実際に配置される参照マイク412と仮想的に生成される参照マイクとによって参照信号生成部が構成される。フィルタ処理部514及びフィルタ処理部614は、例えば、コントローラ303で実現することができる。
【0048】
以上のように、第2の実施形態に係る能動消音装置によれば、1つの参照マイクで取得された参照信号から異なる複数の参照信号を生成することにより、複数の参照マイクを備える第1の実施形態と同様の効果を達成することができる。
【0049】
次に、発明者らは、以下の実験を実施して、上述した実施形態の効果を検証している。
図7(a)及び(b)は実施形態に係るANC手法の制御効果を検証するための実験設計を示す。
図7(a)に示されるように、ダクト700の閉口端702に騒音を発生させる騒音スピーカ(騒音源)704が配置され、その開口端706に制御スピーカ708が配置される。ダクト700は略円筒形状であって、その長さは3mである。誤差マイク710は開口端706からの距離が0.8m、床からの高さが0.6mの位置に配置される。実験では、制御スピーカ708から参照マイクへの回り込みの影響や騒音源704から参照マイクまでの空間コヒーレンスの影響を排除するために、騒音スピーカ704へ供給する騒音信号を参照信号として用いる。また、第2の実施形態で説明した方法で2つの参照マイクを仮想的に設置し、これら仮想の参照マイクが出力する参照信号はそれぞれ、元の参照信号より6タップ、12タップだけ時間遅延しているとする。即ち、本実験で使用する参照信号の数は3つである。
【0050】
図7(a)、(b)に示される実験を実施した結果を
図8から
図10に示す。
図8(a)、(b)、(c)はそれぞれ適応フィルタC
i、D
i、K
iの形状を示す。ここで、i={1,2,3}である。
図8(a)、(b)では、明確に示すために一部を抜き出し示している。
図8(a)からは、適応フィルタC
1、C
2、C
3の間では仮想的に設定したタップ間隔のずれが生じていることがわかり、
図8(b)からは、適応フィルタC
1、C
2、C
3の間では仮想的に設定したタップ間隔のずれが生じていることがわかる。また、
図8(c)からは、適用フィルタK
1、K
2、K
3は一致していることがわかる。このことから、式(2)におけるコンセンサス項がうまく動作していることがわかる。
【0051】
図9(a)は本実施形態に係るANC手法を用いた場合に得られる誤差信号の信号レベルの時系列データを示し、
図9(b)は直接法を用いた場合に得られる誤差信号の信号レベルの時系列データを示している。ただし、この信号レベルは、音圧ではなく騒音計の電圧出力値である。
図9(a)、(b)からは、本実施形態に係るANC手法の方がより速く収束していることがわかる。
図10(a)、(b)、(c)は、6〜10秒、10〜14秒、20〜24秒の区間における1/3オクターブでの制御効果を示している。
図10(a)、(b)、(c)において、ANCを行わない場合の騒音の音圧レベルを破線で示し、直接法を用いた場合の音圧レベルを一点鎖線で示し、本実施形態に係るANC手法を用いた場合の音圧レベルを実線で示している。
図10(a)、(b)、(c)からは、本実施形態に係るANC手法では、直接法より早い段階から制御効果が現れ、最終的に直接法と同等の制御効果が得られることがわかる。なお、500Hz以上の帯域で制御効果が生じていないのは、誤差信号に500Hzのローパスフィルタを通しているためである。この実験結果から本実施形態に係るANC手法が直接法より効率よく騒音を低減していることが理解される。
【0052】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。