(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5825002
(24)【登録日】2015年10月23日
(45)【発行日】2015年12月2日
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
H02P 21/00 20060101AFI20151112BHJP
H02P 27/04 20060101ALI20151112BHJP
【FI】
H02P5/408 A
【請求項の数】4
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2011-203511(P2011-203511)
(22)【出願日】2011年9月16日
(65)【公開番号】特開2013-66304(P2013-66304A)
(43)【公開日】2013年4月11日
【審査請求日】2014年8月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100150441
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 洋一
(72)【発明者】
【氏名】菊地 寿江
(72)【発明者】
【氏名】田島 宏一
【審査官】
宮崎 基樹
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−060196(JP,A)
【文献】
国際公開第1995/024069(WO,A1)
【文献】
陳国呈、金東海,インバータ誘導機系の新特性計算法とPWMパターン最適化への応用,電気学会論文誌D,日本,1988年,Vol.108、No.11,p.1041-1048
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 1/00−31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スイッチング素子によるパルス幅変調を用いて直流を三相の交流に変換する主回路と、入力側の直流電圧を検出する手段と、出力する三相の電圧指令値を作成する手段と、一次周波数を作成する手段と、一次周波数を積算して電圧位相角を作成する手段と、を備えた電力変換装置において、
電圧位相角の値から、電圧指令値の電圧ベクトルに近い2種類のベクトルを選択するベクトル選択手段と、1演算周期の開始時と終了時に均等幅で出力されるゼロ電圧ベクトル出力角度幅を決めるゼロ電圧ベクトル出力角度幅作成手段と、前記ベクトル選択手段によって選択された第一のベクトルと第二のベクトルが切り替わるベクトル切り替え位相角を作成するベクトル切り替え位相角作成手段と、前記ベクトル切り替え位相角と前記ゼロ電圧ベクトル出力角度幅とを入力とし、第一のベクトルと第二のべクトルの各々のベクトル出力時間幅を演算するベクトル出力時間幅作成手段とを備え、
前記第一、第二のべクトルおよび前記各々のベクトル出力時間幅を入力とし、ベクトルに応じて三相のスイッチング素子のONまたはOFFを定めるパターンテーブルを用いてスイッチング素子のON/OFF指令値を作成するパルス指令信号作成手段とを備え、
前記ベクトル切り替え位相角およびゼロ電圧ベクトル出力角度幅は、
前記ベクトル切り替え位相角を電圧位相角とする第一の複素ベクトルと、前記ゼロ電圧ベクトル出力角度幅に応じた位相角に2/3πの位相遅れおよび位相進み処理を行った第二、第三の複素ベクトルの三種類のベクトルの合成ベクトルが、虚数成分を0とし、実数成分を、前記電圧指令値の振幅に比例した値となるよう決定することを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
前記ベクトル切り替え位相角作成手段は、演算周期の中間の位相角のsin成分の値に、変調率と1演算周期分の電圧位相角の進み角度を掛けて1.5倍した第一の値と、第一の値を逆三角関数によって変換した第二の値に1演算周期の電圧位相角の進み角度の半分を加算することによって、ベクトル切り替え位相角を作成することを特徴とする、請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記ゼロ電圧ベクトル出力角度幅作成手段は、前記ベクトル切り替え位相角のsin成分を、演算周期の中間の電圧位相角のsin成分で除算して第三の値を求め、第三の値の逆三角関数成分に2/3πと1演算周期の電圧進み角度の半分を加算することでゼロ電圧ベクトル出力角度幅を作成することを特徴とする、請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項4】
請求項1乃至3に記載の電力変換装置を搭載し、交流電動機を推進駆動することを特徴とする電気車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、スイッチング素子によるパルス幅変調を用い、直流電力を交流電力に変換する電力変換装置の制御に関する。
【背景技術】
【0002】
パルス幅変調を用いた電力変換装置の制御に関しては、以下の非特許文献がある。
ここでは、非特許文献1に記載された従来技術を
図2に基づいて説明する。
図2では、電源100、整流手段101、コンデンサ102、直流中間電圧検出手段103、インバータ104、モータ電流検出手段105、交流電動機106、ベクトル制御手段107、アナログ/デジタル変換手段108、一次周波数発生手段109、ベクトルアナライザ110、積分器111、電圧ベクトル選択手段120、パターンテーブル121、PWMパルス指令信号作成手段122、ゼロ電圧出力時間演算手段130、ベクトル切り替え時間演算手段140を備える。
整流手段101は、電源100の交流電圧を直流電圧に整流し、整流後の電圧は、コンデンサ102に蓄えられる。直流中間電圧検出手段103で検出された電圧は、アナログ/デジタル変換手段108に入力され、デジタル値に変換される。インバータ104は、三相交流を出力するものであり、6個のスイッチング素子を備えたインバータである。
次に、インバータに与えるゲート信号を発生する方法について説明する。ベクトル制御手段107は、電流検出手段105によって、交流電動機106に流れる電流を検出し、その検出値に基づいて回転座標上の電圧指令値vd*,vq*を生成する。一次周波数生成手段109は、インバータに与える正弦波交流の基本波周波数を出力している。積分器111では、一次周波数ω1を積算し、角度θを出力している。また、演算時間生成手段113は、正弦波交流の一周期を整数分割して、演算周期Tを決めている。 ベクトルアナライザ110は、ベクトル制御手段の出力vd*,vq*と、角度θを入力とし、数式1のように電圧ベクトルの大きさva*を計算する。
【0003】
【数1】
【0004】
また、負荷角として、数式2を演算している。
【0005】
【数2】
【0006】
この負荷角δにθを加えた値を、電圧位相角αとして数式3のように出力している。
【0007】
【数3】
【0008】
次に、電圧ベクトル選択手段120では角度αを入力として、2種類の電圧ベクトルの値を出力する。
図3にベクトルV1〜V6を図示する。また、
図3の表に基づいて、入力された角度αを用いてゼロ電圧ベクトルではない2種類のベクトルを、ベクトルV 1 〜 V 6 の中から選択し、PWMパルス指令信号生成手段122に入力する。
また、ベクトル切り替え時間演算手段140は、電圧指令値と直流中間電圧とから、変調率を計算し、1演算周期の中で選択された各ベクトルが出力される時間t1、t2を計算する。変調率aは、va*および直流中間電圧Edcを用いて数式4のように計算される。
【0009】
【数4】
【0010】
また、ベクトルアナライザ110が出力している角度αのうち、演算周期開始時の角度をαsとすると、αsと一次周波数、演算周期から、演算周期の中心に来る電圧位相角αc を数式5にように計算する。
【0011】
【数5】
【0012】
次に中心の角度αcに基づいて時間t1、t2を数式6のように演算する。t1、t2は
図4に示すようにV1、V2が出力される時間幅である。なお、ここでは位相が進んでおり、最初に出力されるベクトルをV1、次に出力されるベクトルをV2 としている。
【0013】
【数6】
【0014】
次に、ゼロ電圧出力演算時間130は数式7のようにt0を演算する。t0は
図4に示すように、演算期間の最初と最後に出力されるゼロ電圧ベクトルの時間幅である。
【0015】
【数7】
【0016】
t0の期間中はインバータの上アームあるいは下アームがすべてONになる。パターンテーブル121は、ベクトルV 0 〜V 7 の種類と、スイッチング素子のON、OFFの対応表を備えている。図 5にその詳細な内容を示す。表の中でONの場合は、インバータの上アームがON、下アームがOFFの指令を表す。OFFの場合にはインバータの上アームがOFF、下アームがON となる。なお、V0とV7はゼロ電圧ベクトルである。
次に、PWMパルス指令信号作成手段122は、ベクトルの種類からパターンテーブル121を参照し、三相のスイッチング素子のON、OFFの情報を得て、ベクトルの種類とその出力時間t0、t1、t2に基づいて三相のインバータのゲート信号を作成する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】総合電子出版社、「ACサーボシステムの理論と設計の実際」、p.47〜p.53、1990年
【非特許文献2】岩路、福田、「キャリア周波数変調によるPWMパルスパターン最適化法」、電気学会論文誌D、Vol.111、No.11、pp523-530、1991年
【非特許文献3】陳、金、「インバータ誘導機系の新特性計算法とPWMパターン最適化への応用」、電気学会論文誌D、Vol.108、No.11、pp.1041-1048、1988年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
非特許文献1、非特許文献2 では、電圧ベクトルの時間積分の軌跡が、
図3の空間ベクトルの座標上で円に近づくようにしている。非特許文献3では、高調波電流の実効値が最小になるようなパターンを提案しているが、電圧の基本波成分に関する出力誤差は完全にゼロにはならないことが指摘されている。従って、交流一周期に出力するPWMパルス数が減少すると、基本波成分における電圧出力誤差が拡大すると考えられる。基本波成分が指令値と一致しない場合、電圧を用いてモータ速度を推定するセンサレスベクトル制御では、電圧出力誤差の影響を受けることになり問題である。本発明はこの点を鑑みて考案されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記の問題を解決するため、本願では、スイッチング素子によるパルス幅変調を用いて直流を三相の交流に変換する主回路と、入力側の直流電圧を検出する手段と、出力する三相の電圧指令値を作成する手段と、一次周波数を作成する手段と、一次周波数を積算して電圧位相角を作成する手段と、を備えた電力変換装置において、電圧位相角の値から、電圧指令値の電圧ベクトルに近い2種類のベクトルを選択するベクトル選択手段と、1演算周期の開始時と終了時に均等幅で出力されるゼロ電圧ベクトル出力角度幅を決めるゼロ電圧ベクトル出力角度幅作成手段と、前記ベクトル選択手段によって選択された第一のベクトルと第二のベクトルが切り替わるベクトル切り替え位相角を作成するベクトル切り替え位相角作成手段と、前
記ベクトル切り替え位相角と前記ゼロ電圧ベクトル出力角度幅とを入力とし、第一のベクトルと第二のべクトルの各々のベクトル出力時間幅を演算するベクトル出力時間幅作成手段とを備え、前記第一、第二のべクトルおよび前記各々のベクトル出力時間幅を入力とし、べクトルに応じて三相のスイッチング素子のONまたはOFFを
定めるパターンテーブルを用いてスイッチング素子のON/OFF指令値を作成するパルス指
令信号作成手段とを備え、前記べクトル切り替え位相角およびゼロ電圧ベクトル出力角度幅は、前記ベクトル切り替え位相角を電圧位相角とする第一の複素ベクトルと、前記ゼロ電圧ベクトル出力角度幅に応じた位相角に2/3πの位相遅れおよび位相進み処理を行った
第二、第三の複素ベクトルの三種類のベクトルの合成ベクトルが、虚数成分を0とし、実数成分を、前記電圧指令値の振幅に比例した値となるよう決定する。
【0020】
また、前記ベクトル切り替え位相角作成手段は、演算周期の中間の位相角のsin成分の値に、変調率と1演算周期分の電圧位相角の進み角度を掛けて1.5倍した第一の値と、第一の値を逆三角関数によって変換した第二の値に1演算周期の電圧位相角の進み角度の半分を加算することによって、ベクトル切り替え位相角を作成するようにしても良い。
また、前記ゼロ電圧ベクトル出力角度幅作成手段は、前記べクトル切り替え位相角のsin成分を、演算周期の中間の電圧位相角のsin成分で除算して第三の値を求め、第三の値の逆三角関数成分に2/3πと1演算周期の電圧進み角度の半分を加算することでゼロ電圧ベクトル出力角度幅を作成するようにしてもよい。
また、上記の電力変換装置を電気車両に搭載してもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明では、PWMパルス数が減少した場合でも、インバータ電圧の基本波成分(振幅および位相)は、電圧指令値と一致するように出力されるため、d軸電圧及びq軸電圧を正確に出力することができる。このため、電圧を用いてモータ制御を行う制御、例えば、速度センサレス制御において、精度よく速度推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図3】電圧ベクトル選択手段120で用いている電圧位相角と選択される空間ベクトルの対応表、および、選択される空間ベクトルV1〜V6の関係図。
【
図4】演算周期1周期におけるベクトルV1が出力される時間t1、ベクトルV2が出力される時間t2、およびゼロ電圧ベクトルが出力される時間t0の関係図。
【
図5】パターンテーブル121に格納されている空間ベクトルとスイッチング素子のON、OFFの対応を示す図。
【
図6】ゼロ電圧出力時間演算手段230と、ベクトル切り替え時間演算手段240のブロック図。
【
図7】演算周期の開始角度αs、ベクトルが切り替わる位相角α1の関係図。
【
図8】三相インバータの各相でスイッチングが発生する角度αa、αb、αcの関係図。
【
図9】数16の複素ベクトル:ベクトルA〜Cを図示した図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1にこの技術の最良の実施例の電力変換装置のシステム構成図を示す。
図1では、電源100 、整流手段101 、コンデンサ102 、直流中間電圧検出手段103、
インバータ104 、モータ電流検出手段105 、交流電動機106 、ベクトル制御手段107 、アナログ/デジタル変換手段108 、一次周波数発生手段109 、ベクトルアナライザ110 、積分器111 、電圧ベクトル選択手段120 、パターンテーブル121 、PWMパルス指令信号作成手段122 、ゼロ電圧出力時間演算手段230 、ベクトル切り替え時間演算手段240 を備えている。
【0024】
このうち、ゼロ電圧出力時間演算手段230 、ベクトル切り替え時間演算手段240 は、従来技術と異なる。これらについて以下説明する。
図6にゼロ電圧出力時間演算手段230 と、ベクトル切り替え時間演算手段240の詳細な構成図を示す。
ベクトル切り替え時間演算手段240は、ベクトルアナライザ110の出力の電圧指令振幅va*と、アナログデジタル変換手段108の出力の直流中間電圧Edcと、一次周波数ω1と、演算周期Tと、ベクトルアナライザが計算している角度αを入力としている。また、ベクトル切り替え時間演算手段240は、ゲイン演算手段241と、中心角度演算手段242と、sin関数243と、arcsin関数244とを備える。
ここで、ゲイン演算手段241は、数式8のように第一のゲインを演算する。
【0026】
中心角度演算手段242は、入力の角度αのうち演算周期開始時の値をサンプリングし、この値をαsとする。従来技術の数5と同様に、演算周期開始時の角度αs から演算周期の中心に来る電圧位相角αc を以下数式9のように計算する。
【0028】
αcをsin関数 243に入力し、sin関数243の出力に数8のゲインK1をかけた値を、arcsin関数244の入力とする。そして、arcsin関数244の出力に、一周期の半分の角度(ω1 T/2 )を加算した数をα1とする。α1の演算式は,数式8、数式9より、次の数式10のようになる。
【0030】
ここで求められる角度α1は,
図7で示されるように,演算周期の開始から,ゼロではない電圧ベクトルが切り替わる位相角を表している。切り替わる位相角が求められたので、ベクトル切り替え時間演算手段240は、この角度と、一次周波数と、後述するゼロベクトル出力時間t0を用いて、ベクトルV1、V2の出力時間t1、t2を数式11のように演算する。
【0032】
次に、ゼロ電圧出力時間演算手段230について説明する。
ゼロ電圧出力時間演算手段230は、演算周期開始時の角度αsと、演算周期Tと、一次周波数ω1と、ベクトル切り替え時間演算手段230の角度α1と、sin関数243の出力を入力とし、sin関数231とarccos関数232とを備える。sin関数231は、演算周期開始時の角度αsと角度α1を加算した角度のsin演算を行う。sin関数231の出力をsin関数243の出力で除算した値を、arccos関数232の入力としている。arccos関数232の出力に( (ω1T )/2 - 2/3π)を加算した角度をα0とする。α0は次の数式12のように表される。
【0034】
さらに、このα0を、一次周波数ω1で除算することで、ゼロ電圧ベクトルの出力時間t0として外部に出力している。また、ベクトル切り替え時間演算手段240に、t0を供給している。
次に、このように制御装置を構成することによって、基本波成分に関する電圧出力誤差を減らすことができる理由について述べる。
三相電圧型ベクトルでは、インバータが出力できる電圧ベクトルは7種類存在する。複素平面上に電圧ベクトルを次の数式13のように定義する。なお、三相インバータの出力電圧をそれぞれva、vb、vcとする。また、三相の相を仮にA相、B相、C相とする。
【0036】
インバータの半導体素子のON、OFFによって、va、vb、vcは0またはEdc という値を取りうる。ここで、電圧ベクトルの積分を数式14のように定義する。
【0038】
三相の電圧が正弦波であった場合には、U= − j exp( jα) となり、積分した値Uのベクトル軌跡は円になる。非特許文献1、2、3ではその積分したベクトルがなるべく円周に沿うように、かつ、誘導機の電流に含まれる高調波成分が最小となるようパルスを出すタイミングを決めている。しかし、電圧の基本波成分と位相に関して見た場合、必ずしも正確ではない。
そこで、数式15のように、Vに電圧の基本波成分と同じ周波数をもつexp(jα)をかけて積分することにより、基本波成分を抽出する。
【0040】
ある演算時間Tの間に、
図8に示すようなパルスをインバータが出力している場合、演算周期の開始点を起点として、半導体素子がスイッチングを行う角度をそれぞれ、αa、αb、αcとすると、Uの値は数式16のように角度の関数となる。なお、A相、B相、C相は、インバータ出力のU、V、W相のいずれかに相当するもので、
図8に示すインバータのパルス波形からA、B、C相のどれがU、V、W相に相当するかを決めることができる。
【0042】
図8に従って、演算時間Tの中央付近でA相の素子がスイッチングを行うとする。演算周期の開始点から、B相がスイッチングを行うまでと、C相かスイッチングを行った時点から演算周期の終わりまでの期間は、ゼロ電圧ベクトルが出力されている。この期間は
図7に示されるように、均等な時間となっている。これを角度に換算した値が実施例中のα0である。このように、ゼロ電圧ベクトルが出力されている場合、数式16は数式17のように変形することができる。
【0044】
また、数式16で示されている3つの相のベクトルを複素平面上に示した図を
図9に示す。ここで、A相のベクトルをベクトルA、B相のベクトルをベクトルB、C相のベクトルをベクトルC、としている。また、数式17の右辺第二項は、
図9におけるB相とC相の複素ベクトルを合成したもので、これをベクトルDとしている。数式17中で、KはこのベクトルDの振幅を表している。
【0045】
図9より、B相とC相の複素ベクトルは、演算周期の中心に対応する位相角に関して対称となっている。そのため、インバータが出力しようとする電圧の変調率が変わっても
図9に示すようなB相とC相の合成ベクトルであるベクトルDの位相角は、演算周期の中心に対応する位相角である、αs + (ω1 T)/2に固定される。従って、ベクトルA の角度と、ベクトルD の振幅を制御することにより、ベクトルA、Dから得られる合成ベクトルE の振幅と角度を制御することができる。ベクトルEは、三相のベクトルの合成であり、数式16の値である。
【0046】
次に、数式15において、va、vb、vcに正弦波を与えた場合のベクトルEの値を考えると、その値は、虚数成分が0、実数成分が3/2 ω1 T va*となる。さらに、数式17の計算結果が、虚数成分が0、実数成分が3/2 ω1 T va*に一致するように、Kの値とA相のスイッチング角度αaを考える。αaは最良の実施例においてα1に相当するため、以下α1と表すことにする。
最初に、虚軸成分が0になることから、ベクトルDの振幅Kをあらわすと数式18のようになる。
【0048】
数式18より、振幅Kが α1の関数で与えられる。実軸方向の成分が3/2 ω1 T va*となることから、数式17にこれを代入してα1を求めると数式19のようになり、最良の実施例の数式10と等しくなる。
【0050】
一方、数式19と数式18より、ベクトルDの振幅Kが求められるため、α0を求めると数式12に等しい結果が得られる。
【符号の説明】
【0051】
100…電源、101…整流手段、102…コンデンサ、103…直流中間電圧検出手段、104…インバータ、105…モータ電流検出手段、106…交流電動機、107…ベクトル制御手段、108…アナログ/デジタル変換手段、109…一次周波数発生手段、110…ベクトルアナライザ、111…積分器、120…電圧ベクトル選択手段、121…パターンテーブル、122…PWMパルス指令信号作成手段、130…ゼロ電圧出力時間演算手段、140…ベクトル切り替え時間演算手段