【文献】
第十四改正日本薬局方 60.メタノール試験法,2001年,P.95,URL,http://jpdb.nihs.go.jp/jp14/pdf/0095-1.pdf
【文献】
日本釀造協會雜誌 Vol. 47 (1952) No. 10 P 462-459
【文献】
食品中有害物質の簡易評価法に関する研究,宮城県産業技術総合センター研究報告,No.3 Page.30-33 (2007.03)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のアルコール検出試薬は酵素系の試薬であるために、検出条件が限定されやすいうえ、劣化が起こりやすく長期の保存が困難であるという問題点がある。そのため、酵素を含有せず、劣化の起こりにくい非酵素系の検出試薬が求められている。
【0005】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、新規な非酵素系の低級アルコール検出試薬及びそれを用いた低級アルコール検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、
被検液と混合した際の呈色反応を用いることにより、低級アルコールを検出するための低級アルコール検出試薬であって、
塩基性フクシンと、亜硫酸水素ナトリウムと、塩化水素と、水と、を含有
しており、
検出を行う前記低級アルコールは、炭素数2〜4のアルコールであることを要旨とする。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1において、前記塩基性フクシンを100質量部とした場合に、
前記亜硫酸水素ナトリウムの含有割合が50〜400質量部であり、
前記塩化水素の含有割合が50〜400質量部であることを要旨とする。
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2において、検出を行う前記低級アルコールは、プロパノールであることを要旨とする。
請求項4に記載の発明は、請求項1又は2において、検出を行う前記低級アルコールは、1−プロパノールであることを要旨とする。
【0008】
請求項
5に記載の発明は、低級アルコール検出方法であって、請求項1
乃至4のうちのいずれか一項に記載の低級アルコール検出試薬を用いることを要旨とする。
【0009】
請求項
6に記載の発明は、請求項
5において、
溶媒としてリン酸緩衝液
を含む被検液中の低級アルコールを検出することを要旨とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の低級アルコール検出試薬は、非酵素系の試薬であるため、検出条件を幅広く設定することができると共に、既存の酵素系試薬に比べて劣化の心配が少なく、長期の保存が可能である。また、本発明の検出試薬は、特定の成分により試薬が構成されているため、目的物である低級アルコールが低濃度であっても、呈色反応を用いることにより、簡易且つ確実に目的物を検出することができる。
本発明の低級アルコール検出方法は、新規な非酵素系の低級アルコール検出試薬を用いており、目的物である低級アルコールが低濃度であっても、呈色反応を用いることにより、簡易且つ確実に目的物を検出することができる。そのため、バイオエタノールやバイオプロパノールを生産する酵素又は微生物の改良や新規探索分野において好適に利用することができる。また、リン酸緩衝液中の低級アルコールの検出に優れるため、リン酸緩衝液下で安定な酵素等の探索に好適に用いることができる。更には、大規模な酵素等の探索にかかるコストを従来の酵素系試薬を用いた場合よりも大幅に低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
ここで示される事項は例示的なものおよび本発明の実施形態を例示的に説明するためのものであり、本発明の原理と概念的な特徴とを最も有効に且つ難なく理解できる説明であると思われるものを提供する目的で述べたものである。
【0013】
以下、本発明を詳しく説明する。
[1]低級アルコール検出試薬
本発明の低級アルコール検出試薬は、
被検液と混合した際の呈色反応を用いることにより、低級アルコールを検出するための試薬である。そして、この低級アルコール検出試薬は、塩基性フクシンと、亜硫酸水素ナトリウムと、塩化水素と、水と、を含有することを特徴とする。
【0014】
上記低級アルコール検出試薬は、塩基性フクシン、亜硫酸水素ナトリウム、塩化水素及び水を主成分とする。そして、塩基性フクシン、亜硫酸水素ナトリウム、塩化水素及び水の含有割合の合計は、検出試薬全体を100質量%とした場合に、通常80〜100質量%、好ましくは90〜100質量%、より好ましくは95〜100質量%である。
【0015】
低級アルコール検出試薬における上記亜硫酸水素ナトリウムの含有割合は、上記塩基性フクシンを100質量部とした場合に、50〜400質量部であることが好ましく、より好ましくは50〜200質量部、更に好ましくは50〜100質量部である。
上記塩化水素の含有割合は、上記塩基性フクシンを100質量部とした場合に、50〜400質量部であることが好ましく、より好ましくは50〜200質量部、更に好ましくは50〜100質量部である。
上記水の含有割合は、上記塩基性フクシンを100質量部とした場合に、8000〜40000質量部であることが好ましく、より好ましくは9000〜33000質量部、更に好ましくは9700〜31600質量部である。
【0016】
本発明の低級アルコール検出試薬には、上記塩基性フクシン、亜硫酸水素ナトリウム、塩化水素及び水以外にも、本発明の効果を阻害しない範囲において、他の成分を含有させてもよい。他の成分としては、例えば、リン酸等が挙げられる。これらは、1種のみ含有されていてもよいし、2種以上含有されていてもよい。
低級アルコール検出試薬がリン酸を含有する場合、その含有割合は、上記塩基性フクシンを100質量部とした場合に、1〜2000質量部であることが好ましく、より好ましくは100〜1500質量部、更に好ましくは100〜1100質量部である。
【0017】
特に、本発明の低級アルコール検出試薬は、塩基性フクシン、亜硫酸水素ナトリウム、塩化水素及び水からなり、塩基性フクシンを100質量部とした場合に、亜硫酸水素ナトリウムの含有割合が50〜400質量部(特に50〜200質量部、更には50〜100質量部)、塩化水素の含有割合が50〜400質量部(特に50〜200質量部、更には50〜100質量部)、水の含有割合が8000〜9900質量部(特に9000〜9900質量部、更には9700〜9850質量部)であるものとすることができる。
更には、本発明の低級アルコール検出試薬は、塩基性フクシン、亜硫酸水素ナトリウム、塩化水素、リン酸及び水からなり、塩基性フクシンを100質量部とした場合に、亜硫酸水素ナトリウムの含有割合が50〜400質量部(特に50〜200質量部、更には50〜100質量部)、塩化水素の含有割合が50〜400質量部(特に50〜200質量部、更には50〜100質量部)、リン酸の含有割合が1〜2000質量部(特に100〜1500質量部、更には100〜1100質量部)、水の含有割合が8000〜40000質量部(特に30000〜33000質量部、更には31000〜31600質量部)であるものとすることができる。
【0018】
本発明における低級アルコール検出試薬により検出を行う低級アルコールは、炭素数
2〜4のアルコールとす
る。
また、低級アルコール検出試薬により検出可能な、被検液における低級アルコールの濃度は、0.03質量%以上、特に0.05〜100質量%とすることができる。
【0019】
尚、本発明の低級アルコール検出試薬の調製方法は特に限定されない。例えば、上述の各成分を、所定の割合となるように混合することで調製することができる。また、調製時における各成分の形態は特に限定されず、水溶液の形態で調製に用いてもよい。
【0020】
[2]低級アルコール検出方法
本発明の低級アルコール検出方法は、上述の本発明の低級アルコール検出試薬を用いることを特徴とする。尚、低級アルコール検出試薬については、上述の説明をそのまま適用することができる。
【0021】
本発明を用いた低級アルコールの検出は、被検液と低級アルコール検出試薬とを混合し、検出試薬が混合された被検液が発色した場合に、低級アルコールが含有されていると判定されるものである。
【0022】
低級アルコール検出試薬と被検液との混合比[検出試薬の質量:被検液の質量]は、発色が確認できる量比であれば特に限定されない。具体的には、例えば、1:(5〜20)であることが好ましく、より好ましくは1:(5〜15)、更に好ましくは1:(9〜11)である。この混合比が上記範囲である場合、低級アルコールをより確実に検出することができる。
【0023】
低級アルコール検出試薬と被検液との混合時間は特に限定されないが、呈色反応を十分に進行させるという観点、及び、迅速に目的物を検出するという観点から、24時間以下(特に1時間以下、更には2〜30分間)とすることができる。
【0024】
本発明の検出方法に用いられる被検液のpHは特に限定されないが、例えば、pH6.3〜8.3であることが好ましく、より好ましくはpH6.8〜7.8、更に好ましくはpH7.0〜7.6である。
【0025】
また、本発明の低級アルコール検出方法においては、呈色反応を十分に進行させるという観点から、検出試薬が混合された被検液を加熱する工程を備えていてもよい。
加熱温度は特に限定されないが、例えば、50℃以下(特に20〜40℃)とすることができる。
加熱時間は特に限定されないが、例えば、24時間以下(特に1時間以下、更には2〜30分間)とすることができる。
【0026】
本発明における呈色反応による発色の確認方法としては、目視による確認の他、分光光度計を用いた方法が挙げられる。
分光光度計を用いる場合は、例えば、540〜550nmの波長について吸光度を測定することにより、低級アルコールの有無を確認することができる。この際、アルコール濃度と吸光度の関係を示す検量線を予め求めておくことにより、未知の濃度の目的物における濃度を測定することができる。
更に、吸光度測定の際には、プレートリーダーを用いて行うことが好ましい。この場合、複数の被検液について連続して吸光度測定を行うことができ、目的物の検出や濃度測定を簡易且つ迅速に行うことができる。
【0027】
また、本発明の検出方法においては、被検液の溶媒にリン酸緩衝液が含まれている場合には、溶媒が水のみであって、同濃度の目的物(低級アルコール)が含まれる被検液と比べて、得られる発色の程度の差(即ち吸光度の差)が大きくなる傾向にある。そのため、本発明の低級アルコール検出方法は、リン酸緩衝液下で安定な酵素等の探索に好適に用いることができる。
尚、溶媒として用いられるリン酸緩衝液のpHは特に限定されないが、例えば、pH6.3〜8.3であることが好ましく、より好ましくはpH6.8〜7.8、更に好ましくはpH7.0〜7.6である。
【実施例】
【0028】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。ここで、「部」及び「%」は、特記しない限り質量基準である。
【0029】
[1]低級アルコール検出試薬(実施例1)の調製
塩基性フクシン100部と、亜硫酸水素ナトリウム100部と、塩化水素100部と、水9700部とを混合することにより、実施例1の検出試薬を調製した。
【0030】
[2]吸光度測定(a)
以下に示す被検液と参照液を用いて、下記の吸光度測定を行った。
<被検液及び参照液>
被検液a(アルコール濃度:3%);蒸留水と1−プロパノールとの混合液
参照液a(アルコール濃度:0%);蒸留水
<吸光度測定>
上記[1]で調製した実施例1の検出試薬と、被検液(又は参照液)とを質量比(検出試薬:被検液)で1:10となるように混合した後、20℃×10分間(又は20分間)の条件にて、呈色反応を進行させた。その後、分光光度計(テカンジャパン社製、型名「Infinite M200 Pro」)により、波長546nmの吸光度を測定し、その結果を表1及び
図1(呈色反応の時間と吸光度の関係を示すグラフ)に示した。尚、この吸光度は、上記測定を5回行った際の平均値である。
【0031】
【表1】
【0032】
表1及び
図1によれば、呈色反応時間が10分間の場合、アルコール0%の参照液aの吸光度は0.39であり、3%のプロパノールを含有する被検液aの吸光度は0.61であり、その差が0.22であった。
また、呈色反応時間が20分間の場合、アルコール0%の参照液aの吸光度は0.48であり、3%のプロパノールを含有する被検液aの吸光度は0.92であり、その差が0.44であった。
この結果、アルコールの含有の有無によって吸光度に顕著な差が生じることが確認できた。また、呈色反応時間が10分間の場合よりも、20分間の場合の方が吸光度の差が大きくなることが確認できた。
そして、実施例1の低級アルコール検出試薬を用いて呈色反応させることにより、被検液中の低濃度アルコールの有無を十分に検出できることが確認できた。尚、分光光度計を用いた目的物の検出には、吸光度の差が通常0.05(特に0.1)以上あれば十分である。
【0033】
[3]低級アルコール検出試薬(実施例2)の調製
塩基性フクシン100部と、亜硫酸水素ナトリウム400部と、塩化水素400部と、リン酸1100部と、水31300部とを混合することにより、実施例2の検出試薬を調製した。
【0034】
[4]吸光度測定(b)
以下に示す被検液と参照液を用いて、下記の吸光度測定を行った。
<被検液及び参照液>
被検液(アルコール3%)
a;蒸留水と1−プロパノールとの混合液
b;12.5mMリン酸緩衝液と1−プロパノールとの混合液
c;25mMリン酸緩衝液と1−プロパノールとの混合液
参照液(アルコール0%)
a;蒸留水
b;12.5mMリン酸緩衝液
c;25mMリン酸緩衝液
<吸光度測定>
上記[3]で調製した実施例2の検出試薬と、上記各被検液(又は参照液)とを質量比(検出試薬:被検液)で1:10となるように混合した後、40℃×2.5時間の条件にて、呈色反応を進行させた。その後、分光光度計(テカンジャパン社製、型名「Infinite M200 Pro」)により、波長546nmの吸光度を測定し、その結果を表2及び
図2(リン酸緩衝液の濃度と吸光度の関係を示すグラフ)に示した。尚、この吸光度は、上記測定を5回行った際の平均値である。
【0035】
【表2】
【0036】
表2及び
図2によれば、リン酸緩衝液の濃度が0mMの場合、アルコール0%の参照液の吸光度は0.13であり、3%のプロパノールを含有する被検液の吸光度は0.17であり、その差が0.04であった。
また、リン酸緩衝液の濃度が12.5mMの場合、アルコール0%の参照液の吸光度は0.24であり、3%のプロパノールを含有する被検液の吸光度は0.52であり、その差が0.28であった。
更に、リン酸緩衝液の濃度が25mMの場合、アルコール0%の参照液の吸光度は0.53であり、3%のプロパノールを含有する被検液の吸光度は1.18であり、その差が0.65であった。
この結果、リン酸緩衝液中におけるアルコールの含有の有無によって吸光度に顕著な差が生じることが確認できた。また、リン酸緩衝液の濃度が大きいほど、吸光度の差が大きくなることが確認できた。
そして、実施例2の低級アルコール検出試薬を用いて呈色反応させることにより、リン酸緩衝液中の低濃度アルコールの有無を十分に検出できることが確認できた。
【0037】
[4]実施例の効果
以上のことから、実施例1及び2の低級アルコール検出試薬は、低級アルコールの検出能力に優れており、目的物である低級アルコールが低濃度であっても、呈色反応を用いることにより、簡易且つ確実に目的物を検出可能であることが分かった。また、本実施例1及び2の検出試薬は、酵素を含まない非酵素系の試薬であるため、既存の酵素系試薬に比べて検出条件を幅広く設定することができると共に、劣化の心配が少なく長期の保存が可能である。更に、本実施例の低級アルコール検出試薬は、リン酸緩衝液中の低級アルコールの検出に優れているため、リン酸緩衝液下で安定な酵素等の探索に好適に用いることができる。
尚、被検液におけるアルコール濃度が未知である場合には、予めアルコール濃度と吸光度の関係を示す検量線を求めておくことにより、その濃度を測定することができる。
【0038】
前述の例は単に説明を目的とするものでしかなく、本発明を限定するものと解釈されるものではない。本発明を典型的な実施形態の例を挙げて説明したが、本発明の記述および図示において使用された文言は、限定的な文言ではなく説明的および例示的なものであると理解される。ここで詳述したように、その形態において本発明の範囲または精神から逸脱することなく、添付の特許請求の範囲内で変更が可能である。ここでは、本発明の詳述に特定の構造、材料および実施例を参照したが、本発明をここにおける開示事項に限定することを意図するものではなく、むしろ、本発明は添付の特許請求の範囲内における、機能的に同等の構造、方法、使用の全てに及ぶものとする。
【0039】
本発明は上記で詳述した実施形態に限定されず、本発明の請求項に示した範囲で様々な変形または変更が可能である。