特許第5823933号(P5823933)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5823933
(24)【登録日】2015年10月16日
(45)【発行日】2015年11月25日
(54)【発明の名称】燃料電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/02 20060101AFI20151105BHJP
   H01M 8/24 20060101ALI20151105BHJP
   H01M 8/10 20060101ALI20151105BHJP
【FI】
   H01M8/02 S
   H01M8/02 B
   H01M8/24 S
   H01M8/10
   H01M8/02 E
【請求項の数】14
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-172218(P2012-172218)
(22)【出願日】2012年8月2日
(65)【公開番号】特開2014-32818(P2014-32818A)
(43)【公開日】2014年2月20日
【審査請求日】2014年10月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社日本自動車部品総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】松廣 泰
(72)【発明者】
【氏名】北川 仁之
(72)【発明者】
【氏名】栗原 卓也
【審査官】 守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−305006(JP,A)
【文献】 特開2007−048616(JP,A)
【文献】 特開2006−114227(JP,A)
【文献】 特開2003−077499(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カソード側のセパレータとアノード側のセパレータを対にして重ね合わせたセルを複数積層した燃料電池であって、
複数積層された前記セルの積層方向両端以外に存在するセルにおいて、前記一対のセパレータ間に設けられた絶縁部材の一部がゴム弾性を有しない硬質の部材で構成され、他の一部が弾性材により構成されていることを特徴とする燃料電池。
【請求項2】
前記硬質の部材は、複数積層された前記セル間に設けられたガスケット下部に対応する部分であり、前記弾性材により構成される部分は前記硬質の部材の両端に配置されていることを特徴とする、請求項1に記載の燃料電池。
【請求項3】
前記硬質の部材は特定のセル間に設けられた絶縁部材であり、前記弾性材により構成された部分は少なくとも当該特定のセル以外のセル間に設けられた絶縁部材であることを特徴とする、請求項1に記載の燃料電池。
【請求項4】
MEGAと、前記MEGAを挟持する一対のセパレータと、酸化剤ガス、燃料ガスおよび冷却水の各々を供給するためのマニホールドと、を備えたセルを積層した燃料電池であって、
前記マニホールドおよび前記セルの外周部のアノードまたはカソードのセパレータ上に前記マニホールドの気密維持のために配置されたガスケットと、
前記ガスケットが配置された前記セパレータの反対側に、前記セルを積層する場合の隣接セルのガスケットが接する平面部と、
前記平面部と同じ側のセパレータに、前記平面部に隣接して配置され、前記ガスケットの潰れ量を制限するための凸部と、
を備え、
前記凸部を形成するセパレータと反対側のセパレータとに挾まれた絶縁材料がゴムまたはゴム弾性を有する軟質樹脂であり、かつ前記平面部を形成するセパレータと反対側のセパレータとに挟まれた絶縁材料がゴム弾性を有しない硬質樹脂であることを特徴とする、請求項1に記載の燃料電池。
【請求項5】
前記平面部を形成するセパレータと反対側のセパレータとに挟まれたゴム弾性を有しない硬質樹脂がポリプロピレン系樹脂、オレフィン系樹脂、またはエポキシ系樹脂、または高加硫ゴムであることを特徴とする、請求項4に記載の燃料電池。
【請求項6】
前記凸部を形成するセパレータと反対側のセパレータとに挟まれた絶縁材料が、EPDMゴムまたはフロン系ゴムまたは低高分子量ポリエチレン、低高分子量ポリプロピレンであることを特徴とする、請求項4または5に記載の燃料電池。
【請求項7】
前記平面部を形成するセパレータと反対側のセパレータとに挟まれたゴム弾性を有しない硬質樹脂が、凸部を形成するセパレータと反対側のセパレータとの間に、隙間または、溝または、凹み、または凹凸、または多孔質層を有することを特徴とする、請求項4に記載の燃料電池。
【請求項8】
前記平面部を形成するセパレータと反対側のセパレータとに挟まれたゴム弾性を有しない硬質樹脂がポリプロピレン系樹脂、オレフィン系樹脂、またはエポキシ系樹脂、または高加硫ゴムであることを特徴とする、請求項7に記載の燃料電池。
【請求項9】
前記凸部を形成するセパレータと反対側のセパレータとに挟まれた絶縁材料が、EPDMゴムまたはフロン系ゴムまたは低高分子量ポリエチレン、低高分子量ポリプロピレンであることを特徴とする、請求項7または8に記載の燃料電池。
【請求項10】
前記マニホールドおよびセルの外周部のアノードまたはカソードのセパレータ上にマニホールドの気密維持のためのガスケットが配置され、ガスケットが配置されたセパレータの反対側に、セルを積層する場合の隣接セルのガスケットが接する平面部と、前記平面部と同じ側のセパレータに、前記平面部に隣接して配置され、ガスケットの潰れ量を制限するための凸部を備え、前記凸部および前記平面部を形成するセパレータと反対側のセパレータとに挟まれた絶縁材料がゴムまたはゴム弾性を有する軟質樹脂である低弾性セルと、
前記マニホールドおよびセルの外周部のアノードまたはカソードのセパレータ上にマニホールドの気密維持のためのガスケットが配置され、ガスケットが配置されたセパレータの反対側に、セルを積層する場合の隣接セルのガスケットが接する平面部と、前記平面部と同じ側のセパレータに、前記平面部に隣接して配置され、ガスケットの潰れ量を制限するための凸部を備え、前記凸部および前記平面部を形成するセパレータと反対側のセパレータとに挟まれた絶縁材料がゴムまたはゴム弾性を有しない硬質樹脂である高弾性セルと、
を2種類積層してなることを特徴とする、請求項4に記載の燃料電池。
【請求項11】
多数の低弾性セルと少数高弾性セルとを積層してなり、かつ低弾性セルの枚数割合が高弾性セルより多いことを特徴とする、請求項10に記載の燃料電池。
【請求項12】
多数の低弾性セルと少数高弾性セルとを積層してなり、かつ低弾性セルの枚数割合が高弾性セルに対して80枚:1枚〜20枚:1枚であることを特徴とする、請求項10に記載の燃料電池。
【請求項13】
高弾性セルとして用いるセルの硬質樹脂がポリプロピレン系樹脂、オレフィン系樹脂、またはエポキシ系樹脂、または高加硫ゴムであることを特徴とする、請求項10〜12のいずれか一項に記載の燃料電池。
【請求項14】
低弾性セルとして用いるセルの軟質樹脂がEPDMゴムまたはフロン系ゴムまたは低高分子量ポリエチレン、低高分子量ポリプロピレンであることを特徴とする、請求項10〜13のいずれか一項に記載の燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池には、マニホールドとセル発電部を繋ぐ反応ガス流路となる隙間が形成されているものがある。従来、このような隙間に対し、隙間の間隔を維持するためのリブを配置することで補強するようにした燃料電池が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−128040号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような燃料電池においては、マニホールド外周部(マニホールドの外周の近傍部分)や梁部(図4の符号511,513,514が示す梁部を参照。なお、図4において、符号512はマニホールド外周部を示す。)の厚さ方向の剛性がセル発電部における剛性と同等になることから、マニホールド外周部とセル発電部との間に温度差が生じた場合や、セル発電部のMEGA(固体電解質膜・電極触媒層・ガス拡散層複合体)が含水によって厚さに変化が生じた場合に、セル発電部とマニホールド部との間で厚さの不均衡が生じ、セル発電部への適正な面圧を維持できなくなる問題があった。
【0005】
そこで、本発明は、セル発電部とマニホールド部との間で厚さの不均衡が生じてもセル発電部への適正な面圧が維持できるようにした燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる課題を解決するべく本発明者は種々の検討を行った。従来の燃料電池においては、セル面内のマニホールド外周部の厚さ方向の剛性が、マニホールドとセル発電部を繋ぐ反応ガス流路となる隙間のある部位では、隙間の介在により他部位より剛性が弱く、セルを積層した場合のシールのためのガスケットがマニホールド外周部に押し付けられた際に不均等な変形を起こしやすいことに対し、上記隙間の間隔を維持するためのリブを配置することで補強し、不均質な変形を防止する構造とする場合があった。ところが、上記構造は、マニホールド外周部や梁部の厚さ方向の剛性が発電部と同等になるため、発電部とマニホールド部との間で厚さの不均衡が生じる場合があることは上述したとおりである。
【0007】
このような問題に対しては、従来、マニホールド外周部位の材料や寸法の不均質に基づく締め付け力の不均質を、セルを形成するアノード側・カソード側の2枚のセパレータの間にゴム等の絶縁性の弾性体を挟んで弾性をもたせ、その弾性により面内の圧力の不均質を緩和させ、かつ燃料電池の発電部位である、電解質膜、触媒層、拡散層が水分含有量により厚さが変化した場合の面圧変化を吸収する構造が提案されている(図6参照)。
【0008】
ところが、上記構造では、セルを積層する過程において、積層される各々のセルが積層方向と垂直な方向にずれたり、傾斜したりした場合に、ガスケット先端とリブ先端を起点とするモーメントが金属板で形成されるセパレータにかかるため、当該セパレータ、特に薄いセパレータが変形するおそれがある(図7参照)。このためにセパレータを構成する金属板にある程度の板厚が必要となり、板厚低減に限界があるためコスト上昇要因となっていた。
【0009】
以上のように、燃料電池の構造の最適化を実行することは非常に困難であるが、種々の点に着目してさらに検討した本発明者は、かかる課題の解決に結び付く新たな知見を得るに至った。
【0010】
本発明はかかる知見に基づくもので、カソード側のセパレータとアノード側のセパレータを対にして重ね合わせたセルを複数積層した燃料電池であって、複数積層されたセルの積層方向両端以外に存在するセルにおいて、一対のセパレータ間に設けられた絶縁部材の一部が硬質の部材で構成され、他の一部が弾性材により構成されていることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る燃料電池においては、絶縁部材の一部が硬質であることにより、セル締結時の変形を抑制することが可能となる。また、絶縁部材の他の一部が弾性材により構成されているため、全体が硬質材料で形成されたものと比べ、厚さの不均衡に対しても面圧を維持しやすくなる。
【0012】
かかる燃料電池において、硬質の部材は、複数積層されたセル間に設けられたガスケット下部に対応する部分であり、弾性材により構成される部分は硬質の部材の両端に配置されていることが好ましい。
【0013】
また、上記燃料電池において、硬質の部材は特定のセル間に設けられた絶縁部材であり、弾性材により構成された部分は少なくとも当該特定のセル以外のセル間に設けられた絶縁部材であることが好ましい。
【0014】
また、上述した燃料電池は、MEGAと、前記MEGAを挟持する一対のセパレータと、酸化剤ガス、燃料ガスおよび冷却水の各々を供給するためのマニホールドと、を備えたセルを積層した燃料電池であって、
前記マニホールドおよび前記セルの外周部のアノードまたはカソードのセパレータ上に前記マニホールドの気密維持のために配置されたガスケットと、
前記ガスケットが配置された前記セパレータの反対側に、前記セルを積層する場合の隣接セルのガスケットが接する平面部と、
前記平面部と同じ側のセパレータに、前記平面部に隣接して配置され、前記ガスケットの潰れ量を制限するための凸部と、
を備え、
前記凸部を形成するセパレータと反対側のセパレータとに挾まれた絶縁材料がゴムまたはゴム弾性を有する軟質樹脂であり、かつ前記平面部を形成するセパレータと反対側のセパレータとに挟まれた絶縁材料がゴム弾性を有しない硬質樹脂であることが好ましい。
【0015】
この場合、前記平面部を形成するセパレータと反対側のセパレータとに挟まれたゴム弾性を有しない硬質樹脂がポリプロピレン系樹脂、オレフィン系樹脂、またはエポキシ系樹脂、または高加硫ゴムであることが好ましい。
【0016】
また、前記凸部を形成するセパレータと反対側のセパレータとに挟まれた絶縁材料が、EPDMゴムまたはフロン系ゴムまたは低高分子量ポリエチレン、低高分子量ポリプロピレンであることが好ましい。
【0017】
上述の燃料電池は、前記平面部を形成するセパレータと反対側のセパレータとに挟まれたゴム弾性を有しない硬質樹脂が、凸部を形成するセパレータと反対側のセパレータとの間に、隙間または、溝または、凹み、または凹凸、または多孔質層を有することが好ましい。
【0018】
この場合、前記平面部を形成するセパレータと反対側のセパレータとに挟まれたゴム弾性を有しない硬質樹脂がポリプロピレン系樹脂、オレフィン系樹脂、またはエポキシ系樹脂、または高加硫ゴムであることが好ましい。
【0019】
また、前記凸部を形成するセパレータと反対側のセパレータとに挟まれた絶縁材料が、EPDMゴムまたはフロン系ゴムまたは低高分子量ポリエチレン、低高分子量ポリプロピレンであることが好ましい。
【0020】
また、上述の燃料電池は、
前記マニホールドおよびセルの外周部のアノードまたはカソードのセパレータ上にマニホールドの気密維持のためのガスケットが配置され、ガスケットが配置されたセパレータの反対側に、セルを積層する場合の隣接セルのガスケットが接する平面部と、前記平面部と同じ側のセパレータに、前記平面部に隣接して配置され、ガスケットの潰れ量を制限するための凸部を備え、前記凸部および前記平面部を形成するセパレータと反対側のセパレータとに挟まれた絶縁材料がゴムまたはゴム弾性を有する軟質樹脂である低弾性セルと、
前記マニホールドおよびセルの外周部のアノードまたはカソードのセパレータ上にマニホールドの気密維持のためのガスケットが配置され、ガスケットが配置されたセパレータの反対側に、セルを積層する場合の隣接セルのガスケットが接する平面部と、前記平面部と同じ側のセパレータに、前記平面部に隣接して配置され、ガスケットの潰れ量を制限するための凸部を備え、前記凸部および前記平面部を形成するセパレータと反対側のセパレータとに挟まれた絶縁材料がゴムまたはゴム弾性を有しない硬質樹脂である高弾性セルと、
を2種類積層してなることが好ましい。
【0021】
この場合、多数の低弾性セルと少数高弾性セルとを積層してなり、かつ低弾性セルの枚数割合が高弾性セルより多いことが好ましい。
【0022】
また、多数の低弾性セルと少数高弾性セルとを積層してなり、かつ低弾性セルの枚数割合が高弾性セルに対して80枚:1枚〜20枚:1枚であることが好ましい。
【0023】
また、高弾性セルとして用いるセルの硬質樹脂がポリプロピレン系樹脂、オレフィン系樹脂、またはエポキシ系樹脂、または高加硫ゴムであることが好ましい。
【0024】
また、低弾性セルとして用いるセルの軟質樹脂がEPDMゴムまたはフロン系ゴムまたは低高分子量ポリエチレン、低高分子量ポリプロピレンであることが好ましい。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、セル発電部とマニホールド部との間で厚さの不均衡が生じてもセル発電部への適正な面圧が維持できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】燃料電池を構成するセルの断面図である。
図2】積層途中の複数のセルおよび積層方向の一端に存在するセルを含む形で表現した、積層セルの断面図である。
図3】セルの一部を拡大して示す断面図である。
図4】セルの平面図である。
図5図4のV−V線におけるセルの断面図である。
図6】電解質膜、触媒層、拡散層が水分含有量により厚さが変化した場合の面圧変化を吸収する構造例を示すセルの部分断面図である。
図7】セル締結過程での各セルの積層方向に垂直なズレおよび傾きを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態の一例に基づいて詳細に説明する。
【0028】
図1図7に本発明にかかる燃料電池の実施形態を示す。本発明にかかる燃料電池は、カソード側のセパレータとアノード側のセパレータを対にして重ね合わせたセルを複数積層した燃料電池である。また、複数積層されたセルの積層方向両端以外に存在するセルにおいては、一対のセパレータ間に設けられた絶縁部材の一部が硬質の部材で構成され、他の一部が弾性材により構成されている。
【0029】
<実施形態(1)>
図1図4に、本発明の第1の実施形態を示す。
【0030】
一般的に、燃料電池のセルの発電性能を維持するためには、セル発電部106にかかる厚さ、および上下方向の面圧を適正に維持する必要がある。このため、セルを積層する湯合の積層高さおよび締結力は、セル発電部106内部のMEGA109が含水量変化や温度変化またはセル発電部106とセル外周部111との温度差によって寸法変化してもそれを吸収可能な寸法範囲、または締結力範囲とできるような図示しない締結構造を必要とする。
【0031】
そこで、凸部151、絶縁性のゴムまたはゴム弾性を有する樹脂171、ガスケット潰れ量を制限するための凸部154、絶縁性のゴムまたはゴム弾性を有する樹脂174の図面上下方向の弾性率をセル発電部106の上下方向の弾性率の1/3〜1/10程度とし、セル発電部106の厚さ変化が起こっても、これによる寸法変化を吸収する構造が考えられる(図6参照)。
【0032】
しかし、こうした構造によりマニホールド103の周囲の上下方向の弾性率を下げると、同時に曲げ弾性率が低下し、特にスタックを組み立てる締結過程で生じる曲げモーメントにより、マニホールド103の周囲が変形しやすくなるという問題が生じうる(図7参照)。
【0033】
具体的には、曲げモーメントは、締結過程での各セルの積層方向に垂直なズレおよび傾きに起因し(図7参照)、締結途中過程で図7中の矢印のような、力の結果として発生し、モーメント距離が長く、かつ対向したセパレータの間隔が短くなる、平面部(隣接セルのガスケットがあたる平面)161,絶縁性の硬質樹脂182の剛性が不足する傾向がある。
【0034】
従来構造では、平面部161,絶縁性の硬質樹脂182は間に挟んでいるのがゴム弾性を持つ軟質樹脂であるため、特にせん断方向の曲げに対しては対向するセパレータが図左右方向にはほぼ自由に動くため、曲げに対する剛性は、ほぼ金属板1枚の剛性だけであることが問題である。つまりこの問題は前記間に挟んでいる軟質樹脂が、モーメントを受け持つようにすることで抑制可能である。
【0035】
そこで図1に示すように、平面部161,絶縁性の硬質樹脂182と対向するセパレータの間の樹脂材料を絶縁性の硬質樹脂181,182のように、ゴム弾性を持たない硬質樹脂として、曲げモーメントを受け持たすことが出来る。絶縁性の硬質樹脂181,182はセパレータ金属板厚さよりも通常3〜4倍厚く曲げモーメントを受ける幅を広くでき曲げ耐性の向上を図って、セパレータ変形を防ぐことができる(図4参照)。
【0036】
<実施形態(2)>
図2図3図4は本発明の効果を示す第1例を示す代表図である。
【0037】
一方、別の方法として、締結時の曲げモーメントの原因となるズレを抑制する方法がある。
【0038】
前述したような従来構造では、図4、506の発電領域に比べて511,512の曲げおよび振れに対する剛性が低いため、積層過程で、ズレが斜め傾きを呼び、それが更にズレを拡大する。そこで、絶縁材料をすべて硬質樹脂として511,512の曲げ・振れ剛性を高めることが対策として考えられる。
【0039】
しかしながらこの構造は、曲げ・振れだけでなく、上下厚さ方向の剛性をも高めてしまい、前記従来構造の利点である、セル発電部106にかかる図1上下方向の面圧を適正に保つという特徴を失することとなる。
【0040】
そこで、図2のように、こうしたB,Cの曲げ・振れ剛性を高めたセルと、上下方向の面圧を適正に維持する機能を持つセルを併用して、ひとつのスタックとすることで、両者の特徴を維持しつつ、曲げモーメントの発生を抑制し、セパレータ変形を防ぐことができる(図4参照)。
【0041】
なお、平面部を形成するセパレータと反対側のセパレータとに挟まれたゴム弾性を有しない硬質樹脂は、例えば、ポリプロピレン系樹脂、オレフィン系樹脂、またはエポキシ系樹脂、または高加硫ゴムなどである。
【0042】
また、凸部を形成するセパレータと反対側のセパレータとに挟まれた絶縁材料は、例えば、EPDMゴムまたはフロン系ゴムまたは低高分子量ポリエチレン、低高分子量ポリプロピレンである。
【0043】
<実施形態(3)>
本実施形態の燃料電池は、
・セルを積層し締め付ける際に、シールを行うガスケットの潰れ変形量を制限するための凸部と凹部を隣接して設け、
・前記ガスケット先端と前記凸部が締結途中に隣接セルに当たる際にモーメントを受ける部位のアノード・カソードセパレータの間に硬質な樹脂を介在させてモーメントを受け持たせ、
・あるいは前記凸部の弾性をセル発電部より下げ、かつ前記ガスケット先端と前記凸部が締結途中に隣接セルに当たる際にモーメントを受ける部位のアノード・カソードセパレータの間に硬質な樹脂を介在させてモーメントを受け持たせる
ようにしたものである。これによれば、締結過程でのセパレータ変形を防ぎつつ発電部位の面圧が維持出来る。
【0044】
<実施形態(4)>
本実施形態の燃料電池は、セル端部において、高弾性のセルと、低弾性のセルの種類が組み合わされて積層され、スタックが形成されたものである。低弾性セルは、絶縁材料がゴムまたはゴム弾性を有する軟質樹脂とされたセルである。高弾性セルは、絶縁材料がゴムまたはゴム弾性を有しない硬質樹脂とされたセルである。
【0045】
この場合、多数の低弾性セルと少数の高弾性セルとを積層し、かつ低弾性セルの枚数割合が高弾性セルより多くすることができる。例示すれば、低弾性セルの枚数割合が高弾性セルに対して80枚:1枚〜20枚:1枚であることが好ましい。
【0046】
高弾性セルとして用いるセルの硬質樹脂は、例えば、ポリプロピレン系樹脂、オレフィン系樹脂、またはエポキシ系樹脂、または高加硫ゴムである。低弾性セルとして用いるセルの軟質樹脂は、例えば、EPDMゴムまたはフロン系ゴムまたは低高分子量ポリエチレン、低高分子量ポリプロピレンである。
【0047】
ここまで説明した燃料電池によれば、セルを多数枚積層する場合に、積層するセル間に積層方向に垂直なズレがあった場合のセパレータ変形を、セパレータにかかるモーメントを低減する構造の発明により抑制することが可能となる。このことにより、
・セパレータを薄くすることによる材料節約と成形性の向上
・セル積層時に必要とされる位置精度の低減による生産性向上
によるコストダウンと同時に、
・セパレータの変形抑止
による信頼性向上を両立させることが可能となる。
【0048】
以上のように、本実施形態に係る燃料電池は、例示すれば、セパレータが金属板である固体高分子型燃料電池セルの外周に配置され、セルに反応ガスや冷却水を供給するためのマニホールドの更に外周に位置する外周部の構造に関するもので、外周部にアノードセパレータとカソードセパレータを機械的に結合してセルの一体構造を維持する機能と電気的に絶縁分離する機能、および前記外周部上に設けられたガスケットとともに、反応ガスや冷却水をシールする機能を併せ持たせ、かつセルを積層する過程において積層される各々のセルが、積層方向に垂直なズレや角度を生じたとしても、外周構造が変形するのを抑制するのに有効である。ただし、以上は好適例にすぎず、本発明が各種燃料電池に適用可能なものであることはいうまでもない。要は、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、燃料電池に適用して好適である。
【符号の説明】
【0050】
101,201,301,401,501:カソードセパレータ(金属薄板)
102,202,302,402,502:アノードセパレータ(金属薄板)
103,203,403,503:マニホールド
106:セル発電部(発電領域)
108,508:カソード側ガス流路
109,209,309,509:MEGA(固体電解質膜・電極触媒層・ガス拡散層複合体)
110,310,310,510:アノード側ガス流路
111:セル外周部
141,142,241,242,442,541,542:ガスケット
161,162,261,262,361,362,462,561,562:隣接セルのガスケットがあたる平面
163,164,464:ガスケットを形成する土台となる平面
151〜158,251〜254,351〜354,453,454,457,458,551〜558:ガスケット潰れ量を制限するための凸部
171〜174,271,272,473,474:絶縁性のゴムまたはゴム弾性を有する樹脂
181,182,371,373,482:絶縁性の硬質樹脂
491,492:硬質樹脂に設けられた成型要の溝
511:マニホールド梁部
512:マニホールド外周部
571〜574:絶縁性のゴム弾性を有しない硬質樹脂
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7