(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、エンジンの動力を第1モータ・ジェネレータと出力部とに分割し、第2モータ・ジェネレータがギアを介して出力部に連結されたハイブリッド車両が周知である。このタイプのハイブリッド車両は、第2モータ・ジェネレータのトルクが0Nm付近となる場合、出力部と第2モータ・ジェネレータとの間に介在するギアの出力部に対する押し付けが緩くなる。その結果、エンジンのトルク変動が出力部に伝達することによって出力部とギアとがバックラッシ間で互いに衝突して歯打ち音が発生する。
【0006】
このようなタイプのハイブリッド車両に搭載するエンジンを上述したようなリーン燃焼が可能なエンジンとした場合には、リッチスパイク運転に伴うトルク変動を特許文献1の制御によって低減しても完全に解消することはできない。したがって、第2モータ・ジェネレータのトルクの大きさが小さい領域では、リッチスパイク運転に伴って歯打ち音が発生するおそれがある。
【0007】
そこで、本発明は、リッチスパイク運転に伴う歯打ち音の発生を抑制できるハイブリッド車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の制御装置は、排気中の窒素酸化物を吸蔵し還元する排気浄化触媒が設けられ、空燃比を変更可能なエンジンと、第1モータ・ジェネレータと、駆動輪にトルクを伝達するための出力部と、前記エンジンのトルクを前記第1モータ・ジェネレータと前記出力部とに分配する差動機構と、前記出力部にギアを介して連結された第2モータ・ジェネレータと、を有するハイブリッド車両に適用され、所定の実行条件が成立した場合に前記エンジンの空燃比を一時的にリッチ側に変化させることにより前記排気浄化触媒の排気浄化機能を回復させるリッチスパイク運転を前記エンジンに実行させるハイブリッド車両の制御装置であって、前記実行条件が成立するための成立要件の一つとして、前記第2モータ・ジェネレータのモータトルクの大きさが
0Nmを含むリッチスパイク禁止範囲から外れていることが設定され、かつ、前記成立要件の他の一つとして、前記排気浄化触媒の窒素酸化物濃度が、排気エミッションの制限を遵守できる限界である許容上限値よりも小さい値である閾値を超えることが設定されており、前記第2モータ・ジェネレータのモータトルクの大きさが
前記リッチスパイク禁止範囲内にある場合に前記リッチスパイク運転の実行が制限され、前記第2モータ・ジェネレータのモータトルクの大きさが大きい場合は小さい場合よりも前記リッチスパイク運転が実行され易くなるように前記実行条件が設定されているものである(請求項1)。
【0009】
この制御装置によれば、リッチスパイク運転を実施する実行条件の成立要件の一つとして第2モータ・ジェネレータのトルクの大きさが含まれているため、歯打ち音の発生し易い条件下でリッチスパイク運転が実施されることを抑制できる。これにより、リッチスパイク運転に伴う歯打ち音の発生を抑制できる。また、第2モータ・ジェネレータのトルクの大きさが大きい場合は小さい場合に比べて歯打ち音が発生しにくい。したがって、第2モータ・ジェネレータのトルクの大きさが大きい場合は小さい場合に比べてリッチスパイク運転が実行され易くなるように実行条件が設定されることにより、歯打ち音が発生しにくい条件下では積極的にリッチスパイク運転を実施できる。その結果、リーン燃焼の実施期間を拡大できる。
【0010】
本発明の制御装置の一態様は
、前記第2モータ・ジェネレータのモータトルクの大きさが前記リッチスパイク禁止範囲内で、かつ前記排気浄化触媒の窒素酸化物濃度が
前記閾値を超えている場合に、前記第2モータ・ジェネレータのモータトルクの大きさが前記リッチスパイク禁止範囲から外れるように前記エンジンの動作点を変化させてもよい(請求項2)。この態様によれば、第2モータ・ジェネレータのモータトルクの大きさがリッチスパイク禁止範囲から外れることを成り行きで待つのではなく、エンジンの動作点を変更することによってこれを積極的に実現する。したがって、リッチスパイク運転を実施できる状況を速やかに形成できる。
【0011】
この態様においては、前記ハイブリッド車両は、前記第2モータ・ジェネレータに電気的に接続されたバッテリを更に有し、前記エンジン制御手段は、前記バッテリの蓄電率及び前記第2モータ・ジェネレータのモータトルクの正負に応じて前記エンジンの動作点の変更方法を切り替えてもよい(請求項3)。この場合には、バッテリの蓄電率及びモータトルクの正負に応じてエンジンの動作点の変更方法を切り替えるため、エンジンの動作点の変更に伴ってバッテリの蓄電率に過不足が生じることを抑制できる。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように、本発明によれば、リッチスパイク運転を実施する実行条件の成立要件として第2モータ・ジェネレータのトルクの大きさが含まれているため、歯打ち音の発生し易い条件下でリッチスパイク運転が実施されることを抑制できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(第1の形態)
図1に示すように、車両1は複数の動力源を組み合わせたハイブリッド車両として構成されている。車両1は、エンジン3と、2つのモータ・ジェネレータ4、5とを走行用の動力源として備えている。エンジン3は4つの気筒10を備えた直列4気筒型の内燃機関として構成されている。エンジン3は空燃比を変更可能で、目標空燃比を理論空燃比よりもリーン側に設定するリーン燃焼が可能なリーンバーンエンジンとして構成されている。エンジン3から排出された排気は排気通路11に導かれ、その排気中の窒素酸化物(NOx)等の有害物質は排気浄化触媒12にて浄化される。排気浄化触媒12は排気中のNOxを吸蔵し還元する周知のNOx吸蔵還元型の触媒として構成されている。
【0015】
エンジン3と第1モータ・ジェネレータ4とは差動機構としての動力分割機構6に連結されている。第1モータ・ジェネレータ4はステータ4aとロータ4bとを有する。第1モータ・ジェネレータ4は動力分割機構6にて分配されたエンジン3の動力を受けて発電する発電機として機能するとともに、交流電力にて駆動される電動機としても機能する。同様に、第2モータ・ジェネレータ5はステータ5aとロータ5bとを有し、電動機及び発電機としてそれぞれ機能する。各モータ・ジェネレータ4、5はモータ用制御装置15を介してバッテリ16に接続される。モータ用制御装置15は各モータ・ジェネレータ4、5が発電した電力を直流変換してバッテリ16に蓄電するとともにバッテリ16の電力を交流変換して各モータ・ジェネレータ4、5に供給する。
【0016】
動力分割機構6はシングルピニオン型の遊星歯車機構として構成されている。動力分割機構6は、外歯歯車のサンギアSと、サンギアSと同軸に配置された内歯歯車のリングギアRと、これらのギアS、Rに噛み合うピニオンPを自転及び公転可能に保持するプラネタリキャリアCとを有している。エンジン3が出力するエンジントルクは動力分割機構6のプラネタリキャリアCに伝達される。第1モータ・ジェネレータ4のロータ4bは動力分割機構6のサンギアSに連結されている。動力分割機構6からリングギアRを介して出力されたトルクは出力ギア列20に伝達される。出力ギア列20は駆動輪18にトルクを伝達するための出力部として機能する。出力ギア列20は動力分割機構6のリングギアRと一体回転する出力ドライブギア21と、出力ドライブギア21に噛み合う出力ドリブンギア22とを含む。出力ドリブンギア22には、第2モータ・ジェネレータ5がギア23を介して連結されている。すなわち、第2モータ・ジェネレータ5はギア23を介して出力部としての出力ギア列20に連結されている。ギア23は第2モータ・ジェネレータ5のロータ5bと一体回転する。出力ドリブンギア22から出力されたトルクは差動装置24を介して左右の駆動輪18に分配される。
【0017】
動力分割機構6には、ロック手段としてのモータロック機構25が設けられている。モータロック機構25は、動力分割機構6の状態を、エンジン3のトルクを第1モータ・ジェネレータ4と出力ギア列20とに分配する差動状態と、その分配を停止する非差動状態との間で切り替えることができる。モータロック機構25は湿式多板タイプのブレーキ機構として構成されている。モータロック機構25は第1モータ・ジェネレータ4のロータ4bの回転を阻止する係合状態と、ロータ4bの回転を許容する解放状態との間で切り替えられる。モータロック機構25の係合状態と解放状態との切り替えは不図示の油圧アクチュエータにて実施される。モータロック機構25が係合状態に操作されると第1モータ・ジェネレータ4のロータ4bの回転が阻止される。これにより、動力分割機構6のサンギアSの回転も阻止される。このため、エンジン2のトルクが第1モータ・ジェネレータ4へ分配されることが停止されて動力分割機構6が非差動状態となる。
【0018】
車両1の各部の制御はコンピュータとして構成された電子制御装置(ECU)30にて制御される。ECU30はエンジン3、各モータ・ジェネレータ4、5及びモータロック機構25等に対して各種の制御を行う。以下、本発明に関連してECU30が行う主要な制御について説明する。ECU30には、車両1の各種情報が入力される。例えば、ECU30には、各モータ・ジェネレータ4、5の回転数及びトルクがモータ用制御装置15を介して入力される。また、ECU30には、アクセルペダル31の踏み込み量に対応する信号を出力するアクセル開度センサ32の出力信号と、車両1の車速に応じた信号を出力する車速センサ33の出力信号と、バッテリ16の蓄電率に対応する信号を出力するSOCセンサ34の出力信号と、排気浄化触媒12の温度に対応する信号を出力する温度センサ35の出力信号とがそれぞれ入力される。
【0019】
ECU30は、アクセル開度センサ32の出力信号と車速センサ33の出力信号とを参照して運転者が要求する要求駆動力を計算し、その要求駆動力に対するシステム効率が最適となるように各種のモードを切り替えながら車両1を制御する。例えば、エンジン3の熱効率が低下する低負荷領域ではエンジン3の燃焼を停止して第2モータ・ジェネレータ5を駆動するEVモードが選択される。また、エンジン3だけではトルクが不足する場合は、エンジン3とともに第2モータ・ジェネレータ5を走行用駆動源とするハイブリッドモードが選択される。
【0020】
ハイブリッドモードが選択された場合、要求駆動力はエンジン3のエンジントルクと、第2モータ・ジェネレータ5のモータトルクとの合算により出力される。すなわち、エンジントルクをTe、モータトルクをTmとした場合、要求駆動力Tdは、Td=Te+Tmで定義される。
図2に示すように、エンジン3は、エンジン回転数とエンジントルクとで定義された動作点があらかじめ設定された通常ラインL上を移動するようにECU30にて制御される。通常ラインLはエンジン3の燃費が最適となり、かつ騒音が低減できるようにあらかじめシミュレーションや実機を用いた試験によって定められている。要求駆動力の大部分がエンジントルクで賄われる場合、モータトルクは0Nm付近の小さな値となる。このような場合は、第2モータ・ジェネレータ5に連結されたギア23と出力ドリブンギア22との互いの押し付け力が弱くなる。そのため、内燃機関3のエンジン回転数の変動やエンジントルクの変動が出力ドリブンギア22に伝達される結果、バックラッシ間でギア23と出力ドリブンギア22とが互いに衝突して歯打ち音等の騒音が動力伝達機構で発生する。
【0021】
上述したように、エンジン3はリーン燃焼が可能なエンジンであるが、リーン燃焼中には排気浄化触媒12にNOxが徐々に吸蔵され、その吸蔵量が限界に達すると排気浄化能力が失われる。そこで、排気浄化触媒12に吸蔵されたNOxを還元してNOxの吸蔵量を減らして排気浄化能力を回復させるためリッチスパイク運転がECU30にて実施される。リッチスパイク運転は空燃比を一時的にリッチ側に変化させる周知の制御である。リッチスパイク運転は空燃比がリッチに変化する過程で燃料の増量を伴うため、エンジン3のトルク変動が発生する。このようなトルク変動が、第2モータ・ジェネレータ5のモータトルクが0Nm付近の小さな値の時に発生すると歯打ち音が発生する。
【0022】
そこで、本形態ではリッチスパイク運転を原因とした歯打ち音の発生を回避するため、ECU30は第2モータ・ジェネレータ5のモータトルクが0Nm付近の小さな値の時にリッチスパイク運転の実施を制限する。すなわち、ECU30は第2モータ・ジェネレータ5のモータトルクが0Nm付近の小さな値の時には、リッチスパイク運転の実行条件が成立していないものと判断する。換言すれば、その実行条件の成立要件の一つとして、第2モータ・ジェネレータ5のモータトルクの大きさが含まれ、そのモータトルクの大きさが0Nm付近の小さな値であるリッチスパイク禁止範囲内にある場合は、リッチスパイク運転の実施を制限する。
【0023】
図3に示すように、エンジン3がリーン燃焼を実施すると、排気浄化触媒12が排気中のNOxの吸蔵を続けるため、排気浄化触媒12のNOx濃度、すなわち吸蔵限界に対するNOx吸蔵量の割合が徐々に増加する。時刻t1においてNOx濃度が閾値Thを超え、かつ第2モータ・ジェネレータ5のモータトルクの大きさがリッチスパイク禁止範囲ARから外れているためリッチスパイク運転が実施される。つまり、本形態は、(1)NOx濃度が閾値Thを超えること、(2)第2モータ・ジェネレータ5のモータトルクの大きさがリッチスパイク禁止範囲ARから外れることがリッチスパイク運転の実行条件の成立要件として設定されている。この閾値Tthは、リッチスパイク運転で通常使用されるNOx濃度の許容上限値Umよりも小さい値である。したがって、本形態は、通常よりも低いNOx濃度でリッチスパイク運転が実施されるため、後述するように、モータトルクがリッチスパイク禁止範囲AR内にあることによってリッチスパイク運転の実施が制限された場合でもNOx濃度が許容上限値Umに到達するまでの余裕が生まれる。時刻t1でリッチスパイク運転が実施されると、NOx濃度が瞬間的に低下してから再び上昇に転じる。
【0024】
時刻t2から時刻t4までの期間は、第2モータ・ジェネレータ5のモータトルクの大きさがリッチスパイク禁止範囲AR内にあるため、リッチスパイク運転の実施が制限される。したがって、時刻t3でNOx濃度が閾値Thに達してもリッチスパイク運転は実施されない。仮に、時刻t3でリッチスパイク運転が実施されると、エンジン3のトルク変動によって破線で示すようにギア22、23間で歯打ち音が発生する。
【0025】
その後、時刻t4でモータトルクの大きさがリッチスパイク禁止範囲ARから外れることにより、上述した成立要件(1)及び(2)の両者が成立し、リッチスパイク運転の実行条件が成立するため、リッチスパイク運転が実施される。その後、同様に時刻t5においてもリッチスパイク運転が実施される。
【0026】
このように、第2モータ・ジェネレータ5のモータトルクの大きさがリッチスパイク禁止範囲AR内にある場合にリッチスパイク運転の実施が制限されるため、歯打ち音の発生を抑制できる。リッチスパイク禁止範囲ARは適宜に定めてよい。したがって、第2モータ・ジェネレータのトルクの大きさが大きい場合は小さい場合に比べてリッチスパイク運転が実行され易くなるように実行条件が設定されているといえる。
【0027】
以上の制御はECU30が
図4の制御ルーチンを実行することによって実現できる。
図4の制御ルーチンのプログラムはECU30に保持されており適時に読み出されて所定間隔で繰り返し実行される。ステップS1において、ECU30は排気浄化触媒12の温度を温度センサ35の信号に基づいて取得する。ステップS2において、ECU30は排気浄化触媒12のNOx濃度を推定する。この推定は周知ないし公知の方法で実現可能である。例えば、ECU30はリッチスパイク運転の実施後リーン燃焼を実施した期間内の排気の総流量を計算し、その総流量とステップS1で取得した排気浄化触媒12の温度とに基づいてNOx濃度を推定する。
【0028】
ステップS3において、ECU30はNOx濃度が閾値Thを超えているか否かを判定する。NOx濃度が閾値Thを超えている場合はステップS4に進み、NOx濃度が閾値Thを超えていない場合は以後の処理をスキップして今回のルーチンを終了する。ステップS4において、ECU30は第2モータ・ジェネレータ5のモータトルクをモータ用制御装置15から取得する。ステップS5において、ECU30は第2モータ・ジェネレータ5のモータトルクの大きさがリッチスパイク禁止範囲ARから外れているか否かを判定する。モータトルクの大きさとはモータトルクの絶対値のことである。モータトルクの大きさがリッチスパイク禁止範囲ARから外れている場合はステップ6に進み、そうでない場合は以後の処理をスキップして今回のルーチンを終了する。ステップS6において、ECU30は、エンジン3の空燃比を一時的にリッチ側に制御することによりリッチスパイク運転を実施する。
【0029】
図4の制御をECU30が行うことにより、上述した成立要件の(1)及び(2)のそれぞれが成立した場合に限ってリッチスパイク運転が実施されることとなる。
【0030】
(第2の形態)
次に、
図5〜
図8を参照しながら、本発明の第2の形態を説明する。第2の形態は、NOx濃度が閾値Thを超えているが、第2モータ・ジェネレータ5のモータトルクの大きさがリッチスパイク禁止範囲AR内にある場合に実施する制御内容に特徴がある。その他の事項は第1の形態と共通であるから説明を省略する。
【0031】
第1の形態では、上記の場合には第2モータ・ジェネレータ5のモータトルクがリッチスパイク禁止範囲ARから外れるまで成り行きでリッチスパイク運転の実施をディレイするものである。しかしながら、車両1の運転条件によっては第2モータ・ジェネレータ5のモータトルクの大きさがリッチスパイク禁止範囲ARから外れずに、NOx濃度が許容上限値Umに達してしまい、排気エミッションの制限を遵守するためにリッチスパイク運転を実施せざるを得ない状況になるおそれがある。このような状況下でリッチスパイク運転を実施すると歯打ち音の発生を抑えることができない。
【0032】
そこで、第2の形態では、NOx濃度が閾値Thを超えているが、第2モータ・ジェネレータ5のモータトルクの大きさがリッチスパイク禁止範囲AR内にある場合に、ECU30はモータトルクの大きさがリッチスパイク禁止範囲から外れるようにエンジン3の動作点を変更する制御を実施する。
【0033】
図5は第2の形態に係る制御ルーチンの一例を示したフローチャートであるが、
図5の制御ルーチンは、第1の形態に係る
図4の制御ルーチンにステップS21を追加したものに相当する。
図5のステップS1〜ステップS6は第1の形態の制御ルーチンの処理と同じであるので説明を省略する。
【0034】
ステップS5で否定的判定がなされた場合、つまり、NOx濃度が閾値Thを超えているが、第2モータ・ジェネレータ5のモータトルクの大きさがリッチスパイク禁止範囲AR内にある場合、ECU30はステップS21においてエンジン3の動作点を変更する。これにより、ECU30は本発明に係るエンジン制御手段として機能する。
【0035】
この動作点の変更は
図6A〜
図6Cに示した方法A、方法B及び方法Cのいずれかを、バッテリ16の蓄電率及び第2モータ・ジェネレータ5のモータトルクの正負に応じて切り替えることにより実施する。なお、モータトルクが負の場合とは、出力側から第2モータ・ジェネレータ5にトルクが伝達される場合を意味する。
【0036】
図6Aに示すように、方法Aは上述した通常ラインL上でエンジン3の動作点を変更するものである。すなわち、方法Aは、エンジン3の動作点を点aから通常ラインLに沿って低トルク低回転側の点b1に又は高トルク高回転側の点b2に移動させる。エンジン3の動作点の移動により生じる要求駆動力との差分が第2モータ・ジェネレータ5のモータトルクで補償されるため、モータトルクをリッチスパイク禁止範囲AR外とすることができる。第2モータ・ジェネレータ5のモータトルクが0を跨ぐことを避けるため、点b1又は点b2のいずれに移動させるかは、移動前の点aにおけるモータトルクの正負に基づいて選択される。つまり、点aにおいてモータトルクが0以上の場合(正の場合)は動作点を点b1に、点aにおいてモータトルクが0未満の場合(負の場合)は動作点を点b2にそれぞれ移動させる。
【0037】
方法Aは、エンジン3の燃費が考慮されて設定された通常ラインLに沿って動作点を移動させるものであるから、燃費悪化を抑制しながら第2モータ・ジェネレータ5のモータトルクをリッチスパイク禁止範囲AR外にすることができる。しかし、エンジン回転数の変動を伴うためユーザに違和感を与えるおそれがある。また、減少又は増加したエンジン3の直達トルクを第2モータ・ジェネレータ5でキャンセルするためバッテリ16の蓄電率の変化を伴う。
【0038】
図6Bに示すように、方法Bはエンジン回転数を一定としつつエンジントルクだけを変化させてエンジン3の動作点を変更するものである。すなわち、方法Bは、エンジン3の動作点を点aから等回転数ラインLrに沿って低トルク側の点b1に又は高トルク側の点b2に移動させる。エンジン3の動作点の移動により生じる要求駆動力との差分が第2モータ・ジェネレータ5のモータトルクで補償されるため、モータトルクをリッチスパイク禁止範囲AR外とすることができる。方法Bも方法Aと同様に、第2モータ・ジェネレータ5のモータトルクが0を跨ぐことを避けるため、点b1又は点b2のいずれに移動させるかは、移動前の点aにおけるモータトルクの正負に基づいて選択される。つまり、点aにおいてモータトルクが0以上の場合(正の場合)は動作点を点b1に、点aにおいてモータトルクが0未満の場合(負の場合)は動作点を点b2にそれぞれ移動させる。
【0039】
方法Bは、エンジン回転数の変動を伴わないためユーザに違和感を与えずに、第2モータ・ジェネレータ5のモータトルクをリッチスパイク禁止範囲AR外にすることができる。しかし、エンジン3の動作点が通常ラインLから外れるため燃費が悪化する。また、減少又は増加したエンジン3の直達トルクを第2モータ・ジェネレータ5でキャンセルするためバッテリ16の蓄電率の変化を伴う。
【0040】
図6Cに示すように、方法Cは上述した等パワーライン上でエンジン3の動作点を変更するものである。すなわち、方法Cは、エンジン3の動作点を点aから等パワーラインLpに沿って低トルク高回転側の点b1に又は高トルク低回転側の点b2に移動させる。エンジン3の動作点の移動により生じる要求駆動力との差分が第2モータ・ジェネレータ5のモータトルクで補償されるため、モータトルクをリッチスパイク禁止範囲AR外とすることができる。方法Cも方法A及び方法Bと同様に、第2モータ・ジェネレータ5のモータトルクが0を跨ぐことを避けるため、点b1又は点b2のいずれに移動させるかは、移動前の点aにおけるモータトルクの正負に基づいて選択される。つまり、点aにおいてモータトルクが0以上の場合(正の場合)は動作点を点b1に、点aにおいてモータトルクが0未満の場合(負の場合)は動作点を点b2にそれぞれ移動させる。
【0041】
方法Cは、バッテリ16の蓄電率の変化を伴わずに第2モータ・ジェネレータ5のモータトルクをリッチスパイク禁止範囲AR外にすることができる。しかし、エンジン回転数の変動を伴うためユーザに違和感を与えるおそれがある。また、エンジン3の動作点が通常ラインLから外れるため燃費が悪化する。
【0042】
以上説明したように、方法A〜方法Cはそれぞれ一長一短がある。そのため、本形態ではバッテリ16の蓄電率及び第2モータ・ジェネレータ5のモータトルクの正負の観点からこれらの方法を切り替えてバッテリ16の蓄電率の過不足を抑制している。さらに、これらの切り替えの形態を、燃費を重視する場合と、ドライバビリティを重視する場合つまりユーザに違和感を起こさせたくない場合との間で相違させている。方法A〜方法Cの切り替え態様は
図7及び
図8に示した通りである。これらの図に示したように、バッテリの蓄電率を上限近く、通常、及び下限近くの3つの範囲に分け、各範囲についてモータトルクが正の場合と負の場合とのそれぞれに選択すべき方法が割り当てられている。
図7は燃費重視の場合に、
図8はドライバビリティ重視の場合にそれぞれ選択される。
【0043】
ECU30は
図7及び
図8に示したようなデータ構造を持つテーブルを有している。アクセル開度が大きいほどユーザが違和感を覚えにくいため、例えば、ECU30はアクセル開度が閾値よりも大きい場合は
図7に対応するテーブルを、アクセル開度が閾値よりも小さい場合は
図8に対応するテーブルをそれぞれ使用し、
図5のステップS21を実施する際にバッテリ16の蓄電率及びモータトルクの正負に適合する方法を選択して、その方法によってエンジン3の動作点を変更する。
【0044】
本発明は上記形態に限定されず、本発明の要旨の範囲内において種々の形態にて実施できる。上記形態では、第2モータ・ジェネレータのモータトルクが0Nmを含むリッチスパイク禁止範囲から外れることが成立要件の一つとして設定されることにより、モータトルクの大きさが大きい場合は小さい場合に比べてリッチスパイク運転が実行され易くなるように実行条件が設定されているが、これは実行条件の一例にすぎない。例えば、モータトルクの大きさが大きい場合は小さい場合に比べてNOx濃度の閾値を
低くすることによって、モータトルクの大きさが大きい場合は小さい場合に比べてリッチスパイク運転が実行され易くなるように実行条件が設定されてもよい。