(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記制御装置は、前記駆動輪がスリップしている状態からスリップしていない状態に遷移してから所定期間が経過するまでの間においても前記第2の制御を選択する、請求項1記載の電動車両。
前記制御装置は、前記駆動輪がスリップしていないときに、前記電動車両が、前記スリップによる過電流の発生が懸念される所定の車両状態であるか否かを判定するとともに、前記所定の車両状態であるときには前記第2の制御を選択する、請求項1または2記載の電動車両。
車両駆動力発生用の電動機と、蓄電装置と、前記蓄電装置および前記電動機の間に配置された、少なくとも1つのスイッチング素子を含むように構成された電力変換器とを搭載した電動車両の制御方法であって、
前記スイッチング素子のオンオフ制御に用いられるキャリア信号の周波数を制御するステップと、
前記制御するステップにより決められた周波数に従って、前記キャリア信号を発生するステップと、
前記電力変換器の制御指令と、前記キャリア信号との比較に基づいて、前記スイッチング素子のオンオフを制御する信号を発生するステップとを備え、
前記制御するステップは、
前記電動車両の駆動輪がスリップしていないときに、前記キャリア信号の周波数の変化範囲を、所定周波数を中心とした所定の周波数範囲として、前記キャリア信号の周波数を変化させる第1の制御を選択するステップと、
前記駆動輪がスリップしているときに、前記変化範囲を前記所定の周波数範囲よりも狭くする第2の制御を選択するステップとを含み、
前記第2の制御の選択時における前記キャリア信号の周波数の変化範囲の最小値は、前記第1の制御の選択時における前記キャリア信号の周波数の変化範囲の最小値よりも高い、電動車両の制御方法。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、以下図中の同一または相当部分には同一符号を付して、その説明は原則的に繰返さないものとする。
【0021】
図1は、本発明の実施の形態による電動車両の一例として示されるハイブリッド車両の全体構成を説明するブロック図である。なお、「電動車両」は、ハイブリッド車、電気自動車、燃料電池車等の、電気エネルギによる車両駆動力発生源(代表的には電動機)を備えた車両を総称するものとする。
【0022】
図1を参照して、ハイブリッド車両は、エンジン100と、第1モータジェネレータ110(以下、単に「MG1」とも称する)と、第2モータジェネレータ120(以下、単に「MG2」とも称する)と、動力分割機構130と、減速機140と、バッテリ150と、ECU(Electronic Control Unit)170とを備える。MG1およびMG2の各々は、本発明の実施の形態による電動機制御の対象となる「電動機」に対応する。
【0023】
図1に示すハイブリッド車両は、エンジン100およびMG2のうちの少なくとも一方からの駆動力により走行する。エンジン100、MG1およびMG2は、動力分割機構130を介して接続されている。エンジン100が発生する動力は、動力分割機構130により、2経路に分割される。一方は減速機140を介して駆動輪190を駆動する経路である。もう一方は、MG1を駆動させて発電する経路である。
【0024】
エンジン100は、ガソリンまたは軽油などの炭化水素系の燃料により動力を出力する「内燃機関」である。エンジン100は、ECU170からの指令に従って、停止あるいは起動される。エンジン起動後には、エンジン100がECU170によって定められた動作点(トルク・回転数)で動作するように、燃料噴射制御や点火制御、吸入空気量制御などのエンジン制御が実行される。エンジン100には、図示しないクランクシャフトのクランク角度やエンジン回転数等、エンジン100の運転状態を検出する各種センサが設けられている。これらのセンサ出力は、必要に応じてECU170へ伝達される。
【0025】
MG1およびMG2の各々は、代表的には三相の交流回転電機である。MG1は、動力分割機構130により分割されたエンジン100の動力により発電する。MG1により発電された電力は、車両の走行状態や、バッテリ150のSOC(State Of Charge)に応じて使い分けられる。たとえば、通常走行時では、MG1により発電された電力はそのままMG2を駆動させる電力となる。一方、バッテリ150のSOCが予め定められた値よりも低い場合、MG1により発電された電力は、後述するインバータにより交流から直流に変換される。その後、後述するコンバータにより電圧が調整されてバッテリ150に蓄えられる。
【0026】
MG1が発電機として作用している場合、MG1は負のトルクを発生している。ここで、負のトルクとは、エンジン100の負荷となるようなトルクをいう。MG1が電力の供給を受けて電動機として作用している場合、MG1は正のトルクを発生する。ここで、正のトルクとは、エンジン100の負荷とならないようなトルク、すなわち、エンジン100の回転をアシストするようなトルクをいう。なお、MG2についても同様である。代表的には、エンジン100の起動時に、MG1はエンジン100をモータリングするための正のトルクを出力する。
【0027】
MG2は、バッテリ150に蓄えられた電力およびMG1により発電された電力のうちの少なくとも一方の電力によりトルクを発生する。MG2のトルクは、減速機140を介して駆動輪190に伝えられる。これにより、MG2はエンジン100をアシストしたり、MG2からの駆動力により車両を走行させたりする。
【0028】
ハイブリッド車両の回生制動時には、減速機140を介して駆動輪190によりMG2が駆動され、MG2が発電機として作動する。これによりMG2は、制動エネルギを電力に変換する回生ブレーキとして作動する。MG2により発電された電力は、バッテリ150に蓄えられる。
【0029】
動力分割機構130は、サンギヤと、ピニオンギヤと、キャリアと、リングギヤとを含む遊星歯車から構成される。ピニオンギヤは、サンギヤおよびリングギヤと係合する。キャリアは、ピニオンギヤが自転可能であるように支持する。サンギヤはMG1の回転軸に連結される。キャリアはエンジン100のクランクシャフトに連結される。リングギヤはMG2の回転軸および減速機140に連結される。
【0030】
エンジン100、MG1およびMG2が、遊星歯車からなる動力分割機構130を介して連結されることで、エンジン100、MG1およびMG2の回転数は、
図2に示すように、共線図において直線で結ばれる関係になる。
【0031】
図1に示すハイブリッド車両は、発進時や低車速時等のエンジン100の効率が悪い運転領域では、基本的には、エンジン100を停止してMG2による駆動力のみによって走行する。そして、通常走行時には、エンジン100を効率の高い領域で作動させるとともに、動力分割機構130によりエンジン100の動力を2経路に分ける。一方の経路に伝達された動力は、駆動輪190を駆動する。他方の経路に伝達された動力は、MG1を駆動して発電を行なう。このとき、MG2は、MG1の発電電力を用いてトルクを出力することによって、駆動輪190の駆動を補助する。また、高速走行時には、さらにバッテリ150からの電力をMG2に供給することでMG2のトルクを増大させることにより、駆動輪190に対して駆動力の追加を行なう。
【0032】
一方、減速時には、駆動輪190により従動するMG2が発電機として機能して回生制動による発電を行なう。回生発電によって回収された電力は、バッテリ150に充電される。なお、ここで言う回生制動とは、ハイブリッド自動車を運転するドライバによるフットブレーキ操作があった場合の回生発電を伴う制動や、フットブレーキを操作しないものの走行中にアクセルペダルをオフすることで回生発電をさせながら車両減速(または加速の中止)させることを含む。
【0033】
バッテリ150は、複数の二次電池セル(図示せず)により構成された組電池である。バッテリ150の電圧は、たとえば200V程度である。バッテリ150には、MG1およびMG2が発電した電力の他、車両の外部電源から供給される電力によって充電されてもよい。
【0034】
エンジン100、MG1およびMG2は、ECU170により制御される。なお、ECU170は複数のECUに分割するようにしてもよい。ECU170は、図示しないCPU(Central Processing Unit)およびメモリを内蔵した電子制御ユニットにより構成される。ECU170は、当該メモリに記憶されたマップおよびプログラムに基づいて、各センサによる検出値を用いた演算処理を行なうように構成される。あるいは、ECUの少なくとも一部は、電子回路等のハードウェアにより所定の数値・論理演算処理を実行するように構成されてもよい。
【0035】
図3には、
図1に示したMG1,MG2を駆動するための電気システムの構成が示される。
【0036】
図3を参照して、ハイブリッド車両には、コンバータ200と、MG1に対応する第1インバータ210と、MG2に対応する第2インバータ220と、SMR(System Main Relay)250とが設けられる。
【0037】
SMR250は、バッテリ150とコンバータ200との間に設けられる。SMR250が開放されると、バッテリ150が電気システムから遮断される。一方、SMR250が閉成されると、バッテリ150が電気システムに接続される。これにより、バッテリ150の出力電圧に応じた直流電圧VLがコンバータ200へ供給される。直流電圧VLは、電圧センサ182により検出される。電圧センサ182の検出結果は、ECU170に送信される。
【0038】
SMR250の状態は、ECU170により制御される。たとえば、ハイブリッド車両のシステム起動を指示するパワーオンスイッチ(図示せず)のオン操作に応答して、SMR250が閉成される一方で、パワーオンスイッチのオフ操作に応答して、SMR250は開放される。
【0039】
コンバータ200は、リアクトルと、直列接続された2個の電力用半導体スイッチング素子(以下、単に「スイッチング素子」とも称する)Q1,Q2と、各スイッチング素子に対応して設けられた逆並列ダイオードと、リアクトルとを含む。電力用半導体スイッチング素子としては、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、電力用MOS(Metal Oxide Semiconductor)トランジスタ、電力用バイポーラトランジスタ等を適宜採用することができる。
【0040】
リアクトルは、バッテリ150の正極側に一端が接続され、スイッチング素子Q1,Q2の接続点に他端が接続される。各スイッチング素子Q1,Q2のオンオフは、ECU170により制御される。以下では、スイッチング素子Q1を上アーム素子とも称し、スイッチング素子Q2を下アーム素子とも称する。
【0041】
コンバータ200と、第1インバータ210および第2インバータ220との間の直流電圧VH(以下、システム電圧VHとも称する)は、電圧センサ180により検出される。電圧センサ180の検出結果は、ECU170に送信される。
【0042】
コンバータ200は、スイッチング素子Q1および/またはQ2のオンオフ制御により、直流電圧VLおよびVHの間で双方向の直流電圧変換を実行するように構成されている。コンバータ200による電圧変換比(VH/VL)は、スイッチング素子Q1,Q2のデューティ比に応じて制御される。基本的には、スイッチング素子Q1およびQ2は、各スイッチング周期内で相補的かつ交互にオンオフするように制御される。このようにすると、コンバータ200の制御動作を特に切換えることなく、バッテリ150の充電および放電のいずれにも対応して、直流電圧VHを制御することができる。
【0043】
なお、直流電圧VHを直流電圧VLから昇圧する必要がない場合には、スイッチング素子Q1およびQ2をオンおよびオフにそれぞれ固定することにより、VH=VL(電圧変換比=1.0)とすることもできる。
【0044】
第1インバータ210は、一般的な三相インバータで構成され、並列接続されたU相アーム、V相アームおよびW相アームを含む。U相アーム、V相アームおよびW相アームは、各々、直列に接続された2個のスイッチング素子(上アーム素子および下アーム素子)を有する。各スイッチング素子には、逆並列ダイオードが接続される。
【0045】
MG1は、星型結線されたU相コイル、V相コイルおよびW相コイルを固定子巻線として有する。各相コイルの一端は、中性点112で互いに接続される。各相コイルの他端は、第1インバータ210の各相アームのスイッチング素子の接続点とそれぞれ接続される。
【0046】
第1インバータ210は、車両走行時には、車両走行に要求される出力(車両駆動トルク、発電トルク等)を発生するために設定される動作指令値(代表的にはトルク指令値)に従ってMG1が動作するように、MG1の各相コイルの電流または電圧を制御する。第1インバータ210は、バッテリ150から供給される直流電力を交流電力に変換してMG1に供給する電力変換動作と、MG1により発電された交流電力を直流電力に変換する電力変換動作との双方向の電力変換を実行可能である。
【0047】
第2インバータ220は、第1インバータ210と同様に、一般的な三相インバータで構成される。MG2は、MG1と同様に、星型結線されたU相コイル、V相コイルおよびW相コイルを固定子巻線として有する。各相コイルの一端は、中性点122で互いに接続される。各相コイルの他端は、第2インバータ220の各相アームのスイッチング素子の接続点とそれぞれ接続される。なお、MG1およびMG2には、ロータ(図示せず)の回転位置(角度)を検出するための、回転角センサ221,222(代表的にはレゾルバ)が配置される。回転角センサ221,222によって検知された回転角θ(1),θ(2)は、ECU170に送信される。ECU170は、回転角θ(1),θ(2)に基づいて、MG1回転数Nm(1)およびMG2回転数Nm(2)を検知することができる。
【0048】
第2インバータ220は、車両走行時には、車両走行に要求される出力(車両駆動トルク、回生制動トルク等)を発生するために設定される動作指令値(代表的にはトルク指令値)に従ってMG2が動作するように、MG2の各相コイルの電流または電圧を制御する。第2インバータ220についても、バッテリ150から供給される直流電力を交流電力に変換してMG2に供給する電力変換動作と、MG2により発電された交流電力を直流電力に変換する電力変換動作との双方向の電力変換を実行可能である。
【0049】
図4は、本発明の実施の形態による電動車両における電動機制御を説明するための機能ブロック図である。
図4に示した各機能ブロックについては、当該ブロックに相当機能を有する回路(ハードウェア)をECU170に構成してもよいし、予め設定されたプログラムに従ってECUがソフトウェア処理を実行することにより実現してもよい。
【0050】
図4を参照して、ECU170は、電動機指令演算部300,305と、コンバータ指令演算部307と、パルス幅変調部310,315,317と、キャリア周波数制御部350と、キャリア発生部360,365,367と、スリップ判定部390とを含む。
【0051】
まず、第1インバータ210および第2インバータ220の制御構成を説明する。
電動機指令演算部300は、MG1のフィードバック制御により、第1インバータ210の制御指令を演算する。ここで、制御指令は、各インバータ210,220によって制御される、MG1,MG2へ供給される電圧または電流の指令値である。以下では、制御指令として、MG1,MG2の各相の電圧指令Vu,Vv,Vwを例示する。たとえば、電動機指令演算部300は、MG1の各相の電流Imt(1)のフィードバックにより、MG1の出力トルクを制御する。具体的には、電動機指令演算部300は、MG1のトルク指令値Tqcom(1)に対応した電流指令値を設定するとともに、当該電流指令値と電流Imt(1)との偏差に応じて電圧指令Vu,Vv,Vwを発生する。この際に、MG1の回転角θ(1)を用いた座標変換(代表的には、dq軸変換)を伴う制御演算を用いることが一般的である。
【0052】
電動機指令演算部305は、電動機指令演算部300と同様に、MG2のフィードバック制御によって、第2インバータ220の制御指令、具体的には、MG2の各相電圧指令Vu,Vv,Vwを発生する。すなわち、MG2の電流Imt(2)、回転角θ(2)およびトルク指令値Tqcom(2)に基づいて、電圧指令Vu,Vv,Vwが生成される。
【0053】
パルス幅変調部310は、キャリア発生部360からのキャリア信号160(1)と、電動機指令演算部300からの電圧指令Vu,Vv,Vwとに基づいて、第1インバータ210のスイッチング素子の制御信号S11〜S16を発生する。制御信号S11〜S16により、第1インバータ210のU相、V相、W相の上下アームを構成する6個のスイッチング素子のオンオフが制御される。
【0054】
同様に、パルス幅変調部315は、キャリア発生部365からのキャリア信号160(2)と、電動機指令演算部305からの電圧指令Vu,Vv,Vwとに基づいて、第2インバータ220のスイッチング素子の制御信号S21〜S26を発生する。制御信号S21〜S26により、第2インバータ220のU相、V相、W相の上下アームを構成する6個のスイッチング素子のオンオフが制御される。
【0055】
パルス幅変調部310,315では、キャリア信号160(160(1)および160(2)を総称するもの)と、電圧指令Vu,Vv,Vwとを比較するPWM制御が実行される。
【0056】
図5は、インバータ制御のためのパルス幅変調部310,315によるPWM制御を説明する波形図である。
【0057】
図5を参照して、PWM制御では、キャリア信号160と、電圧指令270(電圧指令Vu,Vv,Vwを総称するもの)との電圧比較に基づき、インバータの各相のスイチング素子のオンオフが制御される。この結果、MG1,MG2の各相コイル巻線には、各相に疑似正弦波電圧としてのパルス幅変調電圧280が印加される。キャリア信号160は、周期的な三角波やのこぎり波によって構成することができる。
【0058】
再び
図4を参照して、キャリア周波数制御部350は、第1インバータ210でのPWM制御に用いられるキャリア周波数f1と、第2インバータ220のPWM制御に用いられるキャリア周波数f2と、コンバータ200のPWM制御に用いられるキャリア周波数fcとを制御する。キャリア周波数制御部350には、後程説明するスリップ判定部390からのフラグFslが入力される。
【0059】
キャリア発生部360は、キャリア周波数制御部350によって設定されたキャリア周波数f1に従ってキャリア信号160(1)を発生する。キャリア発生部365は、キャリア周波数制御部350によって設定されたキャリア周波数f2に従ってキャリア信号160(2)を発生する。
【0060】
すなわち、キャリア信号160(1)および160(2)の周波数は、キャリア周波数制御部350によって設定されたキャリア周波数f1およびf2に従って変化する。この結果、第1インバータ210および第2インバータ220での、PWM制御によるスイッチング周波数が、キャリア周波数制御部350によって制御される。
【0061】
インバータ210,220では、キャリア周波数に従って
図3に示したスイッチング素子がオンオフされる。このため、インバータ210,220からMG1,MG2に供給される電流には、スイッチング周波数に従う高調波電流(リップル電流)が重畳される。
【0062】
図6は、キャリア周波数とリップル電流との関係を説明するための概念的な波形図である。
【0063】
図6を参照して、制御指令値に従った交流電流285を発生するように、スイッチング素子のオンオフが、キャリア周波数に従って制御される。このため、モータジェネレータMG1,MG2へ供給される電流290は、交流電流285に、スイッチング周波数に従ったリップル電流が重畳した波形となる。リップル電流の大きさΔIrpは、電流経路のインダクタンスと、スイッチング周期(スイッチング周波数の逆数)によって決まる。したがって、スイッチング周波数が低くなると、ΔIrpが大きくなることが理解される。
ΔIrpが大きくなると、電流の変動も大きくなる。
【0064】
図6に示したリップル電流によって、MG1,MG2に作用する電磁力が、スイッチング周波数に従った周期で変動する。一方、MG1,MG2を始めとするハイブリッド車両の搭載機器によって、質量要素およびばね要素の組み合わせによる機械振動系が複数形成される。たとえば、MG1,MG2では、ロータを質量要素とし、支持ベアリングをばね要素とする機械振動系や、ステータおよびケースによって構成される機械振動系が存在する。また、図示しないトランスミッションケース等によっても、機械振動系が構成される。これらの機械振動系は、外力の作用や、振動が伝達されることによって振動し、空気を振動させることによって音を発生する。
【0065】
MG1,MG2では、リップル電流によって、ステータおよびロータ間に作用する電磁力がキャリア周波数に従って周期的に変動することにより、ロータおよびステータの機械振動系に振動が発生する。この振動は、さらに他の機械振動系へも伝達されるので、これら機械振動系の振動によって、音(いわゆる、電磁騒音)が生じることになる。電磁騒音は、電動車両の作動音として車室内へも伝播する。
【0066】
再び
図4を参照して、次に、コンバータ200の制御構成について説明する。
コンバータ指令演算部307は、電圧指令値VHrefと、直流電圧VL,VHの検出値とに基づいて、システム電圧VHを電圧指令値VHrefに制御するための制御電圧指令値Vcntを発生する。制御電圧指令値Vcntは、フィードフォワード制御および/またはフィードバック制御によって演算される。たとえば、直流電圧VL(検出値)と電圧指令値VHrefとの電圧比に基づいてフィードフォワード制御が実行される。また、直流電圧VH(検出値)と電圧指令値VHrefとの偏差に基づいて、フィードバック制御を実行することができる。
【0067】
なお、電圧指令値VHrefは、MG1,MG2の動作状態(たとえば、トルクおよび回転数)に基づいて設定される。電圧指令値VHrefは、少なくとも、MG1の逆起電圧およびMG2の逆起電圧の両方よりも高い電圧に設定される。
【0068】
キャリア発生部367は、キャリア周波数制御部350によって設定されたキャリア周波数fcに従ってキャリア信号160(3)を発生する。キャリア信号160(3)の周波数も、キャリア周波数制御部350によって設定されたキャリア周波数fcに従って変化する。この結果、コンバータ200でのPWM制御によるスイッチング周波数が、キャリア周波数制御部350によって制御される。
【0069】
パルス幅変調部317は、キャリア発生部367からのキャリア信号160(3)と、コンバータ指令演算部307からの制御電圧指令値Vcntとに基づいて、コンバータ200のスイッチング素子の制御信号S1,S2を発生する。すなわち、制御電圧指令値Vcntは、コンバータ制御での「制御指令」に対応する。
【0070】
図7は、コンバータ制御のためのパルス幅変調部317によるPWM制御を説明する波形図である。
【0071】
図7を参照して、コンバータ200のスイッチング素子Q1,Q2のオンオフは、キャリア信号160(3)と、制御電圧指令値Vcntとの比較に基づいて制御される。
【0072】
キャリア信号160(3)の方が制御電圧指令値Vcntよりも高電圧の区間では、上アーム素子Q1がオンされる(下アーム素子Q2はオフ)一方で、制御電圧指令値Vcntの方がキャリア信号160(3)よりも高電圧の区間では、下アーム素子Q2がオンされる(上アーム素子Q1はオフ)。
【0073】
制御電圧指令値Vcntが高くなると、下アーム素子Q2がオンされる期間が長くなるので、コンバータ200の昇圧比が高くなる。すなわち、システム電圧VHが上昇する。反対に、制御電圧指令値Vcntが低くなると、上アーム素子Q1がオンされる期間が長くなるので、コンバータ200の昇圧比が低くなる。すなわち、システム電圧VHが低下する。このようにして、コンバータ200は、PWM制御によって、システム電圧VHを制御することができる。
【0074】
図7に示されるように、コンバータ200によって制御されたシステム電圧VHには、キャリア信号160(3)の周波数に従ったリップル電圧ΔVrpが発生する。このリップル電圧に従って、リアクトル(
図3)を通過する電流にリップル成分が含まれることが理解される。このため、リップル電流に起因してリアクトルに作用する磁界が変動することにより、キャリア周波数に従う電磁騒音が発生する可能性がある。
【0075】
リップル電圧およびリップル電流は、スイッチング周波数が低く程大きくなることが理解される。したがって、コンバータ200の出力電流、すなわち、インバータ210,220への入力電流についても、スイッチング周波数が低くなると変動が相対的に大きくなる。
【0076】
再び
図4を参照して、スリップ判定部390は、
図1に示した駆動輪190がスリップしているか否かを検知する。スリップ判定は、代表的には、MG2回転数Nm(2)の変化量に基づいて実行できる。たとえば、特許文献3の
図4に示されたスリップ判定ルーチンに基づいて、スリップ判定部390の機能を実現することができる。なお、上述のように、回転数Nm(2)は、回転角センサ222によって検出されたMG2の回転角θ(2)に基づいて演算することが可能である。
【0077】
スリップ判定部390は、駆動輪190がスリップしていないときには、フラグFslをオフ(Fsl=“0”)する。一方、スリップ判定部390は、駆動輪190がスリップしているときには、フラグFslをオン(Fsl=“1”)。一旦駆動輪190がスリップすると、スリップおよびスリップ後に発生するグリップが解消して、MG2回転数Nm(2)の変化量の挙動が安定するまでの間、フラグFslはオンに維持される。そして、スリップ判定部390は、駆動輪190がスリップしていない状態に戻ったと判断すると、フラグFslを再びオフ(Fsl=“0”)する。
【0078】
図8は、本発明の実施の形態によるハイブリッド車両における、コンバータ200および各インバータ210,220でのキャリア周波数制御(ランダムキャリア制御)を説明する概念図である。
図8にはインバータ210のキャリア周波数f1の制御が代表的に示される。
【0079】
図8を参照して、キャリア周波数制御部350は、キャリア周波数f1を、所定の周波数範囲420内で、時間経過に応じて一定周期あるいはランダム周期で変化させる。周波数範囲420の中心値はfa(中心周波数)であり、周波数の制御幅はΔfである。この結果、キャリア周波数の上限値f1maxはfa+Δfであり、下限値f1minはfa−Δfとなる。
【0080】
キャリア周波数f1は、上限値f1max〜下限値f1minの周波数範囲内で、変更周期Trが経過するごとに変更される。Trが固定値であるときには、キャリア周波数は一定周期で変動することなる。一方、Trを変化させて、キャリア周波数をランダムな周期で変動させることも可能である。
【0081】
図9は、
図8に示したランダムキャリア制御における電磁騒音の音圧レベル分布を示す概念図である。
【0082】
図9を参照して、符号400は、キャリア周波数f1=faに固定した場合の音圧レベルの周波数分布が示される。この場合には、周波数faに対応した固定周波数の音圧レベルが高くなるため、当該周波数の騒音が車室内で感知されやすくなる。
【0083】
一方で、符号410は、
図8に示したようにキャリア周波数f1を下限値f1minから上限値f1maxの周波数範囲で変動させた場合の音圧レベルの周波数分布である。各キャリア周波数で発生する電磁騒音のレベルが一定であれば、キャリア周波数を変更する周期を短くすることにより(たとえば、Tr=2〜10[ms]程度)、人間の聴覚には、当該周波数範囲で一様な強度の音として認識される。この結果、符号410に示すように、当該周波数領域内で音圧レベルを分散することができるため、騒音の音圧レベルを低減することが可能となる。
【0084】
このように、ランダムキャリア制御によって、インバータによる電動機制御によって発生する電磁騒音を低減することができる。なお、ランダムキャリア制御の実行時には、キャリア周波数の平均値が中心周波数faとなるように、周波数の変動パターンが予め設定される。
【0085】
図9から理解されるように、制御幅Δfが広く設定されるほど、電磁騒音の音圧レベルが低下するので、電磁騒音は抑制される。一方で、キャリア周波数の下限値も低下することから、キャリア周波数が低くなることによって瞬間的に電流誤差が大きくなることが懸念される。
【0086】
キャリア周波数制御部350は、インバータ220のキャリア周波数f2およびコンバータ200のキャリア周波数fcについても、上述したキャリア周波数f1と同様のランダムキャリア制御を適用できる。以下では、
図3に記載された電力変換器である、コンバータ200、インバータ210およびインバータ220の各々に対して、ランダムキャリア制御を適用するものとして説明を進める。ただし、一部の電力変換器のみにランダムキャリア制御を適用とすることも可能である。
【0087】
一方で、駆動輪190がスリップすると、MG2回転数が急変するため、MG2の電力が大きく変化する虞がある。これにより、MG1,MG2とバッテリ150との間の電力収支が崩れることにより、コンバータ200、インバータ210およびインバータ220の少なくとも一部において、電流変動が大きくなる虞がある。
【0088】
この際に、ランダムキャリア制御が適用されていると、キャリア周波数の低下による電流誤差の拡大がさらに重なることによって、電流変動がさらに拡大する虞がある。すなわち、駆動輪190のスリップ時には、ランダムキャリア制御の適用によって電流変動がさらに拡大することにより、過電流が発生する虞がある。したがって、本発明の実施の形態による電動車両では、ランダムキャリア制御に、スリップ状態(スリップ中/スリップ無し)に関する情報を組み合わせるように、電動機制御を実行する。
【0089】
図10は、本発明の実施の形態による電動車両における電動機制御の処理手順を説明するためのフローチャートである。
図10に示す制御処理は、ECU170によって所定周期で実行される。すなわち、
図10を始めとする各フローチャートに記載された各ステップは、ECU170によるソフトウェア処理および/またはハードウェア処理によって実現されるものとする。
【0090】
図10を参照して、ECU170は、ステップS100により、コンバータ200およびインバータ210,220でのキャリア周波数を決定するためのランダムキャリア制御を行なう。ステップS100による処理は、
図4のキャリア周波数制御部350の機能に対応する。
【0091】
図11は、
図10のステップS100(ランダムキャリア制御)の処理手順の第1の例を説明するためのフローチャートである。
【0092】
図11を参照して、ECU170は、ステップS110により、スリップ判定結果を読込む。すなわち、
図4に示したフラグFslが、現在、オン(Fsl=“1”)およびオフ(Fsl=“0”)のいずれであるかが、ステップS110で読込まれる。
【0093】
ECU170は、ランダムキャリア制御の内容を切換えるための判定に使用するスリップ状態として、「スリップ中」および「スリップ無し」の2つの状態のいずれであるかを逐次認識する。車両発進時(すなわち、初期値)には、「スリップ無し」と認識されている。
【0094】
ECU175は、ステップS120により、スリップ状態が、「スリップ中」および「スリップ無し」のいずれと認識されているかを判定する。なお、ステップS120での判定の対象となるスリップ状態は、前回の制御周期において認識されたものである。
【0095】
ECU170は、「スリップ無し」と認識されている場合(S120のNO判定時)には、ステップS122により、ステップS110で読み込んだ今回のFslを用いて、Fsl=“1”であるかどうかを、さらに判定する。一方、ECU170は、「スリップ中」と認識されている場合(S120のYES判定時)には、ステップS124により、今回のFsl=“0”であるかどうかをさらに判定する。
【0096】
ECU170は、「スリップ無し」と認識されている状態から、Fsl=“1”となると(S122のYES判定時)、ステップS150に処理を進めて、「スリップ中」と認識する。また、ECU170は、「スリップ中」と認識されている状態においてFsl=“1”のときにも(S124のNO判定時)、ステップS150に処理を進めて、「スリップ中」の認識を継続する。
【0097】
ECU170は、「スリップ中」と認識されている状態から、Fsl=“0”となると(S124のYES判定時)、ステップS160に処理を進めて、「スリップ無し」と認識する。また、ECU170は、「スリップ無し」と認識されている状態においてFsl=“0”のときにも(S122のNO判定時)、ステップS160に処理を進めて、「スリップ無し」の認識を継続する。
【0098】
このように、ステップS110〜S160によって、今回の制御周期において、ランダムキャリア制御のためのスリップ状態を、「スリップ中」および「スリップ無し」のいずれと認識するかが決定される。
【0099】
ECU170は、「スリップ無し」と認識されたとき(S160)には、ステップS180に処理を進めて、ランダムキャリア制御の制御幅Δf=f0に設定する。f0は、
図9で説明した騒音レベルの低減が実現されるような値に設定される。
【0100】
これに対して、ECU170は、「スリップ中」と認識されたとき(S150)には、ステップS170に処理を進めて、ランダムキャリア制御の制御幅Δf=f1に設定する。f1は、ステップS180で設定されたf0よりも狭い。あるいは、f1=0として、ランダムキャリア制御を中止、すなわち、キャリア周波数を中心周波数faに固定することも可能である。
【0101】
「スリップ無し」と認識された場合に、ステップS180で設定された制御幅によって決まる周波数範囲は「所定の周波数範囲」に対応する。そして、「スリップ中」と認識された場合に、ステップS180で設定された制御幅によって決まる周波数範囲は、「所定の周波数範囲」より狭くなることが理解される。ステップS180によって設定された周波数範囲に従うキャリア周波数の制御は「第1の制御」に対応する。同様に、ステップS170によって設定された周波数範囲に従うキャリア周波数の制御は「第2の制御」に対応する。
【0102】
なお、S170により設定される周波数範囲と、S180で設定される周波数範囲との間で中心周波数faは共通とすることが好ましいが、第1および第2の周波数範囲の中心周波数を変化させてもよい。ただし、ステップS170により設定される周波数範囲の下限値は、ステップS180により設定される周波数範囲の下限値よりも高いものとする。また、上述のように、ステップS180によって、「スリップ無し」のときよりも周波数範囲を狭く設定することは、キャリア周波数の固定を含む概念である。
【0103】
再び
図10を参照して、ECU170は、ステップS200では、ステップS100で決定されたキャリア周波数fc,f1,f2に従って、キャリア信号160(1),160(2),160(3)を発生する。すなわち、ステップS200による処理は、
図4のキャリア発生部360,365,367の機能に対応する。
【0104】
ECU170は、ステップS300では、コンバータ200、第1インバータ210、および第2インバータ220の制御指令を演算する。代表的には、制御指令として、コンバータの制御電圧指令値Vcnおよび、インバータ各相の電圧指令Vu,Vv,Vwが演算される。すなわち、ステップS300による演算は、
図4の電動機指令演算部300,305およびコンバータ指令演算部307と同様に実行できる。
【0105】
ECU170は、ステップS400では、第1インバータ210の制御指令とキャリア信号160(1)とを比較するPWM制御によって、第1インバータ210のスイッチング素子のオンオフ制御信号を発生する。ステップS400では、さらに、第2インバータ220の制御指令とキャリア信号160(2)とを比較するPWM制御によって、第2インバータ220のスイッチング素子のオンオフ制御信号が発生される。また、コンバータ200の制御指令とキャリア信号160(3)とを比較するPWM制御によって、コンバータ200のスイッチング素子Q1,Q2のオンオフ制御信号が発生される。すなわち、ステップS400による処理は、
図4のパルス幅変調部310,315,317と同様に実行できる。
【0106】
ステップS100〜S400の処理を所定周期で繰返すことによって、
図11で説明したランダムキャリア制御に従ったキャリア周波数を用いて、MG1,MG2を制御するための、コンバータ200、第1インバータ210および第2インバータ220でのPWM制御を実行できる。
【0107】
このように、本実施の形態によるハイブリッド車両では、ランダムキャリア制御におけるキャリア周波数の変化範囲(Δf)を、スリップ状態に応じて設定する。具体的には、駆動輪190がスリップしているときには、電磁騒音低減よりも過電流の抑制を優先するように、ランダムキャリア制御の制御幅を狭くする(好ましくは、ランダムキャリア制御を中止する)。一方で、駆動輪190がスリップしていないときには、車室内で感知される騒音を抑制するようにランダムキャリア制御の制御幅を設定する。この結果、駆動輪がスリップしたときの過電流を抑制した上で、電磁騒音を低減するように、ランダムキャリア制御を適切に実行することができる。
【0108】
次に、ランダムキャリア制御の変形例について、さらに説明する。
図12は、ランダムキャリア制御の第2の例を説明するフローチャートである。
【0109】
図12を参照して、ランダムキャリア制御の第2の例では、ECU170は、
図11と同様のステップS110,S120,S122,S124を実行する。
【0110】
ECU120は、「スリップ無し」と認識されている状態から、Fsl=“1”となると(S122のYES判定時)には、「スリップ開始」と判定して(ステップS126)、ステップS150に処理を進める。同様に、ECU170は、「スリップ中」と認識されている状態においてFsl=“1”のときには(S124のNO判定時)、「スリップ継続」と判定して(ステップS134)、ステップS150に処理を進める。上述のように、ステップS150では、「スリップ中」が認識される。
【0111】
ECU170は、「スリップ中」と認識されている状態から、Fsl=“0”となると(S124のYES判定時)、ステップS130に処理を進めて、「スリップ解消」と判定する。さらに、ECU170は、スリップ解消時点からの経過時間を計測するために、ステップS132により、図示しないタイマによる計時を開始する。スリップ解消の段階では、ECU170は、ステップS150に処理を進めて、「スリップ中」と認識する。
【0112】
ECU170は、「スリップ無し」と認識されている状態においてFsl=“0”のときには(S122のNO判定時)、ステップS128に処理を進める。ECU170は、ステップS128では、前回のスリップ解消時点から所定時間T(秒)が経過したかどうかを判定する。前回のスリップ解消時点からの経過時間は、ステップS132によりオンされたタイマによって検出できる。
【0113】
前回のスリップ解除時点からT(秒)が経過している場合に(S128のYES判定時)には、ECU170は、ステップS160に処理を進めて「スリップ無し」と認識する。これに対して、前回のスリップ解消時点からT(秒)が経過するまでは、S128がNO判定とされるため、ECU170は、ステップS150に処理を進める。したがって、この期間中は、フラグFsl=“0”に変化しても「スリップ中」と認識される。
【0114】
ECU170は、「スリップ中」と認識したとき(S150)には、
図12と同様のステップS170に処理を進める。また、ECU170は、「スリップ無し」と認識したとき(S160)には、
図12と同様のステップS180に処理を進める。
【0115】
このように、ランダムキャリア制御の第2の例は、
図11に示した第1の例と比較して、駆動輪がスリップしている状態からスリップしていない状態に遷移した時点から所定時間(T秒)が経過するまでの間は、「スリップ中」と認識される点で異なる。その他の点については、第1の例と同様であるので詳細な説明は繰返さない。
【0116】
駆動輪がスリップする要因の主なものとして路面状況が存在する。たとえば、降雨・降雪等によって路面が濡れていること、あるいは、路面が凍結していることによる路面摩擦係数の低下によって、駆動輪はスリップする。このような場面を想定すると、一旦駆動輪はスリップすると、駆動輪がスリップしていない状態に復帰しても、再度、駆動輪がスリップし易い状況が継続していることが懸念される。
【0117】
図12に説明したランダムキャリア制御の第2の例では、駆動輪がスリップしている状態からスリップしていない状態に復帰した後、スリップ中のランダムキャリア制御を所定期間維持することによって、駆動輪が再びスリップしたときの過電流を抑制することができる。
【0118】
図13には、
図11または
図12のフローチャートと組合せて適用される、ランダムキャリア制御の第3の例が示される。
【0119】
図13を参照して、ランダムキャリア制御の第3の例では、ECU170は、ステップS160により「スリップ無し」と認識された後、ステップS190により、スリップによる過電流が懸念される車両状態であるか否かを判定する。たとえば、ステップS190では、現在の車両状態が、下記(1)〜下記(6)の車両状態に該当するかどうかが判定される。
【0120】
(1) 路面が凍結して駆動輪がスリップし易くなる路面状況を判定するための条件として「外気温度が0度以下である」かどうか。
【0121】
(2) 降雨のために駆動輪がスリップし易くなる路面状況を判定するための条件として「ワイパが作動している」かどうか。
【0122】
上記(1),(2)は、駆動輪がスリップし易い車両状態であるか否かを判定するものである。あるいは、(3)〜(6)のように、過電流が発生し易い車両状態であるか否かを判定してもよい。
【0123】
(3) VSC(Vehicle Stability Control)機能を搭載した車両では、「VSC機能をオフするスイッチが操作されている」かどうか。VSCは、車両の横滑りをセンサが検知した場合に、四輪個々のブレーキ力とエンジンの出力とを自動的に制御して、車両の安定性を確保するためのドライバ支援制御である。したがって、VSCオフ時には、駆動輪がスリップすると、スリップの度合(MG2回転速度の変化量)が大きくなり易い。この結果、VSCオフ時には、駆動輪のスリップ時の電流が大きくなる傾向にあるため、「スリップによる過電流が懸念される車両状態」であると判定することが好ましい。
【0124】
(4) パワーモードスイッチが設けられた車両では、「パワーモードスイッチがオンされている」かどうか。パワーモード時には、同一のアクセル開度に対して、通常モードよりも車両駆動力が大きく設定される。したがって、パワーモードスイッチのオンにより、パワーモードが選択されていると、駆動輪がスリップしたときにおけるMG2トルク(すなわち、電流)が、通常モードよりも大きくなり易い。したがって、パワーモードスイッチのオン時には、駆動輪のスリップ時の電流が大きくなる傾向にあるため、「スリップによる過電流が懸念される車両状態」であると判定することが好ましい。
【0125】
(5) 「アクセル開度が所定開度(たとえば、60(%))よりも大きい」かどうか。アクセル開度が大きいときには、車両駆動力が大きく設定されるため、MG2のトルク(電流)も大きい状態となる。したがって、この状態で駆動輪がスリップすると、スリップ時の電流も大きくなるため、「スリップによる過電流が懸念される車両状態」であると判定することが好ましい。
【0126】
(6) 同一トリップ内でアクセル開度が上記(5)の条件となった履歴があるかどうか。走行路やドライバ特性の観点から、一度(5)の条件が成立した場合には、同様のアクセル操作が行われる可能性が高くなる。したがって、一旦(5)の条件が成立した場合には、同一トリップの以降の期間では、駆動輪がスリップしたときの電流も大きくなる可能性が高いため、「スリップによる過電流が懸念される車両状態」であると判定することが好ましい。
【0127】
上記(1)〜(6)に例示した条件の他にも、「スリップによる過電流が懸念される車両状態」を峻別するための条件を定義することができる。ステップS190の判定は、これらの条件をAND(論理積)および/またはOR(論理和)で組合せることよって、任意に設定することができる。
【0128】
ECU170は、スリップによる過電流が懸念される車両状態であると判定されたとき(S190のYES判定時)には、「スリップ無し」と認識された場合(S160)であっても、ステップS170へ処理を進める。これにより、「スリップ中」と認識された場合と同等のランダムキャリア制御が実行される。上述のようにこのスリップ中の制御は、ランダムキャリア制御の中止を含むものである。
【0129】
一方、ECU170は、スリップによる過電流が懸念される車両状態であると判定されなかったとき(S190のNO判定時)には、ステップS180へ処理を進める。これにより、「スリップ無し」と認識された場合のランダムキャリア制御が適用されて、電磁騒音が抑制される。
【0130】
図13に説明したランダムキャリア制御の第3の例では、「スリップによる過電流が懸念される車両状態」である場合には、駆動輪がスリップしていない状態から、駆動輪がスリップしているときのランダムキャリア制御を適用することによって、駆動輪のスリップ時の過電流を抑制することができる。
【0131】
なお、本実施の形態では、本発明による電動機制御が適用される電動車両として
図1の構成のハイブリッド車両を例示したが、本発明の適用はこのような例に限定されるものではない。すなわち、キャリア周波数制御を伴って制御される駆動系の電動機(モータジェネレータ)が搭載される限り、
図1とは異なる駆動系の構成を有するハイブリッド車両や、エンジンを搭載しない電気自動車、燃料電池車等の任意の電動車両に対して、本発明を適用可能である。
【0132】
また、電動機(モータジェネレータ)の個数についても特に限定されることはなく、電動機が1個、あるいは3個以上搭載される電動車両に対して、本発明は適用可能である点について確認的に記載する。
【0133】
また、PWM制御される電力変換器の構成は、本実施の形態での例示(チョッパ回路および三相インバータ)に限定されるものではない。すなわち、任意の構成の電力変換器をPWM制御する構成に対して、本実施の形態によるスイッチング周波数制御を同様に適用することができる。
【0134】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。