特許第5823500号(P5823500)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三井化学株式会社の特許一覧

<>
  • 特許5823500-生分解性樹脂組成物及びその成形体 図000008
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5823500
(24)【登録日】2015年10月16日
(45)【発行日】2015年11月25日
(54)【発明の名称】生分解性樹脂組成物及びその成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/04 20060101AFI20151105BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20151105BHJP
   C08G 63/06 20060101ALI20151105BHJP
   C08L 101/16 20060101ALN20151105BHJP
【FI】
   C08L67/04ZBP
   C08L101/00
   C08G63/06
   !C08L101/16
【請求項の数】10
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-508840(P2013-508840)
(86)(22)【出願日】2012年3月30日
(86)【国際出願番号】JP2012058562
(87)【国際公開番号】WO2012137681
(87)【国際公開日】20121011
【審査請求日】2013年5月24日
(31)【優先権主張番号】特願2011-82160(P2011-82160)
(32)【優先日】2011年4月1日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】前川 真太朗
(72)【発明者】
【氏名】宇杉 真一
(72)【発明者】
【氏名】大西 仁志
【審査官】 藤井 勲
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−345033(JP,A)
【文献】 特開2005−036179(JP,A)
【文献】 特開2006−296972(JP,A)
【文献】 特開2006−299133(JP,A)
【文献】 特開2007−091769(JP,A)
【文献】 特開2008−024851(JP,A)
【文献】 特開2008−050565(JP,A)
【文献】 特開2010−116481(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 67/00 − 67/08
C08L 101/00 − 101/16
C08G 63/00 − 63/91
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒドロキシジカルボン酸及び/又はヒドロキシトリカルボン酸に由来する構成単位(a−1)と、グリコール酸、乳酸、2−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシ吉草酸、2−ヒドロキシカプロン酸、2−ヒドロキシカプリン酸、グリコライド、ラクタイド、p−ジオキサノン、β−プロピオラクトン、β−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン又はε−カプロラクトンに由来する構成単位(a−2)を有する重量平均分子量1,000〜30,000の共重合体(A)、及び、生分解性樹脂(B)を含有する生分解性樹脂組成物(C)であって、前記共重合体(A)中の構成単位(a−1)及び(a−2)以外の構成単位が20モル%以下であり、前記生分解性樹脂組成物(C)の重量平均分子量が50,000以上1,000,000以下である生分解性樹脂組成物。
【請求項2】
構成単位(a−1)が、リンゴ酸及び/又はクエン酸に由来する構成単位である請求項1記載の生分解性樹脂組成物。
【請求項3】
生分解性樹脂(B)が、ポリヒドロキシカルボン酸である請求項1又は2記載の生分解性樹脂組成物。
【請求項4】
生分解性樹脂(B)が、ポリ乳酸である請求項記載の生分解性樹脂組成物。
【請求項5】
共重合体(A)における構成単位(a−1)と構成単位(a−2)のモル組成比[(a−1)/(a−2)]が、1/10〜1/50である請求項1乃至4のいずれか1項に記載の生分解性樹脂組成物。
【請求項6】
共重合体(A)と生分解性樹脂(B)の質量組成比[(A)/(B)]が、共重合体(A)と生分解性樹脂(B)の合計量を100として1/99〜20/80である請求項1乃至5のいずれか1項に記載の生分解性樹脂組成物。
【請求項7】
共重合体(A)の重量平均分子量が2,500〜20,000である請求項1乃至6のいずれか1項に記載の生分解性樹脂組成物。
【請求項8】
前記共重合体(A)が、リンゴ酸−乳酸共重合体又はクエン酸−乳酸共重合体である請求項1乃至7のいずれか1項に記載の生分解性樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1項に記載の生分解性樹脂組成物からなる生分解性成形体。
【請求項10】
請求項1乃至8のいずれか1項に記載の生分解性樹脂組成物からなるフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加水分解性及び透明性に優れた生分解性樹脂組成物、及びこの樹脂組成物からなる生分解性成形体に関する。さらに詳しくは、加水分解性を促進する機能を有し生分解性樹脂に対して良好な分散性を有する共重合体を含有する生分解性樹脂組成物、及び生分解性成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境の悪化に伴い、樹脂のリサイクルや生体に安全で地球環境に対して負荷の少ない添加剤への関心が高まっている。ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリカプロラクトン(PCL)等に代表される樹脂は、自然環境下や生体内で水分や酵素により分解される生分解性樹脂として利用されている。
【0003】
例えばPLAは、加工性が良く成形品の機械的強度が優れているので、使い捨ての容器、包装材等の用途に利用されている。しかし、コンポスト以外の条件下(例えば、海水中、土中)での分解速度が比較的遅いので、数ヶ月内で分解消滅して欲しい用途には使いにくい。また、PLAを徐放性製剤に使用した場合、PLAは体内での分解速度が遅く、薬剤を放出した後に長く体内に残存する。したがって、比較的短期間で薬剤を徐放する製剤へのニーズに十分に対応できない。
【0004】
このようなPLAの問題点を克服すべく、PLAの加水分解速度を向上させる方法として、例えば、PLAにポリエチレングリコール等の親水性添加剤を配合する方法が提案されている。しかし、PLAは親水性が低く、ポリエチレングリコール等の親水性物質とは相溶しにくいため、親水性添加剤が成形時や成形後に浮き出したり(ブリードアウト)、成形品の機械的強度が低下したり、透明性等の外観が損なわれたりして、実用的ではない。
【0005】
また、PLA等の生分解性樹脂の加水分解速度を向上させるために、アスパラギン酸等に由来する構成単位と乳酸等に由来する構成単位を有する共重合体を、分解促進剤としてPLA等の生分解性樹脂に添加した樹脂組成物が提供されている(特許文献1)。この樹脂組成物は用途によっては十分な加水分解性を示す。ただし、消費者ニーズの多様化に伴い、生分解性樹脂に対するニーズも高度化し、用途によっては更に速い分解速度やより高い透明性を持つ樹脂組成物が求められる。
【0006】
また、ポリ乳酸に柔軟性を付与する為の可塑剤として、リンゴ酸飽和エステル化合物やクエン酸飽和エステル化合物を用いることが知られており(特許文献2、特許文献3)、クエン酸飽和エステル化合物を大量に添加した場合はポリ乳酸に加水分解が起きることも知られている(非特許文献1)。しかし、このような可塑剤は少量では加水分解性は発現せず、大量に添加した場合は成形品の機械的強度と耐熱性が大きく低下してしまうので実用的ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−345033号公報
【特許文献2】特開2004−196906号公報
【特許文献3】特開2004−300389号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】L. V. Labrecque, R. A. Kumar, V. Dave, R. A. Gross, S. P. Mccarthy, "Citrate Esters as Plasticizers for Poly(lacticacid)", (US), John Wiley & Sons. Inc., Journal of Applied Polymer Science, 1997, Vol.66, p.1507-1513
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、加水分解性に優れ、透明性に優れる生分解性樹脂組成物、及びこの樹脂組成物からなる成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討した結果、加水分解性を促進する機能を有し生分解性樹脂に対して良好な分散性を有する共重合体を含有する生分解性樹脂組成物を見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち本発明は、
[1]アミノ酸を除く多価カルボン酸に由来する構成単位(a−1)とヒドロキシカルボン酸に由来する構成単位(a−2)を有する重量平均分子量1,000〜30,000の共重合体(A)、及び、生分解性樹脂(B)を含有する生分解性樹脂組成物(C)
であり、好ましくは、以下のいずれかである。
【0012】
[2]多価カルボン酸が、ヒドロキシジカルボン酸及び/又はヒドロキシトリカルボン酸である前記の生分解性樹脂組成物(C)。
【0013】
[3]多価カルボン酸が、リンゴ酸及び/又はクエン酸である前記の生分解性樹脂組成物(C)。
【0014】
[4]生分解性樹脂(B)が、ポリヒドロキシカルボン酸である前記の生分解性樹脂組成物(C)。
【0015】
[5]生分解性樹脂(B)が、ポリ乳酸である前記の生分解性樹脂組成物(C)。
【0016】
[6]共重合体(A)における構成単位(a−1)と構成単位(a−2)のモル組成比[(a−1)/(a−2)]が、1/10〜1/50である前記の生分解性樹脂組成物(C)。
【0017】
[7]共重合体(A)と生分解性樹脂(B)の質量組成比[(A)/(B)]が、共重合体(A)と生分解性樹脂(B)の合計量を100として1/99〜20/80である前記の生分解性樹脂組成物(C)。
【0018】
[8]共重合体(A)の重量平均分子量が2,500〜20,000である前記の生分解性樹脂組成物(C)。
【0019】
[9]前記の生分解性樹脂組成物(C)からなる生分解性成形体。
【0020】
[10]前記の生分解性樹脂組成物(C)からなるフィルム。
【発明の効果】
【0021】
本発明の生分解性樹脂組成物は加水分解性に優れる。その理由は、加水分解性を促進する機能を有する共重合体が生分解性樹脂と良好な相溶性を有するので、生分解性樹脂中に均一に微分散し、加水分解を阻害する要因となりうる相分離を起こすことがないためと推測される。また、本発明の生分解性樹脂組成物は透明性に優れる。その理由は、加水分解性を促進する機能を有する共重合体が、着色の原因となりうるN原子含有官能基を持たないためと推測される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】実施例8と比較例6の波長200〜800nmの光に対する透過率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
<共重合体(A)>
本発明に用いる共重合体(A)は、アミノ酸を除く多価カルボン酸に由来する構成単位(a−1)とヒドロキシカルボン酸に由来する構成単位(a−2)を有する。共重合体(A)はランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体の何れでも構わない。
【0024】
構成単位(a−1)はアミノ酸以外の多価カルボン酸に由来する構成単位であれば良く、特に限定されない。中でも、ヒドロキシジカルボン酸及び/又はヒドロキシトリカルボン酸に由来する構成単位が好ましく、リンゴ酸及び/又はクエン酸に由来する構成単位がより好ましい。
【0025】
構成単位(a−2)はヒドロキシカルボン酸に由来する構成単位であれば良く、特に限定されない。中でも、グリコール酸、乳酸、2−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシ吉草酸、2−ヒドロキシカプロン酸、2−ヒドロキシカプリン酸等のα−ヒドロキシカルボン酸;グリコライド、ラクタイド、p−ジオキサノン、β−プロピオラクトン、β−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン又はε−カプロラクトンに由来する構成単位が好ましく、乳酸又はラクタイドに由来する構成単位がより好ましい。
【0026】
共重合体(A)は、以上説明した構成単位(a−1)及び構成単位(a−2)を有する共重合体であれば良く、特に限定されない。中でも、リンゴ酸−乳酸共重合体、クエン酸−乳酸共重合体が特に好ましい。
【0027】
共重合体(A)における構成単位(a−1)と構成単位(a−2)のモル組成比[(a−1)/(a−2)]は、重合時の仕込量で、好ましくは1/10〜1/50、より好ましくは1/10〜1/20である。モル組成比がこれらの範囲内にあると、分解速度促進効果に優れ、生分解性樹脂(B)との相溶性にも優れた共重合体が得られる。
【0028】
共重合体(A)中には、多価カルボン酸やヒドロキシカルボン酸以外の構成単位(他の共重合成分に由来する単位)が存在していてもよい。ただし、その量は共重合体(A)の性質を大きく損なわない程度であることが必要である。かかる点から、その量は共重合体(A)全体の構成単位100モル%中、およそ20モル%以下であることが望ましい。
【0029】
共重合体(A)の重量平均分子量は1,000〜30,000であり、好ましくは2,500〜20,000である。この重量平均分子量は、後述する実施例に記載の条件で、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により求めた値である。
【0030】
共重合体(A)の製造方法は特に限定されない。一般的には、多価カルボン酸とヒドロキシカルボン酸を所望の比で混合し、触媒の存在下又は非存在下で、加熱減圧下にて脱水重縮合することで得ることができる。また、ラクチド、グリコリド、カプロラクトン等のヒドロキシカルボン酸の無水環状化合物と多価カルボン酸とを反応させることで得ることもできる。
【0031】
<生分解性樹脂(B)>
本発明に用いる生分解性樹脂(B)は、生分解性を有する樹脂であれば良く、特に限定されない。例えば、ポリヒドロキシカルボン酸、ジオールとジカルボン酸からなる脂肪族ポリエステル樹脂を使用できる。
【0032】
本発明において、ポリヒドロキシカルボン酸は、水酸基とカルボキシル基とを併せ有するヒドロキシカルボン酸に由来する繰り返し単位(構成単位)を有する重合体又は共重合体を意味する。
【0033】
ヒドロキシカルボン酸の具体例としては、乳酸、グリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシ−n−酪酸、2−ヒドロキシ−3,3−ジメチル酪酸、2−ヒドロキシ−3−メチル酪酸、2−メチル乳酸、2−ヒドロキシ吉草酸、2−ヒドロキシカプロン酸、2−ヒドロキシラウリン酸、2−ヒドロキシミリスチン酸、2−ヒドロキシパルミチン酸、2−ヒドロキシステアリン酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸、2−ヒドロキシ−3−メチル酪酸、2−シクロヘキシル−2−ヒドロキシ酢酸、マンデル酸、サリチル酸、カプロラクトン等のラクトン類の開環生成物が挙げられる。これらの2種以上を混合して用いても良い。
【0034】
ポリヒドロキシカルボン酸は、生分解性樹脂(B)としての性質を損なわない限り、ヒドロキシカルボン酸以外の他の構成単位(共重合成分)を有していてもよいが、ポリヒドロキシカルボン酸の全構成単位100モル%中、ヒドロキシカルボン酸由来の構成単位は好ましくは20モル%以上であり、より好ましくは50モル%以上であり、特に好ましくは100%である。
【0035】
ポリヒドロキシカルボン酸のうち、共重合体(A)との相溶性の点からは、ヒドロキシカルボン酸が乳酸である重合体または共重合体が好ましく、ポリ乳酸(単独重合体)がより好ましい。ポリ乳酸は、乳酸を出発原料として合成されたものであっても、ラクタイドを出発原料として合成されたものであっても良い。
【0036】
本発明において、ジオールとジカルボン酸からなる脂肪族ポリエステル樹脂は、ジオール及びジカルボン酸に由来する繰り返し単位(構成単位)を有する重合体又は共重合体を意味し、生分解性樹脂(B)としての性質を損なわない限り、ジオールとジカルボン酸からなる脂肪族ポリエステル以外の他の構成単位(共重合成分)を有していてもよい。
【0037】
ジオールとジカルボン酸からなる脂肪族ポリエステル樹脂の具体例としては、ポリエチレンサクシネート、ポリエチレンアジペート、ポリエチレンセバケート、ポリジエチレンサクシネート、ポリジエチレンアジペート、ポリエチレンサクシネートアジペート、ポリジエチレンセバケート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンセバケートが挙げられる。
【0038】
生分解性樹脂(B)の分子量は特に限定されない。共重合体(A)との混合のし易さを考慮すると、生分解性樹脂(B)の重量平均分子量は、好ましくは1,000〜200万、より好ましくは3,000〜100万、特に好ましくは5,000〜50万である。この重量平均分子量は、後述する実施例に記載の条件で、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により求めた値である。
【0039】
<生分解性樹脂組成物(C)>
本発明の生分解性樹脂組成物(C)は、共重合体(A)と生分解性樹脂(B)を混合することにより得られる。その質量組成比[(A)/(B)]は共重合体(A)と生分解性樹脂(B)の合計量を100として、好ましくは1/99〜20/80、より好ましくは5/95〜15/85である。質量組成比がこれらの範囲内にあると、生分解性樹脂(B)の持つ性質を維持しつつ共重合体(A)による分解速度促進効果が発揮されるため好ましい。また、共重合体(A)の量が多いほど分解速度の大きな樹脂組成物が得られる。
【0040】
生分解性樹脂(B)に共重合体(A)を混合する方法は特に限定されない。好ましくは両者を溶融混練するか、溶媒に溶解させ攪拌混合する。共重合体(A)と生分解性樹脂(B)は相溶性が極めて良好であり、均一な樹脂組成物を容易に得ることが出来る。
【0041】
本発明の生分解性樹脂組成物(C)は、生分解性樹脂(B)のもつ性質を大きく損なわない範囲で、共重合体(A)及び生分解性樹脂(B)以外のポリマーや通常の樹脂に添加され得る添加剤が含まれていても良い。
【0042】
生分解性樹脂組成物(C)の分子量は特に限定されない。成形性を考慮すると、生分解性樹脂組成物(C)の重量平均分子量は、好ましくは1,000〜100万、より好ましくは5,000〜50万、特に好ましくは50,000〜30万である。この重量平均分子量は、後述する実施例に記載の条件で、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により求めた値である。
【0043】
<生分解性成形体>
本発明の生分解性成形体は、生分解性樹脂組成物(C)を通常の樹脂成形加工法で成形したものである。この成形体は、具体的には、フィルム、食品包装材、衛生用品用包装材、農園芸資材、繊維、不織布、又は徐放性薬剤であることが好ましい。
【実施例】
【0044】
以下、実施例により本発明を詳述する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0045】
実施例中に示した物性値の測定方法、共重合体の調製方法は以下の通りである。
【0046】
<重量平均分子量(Mw)測定>
試料を溶媒に溶解し(濃度0.5質量%)、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により、重量平均分子量(Mw)を求めた。装置はWaters製 GPCシステム、カラムはSHODEX製 LF−G、LF−804、検出はRIでWaters製2414を用いた。溶媒はクロロホルム、標準物質はポリスチレンを用い、流速1.0ml/分で測定を行った。
【0047】
<示差走査熱量計(DSC)によるガラス転移点温度(Tg)測定>
装置は島津製作所製DSC−60を用い、4〜5mg程度の試料について、昇温速度10℃/分で20℃〜250℃の温度範囲にて測定を行ない、ガラス転移点温度(Tg)を求めた。
【0048】
<引張強度測定>
プレスフィルムを三化ダンベル型に打ち抜き、23℃、20mm/minの引張速度条件で測定した。
【0049】
<調製例1:リンゴ酸−乳酸共重合体>
撹拌装置、脱気口を備えた500mlサイズのガラス製反応器に、和光純薬製D,L−リンゴ酸13.4g(0.1モル)、Purac製90%L−乳酸100.2g(1.0モル)及び和光純薬製チタンテトライソプロポキシド18.5mg(0.0016モル)を装入した。この場合、仕込みのリンゴ酸と乳酸とのモル比は1:10になる。反応器をオイルバスに漬け、135℃、10mmHgで窒素を流通させながら30時間撹拌した。反応器をオイルバスから取り出し、反応溶液をステンレスバット上に取り出して冷却固化させた。得られた無色透明の固体を粉砕し、粉末状ポリマー65gを得た。ポリマーのMwは3,300であった。
【0050】
<調製例2:リンゴ酸−乳酸共重合体>
D,L−リンゴ酸の量を6.7g(0.05モル)に変更したこと以外は、調製例1と同様にして各成分を反応器に装入し、反応させて、粉末状ポリマー62gを得た。この場合、仕込みのリンゴ酸と乳酸とのモル比は1:20になる。ポリマーのMwは3,900であった。
【0051】
<調製例3:リンゴ酸−乳酸共重合体>
D,L−リンゴ酸の量を2.68g(0.02モル)に変更したこと以外は、調製例1と同様にして各成分を反応器に装入し、反応させて、粉末状ポリマー60gを得た。この場合、仕込みのリンゴ酸と乳酸とのモル比は1:50になる。ポリマーのMwは5,000であった。
【0052】
<調製例4:クエン酸−乳酸共重合体>
D,L−リンゴ酸の代わりに、和光純薬製クエン酸1水和物21.0g(0.1モル)を使用したこと以外は、調製例1と同様にして各成分を反応器に装入し、反応させて(但し反応温度は160℃)、粉末状ポリマー69gを得た。この場合、仕込みのクエン酸と乳酸とのモル比は1:10になる。ポリマーのMwは2,600であった。
【0053】
<比較調製例1:アスパラギン酸−乳酸共重合体>
実施例1と同じガラス製反応器に、和光純薬製L−アスパラギン酸13.3g(0.1モル)、Purac製90%L−乳酸50.1g(0.5モル)及び和光純薬製チタンテトライソプロポキシド18.5mg(0.0016モル)を装入した。この場合、仕込みのアスパラギン酸と乳酸とのモル比は1:5になる。反応器をオイルバスに漬け、160℃で窒素を流通させながら30時間撹拌した。30分〜1時間程度で粉末は次第に消滅し、反応液は黄色の着色が見られた。反応器をオイルバスから取り出し、反応溶液をステンレスバット上に取り出して冷却固化させた。得られた薄黄褐色透明の固体を粉砕し、粉末状ポリマー32gを得た。ポリマーのMwは6,200であった。
【0054】
[実施例1]
Mwが24.0万のポリ乳酸(三井化学社製LACEA H−400)54gに、調製例1で得たリンゴ酸−乳酸共重合体(リンゴ酸と乳酸とのモル比1:10)を6g添加し、東洋精機製ラボプラストミル20C200を用い、温度180℃、回転数50rpmの条件で10分間混練を行った。
【0055】
得られたポリ乳酸樹脂組成物を、2MPa、180℃、5分間の条件で、熱プレス機でプレスし、150μm厚のフィルムを作製した。フィルムのMwは18.5万、DSCによるガラス転移点温度(Tg)は55.4℃、引張強度は61.1MPaで、無色透明で柔軟かつ強度の高いフィルムであった。コニカミノルタ製色彩色差計CR−300を用い、フィルムのYI値を測定したところ、YI値は4.0であった。
【0056】
上記のフィルムを蒸留水に浸漬し、恒温槽中で50℃に保持した。所定期間ごとにフィルムを取り出して乾燥し、分子量を測定した。浸漬後、フィルムにはすぐに白化が見られた。浸漬1.5日後、3日後、5日後のフィルムのMw保持率とフィルムの引張強度保持率をそれぞれ表1及び表2に示す。5日経過時にはフィルムの引張強度が0になった。
【0057】
また、上記のフィルムを、蒸留水に浸漬し、恒温槽中で60℃に保持した。所定期間ごとにフィルムを取り出して乾燥し、分子量を測定した。浸漬後、フィルムにはすぐに白化が見られた。浸漬14時間後、19時間後、24時間後のフィルムのMw保持率とフィルムの引張強度保持率をそれぞれ表3及び表4に示す。19時間経過時にはフィルムの引張強度が0になった。
【0058】
[実施例2]
調製例1で得たリンゴ酸−乳酸共重合体の代わりに調製例4で得たクエン酸−乳酸共重合体6gを使用したこと以外は、実施例1と同様にして150μm厚のフィルムを作製した。フィルムのMwは17.8万、Tgは55.0℃、引張強度は61.2MPaで、無色透明で柔軟かつ強度の高いフィルムであった。YI値は4.0であった。このフィルムに対して、実施例1と同様にして分解性の評価を行った。50℃の条件、及び60℃の条件のいずれも、蒸留水に浸漬後、フィルムにはすぐに白化が見られた。また50℃の条件では5日経過時、60℃の条件では19時間経過時にはフィルムの引張強度が0になった。評価結果を表1〜表4に示す。
【0059】
[実施例3]
ポリ乳酸の量を59.4g、調製例1で得たリンゴ酸−乳酸共重合体の量を0.6gに変更したこと以外は、実施例1と同様にして150μm厚のフィルムを作製した。フィルムのMwは21.0万、Tgは59.8℃、引張強度は62.3MPaで、無色透明で柔軟かつ強度の高いフィルムであった。YI値は4.0であった。このフィルムに対して、実施例1と同様にして分解性の評価を行った。評価結果を表1〜表4に示す。
【0060】
[実施例4]
ポリ乳酸の量を48g、調製例1で得たリンゴ酸−乳酸共重合体の量を12gに変更したこと以外は、実施例1と同様にして150μm厚のフィルムを作製した。フィルムのMwは9.9万、Tgは50.9℃、引張強度は59.1MPaで、無色透明で柔軟かつ強度の高いフィルムであった。YI値は4.0であった。このフィルムに対して、実施例1と同様にして分解性の評価を行った。50℃の条件、及び60℃の条件のいずれも、蒸留水に浸漬後、フィルムにはすぐに白化が見られた。また50℃の条件では1.5日経過時、60℃の条件では14時間経過時にはフィルムの引張強度が0になった。評価結果を表1〜表4に示す。
【0061】
[実施例5]
調製例1で得たリンゴ酸−乳酸共重合体(リンゴ酸と乳酸とのモル比1:10)の代わりに調製例2で得たリンゴ酸−乳酸共重合体(リンゴ酸と乳酸とのモル比1:20)6gを使用したこと以外は、実施例1と同様にして150μm厚のフィルムを作製した。フィルムのMwは18.8万、Tgは56.1℃、引張強度は62.5MPaで、無色透明で柔軟かつ強度の高いフィルムであった。YI値は3.9であった。このフィルムに対して、実施例1と同様にして分解性の評価を行った。50℃の条件、及び60℃の条件のいずれも、蒸留水に浸漬後、フィルムにはすぐに白化が見られた。評価結果を表1〜表4に示す。
【0062】
[実施例6]
ポリ乳酸の量を48gに変更し、また調製例1で得たリンゴ酸−乳酸共重合体(リンゴ酸と乳酸とのモル比1:10)の代わりに調製例3で得たリンゴ酸−乳酸共重合体(リンゴ酸と乳酸とのモル比1:50)12gを使用したこと以外は、実施例1と同様にして150μm厚のフィルムを作製した。フィルムのMwは14.5万、Tgは51.1℃、引張強度は60.6MPaで、無色透明で柔軟かつ強度の高いフィルムであった。YI値は4.1であった。このフィルムに対して、実施例1と同様にして分解性の評価を行った。50℃の条件、及び60℃の条件のいずれも、蒸留水に浸漬後、フィルムにはすぐに白化が見られた。また50℃の条件では5日経過時、60℃の条件では19時間経過時にはフィルムの引張強度が0になった。評価結果を表1〜表4に示す。
【0063】
[実施例7]
ポリ乳酸の代わりにMwが15.0万のポリブチレンサクシネートアジペート(昭和高分子社製ビオノーレ 3010)54gを使用したこと以外は、実施例1と同様にして150μm厚のフィルムを作製した。フィルムのMwは12.3万で、白色で柔軟かつ強度の高いフィルムであった。このフィルムに対して、実施例1と同様にしてMw保持率の測定による分解性の評価を行った。評価結果を表1及び表3に示す。
【0064】
[比較例1]
調製例1で得たリンゴ酸−乳酸共重合体を使用しなかったこと以外は、実施例1と同様にして150μm厚のフィルムを作製した。フィルムのMwは23.1万、Tgは59.8℃、引張強度は67.0MPaで、無色透明のフィルムであった。YI値は3.9であった。このフィルムに対して、実施例1と同様にして分解性の評価を行った。何れの温度条件でもフィルムの外観は無色透明のままであった。評価結果を表1〜表4に示す。
【0065】
[比較例2]
調製例1で得たリンゴ酸−乳酸共重合体の代わりに比較調製例1で得たアスパラギン酸−乳酸共重合体6gを使用したこと以外は、実施例1と同様にして150μm厚のフィルムを作製した。フィルムのMwは21.7万、Tgは59.8℃、引張強度は63.2MPaで、黄褐色透明のフィルムであった。YI値は18.9であった。このフィルムに対して、実施例1と同様にして分解性の評価を行った。評価結果を表1〜表4に示す。
【0066】
[比較例3]
調製例1で得たリンゴ酸−乳酸共重合体を使用しなかったこと以外は、実施例7と同様にして150μm厚のフィルムを作製した。フィルムのMwは14.8万で、白色のフィルムであった。このフィルムに対して、実施例1と同様にしてMw保持率の測定による分解性の評価を行った。評価結果を表1及び表3に示す。
【0067】
[比較例4]
ポリ乳酸の量を59.4gに変更し、また調製例1で得たリンゴ酸−乳酸共重合体の代わりに東京化成製O−アセチルクエン酸トリエチル0.6gを使用したこと以外は、実施例1と同様にして150μm厚のフィルムを作製した。フィルムのMwは23.2万、Tgは58.2℃、引張強度は62.3MPaで、無色透明のフィルムであった。YI値は3.9であった。このフィルムに対して、実施例1と同様にして分解性の評価を行った。評価結果を表1〜表4に示す。
【0068】
[比較例5]
調製例1で得たリンゴ酸−乳酸共重合体の代わりに東京化成製O−アセチルクエン酸トリエチル6gを使用したこと以外は、実施例1と同様にして150μm厚のフィルムを作製した。フィルムのMwは22.9万、Tgは44.1℃、引張強度は28.5MPaで、無色透明のフィルムであった。YI値は4.0であった。このフィルムに対して、実施例1と同様にして分解性の評価を行った。評価結果を表1〜表4に示す。
【0069】
【表1】
【0070】
【表2】
【0071】
【表3】
【0072】
【表4】
表1〜4に示すように、ポリ乳酸に共重合体(A)を配合した実施例1〜6のフィルムは、ポリ乳酸に何も配合しなかった比較例1のフィルムやポリ乳酸にO−アセチルクエン酸トリエチルを配合した比較例4及び5のフィルムよりも分解性が優れていた。
【0073】
ポリ乳酸に共重合体(A)を6g配合した実施例1、2及び5のフィルムは、ポリ乳酸にアスパラギン酸−乳酸共重合体を6g配合した比較例2のフィルムよりも分解性が優れていた。また、先に述べた通り比較例2のフィルムは着色した黄褐色透明だが、実施例1〜6のフィルムは無色透明であった。
【0074】
実施例7ではポリブチレンサクシネートアジペートに共重合体(A)を配合したので、ポリブチレンサクシネートアジペートに何も配合しなかった比較例3よりも分解性が優れていた。
【0075】
[実施例8]
実施例1で得たフィルムについて、島津製作所製UV−3100PCを用いて、波長200〜800nmの光に対する透過率を1nm毎に測定した。結果を図1に示す。
【0076】
[比較例6]
比較例2で得たフィルムについて、実施例8と同様にして、波長200〜800nmの光に対する透過率を1nm毎に測定した。結果を図1に示す。
【0077】
図1に示すように、実施例8[ポリ乳酸に共重合体(A)を6g配合した実施例1のフィルム]は、比較例6[ポリ乳酸にアスパラギン酸−乳酸共重合体を6g配合した比較例2のフィルム]よりも波長200〜800nmの光に対する透過率に優れていた。
【0078】
[実施例9]
実施例1で得たフィルムを23±2℃、50±5%RH環境下で放置した。放置後14日後、23日後、52日後、107日後、253日後、368日後のフィルムのMw保持率とフィルムの引張強度保持率をそれぞれ表5及び表6に示す。
【0079】
[比較例7]
比較例1で得たフィルムについて、実施例9と同様にして保存安定性の評価を行った。評価結果を表5及び表6に示す。
【0080】
【表5】
【0081】
【表6】
表5及び表6に示すように、実施例9[ポリ乳酸に共重合体(A)を配合した実施例1フィルム]は、通常の保存環境(23℃、50%RH)下では、比較例7[ポリ乳酸に何も配合しなかった比較例1のフィルム]とほぼ同等の保存安定性を示し、特に引張強度については殆ど低下しなかった。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明の生分解性樹脂組成物及びその成形体は、例えばフィルム、食品包装材、衛生用品用包装材、農園芸資材、繊維、不織布、徐放性薬剤等、優れた分解速度と高い透明性が求められる用途に好適に使用できる。
図1