(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
一般的に、光通信に用いられる光受信モジュールは、ファイバからの信号光を受光素子の受光部に集光する光学系素子と、受光した信号光を光電変換して電気信号を出力する受光素子と、受光素子からの電気信号を増幅するアンプ等からなる高周波回路とを備えている。
【0003】
従来の強度変調方式によるオンオフ変調(ON/OFF keying)を用いた光受信モジュールでは、光電変換の対象となる信号光を高周波数化することにより、10Gbpsを超える高速の信号伝送を実現している。このような信号伝送においては、低ノイズとなるように、かつ、10GHz以上の高周波領域まで発振することなく広範囲の帯域で平坦な周波数特性を持つように光受信モジュールを構成することが重要となる。そこで、高周波特性を改善する方式として、様々な技術が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1に開示された光信号受信モジュールでは、アンプのグランド電極が受光素子のバイアス電圧入力端子に接続されており、受光素子とアンプの初段トランジスタとの間で、チップキャリアを経路に含まない電流ループを形成している。あるいは、所定容量のコンデンサを介してグランド電極に接続したサブグランド電極がアンプに設けられている。このような技術によれば、電流ループの電気長が短くなるため、ノイズによる発振を防止することができ、高周波特性に優れた光受信モジュールを実現可能となる。
【0005】
特許文献2に開示された光受信モジュールでは、フォトダイオードのアノード電極側及びカソード電極側にそれぞれ設けられたコイル及びフォトダイオードにより共振回路が構成されている。このような技術によれば、フォトダイオードの容量等によって、高周波領域では電流の振幅周波数特性の低下が補償されることから、高周波特性に優れた光受信モジュールを実現することができる。
【0006】
特許文献3に開示されたフォトダイオードでは、第1導電型半導体層上に、第1導電型分離拡散層により複数に分割された第2導電型半導体層が積層されており、隣接する第2導電型半導体層の間に、フォトダイオードなどの受光素子部及びトランジスタなどの信号処理回路素子部が設けられている。そして、受光素子部の一方の電極が第1導電型半導体層下に設けられ、他方の電極が第2導電型半導体層上に設けられている。このような技術によれば、フォトダイオードのアノード部の直列抵抗が低下するので、応答速度が速いフォトダイオードを実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<実施の形態1>
まず、本発明の実施の形態1に係る光受信モジュールについて説明する前に、それと関連する光受信モジュール(以下「関連光受信モジュール」と呼ぶ)について説明する。
【0015】
図5は、関連光受信モジュール71及び多芯ファイバ81の構成を示す斜視図である。多芯ファイバ81は、アレイ状に配列された複数のファイバコアを含んでおり、各ファイバコアから信号光を同時に出射可能となっている。
【0016】
関連光受信モジュール71は、多チャンネル型の光受信モジュールであり、多芯ファイバ81に含まれるアレイ状に配列された複数のファイバコアからの複数の信号光を同時に受光(受信)可能となっている。つまり、関連光受信モジュール71は、いわゆるバランス受信を行う。この関連光受信モジュール71は、上述の信号光を受光するアレイ状に配列された複数の受光部11を有する受光素子10と、複数のアンプ20と、複数のチップコンデンサ30と、複数のワイヤ40と、レンズなどの結合光学系素子50とを備えている。
【0017】
なお、
図5では示していないが、これら構成要素は、構造部材上に実装、固定され、パッケージ内に収められている。また、結合光学系素子50は1つのレンズであるとして以下説明するが、これに限ったものではなく、他の構成の光学系素子を適用してもよい。
【0018】
複数の受光部11は、受光素子10が有する一の面(以下「受光面」と呼ぶこともある)に、多芯ファイバ81の信号光と同じ数(チャンネル数)だけ設けられており、多芯ファイバ81と同様のアレイ状に配列されている。そして、多芯ファイバ81に含まれる複数のファイバコアから出射された信号光が、結合光学系素子50を介して、複数の受光部11にそれぞれ入射される。なお、ここでは、4つのチャンネルの信号光を受光する光受信モジュールについて説明するが、この数に限ったものではなく、2,3,または、5つ以上のチャンネルの信号光を受光するものであっても同様である。
【0019】
受光素子10は、複数の受光部11で受光した信号光に基づいて電気信号を出力する。本実施の形態では、受光素子10は、当該信号光を光電変換して電気信号を生成する。
【0020】
各受光部11は、1つのワイヤ40等を介して1つのアンプ20と電気的に接続されている。アンプ20は、2つの信号入力電極を持つ差動型のアンプであり、ワイヤ40から入力された受光素子10からの電気信号を増幅し、当該増幅した電気信号を外部に出力する。また、各受光部11は、別のワイヤ40等を介して1つのチップコンデンサ30とも電気的に接続されている。チップコンデンサ30は、ワイヤ40を介して受光素子10にバイアス電圧を安定的に印加する。
【0021】
さて、以上のような多チャンネル型の関連光受信モジュール71では、複数の受光部11間(チャンネル間)における、高周波特性のばらつきを抑制することが求められている。しかしながら、
図6に示されるように、周波数が高くなるにつれて、受光素子10の受光面の内側に位置する受光部11の利得(sパラメータ)は、10GHz程度からしばらく上昇してから下降しており、いわゆるピーキングが発生している。それに対し、外側に位置する受光部11の利得(sパラメータ)は、10GHz程度を超えると下降し続ける。したがって、約10GHz以上の周波数において、高周波特性のばらつきが大きくなるという問題があった。
【0022】
また、以上のような多チャンネル型の関連光受信モジュール71では、複数の受光部11間(チャンネル間)における、受光感度のばらつきを抑制することも求められている。これを実現するためには、各受光部11において、多芯ファイバ81から出射され集光された信号光を受光部11内にもれなく集光することが重要である。つまり、組み立て時において、信号光の同士の間隔が、受光面での受光部11同士の間隔と等しくなるように集光光学系及びファイバを調芯することと、複数の信号光(ファイバコア)の配列方向と、複数の受光部11の配列方向とをほぼ一致させることが重要である。しかしながら、配列方向同士の角度ずれのトレランスが少なく、受光部11内に信号光を集光することが困難となっている。次に、
図7,8を用いてこのことを詳細に説明する。
【0023】
図7は、関連光受信モジュール71と多芯ファイバ81とからなる光学装置の組み立てにおいて、複数の信号光82の配列方向と、複数の受光部11の配列方向とを一致させる調整を説明するための図である。この調整では、まず
図7のように、複数の信号光82の配列の中心と、複数の受光部11の配列の中心とを重ねた後、いずれか一方の配列(ここでは信号光82の配列)を回転させて、互いに対応する信号光82及び受光部11の位置を合わせる。ここで、回転精度が十分でなく、配列同士の間に角度ずれが生じた場合には、信号光82の受光部11に対する位置ずれが生じるが、
図7から明らかなように、その位置ずれは、配列の中心からの距離に比例する。その結果、配列の外側(端側)付近においては、信号光82の位置ずれが大きくなる傾向がある。
【0024】
図8は、角度ずれにより発生する位置ずれと、上述の中心からの距離との関係を示すグラフである。ここでは、150μm間隔で受光部11が配置された場合を例にして説明する。例えば、位置ずれのトレランスが2.5μmである場合には、配列の内側(ここでは中心から80μm程度以内)では1.5度の角度ずれまで許容することができるが、配列の外側(ここでは中心から220μm以上)では0.5度の角度ずれまでしか許容することができない。つまり、配列の内側においては、信号光82の位置ずれが許容される角度ずれであっても、配列の外側においては、信号光82の位置ずれが許容できないことがある。
【0025】
ここで、一般的なシングルモードファイバのモード径はおよそ約9μmであるが、部品固定時の移動や使用時に付加される応力、温度変化による熱膨張等、光学系調整後に発生するずれを考慮すれば、受光径が約20μmの円形の受光部11に対しては、許容される位置ずれ量は2〜3μmと小さい。そうであるにもかかわらず、上述したように、信号光82の配列の外側においては、信号光82の位置ずれが大きくなる傾向があることから、配列外側の信号光82の一部が受光部11からもれてしまい、その結果、複数の受光部11間で受光感度がばらつくという問題があった。
【0026】
そこで、本実施の形態に係る光受信モジュールでは、複数の受光部11間における、高周波特性及び受光感度のばらつきを抑制することが可能となっている。以下、このような光受信モジュールについて説明する。
【0027】
図1は、本実施の形態に係る光受信モジュール1及び多芯ファイバ81の構成を示す斜視図であり、
図2は、平面視において長方形状を有する受光素子10の受光面の拡大平面図である。なお、以下、本実施の形態に係る光受信モジュールについての説明において、関連光受信モジュール71で説明した構成要素と類似するものについては同じ符号を付し、重複する説明は適宜省略する。
【0028】
図1に示すように、本実施の形態に係る光受信モジュール1は、関連光受信モジュール71と同様、多チャンネル型の光受信モジュールであり、多芯ファイバ81に含まれるアレイ状に配列された複数のファイバコアから複数の信号光を同時に受光可能となっている。また、光受信モジュール1は、関連光受信モジュール71と同様に、アレイ状に配列された複数の受光部11(11a〜11d)を有する受光素子10と、複数のアンプ20(20a,20b)と、複数のチップコンデンサ30(30a〜30d)と、複数のワイヤ40(40aa,40ab,40ac,40ad,40ba,40bb,40bc,40bd)と、レンズなどの結合光学系素子50とを備えている。
【0029】
図2に示すように、本実施の形態においても、受光素子10の受光面内において、複数の受光部11a〜11dが、この順で、受光素子10の長手方向に沿ってアレイ状に配列されている。つまり、受光部11a,11dは、複数の受光部11a〜11dの配列の外側に位置し、受光部11b,11cは、当該配列の内側に位置している。なお、ここでは、隣り合う2つの受光部11の間隔は、多芯ファイバ81のファイバコアの間隔に対応しており、例えば、数十から数百μm程度となっている。
【0030】
また、本実施の形態では、第1受光部である受光部11a及び第2受光部である受光部11dは、受光素子10の中心点に関して点対称に配置されており、対称性を有している。同様に、第1受光部である受光部11b及び第2受光部である受光部11cは、受光素子10の中心点に関して点対称に配置されており、対称性を有している。
【0031】
受光部11a〜11dは、第1導電部材41(41a〜41d)とそれぞれ接続されている。ここでは、第1導電部材41aは、受光部11aと接続された一端と受光面の長手方向の端部に他端とを有する受光面上の電極12aと、当該電極12aの当該他端と接続されたワイヤ40aaとから構成されている。同様に、第1導電部材41bは、受光部11bと接続された一端と受光面の長手方向の端部に他端とを有する受光面上の電極12bと、当該電極12bの当該他端と接続されたワイヤ40abとから構成されている。第1導電部材41c、41dについても同様に構成されている。
【0032】
なお、本実施の形態では、
図2に示すように、電極12b,12cは電極12a、12dよりも長くなっており、ワイヤ40aa,40ab,40ac,40adの長さは互いに同一であるものとする。これにより、内側の受光部11b、11cに接続された第1導電部材41b,41cの寄生インダクタンスは、外側の受光部11a,11dに接続された第1導電部材41a,41dの寄生インダクタンスよりも大きくなっている。
【0033】
また、同
図2に示すように、受光部11a,11bは、第2導電部材42(42a,42b)とそれぞれ接続され、受光部11c、11dは、第3導電部材43(43c,43d)とそれぞれ接続されている。
【0034】
ここでは、第2導電部材42aは、受光部11aと接続された一端と受光面の短手方向の端部に他端とを有する受光面上の電極13aと、当該電極13aの当該他端と接続されたワイヤ40baとから構成されている。第2導電部材42bについても同様に構成されている。また、第3導電部材43cは、受光部11cと接続された一端と受光面の短手方向の端部に他端とを有する受光面上の電極13cと、当該電極13cの当該他端と接続されたワイヤ40bcとから構成されている。第3導電部材43dについても同様に構成されている。なお、電極13a〜13dは受光面に設けられている。
【0035】
図1に戻って、チップコンデンサ30a〜30dは、複数の第1導電部材41a〜41d(ワイヤ40aa〜40ad)と接続されている。そして、チップコンデンサ30a〜30dは、複数の第1導電部材41a〜41dを介して受光素子10(受光部11a〜11d)に、モジュール外部からのバイアス電圧を安定的に印加する。
【0036】
本実施の形態では、チップコンデンサ30a,30bは、受光素子10の一の短辺に沿って互いに隣接して設けられており、チップコンデンサ30c,30dは、受光素子10の別の短辺に沿ってチップコンデンサ30a,30bとそれぞれ対向するように設けられている。
【0037】
そして、第1導電部材41a及びチップコンデンサ30aと、第1導電部材41d及びチップコンデンサ30dとは、受光部11a及び受光部11dと同様に、受光素子10の中心点に関して点対称に配置されている。また、第1導電部材41b及びチップコンデンサ30bと、第1導電部材41c及びチップコンデンサ30cとは、受光部11b及び受光部11cと同様に、受光素子10の中心点に関して互いに点対称に配置されている。
【0038】
第1増幅器であるアンプ20aは、複数の第2導電部材42a,42b(ワイヤ40ba,40bb)と接続され、複数の第2導電部材42a,42bから入力された受光素子10(受光部11a,11b)からの電気信号を増幅し、当該増幅した電気信号を外部に出力する。第2増幅器であるアンプ20bは、複数の第3導電部材43c、43d(ワイヤ40bc,40bd)と接続され、複数の第3導電部材43c、43dから入力された受光素子10(受光部11c,11d)からの電気信号を増幅し、当該増幅した電気信号を外部に出力する。
【0039】
本実施の形態では、アンプ20aは、受光素子10の一の長辺に沿って設けられており、アンプ20bは、受光素子10の別の長辺に沿ってアンプ20aと対向するように設けられている。
【0040】
そして、第2導電部材42a及びアンプ20aと、第3導電部材43d及びアンプ20bとは、受光部11a及び受光部11dと同様に、受光素子10の中心点に関して点対称に配置されている。これにより、第2導電部材42aの寄生インダクタンスは、第3導電部材43dの寄生インダクタンスと等しくなっている。同様に、第2導電部材42b及びアンプ20aと、第3導電部材43c及びアンプ20bとは、受光部11b及び受光部11cと同様に、受光素子10の中心点に関して点対称に配置されている。これにより、第2導電部材42bの寄生インダクタンスは、第3導電部材43cの寄生インダクタンスと等しくなっている。
【0041】
さて、本実施の形態では、上述したように、内側の受光部11b、11cに接続された第1導電部材41b,41cの寄生インダクタンスは、外側の受光部11a,11dに接続された第1導電部材41a,41dの寄生インダクタンスよりも大きくなっている。このことは、関連光受信モジュール71においても同様となっている。
【0042】
そこで、発明者は、この寄生インダクタンスの差異が、
図6に示す高周波特性のばらつきの原因になっているのではないかと考えた。そして、発明者は、この推察と、受光部11の受光面積が大きくなるにつれて上述のピーキングが大きくなるという知見とに鑑みて、
図2に示すように、各受光部11の受光面積が、当該受光部11と接続された第1導電部材41の寄生インダクタンスに対応している構成を導き出した。
【0043】
ここでは、そのような構成として、ピーキングが生じていなかった、小さい寄生インダクタンスを有する第1導電部材41a,41dと接続された外側の受光部11a,11dの受光面積を、ピーキングが生じていた、大きい寄生インダクタンス有する第1導電部材41b、41cと接続された内側の受光部11b,11cの受光面積よりも大きくしている。また、20GHz程度の周波数を有する信号光を受信するようにするため、受光部11を円形とした場合の受光径は10μm〜30μm程度に設定している。そして、寄生インダクタンスが小さい外側の受光部11a,11dの受光径を、内側の受光部11b、11cの受光径よりも例えば数μm大きくして、接合容量を例えば約10fF大きくしている。
【0044】
図3は、以上のように構成された本実施の形態に係る光受信モジュールに対してシミュレーションを行うことによって得られた高周波特性の結果を示す図である。この
図3に示すように、本実施の形態に係る光受信モジュールによれば、内側の受光部11b,11cだけでなく、外側の受光部11a,11dにおいてもピーキングが発生する。したがって、複数の受光部11a〜11d間における高周波特性のばらつきを抑制することができる。
【0045】
なお、高周波特性のばらつきを抑制する構成として、第1導電部材41の寄生インピーダンスを等しくするように、その配線長を等しくすることも考えられるが、この条件を満たしながら、互いにサイズの異なるアンプ20及びチップコンデンサ30を受光素子10の周囲に設けることは困難である。したがって、この観点からも、本実施の形態のように、受光部11の受光面積を第1導電部材41の寄生インダクタンスに対応させることは有効である。
【0046】
また、本実施の形態では、
図4に示すように、複数の受光部11a〜11dの配列の外側に位置する受光部11a,11dの受光面積は、当該配列の内側に位置する受光部11b,11cの受光面積よりも大きくしている。したがって、配列の外側の受光部11における信号光82の受光もれを抑制することができることから、信号光82の配列方向と、受光部11の配列方向との間の角度ずれのトレランスを大きくすることができる。よって、複数の受光部11間での、受光感度のばらつきを抑制することができ、角度調整で要求される精度を緩和し、光学系調芯を容易にすることができる。
【0047】
なお、例えば、受光径を数μm拡大すれば、約1度の角度ずれを許容することが可能である。以上のことから、受光部11の受光面積は、信号光82のデータレートから許容される最大の面積とすることが望ましい。
【0048】
また、本実施の形態では、第2導電部材42a,42bの寄生インダクタンスは、第3導電部材43c,43dの寄生インダクタンスと等しくしている。この場合には、複数の受光部11a〜11d間での高周波特性のばらつきをより確実に抑制することができる。