特許第5826275号(P5826275)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5826275
(24)【登録日】2015年10月23日
(45)【発行日】2015年12月2日
(54)【発明の名称】波動歯車装置の可撓性外歯歯車
(51)【国際特許分類】
   F16H 1/32 20060101AFI20151112BHJP
【FI】
   F16H1/32 B
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-528847(P2013-528847)
(86)(22)【出願日】2011年8月17日
(86)【国際出願番号】JP2011004609
(87)【国際公開番号】WO2013024511
(87)【国際公開日】20130221
【審査請求日】2014年4月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】390040051
【氏名又は名称】株式会社ハーモニック・ドライブ・システムズ
(74)【代理人】
【識別番号】100090170
【弁理士】
【氏名又は名称】横沢 志郎
(72)【発明者】
【氏名】ムーン ステファニー
(72)【発明者】
【氏名】滝沢 登
【審査官】 北中 忠
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−97861(JP,A)
【文献】 特開昭62−75154(JP,A)
【文献】 特開2007−16838(JP,A)
【文献】 特開昭60−14634(JP,A)
【文献】 特開昭62−75153(JP,A)
【文献】 特開2004−100935(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/28−1/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
波動歯車装置の可撓性外歯歯車であって、
円盤状あるいは円環状の剛体であるボスと、
前記ボスの外周部分に連続して当該ボスの半径方向の外方に広がっているダイヤフラム板と、
前記ダイヤフラム板のダイヤフラム外周縁部分に連続して前記ボスの中心軸線の方向に延びている半径方向に撓み可能な円筒状胴部と、
前記円筒状胴部の開口端の側の外周面部分に形成した外歯と
を備えており、
前記ダイヤフラム板は、前記ボスの前記外周部分に連続しているダイヤフラム内周縁部分から前記ダイヤフラム外周縁部分に向けて、前記中心軸線に直交する直交平面に対して、前記ダイヤフラム外周縁部分が前記円筒状胴部の前記開口端から遠ざかる方向に傾斜し、前記ダイヤフラム外周縁部分が前記開口端から最も離れた位置にあり、
前記ダイヤフラム板の長さは、前記中心軸線に直交する方向に延びて前記円筒状胴部に繋がっている場合に比べて長く、
前記円筒状胴部の前記中心軸線の方向の長さは、前記ダイヤフラム板が前記中心軸線に直交する方向に延びて当該円筒状胴部に繋がっている場合に比べて長いことを特徴とする波動歯車装置の可撓性外歯歯車。
【請求項2】
請求項1において、
前記ダイヤフラム板は、前記ボスの前記中心軸線の方向の厚さ寸法内に収まる範囲内で傾斜配置されていることを特徴とする波動歯車装置の可撓性外歯歯車。
【請求項3】
請求項1において、
前記ダイヤフラム板は、前記ダイヤフラム内周縁部分から前記ダイヤフラム外周縁部分に向けて肉厚が漸減していることを特徴とする波動歯車装置の可撓性外歯歯車。
【請求項4】
請求項1において、
前記ダイヤフラム板における前記開口端の側のダイヤフラム内側端面は、前記ボスにおける前記開口端の側のボス内側端面に滑らかに連続しており、
前記ダイヤフラム板における前記開口端とは反対側のダイヤフラム外側端面は、前記ボスの円形外周面に滑らかに連続していることを特徴とする波動歯車装置の可撓性外歯歯車。
【請求項5】
請求項4において、
前記中心軸線を含む平面で切断した場合に、
前記ボス内側端面は前記中心軸線に直交する内側直線によって規定されており、
前記ダイヤフラム内側端面は、前記内側直線の端点に滑らかに連続している内側に凸の内側凸曲線と、この内側凸曲線の端点に滑らかに連続している内側傾斜直線とによって規定されており、
前記内側傾斜直線は、その円筒状胴部側の端点がそのボス側の端点に対して前記ボス内側端面から離れる方向に、前記ボス内側端面を規定している前記内側直線に対して第1の傾斜角度で傾斜しており、
前記ボスにおける前記ボス内側端面とは反対側のボス外側端面は、前記中心軸線に直交する外側直線によって規定されており、
前記ボス外側端面の外周縁に連続しているボス円形外周面は、前記外側直線の端点から前記ボス内側端面の側に向けて折れ曲がって延びている外周側直線によって規定されており、
前記ダイヤフラム外側端面は、前記外周側直線の端点に滑らかに連続している内側に凹の第1凹曲線と、この第1凹曲線の端点に滑らかに連続している内側に凹の第2凹曲線と、この第2凹曲線の端点に滑らかに連続している第3凹曲線と、この第3凹曲線の端点に滑らかに連続している外側傾斜直線とによって規定されており、
前記第1凹曲線、前記第2凹曲線および前記第3凹曲線の曲率半径は、この順序に大きくなるように設定されており、
前記外側傾斜直線は、前記内側傾斜直線と同一方向に、前記第1の傾斜角度よりも小さな第2の傾斜角度で傾斜していることを特徴とする波動歯車装置の可撓性外歯歯車。
【請求項6】
波動歯車装置の可撓性外歯歯車であって、
円盤状あるいは円環状の剛体であるボスと、
前記ボスの外周部分に連続して当該ボスの半径方向の外方に広がっているダイヤフラム板と、
前記ダイヤフラム板のダイヤフラム外周縁部分に連続して前記ボスの中心軸線の方向に延びている半径方向に撓み可能な円筒状胴部と、
前記円筒状胴部の開口端の側の外周面部分に形成した外歯とを備えており、
前記ダイヤフラム板は、前記ボスの前記外周部分に連続しているダイヤフラム内周縁部分から前記ダイヤフラム外周縁部分に向けて、前記中心軸線に直交する直交平面に対して、前記ダイヤフラム外周縁部分が前記円筒状胴部の前記開口端から遠ざかる方向に傾斜しており、
前記ダイヤフラム板における前記開口端の側のダイヤフラム内側端面は、前記ボスにおける前記開口端の側のボス内側端面に滑らかに連続しており、
前記ダイヤフラム板における前記開口端とは反対側のダイヤフラム外側端面は、前記ボスの円形外周面に滑らかに連続しており、
前記中心軸線を含む平面で切断した場合に、
前記ボス内側端面は前記中心軸線に直交する内側直線によって規定されており、
前記ダイヤフラム内側端面は、前記内側直線の端点に滑らかに連続している内側に凸の内側凸曲線と、この内側凸曲線の端点に滑らかに連続している内側傾斜直線とによって規定されており、
前記内側傾斜直線は、その円筒状胴部側の端点がそのボス側の端点に対して前記ボス内側端面から離れる方向に、前記ボス内側端面を規定している前記内側直線に対して第1の傾斜角度で傾斜しており、
前記ボスにおける前記ボス内側端面とは反対側のボス外側端面は、前記中心軸線に直交する外側直線によって規定されており、
前記ボス外側端面の外周縁に連続しているボス円形外周面は、前記外側直線の端点から前記ボス内側端面の側に向けて折れ曲がって延びている外周側直線によって規定されており、
前記ダイヤフラム外側端面は、前記外周側直線の端点に滑らかに連続している内側に凹の第1凹曲線と、この第1凹曲線の端点に滑らかに連続している内側に凹の第2凹曲線と、この第2凹曲線の端点に滑らかに連続している第3凹曲線と、この第3凹曲線の端点に滑らかに連続している外側傾斜直線とによって規定されており、
前記第1凹曲線、前記第2凹曲線および前記第3凹曲線の曲率半径は、この順序に大きくなるように設定されており、
前記外側傾斜直線は、前記内側傾斜直線と同一方向に、前記第1の傾斜角度よりも小さな第2の傾斜角度で傾斜していることを特徴とする波動歯車装置の可撓性外歯歯車。
【請求項7】
剛性内歯歯車と、
前記剛性内歯歯車の内側に同軸状態に配置されている可撓性外歯歯車と、
前記可撓性外歯歯車の内側に嵌め込まれ、当該可撓性外歯歯車を非円形に撓めて、前記剛性内歯歯車に対して部分的に噛み合わせている波動発生器とを有し、
前記波動発生器の回転に伴って、前記剛性内歯歯車と前記可撓性外歯歯車の噛み合い位置が周方向に移動して、これら両歯車の歯数差に応じた相対回転が両歯車の間に発生する波動歯車装置において、
前記可撓性外歯歯車は請求項1ないし6のうちのいずれかの項に記載の可撓性外歯歯車であることを特徴とする波動歯車装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波動歯車装置の負荷容量を高めることのできる新たな形状の可撓性外歯歯車に関する。
【背景技術】
【0002】
波動歯車装置としては、その可撓性外歯歯車がカップ形状をしているカップ型の波動歯車装置が知られており、図4にはカップ型の波動歯車装置の縦断面を示してある。この図に示すように、波動歯車装置1Aは、円環状の剛性内歯歯車2Aと、剛性内歯歯車2Aの内側に同軸状態に配置されているカップ形状の可撓性外歯歯車3Aと、可撓性外歯歯車3Aの内側に嵌め込まれ、当該可撓性外歯歯車3Aを楕円状に撓めて剛性内歯歯車2Aに対して部分的に噛み合わせている楕円状輪郭の波動発生器4Aとを有している。
【0003】
カップ形状の可撓性外歯歯車3Aは、円盤状の剛体である一定厚さのボス5Aと、ボス5Aの円形外周面から半径方向の外方に延びている面外方向に撓み可能なダイヤフラム板6Aと、ダイヤフラム板6Aの円形外周縁に連続して装置中心軸線の方向に延びている半径方向に撓み可能な円筒状胴部7Aと、円筒状胴部7Aにおける開口端の側の外周面部分に形成した外歯8Aとを備えている。
【0004】
可撓性外歯歯車3Aにおける外歯8Aが形成されている円筒状胴部7Aの部分は、波動発生器4Aによって楕円状に撓められ、その楕円状曲線の長軸方向の両端に位置する外歯8Aが剛性内歯歯車2Aの内歯9Aに噛み合っている。両歯車2A、3Aには2n(nは正の整数、一般的にはn=1)の歯数差があるので、波動発生器4Aが回転すると、両歯車の噛み合い位置が周方向に移動して、両歯車2A、3Aの間には歯数差に応じた相対回転が発生する。一方の歯車を回転しないように固定し、他方の歯車を回転自在の状態に支持しておくことにより、回転自在に支持されている歯車が波動発生器4Aの回転速度に比べて大幅に減速された回転速度で回転する。
【0005】
ここで、波動発生器4Aによって楕円状に撓められるカップ形状の可撓性外歯歯車3Aの円筒状胴部7Aは、図5(a)に示すように変形前の状態の断面は真円である。波動発生器4Aによって楕円状に撓められた後においては、その楕円状曲線の長軸を含む断面上では、図5(b)に示すように、円筒状胴部7Aはダイヤフラム板6Aの側から開口端7aの側に向けて外側に徐々に広がった状態になる。逆に楕円状曲線の短軸を含む断面上では、図5(c)に示すように、円筒状胴部7Aはダイヤフラム板6Aの側から開口端の側に向けて内側に窄まった状態になる。
【0006】
円筒状胴部7Aの開口端7aの側の部分を楕円状に撓めるために、円筒状胴部7Aと剛性のボス5Aの間がダイヤフラム板6Aを介して繋がっている。図5(b)に示すように、楕円状曲線の長軸を含む断面上では、ダイヤフラム板6Aがボス5Aへの付け根部分を中心として矢印で示すように反り返る。これに対して、短軸を含む断面上では、図5(c)に示すように、ダイヤフラム板6Aが開口端7aの側に僅かに倒れる。ダイヤフラム板6Aには、円筒状胴部7Aの開口端7aの側の各部分が半径方向に繰り返し撓められる際に装置中心軸線1aに沿った前後方向に繰り返し曲げ変形が生ずる。よって、ダイヤフラム板6Aには、トルク伝達によるせん断応力と共に曲げ変形に伴う曲げ応力が作用する。
【0007】
このため、ダイヤフラム板6Aに生ずる上記の応力の組み合わせ応力を小さくでき、大きなトルク伝達を行うことができるように、ダイヤフラム板6Aの断面形状には工夫が施されている。特許文献1(実開昭61−173851号公報)にはダイヤフラム板におけるボスとのつなぎ目部分における応力集中を緩和させるための断面形状が提案されている。特許文献2(特開平6−17888号公報)には、ダイヤフラム板におけるボスとの付け根部分の厚さをダイヤフラム板の最小肉厚の3倍以上とすると共に、ボスとの付け根部分から半径方向の外周縁に向けて肉厚が漸減するようにして、軸長の短いカップ形状の可撓性外歯歯車に過剰な応力集中が発生しないようにしている。特許文献3(特開2006−57684号公報)においては、高減速比のカップ型の波動歯車装置において、負荷容量を高めるためのダイヤフラム板の各部分の板厚を規定する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】実開昭61−173851号公報
【特許文献2】特開平6−17888号公報
【特許文献3】特開2006−57684号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここで、従来におけるカップ形状の可撓性外歯歯車においては、そのダイヤフラム板の板厚、特にボスに取り付けられている部分の板厚変化については考慮されているが、ダイヤフラム板のそれ以外の形状については考慮されていない。すなわち、上記の特許文献1〜3に示されているように、典型的なダイヤフラム板の断面形状は、ボスにおける内側端面に連続して装置中心軸線に直交する半径方向の外方に延びる平坦な内側端面と、ボスにおける円形外周面に連続して半径方向の外方に延びる外側端面とによって規定されており、全体として、装置中心軸線に直交する方向(半径方向)に延びている。
【0010】
本発明の課題は、波動歯車装置の負荷容量を高めるために、従来において考慮されていなかったダイヤフラム板の形状に改良を加えたカップ形状の可撓性外歯歯車を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、本発明による波動歯車装置の可撓性外歯歯車は、
波動歯車装置の可撓性外歯歯車であって、
円盤状あるいは円環状の剛体であるボスと、
前記ボスの外周部分に連続して当該ボスの半径方向の外方に広がっているダイヤフラム板と、
前記ダイヤフラム板のダイヤフラム外周縁部分に連続して前記ボスの中心軸線の方向に延びている半径方向に撓み可能な円筒状胴部と、
前記円筒状胴部の開口端の側の外周面部分に形成した外歯と
を備えており、
前記ダイヤフラム板は、前記ボスの前記外周部分に連続しているダイヤフラム内周縁部分から前記ダイヤフラム外周縁部分に向けて、前記中心軸線に直交する直交平面に対して、前記ダイヤフラム外周縁部分が前記円筒状胴部の前記開口端から遠ざかる方向に傾斜し、前記ダイヤフラム外周縁部分が前記開口端から最も離れた位置にあり、
前記ダイヤフラム板の長さは、前記中心軸線に直交する方向に延びて前記円筒状胴部に繋がっている場合に比べて長く、
前記円筒状胴部の前記中心軸線の方向の長さは、前記ダイヤフラム板が前記中心軸線に直交する方向に延びて当該円筒状胴部に繋がっている場合に比べて長いことを特徴としている。
【0012】
本発明の可撓性外歯歯車では、そのダイヤフラム板が中心軸線に直交する直交平面に対して、ボス側の内周縁部分から円筒状胴部側の外周縁部分に向けて、外周縁部分が円筒状胴部の開口端から遠ざかる方向に傾斜している。ダイヤフラム板が中心軸線に直交する方向に延びている場合に比べて、ダイヤフラム板におけるボスから円筒状胴部までの長さを長くとることができ、かつ、円筒状胴部の軸長も長くとることができる。また、ダイヤフラム板が中心軸線に直交する直交平面に対して本発明の場合とは逆方向に傾斜している場合に比べて、円筒状胴部の軸長を大幅に長くとることができる。
【0013】
すなわち、本発明の可撓性外歯歯車では、従来と同一径の可撓性外歯歯車と比較すると、ダイヤフラム板の長さ寸法を大きくすることができるので、当該ダイヤフラム板の応力集中を緩和できる。また、従来の同一径および同一軸長の可撓性外歯歯車と比較すると、ダイヤフラム板の長さ寸法と円筒状胴部の軸線方向の長さ寸法の双方を共に大きくすることができるので、波動歯車装置の性能に大きく影響する波動発生器によるベアリング反力を大幅に小さくすることができる。この結果、ダイヤフラム板の疲労強度を高めることができると共に、当該可撓性外歯歯車が組み込まれている波動歯車装置の負荷容量を高めることができる。
【0014】
ここで、前記ダイヤフラム板は、前記ボスの前記中心軸線方向の厚さ寸法内に収まる範囲内で傾斜配置されていることが望ましい。このようにすれば、装置寸法を増加させることなく、波動歯車装置の負荷容量を高めることができる。
【0015】
本発明のダイヤフラム板において、ボス側に連続している部分に最も大きな応力が発生するので、応力集中を緩和するためには、前記ダイヤフラム板の板厚を、前記内周縁部分から前記外周縁部分に向けて漸減するように設定することが望ましい。
【0016】
ここで、前記ボスの前記円形外周面における前記開口端の側に片寄った部位から前記ダイヤフラム板を半径方向の外方に延ばすことができる。一般的には、前記ダイヤフラム板における前記円筒状胴部の開口端の側のダイヤフラム内側端面の内周縁部分が、前記ボスにおける前記円筒状胴部の開口端の側の内側端面に滑らかに連続し、前記ダイヤフラム板における前記円筒状胴部の開口端とは反対側のダイヤフラム外側端面の内周縁部分が、前記ボスの前記円形外周面に滑らかに連続するように、ダイヤフラム板が形成される。
【0017】
この場合、中心軸線を含む平面で切断した場合におけるボスおよびダイヤフラム板の断面形状を次のように規定すれば、これらの部分における応力集中を緩和できるので望ましい。すなわち、ボスおよびダイヤフラム板の内側端面の形状を次のように規定する。
(a1)前記ボス内側端面を前記中心軸線に直交する内側直線によって規定する。
(a2)前記ダイヤフラム内側端面を、前記内側直線の端点に滑らかに連続している内側に凸の内側凸曲線と、この内側凸曲線の端点に滑らかに連続している内側傾斜直線とによって規定する。
(a3)前記内側傾斜直線を、その円筒状胴部側の端点がそのボス側の端点に対して前記ボス内側端面から離れる方向に、前記ボス内側端面を規定している前記内側直線に対して第1の傾斜角度で傾斜させる。
【0018】
また、ボスおよびダイヤフラム板の外側端面の形状を次のように規定する。
(b1)前記ボスにおける前記ボス内側端面とは反対側のボス外側端面を前記中心軸線に直交する外側直線によって規定する。
(b2)前記ボス外側端面の外周縁に連続しているボス円形外周面を、前記外側直線の端点から前記ボス内側端面の側に向けて折れ曲がって延びている外周側直線によって規定する。
(b3)前記ダイヤフラム外側端面を、前記外周側直線の端点に滑らかに連続している内側に凹の第1凹曲線と、この第1凹曲線の端点に滑らかに連続している内側に凹の第2凹曲線と、この第2凹曲線の端点に滑らかに連続している第3凹曲線と、この第3凹曲線の端点に滑らかに連続している外側傾斜直線とによって規定する。
(b4)前記第1凹曲線、前記第2凹曲線および前記第3凹曲線の曲率半径を、この順序に大きくなるように設定する。
(b5)前記外側傾斜直線を、前記内側傾斜直線と同一方向に、前記第1の傾斜角度よりも小さな第2の傾斜角度で傾斜させる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の可撓性外歯歯車では、そのダイヤフラム板が中心軸線に直交する半径方向に対して、ボス側の内周縁部分から円筒状胴部側の外周縁部分に向けて、外周縁部分が円筒状胴部の開口端から遠ざかる方向に傾斜している。したがって、従来と同一径の可撓性外歯歯車と比較すると、ダイヤフラム板の長さを長くとることができるので、当該ダイヤフラム板の応力集中を緩和できる。また、従来の同一径および同一軸長の可撓性外歯歯車と比較すると、ダイヤフラム板の長さ、および円筒状胴部の長さを長くすることができるので、波動歯車装置の性能に大きく影響する波動発生器によるベアリング反力を大幅に小さくすることができる。よって、本発明によれば、ダイヤフラム板の疲労強度を高めることができると共に、当該可撓性外歯歯車が組み込まれている波動歯車装置の負荷容量を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明を適用したカップ型の波動歯車装置を示す概略縦断面図および概略構成図である。
図2】(a)は図1のカップ型の波動歯車装置の可撓性外歯歯車を示す半断面図であり、(b)は従来の可撓性外歯歯車を示す半断面図である。
図3図2(a)に示す可撓性外歯歯車を示す拡大部分断面図である。
図4】従来における典型的なカップ型の波動歯車装置を示す概略縦断面図である。
図5】カップ形状の可撓性外歯歯車の撓み状態を示す説明図であり、(a)は変形前の状態を示す縦断面図であり、(b)は楕円状に変形した後における長軸を含む断面上の変形状態を示す説明図であり、(c)は楕円状に変形した後における短軸を含む断面上の変形状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、図面を参照して本発明を適用したカップ型の波動歯車装置の実施の形態を説明する。
【0022】
図1(a)は本実施の形態に係るカップ型の波動歯車装置を示す概略縦断面図であり、図1(b)は装置中心軸線に直交する面で切断した場合の概略構成図である。
【0023】
カップ型の波動歯車装置1(以下、単に「波動歯車装置1」と呼ぶ。)の基本構成は図4図5に示す従来における波動歯車装置1Aと同様であり、波動歯車装置1は、円環状の剛性内歯歯車2と、剛性内歯歯車2の内側に同軸状態に配置されているカップ形状の可撓性外歯歯車3と、可撓性外歯歯車3の内側に嵌め込まれている波動発生器4を有している。波動発生器4は楕円状輪郭をしており、可撓性外歯歯車3を楕円状に撓めて剛性内歯歯車2に対して部分的に噛み合わせている。
【0024】
カップ形状の可撓性外歯歯車3は、円環状の剛体である一定厚さのボス5と、ボス5の円形外周面5aから半径方向の外方に延びている面外方向に撓み可能なダイヤフラム板6と、ダイヤフラム板6の円形外周縁に連続して装置中心軸線1aの方向に延びている半径方向に撓み可能な円筒状胴部7と、円筒状胴部7における開口端7aの側の外周面部分に形成した外歯8とを備えている。外歯8は剛性内歯歯車2の内歯9に対して楕円状曲線の長軸Lの両端側の部位で噛み合っている。
【0025】
図2はカップ形状の可撓性外歯歯車3を従来の可撓性外歯歯車3Aと比較して示す半断面図であり、図3は可撓性外歯歯車3の部分拡大断面図である。これらの図に示すように、可撓性外歯歯車3のダイヤフラム板6は、ボス5の円形外周面5aに連続しているダイヤフラム内周縁部分6aから円筒状胴部7に連続しているダイヤフラム外周縁部分6bに向けて、装置中心軸線1aに直交する直交平面Vに対して、ダイヤフラム外周縁部分6bが円筒状胴部7の開口端7aから遠ざかる方向に傾斜している。また、ダイヤフラム板6は、ダイヤフラム内周縁部分6aからダイヤフラム外周縁部分6bに向けて肉厚が漸減している。
【0026】
ダイヤフラム板6は、ボス5の円形外周面5aにおける開口端7aの側に片寄った部位から外方に延びている。すなわち、ダイヤフラム板6における開口端7aの側のダイヤフラム内側端面12の内周縁部分が、ボス5における開口端7aの側のボス内側端面11に滑らかに連続し、ダイヤフラム板6における開口端7aとは反対側のダイヤフラム外側端面22の内周縁部分が、ボス5の円形外周面5aに滑らかに連続するように、ダイヤフラム板6が形成されている。
【0027】
さらに詳しく説明すると、可撓性外歯歯車3の装置中心軸線1aを含む平面で切断した場合における可撓性外歯歯車3の各部の断面形状は次のように規定されている。
【0028】
まず、ボス5におけるボス内側端面11は装置中心軸線1aに直交する内側直線14によって規定されている。ダイヤフラム内側端面12は、内側直線14の端点14aに滑らかに連続している内側凸曲線15と、この内側凸曲線15の端点15aに滑らかに連続している内側傾斜直線16によって規定されている。内側凸曲線15は、外側に中心O15が位置する曲率半径R15の曲線である。円筒状胴部7の内周面13は、内側傾斜直線16の端点16aに滑らかに連続している内側凹曲線17と、この内側凹曲線17の端点17aに滑らかに連続している内周側直線18によって規定されている。内側凹曲線17は、内側に中心O17が位置する曲率半径R17の曲線である。内周側直線18は装置中心軸線1aに平行な直線である。
【0029】
これに対して、ボス外側端面21は装置中心軸線1aに直交する外側直線24によって規定されている。ボス外側端面21の外周縁に連続しているボス5の円形外周面5aは、外側直線24の端点24aからボス内側端面11の側に向けてほぼ直角に折れ曲がって延びている外周側直線25によって規定されている。
【0030】
ダイヤフラム外側端面22は、外周側直線25の端点25aに滑らかに連続している内側に凹の第1凹曲線26と、この第1凹曲線26の端点26aに滑らかに連続している内側に凹の第2凹曲線27と、この第2凹曲線27の端点27aに滑らかに連続している第3凹曲線28と、この第3凹曲線28の端点28aに滑らかに連続している外側傾斜直線29によって規定されている。第1凹曲線26は外側に中心O26が位置する曲率半径R26の曲線であり、第2凹曲線27は外側に中心O27が位置する曲率半径R27の曲線であり、第3凹曲線28は外側に中心O28が位置する曲率半径R28の曲線である。これらの曲線の曲率半径は次の関係となっている。また、内側凸曲線15の曲率半径R15は曲率半径R28よりも大きい。
26<R27<R28
【0031】
円筒状胴部7の外周面23は、外側傾斜直線29の端点29aに滑らかに連続している凸曲線30と、この凸曲線30の端点30aに滑らかに連続している凹曲線31と、この凹曲線31の端点31aに滑らかに連続している凸曲線32と、この凸曲線32の端点32aに滑らかに連続している直線33と、この直線33の端点33aに滑らかに連続している凹曲線34と、この凹曲線34の端点34aから延びている外歯8の歯先側の輪郭線35によって規定されている。凸曲線30は内側に中心O17が位置する曲率半径R30の曲線であり、凹曲線31は外側に中心O31が位置する曲率半径R31の曲線であり、凸曲線32は内側の中心O32が位置する曲率半径R32の曲線であり、凹曲線34は外側に中心O34が位置する曲率半径R34の曲線である。また、直線33は装置中心軸線1aに平行な直線である。
【0032】
ここで、ダイヤフラム板6における内側傾斜直線16は、その円筒状胴部側の端点16aがそのボス側の端点15aに対してボス外側端面21の側に位置する方向に、ボス内側端面11を規定している内側直線14に対して第1の傾斜角度θで傾斜している。これに対して、外側傾斜直線29は、内側傾斜直線16と同一方向に、第1の傾斜角度θよりも小さな第2の傾斜角度θで傾斜している。なお、ダイヤフラム板6は、ボス5の厚さTの範囲内に収まるように傾斜させることが望ましい。
【0033】
このようにボス5、ダイヤフラム板6および円筒状胴部7の断面形状が規定されている。したがって、ボス5の板厚Tが最も厚く、これに連続しているダイヤフラム板6の内周縁部分6aにおいては、内側凸曲線15と、外側の第1〜第3凹曲線26〜28とによって、ボス側から板厚が漸減している。また、内周縁部分6aから外周縁部分6bに向けて、傾斜角度の異なる内側傾斜直線16と外側傾斜直線29によって、板厚が漸減している。
【0034】
円筒状胴部7におけるダイヤフラム板6の側に接続している部分は、同一中心O17同一曲率の曲線17、30によって規定されているので、同一の板厚となっている。これに繋がっている円筒状胴部7の部分は内側が内周側直線18によって規定され、外側が凹曲線31によって規定されているので、途中位置に円筒状胴部7における最小板厚部分7bが形成されている。
【0035】
以上説明したように、波動歯車装置1のカップ形状の可撓性外歯歯車3では、そのダイヤフラム板6が装置中心軸線1aに直交する直交平面Vに対して、全体として、ボス5の側の内周縁部分6aから円筒状胴部7の側の外周縁部分6bに向けて、外周縁部分6bが内周縁部分6aに対して外側に位置するように傾斜している。
【0036】
したがって、ダイヤフラム板6が装置中心軸線1aに直交する方向に延びている場合に比べて、ダイヤフラム板6におけるボス5から円筒状胴部7までの長さ寸法を大きくとることができ、かつ、円筒状胴部7の軸長も大きくとることができる。また、ダイヤフラム板6が装置中心軸線1aに直交する直交平面Vに対して本発明の場合とは逆方向に傾斜している場合に比べて、円筒状胴部7の軸長を大幅に大きくとることができる。
【0037】
すなわち、図2(a)に示す本例の可撓性外歯歯車3を、図2(b)に示す従来の同一径D、同一軸長Lの可撓性外歯歯車3Aと比較すると、ダイヤフラム板6の長さ寸法Lを従来の長さ寸法L6Aに比べて大きくできると共に、円筒状胴部7の軸線方向の長さ寸法Lを従来の長さ寸法L7Aに比べて大きくすることができる。この結果、ダイヤフラム板6に発生する応力集中を緩和して発生応力を低減できると共に、波動歯車装置1の性能に大きく影響する波動発生器4によるベアリング反力F(図5(b)参照)を小さくすることができる。したがって、ダイヤフラム板6の疲労強度を高めることができると共に、当該可撓性外歯歯車3が組み込まれている波動歯車装置1の負荷容量を従来に比べて高めることができる。
図1
図2
図3
図4
図5