(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
シリカ(SiO
2)膜は、無機酸化物であるため、耐熱性や電気絶縁性等に優れており、平坦な膜が容易に得られることから、種々の分野で電気絶縁膜として使用されている。また、シリカ膜は、一般に、PVD(Physical Vapor Deposition)やCVD(Chemical Vapor Deposition)等の気相法、及びゾル・ゲル法等の液相法で作製されている。
【0003】
近年の電子デバイス・電子部品配置に対する要求の高度化に伴い、これらにおいて使用される電界強度も、大きくなる傾向にある。このように電界強度が大きくなるようなデバイスや電子部品配置では、より高い絶縁性が必要になるため、シリカ膜を絶縁膜とする場合には、該シリカ膜を更に厚くする必要がある。
【0004】
しかしながら、前記した気相法、液相法等の何れの作製方法においても、シリカ厚膜を形成することは難しく、通常、1μm以上の膜厚ではクラックが発生する傾向が強くなる。この理由は、膜を構成する「シリカ」自体のヤング率が高く、成膜時に発生する基板材料との熱膨張率差による内部応力や、膜自体の収縮によって発生する内部応力に対して、膜が追従して応力を緩和することが困難であるためと考えられている。
【0005】
また、電子ペーパーに代表されるように、湾曲等に変形可能とされた電子デバイスにおいては、柔軟性の低い(すなわち、ヤング率の高い)シリカ絶縁膜では前記変形に追従することが困難であるため、このような変形可能とされた電子デバイスに対しては、シリカ絶縁膜は一般的には不適当であると考えられていた。
【0006】
上記のような問題の解決方法として、非特許文献1ないし2には、シリカのシロキサン骨格中に有機基を導入した有機修飾シリケート膜が提案されている。これは、有機・無機ハイブリッド(無機・有機ハイブリッド)、オルモジル(Ormosils)、セラマー(Ceramers)等とも呼ばれる材料の膜に、シロキサン骨格中にメチル基等の有機基を導入すると、シロキサン骨格の剛直性が緩和されてヤング率が低くなり、これによって、1μm以上の膜厚でもクラックを発生させることなく成膜できることが開示されている。
【0007】
特許文献1には、このような有機修飾シリケート膜をオルガノアルコキシシランR
xSi(OR’)
4−x(ここで、Rは有機基であり、OR’はアルコキシ基である。xは、1、2、又は3である。)を原料として、加水分解・重縮合反応によって、シロキサン骨格中に有機基Rが導入された構造を形成する方法(一般に、「ゾル・ゲル法」という。)で作製されること、シロキサン骨格中に有機基Rが導入された構造の中でも、Siに2つの有機基が結合したジオルガノシロキサン−O−Si(R)
2−O−を有する構造が更に柔軟性があり、上述の目的により好ましく、特に、前記ジオルガノシロキサンの有機基Rがメチル基であるジメチルシロキサン−O−Si(CH
3)
2−O−は、より柔軟性に優れ、耐熱性にも優れること、ジメチルシロキサンを含む構造として、ポリジメチルシロキサンX−[−Si(CH
3)
2−O]
m−Si(CH
3)
2−X(ここで、Xは反応性官能基であり、mはポリジメチルシロキサンのユニット数である。)を出発原料として、金属アルコキシドM(OR)
n(nはアルコキシ基の数であり、通常Mの価数となる。)の原料と共に反応させて得られる構造があり、特に、前記ポリジメチルシロキサンの質量平均分子量Mwが900以上になると、1μm以上の厚膜製作が容易になり、基板の変形にも追従できる柔軟性を有する絶縁膜が容易に得られることが開示されている。
【0008】
特許文献2には、前記有機修飾シリケートに類似したものとしては、耐熱絶縁電線の絶縁被覆層として、ポリジメチルシロキサン等の鎖状シリコーンオリゴマー、金属アルコキシド、及び無機充填剤から形成されるシリコーン樹脂組成物が開示されている。
【0009】
特許文献3では、薄膜太陽電池基板としてその集光効率を向上させる目的で、表面に凹凸構造を形成した絶縁膜を形成する方法として、ポリジメチルシロキサンと金属アルコキシドから形成する膜で起こる疎水相と親水相の相分離を利用した表面凹凸構造の形成が開示されている。
【0010】
特許文献4では、ポリ(ジオルガノ)シロキサンと金属アルコキシドから形成される絶縁被膜で表面を平坦にしたものが開示されている。前記絶縁被膜は、平坦性に優れた膜であるので、薄膜トランジスタ、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、電子ペーパー等の電子デバイスで使用される膜厚の厚い絶縁膜の被覆基材として好適に使用される旨が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献1ないし4に開示された有機・無機ハイブリッド層を施した金属箔には以下のような問題がある。
【0014】
ジメチルシロキサンと架橋して硬化させる金属アルコキシドの配合を調整することで有機・無機ハイブリッド層の柔軟性の度合いを制御できるが、前記有機・無機ハイブリッド層が柔らかすぎると表面が傷付き易く、電該基板の搬送や積み替え等の工程で有機・無機ハイブリッド層に傷がついて、不良品を出す原因となることがあり、表面に傷が付き難いように該層を硬くしていくと、成膜の際にクラックが生じて、平坦で絶縁性に優れた膜が得られなくなったり、基板を曲げたときに該層にクラックが発生したりする。したがって、単に成分を調整しただけでは、柔軟性と表面硬度とを両立させるのが困難である。
【0015】
本発明は、絶縁性、耐熱性、表面平坦性に加えて、柔軟性を有し、かつ、基板を取り扱う過程(例えば、搬送や積み替え等)において該層の表面に傷が付き難い、有機・無機ハイブリッド層を有する金属箔を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、鋭意研究の結果、絶縁性、耐熱性、柔軟性、表面平坦性という、湾曲等に変形可能とされた電子デバイスに必要な特性を保持しつつ、金属箔に施した有機・無機ハイブリッド層の表面に傷が付き難いものとするためには、該有機・無機ハイブリッド層をポリジメチルシロキサンとMg、Ca、Y、Al、Sn、Ti、Zr、Nb、Ta、Wから選ばれる1種以上を配してなる金属アルコキシドとを配合してなる層とし、更に、前記有機・無機ハイブリッド層の厚さ方向におけるSiの濃度[Si]に特定の傾斜を付与して、金属箔側から該層の表面に向かう方向でSiの濃度を減少させることが極めて効果的であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
本発明の要旨とするところは、以下のとおりである。
【0018】
(1)有機・無機ハイブリッド層を有する絶縁膜被覆金属箔の製造方法であって、
ポリジメチルシロキサンとMg、Ca、Y、Al、Sn、Ti、Zr、Nb、Ta、Wから選ばれる1種以上の金属を配する金属アルコキシドを配合した液をコーティングし、
70℃以上210℃以下で乾燥し、
30〜80℃/minの昇温速度で昇温し、250〜600℃で30〜240分保持することにより、
前記有機・無機ハイブリッド層の厚さ方向に沿って、同層の表面から3/4t深さにおけるSiの濃度[Si]
3/4tに対して、前記有機・無機ハイブリッド層の厚さ方向に沿って、同層の表面から1/4t深さにおけるSiの濃度[Si]
1/4tが以下の関係を有し、且つ、
[Si]
1/4t<[Si]
3/4t
前記Si濃度の相対比、R
Si=
([Si]
3/4t−[Si]
1/4t)/[Si]
3/4tの値が0.02以上、0.23以下であることを特徴とする絶縁膜被覆金属箔の製造方法。
【0019】
(2)前記有機・無機ハイブリッド層の厚さ方向に沿って、同層の表面から1/2t深さにおけるSiの濃度[Si]
1/2tと、Si以外の金属元素からなるメタロキサンの金属元素Mの濃度[M]
1/2tとの比A
1/2t=[M]
1/2t /[Si]
1/2tと、前記有機・無機ハイブリッド層の厚さ方向に沿って、同層の表面から1/10t深さにおけるSiの濃度[Si]
1/10tとメタロキサンのM元素の濃度[M]
1/10tとの比A
1/10t =[M]
1/10t /[Si]
1/10tが、以下の関係を有することを特徴とする請求項1に記載の絶縁膜被覆金属箔の製造方法。
1.0×A
1/2t<A
1/10t<2.0×A
1/2t
【0020】
(3)金属箔と、該金属箔の片面又は両面上に配置された有機・無機ハイブリッド層とを少なくとも含む絶縁膜被覆金属箔であって;
該有機・無機ハイブリッド層が、ポリジメチルシロキサンとMg、Ca、Y、Al、Sn、Ti、Zr、Nb、Ta、Wから選ばれる1種以上を配してなる金属アルコキシドとを配合してなる層であり、
前記有機・無機ハイブリッド層の厚さ方向に沿って、同層の表面から3/4t深さにおけるSiの濃度[Si]
3/4tに対して、前記有機・無機ハイブリッド層の厚さ方向に沿って、同層の表面から1/4t深さにおけるSiの濃度[Si]
1/4tが以下の関係を有し、且つ
[Si]
1/4t<[Si]
3/4t
前記Si濃度の相対比、R
Si=
([Si]
3/4t−[Si]
1/4t)/[Si]
3/4tの値が0.02以上、0.23以下であることを特徴とする絶縁膜被覆金属箔。
【0021】
(4)前記有機・無機ハイブリッド層の厚さ方向に沿って、同層の表面から1/2t深さにおけるSiの濃度[Si]
1/2tと、Si以外の金属元素からなるメタロキサンの金属元素Mの濃度[M]
1/2tとの比A
1/2t=[M]
1/2t /[Si]
1/2tと、前記有機・無機ハイブリッド層の厚さ方向に沿って、同層の表面から1/10t深さにおけるSiの濃度[Si]
1/10tとメタロキサンのM元素の濃度[M]
1/10tとの比A
1/10t =[M]
1/10t /[Si]
1/10tが、以下の関係を有することを特徴とする請求項3に記載の絶縁膜被覆金属箔。
1.0×A
1/2t<A
1/10t<2.0×A
1/2t
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、絶縁性、耐熱性、柔軟性、表面平坦性を有し、かつ、搬送や積み替え等の際に表面に傷が付き難い絶縁被膜を有する金属箔を得ることができる。このような金属箔は、太陽電池基板やフレキシブル回路基板等の基板材料として好適に使用できる。即ち、従来の絶縁被覆金属箔基板に比べて、該絶縁被覆層の表面に傷が付き難いので、太陽電池や回路を搭載した場合の歩留を著しく向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
[第1の実施形態]
第1の実施形態は、有機・無機ハイブリッド層を有する絶縁膜被覆金属箔の製造方法であり、平均分子量Mw=900〜10000のポリジメチルシロキサン等とMg、Ca、Y、Al、Sn、Ti、Zr、Nb、Ta、Wから選ばれる1種以上の金属を有する金属アルコキシド等を、有機溶媒中で合成されたゾルをSUS箔表面にコーティングして製膜する。
【0026】
(ポリジメチルシロキサン等)
ポリジメチルシロキサン、ジメチルジアルコキシシラン、ジメチルジクロロシラン等を使用することができる。柔軟性膜を得やすい点からは、ポリジメチルシロキサンを使用するのが好ましい。
【0027】
ポリジメチルシロキサンとは、Siに二つのメチル基が結合して、直鎖状にSi−Oのシロキサンが連続的に結合したものであり、一般式X−[−Si(CH
3)
2−O−]
n−Si(CH
3)
2−Xで表される。ここで、Xは反応性官能基である。nは重合度である。例えば、質量平均分子量Mw10000で、メチル基の数は19〜20程度になる。
【0028】
上記の反応性官能基(−X)は、例えば、シラノール基、カルビノール基、アミノ基、アルコキシ基、メルカプト基、エポキシ含有官能基等である。好ましいポリジメチルシロキサンの質量平均分子量Mwは、900以上である。900未満では、平坦な表面の膜が得られるが、1μm以上の厚膜を形成しようとすると、クラックが発生し成膜することができない場合がある。よって、1μm以上の厚膜を作製するには、Mw900以上のポリジメチルシロキサンを使用することが好ましい(この質量平均分子量Mwの測定方法の詳細に関しては、例えば、文献:阿南功一、紺野邦夫、田村善蔵、松橋通夫、松本重一郎 編集『基礎 生化学実験法3 物理化学的測定[1]』、第7〜101頁、昭和50年1月20日発行、丸善株式会社を参照することができる)。
【0029】
一方、Mw10000を越えると、ポリジメチルシロキサンが粘調で、溶媒に溶解しなくなり、金属アルコキシドと混合できず、塗布溶液を調製できない場合がある。
より好ましくは、Mwが950〜3000である。
【0030】
(金属アルコキシド等)
金属アルコキシド、金属ハライド等が使用できるが、メチルシロキサンと結合状態を制御する点からは、金属アルコキシドが好ましい。金属としては、Mg、Ca、Y、Al、Sn、Ti、Zr、Nb、Ta、W等が使用できる。
【0031】
金属アルコキシドM(OR’)
nのアルコキシ基OR’は、メトシキ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等が挙げられる。特に、金属アルコキシドの金属元素が、ポリジメチルシロキサンを効果的に架橋するためには、3価又は4価の金属元素から選ばれる1種以上であることが好ましい。即ち、前記金属アルコキシドは、溶液中でポリジメチルシロキサンと均一に反応して相分離しない傾向が高い。
【0032】
Y、Al、Sn、Ti、Zr、Nb、Ta、Wの金属アルコキシドは、反応性が高いため、アルコキシ基の一部をβ−ジケトン、β−ケトエステル、アルカノールアミン、アルキルアルカノールアミン、有機酸等の化学改質剤で置換したアルコキシド誘導体を使用してもよい。
【0033】
(有機溶媒)
ゾル合成は有機溶媒中で行われる。前記金属アルコキシドが加水分解されてポリジメチルシロキサンを架橋するまで、金属アルコキシド及び加水分解された金属アルコキシドと溶媒和するために、前記有機溶媒には水酸基が必要である。
【0034】
このような水酸基を有する有機溶媒を例示すると、プロピルアルコール(CH
3CH
2CH
2OH)、n−ブチルアルコール(CH
3CH
2CH
2CH
2OH)、イソブチルアルコール((CH
3)
2CHCH
2OH)、s−ブチルアルコール(CH
3CH
2CH(CH
3)OH)、n−ペンチルアルコール(CH
3(CH
2)
4OH)、イソペンチルアルコール((CH
3)
2CHCH
2CH
2OH)、ネオペンチルアルコール((CH
3)
3CCH
2OH)、n−ヘキシルアルコール(CH
3(CH
2)
5OH)、n−ヘプチルアルコール(CH
3(CH
2)
6OH)、n−オクチルアルコール(CH
3(CH
2)
7OH)、n−ノニルアルコール(CH
3(CH
2)
8OH)、イソノニルアルコール((CH
3)
2CH(CH
2)
6OH)、n−デシルアルコール(CH
3(CH
2)
9OH)、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル(CH
3(CH
2)
5O(CH
2CH
2O)
2H)、エチレングリコールモノヘキシルエーテル(CH
3(CH
2)
5OCH
2CH
2OH)、プロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル(CH
3(CH
2)
3OCH
2CH(CH
3)OH)、3,5,5−トリメチル−1−ヘキサノール(CH
3C(CH
3)
2CH
2CH(CH
3)CH
2CH
2OH)、2−エチル−1−ヘキサノール(CH
3(CH
2)
3CH(CH
2CH
3)CH
2OH)、イソデカノール((CH
3)
2CH(CH
2)
7OH)等が挙げられる。
【0035】
(混合の割合)
ジメチルシロキサン等と金属アルコキシド等との混合割合は、M/Siのモル比で、0.01〜1.2となる範囲が好ましい。
【0036】
**M/Siのモル比が**0.01未満であると、成膜後の膜表面が平坦な膜ではなく凹凸形状となり、1.2を超えると、平坦な膜表面ではあるが、クラックの発生が起こる。
【0037】
混合の割合は、M/Siのモル比で、0.02〜1.0であることが好ましく、更には0.05〜0.8であることが好ましい。
【0038】
(加水分解)
前記前駆体を溶媒に溶解し、水を加えて加水分解する。該加水分解は、出発原料中の全アルコキシ基のモル数に対して0.5〜2倍の水を添加して行うのが望ましい。0.5倍未満では、加水分解の進行が遅く、ゲル化に時間がかかる。一方、2倍を越えると、金属アルコキシド同士の縮合割合が多く成り、シロキサンポリマーを有効に架橋するする寄与が低下する場合がある。このようにして水を加えられた溶液は、ゾルとして金属箔に塗布される。
【0039】
(コーティング)
前記ゾルを金属箔へコーティングする方法は特に制限されない。例えば、バーコート法、ロールコート法、スプレーコート法、ディップコート法、スピンコート法、スリットコート法、カーテンコート法等で行うことができる。
【0040】
前述にようにウェットプロセスで成膜し、熱処理により膜硬化を行うと、成膜直後のウェットの状態では膜中に多数のシラノール(SiOH)基が存在しているが、熱処理により、金属アルコキシドが加水分解・縮合反応して形成される無機成分が、化学結合や水素結合を介してポリジメチルシロキサンを架橋する。
【0041】
なお、金属箔に対し、有機・無機ハイブリッド層との密着性をより良くするために、必要に応じて塗布前に前処理を行うこともできる。代表的な前処理としては、酸洗、アルカリ脱脂、クロメート等の化成処理、研削、研磨、ブラスト処理等があり、必要に応じてこれらを単独又は組み合わせて行うことができる。
【0042】
(金属箔)
金属箔としては、例えば、ステンレス鋼(SUS304、SUS430、SUS316等)、普通鋼、メッキ鋼、銅、アルミニウム、ニッケル、チタン等の金属箔が使用できる。金属箔としてステンレス箔を用いる場合、フェライト系ステンレス箔、マルテンサイト系ステンレス箔、オーステナイト系ステンレス箔等が挙げられる。熱膨張係数はオーステナイト系ステンレスで17×10
-6/K、フェライト系及びマルテンサイト系ステンレスで10×10
-6/K程度である。従って、熱膨張係数の小さいフェライト系及びマルテンサイト系ステンレスの方が、熱膨張係数差に起因する有機・無機ハイブリッド層の歪及びその上に形成されるデバイスを構成する膜の歪が小さくなるので、好ましい。ステンレス箔の表面は、ブライトアニール等の表面処理を施してあっても良い。
【0043】
(乾燥工程)
乾燥は、塗膜中の溶媒を除去するのが主要な目的である。該乾燥温度は、溶媒の種類と量によって適宜設定されるが、通常、70℃以上210℃以下が好ましい。70℃未満で乾燥すると、乾燥に時間が掛かり、膜中に溶媒を多量に残す場合がある。一方、210℃を越えると、急激な溶媒蒸発により、乾燥膜が壊れる場合がある。
【0044】
(熱処理工程)
熱処理は、塗膜の硬化を進行させるのが主要な目的である。該熱処理の温度は、通常、250℃以上600℃以下とするのが好ましい。250℃未満では、絶縁膜として実用的な強度が得られない場合がある。一方、600℃を越えると、シロキサンに結合した有機基の熱分解が起こり、膜の柔軟性が損なわれる場合がある。
【0045】
前記熱処理温度の範囲の中で、本発明の有機・無機ハイブリッド層とするには、後述のような雰囲気下で250℃〜600℃の温度範囲で30〜240分保持する。
【0046】
30分未満であると十分な膜厚を得られず、240分超であるとクラック等を生じやすいからである。
【0047】
乾燥後の温度から250℃〜600℃に昇温するには、30〜80℃/minの昇温速度で昇温する。
【0048】
上述の本発明の有機・無機ハイブリッド層の構造にするためには、前記乾燥及び熱処理を工夫することになる。
【0049】
具体的には熱処理時に膜表層より分子量の小さなジメチルシロキサンを除去させ、膜表層のシロキサン量(Si量)を少なくするようにする。
【0050】
有機基、メタロキサンで修飾されたポリジメチルシロキサンに最終熱処理を施すことで、OH基や有機基部分の一部が外れ他のポリジメチルシロキサンと結合(脱水縮合)することにより、有機・無機ハイブリッド膜となる。
【0051】
この熱処理時にポリジメチルシロキサンの膜は、熱処理雰囲気中に水分(水蒸気)が存在することでもう一つの反応をする。
【0052】
熱処理雰囲気中に水分が存在すると膜(ゲル膜)表面から吸収されやすく、シロキサン(Si−O−Si)結合やメタロキサン(Si−O−M)結合が加水分解され、ポリジメチルシロキサン鎖が切断さる。分子量の小さくなったジメチルシロキサンは高温では揮発するので、柔軟性のある成分が減少する。特に、元々架橋が不十分な分子量の小さなオリゴマーはいとも容易く分解され、小さな分子量となりやすいため揮発する傾向は顕著である。
【0053】
このような現象に注目して、熱処理中の雰囲気の水分量と熱処理温度に到達するまでの昇温速度を制御して、膜表面を硬くし膜内部を柔らかくするSiの濃度勾配とすることを見いだした。
【0054】
すなわち、熱処理時の雰囲気の水分量を低減し、昇温速度を早くすることで本発明の膜をえることができる。
【0055】
熱処理時の雰囲気の水分を低減し、昇温速度を早くすることにより、膜表面層での水分によるポリジメチルシロキサンの分解と分子量の小さなポリジメチルシロキサンの揮発(オリゴマーが顕著だが)が起こる。初期段階では、水分(水蒸気)は膜内部まで入り込む程、潤沢にないため、膜内部でのこうした分解はあまり起こらない。熱処理によって加水分解と、熱処理の本来の目的である脱水縮合反応によりポリジメチルシロキサンが酸化物へと変わることで膜表層のポリジメチルシロキサンが減少するが、膜内部から低分子のオリゴマーが熱により移動することで、表層で水分との反応が進むことになる。
【0056】
これにより、膜表層では柔軟性のあるSi成分を含むポリジメチルシロキサンがすくなくなり、目的の膜の特性を得られる。
【0057】
昇温速度が緩やかな場合は、膜表層における反応が早くないため熱処理中の雰囲気の水分量に関わらず膜全体で反応が進む。
【0058】
このため、水分は膜内部まで到達することができ、膜表層との反応の差があまりできない。膜内のSi濃度勾配は、表層の方がSi濃度が少ないがその傾斜は緩やかである。
【0059】
熱処理時の雰囲気の水分が多く昇温速度が速い場合は、水分は膜表面での反応に多く消費され、膜表面層のポリジメチルシロキサンの分解が極端に進むことになる。膜内部からのオリゴマーの拡散もあるが膜表層で直ぐに分解してしまう。
【0060】
この結果、膜内部はポリジメチルシロキサンはオリゴマー含め多く残り、反対に膜表層はほとんどのポリジメチルシロキサンが分解、揮発する。膜表層は揮発量が多く体積収縮する方向であり、膜内部は体積収縮はほとんどないため、膜表面からクラックが入り易くなる。
【0061】
このようにすることで、上述のようなSiの濃度に傾斜がある有機・無機ハイブリッド層とすることができる。これまでの方法では、前記のようなことは考慮されておらず、単に塗膜全体を加熱による脱水縮合によって硬化させるというだけである。
【0062】
本発明の有機・無機ハイブリッド層の構造とするには、乾燥ガス雰囲気で乾燥や熱処理を行うことが好ましい。特に、乾燥ガス雰囲気で熱処理することが好ましい。前記乾燥ガスとしては、例えば、乾燥空気、乾燥窒素、乾燥アルゴン、乾燥ヘリウムや、これらの混合ガス等が使用できる。特に、好ましいのは、酸素を含有するガスであり、例えば、乾燥空気、乾燥窒素−酸素混合ガス等である。ここで、乾燥ガスとは、シリカゲル、モレキュラーシブス、活性炭、塩化カルシウム、五酸化リン等の乾燥剤を通して40%以下の相対湿度に乾燥させたガスである。
【0063】
ゾル組成で急速に焼成温度にすることで、膜表面からポリジメチルシロキサンが熱分解して脱離し、結果、Si濃度が膜表面では下がる。
【0064】
ポリジメチルシロキサンの脱離は、膜表面近傍での柔軟性をもつ有機成分が失われることであり、一旦、膜表面はポリジメチルシロキサンの脱離が起こり、膜表面が硬化すると、膜内部からのポリジメチルシロキサンが移動してきたとしても容易に表面からの脱離し難くなる。すなわち、昇温温度を早くし急速な焼成温度にすることで、膜内部にある分子量の大きなポリジメチルシロキサンの膜表面への移動は十分とはならないため、有機物成分は膜内部に多く存在し柔軟な特性を維持し、結果的に膜表面よりSi濃度が高く維持される。
【0065】
[第2の実施形態]
第2の実施形態は、金属箔10と、該金属箔の片面又は両面上に配置された有機・無機ハイブリッド層11とを少なくとも含む絶縁膜被覆金属箔である(
図1)。
【0066】
その有機・無機ハイブリッド層の厚さ方向に沿って、同層の表面から3/4t深さにおけるSiの濃度[Si]
3/4tに対して、前記有機・無機ハイブリッド層の厚さ方向に沿って、同層の表面から1/4t深さにおけるSiの濃度[Si]
1/4tが以下の関係を有し、且つ、[Si]
1/4t<[Si]
3/4t前記Si濃度の相対比、R
Si=
([Si]
3/4t−[Si]
1/4t)/[Si]
3/4tの値が0.02以上、0.23以下である。
【0067】
さらに、前記有機・無機ハイブリッド層の厚さ方向に沿って、同層の表面から1/2t深さにおけるSiの濃度[Si]
1/2tと、Si以外の金属元素からなるメタロキサンの金属元素Mの濃度[M]
1/2tとの比A
1/2t=[M]
1/2t /[Si]
1/2tと、前記有機・無機ハイブリッド層の厚さ方向に沿って、同層の表面から1/10t深さにおけるSiの濃度[Si]
1/10tとメタロキサンのM元素の濃度[M]
1/10tとの比A
1/10t =[M]
1/10t /[Si]
1/10tが、1.0×A
1/2t<A
1/10t<2.0×A
1/2tの関係を有していてもよい。
【0068】
(Si濃度の傾斜)
本発明では、金属箔の片面又は両面に施す絶縁層(絶縁膜)の厚さ方向におけるSiの濃度に傾斜を設け、該傾斜が、金属箔側から該層の表面に向かう方向でSiの濃度を、特定の割合で減少させるようにしている。このような特定の割合で減少するSi濃度の傾斜を有機・無機ハイブリッド層(絶縁層)の厚さ方向に設けることが本発明の特徴である。
【0069】
より具体的には、
図1に示したように、前記有機・無機ハイブリッド層11の厚さt方向に沿って、同層の表面から3/4t深さにおけるSiの濃度[Si]
3/4tに対して、前記有機・無機ハイブリッド層11の厚さt方向に沿って、同層の表面から1/4t深さにおけるSiの濃度[Si]
1/4tが、[Si]
1/4t<[Si]
3/4tの関係にあり、且つ、これらのSi濃度の相対比
、Rsi=([Si]
3/4t−[Si]
1/4t)/[Si]
3/4t)が、0.02〜0.23の範囲にある
。
【0070】
上記したように、有機・無機ハイブリッド層11中の深さ方向の間に、Siの濃度に上述のような傾斜(例えば、
図2のグラフに示すような傾斜)を有するようにすると、該層中の深さ方向において、ハイブリッド層11の金属箔10側が柔軟で、該層11の表面側が硬いという傾向を有することになる。したがって、ハイブリッド層11が硬い表面を有するので、傷が付き難くなる。しかしながら、該層11の全体が硬くなる訳ではなく、金属箔側である内部が柔らかいので、金属箔10が変形しても、ハイブリッド層11がその変形に追従できるような、所謂、フレキシブル基板として使用できるものとなる。従来の単なる「硬い膜」では、成膜するときにクラックが生じる傾向があるが、本発明の絶縁膜11では内部が柔らかいので、成膜してもクラック発生が著しく抑制される。
【0071】
上述したように、ハイブリッド層11内のSi濃度に傾斜があると、その柔軟性(硬度)が異なる理由は、本発明者の知見によれば、以下のように推定される。
【0072】
すなわち、1つの理由は、ジメチルシロキサン−O−Si(CH
3)
2−O−とSi以外の金属元素からなるメタロキサンM(O−)
nとを含む有機・無機ハイブリッドでは、柔軟性発現の寄与はジメチルシロキサンによるところが大きく、一方、硬化するのはメタロキサンの架橋作用であるためと推定される。これにより、Siの濃度が高くなると(即ち、ジメチルシロキサンの占める割合が多くなると)ハイブリッド層11の該当部分が柔軟性に富む性質になり、Siの濃度が低くなると(即ち、ジメチルシロキサンの占める割合が少なくなると)ハイブリッド層11の該当部分が硬くなる傾向になる。
【0073】
従来は、有機・無機ハイブリッド膜は、原料の組成と同じ組成の膜、又は、原料の組成と一定の関係にある組成の膜が作製されていただけであり、膜厚方向において該組成を変化させず、均一な組成になるように努力されていた。
【0074】
本発明者らは、有機・無機ハイブリッド膜の深さ方向でSiの濃度変化を付けることができるということを見出し、更に、上述のような条件範囲にすると、フレキシブル基板として使用できるような柔軟性を有するにも係わらず、表面に傷が付き難いということを見出した。
【0075】
上述のように、本発明では、相対比R
si=([Si]
3/4t−[Si]
1/4t)/[Si]
3/4tが、0.02〜0.23の範囲であれば、前記作用効果が得られる。
【0076】
この相対比R
siが、0.02未満では、Siの濃度の傾斜が小さ過ぎるので、柔軟な組成では表面に傷が付き易く、硬い組成では金属箔を曲げたときにクラックが発生したり剥離したりする。また、硬い組成では、成膜するときにもクラックが発生する傾向がある。他方、相対比R
siが、0.23を越えると、柔軟な部位と硬い部位との差が大きくなり過ぎる。その結果、柔軟な部位ではメタロキサンによる硬化が充分でなくなるので、被膜と金属箔との密着性が充分確保できなくなったり、被膜の耐熱性や安定性が充分でなくなったり傾向が生じる。また、前記のような差に設定するには、硬い部位は極端に硬くしないといけなくなり、衝撃を受けると硬い部分が割れるという現象が起こり易くなる。
【0077】
上記の相対比R
siの値は、0.02〜0.23であることが好ましく、表面硬度の点から更には0.03〜0.10であることが好ましい。
【0078】
(M元素の濃度の比率)
本発明においては、更に、前記Siの濃度勾配に加えて、Siの濃度に対するメタロキサンのM元素の濃度の比率を、深さ方向の表面付近で高くすることで、より、表面に傷が付き難くすることができる。即ち、
図3の模式断面図に示したように、前記有機・無機ハイブリッド層11の厚さ方向に沿って、同層の表面から1/2深さにおけるSiの濃度[Si]
1/2tと、メタロキサンのM元素の濃度[M]
1/2tとの比A
1/2t=[M]
1/2t /[Si]
1/2tに対して、前記有機・無機ハイブリッド層の厚さに対する同層の表面から1/10深さにおけるSiの濃度[Si]
1/10tとメタロキサンのM元素の濃度[M]
1/10tとの比A
1/10t=[M]
1/10t/[Si]
1/10tが、下記の関係を有することが好ましい。
1.0×A
1/2t≦A
1/10t≦2.0×A
1/2t
【0079】
こららの比の関係は、より好ましくは、以下の通りである。
1.2×A
1/2t≦A
1/10t≦1.5×A
1/2t
【0080】
本発明では、表面付近の代表位置として、層11の表面から1/10tの深さとしている。更に、深さ方向で該層の中心部(すなわち、層11の表面から1/2tの深さ)の濃度比率を基準として、表面付近の濃度比率の大小を判断している。したがって、表面付近の濃度比率であるA
1/10tの値が、基準となる中心部の濃度比率A
1/2tの1.0倍以上となるように、Siの濃度に対するメタロキサンのM元素の濃度の比率が高くなると(
図4)、メタロキサンによる架橋作用が表面近傍で進んでいるので、有機・無機ハイブリッド層の表面がより傷付き難くなる。よって、表面付近の濃度比率A
1/10tの値が、1.0×A
1/2t未満では、充分な前記作用効果が得られない場合がある。他方、表面付近の濃度比率A
1/10tの値が大きくなるほど表面が傷付き難くなるが、2.0×A
1/2tを越えると、メタロキサンによる架橋が進み過ぎて、有機・無機ハイブリッド層の表面が硬くなり過ぎて、クラックが生じ易くなる場合がある。
【0081】
(M/Siのモル比)
有機・無機ハイブリッド層におけるSiの含有量とMの含有量に関し、M/Siのモル比で、0.01〜1.2であるのが好ましい。このM/Siのモル比は、更には0.02〜1.0が好ましく、特に0.05〜0.8が好ましい。
【0082】
(Si、Mの濃度)
ここで、上述のSiやMの濃度は、次のようにして測定できる。有機・無機ハイブリッド層の深さ方向の成分分析は、グロー放電質量分析GDS(例えば、リガク製GDA750)にて表面から徐々にArガス放電によって掘り下げ、該層の深さの成分を分析することができる。
【0083】
(ハイブリッド層の厚さ)
本発明において、有機・無機ハイブリッド層の厚さtは、通常、0.5〜20μmであることが好ましい。厚さtが0.5μm未満であると、膜厚安定性の問題から絶縁性が不充分になる場合がある。一方、厚さtが20μmを超えると、膜の有機成分を相当多くしなければクラックが入り易くなる場合がある。そのような場合には、膜表面は柔らかくなり傷が容易に入る状態となり易く、コスト的に高くなってしまう。この厚さtは、更には1.0〜15μmが好ましく、特に1.5〜10μmが好ましい。
【0084】
有機・無機ハイブリッド層の厚みtは、熱処理後に得られた膜を走査型電子顕微鏡(例えば、JEOL製JSM−6500F)にて、該層と金属箔との断面方向から観察することによって、測定できるものである。また、前記測定した厚さtの値に基づいて、上記GDSにおける[Si]濃度プロファイル(
図1参照)における変曲点を有機・無機ハイブリッド層と金属箔との界面として前記濃度プロファイルの深さ軸を決定する。
【0085】
(金属箔)
本発明における金属箔とは、通常、0.01〜0.60mmの厚さの薄い金属板であることが好ましい。この金属箔の厚さは、更には0.02〜0.3μmが好ましく、特に0.03〜0.12μmが好ましい。該金属箔を構成する金属の種類は特に制限されないが、例えば、ステンレス鋼(SUS304、SUS430、SUS316等)、普通鋼、メッキ鋼、銅、アルミニウム、ニッケル、チタン等が挙げられる。
【実施例】
【0086】
(塗布溶液A)
メタロキサンの前駆体としては金属アルコキシドを用い、ジメチルシロキサンの前駆体としてはポリジメチルシロキサンを用いた。金属アルコキシドは、チタンテトライソプロポキシドを8モルとして、その化学改質剤である3−オキソブタン酸エチルをチタンテトライソプロポキシドに対して2倍となる16モルで混合したものを用いた。前記化学改質したチタンアルコキシドに、質量平均分子量3000のポリジメチルシロキサン(末端基はシラノール)を2.5モル加えた。前記混合液に、粘度を調整する溶媒として、1−ブタノールを1モル加えた後、加水分解させるためにH
2Oを5モル添加して、塗布溶液Aを調製した。
【0087】
(塗布溶液B)
メタロキサンの前駆体としては金属アルコキシドを用い、ジメチルシロキサンの前駆体としてはポリジメチルシロキサンを用いた。金属アルコキシドは、チタンテトライソプロポキシドを2モルとして、その化学改質剤である3−オキソブタン酸エチルをチタンテトライソプロポキシドに対して2倍となる4モルで混合した。前記化学改質したチタンアルコキシドに、質量平均分子量1800のポリジメチルシロキサン(末端基はシラノール)を0.5モル加えた。前記混合液に、粘度を調整する溶媒として、1−ブタノールを2モル加えた後、加水分解させるためにH
2Oを2モル添加して、塗布溶液Bを調製した。
【0088】
(塗布溶液C)
メタロキサンの前駆体としては金属アルコキシドを用い、ジメチルシロキサンの前駆体としてはポリジメチルシロキサンを用いた。金属アルコキシドは、チタンテトライソプロポキシドを8モルとして、その化学改質剤である3−オキソブタン酸エチルをチタンテトライソプロポキシドに対して2倍となる12モルで混合した。前記化学改質したチタンアルコキシドに、質量平均分子量4500のポリジメチルシロキサン(末端基はシラノール)を2モル加えた。前記混合液に、粘度を調整する溶媒として、1−ブタノールを1モル加えた後、加水分解させるためにH
2Oを2モル添加して、塗布溶液Cを調製した。
【0089】
(塗布溶液D)
メタロキサンの前駆体としては金属アルコキシドを用い、ジメチルシロキサンの前駆体としてはポリジメチルシロキサンを用いた。金属アルコキシドは、アルミニウムトリ−sec−ブトキシドを3モルとして、その化学改質剤である3−オキソブタン酸エチルを6.75モル混合した。前記化学改質したアルミニウムアルコキシドに、質量平均分子量3000のポリジメチルシロキサン(末端基はシラノール)を1モル加えた。前記混合液に、粘度を調整する溶媒として、1−ブタノールを10モル加えた後、加水分解させるためにH
2Oを2モル添加して、塗布溶液Dを調製した。
【0090】
(塗布溶液E)
メタロキサンの前駆体としては金属アルコキシドを用い、ジメチルシロキサンの前駆体としてはポリジメチルシロキサンを用いた。金属アルコキシドは、ジルコニウムテトラ−n−ブトキシドを2.5モルとして、その化学改質剤である3−オキソブタン酸エチルを5モル混合した。前記化学改質したジルコニウムアルコキシドに、質量平均分子量3000のポリジメチルシロキサン(末端基はシラノール)を1モル加えた。前記混合液に、粘度を調整する溶媒として、1−ブタノールを3モル加えた後、加水分解させるためにH
2Oを1モル添加して、塗布溶液Eを調製した。
【0091】
(塗布溶液F)
メタロキサンの前駆体としては金属アルコキシドを用い、ジメチルシロキサンの前駆体としてはジメチルジアルコキシシランを用いた。金属アルコキシドは、チタンテトライソプロポキシドを2モルとして、その化学改質剤である3−オキソブタン酸エチルをチタンテトライソプロポキシドに対して2倍となる4モルで混合した。一方、ジメチルジアルコキシシランは、ジメチルジメトキシシランを用い、アルコキシ基に対して1.5モル倍のH
2Oを添加して予め加水分解・重縮合させた。前記化学改質したチタンアルコキシドに、前記ジメチルジメトキシシランの加水分解・重縮合物をSi/Tiモル比で30となる割合で加えた。前記混合液に、粘度を調整する溶媒として、1−ブタノールを2モル加えた後、加水分解させるためにH
2Oを更に2モル添加して、塗布溶液Fを調製した。
【0092】
(塗布溶液G)
メタロキサンの前駆体としては金属アルコキシドを用い、ジメチルシロキサンの前駆体としてはポリジメチルシロキサンを用いた。金属アルコキシドは、イットリウムイソプロポキシドを3モルとして、その化学改質剤である3−オキソブタン酸エチルを6モル混合した。前記化学改質したイットリウムアルコキシドに、質量平均分子量3000のポリジメチルシロキサン(末端基はシラノール)を1モル加えた。前記混合液に、粘度を調整する溶媒として、1−ブタノールを2モル加えた後、加水分解させるためにH
2Oを2モル添加して、塗布溶液Gを調製した。
【0093】
(塗布溶液H)
メタロキサンの前駆体としては金属アルコキシドを用い、ジメチルシロキサンの前駆体としてはポリジメチルシロキサンを用いた。金属アルコキシドは、ニオブ(V)−n−ブトキシドを4モルとして、その化学改質剤である3−オキソブタン酸エチルを8モル混合した。前記化学改質したニオブアルコキシドに、質量平均分子量3000のポリジメチルシロキサン(末端基はシラノール)を1.5モル加えた。前記混合液に、粘度を調整する溶媒として、1−ブタノールを4モル加えた後、加水分解させるためにH
2Oを2モル添加して、塗布溶液Hを調製した。
【0094】
[有機・無機ハイブリッド層の形成]
前記手順で作製した各塗布溶液を、SUS430金属箔上に、スリットコーターにてコーティングした。スリットコーターのコーティング条件は、着液時のギャップ50μmであり、コーティング時のギャップは、100μmである。コーティング速度は、100mm/secで実施した。
【0095】
コーティング後、溶媒を蒸発させるための乾燥は、表1〜8に示した雰囲気にて150℃、10min行った。その後、熱処理を、表1〜8に示した温度、時間、雰囲気の条件で行った。
【0096】
表中の「空気」とは常温で相対湿度60%以上の雰囲気であり、乾燥空気と乾燥窒素は常温で相対湿度40%以下の雰囲気のことである。
【0097】
(各元素の濃度、厚さの測定)
有機・無機ハイブリッド層の断面(深さ方向)における各元素の濃度は、上述と同様に、グロー放電質量分析GDS(リガク製GDA750)を用いて分析した。また、前記有機・無機ハイブリッド層の厚tは、走査型電子顕微鏡(JEOL製JSM−6500F)を用いて、上述と同様にして、測定して決定した。
【0098】
上述のようにして金属箔上に作製した有機・無機ハイブリッド層の表面硬さについては、JIS K5600−5−4に準拠した鉛筆硬度試験器にて評価した。
【0099】
また、有機・無機ハイブリッド層の密着性及び曲げ追従性については、50mmφの円柱状の棒に熱処理成膜後の金属箔を巻き付けた後に、走査型電子顕微鏡(JEOL製JSM−6500F)にて該層表面にクラックの有無を観察して評価した。
【0100】
判定については以下のようにした。
【0101】
判定 × は、折り曲げにてクラック発生した膜か膜の表面硬度が柔らかすぎる(表面鉛筆硬度2B以下)の膜とした。
判定 △ は、折り曲げではクラック発生は無いものの 表面硬度 2Hと高くクラック入りそうな硬度の膜とした。
【0102】
判定 ◆ は、表面鉛筆硬度Bと表面がかなり柔らかい膜とした。
判定 ○ は、クラック発生が無く、表面硬度がH〜HBと良好な膜とした。
【0103】
評価結果を表1〜8に示す。
【0104】
表1(塗布溶液A)
【表1】
【0105】
表2(塗布溶液B)
【表2】
【0106】
表3(塗布溶液C)
【表3】
【0107】
表4(塗布溶液D)
【表4】
【0108】
表5(塗布溶液E)
【表5】
【0109】
表6(塗布溶液F)
【表6】
【0110】
表7(塗布溶液G)
【表7】
【0111】
表8(塗布溶液H)
【表8】
【0112】
**上記表1〜8に示した結果から、以下のような知見が得られた。**
【0113】
高温熱処理(ここでは360℃以上)では、熱処理雰囲気を変えても架橋反応が進み、硬くクラックが入り易い膜構造となっている。これは膜表面だけではなく、膜内Si濃度分布の違いからも予測されている。
【0114】
温度が下がるにつれ、膜の表面硬度は下がる傾向であり、それと共にSi濃度分布が変化している。熱処理雰囲気を選ぶことにより、膜内のメタロキサンとジメチルシロキサンの比率を制御し膜表面硬度を維持しつつ、柔軟性を両立する膜構造にすることができている。
【0115】
低温熱処理(ここでは240℃以下)では架橋反応が進まず、ジメチルシロキサンの比率が多く、膜表面が柔らかいものしか得ることができない。