特許第5825781号(P5825781)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5825781反射防止膜形成方法及び反射防止膜形成装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5825781
(24)【登録日】2015年10月23日
(45)【発行日】2015年12月2日
(54)【発明の名称】反射防止膜形成方法及び反射防止膜形成装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 1/113 20150101AFI20151112BHJP
   C23C 14/10 20060101ALI20151112BHJP
   C23C 14/58 20060101ALI20151112BHJP
【FI】
   G02B1/113
   C23C14/10
   C23C14/58 C
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2010-281489(P2010-281489)
(22)【出願日】2010年12月17日
(65)【公開番号】特開2012-128321(P2012-128321A)
(43)【公開日】2012年7月5日
【審査請求日】2013年12月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082337
【弁理士】
【氏名又は名称】近島 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141508
【弁理士】
【氏名又は名称】大田 隆史
(72)【発明者】
【氏名】村上 泰夫
【審査官】 川口 聖司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−355068(JP,A)
【文献】 特開2010−201799(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/155208(WO,A2)
【文献】 特開平11−256327(JP,A)
【文献】 特開2002−256429(JP,A)
【文献】 特開2009−299156(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 1/11
C23C 14/10
C23C 14/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属ターゲットから放出されたスパッタ粒子を、光学素子の凹面に蒸着させて金属膜を形成するスパッタ処理工程と、
前記スパッタ処理工程にて形成された金属膜にイオンビームを照射して、前記金属膜から放出されたスパッタ粒子を再度、前記光学素子の凹面に蒸着させて前記凹面の金属膜の膜厚差を小さくする再スパッタ処理工程と、
前記再スパッタ処理工程にて形成された金属膜に、酸素ラジカルビームを照射して酸化処理を行う酸化処理工程と、
を繰り返し行うことにより金属酸化膜を形成することを特徴とする反射防止膜形成方法。
【請求項2】
真空チャンバと、
前記真空チャンバの内部に配置され、凹面を有する光学素子を支持するホルダと、
前記真空チャンバの内部に配置された金属ターゲットを有し、前記金属ターゲットから放出されたスパッタ粒子を、前記光学素子の凹面に蒸着させて金属膜を形成するスパッタ装置と、
前記真空チャンバの内部に配置されたイオン源を有し、前記イオン源からイオンビームを引き出して前記スパッタ装置により形成された金属膜に照射し、前記金属膜から放出されたスパッタ粒子を再度、前記光学素子の凹面に蒸着させて前記凹面の金属膜の膜厚差を小さくする再スパッタ装置と、
前記真空チャンバの内部に配置された酸素ラジカル源を有し、前記酸素ラジカル源から酸素ラジカルビームを引き出して前記再スパッタ装置により形成された金属膜に照射する酸化処理装置と、を備え、
前記スパッタ装置、前記再スパッタ装置及び前記酸化処理装置は、同一の前記真空チャンバの内部に配置されており、前記ホルダは、前記光学素子が前記金属ターゲット、前記イオン源及び前記酸素ラジカル源に選択的に対向するように移動可能に、前記同一の真空チャンバの内部に設けられていることを特徴とする反射防止膜形成装置。
【請求項3】
前記ホルダは、前記光学素子を直線移動可能に支持し、
前記金属ターゲット、前記イオン源及び前記酸素ラジカル源は、前記光学素子の移動方向と平行な直線上に間隔をあけて配置されていることを特徴とする請求項2に記載の反射防止膜形成装置。
【請求項4】
前記ホルダは、前記光学素子を回転移動可能に支持し、
前記金属ターゲット、前記イオン源及び前記酸素ラジカル源は、前記ホルダにより回転移動する前記光学素子に対向するように、前記ホルダの回転軸を中心とする円周上に間隔をあけて配置されていることを特徴とする請求項2に記載の反射防止膜形成装置。
【請求項5】
凹面を有する光学素子の前記凹面の周縁部を支持部材で遮蔽しながら支持して前記凹面に反射防止膜を形成する反射防止膜形成方法であって、
金属ターゲットから放出されたスパッタ粒子を、前記光学素子の凹面に蒸着させて金属膜を形成するスパッタ処理工程と、
前記スパッタ処理工程にて形成された金属膜にイオンビームを照射して、前記金属膜から放出されたスパッタ粒子を再度、前記光学素子の凹面に蒸着させて前記凹面の金属膜の膜厚差を小さくする再スパッタ処理工程と、
前記再スパッタ処理工程にて形成された金属膜に、酸素ラジカルビームを照射して酸化処理を行う酸化処理工程と、
を繰り返し行うことにより金属酸化膜を形成することを特徴とする反射防止膜形成方法。
【請求項6】
真空チャンバと、
前記真空チャンバの内部に配置され、凹面を有する光学素子の前記凹面の周縁部を支持部材で遮蔽しながら支持するホルダと、
前記真空チャンバの内部に配置された金属ターゲットを有し、前記金属ターゲットから放出されたスパッタ粒子を、前記光学素子の凹面に蒸着させて金属膜を形成するスパッタ装置と、
前記真空チャンバの内部に配置されたイオン源を有し、前記イオン源からイオンビームを引き出して前記スパッタ装置により形成された金属膜に照射し、前記金属膜から放出されたスパッタ粒子を再度、前記光学素子の凹面に蒸着させて前記凹面の金属膜の膜厚差を小さくする再スパッタ装置と、
前記真空チャンバの内部に配置された酸素ラジカル源を有し、前記酸素ラジカル源から酸素ラジカルビームを引き出して前記再スパッタ装置により形成された金属膜に照射する酸化処理装置と、を備え、
前記スパッタ装置、前記再スパッタ装置及び前記酸化処理装置は、同一の前記真空チャンバの内部に配置されており、前記ホルダは、前記光学素子が前記金属ターゲット、前記イオン源及び前記酸素ラジカル源に選択的に対向するように移動可能に、前記同一の真空チャンバの内部に設けられていることを特徴とする反射防止膜形成装置。
【請求項7】
前記ホルダは、前記光学素子を回転移動可能に支持し、
前記金属ターゲット、前記イオン源及び前記酸素ラジカル源は、前記ホルダにより回転移動する前記光学素子に対向するように、前記ホルダの回転軸を中心とする円周上に間隔をあけて配置されていることを特徴とする請求項6に記載の反射防止膜形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カメラやビデオ等の光学機器に使用される光学素子に、反射防止膜を形成する反射防止膜形成方法及び反射防止膜形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光学素子の製造において、光反射を抑制し光学系全体の透過率を増加させたり、光学系の像のコントラストを向上させたりすることを目的として、光学素子の表面に金属酸化膜からなる反射防止膜を堆積させることが工業的に実用化されている。
【0003】
反射防止膜の形成方法として、真空蒸着法、スパッタ法等の物理気相成長法や化学気相成長法がある。近年、光学特性の仕様要求が高まっており、光学素子の表面に堆積させる反射防止膜の膜厚分布の均一性を向上させる要求が高くなっている。また、広角対応のために光学素子の曲率が小さくなる傾向にあり、光学素子の表面に堆積させる反射防止膜の膜厚分布を低下させる要因となっている。
【0004】
従来、光学素子に反射防止膜を構成する薄膜を形成する際に膜厚を均一にする方法として、堆積粒子と光学素子の位置を制御する方法が知られていた。また、光学素子に金属酸化膜を真空蒸着法やスパッタ法にて形成し、イオンビームを用いて所定の膜厚分布まで金属酸化膜をエッチングする方法も知られていた(特許文献1参照)。
【0005】
ここで、反射防止膜をスパッタ法で形成する場合は、金属酸化膜を光学素子に堆積させることが一般的である。そして、金属ターゲットをプロセス中に酸化させてスパッタする場合は、無酸素雰囲気下でスパッタする場合に比べて成膜速度が1/10程度も遅くなることが知られている。そこで、金属膜を光学素子に堆積させた後、酸素ラジカルビームを照射して酸化処理を行うプロセスが、近年工業化されてきた(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表平3−502211号公報
【特許文献2】特開平11−256327号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、広角化に対応した光学素子の凹面は曲率が小さくなっている。つまり、凹面の周縁部は、中央部に対して傾斜が大きくなっている。このような光学素子にスパッタ装置を用いて反射防止膜を形成する際に、凹面にスパッタ粒子が入射する方向からこの光学素子を見ると、光学素子の周縁部は入射角度が大きくなることを示している。つまり、凹面の周縁部における単位面積当たりのスパッタ粒子の入射量が中央部よりも減少するため、周縁部の膜厚が中央部の膜厚よりも小さくなる。
【0008】
図7に従来の成膜方法を示す。図7(a)には、光学素子52の凹面52aに、酸化雰囲気下で金属をスパッタ成膜することによって得られた金属酸化膜55が示されている。そして、図7(b)に示すように、エッチングガス58を用いて所定の膜厚にエッチングしている。
【0009】
しかし、図7に示した従来の成膜方法では、凹面52aの周縁部の膜厚が凹面52aの中央部の膜厚よりも小さくなる。したがって、光学素子52の凹面52aにおける膜厚差を小さくするために、周縁部の膜厚まで中央部の膜をエッチングする必要があり、非効率な作業となっている。また、凹面52aの周縁部における傾斜が大きくなるに従って、凹面52aの周縁部において所定の膜厚にすることが困難な作業となる。
【0010】
さらには、近年の光学素子に求められる膜仕様が厳しくなり、反射防止膜の形成領域が光学特性に必要な領域から拡大し、意匠性も求められるようになっている。つまり、製品に組み込まれた状態で、外観より目視できる領域まで膜仕様が規定されるようになってきた。このことは、光学素子の凹面における光学有効面以外の箇所にも薄膜を形成することが重要になっていることを示している。
【0011】
そこで、本発明は、効率的に反射防止膜を形成することができる反射防止膜形成方法及び反射防止膜形成装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の反射防止膜形成方法は、金属ターゲットから放出されたスパッタ粒子を、光学素子の凹面に蒸着させて金属膜を形成するスパッタ処理工程と、前記スパッタ処理工程にて形成された金属膜にイオンビームを照射して、前記金属膜から放出されたスパッタ粒子を再度、前記光学素子の凹面に蒸着させて前記凹面の金属膜の膜厚差を小さくする再スパッタ処理工程と、前記再スパッタ処理工程にて形成された金属膜に、酸素ラジカルビームを照射して酸化処理を行う酸化処理工程と、を繰り返し行うことにより金属酸化膜を形成することを特徴とする。
本発明の反射防止膜形成方法は、凹面を有する光学素子の前記凹面の周縁部を支持部材で遮蔽しながら支持して前記凹面に反射防止膜を形成する反射防止膜形成方法であって、金属ターゲットから放出されたスパッタ粒子を、前記光学素子の凹面に蒸着させて金属膜を形成するスパッタ処理工程と、前記スパッタ処理工程にて形成された金属膜にイオンビームを照射して、前記金属膜から放出されたスパッタ粒子を再度、前記光学素子の凹面に蒸着させて前記凹面の金属膜の膜厚差を小さくする再スパッタ処理工程と、前記再スパッタ処理工程にて形成された金属膜に、酸素ラジカルビームを照射して酸化処理を行う酸化処理工程と、を繰り返し行うことにより金属酸化膜を形成することを特徴とする。
【0013】
また、本発明の反射防止膜形成装置は、真空チャンバと、前記真空チャンバの内部に配置され、凹面を有する光学素子を支持するホルダと、前記真空チャンバの内部に配置された金属ターゲットを有し、前記金属ターゲットから放出されたスパッタ粒子を、前記光学素子の凹面に蒸着させて金属膜を形成するスパッタ装置と、前記真空チャンバの内部に配置されたイオン源を有し、前記イオン源からイオンビームを引き出して前記スパッタ装置により形成された金属膜に照射し、前記金属膜から放出されたスパッタ粒子を再度、前記光学素子の凹面に蒸着させて前記凹面の金属膜の膜厚差を小さくする再スパッタ装置と、前記真空チャンバの内部に配置された酸素ラジカル源を有し、前記酸素ラジカル源から酸素ラジカルビームを引き出して前記再スパッタ装置により形成された金属膜に照射する酸化処理装置と、を備え、前記スパッタ装置、前記再スパッタ装置及び前記酸化処理装置は、同一の前記真空チャンバの内部に配置されており、前記ホルダは、前記光学素子が前記金属ターゲット、前記イオン源及び前記酸素ラジカル源に選択的に対向するように移動可能に、前記同一の真空チャンバの内部に設けられていることを特徴とする。
また、本発明の反射防止膜形成装置は、真空チャンバと、前記真空チャンバの内部に配置され、凹面を有する光学素子の前記凹面の周縁部を支持部材で遮蔽しながら支持するホルダと、前記真空チャンバの内部に配置された金属ターゲットを有し、前記金属ターゲットから放出されたスパッタ粒子を、前記光学素子の凹面に蒸着させて金属膜を形成するスパッタ装置と、前記真空チャンバの内部に配置されたイオン源を有し、前記イオン源からイオンビームを引き出して前記スパッタ装置により形成された金属膜に照射し、前記金属膜から放出されたスパッタ粒子を再度、前記光学素子の凹面に蒸着させて前記凹面の金属膜の膜厚差を小さくする再スパッタ装置と、前記真空チャンバの内部に配置された酸素ラジカル源を有し、前記酸素ラジカル源から酸素ラジカルビームを引き出して前記再スパッタ装置により形成された金属膜に照射する酸化処理装置と、を備え、前記スパッタ装置、前記再スパッタ装置及び前記酸化処理装置は、同一の前記真空チャンバの内部に配置されており、前記ホルダは、前記光学素子が前記金属ターゲット、前記イオン源及び前記酸素ラジカル源に選択的に対向するように移動可能に、前記同一の真空チャンバの内部に設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、光学素子の凹面に形成された金属膜が、イオンビームにより再スパッタされる。このとき、光学素子の凹面の中央部から周縁部に向かうに連れてイオンビームの入射角度が大きくなるため、周縁部のイオンビームの単位面積当たりの照射量が少なくなる。つまり、主に凹面の中央部のイオンビームの単位面積当たりの照射量が多く、主に凹面の中央部に成膜された金属膜がスパッタされる。そして、凹面の中央部から放出されたスパッタ粒子が凹面の周縁部に蒸着され、光学素子の凹面に形成される金属膜の膜厚を均一にすることができる。そして、金属膜が酸化処理されて反射防止膜を構成する薄膜が形成されるので、金属酸化物を直接光学素子の凹面に堆積させる場合よりも成膜に要する時間を短縮させることができる。このように、短時間で効率的に均一な膜厚の反射防止膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の第1実施形態に係る反射防止膜形成装置の概略構成を示す説明図である。
図2】反射防止膜を構成する金属酸化膜を成膜するための各工程を示す説明図であり、(a)はスパッタ処理工程、(b)は再スパッタ処理工程、(c)は酸化処理工程を示している。
図3】光学素子の凹面の周縁部近傍にマスクが形成されている場合に、反射防止膜を構成する金属酸化膜を成膜するための各工程を示す説明図であり、(a)はスパッタ処理工程、(b)は再スパッタ処理工程、(c)は酸化処理工程を示している。
図4】本発明の第2実施形態に係る反射防止膜形成装置の概略構成を示す説明図であり、(a)は反射防止膜形成装置の正面図、(b)は(a)のA−A線に沿う断面図である。
図5】本発明の第3実施形態に係る反射防止膜形成装置の断面図である。
図6】本発明の実施例に係る反射防止膜形成装置にて反射防止膜を形成した際の反射防止膜の膜厚分布を、比較例及び従来例と比較した図である。
図7】従来例の反射防止膜を構成する金属酸化膜を形成する各工程を示す説明図であり、(a)は金属酸化膜をスパッタ法により形成する工程、(b)は金属酸化膜をエッチングする工程を示している。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0017】
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態に係る反射防止膜形成装置の概略構成を示す説明図である。図1に示す反射防止膜形成装置100は、真空チャンバ1と、ホルダとしての基板ホルダ3と、スパッタ源5を有するスパッタ装置4と、イオン源7を有する再スパッタ装置6と、酸素ラジカル源9を有する酸化処理装置8とを備えている。スパッタ成膜、イオン処理およびラジカル処理の圧力差が必要な場合は、図1のように圧力調整壁10にて仕切られていることが望ましい。
【0018】
スパッタ装置4のスパッタ源5は、金属ターゲット5aを有し、真空チャンバ1の内部に配置されている。この金属は例えばSiである。希ガスであるArガス等がスパッタ源5の近傍に供給され、放電によりArイオンが生成される。このArイオンが金属ターゲット5aに衝突することで、金属ターゲット5aからスパッタ粒子sが放出される。
【0019】
再スパッタ装置6のイオン源7は、真空チャンバ1の内部に配置され、希ガスであるArガス等をイオン化させ、Arイオンからなるイオンビームiをイオン源7の外部に引き出して放射する。酸化処理装置8の酸素ラジカル源9は、真空チャンバ1の内部に配置され、酸素ラジカルからなる酸素ラジカルビームrを酸素ラジカル源9の外部に引き出して放射する。
【0020】
基板ホルダ3は、複数の光学素子2を支持するように構成されており、支持している光学素子2の凹面がスパッタ源5の金属ターゲット5a、イオン源7及び酸素ラジカル源9に選択的に対向するように、真空チャンバ1の内部に移動可能に配置されている。なお、基板ホルダ3は、複数の光学素子2を支持するものとしたが、1つの光学素子2を支持するように構成されていてもよい。
【0021】
そして、スパッタ装置4は、基板ホルダ3が金属ターゲット5aに対向する位置に移動しているときに動作し、基板ホルダ3に支持されている光学素子2の凹面にスパッタ粒子sを放出し、光学素子2の凹面にSiからなる金属膜を成膜する。また、再スパッタ装置6は、基板ホルダ3がイオン源7に対向する位置に移動しているときに動作し、基板ホルダ3に支持されている光学素子2の凹面に成膜された金属膜にArイオンからなるイオンビームiを照射し、金属膜をスパッタする。また、酸化処理装置8は、基板ホルダ3が酸素ラジカル源9に対向する位置に移動しているときに動作し、基板ホルダ3に支持されている光学素子2の凹面に成膜された金属膜に酸素ラジカルビームrを照射し、金属膜を酸化させて金属酸化膜を形成する。つまり、基板ホルダ3は、光学素子2の凹面が金属ターゲット5a、イオン源7及び酸素ラジカル源9に択一的に対向するように、光学素子2を移動可能に支持している。
【0022】
本第1実施形態では、基板ホルダ3は水平方向に直線移動可能に真空チャンバ1の内部に設けられており、光学素子2は基板ホルダ3とともに移動する。例えば、基板ホルダ3は、不図示の直線レールに沿って移動するように、不図示のモータ等の駆動機構により駆動される。そして、金属ターゲット5a、イオン源7及び酸素ラジカル源9は、基板ホルダ3の移動方向と平行な直線上に間隔をあけて配置されている。このように、真空チャンバ1の内部に金属ターゲット5a、イオン源7及び酸素ラジカル源9を配置しているので、基板ホルダ3を移動させることで、光学素子2を金属ターゲット5a、イオン源7及び酸素ラジカル源9に順次対向するように移動させることができる。これにより、真空チャンバ1を開放することなく光学素子2を各装置4,6,8間で移動させることができるので、成膜が容易となる。
【0023】
次に、本第1実施形態の反射防止膜形成装置100を用いて反射防止膜を構成する金属酸化膜の形成処理手順について、図1及び図2を参照しながら説明する。
【0024】
まず、図1に示す真空チャンバ1を大気解放させた後に、基板ホルダ3に光学素子2を設置する。そして、基板ホルダ3を、真空チャンバ1内に配置したスパッタ源5の金属ターゲット5aに対向する位置に待機させる。あるいは、図示していないが、ロードロック(LL)室から基板ホルダ3を真空チャンバ1の内部に投入してもよい。
【0025】
次に、不図示の真空ポンプを用いて真空チャンバ1を1.0×10−3Pa以下程度まで真空引きを行い、希ガスのArなどをスパッタ源5の近傍に供給し、放電を生じさせる。スパッタ源5の金属ターゲット5aの表面に付着した汚染物を除去するためのプレスパッタが必要な場合には、金属ターゲット5aと基板ホルダ3の間にシャッターを設ける。この放電により、金属ターゲット5aからはスパッタ粒子sが放出され、図2(a)に示すように、対向する光学素子2の凹面2aにスパッタ粒子sが蒸着し、金属膜11が形成される(スパッタ処理工程)。
【0026】
このとき、図2(a)に示すように、光学素子2の凹面2aには、金属膜11が余弦則に従って、中央部が相対的に厚く、周縁部が相対的に薄く形成される。つまり、凹面2aの中央部から周縁部に向かって膜厚が薄くなるように金属膜11が形成される。
【0027】
次に、図1に示すイオン源7に対向する位置に基板ホルダ3を移動させ、スパッタ処理工程にて形成された金属膜11に、イオン源7から引き出したArイオンからなるイオンビームiを照射する。このイオンビームiは、光学素子2の凹面2a全体に照射される。そして、図2(b)に示すように、イオンビームiにより金属膜11からはスパッタ粒子saが放出され、スパッタ粒子saが再度、光学素子2の凹面2aに蒸着される(再スパッタ処理工程)。
【0028】
この再スパッタ処理工程では、凹面2aの中央部及び周縁部の膜厚が所定の分布になるまで、再スパッタ処理、つまり光学素子2に付着した金属膜11にイオンビームiの照射を行う。このとき、図2(b)に示すように、光学素子2の凹面2aの中央部から周縁部に向かうに連れてイオンビームiの入射角度が大きくなり、イオンビームの単位面積当たりの照射量が減少する。したがって、イオンビームiの照射量は、主に凹面2aの中央部が多くなり、凹面2aに成膜された金属膜11のうち、主に凹面2aの中央部に対応する部分がスパッタされる。そして、金属膜11からはスパッタ粒子saが放出され、スパッタ粒子saが凹面2aの周縁部に再付着する。この現象を再スパッタと呼ぶ。この再スパッタ処理により、光学素子2の凹面2aには、膜厚が均一となった金属膜11Aが形成される。
【0029】
次に、図1に示す酸素ラジカル源9に対向する位置に基板ホルダ3を移動させ、酸素ラジカル源9から酸素ラジカルビームrを引き出して、再スパッタ処理工程にて形成された金属膜11Aに酸素ラジカルビームrを照射する。これにより金属膜11Aに酸化処理を施し、図2(c)に示すように、金属酸化膜15を形成する(酸化処理工程)。本第1実施形態では、金属膜11AはSiで構成されているので、金属酸化膜15はSiOで構成されている。
【0030】
この一連のスパッタ処理工程、スパッタ再処理工程及び酸化処理工程のプロセスは、金属膜11Aが酸素ラジカルビームrにより酸化できる程度の膜厚の範囲(おおよそ数nm以下)で行い、金属酸化膜15が所定の膜厚になるまで繰り返す。一般的には反射防止膜は金属酸化膜による多層膜構成をとっており、各層に対しても、スパッタ処理工程、再スパッタ処理工程及び酸化処理工程の各プロセスを所定の膜厚になるまで繰り返す。
【0031】
以上、本第1実施形態によれば、再スパッタ処理工程において、再スパッタ装置6により、凹面2aの中央部から放出されたスパッタ粒子saが凹面2aの周縁部に蒸着される。これにより、光学素子2の凹面2aに形成される金属膜11Aの膜厚が均一となる。そして、酸化処理工程において、酸化処理装置8により、金属膜11Aが酸化処理されて反射防止膜を構成する金属酸化膜15の薄膜が形成されるので、金属酸化物を直接光学素子の凹面に堆積させる場合よりも成膜に要する時間を短縮させることができる。このように、短時間で効率的に均一な膜厚の反射防止膜を形成することができ、所望の光学特性を容易に得ることが可能となる。
【0032】
ここで、光学素子2の凹面2aの周縁部には、光学素子2の支持部材やマスク等で遮蔽され、スパッタ処理工程にて金属膜11が成膜されない場合がある。図3に、光学素子2の凹面2aの周縁部近傍にマスク26が形成されている場合の各工程を示している。
【0033】
図3(a)に、スパッタ処理工程にて金属膜21を形成時にマスク26の近傍である光学素子2の凹面2aの周縁部に金属膜が形成されない領域28が生じた場合を示している。この図3(a)に示すように金属膜が形成されない領域28があっても、図3(b)に示すように、イオンビームiによる再スパッタ効果により、再びスパッタされたスパッタ粒子saにより、凹面2aの周縁部にも金属膜が成膜される。その後に図3(c)のように、酸化処理工程にて酸化処理を行えば、マスク26により陰になり膜が形成されなかった領域も含めて金属酸化膜25の膜厚分布の向上が可能となる。このように、光学素子2の凹面2aの周縁部が遮蔽され、スパッタ処理工程において凹面2aの周縁部が未成膜状態となる場合でも、再スパッタ処理工程にて金属膜の未付着部分が発生するのを抑制することができる。
【0034】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態に係る反射防止膜形成装置について説明する。図4は、本発明の第2実施形態に係る反射防止膜形成装置の概略構成を示す説明図であり、図4(a)は反射防止膜形成装置の正面図、図4(b)は図4(a)のA−A線に沿う断面図である。
【0035】
本第2実施形態の反射防止膜形成装置100Aは、図4(a)に示すように、真空チャンバ31と、真空チャンバ31の内部に配置され、複数の光学素子2を支持する基板ホルダ33Aと、基板ホルダ33Aを支持する回転ホルダ33Bとを備えている。
【0036】
回転ホルダ33Bは、図4(b)に示すように、複数の基板ホルダ33Aを支持可能に構成されており、本第2実施形態では、2つの基板ホルダ33Aを支持可能に構成されている。
【0037】
回転ホルダ33Bは、円盤状に形成され、中心に回転軸32が固定されており、この回転軸32を中心に回転するように真空チャンバ31の内部に配置されている。そして、2つの基板ホルダ33Aは、回転軸32を中心に点対称配置されている。これら基板ホルダ33A及び回転ホルダ33Bにより、光学素子2を支持するホルダが構成されている。
【0038】
ここで、回転ホルダ33Bが回転することにより回転軸32を中心として基板ホルダ33Aが回転移動するので、光学素子2は回転軸32を中心として回転移動可能に基板ホルダ33Aを介して回転ホルダ33Bに支持されている。
【0039】
また、反射防止膜形成装置100Aは、図4(a)に示すように、複数のスパッタ源35A,35B,35Cを有するスパッタ装置34と、イオン源37を有する再スパッタ装置36と、酸素ラジカル源39を有する酸化処理装置38とを備えている。
【0040】
各スパッタ源35A,35B,35Cは、それぞれSi等の金属ターゲット35a,35b,35cを有し、真空チャンバ31の内部に配置されている。また、イオン源37及び酸素ラジカル源39も真空チャンバ31の内部に配置されている。
【0041】
そして、金属ターゲット35a,35b,35c、イオン源37及び酸素ラジカル源39は、回転移動する光学素子2に対向するように、回転ホルダ33Bの回転軸32を中心とする円周上に、間隔をあけて配置されている。
【0042】
金属膜を成膜するスパッタ源35A,35B,35Cは、光学素子2の反射防止膜として必要な種類の数だけ配置させることができる。本第2実施形態では、図4(a)に示すように、3種のスパッタ源を配置させている。スパッタ処理の圧力とイオン源37あるいは酸素ラジカル源39との処理圧力に差がある場合には、図4(a)に示すように、圧力調整壁40を配置する。
【0043】
以上の反射防止膜形成装置100Aを用いて反射防止膜を構成する金属酸化膜を形成する手順について説明する。ここで、反射防止膜の多層膜構成における各層の膜厚はそれぞれ数nmから数十nm程度必要なため、各層を形成するには、複数回処理を繰り返す必要がある。
【0044】
本第2実施形態では、まず、いずれかの金属ターゲット35a,35b,35cに光学素子2の凹面を対向させ、金属ターゲットから放出されたスパッタ粒子を、光学素子2の凹面に蒸着させて金属膜を形成する(スパッタ処理工程)。
【0045】
次に、回転ホルダ33Bを回転させ回転軸32を中心に光学素子2を回転移動させて、光学素子2をイオン源37に対向させ、イオン源37からArイオンからなるイオンビームを引き出して光学素子2の凹面に形成された金属膜に照射する。これにより、金属膜からはスパッタ粒子が放出され、再度、光学素子2の凹面に蒸着させる(再スパッタ処理工程)。
【0046】
次に、回転ホルダ33Bを回転させ回転軸32を中心に光学素子2を回転移動させて、光学素子2を酸素ラジカル源39に対向させ、酸素ラジカル源39から酸素ラジカルビームを引き出して光学素子2の凹面に形成された金属膜に照射する。これにより、金属酸化膜を形成する(酸化処理工程)。
【0047】
以上、本第2実施形態によれば、再スパッタ処理工程において、再スパッタ装置36により、光学素子2の凹面の中央部から放出されたスパッタ粒子が凹面の周縁部に蒸着される。これにより、光学素子2の凹面に形成される金属膜の膜厚が均一となる。そして、酸化処理工程において、酸化処理装置38により、金属膜が酸化処理されて反射防止膜を構成する金属酸化膜の薄膜が形成されるので、金属酸化物を直接光学素子の凹面に堆積させる場合よりも成膜に要する時間を短縮させることができる。このように、短時間で効率的に均一な膜厚の反射防止膜を形成することができ、所望の光学特性を容易に得ることが可能となる。
【0048】
また、光学素子2の凹面の周縁部が遮蔽され、スパッタ処理工程において凹面の周縁部が未成膜状態となる場合でも、再スパッタ処理工程にて金属膜の未付着部分が発生するのを抑制することができる。
【0049】
更に、本第2実施形態では、次の金属酸化膜を成膜する場合には、スパッタ処理工程、再スパッタ処理工程及び酸化処理工程を順次行えばよいが、これらの工程を繰り返し行う際に、光学素子2の移動を単に回転ホルダ33Bを順方向に回転させるだけでよい。つまり、光学素子2を酸素ラジカル源39から次のスパッタ源35A,35B,35Cに移動させる動作が効率的である。そして、スパッタ源35A,35B,35C、イオン源37及び酸素ラジカル源39を、回転軸32を中心とする円の周上に配置しているので、真空チャンバ1を小型化することができ、ひいては装置100Aを小型化することができる。
【0050】
[第3実施形態]
次に、本発明の第3実施形態に係る反射防止膜形成装置について説明する。上記第2実施形態では、光学素子の片面に反射防止膜を成膜する場合について説明したが、本第3実施形態では、光学素子の両面に反射防止膜を成膜する場合について説明する。図5は、本発明の第3実施形態に係る反射防止膜形成装置の断面図である。なお、本第3実施形態では、光学素子の両面が凹面である場合を対象としている。
【0051】
本第3実施形態の反射防止膜形成装置100Bは、図5に示すように、上記第2実施形態と同様、光学素子2の一方の凹面に対向するように、スパッタ源35A,35B,…、イオン源(不図示)及び酸素ラジカル源39が配置されている。更に、反射防止膜形成装置100Bは、光学素子2の他方の凹面に対向するように、スパッタ源45A,45B,…、イオン源(不図示)及び酸素ラジカル源49が配置されている。
【0052】
そして、上記第2実施形態と同様、スパッタ処理工程、再スパッタ処理工程及び酸化処理工程を順次実行することにより、光学素子2の両面に反射防止膜を形成することができる。この反射防止膜形成装置100Bによれば、光学素子2の処理面を反転することなく、両面にスパッタ処理、再スパッタ処理及び酸化処理が可能となり、処理時間の短縮化が図れる。
【実施例】
【0053】
次に、上記第1実施形態に係る反射防止膜形成装置100にて、光学素子2の凹面2aに反射防止膜を構成する金属酸化膜を、図2に示した成膜プロセスに従って成膜した。図2(a)のように、金属膜11の形成は、Ar雰囲気下、0.2PaでSiからなる金属ターゲット5aに投入電力1.0kWの直流通電を行い、スパッタ成膜した。光学素子2としては直径25mmの曲率半径が10mmのものを使用し、金属ターゲット5aから50mm離れたところに設置した。その後図2(b)のように、イオン源を用いてArイオンビームiを0.5keVで照射した。Arイオンビームiは形成されたSiの金属膜11をスパッタ(この現象を再スパッタとする)させ、光学素子2の側面方向にスパッタ粒子saとして光学素子2の凹面2aの周縁部に再付着させた。
【0054】
その後、有磁場型マイクロ波励起ラジカル源(投入電力200W)にて酸素ラジカルビームrを照射させて金属膜11Aの表面のSiを酸化させた。反射防止膜の膜厚は光学素子の断面を透過型電子顕微鏡にて中心より外周部に向けて1mm刻みで観察し、評価した。その結果を実施例として図6に示す。図6に示すように光学素子の中心部の金属膜が除去され、その除去された粒子が周縁部に再スパッタ(再付着)したことにより、膜厚分布の均一化され、6%程度に分布に抑制された。
【0055】
(比較例)
スパッタ処理工程及び酸化処理工程を実施し、再スパッタ処理工程を実施しなかった場合の結果を比較例として図6に示す。図2(a)に示したArおよび酸素雰囲気下0.2Pa(流量比1:1)でSiターゲットを投入電力1.0kWにて直流スパッタ成膜し、その膜厚分布を実施例と同じ条件で測定した。
【0056】
図6のように光学素子の中心部の膜厚が最も厚く、中心部より離れるにつれて、膜厚分布が余弦則(cos則)にしたがって減少する。光学素子の中心からの距離が9mmのところで、膜厚は最大50%程度低下している。
【0057】
(従来例)
従来例として、酸化膜を堆積した後に光学素子をCFガスで誘導結合型エッチング装置にエッチング処理を行い、その膜厚分布を実施例と同じ条件で測定した。その結果を従来例として図6に示す。エッチング処理により、光学素子の中心部の膜厚が除去されるが、周縁部の膜厚と比較すると最大25%程度の分布がある。
【0058】
以上、本実施例によれば、光学素子に金属膜を形成した後に、イオン照射により再スパッタを行い、その後、酸化処理を行えば、光学素子表面の膜厚分布の均一化が図れ、光学特性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0059】
1…真空チャンバ、2…光学素子、2a…凹面、3…基板ホルダ、4…スパッタ装置、5a…金属ターゲット、6…再スパッタ装置、7…イオン源、8…酸化処理装置、9…酸素ラジカル源、31…真空チャンバ、32…回転軸、33A…基板ホルダ、33B…回転ホルダ、34…スパッタ装置、35a,35b,35c…金属ターゲット、36…再スパッタ装置、37…イオン源、38…酸化処理装置、39…酸素ラジカル源、100,100A,100B…反射防止膜形成装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7