特許第5825132号(P5825132)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5825132
(24)【登録日】2015年10月23日
(45)【発行日】2015年12月2日
(54)【発明の名称】ハイブリッド車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 10/08 20060101AFI20151112BHJP
   B60W 20/00 20060101ALI20151112BHJP
   B60W 10/02 20060101ALI20151112BHJP
   B60K 6/445 20071001ALI20151112BHJP
   B60L 11/14 20060101ALI20151112BHJP
   F02N 11/04 20060101ALI20151112BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20151112BHJP
【FI】
   B60K6/20 320
   B60K6/20 360
   B60K6/445ZHV
   B60L11/14
   F02N11/04 D
   B60K6/20 310
【請求項の数】8
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2012-26633(P2012-26633)
(22)【出願日】2012年2月9日
(65)【公開番号】特開2013-163421(P2013-163421A)
(43)【公開日】2013年8月22日
【審査請求日】2014年2月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085361
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 治幸
(74)【代理人】
【識別番号】100147669
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 光治郎
(72)【発明者】
【氏名】北畑 剛
(72)【発明者】
【氏名】田端 淳
(72)【発明者】
【氏名】今村 達也
(72)【発明者】
【氏名】熊▲崎▼ 健太
(72)【発明者】
【氏名】今井 恵太
(72)【発明者】
【氏名】日浅 康博
(72)【発明者】
【氏名】加藤 春哉
(72)【発明者】
【氏名】松原 亨
(72)【発明者】
【氏名】奥田 弘一
【審査官】 山村 和人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−029269(JP,A)
【文献】 特開2011−213166(JP,A)
【文献】 特開2008−265599(JP,A)
【文献】 特開2008−195281(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 6/20 − 6/547
B60W 10/00 − 20/00
B60L 11/14
F02N 11/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータ走行時の駆動トルクとエンジン始動時に駆動輪へ伝達される減速トルク分を相殺する始動補償トルクとを出力する電動機を備えるハイブリッド車両の制御装置であって、
前記モータ走行中に前記電動機に電力を供給する蓄電装置の充電容量が低下したことにより前記エンジン始動が要求された際に、前記電動機が出力可能な上限トルクと該電動機が実際に発生している発生トルクとの差トルクよりも前記始動補償トルクが大きい場合は、前記モータ走行から前記エンジン始動を伴うエンジン走行への遷移を行わないことを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
前記差トルクよりも前記始動補償トルクが小さくなったら、前記モータ走行から前記エンジン走行への遷移を行うことを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項3】
外部電源による充電により増大した前記蓄電装置の充電容量分の電力を用いてモータ走行する場合は、前記電動機の発生トルクが前記上限トルクから前記始動補償トルクを減じたトルク値よりも大きい場合であっても前記モータ走行を行い、
前記エンジンからの動力或いは前記駆動輪側からの被駆動力による充電により増大した前記蓄電装置の充電容量分の電力を用いてモータ走行する場合は、前記電動機の発生トルクが前記上限トルクから前記始動補償トルクを減じたトルク値よりも大きくなる前に前記エンジン走行へ遷移することを特徴とする請求項1又は2に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項4】
前記電動機としての複数の電動機と前記エンジンとにそれぞれ連結された複数の回転要素を有する差動機構を備え、
前記複数の電動機で走行するモータ走行中に前記エンジンを始動する際は、該複数の電動機のうちの何れかの電動機にて前記始動補償トルクを出力するものであることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項5】
前記複数の電動機として、第1電動機及び第2電動機を有し、
前記差動機構は、前記複数の回転要素として、前記第1電動機に連結された回転要素、駆動輪に動力伝達可能に連結された出力回転部材である回転要素、及び前記エンジンのクランク軸に連結された回転要素を有し、
前記第2電動機は、駆動輪に動力伝達可能に連結され、
前記複数の電動機に連結された回転要素以外の回転要素をロック作動により非回転部材に連結するロック機構を更に備え、
前記ロック機構をロック作動させた状態にて前記第1電動機及び前記第2電動機からの出力トルクを併用して走行するモータ走行中に前記エンジンを始動する際は、該ロック機構を非ロック作動させて、前記第1電動機にて前記エンジンを始動するクランキングトルクを出力すると共に前記第2電動機にて前記始動補償トルクを出力するものであることを特徴とする請求項4に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項6】
前記エンジンと前記複数の電動機のうちの何れかの電動機に連結された回転要素との間の動力伝達経路を断接する断接クラッチを備え、
前記複数の電動機のうちの何れの電動機も連結されていない回転要素を出力回転部材とするものであり、
前記断接クラッチを解放して走行する前記モータ走行中に前記エンジンを始動する際は、該断接クラッチを係合させつつ該断接クラッチに連結された前記電動機にて前記始動補償トルクを出力するものであることを特徴とする請求項4に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項7】
前記エンジンと前記電動機との間の動力伝達経路を断接する断接クラッチを備え、
前記断接クラッチを解放して前記電動機のみで走行するモータ走行中に前記エンジンを始動する際は、該断接クラッチを係合させつつ前記電動機にて前記始動補償トルクを出力するものであることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項8】
記エンジン始動が要求された際に、前記差トルクよりも前記始動補償トルクが大きい場合は前記モータ走行から前記エンジン走行への遷移を行わないという制御を実行しているときには、前記差トルクよりも前記始動補償トルクが小さくなるまで該エンジン始動が遅延させられるものであり、
前記エンジン始動が遅延させられているときに、前記蓄電装置の充電容量が更に低下した場合には、該エンジン始動に伴って駆動トルクが一時的に低下することを該エンジン始動に先立って予め運転者に報知することを特徴とする請求項1乃至7の何れか1項に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ走行トルクとエンジン始動時の始動補償トルクとを出力する電動機を備えるハイブリッド車両の制御装置に係り、特に、モータ走行中のエンジン始動に関するものである。
【背景技術】
【0002】
モータ走行時の駆動トルクとエンジン始動時に駆動輪へ伝達される減速トルク分を相殺する(すなわちエンジン始動に伴う駆動トルクの落ち込み分を補償する)始動補償トルクとを出力する電動機を備えるハイブリッド車両が良く知られている。例えば、特許文献1,2に記載されたハイブリッド車両がそれである。この特許文献1には、クラッチを介してエンジンに連結された電動機を備えるハイブリッド車両において、電動機が出力可能な上限トルクと現在の電動機の発生トルクとの差分(差トルク)である余裕トルクが、エンジン始動時のクラッチ係合によるエンジンの引き摺りトルク分を補償する始動補償トルク以下のときにエンジン始動を行うことが提案されている。つまり、特許文献1に記載の技術では、電動機の上限トルクに対して始動補償トルク分を残したトルク範囲がモータ走行時の駆動トルクとして用いることができるモータ走行可能トルクに設定されている。すなわち、始動補償トルク分に基づいてモータ走行中にエンジン始動する始動遷移閾値が設定されている。これにより、特許文献1の車両では、例えば駆動トルクの落ち込みに伴うエンジン始動時のショック(エンジン始動ショック)の発生が回避されている。また、特許文献2には、差動機構の3回転要素に各々連結されたエンジン、第1電動機、及び第2電動機を備えたハイブリッド車両において、モータ走行時の駆動トルクを出力する第2電動機の上限トルクから、その第2電動機に連結された回転要素上に発生する第1電動機によるクランキングトルクの反力トルク分をキャンセルする為の始動補償トルク分を減じて、モータ走行可能トルク(すなわち始動遷移閾値)を設定することで、クランキング時に第2電動機の出力トルクに不足が生じることなくエンジン始動することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−298079号公報
【特許文献2】特開2006−29269号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、電動機の上限トルクから始動補償トルクを減じてモータ走行可能トルクを設定するということは、実際にはそのモータ走行可能トルクを超えるトルク領域にてモータ走行できるにも拘わらず、エンジン始動が為されてしまうということであり、燃費が悪化する可能性がある。特に、大容量のバッテリ(すなわち電動機との間で電力を授受する蓄電装置)が搭載されている場合などは、モータ走行をより長く継続可能であるので、エンジン始動による燃費の悪化がより顕著に表れる。しかしながら、始動補償トルクを考慮せずにモータ走行可能トルクを設定すると、エンジン始動時に駆動トルクに不足が生じ、エンジン始動ショックが増大する可能性がある。尚、上述したような課題は未公知であり、モータ走行中のエンジン始動の要求に対して、始動補償トルクを考慮しつつモータ走行を行う領域を拡大することについて未だ提案されていない。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、モータ走行中のエンジン始動において、燃費向上とエンジン始動ショックの抑制とを両立させることができるハイブリッド車両の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成する為の第1の発明の要旨とするところは、(a) モータ走行時の駆動トルクとエンジン始動時に駆動輪へ伝達される減速トルク分を相殺する始動補償トルクとを出力する電動機を備えるハイブリッド車両の制御装置であって、(b) 前記モータ走行中に前記電動機に電力を供給する蓄電装置の充電容量が低下したことにより前記エンジン始動が要求された際に、前記電動機が出力可能な上限トルクとその電動機が実際に発生している発生トルクとの差トルクよりも前記始動補償トルクが大きい場合は、前記モータ走行から前記エンジン始動を伴うエンジン走行への遷移を行わないことにある。
【発明の効果】
【0007】
このようにすれば、エンジン始動ショックを抑制する為に上限トルクから始動補償トルクを減じてモータ走行可能トルクを設定するという公知の手法を採用するとエンジン始動が為されてしまうトルク領域(すなわち上限トルクから始動補償トルクを減じたトルク値を超えて上限トルクまでのトルク領域)までモータ走行を実行することができる。また、モータ走行からエンジン走行への遷移は始動補償トルクを出力できるトルク領域(すなわち上限トルクから始動補償トルクを減じたトルク値以下のトルク領域)で行われることになる為、エンジン始動ショックが抑制乃至回避される。よって、モータ走行中のエンジン始動において、燃費向上とエンジン始動ショックの抑制とを両立させることができる。
【0008】
ここで、第2の発明は、前記第1の発明に記載のハイブリッド車両の制御装置において、前記差トルクよりも前記始動補償トルクが小さくなったら、前記モータ走行から前記エンジン走行への遷移を行うことにある。このようにすれば、モータ走行からエンジン走行へ遷移できなかった状態から、発生トルクが低下して始動補償トルクが確保できる状態となったときにエンジン始動が行われる為、エンジン始動ショックが適切に抑制乃至回避される。
【0009】
また、第3の発明は、前記第1の発明又は第2の発明に記載のハイブリッド車両の制御装置において、外部電源による充電により増大した前記蓄電装置の充電容量分の電力を用いてモータ走行する場合は、前記電動機の発生トルクが前記上限トルクから前記始動補償トルクを減じたトルク値よりも大きい場合であっても前記モータ走行を行い、前記エンジンからの動力或いは前記駆動輪側からの被駆動力による充電により増大した前記蓄電装置の充電容量分の電力を用いてモータ走行する場合は、前記電動機の発生トルクが前記上限トルクから前記始動補償トルクを減じたトルク値よりも大きくなる前に前記エンジン走行へ遷移することにある。このようにすれば、外部電源による電力を用いた所謂プラグインハイブリッド方式での走行では、例えば電動機へ供給可能な電力が比較的多く確保されることによって比較的長くモータ走行を継続することができると考えられる為、電動機の発生トルクが上限トルクから始動補償トルクを減じたトルク値よりも大きい場合であってもモータ走行を行うという手法を採用してモータ走行の領域を拡大することが有用となる。一方、エンジン動力或いは被駆動力による電力を用いた通常のハイブリッド方式での走行では、例えば電動機へ供給可能な電力が前記プラグインハイブリッド方式程確保されずそれ程長くモータ走行を継続することができないと考えられる為、電動機の発生トルクが上限トルクから始動補償トルクを減じたトルク値よりも大きくなる前にエンジン走行へ遷移するという手法を採用してモータ走行中にエンジン始動することが有用となる。
【0010】
また、第4の発明は、前記第1の発明乃至第3の発明の何れか1つに記載のハイブリッド車両の制御装置において、前記電動機としての複数の電動機と前記エンジンとにそれぞれ連結された複数の回転要素を有する差動機構を備え、前記複数の電動機で走行するモータ走行中に前記エンジンを始動する際は、その複数の電動機のうちの何れかの電動機にて前記始動補償トルクを出力するものである。このようにすれば、前記公知の手法を採用するとエンジン始動が為されてしまうトルク領域までモータ走行を実行することができる。また、エンジン始動は始動補償トルクを出力できるトルク領域で行われることになる為、エンジン始動ショックが抑制乃至回避される。
【0011】
また、第5の発明は、前記第4の発明に記載のハイブリッド車両の制御装置において、前記複数の電動機として、第1電動機及び第2電動機を有し、前記差動機構は、前記複数の回転要素として、前記第1電動機に連結された回転要素、駆動輪に動力伝達可能に連結された出力回転部材である回転要素、及び前記エンジンのクランク軸に連結された回転要素を有し、前記第2電動機は、駆動輪に動力伝達可能に連結され、前記複数の電動機に連結された回転要素以外の回転要素をロック作動により非回転部材に連結するロック機構を更に備え、前記ロック機構をロック作動させた状態にて前記第1電動機及び前記第2電動機からの出力トルクを併用して走行するモータ走行中に前記エンジンを始動する際は、そのロック機構を非ロック作動させて、前記第1電動機にて前記エンジンを始動するクランキングトルクを出力すると共に前記第2電動機にて前記始動補償トルクを出力するものである。このようにすれば、ロック機構をロック作動させた状態にて2つの電動機(第1電動機及び第2電動機)でモータ走行する場合、前記公知の手法を採用するとエンジン始動に備えて第2電動機については始動補償トルクを担保して走行する必要があることに加え、第1電動機についてはクランキングトルクを出力する為にエンジン始動時は駆動トルクを全く出力することができず、モータ走行できる領域は実質的に第2電動機の上限トルクから始動補償トルクを減じたトルク以下のトルク領域となり、折角2つの電動機があるにも拘わらず1つの電動機と同じになってしまうことに対して、本発明を採用することで、2つの電動機における合計の上限トルクの領域までモータ走行を実行することができる。つまり、2つの電動機の出力を用いてモータ走行時の出力(パワー)を引き出すことが可能となる。
【0012】
また、第6の発明は、前記第4の発明に記載のハイブリッド車両の制御装置において、前記エンジンと前記複数の電動機のうちの何れかの電動機に連結された回転要素との間の動力伝達経路を断接する断接クラッチを備え、前記複数の電動機のうちの何れの電動機も連結されていない回転要素を出力回転部材とするものであり、前記断接クラッチを解放して走行する前記モータ走行中に前記エンジンを始動する際は、その断接クラッチを係合させつつその断接クラッチに連結された前記電動機にて前記始動補償トルクを出力するものである。このようにすれば、差動機構を介した複数の電動機でモータ走行する場合、前記公知の手法を採用するとエンジン始動に備えて始動補償トルクを担保して走行する必要があることに加え、複数の電動機の出力トルクが釣り合った状態で走行する必要がある為に始動補償トルクを出力する電動機以外の電動機においてもその始動補償トルクに対応するトルクを使用不可トルクとして担保して走行する必要があり、それらの担保分に相当するトルク領域をモータ走行に用いることができないことに対して、本発明を採用することで、始動補償トルクと使用不可トルクとを担保する必要がなくなる為、複数の電動機における合計の上限トルクの領域までモータ走行を実行することができる。つまり、複数の電動機の出力を用いてモータ走行時の出力(パワー)を引き出すことが可能となる。
【0013】
また、第7の発明は、前記第1の発明乃至第3の発明の何れか1つに記載のハイブリッド車両の制御装置において、前記エンジンと前記電動機との間の動力伝達経路を断接する断接クラッチを備え、前記断接クラッチを解放して前記電動機のみで走行するモータ走行中に前記エンジンを始動する際は、その断接クラッチを係合させつつ前記電動機にて前記始動補償トルクを出力するものである。このようにすれば、前記公知の手法を採用するとエンジン始動が為されてしまうトルク領域までモータ走行を実行することができる。また、エンジン始動は始動補償トルクを出力できるトルク領域で行われることになる為、エンジン始動ショックが抑制乃至回避される。
【0014】
また、第8の発明は、前記第1の発明乃至第7の発明の何れか1つに記載のハイブリッド車両の制御装置において、前記エンジン始動が要求された際に、前記差トルクよりも前記始動補償トルクが大きい場合は前記モータ走行から前記エンジン走行への遷移を行わないという制御を実行しているときには、前記差トルクよりも前記始動補償トルクが小さくなるまでそのエンジン始動が遅延させられるものであり、前記エンジン始動が遅延させられているときに、前記蓄電装置の充電容量が更に低下した場合には、そのエンジン始動に伴って駆動トルクが一時的に低下することをそのエンジン始動に先立って予め運転者に報知することにある。このようにすれば、運転者に報知せずにエンジン始動した場合に比べ、エンジン始動ショックに対する違和感を抑制することができる。また、運転者への報知によって運転者が車両に対する駆動要求量を低減することも考えられ、前記差トルクよりも前記始動補償トルクが小さくなることでのエンジン始動が実行できる可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明が適用される車両の概略構成を説明する図であると共に、車両に設けられた制御系統の要部を説明するブロック線図である。
図2】電子制御装置の制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。
図3】遊星歯車装置における各回転要素の回転速度を相対的に表すことができる共線図であり、噛合クラッチ係合時の走行状態を示している。
図4】エンジン始動における各トルクの状態の一例を、図3と同様の共線図上に示す図である。
図5】本実施例でのモータ走行領域を従来例との比較で説明する図である。
図6】電子制御装置の制御作動の要部すなわち併用モードでのモータ走行中のエンジン始動において燃費向上とエンジン始動ショックの抑制とを両立させる為の制御作動を説明するフローチャートである。
図7図6のフローチャートに示す制御作動を実行した場合のタイムチャートである。
図8】電子制御装置の制御作動の要部すなわち蓄電装置の充電完了に伴って併用モードでのモータ走行へ適切に切り換える為の制御作動を説明するフローチャートである。
図9図8のフローチャートに示す制御作動を実行した場合のタイムチャートである。
図10】噛合クラッチとは別のロック機構の一例であるブレーキを示す図である。
図11】本発明が適用される他のハイブリッド車両の概略構成を説明する図である。
図12】各回転要素の回転速度を相対的に表すことができる共線図であり、モータ走行時の走行状態を示している。
図13】エンジン始動における各トルクの状態の一例を、図12と同様の共線図上に示す図である。
図14】本実施例でのモータ走行領域を従来例との比較で説明する図である。
図15】本発明が適用される他のハイブリッド車両の概略構成を説明する図である。
図16】各回転要素の回転速度を相対的に表すことができる共線図であり、モータ走行時の走行状態を示している。
図17】エンジン始動における各トルクの状態の一例を、図16と同様の共線図上に示す図である。
図18】本実施例でのモータ走行領域を従来例との比較で説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明において、好適には、前記ハイブリッド車両は、エンジン、及び複数の電動機を備え、電動機により走行することができるハイブリッド車両ではあるが、充電スタンドや家庭用電源などから蓄電装置への充電が可能な所謂プラグインハイブリッド車両である。特に、このプラグインハイブリッド車両は、ハイブリッド車両よりも蓄電装置の最大入出力許容値が大きくされると考えられる為、例えばモータ走行が可能な領域をより高い要求駆動トルクまで対応させることができる。また、例えば複数の電動機を備えている場合には、高い要求駆動トルクまで対応させる為に電動機を大きくするのではなく、複数の電動機を走行用の駆動力源として使用できるようにすることで、電動機の大型化を抑制することができる。
【0017】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。
【実施例1】
【0018】
図1は、本発明が適用されるハイブリッド車両10(以下、車両10という)の概略構成を説明する図であると共に、車両10の各部を制御する為に設けられた制御系統の要部を説明するブロック線図である。図1において、車両10は、走行用の駆動力源である、エンジン12、第1電動機MG1、及び第2電動機と、左右1対の駆動輪14との間の動力伝達経路に設けられた、第1駆動部16、第2駆動部18、差動歯車装置20、及び左右1対の車軸22などとを備えて構成されている。また、車両10には、エンジン12により回転駆動されることで、油圧制御回路54の元圧となる油圧を発生すると共に、第1駆動部16や第2駆動部18等に潤滑油を供給するオイルポンプ24が備えられている。また、車両10は、エンジン12のクランク軸26を非回転部材であるハウジング28に対して固定するロック機構としての噛合クラッチ(ドッグクラッチ)46を備えている。
【0019】
第1駆動部16は、遊星歯車装置30及び出力歯車32を備えて構成されている。遊星歯車装置30は、第1電動機MG1に連結された回転要素であるサンギヤS、駆動輪14に動力伝達可能に連結された回転要素であってピニオンギヤPを介してサンギヤSと噛み合うリングギヤR、及び噛合クラッチ46の係合作動(ロック作動)によりハウジング28に連結された回転要素であってピニオンギヤPを自転及び公転可能に支持するキャリヤCAを3つの回転要素(回転部材)として有する公知のシングルピニオン型の遊星歯車装置であり、差動作用を生じる差動機構として機能する。キャリアCAは第1駆動部16の入力軸としてのクランク軸26に連結され、リングギヤRは出力歯車32に連結されている。すなわち、遊星歯車装置30は、入力回転部材であってエンジン12に連結された第1回転要素RE1としてのキャリアCA、第2回転要素RE2としてのサンギヤS、及び出力回転部材である第3回転要素RE3としてのリングギヤRを備え、エンジン12から出力される動力を第1電動機MG1及び出力歯車32へ分配する動力分配機構であって、電気的無段変速機として機能する。出力歯車32は、クランク軸26と平行を成す中間出力軸34と一体的に設けられた大径歯車36と噛み合わされている。また、中間出力軸34と一体的に設けられた小径歯車38が、差動歯車装置20のデフ入力歯車40と噛み合わされている。
【0020】
第2駆動部18は、第2電動機MG2の出力軸であるMG2出力軸42に連結された第2出力歯車44を備えて構成されている。第2出力歯車44は、大径歯車36と噛み合わされている。これにより、第2電動機MG2は、駆動輪14に動力伝達可能に連結される。
【0021】
第1電動機MG1及び第2電動機MG2は、何れも駆動力を発生させるモータ(発動機)及び反力を発生させるジェネレータ(発電機)としての機能を有するモータジェネレータであるが、第1電動機MG1は少なくともジェネレータとしての機能を備え、第2電動機MG2は少なくともモータとしての機能を備える。第1電動機MG1及び第2電動機MG2は、それぞれインバータユニット50を介して蓄電装置52に接続されている。
【0022】
以上のように構成された車両10において、第1駆動部16におけるエンジン12や第1電動機MG1からの動力は、遊星歯車装置30を介して出力歯車32に伝達され、中間出力軸34に設けられた大径歯車36及び小径歯車38を介して差動歯車装置20のデフ入力歯車40に伝達される。また、第2駆動部18における第2電動機MG2からの動力は、MG2出力軸42及び第2出力歯車44を介して大径歯車36に伝達され、小径歯車38を介してデフ入力歯車40に伝達される。すなわち、車両10においては、エンジン12、第1電動機MG1、及び第2電動機MG2の何れもが走行用の駆動源として用いられ得る。
【0023】
噛合クラッチ46は、外周に複数の噛合歯を備え、クランク軸26と同じ軸心まわりに一体回転させられるように設けられたエンジン側部材46aと、そのエンジン側部材46aの噛合歯に対応する複数の噛合歯を備え、ハウジング28に固設されたハウジング側部材46bと、エンジン側部材46a及びハウジング側部材46bの噛合歯に噛み合わされるスプラインを内周側に備え、斯かるスプラインがエンジン側部材46a及びハウジング側部材46bの噛合歯に噛み合わされた状態でそれらエンジン側部材46a及びハウジング側部材46bに対して軸心方向の移動(摺動)可能に設けられたスリーブ46cと、そのスリーブ46cを軸心方向に駆動するアクチュエータ46dとを、備えて構成されている。このアクチュエータ46dは、油圧制御回路54から供給されるブレーキ油圧Pbに応じてスリーブ46cを、その内周側に設けられたスプラインがエンジン側部材46a及びハウジング側部材46b両方の噛合歯に噛み合わされた状態と、ハウジング側部材46bの噛合歯にのみ噛み合わされ且つエンジン側部材46aの噛合歯には噛み合わされない状態との間で移動させる油圧アクチュエータである。
【0024】
例えば油圧制御回路54から供給されるブレーキ油圧Pbが増加させられ、アクチュエータ46dによりスリーブ46cがエンジン側部材46a及びハウジング側部材46b両方の噛合歯に噛み合わされる状態に移動させられると、すなわち係合作動(ロック作動)させられると、クランク軸26が噛合クラッチ46を介してハウジング28に固定されることで、そのクランク軸26はハウジング28に対して相対回転不能な状態とされる。すなわち、噛合クラッチ46の係合作動により、クランク軸26はハウジング28に固定(ロック)される。一方、例えば油圧制御回路54から供給されるブレーキ油圧Pbが減少させられ、アクチュエータ46dに備えられたリターンスプリングの付勢力等によりスリーブ46cがハウジング側部材46bの噛合歯にのみ噛み合わされ且つエンジン側部材46aには噛み合わされない状態に移動させられると、すなわち解放作動(非ロック作動)させられると、噛合クラッチ46によりクランク軸26がハウジング28に対して固定された状態が解除されることで、そのクランク軸26はハウジング28に対して相対回転可能な状態とされる。また、ロック機構として噛合クラッチ46を備えた構成においては、クランク軸26のハウジング28に対する引き摺りの発生を抑制できるという利点がある。
【0025】
また、車両10には、車両10の各部を制御する制御装置としての電子制御装置80が備えられている。この電子制御装置80は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んでおり、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両10の各種制御を実行する。例えば、電子制御装置80は、エンジン12、第1電動機MG1、第2電動機MG2などに関するハイブリッド駆動制御等の車両制御を実行するようになっており、必要に応じてエンジン12の出力制御用や電動機MG1,MG2の出力制御用等に分けて構成される。また、電子制御装置80には、車両10に設けられた各センサ(例えばクランクポジションセンサ60、出力回転速度センサ62、レゾルバ等の第1電動機回転速度センサ64、レゾルバ等の第2電動機回転速度センサ66、油温センサ68、アクセル開度センサ70、バッテリセンサ72など)による検出値に基づく各種信号(例えばエンジン回転速度Ne及びクランク角度Acr、車速Vに対応する出力歯車32の回転速度である出力回転速度Nout、第1電動機回転速度Nmg1、第2電動機回転速度Nmg2、第1駆動部16等の潤滑油の温度である潤滑油温THoil、アクセル開度Acc、蓄電装置52の充電状態(充電容量)SOCなど)が供給される。また、電子制御装置80からは、車両10に設けられた各装置(例えばエンジン12、インバータ50、油圧制御回路54など)に各種指令信号(例えばエンジン制御指令信号Se、電動機制御指令信号Sm、油圧制御指令信号Spなど)が供給される。
【0026】
図2は、電子制御装置80による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。図2において、ハイブリッド制御手段すなわちハイブリッド制御部82は、例えば電子スロットル弁の開閉、燃料噴射量、点火時期等を制御するエンジン制御指令信号Seを出力し、目標エンジンパワーPeを発生する為のエンジントルクTeの目標値が得られるようにエンジン12の出力制御を実行する。また、ハイブリッド制御部82は、第1電動機MG1や第2電動機MG2の作動を制御する電動機制御指令信号Smをインバータ50に出力して、第1電動機トルクTmg1や第2電動機トルクTmg2の目標値が得られるように第1電動機MG1や第2電動機MG2の出力制御を実行する。
【0027】
具体的には、ハイブリッド制御部82は、駆動要求量としてのアクセル開度Accからそのときの車速Vにて要求される駆動トルク(要求駆動トルク)を算出し、充電要求値(充電要求パワー)等を考慮して低燃費で排ガス量の少ない運転となるように、エンジン12、第1電動機MG1、及び第2電動機MG2の少なくとも1つから要求駆動トルクを発生させる。例えば、ハイブリッド制御部82は、エンジン12の運転を停止させると共に第1電動機MG1及び第2電動機MG2のうちの少なくとも一方の電動機のみを走行用の駆動源としてモータ走行(EV走行)する為のモータ走行モード、エンジン12の動力に対する反力を第1電動機MG1の発電により受け持つことで出力歯車32にエンジン直達トルクを伝達すると共に第1電動機MG1の発電電力により第2電動機MG2を駆動することで駆動輪14にトルクを伝達して少なくともエンジン12を走行用の駆動源としてエンジン走行する為のエンジン走行モード(定常走行モード)、このエンジン走行モードにおいて蓄電装置52からの電力を用いた第2電動機MG2の駆動トルクを更に付加して走行する為のアシスト走行モード(加速走行モード)等を、走行状態に応じて選択的に成立させる。ハイブリッド制御部82は、要求駆動トルクが予め実験的或いは設計的に求められて記憶された(すなわち予め定められた)閾値よりも小さなモータ走行領域にある場合には、モータ走行モードを成立させる一方、要求駆動トルクが予め定められた閾値以上となるエンジン走行領域にある場合には、エンジン走行モード乃至アシスト走行モードを成立させる。
【0028】
ハイブリッド制御部82は、モータ走行モードを成立させた場合には、更に、第1電動機トルクTmg1及び第2電動機トルクTmg2を併用して走行することができる併用モードとするか、或いは第2電動機トルクTmg2のみを用いて走行することができる単独モードとするかを判断する。例えば、ハイブリッド制御部82は、モータ走行モードにおいて、第2電動機MG2のみで要求駆動トルクを賄える場合には単独モードを成立させる一方で、第2電動機MG2のみでは要求駆動トルクを賄えない場合には併用モードを成立させる。但し、ハイブリッド制御部82は、第2電動機MG2のみで要求駆動トルクを賄えるときであっても、第2電動機MG2の動作点(例えば第2電動機回転速度Nmg2及び第2電動機トルクTmg2で表される第2電動機の運転点)が第2電動機MG2の効率を悪化させる動作点として予め定められた領域内にある場合には、換言すれば第1電動機MG1及び第2電動機MG2を併用した方が効率が良い場合には、併用モードを成立させる。
【0029】
ハイブリッド制御部82は、モータ走行モードにおいて併用モードを成立させた場合には、第1電動機MG1及び第2電動機MG2の運転効率に基づいて、第1電動機MG1及び第2電動機MG2にて要求駆動トルクを分担させる。例えば、ハイブリッド制御部82は、併用モードのモータ走行時には、そのときの車速Vにおける要求駆動トルクに基づいて予め定められた燃費優先のトルク分担率を求め、その分担率に基づいて要求駆動トルクに対する第1電動機MG1及び第2電動機MG2の各分担トルクを求める。そして、ハイブリッド制御部82は、その各分担トルクを出力するように第1電動機MG1及び第2電動機MG2を制御してモータ走行させる。
【0030】
また、ハイブリッド制御部82は、バッテリセンサ72による検出値に基づく蓄電装置52の充電容量SOCに基づいて、モータ走行モードと、エンジン走行モード(以下、アシスト走行モードを含む)との切替制御を行う。例えば、ハイブリッド制御部82は、エンジン12の動力により蓄電装置52を充電する必要がない程の大きな充電容量として予め定められた閾値Sfよりも実際の充電容量SOCが大きい場合には、モータ走行モードを成立させる。一方、ハイブリッド制御部82は、エンジン12の動力により蓄電装置52を充電する必要がある程の小さな充電容量として予め定められた閾値S1よりも実際の充電容量SOCが小さい場合には、エンジン走行モードを成立させる。
【0031】
ロック機構作動制御手段すなわちロック機構作動制御部84は、噛合クラッチ46の作動を制御する。具体的には、ロック機構作動制御部84は、油圧制御回路54からアクチュエータ46dに供給されるブレーキ油圧Pbを制御することで、噛合クラッチ46の係合作動乃至解放作動、すなわちクランク軸26のハウジング28に対する固定乃至その固定の解除を制御する。例えば、ロック機構作動制御部84は、ハイブリッド制御部82によりモータ走行モードにおいて併用モードが成立させられる場合には、油圧制御回路58からアクチュエータ46dに供給されるブレーキ油圧Pbを増加させることで噛合クラッチ46を係合作動させて、クランク軸26をハウジング28に対して固定する。また、ロック機構作動制御部84は、ハイブリッド制御部82によりエンジン走行モードが成立させられるか或いはモータ走行モードにおいて単独モードが成立させられる場合には、そのブレーキ油圧Pbを減少させることで噛合クラッチ46を解放作動させて、クランク軸26のハウジング28に対する固定を解除する。
【0032】
エンジン走行モードにおける車両10の作動について説明すると、キャリアCAに入力されるエンジントルクTeに対して、第1電動機トルクTmg1がサンギヤSに入力される。この際、例えばエンジン回転速度Ne及びエンジントルクTeで表されるエンジン12の運転点を燃費が最も良い動作点に設定する制御を、第1電動機MG1の力行制御乃至反力制御により実行することができる。この種のハイブリッド形式は、機械分配式あるいはスプリットタイプと称される。また、モータ走行モードでの単独モードにおける車両10の作動について説明すると、エンジン12の駆動は行われず(すなわちエンジン12が運転停止状態とされ)、その回転速度は零とされる。この状態においては、第2電動機MG2の力行トルクが車両前進方向の駆動力として駆動輪14へ伝達される。また、第1電動機MG1は無負荷状態(フリー)とされている。
【0033】
また、図3の共線図を用いてモータ走行モードでの併用モードにおける車両10の作動について説明すると、エンジン12の駆動は行われず、その回転速度は零とされる。また、ロック機構作動制御部84により噛合クラッチ46がクランク軸26をハウジング28に対して固定するように係合作動させられ、エンジン12が回転不能に固定(ロック)される。噛合クラッチ46が係合作動された状態においては、第2電動機MG2の力行トルクが車両前進方向の駆動力として駆動輪14へ伝達される。また、第1電動機MG1の反力トルクが車両前進方向の駆動力として駆動輪14へ伝達される。すなわち、車両10においては、クランク軸26が噛合クラッチ46によりロックされることで、第1電動機MG1及び第2電動機MG2を走行用の駆動源として併用することができる。これにより、充電スタンドや家庭用電源などの外部電源48(図1参照)から蓄電装置52への充電が可能な所謂プラグインハイブリッド方式を採用するプラグインハイブリッド車両において、蓄電装置52が大容量化(高出力化)される場合、第2電動機MG2の大型化を抑制しつつモータ走行の高出力化を実現することができる。
【0034】
ここで、モータ走行モードでの併用モードにて走行中に、エンジン始動が行われる場合、例えば充電容量SOCが閾値S1よりも小さくなったことによりエンジン始動が要求されてエンジン走行モードへ切り換えられる場合について検討する。このような場合、エンジン始動の為に先ずは、噛合クラッチ46を解放作動させる必要がある。この際、アクチュエータ46dの応答ばらつきや第1電動機MG1のトルク(反力トルク)の大きさ等によっては、エンジン12に逆回転(正転方向の逆方向の回転)が発生する恐れがある。また、噛合クラッチ46のスリーブ46cがエンジン側部材46a及びハウジング側部材46b両方の噛合歯に噛み合わされた状態から抜く為には、それらの部材にかかる相対的なトルク(すなわちクランク軸26における正転方向のトルクと逆転方向のトルクと)がある程度釣り合う必要があり、斯かる釣り合いがとれない場合には噛合クラッチ46のスリーブ46cを抜くことが困難となる恐れがある。
【0035】
これに対して、本実施例では、噛合クラッチ46の解放作動に際して、先ず、ハイブリッド制御部82により第1電動機トルクTmg1の絶対値を減少させることで、クランク軸26の反力トルクを低減させた後、ロック機構作動制御部84により噛合クラッチ46を解放作動させる。具体的には、モータ走行モードでの併用モードにて第1電動機MG1を走行用の駆動源としてその動力をリングギヤRに伝達する状態において、第1電動機トルクTmg1はエンジン12を逆回転させる方向の反力トルクとなっているが、噛合クラッチ46による固定の解除に際して、先ず、ハイブリッド制御部82によりエンジン12を正転させる方向に第1電動機トルクTmg1を変化させた後、ロック機構作動制御部84により噛合クラッチ46による固定を解除する制御を行う。例えば、第1電動機トルクTmg1が図3に示すように反力トルクである場合、その反力トルクを減少させる制御(トルクを力行側に増加させる制御)を行った後、噛合クラッチ46による固定を解除する制御を行う。エンジン12を正転させる方向に第1電動機トルクTmg1を変化させた後に噛合クラッチ46による固定を解除することで、比較的小さな駆動力で噛合クラッチ46のスリーブ46cを抜くことが可能となることに加え、アクチュエータ46dの応答ばらつき等に起因するエンジン12の逆回転を好適に抑制することができる。また、ハイブリッド制御部82により第1電動機トルクTmg1の絶対値を減少させる際には、ハイブリッド制御部82により第2電動機トルクTmg2にて駆動輪14上に現れる出力トルク(駆動トルク)を維持させる制御を行う。これにより、噛合クラッチ46による固定の解除に際して、駆動トルクの一時的な低下(駆動力抜け、駆動トルクの落ち込み)を防止乃至抑制することができる。
【0036】
図2に戻り、ロック/非ロック判定手段すなわちロック/非ロック判定部86は、噛合クラッチ46による固定の解除に際して、第1電動機MG1のトルク制御によるエンジン回転速度Neの変化に基づいて噛合クラッチ46が解放されたか否か(すなわちクランク軸26のハウジング28に対する固定が解除されたか否か)を判定する。具体的には、ハイブリッド制御部82により第1電動機トルクTmg1の絶対値を減少させる制御が開始されてから予め定められた規定時間後に、第1電動機回転速度Nmg1が負回転から正回転(エンジン12を正転させる方向の回転)に変化させられることにより、エンジン回転速度Neが固定が解除されたことを判断できる為の予め定められた閾値Neb(>0)以上となった場合には、噛合クラッチ46が解放されたと判定する。本実施例の制御においては、後述するハイブリッド制御部82によるエンジン12の始動制御を開始する前にこのような判定を行い、噛合クラッチ46が解放されたと判定された後にエンジン12の始動制御が実行されるというエンジン始動に関わるシーケンス制御が順次行われる。
【0037】
ハイブリッド制御部82は、ロック/非ロック判定部86により噛合クラッチ46の解放が判定された場合には、図4に示すように、第1電動機回転速度Nmg1の上昇によってエンジン回転速度Neを引き上げる為のクランキングトルクを第1電動機MG1から出力させる。ハイブリッド制御部82は、エンジン12が自立運転可能乃至完爆可能な所定エンジン回転速度以上にエンジン回転速度Neが上昇したら、エンジン12への燃料噴射を行うと共にエンジン12の点火を行ってエンジン12を始動する。このようなエンジン始動では、図4に示すように、第1電動機MG1によるクランキングトルクに対する反力トルク(クランキング反力トルク、MG1反力)が出力歯車32側に現れる為、ハイブリッド制御部82は、エンジン始動に際してクランキング反力トルクを打ち消す(相殺する)為の始動補償トルクを第2電動機MG2から出力させる。つまり、クランキング反力トルクは、駆動輪14へ伝達される減速トルクとなって駆動トルクの落ち込みを生じさせることから、この減速トルク分を相殺する(すなわちエンジン始動に伴う駆動トルクの落ち込み分を補償する)為の始動補償トルクを第2電動機MG2から出力させる。このように、第2電動機MG2は、モータ走行時の駆動トルクとエンジン始動時の始動補償トルクとを出力する電動機である。
【0038】
第2電動機MG2が出力可能なMG2上限トルクから始動補償トルク分を減じたトルク値をモータ走行モードからエンジン走行モードへの遷移を判断する為のモード遷移閾値(すなわちエンジン始動を判断する為の始動遷移閾値)に設定することで、クランキング時に第2電動機トルクTmg2に不足を生じさせず、駆動トルクの落ち込みに伴うエンジン始動ショックを回避乃至抑制しつつエンジン始動することが公知の手法(従来例)として提案されている。
【0039】
ところで、本実施例の車両10では、図4に示すように、構成上、第1電動機MG1は、エンジン始動時にはクランキングトルクを出力する為に駆動トルクを全く出力することができない。その為、前記公知の手法を採用すると、第2電動機MG2についてはエンジン始動に備えて始動補償トルクを担保して走行する必要があることに加え、第1電動機MG1についてもエンジン始動に備える必要があることから、図5(特に従来例参照)に示すように、モータ走行領域は実質的にMG2上限トルクから始動補償トルクを減じたモード遷移閾値以下のトルク領域となり、折角2つの電動機があるにも拘わらず1つの電動機と同じになってしまう。
【0040】
そこで、本実施例の電子制御装置80は、MG2上限トルクと第1電動機MG1及び第2電動機MG2が実際に発生している発生トルクとの差トルク(=MG2上限トルク−発生トルク)よりも第2電動機MG2による始動補償トルクが大きい場合には、モータ走行モードからエンジン走行モードへの遷移を行わない(すなわちモータ走行からエンジン始動を伴うエンジン走行への遷移を行わない)。このとき、差トルク(換言すればMG2上限トルクまでの余裕トルク)よりも始動補償トルクが小さくなったら、モータ走行からエンジン走行への遷移を行う。つまり、モータ走行モードでの併用モードにて第1電動機MG1及び第2電動機MG2を走行用の駆動力源として併用するモータ走行中に、エンジン始動が要求された際に(例えば蓄電装置52の充電容量SOCが低下したことによりエンジン始動が要求された際に)、差トルクよりも始動補償トルクが大きい場合にはモータ走行からエンジン走行への遷移を行わないという制御を実行しているときには、差トルクよりも始動補償トルクが小さくなるまでエンジン始動(例えばエンジン始動指令)が遅延させられる。従って、このような新しい手法を採用することで、図5に示すように、エンジン始動を行わない領域である「遷移禁止」領域でもモータ走行が可能になり、結果、2つの電動機MG1,MG2における合計の上限トルクの領域(電動機MG1,MG2にてトルクを出力可能な全域)がモータ走行領域となる。また、第2電動機MG2が始動補償トルクを担保できるトルク領域である「遷移可」領域(図5参照)にてエンジン始動が許容(許可)されるので、エンジン始動ショックが回避乃至抑制される。
【0041】
「遷移禁止」領域までもモータ走行領域とする場合、相応の出力が可能な蓄電装置52が備えられていることが前提となる為、上記新しい手法はプラグインハイブリッド車両にて採用することが有用である。このプラグインハイブリッド車両では、プラグインハイブリッド方式にて外部電源48から蓄電装置52へ充電された電力を用いてモータ走行することが可能であるが、これに限らず、例えばエンジン12からの動力或いは駆動輪14側からの被駆動力により蓄電装置52を充電する通常のハイブリッド方式にて充電された回生電力を用いてモータ走行することが可能である。その為、比較的大容量大出力となるプラグインハイブリッド方式にて充電された電力を用いてモータ走行する場合は、差トルクよりも始動補償トルクが大きい場合にエンジン始動を行わないという制御すなわち発生トルクが上限トルクから始動補償トルクを減じたトルク値よりも大きい場合であってもモータ走行を行う制御(上記新しい手法に相当)を実行することが望ましい。一方で、比較的小容量小出力となる通常のハイブリッド方式にて充電された電力を用いてモータ走行する場合は、発生トルクが上限トルクから始動補償トルクを減じたトルク値よりも大きくなる前にエンジン走行へ遷移するという制御(すなわち設定されたモード遷移閾値以下のトルク領域をモータ走行領域とする公知の手法)を実行することが望ましい。蓄電装置52における電力の入出力を監視することで、プラグインハイブリッド方式にて充電された電力か通常のハイブリッド方式にて充電された電力かが明確とされる。蓄電装置52は、プラグインハイブリッド方式にて電力が充電されるバッテリAと通常のハイブリッド方式にて電力が充電されるバッテリBとを備えて構成されても良い。これにより、何れの電力かが一層明確とされる。車両10にモードスイッチを備え、プラグインハイブリッドモード(PHVモード)が選択された場合には上記新しい手法を実行し、ハイブリッドモード(HVモード)が選択された場合には上記公知の手法を実行しても良い。このモードスイッチは、外部電源48により充電された電力を用いてモータ走行するPHVモードと、エンジン12からの動力或いは駆動輪14側からの被駆動力により充電された電力を用いてモータ走行するHVモードとを選択するスイッチであっても良い。
【0042】
充電容量SOCが閾値S1よりも小さくなってエンジン始動が要求された際に、差トルクよりも始動補償トルクが小さくなるまでエンジン始動が遅延させられると、充電容量SOCは更に低下させられる。比較的大容量の蓄電装置52では、ある程度の低下は許容されると考えられるが、閾値S1よりも更に小さな限界閾値S0を充電容量SOCが下回ったときには、始動補償トルクが担保されない為にエンジン始動ショックが増大するような状態であったとしてもエンジン始動することが望ましい。そこで、電子制御装置80は、エンジン始動が遅延させられているときに、充電容量SOCが更に限界閾値S0よりも低下した場合には、エンジン始動に伴って駆動トルクが一時的に低下すること(エンジン始動ショックが発生すること)をハイブリッド制御部82によるエンジン始動制御の開始に先立って予め運転者に報知するようにしても良い。例えば、インジケータ49(図1参照)を点灯させること、音声を出すこと等を単独で行うことで或いは組み合わせることで、運転者に報知する。これにより、エンジン始動ショックの発生による違和感を抑制することができることに加え、差トルクよりも始動補償トルクが小さくなるように運転者が発生トルクを低下させる(すなわち駆動要求量を低減する)ことも期待できる。また、インジケータ49の点灯等に先立って、インジケータ49を点滅させる等して、先ずは駆動要求量の低減を促しても良い。
【0043】
より具体的には、図2に戻り、駆動要求量判定手段すなわち駆動要求量判定部88は、ハイブリッド制御部82により実際の充電容量SOCが閾値S1よりも小さいと判定された場合には、駆動要求量が予め定められた所定要求量よりも小さいか否かを判定する。所定要求量は、例えば第2電動機MG2が始動補償トルクを担保できる範囲で出力可能な最大の駆動要求量であり、モード遷移閾値(始動遷移閾値)に相当する駆動要求量である。例えば、駆動要求量として要求駆動トルクを用いる場合には所定要求量はモード遷移閾値であり、駆動要求量としてアクセル開度Accを用いる場合には所定要求量はモード遷移閾値に対応する所定アクセル開度θ1であり、駆動要求量として要求出力(パワー)を用いる場合には所定要求量はモード遷移閾値に対応する所定要求出力P1である。
【0044】
ハイブリッド制御部82は、駆動要求量判定部88により駆動要求量が所定要求量よりも小さいと判定された場合には、エンジン走行モードを成立させて、エンジン始動に関わる前記シーケンス制御を順次実行する。一方で、ハイブリッド制御部82は、駆動要求量判定部88により駆動要求量が所定要求量以上であると判定された場合には、モータ走行モードをそのまま継続する。
【0045】
図6は、電子制御装置80の制御作動の要部すなわち併用モードでのモータ走行中のエンジン始動において燃費向上とエンジン始動ショックの抑制とを両立させる為の制御作動を説明するフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行される。図7は、図6のフローチャートに示す制御作動を実行した場合のタイムチャートである。
【0046】
図6において、先ず、ハイブリッド制御部82に対応するステップ(以下、ステップを省略する)SA10において、例えば併用モードでのモータ走行中に実際の充電容量SOCが閾値S1よりも小さいか否かが判定される。つまり、エンジン12を始動して蓄電装置52を充電する必要があるか否かが判定される。このSA10の判断が肯定される場合(図7のt1時点)は駆動要求量判定部88に対応するSA20において、駆動要求量(例えば要求駆動トルク,アクセル開度Acc,要求出力等)が所定要求量(モード遷移閾値,所定アクセル開度θ1,所定要求出力P1等)よりも小さいか否かが判定される。このSA20の判断が肯定される場合(図7のt2時点)はハイブリッド制御部82に対応するSA30において、エンジン走行モードが設定された後、第1電動機トルクTmg1の絶対値が減少させられ、例えばそのトルクが略零とされる。次いで、ロック機構作動制御部84に対応するSA40において、噛合クラッチ46の解放作動が開始され、アクチュエータ46dに供給されるブレーキ油圧Pbが低下させられる(図7のt2時点乃至t3時点)。次いで、ハイブリッド制御部82に対応するSA50において、噛合クラッチ46の解放が完了したことをエンジン回転速度Neの上昇にて判定する為に第1電動機回転速度Nmg1を上昇させる制御が実施される。次いで、ロック/非ロック判定部86に対応するSA60において、エンジン回転速度Neの上昇変化に基づいて噛合クラッチ46が解放されたか否かが判定される。このSA60の判断が否定される場合は上記SA30以下の処理が実行されるが、肯定される場合はハイブリッド制御部82に対応するSA70において、エンジン走行モードへの切換えが実施される。次いで、ハイブリッド制御部82に対応するSA80において、第2電動機MG2で反力をとりつつ第1電動機MG1のクランキングトルクによりエンジン回転速度Neを上昇させてエンジン12を点火するという一連のエンジン始動制御が実施される(図7のt3時点乃至t4時点)。上記SA10の判断が否定されるか或いは上記SA20の判断が否定される場合はハイブリッド制御部82に対応するSA90において、モータ走行モードがそのまま継続される。この図6に示す制御作動では、図7にも示されるように、充電容量SOCが閾値S1よりも小さくされて充電要求(エンジン始動要求)が為されただけではエンジン始動に関わるシーケンス制御が実行されない。駆動要求量(例えばアクセル開度Acc)が所定要求量(所定アクセル開度θ1)よりも小さくなるまで、エンジン始動が遅延させられる。
【0047】
上述のように、本実施例によれば、差トルク(=上限トルク−発生トルク)よりも始動補償トルクが大きい場合には、モータ走行からエンジン始動を伴うエンジン走行への遷移を行わない(新しい手法を行う)ので、前記公知の手法を採用するとエンジン始動が為されてしまうトルク領域(すなわち図5の「遷移禁止」領域)までモータ走行を実行することができる。また、モータ走行からエンジン走行への遷移(すなわちエンジン始動)は始動補償トルクを出力できるトルク領域(すなわち図5の「遷移可」領域)で行われることになる為、エンジン始動ショックが抑制乃至回避される。よって、モータ走行中のエンジン始動において、モータ走行領域が拡大することによる燃費向上と、エンジン始動ショックの抑制とを両立させることができる。
【0048】
また、本実施例によれば、差トルクよりも始動補償トルクが小さくなったら、モータ走行からエンジン走行への遷移を行うので、モータ走行からエンジン走行へ遷移できなかった状態から、発生トルクが低下して始動補償トルクが確保できる状態となったときにエンジン始動が行われる為、エンジン始動ショックが適切に抑制乃至回避される。
【0049】
また、本実施例によれば、外部電源48により充電された電力を用いてモータ走行する場合は、前記新しい手法を実行するものであり、エンジン12からの動力或いは駆動輪14側からの被駆動力により充電された電力を用いてモータ走行する場合は、前記公知の手法を実行するので、所謂プラグインハイブリッド方式での走行では、例えば電動機へ供給可能な電力が比較的多く確保されることによって比較的長くモータ走行を継続することができると考えられる為、前記新しい手法を採用してモータ走行領域を拡大することが有用となる。一方、通常のハイブリッド方式での走行では、例えば電動機へ供給可能な電力がプラグインハイブリッド方式程確保されずそれ程長くモータ走行を継続することができないと考えられる為、前記公知の手法を採用してモータ走行中にエンジン始動することが有用となる。
【0050】
また、本実施例によれば、噛合クラッチ46をロック作動させた状態にて2つの電動機MG1,MG2でモータ走行する場合、前記公知の手法を採用するとエンジン始動に備えて第2電動機MG2については始動補償トルクを担保して走行する必要があることに加え、第1電動機MG1についてはクランキングトルクを出力する為にエンジン始動時は駆動トルクを全く出力することができず、モータ走行領域は実質的に第2電動機の上限トルクから始動補償トルクを減じたトルク以下のトルク領域となり、折角2つの電動機があるにも拘わらず1つの電動機MG2と同じになってしまうことに対して、本発明を採用することで、2つの電動機における合計の上限トルクの領域までモータ走行を実行することができる。つまり、2つの電動機の出力を用いてモータ走行時の出力(パワー)を引き出すことが可能となる。
【0051】
また、本実施例によれば、前記差トルクよりも前記始動補償トルクが小さくなるまでエンジン始動が遅延させられているときに、蓄電装置52の充電容量SOCが更に低下した場合には、エンジン始動に伴って駆動トルクが一時的に低下することをそのエンジン始動に先立って予め運転者に報知するので、運転者に報知せずにエンジン始動した場合に比べ、エンジン始動ショックに対する違和感を抑制することができる。また、運転者への報知によって運転者が車両10に対する駆動要求量を低減することも考えられ、前記差トルクよりも前記始動補償トルクが小さくなることでのエンジン始動が実行できる可能性がある。
【0052】
次に、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の説明において実施例相互に共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【実施例2】
【0053】
前述の実施例における図6の制御作動中のSA80においては、一連のエンジン始動制御が実施された。蓄電装置52の充電が完了するまでは、エンジン走行モードが継続されるが、充電容量SOCが満充電とされたところで、再びエンジン12は停止させられ、2つの電動機MG1,MG2を併用したモータ走行が実行される。この一連の制御作動について、図8のフローチャート及び図9のタイムチャートを用いて説明する。
【0054】
図8は、電子制御装置80の制御作動の要部すなわち蓄電装置52の充電完了に伴って併用モードでのモータ走行へ適切に切り換える為の制御作動を説明するフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行される。図9は、図8のフローチャートに示す制御作動を実行した場合のタイムチャートである。
【0055】
図8において、先ず、ハイブリッド制御部82に対応するステップ(以下、ステップを省略する)SB10において、例えばエンジン走行中に実際の充電容量SOCが閾値Sfよりも大きいか否かが判定される。つまり、エンジン12を停止して蓄電装置52の充電を終了してもよいか否かが判定される。このSB10の判断が肯定される場合(図9のt1時点)は駆動要求量判定部88に対応するSB20において、駆動要求量(例えば要求駆動トルク,アクセル開度Acc,要求出力等)が所定要求量(モード遷移閾値,所定アクセル開度θ1,所定要求出力P1等)よりも小さいか否かが判定される。つまり、第1電動機MG1にてエンジン停止制御を行うので、第1電動機MG1で駆動トルクを出力しなくてもよい領域であるか否かが判定される。このSB20の判断が肯定される場合(図9のt2時点)はハイブリッド制御部82に対応するSB30において、第1電動機トルクTmg1の絶対値が減少させられ、フューエルカット作動によりエンジン12が停止させられる。また、駆動トルクの落ち込みを抑制する為に、エンジントルクTeが無くなった分、第2電動機トルクTmg2が増大補正される。次いで、ハイブリッド制御部82及びロック機構作動制御部84に対応するSB40において、第1電動機MG1による回転速度制御によりエンジン回転速度Neを零回転に向かって低下させるエンジン停止制御が実行される(図9のt2時点乃至t3時点)。また、第1電動機MG1による回転速度制御によりエンジン回転速度Neが零判定値に固定される。この際、エンジン12の停止位置(すなわちクランク角度Acr)が次回のエンジン始動時に早期始動が実施できる位置(例えば次回エンジン始動時のクランキングトルクが比較的小さくされる所定の位置)とされる(図9のt3時点)。その後、噛合クラッチ46の係合作動が開始され、アクチュエータ46dに供給されるブレーキ油圧Pbが上昇させられる(図9のt3時点乃至t4時点)。次いで、ハイブリッド制御部82及びロック/非ロック判定部86に対応するSB50において、噛合クラッチ46の係合が完了したことをエンジン回転速度Neの上昇にて判定する為に第1電動機回転速度Nmg1を上昇させる制御が実施される。そして、エンジン回転速度Neの上昇変化に基づいて噛合クラッチ46が係合されたか否かが判定される。例えば、上記噛合クラッチ46の係合作動が開始されてから規定時間後に、エンジン回転速度Neが係合完了を判断できる為の予め定められた閾値Ne0(>0)以下となったか否かが判断される。このSB50の判断が否定される場合は上記SB30以下の処理が実行されるが、肯定される場合はハイブリッド制御部82に対応するSB60において、モータ走行モードへの切換えが実施される(図9のt4時点)。上記SB10の判断が否定されるか或いは上記SB20の判断が否定される場合はハイブリッド制御部82に対応するSB70において、エンジン走行モードがそのまま継続される。このエンジン走行モードでは、駆動トルク分に加えて、発電に必要なエネルギを加えたパワーが出せるエンジン動作点でエンジン12が作動させられる。
【実施例3】
【0056】
前述の実施例1,2では、ロック機構として噛合クラッチ46を例示したが、これに限らない。ロック機構は、例えば油圧アクチュエータによって係合制御される多板式の油圧式摩擦係合装置、乾式の係合装置、電磁アクチュエータによってその係合状態が制御される電磁式摩擦係合装置(電磁クラッチ)、磁粉式クラッチなどであっても良い。図10は、油圧式摩擦係合装置であるブレーキBを示す図である。図10において、ブレーキBは、例えば油圧制御回路54から供給されるブレーキ油圧Pbに応じてその係合状態が係合乃至解放の間で制御される。また、必要に応じてスリップ係合させられても良い。ブレーキBの解放時には、エンジン12のクランク軸26はハウジング28に対して相対回転可能な状態とされる。一方、ブレーキBの係合時には、クランク軸26はハウジング28に対して相対回転不能な状態とされる。すなわち、ブレーキBの係合により、クランク軸26はハウジング28に固定(ロック)される。
【実施例4】
【0057】
図11は、本発明が適用される他のハイブリッド車両100(以下、車両100という)の概略構成を説明する図である。この図11に示ように、車両100は、エンジン12と電動機MGとの間の動力伝達経路を断接する断接クラッチK0、電動機MGと駆動輪14との間の動力伝達経路の一部を構成する自動変速機102を備えている。この車両100では、図12の共線図に示すように、断接クラッチK0を解放した状態で電動機MGのみを走行用の駆動力源として走行するモータ走行が可能である(モータ走行モード)。また、断接クラッチK0を係合した状態で少なくともエンジン12を走行用の駆動力源として走行するエンジン走行とが可能である(エンジン走行モード)。
【0058】
ここで、モータ走行モードでの走行中に、エンジン走行モードへの切換えが要求された場合、すなわちエンジン始動が要求された場合について検討する。このような場合、電子制御装置80は、図13に示すように、断接クラッチK0を係合させることによってエンジン回転速度Neを引き上げてエンジン始動を行う。エンジン回転速度Neを引き上げるトルクは、断接クラッチK0のトルク容量に応じてエンジン12側へ伝達される電動機トルクTmgである為、駆動輪14へ伝達される減速トルクとなって駆動トルクの落ち込みを生じさせる。従って、この減速トルク分を相殺する為の始動補償トルクを電動機MGから出力させる。このように、電動機MGは、モータ走行時の駆動トルクとエンジン始動時の始動補償トルクとを出力する電動機である。
【0059】
電動機MGが出力可能なMG上限トルクから始動補償トルク分を減じたトルクをモータ走行モードからエンジン走行モードへの遷移を判断する為のモード遷移閾値に設定することで、エンジン始動の際に駆動トルクの落ち込みに伴うエンジン始動ショックを回避乃至抑制しつつエンジン始動することが公知の手法(従来例)として提案されている。この公知の手法を採用すると、電動機MGはエンジン始動に備えて始動補償トルクを担保して走行する必要があることから、図14(特に従来例参照)に示すように、モータ走行領域はMG上限トルクから始動補償トルクを減じたモード遷移閾値以下のトルク領域となってしまう。
【0060】
そこで、本実施例の電子制御装置80は、モータ走行モードでのモータ走行中にエンジン始動が要求された際、MG上限トルクと電動機MGが実際に発生しているMG発生トルクとの差トルク(=MG上限トルク−MG発生トルク)よりも電動機MGによる始動補償トルクが大きい場合には、モータ走行からエンジン始動を伴うエンジン走行への遷移(すなわちエンジン始動)を行わない。このとき、差トルク(換言すればMG上限トルクまでの余裕トルク)よりも始動補償トルクが小さくなるまでエンジン始動が遅延させられる。従って、このような新しい手法を採用することで、図14に示すように、エンジン始動を行わない領域である「遷移禁止」領域でもモータ走行が可能になり、結果、電動機MGの上限トルクの領域(電動機MGにてトルクを出力可能な全域)がモータ走行領域となる。また、電動機MGが始動補償トルクを担保できるトルク領域である「遷移可」領域(図14参照)にてエンジン始動が許容(許可)されるので、エンジン始動ショックが回避乃至抑制される。
【0061】
本実施例においても、前述の実施例と同様に、前記公知の手法を採用するとエンジン始動が為されてしまうトルク領域(すなわち図14の「遷移禁止」領域)までモータ走行を実行することができる。また、エンジン始動は始動補償トルクを出力できるトルク領域(すなわち図14の「遷移可」領域)で行われることになる為、エンジン始動ショックが抑制乃至回避される。よって、モータ走行中のエンジン始動において、モータ走行領域が拡大することによる燃費向上と、エンジン始動ショックの抑制とを両立させることができる。
【実施例5】
【0062】
図15は、本発明が適用される他のハイブリッド車両200(以下、車両200という)の概略構成を説明する図である。この図15に示ように、車両200は、車両10と同様に差動機構としての遊星歯車装置202を備えているが、遊星歯車装置202に対するエンジン12、第1電動機MG1、及び第2電動機MG2の連結関係が車両10と相違する。特には、エンジン12と第1電動機MG1とは、クラッチC1を介して間接的に連結されると共に、遊星歯車装置202の同じ回転要素(リングギヤR)に連結されている。複数の電動機MG1,MG2のうちの何れの電動機も連結されていない遊星歯車装置202の回転要素(キャリヤCA)が出力回転部材として出力歯車32と連結されている。クラッチC1は、エンジン12と第1電動機MG1との間の動力伝達経路を断接する断接クラッチとして機能する。そして、この車両200においては、クラッチC1、クラッチC2、及びブレーキB1の各係合状態を切り換えると共に、エンジン12、第1電動機MG1、及び第2電動機MG2の各作動状態を切り換えることで、例えばモータ走行モード、エンジン走行モード(例えばシリーズハイブリッド走行モード、パラレルハイブリッド走行モード)が可能である。特には、クラッチC1及びブレーキB1を解放すると共にクラッチC2を係合することで、図16の共線図に示すように、クラッチC1を解放した状態で複数の電動機(第1電動機MG1及び第2電動機MG2)のみを走行用の駆動力源として走行するモータ走行が可能である(モータ走行モードにおける併用モード)。
【0063】
ここで、モータ走行モードにおける併用モードでの走行中に、エンジン走行モードへの切換えが要求された場合、すなわちエンジン始動が要求された場合について検討する。このような場合、電子制御装置80は、図17に示すように、クラッチC1を係合させることによってエンジン回転速度Neを引き上げてエンジン始動を行う。エンジン回転速度Neを引き上げるトルクは、クラッチC1のトルク容量に応じてエンジン12側へ伝達される第1電動機トルクTmg1である為、駆動輪14へ伝達される減速トルクとなって駆動トルクの落ち込みを生じさせる。従って、この減速トルク分を相殺する為の始動補償トルクを第1電動機MG1から出力させる。このように、第1電動機MG1は、モータ走行時の駆動トルクとエンジン始動時の始動補償トルクとを出力する電動機である。
【0064】
第1電動機MG1が出力可能なMG1上限トルクから始動補償トルク分を減じたトルクをモータ走行モードからエンジン走行モードへの遷移を判断する為のモード遷移閾値に設定することで、エンジン始動の際に駆動トルクの落ち込みに伴うエンジン始動ショックを回避乃至抑制しつつエンジン始動することが公知の手法(従来例)として提案されている。 ところで、本実施例の車両200では、図16に示すように、構成上、第1電動機MG1と第2電動機MG2とが釣り合った(バランスした)状態で走行する必要がある。その為、前記公知の手法を採用すると、第1電動機MG1についてはエンジン始動に備えて始動補償トルクを担保して走行する必要があることに加え、第2電動機MG2についてもエンジン始動に備えて第1電動機MG1が担保した始動補償トルク分と釣り合うトルク分が自動的に使用不可トルクとして制限を受けることから、図18(特に従来例参照)に示すように、モータ走行領域は2つの電動機MG1,MG2における合計の上限トルクから始動補償トルク及び使用不可トルクを減じたモード遷移閾値以下のトルク領域となってしまう。
【0065】
そこで、本実施例の電子制御装置80は、モータ走行モードでの併用モードにて第1電動機MG1及び第2電動機MG2を走行用の駆動力源として併用するモータ走行中にエンジン始動が要求された際、MG1上限トルクと第1電動機MG1が実際に発生しているMG1発生トルクとの差トルク(=MG1上限トルク−MG1発生トルク)よりも第1電動機MG1による始動補償トルクが大きい場合には、モータ走行からエンジン始動を伴うエンジン走行への遷移(すなわちエンジン始動)を行わない。このとき、差トルク(換言すればMG1上限トルクまでの余裕トルク)よりも始動補償トルクが小さくなるまでエンジン始動が遅延させられる。従って、このような新しい手法を採用することで、図18に示すように、エンジン始動を行わない領域である「遷移禁止」領域でもモータ走行が可能になり、結果、2つの電動機MG1,MG2における合計の上限トルクの領域(電動機MG1,MG2にてトルクを出力可能な全域)がモータ走行領域となる。また、第1電動機MG1が始動補償トルクを担保でき且つ第2電動機MG2が使用不可トルクを担保できるトルク領域である「遷移可」領域(図18参照)にてエンジン始動が許容(許可)されるので、エンジン始動ショックが回避乃至抑制される。
【0066】
本実施例においても、前述の実施例と同様に、前記公知の手法を採用するとエンジン始動が為されてしまうトルク領域(すなわち図18の「遷移禁止」領域)までモータ走行を実行することができる。また、エンジン始動は始動補償トルク及び使用不可トルクを出力できるトルク領域(すなわち図18の「遷移可」領域)で行われることになる為、エンジン始動ショックが抑制乃至回避される。よって、モータ走行中のエンジン始動において、モータ走行領域が拡大することによる燃費向上と、エンジン始動ショックの抑制とを両立させることができる。
【0067】
また、本実施例によれば、遊星歯車装置202を介した2つの電動機MG1,MG2でモータ走行する場合、前記公知の手法を採用するとエンジン始動に備えて始動補償トルクを担保して走行する必要があることに加え、2つの電動機の出力トルクが釣り合った状態で走行する必要がある為に始動補償トルクを出力する第1電動機MG1以外の第2電動機MG2においてもその始動補償トルクに対応する使用不可トルクを担保して走行する必要があり、それらの担保分に相当するトルク領域をモータ走行に用いることができないことに対して、本発明を採用することで、始動補償トルクと使用不可トルクとを担保する必要がなくなる為、2つの電動機における合計の上限トルクの領域までモータ走行を実行することができる。つまり、2つの電動機の出力を用いてモータ走行時の出力(パワー)を引き出すことが可能となる。
【0068】
以上、本発明の実施例を図面を参照して詳細に説明したが、本発明はこの実施例に限定されるものではなく、その他の態様においても適用される。
【0069】
例えば、前述の実施例の車両10は、ロック機構を備え、2つの電動機MG1,MG2にてモータ走行が可能であったが、必ずしもロック機構を備える必要はない。ロック機構を備えない場合には、例えば第2電動機MG2にてモータ走行することになるが、本発明を適用することで、始動補償トルク分までモータ走行に用いることができる。また、本発明が適用される車両は、プラグインハイブリッド車両に限定されない。
【0070】
また、前述の実施例の車両10では、差動機構の3つの回転要素の各々がエンジン12、第1電動機MG1、及び第2電動機MG2に連結される構成であったが、これに限らない。例えば、複数の遊星歯車装置が相互に連結されることで4つ以上の回転要素を有する差動機構であっても本発明は適用され得る。例えば、差動機構が4つの回転要素を有する場合には、第1電動機MG1及び第2電動機MG2に連結された回転要素以外の回転要素である、エンジン12に連結された回転要素或いはエンジン12も連結されていない回転要素がロック機構により回転停止させられる。また、電動機は、第1電動機MG1及び第2電動機MG2以外に備えられていても良い。また、エンジン12や複数の電動機は、直接的に或いは歯車機構等を介して間接的に差動機構の各回転要素に連結される。
【0071】
また、前述の実施例において、第2電動機MG2は、直接的に或いは歯車機構等を介して間接的に出力歯車32や中間出力軸34や駆動輪14等に連結されたり、駆動輪14とは別の一対の車輪に直接的に又は間接的に連結されたりしても良い。そのように第2電動機MG2が別の一対の車輪に連結されておればその別の一対の車輪も駆動輪に含まれる。要するに、エンジン12からの動力で駆動される駆動輪と第2電動機MG2からの動力で駆動される駆動輪とは、別個の車輪であっても差し支えないということである。
【0072】
また、前述の実施例において、遊星歯車装置30,202は、ダブルプラネタリの遊星歯車装置であっても良い。また、遊星歯車装置30,202は、例えばピニオンに噛み合う一対のかさ歯車を有する差動歯車装置であっても良い。
【0073】
尚、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0074】
10,100,200:ハイブリッド車両
12:エンジン
14:駆動輪
26:クランク軸
28:ハウジング(非回転部材)
30:遊星歯車装置(差動機構)
46:噛合クラッチ(ロック機構)
48:外部電源
52:蓄電装置
80:電子制御装置(制御装置)
202:遊星歯車装置(差動機構)
B:ブレーキ(ロック機構)
C1:クラッチ(断接クラッチ)
K0:断接クラッチ
MG:電動機
MG1:第1電動機(電動機)
MG2:第2電動機(電動機)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18