特許第5823981号(P5823981)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5823981-酢酸の製造方法 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5823981
(24)【登録日】2015年10月16日
(45)【発行日】2015年11月25日
(54)【発明の名称】酢酸の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 51/12 20060101AFI20151105BHJP
   C07C 53/08 20060101ALI20151105BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20151105BHJP
【FI】
   C07C51/12
   C07C53/08
   !C07B61/00 300
【請求項の数】10
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2012-548726(P2012-548726)
(86)(22)【出願日】2011年12月1日
(86)【国際出願番号】JP2011077844
(87)【国際公開番号】WO2012081416
(87)【国際公開日】20120621
【審査請求日】2014年10月2日
(31)【優先権主張番号】特願2010-279797(P2010-279797)
(32)【優先日】2010年12月15日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】100090686
【弁理士】
【氏名又は名称】鍬田 充生
(74)【代理人】
【識別番号】100142594
【弁理士】
【氏名又は名称】阪中 浩
(72)【発明者】
【氏名】清水 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 隆二
(72)【発明者】
【氏名】三浦 裕幸
【審査官】 天野 皓己
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−199681(JP,A)
【文献】 特開昭62−298549(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/040087(WO,A1)
【文献】 特開平07−330657(JP,A)
【文献】 特開平08−277244(JP,A)
【文献】 特開平05−140024(JP,A)
【文献】 特開平10−310550(JP,A)
【文献】 特開平08−231463(JP,A)
【文献】 特表2009−501129(JP,A)
【文献】 特表2005−529178(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 51/12
C07C 53/08
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属触媒、イオン性ヨウ化物及びヨウ化メチルで構成された触媒系の存在下、メタノールと一酸化炭素とをカルボニル化反応器で連続的に反応させる反応工程を含む酢酸の製造方法であって、反応工程において、反応器内の液相全体に対して、金属触媒濃度を重量基準で900〜3000ppm、水濃度を0.8〜15重量%、ヨウ化メチル濃度を13.9重量%以下、かつ酢酸メチル濃度を0.6〜3.9重量%に保持する酢酸の製造方法。
【請求項2】
酢酸の生成速度が10mol/L・h以上である請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
酢酸の生成速度が19mol/L・h以上である請求項1記載の製造方法。
【請求項4】
反応器内の液相において、金属触媒濃度を重量基準で900〜3000ppm、水濃度を0.8〜15重量%、イオン性ヨウ化物濃度を25重量%以下、ヨウ化メチル濃度を2〜13.9重量%に保持する請求項1〜のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
酢酸の生成速度が10〜45mol/L・hであり、反応器内の液相において、金属触媒濃度を重量基準で900〜3000ppm、水濃度を1〜10重量%、イオン性ヨウ化物濃度を0.5〜25重量%、ヨウ化メチル濃度を4〜13.5重量%、酢酸メチル濃度を1.8〜3.9重量%に保持する請求項1〜のいずれか記載の製造方法。
【請求項6】
酢酸の生成速度が19〜35mol/L・hであり、反応器内の液相において、金属触媒濃度を重量基準で900〜1500ppm、水濃度を1.5〜9重量%、イオン性ヨウ化物濃度を2〜20重量%、ヨウ化メチル濃度を6〜13重量%、酢酸メチル濃度を1.8〜3.9重量%に保持する請求項1〜のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
反応器内の一酸化炭素の圧力を900kPa以上、水素の圧力を4kPa以上に保持して反応させる請求項1〜のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
さらに、反応器からの反応混合物をフラッシャーに連続的に供給し、フラッシュ蒸留により、生成した酢酸、酢酸メチルおよびヨウ化メチルを少なくとも含む揮発性成分を蒸発させるフラッシュ蒸留工程と、前記揮発性成分から酢酸を含む流分を分離して、酢酸を回収する酢酸回収工程とを含む酢酸の製造方法であって、前記フラッシュ蒸留工程において、前記反応混合物から前記揮発性成分が分離され、金属触媒およびイオン性ヨウ化物を少なくとも含む触媒液中のヨウ化水素濃度を重量基準で1重量%以下に保持する請求項1〜のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
金属触媒、イオン性ヨウ化物及びヨウ化メチルで構成された触媒系の存在下、メタノールと一酸化炭素とをカルボニル化反応器で連続的に反応させる反応工程を含む酢酸の製造プロセスにおいて、カルボニル化反応器の腐食を抑制する方法であって、反応工程において、反応器内の液相全体に対して、金属触媒濃度を重量基準で900〜3000ppm、水濃度を0.8〜15重量%、ヨウ化メチル濃度を13.9重量%以下、かつ酢酸メチル濃度を0.6〜3.9重量%に保持することによりカルボニル化反応器の腐食を抑制する方法。
【請求項10】
カルボニル化反応器の材質が、ニッケル基合金である請求項1〜のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタノールと一酸化炭素とのカルボニル化反応(又はカルボニル化反応器)におけるヨウ化水素の生成(又は濃度上昇)やカルボニル化反応器の腐食を抑制しつつ酢酸を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酢酸の工業的な製造方法は種々知られているが、中でも、水の存在下、ロジウム触媒などの金属触媒、イオン性ヨウ化物(例えば、ヨウ化リチウムなど)およびヨウ化メチルを用いて、メタノールと一酸化炭素とをカルボニル化反応器内で連続的に反応させて酢酸を製造する方法が工業的には優れた方法である。そして、この方法では、一般的に、メタノールと一酸化炭素との反応により得られ、酢酸を含む反応混合物を、フラッシャー(フラッシュ蒸発槽)において蒸留(フラッシュ蒸留)し、この蒸留により揮発した成分をさらに蒸留(精留)に供し、酢酸を含む成分を分離(さらには精製)することにより、酢酸を製造している。
【0003】
前記反応混合物には、生成物としての酢酸、イオン性ヨウ化物、ヨウ化メチルなどの他、ヨウ化水素が存在するが、カルボニル化反応器内において、このようなヨウ化水素の濃度が上昇すると、カルボニル化反応器の腐食が促進される可能性がある。そして、このようなヨウ化水素を含む反応混合物を、フラッシャーや、さらには、酢酸分離のための蒸留塔(精留塔)に供したり、揮発した成分を分離した後の分離液(缶出液)を反応器にリサイクルすると、反応系に対する悪影響の他、さらに周辺機器の腐食を進行させる可能性もある。
【0004】
そのため、酢酸の製造方法では、カルボニル化反応器内(又は反応混合物)におけるヨウ化水素の濃度の上昇を抑制するのが好ましい。しかし、従来、精留に供する蒸留塔(棚段塔、充填塔などの精留塔)におけるヨウ化水素の濃縮を抑制する技術は知られているが、カルボニル化反応器内でのヨウ化水素について詳細に着目した技術は知られていない。
【0005】
例えば、特開2006−160645号公報(特許文献1)には、ヨウ化水素と水とを含む混合液を蒸留する方法であって、蒸留系内の水分濃度5重量%以下で蒸留し、蒸留系内でのヨウ化水素の濃縮を抑制する方法が開示されている。そして、この文献の実施例では、ヨウ化リチウムのようなイオン性ヨウ化物を含まないプロセス液(すなわち、反応混合物のフラッシュ蒸留により分離された揮発成分)を用いて、水分濃度がヨウ化水素の濃縮に与える影響を調べている。なお、この文献では、混合液の組成について、幅広い記載(例えば、水の濃度が0.1〜14重量%程度、カルボニル化触媒の割合が50〜5000ppm程度、ヨウ化物塩の含有量が0.1〜40重量%程度、ヨウ化アルキルの濃度が1〜25重量%程度、カルボン酸エステルの濃度が0.1〜20重量%程度)がなされているが、これらの成分の組成とカルボニル化反応器におけるヨウ化水素との関係について何ら記載されていない。
【0006】
このように、従来の技術では、蒸留において濃縮するヨウ化水素を想定しており、カルボニル化反応器におけるヨウ化水素を低減することは検討されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−160645号公報(特許請求の範囲、段落[0020]〜[0021]、実施例)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、カルボニル化反応器内(又は反応混合物中)のヨウ化水素の濃度上昇やカルボニル化反応器の腐食を効率よく抑制しつつ酢酸を製造する方法を提供することにある。
【0009】
本発明の他の目的は、酢酸の高い生産性を保持しつつ、カルボニル化反応器内(又は反応混合物中)でのヨウ化水素の生成やカルボニル化反応器の腐食を抑制できる酢酸の製造方法を提供することにある。
【0010】
本発明のさらに他の目的は、省エネルギー化を計りつつ、カルボニル化反応器内でのヨウ化水素の生成やカルボニル化反応器の腐食を抑制できる酢酸の製造方法を提供することにある。
【0011】
本発明の別の目的は、カルボニル化反応器や後続するプロセスや装置(フラッシュ蒸発槽、精留塔など)における腐食を抑制できる酢酸の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
カルボニル化反応器におけるヨウ化水素の生成は、理論的には、反応温度、圧力、各成分の組成などの反応条件により決定されることになるため、本発明者らは、このような平衡論的な知見に基づき、カルボニル化反応におけるヨウ化水素濃度の上昇を抑制する方法について検討を試みた。しかし、温度や圧力は、任意に設定でき、その組合せによって多様に反応条件が変化するばかりか、カルボニル化反応におけるヨウ化水素の生成に関与する反応は多種にわたって複雑化しているため、単純な平衡理論では、現実的には、酢酸の十分な生産性を維持しつつ、安定的にヨウ化水素の生成又は濃度上昇を抑えることが困難であった。また、カルボニル化反応器の腐食は、カルボニル化反応器内のヨウ化水素濃度のみならず、他の条件によっても影響されるようであり、単純にヨウ化水素濃度を低減するだけでは、カルボニル化反応器の腐食を効率よく抑制できない場合もあった。
【0013】
そこで、本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、各成分の組成を厳密に管理又は選択しつつカルボニル化反応を行うことで、十分な酢酸の生産性を担保しつつ、反応混合物中又はカルボニル化反応器内におけるヨウ化水素の生成又は濃度上昇を抑制できること、また、このような濃度上昇を抑制することによりカルボニル化反応器の腐食を抑制でき、さらには、カルボニル化反応器に後続する工程又は装置[例えば、フラッシュ蒸発槽、揮発性成分をさらに蒸留に供するための蒸留塔(精留塔)やその付帯設備(例えば、循環ポンプ、コンデンサー、リボイラーなどの熱交換器)、触媒液を反応器にリサイクルするための付帯設備(熱交換器、循環ポンプなど)、さらにはこれらのフラッシュ蒸発槽、蒸留塔や付帯設備に供給するためのライン]におけるヨウ化水素の悪影響(腐食など)を低減できることを見出し、本発明を完成した。
【0014】
すなわち、本発明の方法は、金属触媒(ロジウム触媒など)、イオン性ヨウ化物(例えば、ヨウ化リチウムなどのヨウ化アルカリ金属)及びヨウ化メチルで構成された触媒系の存在下、メタノールと一酸化炭素とをカルボニル化反応器で連続的に反応させる反応工程(詳細には、反応させて酢酸を生成させる反応工程)を含む酢酸の製造方法であって、反応工程において、(i)反応器内の液相全体に対して、金属触媒濃度を重量基準で860ppm以上、水濃度を0.8〜15重量%、ヨウ化メチル濃度を13.9重量%以下、かつ酢酸メチル濃度を0.1重量%以上に保持するか、及び/又は(ii)反応器内の液相全体に対して、金属触媒濃度を重量基準で660ppm以上、水濃度を0.8〜3.9重量%、イオン性ヨウ化物濃度を13重量%以下、ヨウ化メチル濃度を13.9重量%以下、かつ酢酸メチル濃度を0.1重量%以上に保持する酢酸の製造方法である。
【0015】
このような方法(i)(第1の方法、第1の態様などということがある)及び/又は方法(ii)(第2の方法、第2の態様などということがある)により、カルボニル化反応器内におけるヨウ化水素の生成を効率よく抑制できる。そして、本発明の方法では、ヨウ化水素の生成又は濃度上昇を抑制できるにもかかわらず、酢酸の高い生産性も担保することができ、例えば、上記方法(i)における酢酸の生成速度(反応速度、反応工程における酢酸の生成速度)は10mol/L・h以上(特に19mol/L・h以上)程度、上記方法(ii)における酢酸の生成速度は5mol/L・h以上程度とすることができる。また、(ii)の方法では、水分濃度を0.8〜3.9重量%以下にすることにより、省エネルギー化も達成できる。
【0016】
前記第1の方法では、反応器内の液相において、金属触媒濃度を重量基準で860〜5000ppm程度、水濃度を0.8〜15重量%程度、イオン性ヨウ化物濃度を25重量%以下程度、ヨウ化メチル濃度を2〜13.9重量%程度に保持してもよい。
【0017】
代表的な前記第1の方法では、酢酸の生成速度が10〜45mol/L・h(例えば、12〜35mol/L・h、好ましくは19〜35mol/L・h)程度であり、反応器内の液相において、金属触媒濃度を重量基準で880〜3000ppm(例えば、900〜1500ppm)程度、水濃度を1〜10重量%(例えば、1.5〜9重量%)程度、イオン性ヨウ化物濃度を0.5〜25重量%(例えば、2〜20重量%)程度、ヨウ化メチル濃度を4〜13.5重量%(例えば、5〜13重量%、好ましくは6〜13重量%)程度、酢酸メチル濃度を0.5重量%以上(例えば、1重量%以上)程度に保持してもよい。
【0018】
また、前記第2の方法では、反応器内の液相において、金属触媒濃度を重量基準で660〜5000ppm程度、水濃度を1〜3.5重量%程度、イオン性ヨウ化物濃度を0.5〜13重量%程度、ヨウ化メチル濃度を2〜13.9重量%程度に保持してもよい。
【0019】
代表的な前記第2の方法では、酢酸の生成速度が5〜45mol/L・h(例えば、7〜35mol/L・h)程度であり、反応器内の液相において、金属触媒濃度を重量基準で700〜3000ppm(例えば、800〜1500ppm)程度、水濃度を1.5〜3重量%(例えば、2〜2.8重量%)程度、イオン性ヨウ化物濃度を1〜12重量%(例えば、2〜11重量%)程度、ヨウ化メチル濃度を3〜12重量%(例えば、4〜11重量%)程度、酢酸メチル濃度を0.5重量%以上(例えば、1重量%以上)程度に保持してもよい。
【0020】
また、本発明の方法では、反応器内の一酸化炭素の圧力(分圧)を900kPa以上、水素の圧力(分圧)を4kPa以上に保持して反応させてもよい。
【0021】
なお、本発明の酢酸の製造方法は、少なくとも前記反応工程を含んでいればよいが、通常さらに、反応器からの反応混合物をフラッシャーに連続的に供給し、フラッシュ蒸留により、生成した酢酸、酢酸メチルおよびヨウ化メチルを少なくとも含む揮発性成分を蒸発させるフラッシュ蒸留工程と、前記揮発性成分から酢酸を含む流分を分離して、酢酸を回収する酢酸回収工程とを含んでいてもよい。本発明では、反応混合物中のヨウ化水素濃度を低減できるため、このような反応工程の後続の工程におけるヨウ化水素の生成や濃度上昇をも抑えることができ、例えば、前記フラッシュ蒸留工程において、前記反応混合物から前記揮発性成分が分離され、金属触媒およびイオン性ヨウ化物を少なくとも含む触媒液(缶出液)中のヨウ化水素濃度を重量基準で1重量%以下に保持してもよい。
【0022】
このようなフラッシュ蒸留工程を含む方法では、前記フラッシュ蒸留工程において、前記反応混合物から前記揮発性成分が分離され、金属触媒およびイオン性ヨウ化物を少なくとも含む触媒液中の酢酸メチル濃度が0.6重量%以上の条件下でフラッシュ蒸留してもよい。このような条件下でフラッシュ蒸留すると、フラッシュ蒸発槽においても、ヨウ化水素濃度の上昇をより一層抑制しやすい。
【0023】
前記触媒液中の酢酸メチル濃度は、1.5重量%以上(特に、2重量%以上)であってもよい。また、前記触媒液中の水の濃度は15重量%以下であってもよく、触媒液中の金属触媒濃度が重量基準は300ppm以上であってもよい。さらに、前記触媒液において、酢酸濃度は、40重量%以上であってもよい。
【0024】
代表的には、前記触媒液において、各成分の濃度は、イオン性ヨウ化物濃度が50重量%以下であり、ヨウ化メチル濃度が5重量%以下であり、酢酸濃度が45〜90重量%程度であり、水濃度が10重量%以下であってもよい。特に、前記触媒液において、各成分の濃度は、イオン性ヨウ化物濃度が40重量%以下であり、ヨウ化メチル濃度が0.01〜4重量%程度であり、酢酸濃度が50〜85重量%程度であり、酢酸メチル濃度が0.7〜5重量%程度であり、水濃度が0.8〜8重量%程度であってもよい。
【0025】
前記フラッシュ蒸留工程では、絶対圧力0.1〜0.5MPaでフラッシュ蒸留してもよく、前記触媒液の温度(又はフラッシュ蒸留温度)は100〜170℃程度であってもよい。
【0026】
本発明の方法において、フラッシュ蒸発槽内における各成分の濃度の調整は、各成分又は各成分を生成する成分を添加することにより行ってもよい。例えば、酢酸メチル及び/又は酢酸メチルを生成する成分を、前記反応混合物及び/又は前記フラッシュ蒸発槽に添加又は混合することにより、前記触媒液中の酢酸メチル濃度を調整(例えば、0.6重量%以上に調整)してもよい。
【0027】
本発明では、前記のように、カルボニル化反応器内における成分濃度などを厳密に調整することにより、カルボニル化反応器(さらには、フラッシュ蒸留工程などの後続の工程)におけるヨウ化水素の濃度上昇又は生成を抑制でき、さらには、カルボニル化反応器やカルボニル化反応器に後続する工程又は装置の腐食を効率よく抑制できる。
【0028】
そのため、本発明には、金属触媒、イオン性ヨウ化物及びヨウ化メチルで構成された触媒系の存在下、メタノールと一酸化炭素とをカルボニル化反応器で連続的に反応させる反応工程を含む酢酸の製造プロセスにおいて、カルボニル化反応器の腐食を抑制する方法であって、反応工程において、(i)反応器内の液相全体に対して、金属触媒濃度を重量基準で860ppm以上、水濃度を0.8〜15重量%、ヨウ化メチル濃度を13.9重量%以下、かつ酢酸メチル濃度を0.1重量%以上に保持するか、及び/又は(ii)反応器内の液相全体に対して、金属触媒濃度を重量基準で660ppm以上、水濃度を0.8〜3.9重量%、イオン性ヨウ化物濃度を13重量%以下、ヨウ化メチル濃度を13.9重量%以下、かつ酢酸メチル濃度を0.1重量%以上に保持することによりカルボニル化反応器の腐食を抑制する方法も含まれる。
【0029】
このような方法では、ヨウ化水素の生成又は濃度上昇の抑制やカルボニル化反応器の腐食の抑制のみならず、酢酸の高い生産性も実現でき、例えば、上記方法(i)における酢酸の生成速度は10mol/L・h以上程度、上記方法(ii)における酢酸の生成速度は5mol/L・h以上程度とすることができる。
【0030】
本発明の方法において、カルボニル化反応器(さらには、フラッシャー)の材質は、合金(例えば、ニッケル基合金)であってもよい。本発明では、腐食を抑制できるので、このような比較的腐食されやすい材質のカルボニル化反応器であっても好適に使用できる。
【0031】
なお、本明細書において、同じ混合系(カルボニル化反応器内の液相、触媒液など)に存在する任意の成分の割合の合計は100重量%以下であり、全成分の割合を合計すると100重量%となる。
【発明の効果】
【0032】
本発明の方法では、カルボニル化反応器内(又は反応混合物中)のヨウ化水素の濃度上昇やカルボニル化反応器の腐食を効率よく抑制しつつ酢酸を製造できる。特に、このような方法では、酢酸の生産を損なうことがないため、高い生産性を保持しつつ、カルボニル化反応器内でのヨウ化水素の生成やカルボニル化反応器の腐食を抑制できる。また、本発明の方法では、省エネルギー化を計りつつ、カルボニル化反応器内でのヨウ化水素の生成やカルボニル化反応器の腐食を抑制できる。さらに、本発明の方法では、上記のように、ヨウ化水素の生成を抑制できることなどと関連して、カルボニル化反応器や後続するプロセスや装置(フラッシュ蒸発槽、精留塔など)における腐食を抑制できる。そのため、高度に耐腐食性である高品質の材質でカルボニル化反応器や後続するプロセスや装置を形成しなくても、酢酸の製造を効率よく行うことができる。このように本発明では、安価な又は低グレードの材質を使用できるため、酢酸の製造プロセスを効率よく低コスト化できる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1図1は、本発明の酢酸の製造方法(又は製造装置)の一例を説明するためのフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、必要により添付図面を参照しつつ、本発明をより詳細に説明する。図1は本発明の酢酸の製造方法(又は製造装置)の一例を説明するためのフロー図である。
【0035】
図1の例では、金属触媒としてのロジウム触媒、助触媒[イオン性ヨウ化物(又はヨウ化物塩)としてのヨウ化リチウム、及びヨウ化メチル]で構成された触媒系、並びに酢酸、酢酸メチル、有限量の水の存在下、メタノール(MeOH)と一酸化炭素(CO)との連続的カルボニル化反応により生成した反応混合物から酢酸(CHCOOH)を製造する連続プロセス(又は製造装置)が示されている。
【0036】
このプロセス(又は製造装置)は、前記メタノールのカルボニル化反応を行うための反応器(反応系)1と、この反応器1から供給ライン14を通じて導入され、かつ反応により生成した酢酸を含む反応混合物(反応液)から、生成した酢酸、酢酸メチルおよびヨウ化メチルを少なくとも含む揮発性成分又は酢酸流(低沸点留分)と、主にロジウム触媒及びヨウ化リチウムなどの触媒成分(高沸成分)を含む触媒液(低揮発性成分又は高沸点留分)とを分離するためのフラッシャー又は蒸発槽(フラッシュ蒸発槽)2と、この蒸発槽2から供給ライン15を通じて導入された揮発性成分から、低沸成分(ヨウ化メチル、酢酸メチル、アセトアルデヒドなど)を含む低沸点留分の少なくとも一部を塔頂からオーバーヘッドとして分離又は除去し、側流からサイドカットにより酢酸を含む流分(酢酸流)を流出するための第1の蒸留塔(スプリッターカラム)3と、この第1の蒸留塔3から供給ライン23を介してサイドカットされた酢酸流から、低沸成分を含む低沸点留分の少なくとも一部を塔頂からオーバーヘッドとして除去し、水、プロピオン酸などを含む高沸成分(高沸不純物)の少なくとも一部を缶底から分離して、供給ライン29を通じて側流からサイドカットにより酢酸流を得るための第2の蒸留塔4とを備えている。
【0037】
また、このプロセスは、各ラインを通じて供給された成分を凝縮させるためのコンデンサー又は熱交換器を備えている。具体的には、反応器1に関して、排出ライン11を通じて排出されるオフガス(蒸気)中の凝縮可能成分を凝縮するためのコンデンサー5と、このコンデンサー5で凝縮した液体成分を反応器1にリサイクルするためのリサイクルライン12と、このコンデンサー5の非凝縮成分である気体成分を排出するための排出ライン13とを備えている。
【0038】
また、蒸発槽2に関して、蒸発槽2で分離され、蒸発槽2の底部から排出ライン18を通じて排出された触媒液(又は缶出液)を冷却するための熱交換器6と、熱交換器6で冷却された触媒液を反応器1にリサイクルするためのリサイクルライン19と、蒸発槽2のオーバーヘッドとして排出された揮発性成分(又は揮発相)の一部を供給ライン15aを通じて導入し、揮発性成分の凝縮可能成分を凝縮するための熱交換器7と、この熱交換器7の非凝縮成分である気体成分を排出するための排出ライン16と、熱交換器7で凝縮した酢酸などを含む液体成分を反応器1にリサイクルするためのリサイクルライン17とを備えている。
【0039】
さらに、第1の蒸留塔3に関して、排出ライン20を通じて排出される低沸点留分又はオーバーヘッド中の凝縮可能成分を凝縮するためのコンデンサー8と、このコンデンサー8で凝縮した液体成分を反応器1にリサイクルするためのリサイクルライン22と、前記コンデンサー8で凝縮した液体成分の一部を第1の蒸留塔3にリサイクル(又は還流)するためのリサイクルライン22aと、前記コンデンサー8の非凝縮成分である気体成分を排出するための排出ライン21と、第1の蒸留塔3の高沸点留分を排出し、反応器1にリサイクルするためのライン24とを備えている。なお、第1の蒸留塔3にリサイクルされる液体成分は、第1の蒸留塔3での還流に利用される。
【0040】
さらにまた、第2の蒸留塔4に関して、排出ライン25を通じて排出される低沸点留分又はオーバーヘッド中の凝縮可能成分を凝縮するためのコンデンサー9と、このコンデンサー9で凝縮した液体成分又は低沸点留分を第2の蒸留塔4にリサイクル(又は還流)するためのリサイクルライン27と、コンデンサー9において凝縮された液体成分又は低沸点留分の一部又は全部をライン27から分岐して反応器1にリサイクルするための排出ライン(リサイクルライン)26と、コンデンサー9で分離したガスをライン13を通じてスクラバー10に供給するためのライン28とを備えている。
【0041】
そして、図1のプロセスは、さらに、コンデンサー5、熱交換器7及びコンデンサー8で排出された気体成分(又は非凝縮成分)などを回収して、廃棄及び/又は反応系(反応器1など)にリサイクルするためのスクラバー(排気装置)又はスクラバーシステム(排気システム)10を備えている。なお、スクラバーシステム10から反応系(反応器1など)へ気体成分などをリサイクルするラインは図1では省略されている。
【0042】
以下、さらに、図1のプロセスを詳細に説明する。
【0043】
反応器1には、液体成分としてのメタノール及び気体反応成分としての一酸化炭素が所定速度で連続的に供給されるとともに、カルボニル化触媒系(ロジウム触媒などの主たる触媒成分と、ヨウ化リチウム及びヨウ化メチルなどの助触媒とで構成された触媒系)を含む触媒混合物(触媒液)及び水を連続的に供給できる。また、後続の工程(蒸発槽2、第1及び第2の蒸留塔3,4、熱交換器7、スクラバーシステム10など)からの低沸点留分及び/又は高沸点留分を含む留分(例えば、液状の形態で)を反応器1に供給することもできる。
【0044】
反応器1内の圧力(反応圧、一酸化炭素分圧、水素分圧、メタン分圧、窒素分圧など)は、塔頂から蒸気を抜き出してコンデンサー5に導入することにより保持できる。抜き出された蒸気は、コンデンサー5で冷却され、液体成分(酢酸、酢酸メチル、ヨウ化メチル、アセトアルデヒド、水などを含む)と気体成分(一酸化炭素、水素などを含む)とを生成し、得られた前記液体成分が反応器1にリサイクルされ、前記気体成分(排ガス)はスクラバーシステム10に排出され、必要により反応器1にリサイクルされる。特に、反応系は、発熱を伴う発熱反応系であるため、反応液から蒸気に移行した反応熱の一部をコンデンサー5で冷却することにより、反応器で発生する熱量の一部を除熱できる。
【0045】
なお、前記反応系は、発熱を伴う発熱反応系であるため、前記反応器1は、反応温度を制御するための除熱又は冷却装置(ジャケットなど)などを備えていてもよい。なお、図1のプロセスでは、後述するように、フラッシュ蒸発槽2からの揮発成分の一部を除熱する熱交換器7を設けているため、反応器は、このような除熱又は冷却装置を備えていなくても、除熱が可能である。
【0046】
ここで、反応器1で生成した反応混合物(反応粗液)中には、酢酸、ヨウ化水素、酢酸よりも沸点の低い低沸成分又は低沸不純物(助触媒としてのヨウ化メチル、酢酸とメタノールとの反応生成物である酢酸メチル、副反応生成物であるアセトアルデヒド、クロトンアルデヒド、2−エチルクロトンアルデヒド、ヨウ化ヘキシル、ヨウ化デシルなどの高級ヨウ化物など)、及び酢酸よりも沸点の高い高沸成分又は高沸不純物[金属触媒成分(ロジウム触媒、及び助触媒としてのヨウ化リチウム)、プロピオン酸、水など]などが含まれるが、図1の例では、このような反応器1中の少なくとも組成(液相)における各成分の濃度が、後述のように厳密に調整されており、反応器1(又は反応混合物)におけるヨウ化水素の生成(又は濃度上昇)が著しく抑制されている。
【0047】
そして、前記反応混合物から主に金属触媒成分などの高沸成分を分離するため、前記反応器1から反応混合物(又は反応混合物の一部)を連続的に抜き取ってフラッシャー(フラッシュ蒸発槽)2に導入又は供給する。フラッシャー2では、フラッシュ蒸留により揮発性成分又は低沸点留分(主に、生成物であり反応溶媒としても機能する酢酸、酢酸メチル、ヨウ化メチル、水、ヨウ化水素などを含む)を蒸発させることにより、前記反応混合物から、触媒液又は高沸点留分(主に、ロジウム触媒及びヨウ化リチウムなどの金属触媒成分などを含む)を分離する。なお、前記触媒液には、前記金属触媒成分の他、蒸発せずに残存した酢酸、ヨウ化メチル、水、酢酸メチルなども含まれる。
【0048】
ここで、フラッシャー2内においては、前記触媒液中の少なくとも酢酸メチル濃度が所定の濃度(例えば、0.1重量%以上、特に0.6重量%以上)を保持するようにフラッシュ蒸留されている。このような条件下でフラッシュ蒸留することで、前記反応器中の組成の調整による効果と相俟って、フラッシュ蒸発槽内におけるヨウ化水素の濃度上昇が抑制され、そのため、フラッシュ蒸発槽の腐食を著しく抑制できる。なお、酢酸メチル濃度は、反応混合物中のメタノール濃度を上昇させ、メタノールと酢酸との反応を優位に進行させることなどにより調整できるが、必要に応じて、ライン14に合流するライン30を通じて、酢酸メチル及び/又は酢酸メチルを生成する成分(例えば、メタノール、ジメチルエーテルなど)を反応器1からの反応混合物に混合することにより、フラッシュ蒸発槽内での酢酸メチル濃度を調整することもできる。
【0049】
そして、前記触媒液は、塔底から連続的に缶出される。缶出された触媒液は、そのまま反応器1にリサイクルしてもよいが、図の例では、熱交換器6において除熱(冷却)された後、反応器1にリサイクルされる。
【0050】
一方、揮発性成分又は低沸点留分(酢酸流)をフラッシャー2の塔頂部又は上段部から留出させ、第1の蒸留塔3に供給又は導入するとともに、揮発性成分の一部を熱交換器7に導入して凝縮する。熱交換器7で冷却された揮発性成分は、液体成分(酢酸、メタノール、ヨウ化メチル、酢酸メチル、水、プロピオン酸、アセトアルデヒドなどを含む)と気体成分(一酸化炭素、水素などを含む)とを生成し、得られた前記液体成分が反応器1にリサイクルされ、前記気体成分(排ガス)はスクラバーシステム10に排出され、必要により、そのまま又はPSA(圧力変動吸着、pressure swing adsorption)法などで一酸化炭素を精製した後、反応器1にリサイクルされる。フラッシャーからの低沸点留分を抜き出して熱交換器に導入することにより、反応液からフラッシュ蒸気に移行した反応熱の一部を熱交換器で冷却するため、効率的な除熱が可能となり、その結果、大型プラントであっても、後続の蒸留塔やコンデンサーのサイズを小型化できるため、省資源省エネルギー型の設備で高純度の酢酸を高い収率で製造できる。さらに、反応器に外部循環冷却設備を設置して除熱しなくても、除熱が可能となり、一酸化炭素のロスが抑制され、反応効率の向上や設備費用の低下につながる。
【0051】
第1の蒸留塔3では、通常、低沸成分(ヨウ化メチル、酢酸メチル、アセトアルデヒド、水などを含む)を含む低沸点留分(又はオーバーヘッド)を塔頂又は塔の上段部から分離してコンデンサー8に供給するとともに、高沸成分(プロピオン酸、飛沫同伴された触媒、ヨウ化リチウムなど)を含む高沸点留分を、塔底又は塔の下段部から缶出ライン24を通じて分離して反応器1にリサイクルする。高沸点留分(第1の高沸点留分)は、高沸成分とともに、蒸発せずに残存した低沸成分及び酢酸なども含んでおり、ライン24に排出された高沸点留分の一部は、必要に応じて、ライン24aを通じてフラッシャー2にリサイクルしてもよい。そして、主に酢酸を含む側流(酢酸流又は粗酢酸流)は、第1の蒸留塔3からサイドカットにより留出され、第2の蒸留塔4に供給又は導入される。
【0052】
第1の蒸留塔3の塔頂又は上段部より留出した低沸点留分(オーバーヘッド又は第1のオーバーヘッド又は第1の低沸点留分)は、酢酸なども含んでおり、コンデンサー8に供給される。第1の蒸留塔3から留出した低沸点留分をコンデンサー8で凝縮することにより、反応液からフラッシュ蒸気を介して低沸点留分に移動した反応熱の一部をコンデンサー8で冷却でき、反応熱の一部を除熱できる。コンデンサー8において、前記低沸点留分は、凝縮され、主に一酸化炭素、水素などを含む気体成分と、ヨウ化メチル、酢酸メチル、酢酸、アセトアルデヒドなどを含む液体成分とに分離される。コンデンサー8で分離された前記気体成分は、スクラバーシステム10に排出され、必要により、そのまま又はPSA法などで一酸化炭素を精製した後、反応系(反応器1など)にリサイクルされる(図示せず)。コンデンサー8で分離された前記液体成分は、ライン22aを通じて第1の蒸留塔3にリサイクルしてもよい。なお、前記液体成分は、均一液であってもよく、分液(例えば、二層分液)系であってもよい。例えば、所定量の水分を含有する場合、前記液体成分は、酢酸、アセトアルデヒドなどを含む水性相(水層、水相)と、ヨウ化メチルなどを含む油性相(有機層、有機相)との二層に分離してもよい。また、油性相を反応器1及び/又は第1の蒸留塔3にリサイクルし、水性相(水相)を反応器1及び/又は第1の蒸留塔3にリサイクルしてもよい。
【0053】
そして、第1の蒸留塔3からサイドカットされ、第2の蒸留塔4に供給された酢酸流は、第2の蒸留塔4において、酢酸流中に残存する低沸成分(水など)をさらに分離し、より純度の高い酢酸流(精製酢酸流)を側流として留出させる。第2の蒸留塔4では、前記低沸成分を含む低沸点留分(オーバーヘッド又は第2のオーバーヘッド又は第2の低沸点留分)を、塔頂又は塔の上段部からコンデンサー9に供給するとともに、酢酸を多く含む側流(酢酸流)をサイドカットして留出させる。塔頂又は塔上段部から排出された低沸点留分は、必要により第2の蒸留塔4及び/又は反応系1にリサイクルしてもよい。水は、第2の蒸留塔4において低沸成分として分離してもよく、第1の蒸留塔3において主に分離し、第2の蒸留塔4ではさらなる精製を行ってもよい。なお、高沸成分(プロピオン酸など)などの高沸点留分(第2の高沸点留分)は、塔底又は塔下段部から缶出し、必要により反応器1にリサイクルしてもよいし、系外に排出してもよい(図示せず)。
【0054】
第2の蒸留塔4の塔頂又は上段部より留出した低沸点留分は、ヨウ化メチル、酢酸メチル、水、アセトアルデヒドなどを含んでおり、コンデンサー9において凝縮される。そして、コンデンサー9において凝縮された低沸点留分は、ライン26を通じて反応器1にリサイクルしてもよく、ライン27を通じて第2の蒸留塔4にリサイクルしてもよい。また、所定量の水分を含有する場合、第1の蒸留塔と同様に、水性相と油性相とに分離してリサイクルしてもよい。第2の蒸留塔4から留出した低沸点留分をコンデンサー9で凝縮することにより、反応液からフラッシュ蒸気を介して低沸点留分に移動した反応熱の一部をコンデンサー9で冷却でき、反応熱の一部が除熱される。
【0055】
[反応工程]
反応工程(カルボニル化反応工程)では、触媒系の存在下、メタノールを一酸化炭素でカルボニル化する。なお、メタノールは、新鮮なメタノールを直接又は間接的に反応系へ供給してもよく、また、各種蒸留工程から留出するメタノール又はその誘導体を、リサイクルすることにより、反応系に供給してもよい。
【0056】
そして、カルボニル化反応器内では、反応成分と金属触媒成分(ロジウム触媒など)及びイオン性ヨウ化物(ヨウ化リチウムなど)などの高沸成分とを含む液相反応系と、一酸化炭素及び反応により副生した水素、メタン、二酸化炭素、並びに気化した低沸成分(ヨウ化メチル、生成した酢酸、酢酸メチルなど)などで構成された気相系とが平衡状態を形成しており、攪拌機などによる撹拌下、メタノールのカルボニル化反応が進行する。
【0057】
触媒系は、通常、金属触媒と、助触媒と、促進剤とで構成することができる。金属触媒としては、遷移金属触媒、特に、周期表第8族金属を含む金属触媒、例えば、コバルト触媒、ロジウム触媒、イリジウム触媒などが例示できる。触媒は、金属単体であってもよく、また、酸化物(複合酸化物を含む)、水酸化物、ハロゲン化物(塩化物、臭化物、ヨウ化物など)、カルボン酸塩(酢酸塩など)、無機酸塩(硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩など)、錯体などの形態でも使用できる。このような金属触媒は、一種で又は二種以上組み合わせて使用できる。好ましい金属触媒は、ロジウム触媒及びイリジウム触媒(特に、ロジウム触媒)である。
【0058】
また、金属触媒は反応液中で可溶な形態で使用するのが好ましい。なお、ロジウムは、通常、反応液中で錯体として存在しているため、ロジウム触媒を用いる場合には、触媒は、反応液中で錯体に変化可能である限り、特に制限されず、種々の形態で使用できる。このようなロジウム触媒としては、特に、ロジウムヨウ素錯体(例えば、RhI、[RhI(CO)、[Rh(CO)など)、ロジウムカルボニル錯体などが好ましい。また、触媒は、ハロゲン化物塩(ヨウ化物塩など)及び/又は水を添加することにより反応液中で安定化させることができる。
【0059】
触媒系を構成する助触媒又は促進剤としては、イオン性ヨウ化物(ヨウ化物塩)が使用される。ヨウ化物塩は、特に低水分下でのロジウム触媒の安定化と副反応抑制等のために添加される。ヨウ化物塩としては、反応液中で、ヨウ素イオンを発生するものであれば特に限定されず、例えば、金属ハロゲン化物[例えば、ヨウ化アルカリ金属(ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化ルビジウム、ヨウ化セシウムなど)、ヨウ化アルカリ土類金属(ヨウ化ベリリウム、ヨウ化マグネシウム、ヨウ化カルシウムなど)、ヨウ化物の周期表3B属元素塩(ヨウ化ホウ素、ヨウ化アルミニウムなど)などのヨウ化金属塩など]、有機ハロゲン化物[例えば、ヨウ化物のホスホニウム塩(例えば、トリブチルホスフィン、トリフェニルホスフィンなどとの塩)、ヨウ化物のアンモニウム塩(三級アミン、ピリジン類、イミダゾール類、イミド類などとヨウ化物との塩など)などの有機ヨウ化物、これらに対応する臭化物、塩化物など]が挙げられる。なお、ヨウ化アルカリ金属塩(ヨウ化リチウムなど)は、カルボニル化触媒(例えば、ロジウム触媒など)の安定剤としても機能する。これらのヨウ化物塩は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのヨウ化物塩のうち、ヨウ化リチウムなどのヨウ化アルカリ金属が好ましい。
【0060】
前記触媒系を構成する促進剤としては、ヨウ化アルキル(例えば、ヨウ化メチル、ヨウ化エチル、ヨウ化プロピルなどのヨウ化C1−4アルキルなど)、特にヨウ化メチルが利用される。そのため、促進剤は、少なくともヨウ化メチルを含んでいてもよい。
【0061】
カルボニル化反応では、酢酸が生成するとともに、生成した酢酸とメタノールとのエステル化反応に伴って、酢酸メチル、水などが生成する。酢酸は、反応溶媒としても使用できる。また、連続反応であるため、このような成分は、カルボニル化反応器に常時存在し、また、後続の工程からリサイクルされる成分などとしても存在する。
【0062】
このようにカルボニル化反応器内では、触媒成分の他、生成した成分、リサイクルされる成分など、種々の成分が存在するが、本発明では、これらの成分濃度を調整することにより、ヨウ化水素の生成やカルボニル化反応器の腐食を抑制する。以下、各成分の濃度を、第1の方法、第2の方法に分けて詳述する。
【0063】
(第1の方法)
金属触媒濃度(例えば、ロジウム触媒濃度)は、反応器内の液相全体に対して、重量基準で860ppm以上(例えば、860〜5000ppm)であればよく、例えば、870〜4000ppm、好ましくは880〜3000ppm、さらに好ましくは900〜1500ppm程度であってもよい。
【0064】
また、水濃度は、反応器内の液相全体に対して、0.8重量%以上(例えば、0.8〜20重量%)であればよく、例えば、0.8〜15重量%、好ましくは1〜10重量%(例えば、1.5〜9重量%)、さらに好ましくは1.7〜8重量%(例えば、1.8〜7重量%)程度であってもよく、通常1〜6重量%(例えば、1.5〜5重量%)程度であってもよい。
【0065】
さらに、ヨウ化メチル濃度は、反応器内の液相全体に対して、13.9重量%以下(例えば、1〜13.9重量%)であればよく、例えば、2〜13.9重量%(例えば、3〜13.5重量%)、好ましくは4〜13重量%(例えば、5〜12重量%)、さらに好ましくは6〜11重量%程度であってもよく、通常4〜13.5重量%(例えば、6〜13重量%)程度であってもよい。
【0066】
なお、イオン性ヨウ化物(例えば、ヨウ化リチウム)濃度は、特に限定されないが、例えば、反応器内の液相全体に対して、30重量%以下(例えば、0.3〜30重量%)、好ましくは25重量%以下(例えば、0.5〜25重量%)、さらに好ましくは20重量%以下(例えば、2〜20重量%)程度であってもよい。
【0067】
また、酢酸メチル濃度は、特に限定されないが、反応器内の液相全体に対して、0.1重量%以上(例えば、0.2〜25重量%)の範囲から選択でき、例えば、0.3重量%以上(例えば、0.4〜20重量%)、好ましくは0.5重量%以上(例えば、0.6〜18重量%)、さらに好ましくは1重量%以上(例えば、1.2〜15重量%)、特に1.5重量%以上(例えば、1.8〜10重量%)であってもよい。
【0068】
なお、酢酸濃度は、反応器内の液相全体に対して、例えば、30重量%以上(例えば、30〜90重量%)、好ましくは35重量%以上(例えば、35〜85重量%)、さらに好ましくは40重量%以上(例えば、45〜80重量%)程度であってもよい。
【0069】
このような条件下で反応させることで、より高い反応器の腐食低減効果とより高い酢酸の生産性とを保つことができる。
【0070】
(第2の方法)
金属触媒濃度(例えば、ロジウム触媒濃度)は、反応器内の液相全体に対して、重量基準で660ppm以上(例えば、660〜5000ppm)であればよく、例えば、700〜3000ppm、好ましくは750〜2000ppm、さらに好ましくは800〜1500ppm程度であってもよい。
【0071】
水濃度は、反応器内の液相全体に対して、0.8〜3.9重量%であればよく、例えば、1〜3.5重量%(例えば、1.2〜3.3重量%)、好ましくは1.5〜3重量%(例えば、1.7〜2.9重量%)、さらに好ましくは1.8〜2.8重量%程度であってもよい。
【0072】
また、イオン性ヨウ化物(例えば、ヨウ化リチウム)濃度は、13重量%以下であればよく、例えば、0.5〜13重量%、好ましくは1〜12重量%、さらに好ましくは2〜11重量%程度であってもよい。
【0073】
さらに、ヨウ化メチル濃度は、反応器内の液相全体に対して、13.9重量%以下(例えば、1〜13.9重量%)であればよく、例えば、2〜13.5重量%(例えば、3〜13.5重量%)、好ましくは4〜13重量%(例えば、5〜12重量%)、さらに好ましくは6〜11重量%程度であってもよく、通常2〜13.9重量%程度であってもよい。
【0074】
また、酢酸メチル濃度は、特に限定されないが、反応器内の液相全体に対して、0.1重量%以上(例えば、0.3〜25重量%)の範囲から選択でき、例えば、0.3重量%以上(例えば、0.4〜20重量%)、好ましくは0.5重量%以上(例えば、0.6〜18重量%)、さらに好ましくは1重量%以上(例えば、1.2〜15重量%)、特に1.5重量%以上(例えば、1.8〜10重量%)であってもよい。
【0075】
なお、酢酸濃度は、反応器内の液相全体に対して、例えば、30重量%以上(例えば、30〜90重量%)、好ましくは35重量%以上(例えば、35〜85重量%)、さらに好ましくは40重量%以上(例えば、45〜80重量%)程度であってもよい。
【0076】
このような条件下で反応させることで、より高い反応器の腐食低減効果とより高い酢酸の生産性とを保つことができる。
【0077】
なお、第1および第2の方法において、各成分の濃度は、反応系への各成分の供給量又はこれらの成分の反応系へのリサイクル量、反応温度や反応圧力などを適宜調整することにより調整することができ、さらに省エネルギー化も図ることができる。
【0078】
反応系に供給する一酸化炭素は、純粋なガスとして使用してもよく、不活性ガス(例えば、窒素、ヘリウム、二酸化炭素など)で希釈して使用してもよい。また、後続の工程から得られる一酸化炭素を含む排ガス成分を反応系にリサイクルしてもよい。また、前記カルボニル化反応では、一酸化炭素と水との反応によりシフト反応が起こり、水素が発生するが、触媒活性を高めるため、必要により反応系に水素を供給してもよい。反応系に供給する水素は、原料となる一酸化炭素と共に混合ガスとして反応系に供給することもできる。また、後続の蒸留工程(蒸留塔)で排出された気体成分(水素、一酸化炭素などを含む)を、必要により適宜精製して反応系にリサイクルすることにより、水素を供給してもよい。
【0079】
反応器内の一酸化炭素の圧力(分圧)は、例えば、300kPa以上(例えば、500〜5000kPa)、好ましくは600kPa以上(例えば、800〜4000kPa)、さらに好ましくは900kPa以上(例えば、1000〜3000kPa)であってもよい。
【0080】
また、反応器内の水素分圧は、例えば、1kPa以上(例えば、2〜200kPa)、好ましくは2kPa以上(例えば、3〜150kPa)、さらに好ましくは4kPa以上(例えば、5〜100kPa)程度であってもよい。このような一酸化炭素や水素の分圧を保持しつつ反応させることにより、酢酸の生産効率をより一層効率よく担保しつつヨウ化水素の生成を抑えることができる。
【0081】
なお、反応系の一酸化炭素分圧や水素分圧は、例えば、反応系への一酸化炭素及び水素の供給量又はこれらの成分の反応系へのリサイクル量、反応系への原料基質(メタノールなど)の供給量、反応温度や反応圧力などを適宜調整することにより調整することができる。
【0082】
カルボニル化反応において、反応温度は、例えば、150〜250℃、好ましくは160〜230℃、さらに好ましくは180〜220℃程度であってもよい。また、反応圧力(全反応器圧)は、例えば、15〜40気圧程度であってもよい。
【0083】
なお、反応系では、後続の工程(蒸留塔など)からのリサイクル流中のアルデヒドを除去したり、反応条件、例えば、ヨウ化アルキルなどの助触媒の割合及び/又は水素分圧を低減することなどにより、アルデヒドの生成を抑制してもよい。また、水濃度及び/又は酢酸メチル濃度を調整することなどにより、反応系内での水素の発生を抑制してもよい。
【0084】
本発明では、単にヨウ化水素の生成を抑制できるだけでなく、酢酸の高い生産性も実現できる。例えば、前記第1の方法において、酢酸の生成速度(反応速度、空時収量)は、10mol/L・h(時間)以上(例えば、10〜45mol/L・h)の範囲から選択でき、例えば、12mol/L・h以上(例えば、12〜35mol/L・h)、特に19mol/L・h以上(例えば、19〜35mol/L・h、好ましくは20〜33mol/L・h、さらに好ましくは22〜30mol/L・h)程度であってもよい。
【0085】
また、前記第2の方法において、酢酸の生成速度は、5mol/L・h以上(例えば、5〜45mol/L・h)の範囲から選択でき、例えば、7mol/L・h以上(例えば、7〜35mol/L・h)、好ましくは9mol/L・h以上(例えば、10〜30mol/L・h)程度であってもよい。
【0086】
そして、反応器(又は反応混合物)中のヨウ化水素濃度は、反応器内の液相全体に対して、例えば、1重量%以下(例えば、0又は検出限界〜0.8重量%)、好ましくは0.6重量%以下(例えば、0.001〜0.5重量%)、さらに好ましくは0.3重量%以下(例えば、0.01〜0.2重量%)、通常0.1重量%以下(例えば、0又は検出限界〜0.09重量%、好ましくは0又は検出限界〜0.07重量%、さらに好ましくは0又は検出限界〜0.05重量%)程度とすることができる。
【0087】
なお、ヨウ化水素濃度は、直接的に測定してもよく、間接的に測定(又は算出)することもできる。例えば、ヨウ化水素濃度は、全ヨウ素イオン(I)濃度からヨウ化物塩[例えば、LiIなどの助触媒由来のヨウ化物の他、酢酸の製造過程において生成する腐食金属(Fe,Ni,Cr,Mo,Znなど)のヨウ化物などの金属ヨウ化物]由来のヨウ素イオン濃度を減じることにより算出してもよい。
【0088】
反応器の圧力の調整などを目的とし、反応器の塔頂から抜き出された蒸気成分は、反応熱の一部を除熱するために、コンデンサーや熱変換器などにより冷却するのが好ましい。冷却された蒸気成分は、液体成分(酢酸、酢酸メチル、ヨウ化メチル、アセトアルデヒド、水などを含む)と気体成分(一酸化炭素、水素などを含む)とに分離され、液体成分を反応器にリサイクルし、気体成分をスクラバーシステムに導入するのが好ましい。
【0089】
なお、カルボニル化反応器の材質は、特に限定されず、金属、セラミック、ガラス製などであってもよいが、通常、金属製である場合が多い。特に、本発明では、反応器内におけるヨウ化水素濃度の上昇を著しく抑えることができることなどと関連して、カルボニル化反応器の腐食も抑制することができる。そのため、本発明では、カルボニル化反応器(反応槽)として、ジルコニウム製のような高度に耐腐食性ではあるが高価な材質以外にも、金属単体(チタン、アルミニウムなど)、合金[例えば、鉄基合金(又は鉄を主成分とする合金、例えば、ステンレス鋼(クロム、ニッケル、モリブデンなどを含むステンレス鋼を含む)など)、ニッケル基合金(又はニッケルを主成分とする合金、例えば、ハステロイ(商標名)、インコネル(商標名)など)、コバルト基合金(又はコバルトを主成分とする合金)、チタン合金などの遷移金属基合金;アルミニウム合金など]などの比較的安価で高度な耐腐食性を有しない材質の反応器を使用することもできる。
【0090】
なお、反応系(又は反応混合物)には、メタノール(未反応のメタノール)も含まれる。このようなメタノールは、後述するように、酢酸メチル濃度に関連させて調整してもよい。反応系におけるメタノールの濃度は、例えば、1重量%以下(例えば、0〜0.8重量%)、好ましくは0.5重量%以下(例えば、0〜0.3重量%)、さらに好ましくは0.3重量%以下(例えば、0〜0.2重量%)程度であってもよく、通常検出限界(例えば、0.1重量%)以下であってもよい。
【0091】
[フラッシュ蒸留工程又は触媒分離工程]
フラッシュ蒸留工程(蒸発槽)では、前記反応工程又は前記反応器からフラッシャー(フラッシュ蒸発槽、フラッシュ蒸留塔)に供給された反応混合物から、少なくとも高沸点触媒成分(金属触媒成分、例えば、ロジウム触媒及びイオン性ヨウ化物)を含む低揮発性成分又は触媒液(高沸点留分)を液体として分離するとともに、酢酸を含む揮発性成分又は揮発相(低沸点留分)を蒸気として分離する。
【0092】
フラッシュ蒸留工程(フラッシュ蒸発工程)では、反応混合物を加熱してもよく、加熱することなく蒸気成分と液体成分とを分離してもよい。例えば、断熱フラッシュにおいては、加熱することなく減圧することにより反応混合物から蒸気成分と液体成分とに分離でき、恒温フラッシュでは、反応混合物を加熱する(さらには減圧する)ことにより反応混合物から蒸気成分と液体成分とに分離でき、これらのフラッシュ条件を組み合わせて、反応混合物を分離してもよい。
【0093】
フラッシュ蒸留において、蒸留温度(又は反応温度)は、例えば、100〜260℃(例えば、110〜250℃)、好ましくは120〜240℃(例えば、140〜230℃)、さらに好ましくは150〜220℃(例えば、160〜210℃)、特に170〜200℃程度であってもよい。また、フラッシュ蒸留において、触媒液の温度(又は反応混合物の液温度)は、例えば、80〜200℃(例えば、90〜180℃)、好ましくは100〜170℃(例えば、120〜160℃)、さらに好ましくは130〜160℃程度であってもよい。さらに、フラッシュ蒸留において、絶対圧力は、0.03〜1MPa(例えば、0.05〜1MPa)、好ましくは0.07〜0.7MPa、さらに好ましくは0.1〜0.5MPa(例えば、0.15〜0.4MPa)程度であってもよい。このような比較的高温(および高圧)条件下では、ヨウ化水素の生成が生じやすい(又はヨウ化水素の濃度が上昇しやすい)が、本発明では、このような条件下であっても、前記カルボニル化反応においてヨウ化水素の生成が抑えられているため、フラッシュ蒸発槽でのヨウ化水素の生成又は濃度上昇を効率よく抑制することができる。
【0094】
なお、フラッシャー内の温度及び/又は圧力を、反応器内の温度及び/又は圧力より低くすることにより、副生成物がさらに生成するのを抑制したり、触媒活性が低下するのを抑制してもよい。
【0095】
金属触媒成分の分離(フラッシュ蒸留)は、通常、蒸留塔(フラッシュ蒸発槽)を利用して行うことができる。また、フラッシュ蒸留と、工業的に汎用されるミストや固体の捕集方法とを併用して、金属触媒成分を分離してもよい。
【0096】
フラッシャーの材質は、特に限定されず、前記カルボニル化反応器と同様の材質が挙げられる。本発明では、フラッシュ蒸発槽内におけるヨウ化水素濃度の上昇を著しく抑えることができるため、フラッシュ蒸発槽の腐食も高いレベルで抑制することができる。そのため、本発明では、フラッシュ蒸発槽として、前記カルボニル化反応器と同様の比較的安価で高度な耐腐食性を有しない材質のフラッシュ蒸発槽を使用することもできる。
【0097】
触媒液の分離工程は、単一の工程で構成してもよく、複数の工程を組み合わせて構成してもよい。このようにして分離された触媒液又は高沸点触媒成分(金属触媒成分)は、前記図の例のように、通常、反応系にリサイクルしてもよい。また、触媒液は、前記図の例のように、熱交換器により冷却(又は除熱)して、反応器にリサイクルしてもよい。冷却することにより、システム全体の除熱効率を向上できる。
【0098】
分離された触媒液(又は低揮発性成分又は高沸点留分)には、金属触媒(ロジウム触媒など)、イオン性ヨウ化物(例えば、ヨウ化リチウムなどのアルカリ金属ヨウ化物)などの他、蒸発せずに残存した酢酸、ヨウ化メチル、水、酢酸メチル、ヨウ化水素などが含まれる。
【0099】
なお、フラッシュ蒸留(又はフラッシュ蒸発槽)において、分離される揮発性成分と触媒液(又は低揮発性成分)との割合は、前者/後者(重量比)=10/90〜50/50、好ましくは15/85〜40/60、さらに好ましくは20/80〜35/65程度であってもよい。
【0100】
本発明では、このような触媒液中の成分のうち、少なくとも酢酸メチルの濃度を調整してもよい。本発明では、このような濃度の調整により、前記カルボニル化反応において生成するヨウ化水素の抑制効果と相俟って、幅広いフラッシュ反応条件において、フラッシュ蒸発槽内でのヨウ化水素の生成又は濃度上昇をより一層効率よく抑制できる。なお、酢酸メチル濃度の調整によりヨウ化水素濃度の上昇が抑制される理由は複合的ではあるが、以下の平衡反応によりヨウ化水素が消費されることもその一因であると考えられる。なお、この平衡反応は反応液中のヨウ化水素でも同様である。
CHI+CHCOOH⇔CHCOOCH+HI
触媒液中の酢酸メチル濃度は、0.05重量%以上(例えば、0.1〜20重量%)の範囲から選択でき、例えば、0.2重量%以上(例えば、0.3〜15重量%)、好ましくは0.5重量%以上(例えば、0.6〜10重量%)、通常0.8〜5重量%(例えば、1〜4重量%、程度であってもよい。特に、触媒液中の酢酸メチル濃度は、0.6重量%以上(例えば、0.6〜20重量%)、好ましくは0.7重量%以上(例えば、0.7〜15重量%)、さらに好ましくは0.8重量%以上(例えば、0.8〜10重量%)、通常0.7〜5重量%(例えば、0.7〜3重量%、好ましくは0.8〜2重量%、さらに好ましくは0.9〜1.5重量%)程度であってもよい。このような酢酸メチル濃度とすることで、より一層、ヨウ化水素の生成又は濃度上昇を効率よく抑えることができる。
【0101】
触媒液中の水の濃度は、例えば、15重量%以下(例えば、0.1〜12重量%)の範囲から選択でき、例えば、10重量%以下(例えば、0.5〜10重量%)、好ましくは8重量%以下(例えば、0.8〜8重量%)、さらに好ましくは5重量%以下(例えば、1〜4重量%)であってもよい。
【0102】
また、触媒液中の酢酸濃度は、例えば、30重量%以上(例えば、35〜95重量%)、好ましくは40重量%以上(例えば、45〜90重量%)、さらに好ましくは50重量%以上(例えば、50〜85重量%)であってもよく、通常60〜90重量%(例えば、70〜90重量%、好ましくは75〜85重量%)程度であってもよい。
【0103】
さらに、触媒液中のヨウ化メチル濃度は、10重量%以下(例えば、0.001〜8重量%)の範囲から選択でき、例えば、7重量%以下(例えば、0.005〜6重量%)、好ましくは5重量%以下(例えば、0.01〜4重量%)、さらに好ましくは3重量%以下(例えば、0.05〜2.5重量%)、特に2重量%以下(例えば、0.1〜1.8重量%)であってもよく、通常0.1〜3重量%(例えば、0.3〜2.5重量%、好ましくは0.5〜2重量%、さらに好ましくは1〜1.5重量%)程度であってもよい。
【0104】
さらにまた、触媒液中のイオン性ヨウ化物濃度は、例えば、60重量%以下(例えば、1〜55重量%)、好ましくは50重量%以下(例えば、2〜45重量%)、さらに好ましくは40重量%以下(例えば、3〜37重量%)、特に36重量%以下(例えば、5〜35重量%)程度であってもよい。なお、イオン性ヨウ化物濃度の調整によりヨウ化水素の濃度上昇が抑制される理由もまた複合的ではあるが、以下の平衡反応によりヨウ化水素が消費されることもその一因であると考えられる。なお、この平衡反応は反応液中のヨウ化水素でも同様である。
MI+CHCOOH⇔CHCOOM+HI
[式中、Mはイオン性ヨウ化物の残基(又はカチオン性基、例えば、リチウムなどのアルカリ金属)を示す。]
なお、触媒液中の金属触媒の濃度は、重量基準で、例えば、700ppm以上(例えば、750〜10000ppm)、好ましくは800ppm以上(例えば、850〜5000ppm)、さらに好ましくは900ppm以上(例えば、950〜3000ppm)程度であってもよい。
【0105】
また、触媒液中のメタノール濃度は、例えば、1重量%以下(例えば、0〜0.8重量%)、好ましくは0.5重量%以下(例えば、0〜0.3重量%)、さらに好ましくは0.3重量%以下(例えば、0〜0.2重量%)程度であってもよい。なお、後述のように、メタノール濃度を大きくすると、触媒液中の酢酸メチルの濃度を効率よく上昇させやすい。
【0106】
触媒液中の成分濃度の調整(濃度の上昇又は濃度の下降)は、特に限定されず、フラッシュ蒸留条件や、後続の反応(工程)からのプロセス液のリサイクル量などにより調整してもよく、必要に応じて、各成分の濃度を上昇又は下降させる成分[例えば、エステル(酢酸エステルなど)、アルコール、エーテルなど]を反応混合物及び/又はフラッシュ蒸発槽に添加することにより調整してもよい。なお、このような成分は、ヨウ化水素と反応可能な成分(塩基性成分)であってもよい。
【0107】
例えば、触媒液中の酢酸メチル濃度は、反応混合物(又は触媒液)中のメタノール濃度を上昇させることにより、効率よく大きくすることができる。すなわち、下記式で表されるように、メタノールは酢酸との反応(平衡反応)により酢酸メチルを生成するため、メタノール濃度の上昇とともに、酢酸メチル生成反応が生じやすくなり、その結果、触媒液中の酢酸メチル濃度も高くできる。なお、この平衡反応は反応液中のヨウ化水素でも同様である。
CHOH+CHCOOH⇔CHCOOCH+H
このようなメタノール濃度は、酢酸の製造効率を十分に担保できる範囲で、反応において仕込むメタノールの濃度を多くしたり、反応速度を低下させてメタノールの消費を抑えることなどにより大きくすることができる。反応速度は、反応温度、触媒濃度(ヨウ化メチル濃度、金属触媒濃度など)、一酸化炭素濃度(又は一酸化炭素の分圧)などを適宜選択することにより調整できる。なお、メタノール濃度は、後述のように、直接的にメタノールを添加することにより調整してもよい。
【0108】
また、触媒液中の酢酸メチル濃度は、酢酸メチル及び/又は酢酸メチルを生成する成分(例えば、メタノール、ジメチルエーテルなど)を添加することにより調整してもよい。なお、メタノールは前記のように酢酸との反応などにより、また、ジメチルエーテルはヨウ化水素などとの反応により生成したメタノールと酢酸との反応などにより、酢酸メチルを生成する。各成分の濃度を上昇又は下降させる成分は、必要に応じて、溶媒を含む混合液の形態で添加又は混合してもよい。
【0109】
なお、反応混合物に添加する場合、添加位置(又は添加時期)は、反応混合物からフラッシュ蒸発槽に供給される前であればよく、反応器に供給してもよく、プロセス効率の点から、反応器から排出された後であって、フラッシュ蒸発槽に供給される前の反応混合物に供給してもよい(例えば、前記図のように、反応器から排出された反応混合物をフラッシュ蒸発槽に供給するためのラインに供給してもよい)。
【0110】
また、フラッシュ蒸発槽に添加する場合(又はフラッシュ蒸発槽内で反応混合物と混合する場合)、その添加位置は特に限定されず、フラッシュ蒸発槽内の液相部分、気相部分のいずれであってもよく、これらの双方に添加してもよい。また、後続の工程からフラッシュ蒸発槽にリサイクルするプロセス液中に添加してもよい。
【0111】
フラッシャーで分離された揮発性成分(酢酸流)は、生成物である酢酸の他に、ヨウ化メチル、メタノールと生成物酢酸とのエステル(酢酸メチル)、水、微量の副生成物(アセトアルデヒドやプロピオン酸など)などを含んでおり、第1及び第2の蒸留塔で蒸留することにより、精製された酢酸を製造できる。
【0112】
本発明では、フラッシャー内におけるヨウ化水素の生成又は濃度上昇を抑制することができる。そのため、フラッシャー内の気相又は揮発性成分中のヨウ化水素の濃度は、例えば、重量基準で1重量%以下(例えば、0又は検出限界〜8000ppm)、好ましくは5000ppm以下(例えば、1〜4000ppm)、さらに好ましくは3000ppm以下(例えば、10〜2000ppm)程度とすることができる。また、触媒液中のヨウ化水素濃度は、例えば、1重量%以下(例えば、0〜8000ppm)、好ましくは5000ppm以下(例えば、1〜4000ppm)、さらに好ましくは3000ppm以下(例えば、10〜2000ppm)程度とすることができる。
【0113】
分離された揮発性成分(酢酸流)の一部は、前記図の例のように、コンデンサー又は熱交換器に導入して冷却又は除熱してもよい。このような除熱により、反応液からフラッシュ蒸気に移動した反応熱の一部を冷却できるため、除熱効率を向上でき、反応器に対する外部循環冷却設備を配設することなく、高純度の酢酸を製造できる。また、冷却された揮発性成分は、前記図の例のように、反応系にリサイクルしてもよい。一方、冷却された揮発性成分のうち、気体成分は、スクラバーシステムに導入してもよい。
【0114】
[酢酸回収工程]
酢酸回収工程(蒸留工程)では、前記揮発性成分から酢酸を含む流分を分離して、酢酸を回収する。分離方法は特に限定されないが、通常、分離された揮発性成分を蒸留塔(スプリッターカラム)に供給し、蒸留(精留)により、低沸成分(ヨウ化メチル、酢酸、酢酸メチル、副生したアセトアルデヒドなど)を含む低沸点留分(オーバーヘッド)と、酢酸を含む流分(酢酸流)とに分離する。酢酸回収工程は、必ずしも前記図の例である必要はなく、1つの蒸留塔で脱低沸成分処理及び脱水処理を行う工程(例えば、特許第3616400号公報に記載の蒸留塔などを利用した工程)、脱低沸成分処理及び脱水処理を行う蒸留塔に続いて、第2の蒸留塔で更なる精製を行う工程などのいずれであってもよいが、精製効率などの点から、第1の蒸留塔で主として脱低沸成分処理を行い、第2の蒸留塔で主として脱水処理を行う蒸留工程を好適に利用してもよい。
【0115】
(第1の蒸留塔)
第1の蒸留塔には、フラッシャーから供給された酢酸流(低沸点留分)から、一部を熱交換器に導入した残りの酢酸流が供給される。なお、熱交換器に導入せず、全量を第1の蒸留塔に供給してもよい。第1の蒸留塔では、低沸成分(ヨウ化メチル、酢酸メチル、アセトアルデヒドなど)の少なくとも一部を含む低沸点留分(第1の低沸点留分又は第1のオーバーヘッド)と、高沸成分(プロピオン酸、水など)の少なくとも一部を含む高沸点留分(缶出)とを分離し、少なくとも酢酸を含む流分を留出させている。なお、酢酸流は、図1の例では、側部から側流(サイドカット)として留出させ(又は抜き出し)ているが、塔底から抜き出してもよい。
【0116】
第1の蒸留塔に供給される酢酸流は、前記のように、反応系からの反応混合物からロジウム触媒成分などを除去して得られる酢酸流に限らず、少なくとも酢酸、低沸成分、高沸成分などを含む酢酸流であればよく、単にこれらの成分の混合物であってもよい。
【0117】
第1の蒸留塔としては、慣用の蒸留塔(又は精留塔)、例えば、棚段塔、充填塔などの精留塔が使用できる。第1の蒸留塔の材質は、前記カルボニル化反応器において例示の材質と同様の材質が適用できる。本発明では、前記カルボニル化反応工程やフラッシュ蒸留工程において、ヨウ化水素の生成又は濃度上昇が抑制されているため、第1の蒸留塔においても、カルボニル化反応器やフラッシュ蒸発槽と同様に、合金などの比較的安価な材質の蒸留塔を使用することができる。
【0118】
第1の蒸留塔における蒸留温度及び圧力は、蒸留塔の種類や、低沸成分及び高沸成分のいずれを重点的に除去するかなどの条件に応じて適宜選択できる。例えば、棚段塔で行う場合、塔内圧力(通常、塔頂圧力)は、ゲージ圧力で、0.01〜1MPa、好ましくは0.01〜0.7MPa、さらに好ましくは0.05〜0.5MPa程度であってもよい。
【0119】
また、第1の蒸留塔において、塔内温度(通常、塔頂温度)は、塔内圧力を調整することにより調整でき、例えば、20〜180℃、好ましくは50〜150℃、さらに好ましくは100〜140℃程度であってもよい。
【0120】
また、棚段塔の場合、理論段は、特に制限されず、分離成分の種類に応じて、5〜50段、好ましくは7〜35段、さらに好ましくは8〜30段程度である。また、第1の蒸留塔で、アセトアルデヒドを高度に(又は精度よく)分離するため、理論段を、10〜80段、好ましくは12〜60段、さらに好ましくは15〜40段程度にしてもよい。
【0121】
第1の蒸留塔において、還流比は、前記理論段数に応じて、例えば、0.5〜3000、好ましくは0.8〜2000程度から選択してもよく、理論段数を多くして、還流比を低減してもよい。なお、第1の蒸留塔では、還流させることなく蒸留してもよい。
【0122】
第1の蒸留塔から分離された低沸点留分は、ヨウ化メチル、酢酸メチルなどの有用成分を含有するため、そのまま反応系(又は反応器)及び/又は第1の蒸留塔などにリサイクルしてもよいが、反応系(例えば、反応器)での反応熱の一部をコンデンサーや熱変換器などにより除熱して、液体にした後、リサイクルしてもよい。例えば、第1の蒸留塔から留出させた低沸点留分は、図1の例のように必ずしもコンデンサーで凝縮させた後、第1の蒸留塔にリサイクルする必要はなく、留出させた前記低沸点留分をそのままリサイクルしてもよく、単に冷却することにより、一酸化炭素及び水素などのオフガス成分を除去して、残る液体成分をリサイクルしてもよい。また、低沸点留分中の低沸成分のうち、アセトアルデヒドは、製品酢酸の品質を低下させるため、必要により、アセトアルデヒドを除去した後(例えば、低沸不純物を含む前記留分をさらに後述するアセトアルデヒド分離工程(アセトアルデヒド分離塔)に供し、アセトアルデヒドを除去した後)、残りの成分を反応系及び/又は第1の蒸留塔にリサイクルしてもよい。なお、オフガス成分は、スクラバーシステムに導入してもよい。
【0123】
第1の蒸留塔で分離された高沸点留分(缶出液又は第1の高沸点留分)は、水、酢酸、飛沫同伴により混入したロジウム触媒、ヨウ化リチウムの他、蒸発せずに残存した酢酸及び前記低沸不純物などを含んでいるため、必要により、反応系(反応器)及び/又は蒸発槽にリサイクルしてもよい。なお、リサイクルに先立って、製品酢酸の品質を低下させるプロピオン酸を除去してもよい。
【0124】
(第2の蒸留塔)
第2の蒸留塔では、第1の蒸留塔で分離されずに残存したヨウ化水素、低沸成分、高沸成分などをさらに精度よく除去する。第2の蒸留塔としては、慣用の蒸留塔(又は精留塔)、例えば、棚段塔、充填塔などが使用でき、第2の蒸留塔の材質は第1の蒸留塔と同様の材質が適用できる。本発明では、前記のように、前記カルボニル化反応工程やフラッシュ蒸留工程において、ヨウ化水素の生成又は濃度上昇が抑制されているため、第2の蒸留塔においても、カルボニル化反応器やフラッシュ蒸発槽と同様に、合金などの比較的安価な材質の蒸留塔を使用することができる。また、第2の蒸留塔における塔内温度、塔内圧力、理論段数、及び還流比は、蒸留塔の種類などに応じて選択でき、例えば、前記第1の蒸留塔と同様の範囲から選択できる。
【0125】
第2の蒸留塔から分離された低沸点留分(第2の低沸点留分又は第2のオーバーヘッド)は、ヨウ化メチル、酢酸メチルなどの有用成分を含有するため、そのまま反応系(例えば、反応器)及び/又は第2の蒸留塔にリサイクルしてもよく、反応熱の一部を除熱するために、第1の蒸留塔から留出される低沸点留分と同様に、コンデンサーや熱変換器などにより液体にした後、リサイクルしてもよい。また、前記低沸点留分は、アセトアルデヒドを含む場合があり、必要により、低沸点留分を、例えば、後述するアルデヒド分離塔などにより導入してアセトアルデヒドを除去した後、リサイクルしてもよい。なお、オフガス成分は、スクラバーシステムに導入してもよい。
【0126】
さらに、高沸点留分(第2の高沸点留分)を塔底又は塔下段部から缶出してもよい。第2の蒸留塔から分離された高沸点留分は、プロピオン酸などを含むため、そのまま廃棄してもよい。また、高沸点留分は、さらに、酢酸などを含む場合があるため、必要により、プロピオン酸などを除去及び/又は回収した後、反応系(例えば、反応器)にリサイクルしてもよい。
【0127】
第2の蒸留塔では、図1の例では、精製された酢酸流をサイドカットにより留出させているが、側流口の位置は、通常、蒸留塔の中段部又は下段部であってもよく、塔底から留出させてもよい。なお、高沸点留分を缶出させる缶出口より上方に位置する側流口から酢酸流を留出させて、側流と高沸点留分とを効率よく分離してもよい。
【0128】
[ヨウ化物除去工程]
回収した精製酢酸は、通常は、製品酢酸塔に導入され、製品酢酸となるが、製品酢酸塔に導入する前又は後に、さらにヨウ化物除去工程に供して、ヨウ化物(ヨウ化ヘキシル、ヨウ化デシルなどのヨウ化C1−15アルキルなど)を除去してもよい。
【0129】
ヨウ化物除去工程は、ヨウ化物除去能又は吸着能を有する除去体(例えば、ゼオライト、活性炭、イオン交換樹脂など)に酢酸流を接触させればよい。連続的に得られる酢酸流から、効率よくヨウ化物を除去するには、ヨウ化物除去能又は吸着能を有するイオン交換樹脂、特に、前記イオン交換樹脂を内部に備えたヨウ化物除去塔などを利用するのが有利である。
【0130】
前記イオン交換樹脂としては、通常、少なくとも一部の活性部位(通常、スルホン基、カルボキシル基、フェノール性水酸基、ホスホン基などの酸性基など)を、金属で置換又は交換したイオン交換樹脂(通常、カチオン交換樹脂)を使用する場合が多い。前記金属としては、例えば、銀Ag、水銀Hg及び銅Cuから選択された少なくとも一種などが使用できる。ベースとなるカチオン交換樹脂は、強酸性カチオン交換樹脂及び弱酸性カチオン交換樹脂のいずれであってもよいが、強酸性カチオン交換樹脂、例えば、マクロレティキュラー型イオン交換樹脂などが好ましい。
【0131】
前記イオン交換樹脂において、例えば、活性部位の10〜80モル%、好ましくは25〜75モル%、さらに好ましくは30〜70モル%程度が、前記金属で交換されていてもよい。
【0132】
第2の蒸留塔からの酢酸流を、前記イオン交換樹脂に少なくとも接触(好ましくは通液)させることにより、ヨウ化物を除去できる。前記イオン交換樹脂との接触(又は通液)に伴って、必要に応じて、酢酸流を段階的に昇温してもよい。段階的に昇温することにより、イオン交換樹脂の前記金属が流出するのを防止しつつ、ヨウ化物を効率よく除去できる。
【0133】
ヨウ化物除去塔としては、少なくとも前記金属交換したイオン交換樹脂を内部に充填した充填塔、イオン交換樹脂の床(例えば、粒状の形態の樹脂を有する床)(ガードベッド)などを備えた塔が例示できる。ヨウ化物除去塔は、前記金属交換イオン交換樹脂に加え、他のイオン交換樹脂(カチオン交換樹脂、アニオン交換樹脂、ノニオン交換樹脂など)などを内部に備えていてもよい。金属交換イオン交換樹脂より下流側にカチオン交換樹脂を配設(例えば、充填により配設、樹脂床を配設)すると、金属交換イオン交換樹脂から金属が流出しても、カチオン交換樹脂によりカルボン酸流中から除去することができる。
【0134】
ヨウ化物除去塔の温度は、例えば、18〜100℃、好ましくは30〜70℃、さらに好ましくは40〜60℃程度であってもよい。
【0135】
酢酸流の通液速度は特に制限されないが、例えば、ガードベッドを利用するヨウ化物除去塔では、例えば、3〜15床容積/h、好ましくは5〜12床容積/h、さらに好ましくは6〜10床容積/h程度であってもよい。
【0136】
なお、ヨウ化物除去工程では、少なくとも前記金属交換イオン交換樹脂と酢酸流とを接触できればよく、例えば、金属交換イオン交換樹脂を備えた塔と、他のイオン交換樹脂を備えた塔とで構成してもよい。例えば、アニオン交換樹脂塔と、下流側の金属交換イオン交換樹脂塔とで構成してもよく、金属交換イオン交換樹脂塔と、下流側のカチオン交換樹脂の塔とで構成してもよい。前者の例の詳細は、例えば、国際公開WO02/062740号公報などを参照できる。
【0137】
[アセトアルデヒド分離工程]
反応により生成したアセトアルデヒドを含む留分を、リサイクルにより反応系に循環させると、プロピオン酸、不飽和アルデヒド、ヨウ化アルキルなどの副生量が増大する。そのため、リサイクル液中のアセトアルデヒドを分離除去するのが好ましい。特に、アセトアルデヒドを除去することにより、第2蒸留塔において、酢酸を製品規格外とさせるプロピオン酸を分離除去する必要がなくなるため、好適である。アセトアルデヒドの分離方法としては、リサイクル液をアセトアルデヒド分離塔に供給し、アセトアルデヒドを含む低沸点留分と、ヨウ化メチル、酢酸メチル及び水などを含む高沸点留分とに分離した後、アルデヒド分離塔の塔頂又は塔上段部からは、一酸化炭素、水素などのオフガス成分とともに、アセトアルデヒドを分離する方法であってもよい。さらに、アセトアルデヒドの分離に先立って、コンデンサーや冷却器などを利用することによりオフガス成分を予め除去してもよい。また、アセトアルデヒドを低沸点留分として除去して得られた高沸点留分は、ヨウ化メチル、水、酢酸メチル、酢酸などを含んでいるため、反応系にリサイクルしてもよい。
【0138】
アルデヒド分離塔としては、例えば、慣用の蒸留塔、例えば、棚段塔、充填塔、フラッシュ蒸発槽などが使用できる。
【0139】
アセトアルデヒド分離塔において、温度(塔頂温度)及び圧力(塔頂圧力)は、アセトアルデヒドと他の成分(特にヨウ化メチル)との沸点差を利用して、リサイクル液(例えば、前記第1及び/又は第2の蒸留塔で得られた低沸点留分)から、少なくともアセトアルデヒドなどを低沸点留分として分離可能であれば特に制限されず、蒸留塔の種類などに応じて選択できる。例えば、棚段塔の場合、圧力は、ゲージ圧力で、0.01〜1MPa、好ましくは0.01〜0.7MPa、さらに好ましくは0.05〜0.5MPa程度であってもよい。塔内温度は、例えば、10〜150℃、好ましくは20〜130℃、さらに好ましくは40〜120℃程度である。理論段は、例えば、5〜150段、好ましくは8〜120段、さらに好ましくは10〜100段程度であってもよい。
【0140】
アセトアルデヒド分離塔において、還流比は、前記理論段数に応じて、1〜1000、好ましくは10〜800、さらに好ましくは50〜600(例えば、70〜400)程度から選択できる。
【実施例】
【0141】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0142】
比較例1〜8、実施例1〜9
図1の通りに、連続的に酢酸製造プロセスを行った。以下にプロセスの詳細を示す。
【0143】
COとメタノールを反応器1に仕込み、反応温度185℃、反応圧力2.8MPaとしてプロセスを開始し、ヨウ化メチル、水、酢酸メチル、酢酸、ヨウ化リチウム、ロジウムの組成をそれぞれ表1の条件となるように調整した(メタノールは検出限界以下であった)。その後、表1に示す各種材質のテストピースを反応器1に添加し、100時間保持後、各テストピースについて腐食テストを実施した。
【0144】
なお、腐食テストは、比較例1〜4および実施例1〜3については、以下の基準で評価し、比較例5〜8および実施例4〜9については、具体的な腐食量を測定した。
◎:テストピースに全く腐食が見られない
○:テストピースにほとんど腐食が見られない
△:テストピースがやや腐食している
×:テストピースが著しく腐食している。
【0145】
組成液の詳細と結果を表1および表2に示す。なお、表1および表2において、「ppm」とはRh(ロジウム)の重量基準での濃度、「wt%」とは重量%、「STY」とは酢酸の生成速度、「Ac」とは酢酸、「MA」とは酢酸メチル、「MeOH」とはメタノール、「MeI」とはヨウ化メチル、「Zr」はジルコニウム、「HB2」はニッケル基合金(小田鋼機(株)製のハステロイB2)、「HC」はニッケル基合金(小田鋼機(株)製のハステロイC)を示すし、単位「mol/L・h」は、反応液1L、1時間当たりの酢酸の生成mol量を、単位「mm/Y」とは一年間あたりのテストピースの腐食速度(厚みの減肉量)をmmに換算したものを意味する。また、表2において、「−」とは、著しい腐食により、腐食量が測定できなかったことを意味する。なお、Rh触媒としては、RhIを用いた。また、ヨウ化水素濃度は、全ヨウ素イオン(I)濃度からヨウ化物塩由来のヨウ素イオン濃度を減じることにより算出した。
【0146】
【表1】
【0147】
【表2】
【0148】
表から明らかなように、カルボニル化反応器内の液組成を特定の成分および割合とすることで、テストピースの腐食を抑えることができた。特に、テストピースの腐食抑制効果は、HB2のような腐食されやすい金属に対して顕著であった。また、フラッシュ蒸留工程において、触媒液中のヨウ化水素濃度は、実施例1は0.4重量%、実施例2は0.4重量%、実施例3は0.1重量%、実施例4は0.4重量%、実施例5は0.4重量%、実施例6は0.4重量%、実施例7は0.1重量%、実施例8は0.1重量%、実施例9は0.15重量%であり、1重量%未満を保持していた。
【産業上の利用可能性】
【0149】
本発明の製造方法は、カルボニル化反応器内でのヨウ化水素の生成又は濃度上昇を効率よく抑制しつつ酢酸を製造するプロセスとして極めて有用である。
【符号の説明】
【0150】
1…反応器
2…フラッシャー(蒸発槽)
3…第1の蒸留塔
4…第2の蒸留塔
5,6,7,8,9…コンデンサー又は熱交換器
10…スクラバーシステム
図1