【実施例】
【0015】
[実施例1の構成]
図1ないし
図5は、本発明の燃料供給システムを適用したコモンレール式燃料噴射システム(実施例1)を示したものである。
【0016】
本実施例の燃料供給システムは、例えば自動車等の車両に搭載された4気筒ディーゼルエンジン等の内燃機関(エンジン)用の燃料噴射システムとして知られるコモンレール式燃料噴射システム(蓄圧式燃料噴射装置)によって構成されている。
ここで、エンジンの出力軸(クランクシャフト)は、クラッチ機構を介して、エンジンの回転動力をドライブシャフトに伝達するための動力伝達装置としてのトランスミッションの入力軸に駆動連結されている。また、クランクシャフトは、燃料タンク1から燃料が供給されるサプライポンプ2のカムシャフトをベルト駆動している。
【0017】
コモンレール式燃料噴射システムは、燃料タンク1から低圧燃料を汲み上げるフィードポンプ(図示せず)を内蔵したサプライポンプ2と、このサプライポンプ2の各吐出ポート3、4から高圧燃料が導入されるコモンレール5と、このコモンレール5の各燃料出口から高圧燃料が分配供給される複数のソレノイドインジェクタ(以下インジェクタ)6とを備え、コモンレール5の内部(蓄圧室)に蓄圧された高圧燃料を各インジェクタ6を介してエンジンの各気筒毎の燃焼室内に噴射供給するように構成されている。
なお、
図1では、4気筒ディーゼルエンジンの1つの気筒に対応するインジェクタ6のみを示し、その他の気筒についてはインジェクタの図示を省略している。
【0018】
サプライポンプ2は、フィードポンプから電磁弁(ソレノイドバルブ)11を経て各燃料加圧室(図示せず)内に吸入した燃料を加圧して高圧化し、この高圧燃料をコモンレール5へ圧送供給する燃料噴射ポンプ(燃料供給ポンプ)である。
サプライポンプ2の電磁弁11は、フィードポンプから各燃料加圧室内への燃料の吸入量を調整することで、サプライポンプ2の各燃料吐出口より吐出される燃料吐出量(以下ポンプ圧送量)を制御する電磁式燃料調量弁(SCV)である。
【0019】
ここで、サプライポンプ2の電磁弁11は、エンジン制御ユニット(電子制御装置:以下ECU7)によって通電制御されるように構成されている。このECU7は、サプライポンプ2に設けられる複数(2気筒)の圧送系統(高圧ポンプ部、以下プランジャポンプ)のうちの少なくとも1気筒のプランジャポンプが異常か否かを診断する故障診断装置を備えている。
なお、本実施例のサプライポンプ2およびECU7の詳細は、後述する。
【0020】
コモンレール5は、各インジェクタ6に高圧燃料を分配供給する円筒パイプ形状の分配管である。このコモンレール5の内部には、超高圧の燃料を蓄圧する蓄圧室が形成されている。
コモンレール5の軸線方向の一端側には、燃料圧力センサ(コモンレール圧力センサ)12が螺子締結等により接続されている。このコモンレール圧力センサ12は、コモンレール5の内部圧力(所謂コモンレール圧力)を電気信号に変換して圧力検出値としてECU7に対して出力する燃料圧力検出手段である。
なお、コモンレール圧力センサ12の代わりに燃料温度センサをコモンレール5に搭載しても良い。また、各インジェクタ6の蓄圧室内の燃料圧力(燃圧)を検出する燃料圧力センサを各インジェクタ6に搭載しても良い。
【0021】
コモンレール5の軸線方向の他端側には、減圧弁13が螺子締結等により接続されている。この減圧弁13は、エンジン制御ユニット(電子制御装置:以下ECU7)から印加される減圧弁駆動信号によって電子制御されるように構成されている。
減圧弁13は、例えば自動車等の車両の減速走行時またはエンジン停止時等に速やかにコモンレール5の内部圧力(所謂コモンレール圧力)を高圧から低圧へ減圧させる降圧性能に優れる電磁弁(ソレノイドバルブ)である。減圧弁13が開弁すると、コモンレール5または減圧弁13の燃料出口(リークポート)が開放されて、コモンレール5から燃料戻し配管(リターン配管)を経て燃料タンク1へ燃料が戻される。これにより、コモンレール圧力が高圧から低圧へ減圧(降圧)する。
【0022】
なお、減圧弁13の代わりにプレッシャリミッタをコモンレール5に搭載しても良い。このプレッシャリミッタは、コモンレール圧力が設定値(限界設定圧力)を超えた際に開弁してコモンレール圧力を限界設定圧力以下に抑えるための圧力安全弁である。
なお、サプライポンプ2およびコモンレール5は、高圧燃料を発生する高圧発生部を構成する。
【0023】
複数のインジェクタ6は、エンジンの各気筒♯1〜♯4に個別に対応して搭載される燃料制御弁(燃料噴射弁)として使用される。
これらのインジェクタ6としては、コモンレール5の内部(蓄圧室)に蓄圧された高圧燃料を、直接燃焼室内に霧状に噴射供給する直接噴射タイプの内燃機関用燃料噴射弁(ディーゼルエンジン用のインジェクタ)が採用されている。
各気筒毎のインジェクタ6は、燃料噴射ノズルと電磁弁(ソレノイドバルブ)14とが螺子締結により一体化されて構成されている。
【0024】
また、各気筒毎のインジェクタ6からの燃料噴射の順序は、
図2に示したように、気筒♯1(噴射1)→気筒♯3(噴射2)→気筒♯4(噴射3)→気筒♯2(噴射4)であり、この順で吸気行程等が実施される。
また、エンジンの各気筒♯1〜♯4において、180°CAずつずれた噴射タイミング(噴射時期)で、例えば各気筒毎の圧縮行程の上死点(TDC)近傍で、各気筒毎のインジェクタ6の開弁による燃料噴射が開始されるように構成されている。
【0025】
燃料噴射ノズルは、燃料を噴射する噴孔およびこの噴孔に連通する燃料流路を有し、噴孔を開閉するノズルニードルを内蔵するノズルボディと、このノズルボディの燃料流路を介して噴孔に連通する燃料流路を有し、ノズルニードルと連動するコマンドピストンを摺動可能に支持するインジェクタボディとを備えている。
電磁弁14は、ECU7から印加されるインジェクタ駆動信号(インジェクタ駆動電流)によって電子制御されるように構成されている。これにより、インジェクタ6の噴孔から燃料噴射される燃料噴射量および噴射時期が制御される。
ここで、インジェクタ6からのリーク燃料は、燃料戻し配管を経て燃料系の低圧側(燃料タンク1)にリターンされる。
【0026】
次に、本実施例のサプライポンプ2の詳細を
図1に基づいて説明する。
サプライポンプ2には、エンジンのクランクシャフトと同期して一定方向に回転するカムシャフトが設けられている。このサプライポンプ2には、カムシャフトが回転することで、燃料タンク1から燃料フィルタ15を介して低圧燃料を吸入するフィードポンプが内蔵されている。また、サプライポンプ2は、1つの電磁弁11で、全てのプランジャポンプのポンプ圧送量を、吸入燃料量を調量することで制御するタイプの燃料供給ポンプである。
ここで、サプライポンプ2には、リークポートまたはオーバーフローポートが設けられており、サプライポンプ2からのリーク燃料またはオーバーフロー燃料は、燃料戻し配管を経て燃料系の低圧側(燃料タンク1)にリターンされる。
【0027】
カムシャフトは、サプライポンプ2のハウジング内において回転可能に設置されて、エンジンのクランクシャフトが3回転(または2回転)すると2回転(または1回転)するようにクランクシャフトに対して駆動連結されている。
また、カムシャフトには、複数のプランジャポンプの各プランジャをシリンダ孔内において軸線方向に往復駆動するポンプカムをプランジャポンプの個数だけ備えている。本実施例では、複数のポンプカムがカムシャフトの特定部位の周方向に180°ずれた状態で設けられている。なお、1個のポンプカムを2気筒のプランジャポンプで共通使用しても良い。
【0028】
また、サプライポンプ2には、カムシャフトを回転自在に支持するハウジングが設けられている。ハウジングの内部には、ポンプカムを回転可能に収容するカム室が形成されている。
また、サプライポンプ2には、カム室を中心にして放射状に、2気筒のポンプエレメント(プランジャとシリンダとで構成されるプランジャポンプ)が設置されている。これらのプランジャポンプは、カム室の周方向に所定の角度間隔(例えば180°等間隔)で設置されている。すなわち、プランジャポンプは、ポンプカムのカムリフトにより往復移動方向に往復駆動される圧送系統(高圧ポンプ)を構成する。
【0029】
また、ポンプカムとプランジャとの間には、ポンプカムのプロフィールに従ってプランジャをその往復移動方向に上下動させるタペットが介在している。
サプライポンプ2のハウジングには、カムシャフトが回転可能に支持されている。このハウジングには、複数のプランジャをその往復移動方向に摺動可能に支持する円筒状のシリンダが一体的に設けられている。このシリンダの内部には、プランジャの摺動面が往復摺動可能なシリンダ孔が形成されている。各シリンダ孔の軸線方向の一方側(半径方向の外側)には、プランジャの往復運動により燃料を加圧する燃料加圧室が形成されている。
【0030】
また、ハウジングまたはシリンダには、燃料供給流路を開閉する燃料吸入弁、および燃料吐出流路を開閉する燃料吐出弁がそれぞれ設置されている。なお、燃料吐出流路の下流端には、外部へ向かって開放された吐出ポート(燃料吐出口)3、4が設けられている。各吐出ポート3、4より吐出された高圧燃料は、各燃料供給配管を通って合流部で合流した後、燃料供給配管を経てコモンレール5の燃料入口から蓄圧室内へ導入される。
ここで、フィードポンプから各燃料吸入弁に至る燃料供給流路の途中には、電磁弁11が設置されている。この電磁弁11は、ECU7から印加されるポンプ駆動信号によって電子制御されるように構成されている。これにより、サプライポンプ2からコモンレール5へ吐出されるポンプ圧送量およびコモンレール圧力が制御される。
【0031】
そして、サプライポンプ2は、エンジンのクランクシャフトの回転と同期して回転するカムシャフトのポンプカムのカムプロフィール(カムリフト)に従って往復駆動される2気筒のプランジャポンプの各プランジャが、
図2に示したように、シリンダボディ(シリンダ)のシリンダ孔内を下死点位置から上死点位置まで上昇する期間がポンプ圧送周期(例えば270°CA)とされている。また、2気筒のプランジャポンプの各プランジャが、上死点位置から下死点位置まで下降する期間がポンプ吸入周期(例えば270°CA)とされている。
【0032】
また、サプライポンプ2は、燃料吸入弁が開弁し、燃料吐出弁が閉弁している間、つまり2気筒のプランジャポンプの各プランジャがシリンダ内を上死点位置から下死点位置までの期間が、フィードポンプから燃料加圧室内に燃料を吸入するポンプ吸入期間とされ、その後に、燃料吸入弁が閉弁し、燃料吐出弁が開弁している間、つまり各プランジャがシリンダ内を下死点位置から上死点位置に戻るまでの期間が、燃料加圧室内で加圧された高圧燃料をコモンレール5へ圧送するポンプ圧送期間とされている。
【0033】
したがって、本実施例のコモンレール式燃料噴射システムは、各プランジャポンプの1圧送周期において燃料噴射が1回または2回実施される1噴射1圧送または2噴射1圧送の非同期システムとなっている。
なお、
図2において、エンジンのクランクシャフトに対するサプライポンプ2の組み付け位相は、あくまで例であり、決まっているものではない。
【0034】
ここで、サプライポンプ2の電磁弁11、コモンレール5の減圧弁13および複数のインジェクタ6の各電磁弁14は、ECU7によって電子制御されるポンプ駆動回路、減圧弁駆動回路およびインジェクタ駆動回路(以下EDU8)を介して、自動車等の車両に搭載されたバッテリに電気的に接続されている。
ECU7には、CPU、メモリ(ROM、RAMおよびEEPROM)、入力回路(入力部)、出力回路(出力部)、電源回路、タイマー回路、ポンプ駆動回路、減圧弁駆動回路等の機能を含んで構成される周知の構造のマイクロコンピュータが内蔵されている。
【0035】
CPUは、プログラムによって様々な数値演算処理、情報処理および制御等を行う。
ROMは、CPUによる様々な数値演算処理、情報処理および制御等に必要なプログラムが予め記憶されている。
RAMには、CPUによる様々な数値演算処理による中間情報が一時的に記録(記憶、格納)され、イグニッションスイッチがOFFとなると記憶された情報は消える。
EEPROMに、CPUによる様々な数値演算処理、情報処理および制御等に必要な情報が記憶(格納)されている。具体的には、後述するポンプ圧送量差の算出に必要なポンプ圧送量データやセンサ情報を所定の形式で表したデータテーブル(
図3参照)等の初期データがEEPROMに予め記憶されている。なお、データテーブルに格納されるデータは、書き換えが可能なものである。
【0036】
そして、コモンレール5に取り付けられたコモンレール圧力センサ12からのセンサ出力信号(圧力検出値)や、各種センサからのセンサ出力信号は、A/D変換回路でA/D変換された後に、マイクロコンピュータの入力部に入力されるように構成されている。
ここで、マイクロコンピュータの入力部には、コモンレール圧力センサ12だけでなく、クランク角度センサ21、アクセル開度センサ22、冷却水温センサ23、燃料温度センサ24および排気ガスセンサ(空燃比センサ、酸素濃度センサ)等が接続されている。
【0037】
これらのコモンレール圧力センサ12、クランク角度センサ21、アクセル開度センサ22、冷却水温センサ23、燃料温度センサ24および排気ガスセンサ(空燃比センサ、酸素濃度センサ)等の各種センサによって、エンジンの運転状態(運転状況)を検出する運転状態検出手段が構成される。
また、コモンレール圧力センサ12、クランク角度センサ21、アクセル開度センサ22、冷却水温センサ23、燃料温度センサ24および排気ガスセンサ(空燃比センサ、酸素濃度センサ)等の各種センサから出力されるセンサ出力信号は、所定のサンプリング周期(例えば30°CA)毎にA/D変換回路でA/D変換され、マイクロコンピュータの入力部に入力される。
【0038】
ここで、クランク角度センサ21は、エンジンのクランクシャフト(出力軸)の回転角度を電気信号に変換するピックアップコイルよりなり、例えば15°CA(クランク角度)毎にNEパルス信号がECU7に対して出力される。なお、サプライポンプ2のカムシャフトの回転角度を電気信号に変換するカム角度センサを設置しても良い。
ECU7は、クランク角度センサ21より出力されたNEパルス信号の間隔時間を計測することによってエンジン回転速度(エンジン回転数:NE)を検出するための回転速度検出手段としての機能を有している。
【0039】
アクセル開度センサ22は、アクセルペダルの踏み込み量(アクセル開度:ACCP)に対応した電気信号(センサ出力信号)をECU7に対して出力するエンジン負荷検出手段である。なお、スロットル開度センサを搭載している場合は、スロットル開度センサをエンジン負荷検出手段として使用しても良い。
冷却水温センサ23は、エンジン冷却水温(水温:THW)に対応した電気信号(センサ出力信号)をECU7に対して出力する水温検出手段である。
燃料温度センサ24は、サプライポンプ2内に吸入されるポンプ吸入側の燃料温度(燃温:THF)に対応した電気信号(センサ出力信号)をECU7に対して出力する燃温検出手段である。
【0040】
ECU7は、イグニッションスイッチがオン(IG・ON)されると、先ず、エンジンの運転状況(エンジン情報)または運転条件(状態)を算出するのに必要な各種センサ出力信号を取得(入力)し、エンジンの運転状況または運転条件およびROMに格納されたプログラムに基づいて、サプライポンプ2の電磁弁11、コモンレール5の減圧弁13および複数のインジェクタ6の各電磁弁14を電子制御するように構成されている。
【0041】
ECU7は、エンジンの運転状態(例えばエンジン回転速度)に応じて、コモンレール圧力を調節するため、サプライポンプ2によるコモンレール5への燃料吐出量(ポンプ圧送量)を制御する。すなわち、ECU7は、エンジン情報に基づきコモンレール圧力の目標値(目標コモンレール圧力:PFIN)を算出すると共に、この目標コモンレール圧力(PFIN)を維持するのに必要なポンプ圧送量を算出する。
そして、ECU7は、このポンプ圧送量の演算値に応じて、電磁弁11へ与える制御指令値としてポンプ駆動信号(駆動電流値)を算出すると共に、この駆動電流値に対応したポンプ制御信号(ポンプ指令値)を合成して出力する。
【0042】
ECU7は、クランク角度センサ21から出力されたNEパルス信号の間隔時間を計測することによって検出(測定)されたエンジン回転数(NE)と、アクセル開度センサ22によって検出されたアクセル開度(ACCP)とに対応して基本噴射量(Q)を算出(設定)する。そして、ECU7は、この基本噴射量(Q)に、冷却水温センサ23によって検出されたエンジン冷却水温や燃料温度センサ24によって検出された燃料温度等を考慮した補正量を加味して指令噴射量(QFIN)を算出(設定)する。
なお、基本噴射量(Q)については、アクセル開度センサ22によって検出されたアクセル開度(ACCP)のみによって目標エンジントルクを算出し、この目標エンジントルクから基本噴射量(Q)を算出(設定)するようにしても良い。
【0043】
そして、ECU7は、エンジン回転数(NE)と指令噴射量(QFIN)とに対応して指令噴射時期(TFIN)を算出(設定)すると共に、上記の指令噴射量(QFIN)とコモンレール圧力センサ12によって検出されたコモンレール5内の燃料圧力(コモンレール圧力:PC)とに対応してインジェクタ駆動時間(噴射指令パルス長さ、噴射指令パルス時間、噴射指令パルス幅、指令噴射期間:TQFIN)を算出(設定)する。
そして、ECU7は、所定の噴射タイミングで、EDU8を介して、各気筒のインジェクタ6の電磁弁14にパルス状のインジェクタ駆動電流(噴射指令パルス)を印加する。
【0044】
[実施例1の異常診断方法]
次に、本実施例のサプライポンプ2の異常診断方法を
図1ないし
図5に基づいて簡単に説明する。ここで、
図4はサプライポンプ2の異常診断方法を示したフローチャートである。
【0045】
本実施例のサプライポンプ2は、ハウジングに固定されたシリンダボディ(シリンダ)のシリンダ孔内にプランジャを往復移動可能に嵌挿したプランジャポンプを2気筒備えている。なお、カムシャフトには、2気筒のプランジャポンプの各プランジャを所定の位相差を持って往復駆動するポンプカムが設けられている。このポンプカムのカムプロフィール(カムリフト)は、
図2のタイミングチャートに示してある。
【0046】
上記のようなプランジャポンプ(圧送系統)を2気筒備えたサプライポンプ2においては、2気筒のプランジャポンプのうちのいずれか一方のプランジャポンプに圧送不良等の異常が発生すると、残った正常なプランジャポンプで、コモンレール5へ高圧燃料の加圧圧送を行うことになるので、目標とする燃料圧力(目標
コモンレール圧力:PFIN)に対する圧力制御性が悪化してエミッションの悪化およびエンジン出力の低下等のエンジン性能へ悪影響を与える。
【0047】
また、要求される燃料の圧送量が多い領域(燃料噴射量が大)では、サプライポンプ2から高圧燃料が導入されるコモンレール5の蓄圧室内の圧力(実
コモンレール圧力:PC)が目標
コモンレール圧力(PFIN)に追従することができず、エンジン性能が低下するという問題があるので、2気筒のプランジャポンプのうちの一方のプランジャポンプが異常であるか否かを精度良く検出して、しかるべき処置を行わなければならない。
【0048】
そこで、ECU7は、
図4の制御ルーチンに進入し、以下のポンプ故障診断を実施する。
先ず、ECU7は、イグニッションスイッチがオン(IG・ON)されると、予め設定されたサンプリング周期(30°CA)毎に、エンジンの運転状況(エンジン情報)または運転条件(状態)を算出するのに必要な各種センサ出力信号を取得する(センサ信号取得手段)。
【0049】
具体的には、コモンレール圧力センサ12、クランク角度センサ21、アクセル開度センサ22、冷却水温センサ23、燃料温度センサ24および排気ガスセンサ(空燃比センサ、酸素濃度センサ)等の各種センサから出力されたセンサ出力信号(検出値)が取得される。
ここで、燃料噴射量は、エンジン回転数(NE)とアクセル開度(ACCP)とに対応して設定された基本噴射量(Q)にエンジン冷却水温や燃料温度等を考慮した補正量を加味して算出される指令噴射量(QFIN)を用いる。
【0050】
ここで、ポンプ故障診断は、例えばエンジンの運転状態(運転状況)が安定したアイドル運転時、つまりアイドル安定状態を検出した時に実施す
ることが望ましい。
そこで、ECU7は、上記のように取得した各種センサ出力信号に基づいて、アイドル安定状態を判断し、エンジンの運転状態がアイドル安定状態である場合に、以下の手順でポンプ故障診断を実施する。
ポンプ故障診断の実施条件であるアイドル安定状態は、下記の条件1〜9が全て満足しした時点で、
図4の制御ルーチンに進入してポンプ故障診断を実施する。
【0051】
条件1…エンジン回転数(NE)と目標アイドル回転数との偏差が一定値以下。
条件2…エンジン回転数(NE)が一定範囲(例えば800〜1000rpm)内。
条件3…アクセル開度(ACCP)が一定値(例えば1%)以下。
条件4…コモンレール圧力(PC)と目標コモンレール圧力(PFIN)との圧力偏差が一定値(例えば30MPa)以下。
条件5…コモンレール圧力(PC)が一定範囲(例えば30〜40MPa)内。
条件6…指令噴射量(QFIN)が一定範囲(例えば1〜5mm
3 /st)内。
条件7…燃料漏れや排気ガス異常等のシステム異常無し。
条件8…スタータOFF。
条件9…自動車等の車両走行速度(車速)が一定値(例えば0km/h)以下。
【0052】
また、ポンプ故障診断は、エンジンの運転時に、アイドル安定状態に入ったら常時実施しても良いし、また、定期的(1日の初回運転時のみ、1年に1回、定期点検時、車検時)に実施しても良い。また、自動車等の車両の走行距離が所定の走行距離に達する毎(例えば500〜5000km毎)に実施しても良いし、また、ドライバー等の操作者の任意の設定時(例えば専用のスイッチの投入時、または既存のスイッチの長押し時、または複数のスイッチの同時押し時)に実施しても良い。
なお、
図4の制御ルーチンは、イグニッションスイッチがオン(IG・ON)された後に、予め設定されたサンプリング周期(t)毎に繰り返し実施される。また、演算タイミングは、
図2のタイミングチャートに示した時期とする。
【0053】
ここで、エンジンの運転状態がアイドル安定状態となり、
図4の制御ルーチンが起動するタイミングになると、先ず、サプライポンプ2の仮ポンプ圧送量を算出するのに必要な各種センサ出力信号を取得する(センサ信号取得手段)。
すなわち、サンプリング周期(t)毎に、コモンレール圧力センサ12、クランク角度センサ21、アクセル開度センサ22、冷却水温センサ23および燃料温度センサ24等からのセンサ出力信号を取得して、コモンレール圧力(PC)、クランク角度、ポンプカム角度、エンジン回転数(NE)、アクセル開度(ACCP)、冷却水温(THW)および燃料温度(THF)を検出する。
【0054】
次に、2気筒のポンププランジャの全圧送周期に相当する期間、つまりプランジャポンプの2サイクルに相当する期間で、且つサンプリング周期(t)分ずれた期間(T×2)毎に、ポンププランジャの2気筒数分毎の燃料の仮ポンプ圧送量を算出して仮圧送量データを作成する(データ作成手段:ステップS1)。
次に、このステップS1で算出して作成した仮圧送量データを、EEPROMに予め記憶されたデータテーブル(
図3参照)に格納する(データ記憶手段)。
なお、プランジャポンプの1サイクル分に相当する仮ポンプ圧送量の算出期間(T)を、270°CA(クランク角度間隔またはカム角度間隔)とする。また、コモンレール圧力センサ12等のセンサ出力信号のサンプリング周期(t)を30°CA(クランク角度間隔またはカム角度間隔)とする。
【0055】
ここで、ポンププランジャの2気筒数分毎の燃料の仮ポンプ圧送量(1〜18)の算出方法を下記の数1の演算式を用いて説明する。
[数1]
仮ポンプ圧送量(n)=(圧力A−圧力B)×[高圧部容積]÷[体積弾性係数]
+[算出期間に含まれる燃料噴射量]
但し、体積弾性係数(E)は、取得圧力、燃料温度、使用している燃料性状(粘性等)等から決まる値である。
例えば(([圧力係数]×圧力B)+[圧力オフセット])−([燃料温度係数]
×(燃料温度)−[燃料温度オフセット]))という式で定義される。
仮ポンプ圧送量の算出に使用するデータは、上記のセンサ信号取得手段で取得された後、データテーブル(
図3参照)に格納されている。
【0056】
あるいは、ポンププランジャの2気筒数分毎の燃料の仮ポンプ圧送量(1〜18)の算出方法として、下記の算出方法を使用しても良い。
先ず、コモンレール圧力センサ12から取得したセンサ出力信号によってコモンレール圧力(取得圧力:PC)を算出(検出)する(燃料圧力検出手段)。また、冷却水温センサ23または燃料温度センサ24から取得したセンサ出力信号によってインジェクタリーク温度(THF)を推定(検出)する(インジェクタ燃料温度検出手段)。
【0057】
次に、ポンププランジャ1気筒のポンプ圧送周期と同じ期間、つまりポンププランジャの1サイクルに相当する期間(T=270°CA=t×9)のインジェクタ静的リーク量(QSL)の総計を算出する(静的リーク量演算手段)。このQSLは、エンジン回転数(NE)と取得圧力(PC)とインジェクタリーク温度(THF)とインジェクタ静的リーク量(QSL)との関係を予め実験等により測定して作成したマップや演算式を用いて算出することができる。
【0058】
次に、ポンププランジャ1気筒のポンプ圧送周期と同じ期間、つまりポンププランジャの1サイクルに相当する期間(T=270°CA=t×9)のインジェクタ動的リーク量(QDL)の総計を算出する(動的リーク量演算手段)。このQDLは、インジェクタ駆動時間(噴射指令パルス長さ:TQFIN)と取得圧力(PC)とインジェクタ動的リーク量(QDL)との関係を予め実験等により測定して作成したマップや演算式を用いて算出することができる。すなわち、噴射指令パルス長さ(TQFIN)×取得圧力(PC)×係数によって求められる。
【0059】
次に、ポンププランジャ1気筒のポンプ圧送周期と同じ期間、つまりポンププランジャの1サイクルに相当する期間(T=270°CA=t×9)の燃料噴射量(QINJ)の総計を算出する(燃料噴射量演算手段)。このQINJは、期間(T)中の噴射回数は1回または2回のため、燃料噴射が1回の場合、便宜上、上記の指令噴射量(QFIN)×1を用い、また、燃料噴射が2回の場合、便宜上、上記の指令噴射量(QFIN)×2を用いる。なお、指令噴射量の代わりに基本噴射量(Q)を用いても良い。
【0060】
次に、ポンププランジャ1気筒のポンプ圧送周期と同じ期間、つまりポンププランジャの1サイクルに相当する期間(T=270°CA=t×9)の圧力保持分を算出する(圧力保持分演算手段)。
これは、先ず270°CA間のコモンレール圧力変化量(ΔP)を計測する。例えば270°CA前の前回の取得圧力(PCi−1)と270°CA後の今回の取得圧力(PCi)との圧力差を求める。なお、エンジンの各気筒毎の燃焼室内への燃料噴射前後の圧力差を求めても良い。
【0061】
次に、コモンレール圧力変化相当量(圧力保持分)を算出する。これは、270°CA間のコモンレール圧力変化量(ΔP)に高圧燃料部総容積(高圧部容積:V)を乗算した値を、体積弾性率(E)で除算した値を、コモンレール圧力変化相当量(高圧部をΔP昇圧するのに必要な容積:ΔV)とする。
ここで、体積弾性率(E)は、上述したものの他、取得圧力(PC)と燃料温度(インジェクタリーク温度またはサプライポンプ2のオーバーフロー温度(ポンプリーク温度)またはサプライポンプ2の吸入温度(THF))によって与えることができる。
【0062】
次に、期間(T)中の仮ポンプ圧送量(QP1、QP2)を下記の数2及び3の演算式を用いて算出する。
[数2]
QP1=(QSL×1)+(QDL×1)+(QINJ×1)+ΔV
[数3]
QP2=(QSL×2)+(QDL×2)+(QINJ×2)+ΔV
但し、QP1は、期間(T)中に燃料噴射が1回の場合、また、QP2は、期間(T)中に燃料噴射が1回の場合を示す。
【0063】
ここで、期間(T)中の仮ポンプ圧送量(QP)の算出方法として、下記の数4の演算式を用いても良い。
[数4]
仮ポンプ圧送量=[期間T中のコモンレール圧力変化量(ΔP)]×[高圧燃料部容積] ÷[体積弾性率]+[期間T中の燃料噴射量の総計]
+[期間T中の燃料リーク量の総計]
なお、期間T中の燃料リーク量としては、インジェクタ静的リーク量、インジェクタ動的リーク量だけでなく、サプライポンプ2からの燃料リーク量を考慮して燃料リーク量を求めても良く、また、サプライポンプ2やコモンレール5からのオーバーフロー燃料量を考慮して燃料リーク量を求めても良い。
【0064】
以上のように、仮ポンプ圧送量の算出処理を、圧力サンプリングが可能なタイミングで行い、サンプリング周期(t=30°CA)分ずれた期間(T×2)毎に、プランジャポンプの2サイクル分(気筒数分)毎の燃料の仮ポンプ圧送量を算出して仮圧送量データを作成し、この作成した仮圧送量データ(QPα、QPβ)をEEPROMに予め記憶されたデータテーブル(
図3参照)に格納(記憶)する。
なお、例えばプランジャポンプの1サイクル=270°CA、圧力サンプリング周期=30°CA毎であれば、270°CA×2=18個(9グループ)の仮圧送量データが配置される(
図3及び5参照)。
【0065】
次に、仮圧送量データ(QPα、QPβ)の組み合わせを全て比較する(データ比較手段)。
具体的には、仮圧送量データ(QPα)と仮圧送量データ(QPβ)とのポンプ圧送量差を下記の数5の演算式を用いて演算(算出)する(ステップS2)。このステップS2を8回前から今回までの間、サンプリング周期(30°CA)毎に繰り返し実行することで、9グループ分のポンプ圧送量差が算出され、これらの9グループ分のポンプ圧送量差データはEEPROMに予め記憶されたデータテーブル(
図3参照)に格納(記憶)される。
[数5]
ポンプ圧送量差=仮ポンプ圧送量(QPα)−仮ポンプ圧送量(QPβ)
なお、ポンプ圧送量差の算出に使用する仮圧送量データは、上述したように、データテーブル(
図3参照)に格納されている。
【0066】
先ず、今回の仮ポンプ圧送量1は、圧力A=P27、圧力B=P18、今回の算出期間に含まれる燃料噴射は、噴射4のみであるため、燃料噴射量=噴射4の1回分となる。また、今回の仮ポンプ圧送量10は、圧力A=P18、圧力B=P9、今回の算出期間に含まれる燃料噴射は、噴射2+噴射3であるため、燃料噴射量=噴射2+噴射3の2回分となる。
以上により、今回のポンプ圧送量差は、仮ポンプ圧送量1−仮ポンプ圧送量10となる。
【0067】
次に、1回前の仮ポンプ圧送量2は、圧力A=P26、圧力B=P17、今回の算出期間に含まれる燃料噴射は、噴射3+噴射4であるため、燃料噴射量=噴射3+噴射4の2回分となる。また、1回前の仮ポンプ圧送量11は、圧力A=P17、圧力B=P8、今回の算出期間に含まれる燃料噴射は、噴射2のみであるため、燃料噴射量=噴射2の1回分となる。
以上により、1回前のポンプ圧送量差は、仮ポンプ圧送量2−仮ポンプ圧送量11となる。
【0068】
以降、2回前から8回前まで同様に演算することで、2回前のポンプ圧送量差は、仮ポンプ圧送量3−仮ポンプ圧送量12となり、また、3回前のポンプ圧送量差は、仮ポンプ圧送量4−仮ポンプ圧送量13となる。また、4回前のポンプ圧送量差は、仮ポンプ圧送量5−仮ポンプ圧送量14となり、また、5回前のポンプ圧送量差は、仮ポンプ圧送量6−仮ポンプ圧送量15となり、また、6回前のポンプ圧送量差は、仮ポンプ圧送量7−仮ポンプ圧送量16となる。また、7回前のポンプ圧送量差は、仮ポンプ圧送量8−仮ポンプ圧送量17、また、8回前のポンプ圧送量差は、仮ポンプ圧送量9−仮ポンプ圧送量18となる。
【0069】
ここで、確実に”サプライポンプ2のポンプ圧送周期にほぼ同期したポンプ圧送量差”を検出するために、サプライポンプ2のポンプ圧送周期と同じ期間のデータをモニターする必要がある。
・コモンレール圧力等のサンプリング周期=圧力サンプリング周期
=30°CA
・サプライポンプ2のポンプ圧送周期=各プランジャポンプの1サイクル
=ポンプカムの圧送期間
=270°CA
の場合、(270°CA)/(30°CA)=9回(9グループ)分のポンプ圧送量差をモニターすれば良い。
なお、
図4の制御ルーチンは、30°CA毎の演算処理で記述してあるが、演算処理に必要な各種データ(コモンレール圧力、燃料噴射量、エンジン冷却水温、燃料温度等)を残しておけるのであれば、180°CA毎や270°CA毎にまとめて演算処理を行っても良い。
【0070】
次に、異常判定値を演算(算出)する(判定値算出手段:ステップS3)。
次に、ポンプ圧送量差が異常判定値以上であるか否かを判定する(ステップS4)。この判定結果がNOの場合には、異常フラグ(FDIAG)をOFFする(ステップS5)。その後に、ステップS7の処理に進む。
また、ステップS4の判定結果がYESの場合には、異常フラグ(FDIAG)をONする(異常診断手段:ステップS6)。なお、異常フラグ(FDIAG=ONまたはFDIAG=OFF)は、今回を含めて過去8回前までのデータをEEPROMに記憶しておく。
【0071】
ここで、データ比較手段の比較結果にて、プランジャポンプ1気筒分の圧送量相当の乖離が有る組み合わせが1つでも有れば、当該プランジャポンプが圧送不良等の異常が発生しているプランジャポンプと診断する。
但し、これは理論値なので、「プランジャポンプ1気筒分の圧送量相当の乖離≧異常判定値となる組み合わせが、所定数以上なら異常」と診断することが望ましい。
なお、異常判定値は、様々な誤差の影響を考慮して決定する必要がある。
【0072】
仮ポンプ圧送量を算出するための項目(圧力(取得可能なタイミング、伝播速度、脈動など)、体積弾性係数(燃料性状の差など)、燃料噴射による損失(燃料噴射量、リーク量))やポンプ圧送指令に対する実機の応答に誤差があるため、正常なプランジャポンプと圧送不良が発生しているプランジャポンプとの差がポンプ圧送量だけとは限らない。
そのため、異常判定値は、サプライポンプ2の圧送量指令値に対して、誤差分の余裕を持った値としなければならない。
【0073】
なお、コモンレール圧力を取得可能なタイミングで、プランジャポンプの圧送期間が終わる可能性は低く、正常なプランジャポンプと圧送不良が発生しているプランジャポンプのポンプ圧送量を完全に別々に検出できないと思った方が良い。
そのため、圧送量指令値よりも少なめの異常判定値を持たして、これを複数の組み合わせで検出した場合に、当該プランジャポンプが異常と診断するようにするのが望ましい。 また、ポンプ圧送量を算出するための項目(圧力(伝播速度、脈動など)、体積弾性係数(燃料性状の差など)、燃料噴射による損失(燃料噴射量、燃料リーク量))、また、ポンプ圧送指令に対する実機の応答という誤差が考えられる。このため、ポンプ圧送量の差が必ずポンプ圧送指令相当になる保証はなく、この誤差を見込んだ異常判定値にする必要が有る。
【0074】
次に、今回から過去8回前までの異常フラグのうち、2個以上がONとなっているか否かを判定する(ステップS7)。この判定結果がNOの場合には、当該プランジャポンプが正常と診断する(ステップS8)。その後に、
図4の制御ルーチンを抜ける。
また、ステップS7の判定結果がYESの場合には、2気筒のプランジャポンプのうちの少なくとも1つのプランジャポンプが異常と診断する(ステップS9)。その後に、
図4の制御ルーチンを抜ける。
なお、ステップS9で2気筒のプランジャポンプのうちの少なくとも1気筒のプランジャポンプが異常と診断された場合には、圧送不良や過剰圧送等の異常がプランジャポンプに発生している時であるため、ドライバーに注意を促す目的で、エンジンチェックランプ(MIL)等の異常警告灯(視覚表示手段)を点灯するようにしたり、また、音声ガイド(聴覚表示手段)によってドライバーに認識させるようにしても良い。
【0075】
ここで、
図5に、正常なプランジャポンプのポンプ圧送量QPαおよび異常なプランジャポンプのポンプ圧送量QPβを示す。
なお、正常なプランジャポンプは、カムリフトの傾きに比例して燃料が圧送される。また、異常なプランジャポンプのポンプ圧送量QPβは、0とする。
【0076】
データテーブルに格納された8回前の仮圧送量データは、8回前の算出期間における前半の270°CA間の仮ポンプ圧送量QPαが80となり、後半の270°CA間の仮ポンプ圧送量QPβが10となり、ポンプ圧送量差(=QPα−QPβ)は、70となる。この値(差)は、両方のプランジャポンプのいずれも正常なら有り得ない差である。
また、データテーブルに格納された7回前の仮圧送量データは、7回前の算出期間における前半の270°CA間の仮ポンプ圧送量QPαが70となり、後半の270°CA間の仮ポンプ圧送量QPβが20となり、ポンプ圧送量差(=QPα−QPβ)は、50となる。この値(差)は、両方のプランジャポンプのいずれも正常なら有り得ない差である。
【0077】
また、データテーブルに格納された6回前の仮圧送量データは、6回前の算出期間における前半の270°CA間の仮ポンプ圧送量QPαが60となり、後半の270°CA間の仮ポンプ圧送量QPβが30となり、ポンプ圧送量差(=QPα−QPβ)は、30となる。この値(差)は、両方のプランジャポンプのいずれも正常か、一方のプランジャポンプが異常か微妙である。
また、EEPROMに格納された5回前または4回前の仮圧送量データは、5回前または4回前の算出期間における前半の270°CA間の仮ポンプ圧送量QPαが50または40となり、後半の270°CA間の仮ポンプ圧送量QPβが40または50となり、ポンプ圧送量差(=QPα−QPβ)は、30となる。この値(差)は、有意差が無く、両方のプランジャポンプのいずれも正常であると診断できる。
【0078】
また、データテーブルに格納された3回前の仮圧送量データは、3回前の算出期間における前半の270°CA間の仮ポンプ圧送量QPαが30となり、後半の270°CA間の仮ポンプ圧送量QPβが60となり、ポンプ圧送量差(=QPα−QPβ)は、30となる。この値(差)は、両方のプランジャポンプのいずれも正常か、一方のプランジャポンプが異常か微妙である。
また、データテーブルに格納された2回前の仮圧送量データは、2回前の算出期間における前半の270°CA間の仮ポンプ圧送量QPαが20となり、後半の270°CA間の仮ポンプ圧送量QPβが70となり、ポンプ圧送量差(=QPα−QPβ)は、50となる。この値(差)は、両方のプランジャポンプのいずれも正常なら有り得ない差である。
【0079】
また、データテーブルに格納された1回前の仮圧送量データは、1回前の算出期間における前半の270°CA間の仮ポンプ圧送量QPαが10となり、後半の270°CA間の仮ポンプ圧送量QPβが80となり、ポンプ圧送量差(=QPα−QPβ)は、70となる。この値(差)は、両方のプランジャポンプのいずれも正常なら有り得ない差である。
また、データテーブルに格納された今回の仮圧送量データは、今回の算出期間における前半の270°CA間の仮ポンプ圧送量QPαが0となり、後半の270°CA間の仮ポンプ圧送量QPβが90となり、ポンプ圧送量差(=QPα−QPβ)は、90となる。この値(差)は、プランジャポンプ1気筒分の差である。
【0080】
以上のように、サプライポンプ2の片方のプランジャポンプが無圧送になった場合、連続する270°CA期間のポンプ圧送量の差をモニターしていれば、約1圧送分の差が出るタイミングが必ずやってくる。
両方のプランジャポンプのいずれも正常な場合は、どのタイミングで見ても検出した仮圧送量に有意差はでない。
また、カムの圧送量が等速でなくても、検出する流量が異常になることはない。
【0081】
[実施例1の効果]
以上のように、本実施例の故障診断装置においては、予め設定されたサンプリング周期(30°CA)毎に、コモンレール圧力センサ12、クランク角度センサ21、アクセル開度センサ22、冷却水温センサ23および燃料温度センサ25等の各種センサからのセンサ出力信号を取得する。
そして、2気筒のプランジャポンプの全圧送周期に相当する期間(T×2)で、且つサンプリング周期(t)分ずつずれた期間(T×2)毎に、プランジャポンプの気筒数分毎の燃料の仮ポンプ圧送量を算出して仮圧送量データを作成する(データ作成手段)。
【0082】
このデータ作成手段では、プランジャポンプの1サイクル分に相当する算出期間(T:270°CA)毎に燃料の仮ポンプ圧送量を算出して複数の仮圧送量データが作成される。また、プランジャポンプの2サイクル分に相当する期間(T×2)で、且つサンプリング周期(t)分ずれた期間(T×2)毎に、検出期間が重複せず、仮ポンプ圧送量の算出期間(T)が隣接する仮圧送量データ(QPα、QPβ)の組み合わせが作成される。
すなわち、(0°CA〜270°CA)vs(270°CA〜540°CA)・・・(240°CA前〜510°CA前)vs(510°CA前〜780°CA前)の9個の組み合わせが作成される。
【0083】
次に、この作成した複数の仮圧送量データおよび仮圧送量データの組み合わせは、ECU7の記憶部を構成するEEPROMに予め記憶されたデータテーブル(
図3参照)に格納(記憶)される(データ記憶手段)。
次に、仮圧送量データの組み合わせを全て比較する(データ比較手段)。
そして、このデータ比較手段の比較結果に基づいて、複数のプランジャポンプのうちの少なくとも1気筒のプランジャポンプが異常か否かを診断する(異常診断手段)。
【0084】
以上のようなポンプ故障診断方法を採用することにより、エンジンの各気筒毎への燃料噴射に対してサプライポンプ2の各プランジャポンプの燃料圧送が非同期のシステム、あるいはエンジンのクランクシャフトに対するポンプ組み付け位置(位相)が不定なシステムであっても、複数のプランジャポンプのうちの少なくとも1気筒のプランジャポンプの圧送不良等の異常の発生を正確に、しかも精度良く診断(特定)することができる。これにより、コモンレール5内の燃料圧力(コモンレール圧力)の低下を防止することができる。
すなわち、高圧燃料ポンプに設けられる複数のプランジャポンプの中から異常なプランジャポンプを容易に特定することができる。
【0085】
そして、サプライポンプ2の1つ以上のプランジャポンプに異常が発生していると判断した場合には、アクセル開度(ACCP)を所定値(例えば10%)以下に制限し、且つ目標噴射量(Q)を所定値(例えば15mm
3 /st)以下に制限することで、エンジン回転数(NE)および目標コモンレール圧力(PFIN)を所定値以下に制限することができる。これにより、サプライポンプ2の正常なプランジャポンプの過大な負担を軽減することができるので、正常なプランジャポンプの摺動部(プランジャとカムとの間に介在するタペット等)の摩耗や焼き付きを防止することができる。
【0086】
[変形例]
本実施例では、本発明を、1つの電磁弁(SCV)11で2気筒のプランジャポンプへの吸入燃料量を開口面積を調整することで調量するタイプのサプライポンプ2における1気筒のプランジャポンプに、圧送不良等の異常が発生しているか否かを診断する故障診断装置を備えた燃料供給システムに適用した例を説明したが、本発明を、複数のプランジャポンプ毎に1つずつ電磁弁(PCV)を備えたサプライポンプにおける1気筒のプランジャポンプに、圧送不良または過剰圧送等の異常故障が発生しているか否かを診断する故障診断装置を備えた燃料供給システムに適用しても良い。
【0087】
ところで、1つの電磁弁(SCV)11で複数のプランジャポンプへの吸入燃料量を調量するサプライポンプの場合には、過剰圧送は、電磁弁11の開弁固着によって発生し、特定のプランジャポンプに発生するのではなく、全てのプランジャポンプで同時に発生するため、過剰圧送が発生している異常なプランジャポンプの特定は困難であるが、PCVを備えたサプライポンプの場合には、過剰圧送は、各PCVの開弁固着によって発生し、特定のプランジャポンプに発生するため、過剰圧送が発生している異常な圧送系統(プランジャポンプ)を特定することが可能となる。
なお、圧送不良に関しては、燃料吸入弁、燃料吐出弁を圧送系統(プランジャポンプ)毎に各々1個ずつ備えるため、圧送不良が発生している異常な圧送系統(プランジャポンプ)の特定が可能となる。
また、プランジャポンプの仮ポンプ圧送量が異常判定値以上の場合には、過剰圧送が発生している異常な圧送系統(プランジャポンプ)であると診断しても良い。
【0088】
本実施例では、本発明を、2気筒のプランジャポンプのうちの一方のプランジャポンプに、圧送不良等の異常が発生しているか否かを判断する燃料供給システムに適用した例を説明したが、本発明を、サプライポンプ2の3気筒以上の圧送系統のうちの少なくとも1気筒以上の圧送系統に、圧送不良または過剰圧送等の異常が発生しているか否かを判断する燃料供給システムに適用しても良い。
なお、3気筒以上の圧送系統を有する燃料供給ポンプの場合においても、他の圧送系統全てとの間で乖離大を検出したら異常と判断することができる。
【0089】
本実施例では、複数の圧送系統を、エンジンのクランクシャフトの回転に同期して往復駆動される2気筒のプランジャポンプにより構成しているが、複数の圧送系統を、エンジンのクランクシャフトの回転に同期して回転駆動される複数(2つ以上)のトロコイドポンプ、外歯歯車ポンプまたは内歯歯車ポンプにより構成しても良い。
本実施例では、本発明を、フィードポンプを内蔵したサプライポンプ2を備えた燃料供給システムに適用しているが、本発明を、別体のフィードポンプから燃料が供給されるサプライポンプを備えた燃料供給システムに適用しても良い。
この場合、フィードポンプを例えば燃料タンク内に設置されるインタンク式の電動ポンプによって構成しても良い。
【0090】
また、本発明を、蓄圧式燃料噴射装置用のサプライポンプ2ではなく、コモンレールを持たない燃料噴射システム用の分配型燃料噴射ポンプに適用しても良い。
また、本発明を、内燃機関の出力軸に対するポンプ組み付け位置(位相)が決まっているシステムでも使用可能である。
また、ポンプ組み付け位置が決まっているシステムで、組み付けミスが発生した場合においても問題なく異常を検出できる。