(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上下翼板(11,12) の前端部が案内柱(13)により連結されたスライダー胴体(10)と、引手本体部(21)の一端部に枢軸部(22)を有する引手(20)と、屈曲した板バネ部材(50)とを備え、
前記上翼板(11)は、前記スライダー胴体(10)の後口側に形成された爪孔(11e) と、前記爪孔(11e) よりも前方側にて起立する第1柱部(11a) と、前記第1柱部(11a) よりも後方側にて起立する第2柱部(11c) とを有し、
前記板バネ部材(50)は、前記引手(20)の前記枢軸部(22)を上方から押さえる基板部(51)と、前記基板部(51)の後端から延出した停止爪部(53)と、前記基板部(51)から下方に延出する舌片部(55)とを有し、且つ、前記引手(20)の回動により前記停止爪部(53)を前記スライダー胴体(10)のエレメント案内路(15)に挿抜可能に前記スライダー胴体(10)に嵌着した停止機構付スライドファスナー用スライダー(3) であって、
引手(20)は、前記引手本体部(21)における厚さ方向の中心面と、前記枢軸部(22)における厚さ方向の中心面とが同じ平面上に配されるように構成され、
前記板バネ部材(50)は、前記舌片部(55)に配され、前記第1柱部(11a) に当接して上方への移動が規制される当接面(56a) をもつ第1規制部と、前記停止爪部(53)に配され、前記第2柱部(11c) に当接して上方への移動が規制される当接面(57a) をもつ第2規制部とを有し、
前記引手(20)の後方倒伏時又は前方倒伏時における前記第2規制部の前記当接面(57a) と前記第2柱部(11c) の当接面との間の距離が前記第1規制部の前記当接面(56a) と前記第1柱部(11a) の当接面との間の距離の2倍より大きく設定され、
前記上翼板(11)の上面に対する前記引手(20)の傾斜角度αを0°とした場合、前記第1及び第2規制部は、前記引手(20)の前記枢軸部(22)が前記上翼板(11)の上面に当接させた状態で前記引手(20)の前記傾斜角度αが0°≦α≦180°の全範囲にわたり、前記第1及び第2柱部(11a,11c) からそれぞれ離間する位置に配され、
前記第1及び第2規制部は、前記引手(20)の前記枢軸部(22)が前記上翼板(11)から離間状態のときに、前記第1柱部(11a) 及び前記第2柱部(11c) にそれぞれ当接し上方への移動が規制される関係に配され、
前記第2規制部は、前記引手(20)が操作されて、前記第1規制部が前記第1柱部(11a) に当接して上方への移動が規制された状態から前記板バネ部材(50)の前記基板部(51)が更に持ち上げられたときに、又は、前記第1規制部が前記第1柱部(11a) に当接して上方への移動が規制されると同時に、前記第2柱部(11c) に当接し上方への移動が規制される関係に配されてなる、
ことを特徴とするスライドファスナー用スライダー。
【背景技術】
【0002】
従来、スライドファスナーは各種の衣類や鞄類の開口部に取り付けられ、同スライドファスナーに配されたスライダーを摺動操作することにより、左右のエレメント列を噛合又は分離させて開口部を開閉することができる。また、スライドファスナーに用いられるスライダーとして、エレメント列上の任意の位置にてスライダーを停止させたときに、そのスライダーを停止位置で保持することが可能な停止機構を備えたものが知られている。
【0003】
例えば特開2005−176910号公報(特許文献1)には、上述のような停止機構付きのスライダー100が開示されている。
図10に示したように、この特許文献1に記載されているスライダー100は、スライダー胴体90、引手110、及び板バネ部材80の3つの部品から構成されている。
【0004】
引手110は、スライダー100の操作時に指で摘む部分となる引手本体部111と、引手本体部111の一端部に配され、断面がカム形状の枢軸部112とを有している。特許文献1の場合、引手110の枢軸部112は、引手110をスライダー胴体90の後口側に倒伏させたときに引手本体部111に対して下方へ偏倚するように配されている。
【0005】
特許文献1の板バネ部材80は、縦断面が略C字状に屈曲した形態を呈し、中間基板部81と、中間基板部81の前端から延出した垂下片部82と、中間基板部81の後端から下方に延出した停止爪部83とを有している。また、中間基板部81には、上面窓部84が開口するとともに、この上面窓部84の後側開口縁から前方に下り傾斜する舌片部85が延出されている。この舌片部85には第1窓部86が開口し、中間基板部81から停止爪部83に亘っては第2窓部87が開口している。更に、垂下片部82の先端部には、幅方向に張り出す図示しない突起部が配されている。
【0006】
特許文献1のスライダー胴体90は、上翼板91と下翼板92の前端部が連結柱93で連結されて構成されている。このスライダー胴体90の前端には、連結柱93を間に挟んで左右の肩口が配され、スライダー胴体90の後端には後口が配されており、上下翼板91,92間には、左右の肩口と後口とを連通するエレメント案内路95が形成されている。
【0007】
上翼板91は、前端部にて起立する第1柱部91aと、第1柱部91aよりも後方位置にて起立する第2柱部91bとを有するとともに、第1柱部91aの後方側近傍には、板バネ部材80の舌片部85を挿入する挿入孔91cが設けられ、第2柱部91bの後方側近傍には、板バネ部材80の停止爪部83を挿入する爪孔91dが設けられている。また、第1柱部91aの先端部は、幅方向の中央部に配された突出部91eと、同突出部91eの左右両側に配され、板バネ部材80の舌片部85に当接する図示しない当接部とを有している。この場合、当接部の先端面は、上翼板91の上面に対して直交する向きに配されている。
【0008】
また、同スライダー胴体90の前端部(案内柱の前面側)には、板バネ部材80の垂下片部82が嵌入する前端溝部96が配されており、前端溝部96内の下端部には、垂下片部82の前記突起部を係止する図示しない係止部が前方へ向けて突設されている。
【0009】
上述のような部品を有するスライダー100を組み立てる場合、引手110の枢軸部112を上翼板91の上面に載置した後、板バネ部材80の舌片部85及び停止爪部83を上翼板91の挿入孔91c及び爪孔91dにそれぞれ挿入する。次に、板バネ部材80の舌片部85を上翼板91に配した第1柱部91aの当接部に圧接させながら、板バネ部材80の垂下片部82をスライダー胴体90の前端溝部96に嵌入させ、更に、板バネ部材80を弾性変形させながら垂下片部82を下方に押し下げることにより、垂下片部82の突起部をスライダー胴体90の係止部に係合させる。これにより、板バネ部材80がスライダー胴体90に嵌着し、
図10に示したようなスライダー100が組み立てられる。
【0010】
このようにして組み立てられた特許文献1のスライダー100では、引手110を後口側(後方側)に倒伏させた場合、板バネ部材80の停止爪部83がスライダー胴体90のエレメント案内路95内に進出する。このため、同スライダー100を用いてスライドファスナーを構成した場合、引手110を後方側に倒伏させることにより、停止爪部83がエレメント列のファスナーエレメント間に挿入されてロックされるため、エレメント列に対してスライダー100を停止位置で保持することができる。
【0011】
また、スライダー100の引手110を上翼板91の上面に対して起立させた場合、引手110の枢軸部112により板バネ部材80の中間基板部81が同板バネ部材80の弾性力に抗して上方に持ち上げられ、それによって、板バネ部材80の垂下片部82における湾曲部分が弾性変形するとともに、停止爪部83をエレメント案内路95から退避させることができる。このため、エレメント列に対してスライダー100を自由に摺動させることができる。
【0012】
更に、引手110を肩口側(前方側)に倒伏させた場合には、引手110の枢軸部112が引手本体部111に対して偏倚しているため、板バネ部材80の中間基板部81が引手110の枢軸部112により持ち上げられた状態が維持され、スライダー100を自由に摺動させることが可能となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
特許文献1に記載されているスライダー100では、上述のように、板バネ部材80の舌片部85を上翼板91の第1柱部91aに圧接させるとともに、板バネ部材80の垂下片部82をスライダー胴体90の前端溝部96に配した係止部に係合させることにより、板バネ部材80の弾性力を利用して板バネ部材80をスライダー胴体90に嵌着させている。
【0015】
このような特許文献1のスライダー100は、例えば引手110が引っ張られても、板バネ部材80がスライダー胴体90から外れてしまうこと防ぐために、上翼板91に配した第2柱部91bの先端部を板バネ部材80の第2窓部87に遊挿するとともに、板バネ部材80に開口した第2窓部87の下側開口縁が、上翼板91に配した第2柱部91bの先端部下面に当接可能に構成されている。
【0016】
即ち、特許文献1のスライダー100において、例えば引手110の枢軸部112が上翼板91の上面から離間するように引手110が強く引っ張られて板バネ部材80が上方に持ち上げられたときには、板バネ部材80の第2窓部87の下側開口縁を第2柱部91bの先端部下面に当接させることができる。これにより、特許文献1のスライダー100では、板バネ部材80が持ち上げられる高さを規制できるため、板バネ部材80がスライダー胴体90から外れることを防止できる。
【0017】
ところで、例えば衣類などに取着されるスライドファスナーにおいて、衣類が窮屈であった場合などでは、スライドファスナーを閉鎖するたびに、スライダーの引手を強く引っ張って、左右のエレメント列を噛合させる方向に摺動させることがある。
【0018】
しかし、このような衣類などに取着されるスライドファスナーに特許文献1のスライダー100が用いられた場合、板バネ部材80の第2窓部87の下側開口縁を第2柱部91bの先端部下面に当接させることにより、板バネ部材80がスライダー胴体90から外れることを防止できるものの、例えば板バネ部材80の第2窓部87の下側開口縁が第2柱部91bに当接した状態から引手110が更に強く引っ張られた場合には、板バネ部材80が引手110の枢軸部112から応力を受けて、板バネ部材80における垂下片部82の湾曲部分が大きく弾性変形し、同湾曲部分に過剰な歪みを生じさせる。
【0019】
このようにスライダー100の操作(特に閉鎖操作)において引手110が強く引っ張られることにより、板バネ部材80の上記湾曲部分に大きな歪みが繰り返して生じると、板バネ部材80の劣化が早まり、その結果、スライダー100の停止機構が正常に作動しなくなることや、また、板バネ部材80が塑性変形してスライダー胴体90から外れてしまうことがあった。
【0020】
本発明は上記従来の課題に鑑みてなされたものであって、その具体的な目的は、引手が強く引っ張られる操作が繰り返し行われる場合でも、板バネ部材が劣化することを抑えて停止機構の正常な作動を維持し、長期に渡って安定して使用することが可能な停止機構付スライドファスナー用スライダーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記目的を達成するために、本発明により提供されるスライドファスナー用スライダーは、基本的な構成として、上下翼板の前端部が案内柱により連結されたスライダー胴体と、引手本体部の一端部に枢軸部を有する引手と、屈曲した板バネ部材とを備え、前記上翼板は、前記スライダー胴体の後口側に形成された爪孔と、前記爪孔よりも前方側にて起立する第1柱部と、前記第1柱部よりも後方側にて起立する第2柱部とを有し、前記板バネ部材は、前記引手の前記枢軸部を上方から押さえる基板部と、前記基板部の後端から延出した停止爪部と、前記基板部から下方に延出する舌片部とを有し、且つ、前記引手の回動により前記停止爪部を前記スライダー胴体のエレメント案内路に挿抜可能に前記スライダー胴体に嵌着した停止機構付スライドファスナー用スライダーであって、引手は、前記引手本体部における厚さ方向の中心面と、前記枢軸部における厚さ方向の中心面とが同じ平面上に配されるように構成され、前記板バネ部材は、前記舌片部に配され、前記第1柱部に当接して上方への移動が規制される
当接面をもつ第1規制部と、
前記停止爪部に配され、前記第2柱部に当接して上方への移動が規制される
当接面をもつ第2規制部とを有し、
前記引手の後方倒伏時又は前方倒伏時における前記第2規制部の前記当接面と前記第2柱部の当接面との間の距離が前記第1規制部の前記当接面と前記第1柱部の当接面との間の距離の2倍より大きく設定され、前記上翼板の上面に対する前記引手の傾斜角度αを0°とした場合、前記第1及び第2規制部は、前記引手の前記枢軸部が前記上翼板の上面に当接させた状態で前記引手の前記傾斜角度αが0°≦α≦180°の
全範囲にわたり、前記第1及び第2柱部からそれぞれ離間する位置に配され、前記第1及び第2規制部は、前記引手の前記枢軸部が前記上翼板から離間状態のときに、前記第1柱部及び前記第2柱部にそれぞれ当接し上方への移動が規制される関係に配され、前記第2規制部は、前記引手が操作されて、前記第1規制部が前記第1柱部に当接して上方への移動が規制された状態から前記板バネ部材の前記基板部が更に持ち上げられたときに、又は、前記第1規制部が前記第1柱部に当接して上方への移動が規制されると同時に、前記第2柱部に当接し上方への移動が規制される関係に配されてなる
、ことを最も主要な特徴とするものである。
【0022】
本発明のスライドファスナー用スライダーでは、前記第1及び第2柱部の先端部は屈曲して形成され、前記舌片部に第1窓部が開口し、前記基板部の前記舌片部よりも前記停止爪部側に第2窓部が開口し、前記第1及び第2柱部の先端部は、前記板バネ部材の前記第1及び第2窓部にそれぞれ遊挿され、前記第1及び第2規制部は、前記第1及び第2窓部の下側
当接面によりそれぞれ構成され、前記第1柱部の先端部は、幅方向の中央部に配された突出部と、前記突出部の左右両側に配される当接部とを有し、前記舌片部が、前記第1柱部の前記当接部に圧接していることが好ましい。
【0023】
このような本発明のスライドファスナー用スライダーにおいて、前記板バネ部材は、耐力が1500N/mm
2 以上のステンレス鋼により構成されていることが好ましい。また、前記板バネ部材は、硬度が430Hv以上500Hv以下のステンレス鋼により構成されていることが好ましい。更に、前記板バネ部材は、1.005以下の透磁率を有していることが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係るスライドファスナー用スライダーにおいて、スライダー胴体の上翼板は、スライダー胴体の後口側に形成された爪孔と、爪孔よりも前方側にて起立する第1柱部と、第1柱部よりも後方側にて起立する第2柱部とを有している。同スライダーの板バネ部材は、引手の枢軸部を上方から押さえる基板部と、基板部の後端から延出した停止爪部と、基板部から下方に延出する舌片部と、舌片部に配され、第1柱部に当接して上方への移動が規制される第1規制部と、基板部の舌片部よりも停止爪部側に配され、第2柱部に当接して上方への移動が規制される第2規制部とを有しており、また、引手の回動により停止爪部をスライダー胴体のエレメント案内路に挿抜可能にスライダー胴体に嵌着している。
【0025】
また、同スライダーは、引手の後方倒伏時(後口側への倒伏時)における上翼板の上面に対する引手の傾斜角度αを0°とした場合、第1及び第2規制部が、引手の枢軸部が上翼板の上面に当接させた状態で引手の傾斜角度αが0°≦α≦180°の範囲内にあるときに、第1及び第2柱部からそれぞれ離間する位置に配されるように構成されている。このように引手の傾斜角度αが0°のときに板バネ部材の第1及び第2規制部と、第1及び第2柱部との間に間隙が設けられていることにより、例えばスライダー胴体や板バネ部材に部品寸法の誤差が生じても、板バネ部材をスライダー胴体に引っ掛からせることなく円滑に嵌着させて、スライダーを安定して組み立てることができる。
【0026】
更に、同スライダーは、引手の枢軸部が上翼板から離間状態のときに、第1規制部が第1柱部に当接し上方への移動が規制される関係に配されている。このように、引手が強く引っ張られること等によって引手の枢軸部が上翼板から離間状態のときに、舌片部に配した第1規制部が第1柱部に当接して上方への移動が規制されるようにスライダーが構成されていれば、第1規制部と第1柱部との当接によって板バネ部材が持ち上げられる高さを規制して、板バネ部材がスライダー胴体から外れることを確実に防止できる。
【0027】
特に、本発明のスライダーでは、引手の枢軸部により板バネ部材の基板部が同板バネ部材の弾性力に抗して上方に持ち上げられた場合、板バネ部材の基板部(特に、基板部の前端部分)が主に弾性変形することから、引手の枢軸部が当接する板バネ部材の部分よりも、板バネ部材の湾曲部分に近い前方側の位置にて第1規制部を第1柱部に当接させることによって、板バネ部材の当該湾曲部分における弾性変形量を効果的に抑えることができる。
【0028】
これにより、本発明のスライダーは、例えば前記特許文献1のように板バネ部材を引手の枢軸部が当接する部分よりも後方側の位置にて第2柱部の先端部下面に当接させる従来のスライダーに比べて、引手の枢軸部によって板バネ部材が持ち上げられたときに、板バネ部材の湾曲部分における弾性変形(歪み)を小さくすることができ、引手からの引っ張り応力に対してより安定して堪えることができる。
【0029】
その結果、スライダーにおいて引手が強く引っ張られる操作が繰り返し行われても、第1規制部が上方へ移動することが規制されることにより、板バネ部材の劣化を効果的に抑制でき、停止機構が正常に作動しなくなるという不具合(例えば、ロック不良等)や、板バネ部材がスライダー胴体から外れるという不具合を生じさせることなく、スライダーを長期に渡って安定して使用することが可能となる。
【0030】
このような本発明のスライダーにおいて、第2規制部は、引手が操作されて第1規制部が第1柱部に当接して上方への移動が規制された状態から板バネ部材の基板部が更に持ち上げられたときに、第2柱部に当接し上方への移動が規制される関係に配されていることにより、第1規制部が第1柱部に当接した状態から引手が強く引っ張られても、板バネ部材の基板部が所定の高さ以上に持ち上げられることを防止できる。これにより、板バネ部材に大きな歪みが生じることを防いで、板バネ部材の劣化をより効果的に抑制できるとともに、板バネ部材が塑性変形することも防止できる。
【0031】
一方、本発明では、第2規制部は、引手が操作されて第1規制部が第1柱部に当接して上方への移動が規制されると同時に、第2柱部に当接し上方への移動が規制される関係に配されていても良い。これによっても、引手の枢軸部によって板バネ部材が持ち上げられたときに、板バネ部材の歪みをより確実に小さく抑えることができるため、板バネ部材の劣化を効果的に抑制でき、また、板バネ部材が塑性変形することも防止できる。
【0032】
本発明のスライダーでは、第1及び第2柱部の先端部は屈曲して形成されている。また、舌片部に第1窓部が開口するとともに、基板部の舌片部よりも停止爪部側に、第2窓部が基板部から停止爪部に亘って開口しており、これらの第1及び第2窓部に第1及び第2柱部の先端部がそれぞれ遊挿されている。更に、第1及び第2規制部は、第1及び第2窓部の下側
当接面によりそれぞれ構成されている。
【0033】
このように第1及び第2規制部が構成されていることにより、第1規制部である第1窓部の下側
当接面が第1柱部の先端部下面に当接したときに、第1規制部を有する舌片部が上方へ移動することを確実に規制して、板バネ部材の基板部が上方に持ち上げられることを効果的に抑えられる。また、第2規制部である第2窓部の下側
当接面が第2柱部の先端部下面に当接したときに、第2規制部が上方へ移動することを確実に規制して、第1規制部とともに板バネ部材の基板部が上方に持ち上げられることをより効果的に抑えられる。
【0034】
また、本発明のスライドファスナー用スライダーにおいて、板バネ部材は、耐力が1500N/mm
2 以上のステンレス鋼により構成されている。これにより、板バネ部材の耐力が1500N/mm
2 以上であることにより、引手が強く引っ張られたときや、板バネ部材に衝撃力が加えられたときなどに板バネ部材が塑性変形することを防ぎ、ロック不良等の停止機構の不具合が生じることを防止できる。なおこの場合、板バネ部材の材質となるステンレス鋼の耐力は、板バネ部材を所定の形状に安定して成形するために、1800N/mm
2 以下、特に1700N/mm
2 以下であることが好ましい。
【0035】
更に、同スライダーにおいて、板バネ部材は、硬度が430Hv以上500Hv以下のステンレス鋼により構成されている。板バネ部材の硬度が430Hv以上であることにより、1500N/mm
2 以上の耐力を安定して得ることができる。また、板バネ部材の硬度が500Hv以下であれば、ステンレス鋼の板材をプレス加工するときに、金型の破損等を生じさせることなく板バネ部材を成形でき、金型の寿命に悪影響を及ぼすことはない。
【0036】
更にまた、同スライダーにおいて、板バネ部材は、1.005以下の透磁率を有している。一般に、スライドファスナーが取着される衣服等の被着製品においては、被着製品の縫製工程が行われた後に、磁気を利用する検針器によって縫製時に混入した折れ針を検出する検出工程が行われている。この場合、スライドファスナーに用いられるスライダーには、前記検出工程において検針器がスライダーの板バネ部材を折れ針と間違えて検出することがないように、検針器に対する対応が要求されている。従って、本発明において板バネ部材の透磁率を1.005以下にすることにより、検針器がスライダーの板バネ部材を検出することを防ぎ、検針器に対応したスライダーを構成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明の好適な実施の形態について、実施例
及び比較例1及び2を挙げて図面を参照しながら詳細に説明する。
ここで、本発明の理解を得やすくするため、始めに比較例1及び比較例2を図面を参照して詳しく説明したのち、本発明の代表的な実施例について具体的に説明する。なお、本発明は、以下で説明する
実施例に何ら限定されるものではなく、本発明と実質的に同一な構成を有し、かつ、同様な作用効果を奏しさえすれば、多様な変更が可能である。
【0039】
図1は、
本比較例1に係るスライドファスナー用スライダーを示す斜視図であり、
図2は、同スライダーを構成する板バネ部材を示す斜視図である。また、
図3は、同スライダーにおいて引手を後口側に倒伏させたときの上面図であり、
図4は、
図3に示したIII−III線の断面図である。
【0040】
なお、以下の説明においては、スライダーの摺動方向(長さ方向)を前後方向と規定し、特に、スライダーの肩口が配されている側を前方とし、スライダーの後口が配されている側を後方とする。また、スライダーの幅方向を左右方向と規定する。更に、スライダーの上下翼板が向かい合う方向(高さ方向)を上下方向と規定し、特に、スライダー胴体に対して引手が配される側を上方とし、その反対側を下方とする。
【0041】
また、同スライダーにおいて、上翼板の上面に対する引手の傾斜角度αは、引手を後口側(後方側)に倒伏させたときの場合を0°とし、引手を肩口側(前方側)に倒伏させたときの場合を180°とし、引手を上翼板の上面に対して直交する方向に起立させたときの場合を90°と規定する。
【0042】
本比較例1に係るスライドファスナー用スライダー1は、後述する停止爪部33による停止機構を備えたスライダーであり、例えばジーンズのような衣類や鞄類などに取着されるスライドファスナーに主に用いられる。同スライダー1は、スライダー胴体10、スライダー胴体10に回動可能に取着される引手20、及び、スライダー胴体10に嵌着する板バネ部材30の3つの部品から構成されている。この場合、スライダー胴体10と引手20とは、銅亜鉛合金などの金属製板材をプレス加工することによって作製されている。
【0043】
本比較例1のスライダー胴体10は、上翼板11と、下翼板12と、上下翼板11,12を前端部にて連結する案内柱13と、上下翼板11,12の左右側縁部に配された上下フランジ部14とを有している。また、スライダー胴体10の後端には後口が配されており、スライダー1の前端側で且つ案内柱13の左右両側には肩口が配されている。更に、スライダー胴体10の上下翼板11,12間には、後口と左右の肩口とを連通する略Y字状のエレメント案内路15が配されている。
【0044】
同スライダー胴体10の上翼板11には、上翼板11の前端部に突設された第1柱部11aと、第1柱部11aの基端部(上翼板11側の端部)を囲むように上翼板11の上面から隆起した支持台部11bと、第1柱部11aよりも後方位置に突設された第2柱部11cとが配されている。
【0045】
また、上翼板11における第1柱部11aの基端部後方側には、板バネ部材30の後述する舌片部35を挿入する挿入孔11dが穿設されており、第2柱部11cの基端部後方側には、板バネ部材30の後述する停止爪部33を挿入する爪孔11eが穿設されている。
【0046】
前記第1柱部11aは、上翼板11の上面から上方に起立し、先端部側が後方に屈曲したフック状に形成されている。また、第1柱部11aの先端部は、
図3に示すように、幅方向の中央部に配された突出部11fと、同突出部11fの左右両側に配され、板バネ部材30の舌片部35に当接する当接部11gとを有している。
【0047】
この場合、当接部11gの先端面は、上翼板11の上面に対して直交する向きに配されている。前記支持台部11bは、第1柱部11aの前方側と左右側方側とに配されており、板バネ部材30をスライダー胴体10に嵌着したときに同板バネ部材30の後述する基板部31を支持するように構成されている。
【0048】
前記第2柱部11cは、挿入孔11dと爪孔11eとの間の位置にて、上翼板11の上面から後方に傾斜するように起立し、先端部側が上翼板11の上面と略平行となるように後方に屈曲したフック状に形成されている。上翼板11に穿設された挿入孔11d及び爪孔11eは、上翼板11の上面からエレメント案内路15に貫通している。また、挿入孔11d及び爪孔11eの幅方向の寸法は、板バネ部材30の舌片部35及び停止爪部33をそれぞれ挿入可能な大きさに設定されている。
【0049】
また、スライダー胴体10の前端部には、前端溝部16が上下方向に沿って凹設されている。この前端溝部16は、その溝幅(前端溝部16内の左右壁面間の間隔)が前端溝部16の底面から前方に向けて漸増するように、左右の肩口の間に配されている。また、同前端溝部16内には、前端溝部16の底面から前方に向けて略直角三角形状に突出する左右一対の第1係止部16aと、左右の第1係止部16aの間に第1係止部16aよりも底面からの突出高さを低くして突出する第2係止部16bとが配されている。
【0050】
更に、前端溝部16の下端には下壁部16cが設けられており、この下壁部16cの下面は、下翼板12の下面に沿うように形成されている。これにより、スライダー1を摺動させるときに、スライダー1の下翼板12側に障害物(例えば衣類の生地など)があっても、スライダー1の前端溝部16が障害物に引っ掛かることを防ぎ、スライダー1の摺動操作を円滑に行うことができる。
【0051】
本比較例1の引手20は、スライダー1の操作時に指で摘む部分となる引手本体部21と、引手本体部21の一端部に配され、断面がカム形状を呈する枢軸部22とを有している。また、
本比較例1の引手20は、引手本体部21における厚さ方向の中心面と、枢軸部22における厚さ方向の中心面とが同じ平面上に配されるように構成されている。
【0052】
本比較例1の板バネ部材30は、Cr−Ni−Mn系ステンレス鋼の板材をプレス加工することにより、縦断面が略C字状に屈曲した形態を有するように成形されている。この板バネ部材30は、引手20の枢軸部22を上方から押さえる基板部31と、基板部31の前端から延出した垂下片部32と、基板部31の後端から下方に延出し、スライダー胴体10のエレメント案内路15に挿抜可能な停止爪部33とを有している。
【0053】
また、基板部31には、上面窓部34が開口するとともに、この上面窓部34の後側開口縁から前方へ向けて下り傾斜する舌片部35が延出されている。この舌片部35には第1窓部36が開口しており、また、基板部31の舌片部35よりも停止爪部33側に、基板部31から停止爪部33に亘って第2窓部37が開口している。
【0054】
同板バネ部材30の垂下片部32は、基板部31よりも細幅に形成されており、基板部31から延出して下方に湾曲する湾曲部と、湾曲部の先端から直線的に垂下する先端部とを有している。また、垂下片部32の先端部の下端には、左右方向に張り出す第1突起部32aと、後方に突出する第2突起部32bとが配されており、これらの第1及び第2突起部32a,32bは、板バネ部材30を後述するようにスライダー胴体10に嵌着させる際に、スライダー胴体10の前端溝部16内に突設した第1及び第2係止部16a,16bにそれぞれ係止するように形成されている。
【0055】
また、
本比較例1の板バネ部材30に開口した第1窓部36は、後述するようにスライダー胴体10に板バネ部材30を嵌着させてスライダー1を組み立てた場合、スライダー胴体10の第1柱部11aに配した突出部11fが遊挿されるように、第1窓部36における幅方向の開口寸法が突出部11fの幅方向の寸法(幅寸法)よりも大きく設定されて形成されている。
【0056】
更に、第1窓部36の下側
当接面36aは、引手20の傾斜角度αが0°となる引手20の後方倒伏時に及び傾斜角度αが180°となる引手20の前方倒伏時に、第1柱部11aから離間する位置に配されている。また、第1窓部36の下側
当接面36aは、引手20の傾斜角度αが0°<α<180°の範囲内、好ましくは30°≦α≦150°の範囲内となる引手20の操作時に第1柱部11aの先端部(突出部11f)の下面に当接する位置に配されている。従って、この第1窓部36の下側
当接面36aは、引手20が上記範囲で操作されたときに第1柱部11aの先端部下面に当接し、同下側
当接面36aがその当接位置よりも上方へ移動することを規制する第1規制部として機能する。
【0057】
一方、基板部31の上面窓部34よりも後方側に開口した第2窓部37は、スライダー1を組み立てた場合に第2柱部11cの先端部が遊挿されるように、第2窓部37における幅方向の開口寸法が第2柱部11cにおける先端部の幅寸法よりも大きく設定されて形成されている。
【0058】
更に、第2窓部37の下側
当接面37aは、引手20の傾斜角度αが0°となる引手20の後方倒伏時に及び傾斜角度αが180°となる引手20の前方倒伏時に、第2柱部11cから離間する位置に配されている。また、第2窓部37の下側
当接面37aは、引手20が操作されて、第1窓部36の下側
当接面36aが第1柱部11aに当接した状態から板バネ部材30の基板部31が更に持ち上げられて引手20の枢軸部22が上翼板11の上面から離間したときに、第2柱部11cの先端部下面に当接する位置に配されている。従って、この第2窓部37の下側
当接面37aは、引手20の枢軸部22が上翼板11の上面から離間したときに第2柱部11cの先端部下面に当接し、同下側
当接面37aがその当接位置よりも上方へ移動することを規制する第2規制部として機能する。
【0059】
特に
本比較例1では、引手20の後方倒伏時に又は前方倒伏時において、第1窓部36の下側
当接面36aと第1柱部11aの先端部下面との間の離間距離に対し、第2窓部37の下側
当接面37aと第2柱部11cの先端部下面との間の離間距離が2倍以上の大きさに、好ましくは3倍以上の大きさに設定されている。
【0060】
またこの場合、
本比較例1の板バネ部材30は、1500N/mm
2 以上の耐力を有するステンレス鋼により構成されている。従来の板バネ部材の材質には、板バネ部材を所望の形状に容易にプレス成形するために、1000N/mm
2 〜1200
N/mm2 程度の耐力を有するステンレス鋼が用いられてきたが、
本比較例1では、1500N/mm
2 以上の耐力を有するステンレス鋼をプレス成形することにより板バネ部材30が作製されている。
【0061】
これにより、
本比較例1のスライダー1では、引手20が強く引っ張られたときや、板バネ部材30に衝撃力が加えられたときなどに板バネ部材30を塑性変形し難くすることができ、ロック不良等の停止機構の不具合が生じることを防止できる。一方、板バネ部材30を所定の形状に安定してプレス成形するために、
本比較例1の板バネ部材30を構成するステンレス鋼には、1800N/mm
2 以下、特に1700N/mm
2 以下の耐力を有するものが用いられている。
【0062】
また、同板バネ部材30を構成するステンレス鋼は、430Hv以上500Hv以下の硬度を有している。板バネ部材30の硬度が430Hv以上であることにより、1500N/mm
2 以上の耐力を安定して得ることができる。また、板バネ部材30の硬度が500Hv以下であれば、ステンレス鋼の板材をプレス加工するときに、金型の破損等を生じさせることなく板バネ部材30を安定して成形することができる。
更に、同板バネ部材30は、検針器に対応するために透磁率が1.005以下となるように構成されている。
【0063】
次に、上述した3つの部品を有するスライダー1を組み立てる方法について説明する。
先ず、スライダー胴体10の上翼板11の上面側に引手20を載置する。このとき、引手20の枢軸部22を、スライダー胴体10の第1柱部11a(及び支持台部11b)と、第2柱部11cとの間に挿入するとともに、引手20を後口側に倒伏させた状態で保持する。
【0064】
次に、引手20の枢軸部22が板バネ部材30の基板部31により上方から被せられるように、板バネ部材30をスライダー胴体10に載上する。このとき、板バネ部材30の舌片部35及び停止爪部33を上翼板11の挿入孔11d及び爪孔11eにそれぞれ挿入するとともに、板バネ部材30の第2窓部37に、スライダー胴体10の第2柱部11cの先端部を遊挿する。これにより、板バネ部材30の舌片部35がスライダー胴体10の第1柱部11aに当接するとともに、板バネ部材30の垂下片部32の下端部がスライダー胴体10の前端溝部16に軽く挿入された状態となる。
【0065】
続いて、板バネ部材30をスライダー胴体10に向けて押圧する。これにより、板バネ部材30の舌片部35が弾性変形しながら押し下げられ、スライダー胴体10の第1柱部11aの突出部11fが板バネ部材30の第1窓部36に遊挿されるとともに、板バネ部材30の舌片部35が第1柱部11aの当接部11gに圧接する。更に、スライダー胴体10の第1柱部11aが板バネ部材30の上面窓部34に嵌挿されるとともに、上面窓部34の左右両側に配された側縁部がスライダー胴体10の支持台部11bに載置される。
【0066】
また同時に、板バネ部材30の垂下片部32がスライダー胴体10の前端溝部16に沿って案内されながら押し下げられ、垂下片部32の下端部がスライダー胴体10の前端溝部16に配した第1係止部16aを乗り越えるように垂下片部32が弾性変形する。その後、垂下片部32の下端部が前端溝部16内の第1係止部16aを乗り越えることにより垂下片部32が弾性復帰し、それによって、垂下片部32がスライダー胴体10の前端溝部16に嵌入して前端溝部16の底面に圧接するとともに、垂下片部32の第1及び第2突起部32a,32bがスライダー胴体10の前端溝部16に配した第1及び第2係止部16a,16bにそれぞれ係止される。
【0067】
これにより、板バネ部材30を弾性力を利用してスライダー胴体10に嵌着させて、
図3及び
図4に示したような
本比較例1のスライダー1を組み立てることができる。特に、
本比較例1のスライダー1では、引手20を後口側に倒伏させた状態(引手20の傾斜角度αが0°の状態)にて板バネ部材30をスライダー胴体10に嵌着させるため、スライダー1の組み立て時に、板バネ部材30の第1及び第2窓部36,37の下側
当接面36a,37aと、第1及び第2柱部11a,11cの下面との間には間隙が設けられる。これにより、例えばスライダー胴体10や板バネ部材30の部品寸法に誤差が生じている場合でも、板バネ部材30をスライダー胴体10に引っ掛からせることなく円滑に嵌着させ、スライダー1を安定して組み立てることができる。
【0068】
そして、このようにして組み立てられた
本比較例1のスライダー1は、
図4に示したように引手20を後口側(後方)に倒伏させた場合(引手20の傾斜角度αが0°の場合)や、引手20を肩口側(前方)に倒伏させた場合(引手20の傾斜角度αが180°の場合)では、第1及び第2窓部36,37の下側
当接面36a,37aが第1及び第2柱部11a,11cからそれぞれ離間するとともに、板バネ部材30の停止爪部33がスライダー胴体10のエレメント案内路15内に進出した状態(挿入された状態)となる。
【0069】
このため、
本比較例1のスライダー1を用いてスライドファスナーを構成した場合、引手20を後口側又は肩口側に倒伏させることにより、停止爪部33がエレメント列のファスナーエレメント間に挿入されてロックされるため、エレメント列に対してスライダー1を停止位置で保持することができる。
【0070】
一方、
本比較例1のスライダー1では、
図5に示したように引手20を後口側又は肩口側に倒伏させた状態から、引手20の枢軸部22を上翼板11の上面に当接させたまま、引手20の傾斜角度αが0°<α<180°の範囲内、特に30°≦α≦150°の範囲内となるように引手20を起立させて操作した場合、引手20の断面がカム形状を呈する枢軸部22によって板バネ部材30の基板部31が同板バネ部材30の弾性力に抗して上方に持ち上げられる。それによって、板バネ部材30の垂下片部32における湾曲部分が弾性変形するとともに、停止爪部33を持ち上げてエレメント案内路15内から退避させる(抜出させる)ことができる。これにより、エレメント列に対してスライダー1を自由に摺動させることが可能となる。
【0071】
また、このように引手20の枢軸部22を上翼板11の上面に当接させたまま、傾斜角度αが0°<α<180°の範囲内、特に30°≦α≦150°の範囲内で引手20が操作された場合、
本比較例1のスライダー1では、板バネ部材30の基板部31が枢軸部22によって上方に持ち上げられるものの、第1窓部36の下側
当接面36a(第1規制部)を第1柱部11aの下面に当接させることができる。これによって、下側
当接面36aが上方へ移動することを規制して板バネ部材30が高く持ち上げられることを抑止でき、板バネ部材30(特に板バネ部材30の湾曲部分)の歪みが過剰に大きくなることを抑えられる。
【0072】
なお、
本比較例1のスライダー1では、上述のように、第2窓部37の下側
当接面37aと第2柱部11cの先端部下面との間の離間距離が、引手20の後方倒伏時に(又は前方倒伏時に)おいて、第1窓部36の下側
当接面36aと第1柱部11aの先端部下面との間の離間距離の2倍以上の大きさに、好ましくは3倍以上の大きさに設定されている。このため、引手20の枢軸部22が上翼板11の上面に接触している状態では、第1窓部36の下側
当接面36aが第1柱部11aの先端部下面に当接しても、第2窓部37の下側
当接面37aは、第2柱部11cの下面から離間している状態が保持される。
【0073】
更に、
本比較例1のスライダー1では、スライドファスナーにおいて左右のエレメント列を噛合させる方向に摺動させる際に、引手20の枢軸部22が上翼板11の上面に当接し、且つ、第1窓部36の下側
当接面36aが第1柱部11aの下面に当接している状態から、引手20が例えば傾斜角度αが90°≦α≦150°の範囲で更に強く引っ張られることによって、引手20の枢軸部22が上翼板11の上面から離間する場合がある。
【0074】
この場合、
図6に示したように、第1窓部36の下側
当接面36aが第1柱部11aの下面に当接した状態が維持されるため、板バネ部材30の湾曲部分における弾性変形は抑えられるものの、板バネ部材30の基板部31が引手20の枢軸部22から大きな力を受けて弾性変形し、更に上方に持ち上げられる。
【0075】
このとき、
本比較例1のスライダー1では、第1窓部36の下側
当接面36aが第1柱部11aの下面に当接した状態を維持したまま、第2窓部37の下側
当接面37a(第2規制部)を第2柱部11cの下面に当接させて、当該下側
当接面37aが上方へ移動することを規制できる。これによって、引手20が強く引っ張られた場合でも、第1及び第2窓部36,37の下側
当接面36a,37aを第1及び第2柱部11a,11cにそれぞれ当接させることによって板バネ部材30が上方に持ち上げられる高さを効果的に制限し、板バネ部材30の全体が必要以上に弾性変形することを安定して抑制できる。
【0076】
以上のように、
本比較例1のスライダー1によれば、引手20の枢軸部22を上翼板11の上面に当接させた状態で傾斜角度αが0°<α<180°の範囲で引手20を操作した場合には(
図5を参照)、第1窓部36の下側
当接面36aを第1柱部11aに当接させて板バネ部材30が高く持ち上げられることを抑止でき、更に、引手20が強く引っ張られて引手20の枢軸部22が上翼板11の上面から離間した場合には(
図6を参照)、第1及び第2窓部36,37の下側
当接面36a,37aを第1及び第2柱部11a,11cにそれぞれ当接させて板バネ部材30が上方に持ち上げられる高さをより効果的に制限できる。
【0077】
従って、
本比較例1のスライダー1は、例えば衣類などに取着されるスライドファスナーに用いられてスライダーの引手を強く引っ張る操作が繰り返し行われても、引手20の枢軸部22によって板バネ部材30が持ち上げられたときに板バネ部材30に生じる弾性変形(歪み)を小さく抑えることができる。このため、板バネ部材30がスライダー胴体10から外れることを防止できるとともに、板バネ部材30の劣化を抑えて停止機構の正常な作動を維持し、スライダー1を長期に渡って安定して使用することができる。
【0078】
図7は、本発明の
比較例2に係るスライドファスナー用スライダーにおいて、引手を後口側に倒伏させたときの状態を示す断面図であり、
図8は、同スライダーにおいて引手を操作して回動させたときの状態を示す断面図である。
【0079】
なお、
本比較例2に係るスライドファスナー用スライダー2は、板バネ部材40に開口した第1及び第2窓部46,47の下側
当接面46a,47aと、スライダー胴体10の第1及び第2柱部11a,11cの下面との相対的な位置関係が相違することを除いて、前述の
比較例1に係るスライダー1と基本的に同じ構成を有している。従って、
本比較例2並びに後述する
実施例において、前述の
比較例1にて説明した部材及び部位と同様の構成を有するものについては、同じ符号を用いて表すことによってその説明を省略することとする。
【0080】
本比較例2に係るスライダー2は、スライダー胴体10、スライダー胴体10に回動可能に取着される引手20、及び、スライダー胴体10に嵌着する板バネ部材40の3つの部品から構成されており、前述の
比較例1と同様に、板バネ部材40の後述する停止爪部43による停止機構を備えている。
【0081】
本比較例2の板バネ部材40は、前述の
比較例1の板バネ部材30を構成するステンレス鋼と同じステンレス鋼からなる板材をプレス加工することにより、縦断面が略C字状に屈曲した形態を有するように成形されている。この板バネ部材40は、基板部41と、基板部41の前端から延出した垂下片部42と、基板部41の後端から下方に延出した停止爪部43とを有している。
【0082】
また、基板部41には、上面窓部44が開口するとともに、この上面窓部44の後側開口縁から前方へ向けて下り傾斜する舌片部45が延出されている。この舌片部45には第1窓部46が開口しており、また、基板部41から停止爪部43に亘っては第2窓部47が開口している。同板バネ部材40における垂下片部42の先端部下端には、左右方向に張り出す図示しない第1突起部と、後方に突出する第2突起部とが配されている。
【0083】
本比較例2の第1窓部46は、スライダー2を組み立てたときにスライダー胴体10の第1柱部11aに配した突出部11fが遊挿されるように、第1窓部46における幅方向の開口寸法が突出部11fの幅寸法よりも大きく設定されて形成されている。
【0084】
更に、第1窓部46の下側
当接面46aは、引手20の傾斜角度αが0°となる引手20の後方倒伏時に及び傾斜角度αが180°となる引手20の前方倒伏時に、第1柱部11aから離間する位置に配されている。また、第1窓部46の下側
当接面46aは、引手20の傾斜角度αが0°<α<180°の範囲内、好ましくは30°≦α≦150°の範囲内となる引手20の操作時において、第1柱部11aの先端部下面に当接する位置に第1規制部として配されている。
【0085】
一方、
本比較例2の第2窓部47は、スライダー2を組み立てたときにスライダー胴体10に配した第2柱部11cの先端部が遊挿されるように、第2窓部47における幅方向の開口寸法が第2柱部11cにおける先端部の幅寸法よりも大きく設定されて形成されている。
【0086】
更に、第2窓部47の下側
当接面47aは、引手20の傾斜角度αが0°となる引手20の後方倒伏時に及び傾斜角度αが180°となる引手20の前方倒伏時に、第2柱部11cから離間する位置に配されている。また、第2窓部47の下側
当接面47aは、例えば前述の
比較例1における第2窓部37の下側
当接面37aよりも上方に位置しており、引手20の傾斜角度αが0°<α<180°の範囲内、好ましくは30°≦α≦150°の範囲内となる引手20の操作時において、第1窓部46の下側
当接面46aが第1柱部11aの先端部下面に当接すると同時に、第2柱部11cの先端部下面に当接する位置に第2規制部として配されている。
【0087】
以上のような構成を有する
本比較例2のスライダー2では、
図7に示したように引手20を後口側(後方)に倒伏させた場合(引手20の傾斜角度αが0°の場合)や、引手20を肩口側(前方)に倒伏させた場合(引手20の傾斜角度αが180°の場合)では、第1及び第2窓部46,47の下側
当接面46a,47aが第1及び第2柱部11a,11cからそれぞれ離間するとともに、板バネ部材40の停止爪部43がスライダー胴体10のエレメント案内路15内に進出した状態となり、同スライダー2の停止機構が作動する。
【0088】
そして、
本比較例2のスライダー2では、
図8に示したように引手20を後口側又は肩口側に倒伏させた状態から、引手20の枢軸部22を上翼板11の上面に当接させたまま、引手20の傾斜角度αが0°<α<180°の範囲内、特に30°≦α≦150°の範囲内となるように引手20を起立させて操作した場合、引手20の枢軸部22によって板バネ部材40の基板部41が同板バネ部材40の弾性力に抗して上方に持ち上げられる。これにより、停止爪部43が持ち上げられてエレメント案内路15から退避するため、エレメント列に対してスライダー2を自由に摺動させることが可能となる。
【0089】
またこの場合、
本比較例2のスライダー2では、第1及び第2窓部46,47の下側
当接面46a,47aを第1及び第2柱部11a,11cの下面に同時に当接させることができる。これによって、板バネ部材40が持ち上げられる高さを効果的に規制でき、板バネ部材40が必要以上に弾性変形することを安定して抑制できる。
【0090】
なお、
本比較例2のスライダー2では、上述のように、引手20を倒伏状態から起立させたときに、第1及び第2窓部46,47の下側
当接面46a,47aが第1及び第2柱部11a,11cに同時に当接し、板バネ部材40が持ち上げられる高さが規制される。このため、引手20の枢軸部22が上翼板11の上面に当接し、且つ、第1及び第2窓部46,47の下側当接面46a,47aが第1及び第2柱部11a,11cに当接している状態から、引手20が更に強く引っ張られても、引手20の枢軸部22が上翼板11の上面から離間するように板バネ部材40が更に持ち上げられることを抑制でき、板バネ部材40に生じる弾性変形(弾性歪み)を小さく抑えることができる。
【実施例】
【0091】
図9は、本発明の
実施例に係るスライドファスナー用スライダーにおいて、引手を操作して回動させたときの状態を示す断面図である。
本実施例に係るスライダー3は、スライダー胴体10、スライダー胴体10に回動可能に取着される引手20、及び、スライダー胴体10に嵌着する板バネ部材50の3つの部品から構成されており、また、板バネ部材50の後述する停止爪部53による停止機構を備えている。
【0092】
本実施例の板バネ部材50は、基板部51と、基板部51の前端から延出した垂下片部52と、基板部51の後端から下方に延出した停止爪部53とを有している。また、基板部51には、上面窓部54が開口するとともに、この上面窓部54の後側開口縁から舌片部55が延出されている。この舌片部55には第1窓部56が開口しており、また、基板部51から停止爪部53に亘っては第2窓部57が開口している。同板バネ部材50における垂下片部52の先端部下端には、前述の
比較例1と同様に、図示しない第1及び第2突起部が配されている。
【0093】
同板バネ部材50の第1窓部56における幅方向の開口寸法は、スライダー胴体10の第1柱部11aにおける突出部11fの幅寸法よりも大きく設定されており、第2窓部57における幅方向の開口寸法は、スライダー胴体10の第2柱部11cにおける先端部の幅寸法よりも大きく設定されて形成されている。
【0094】
また、同板バネ部材50における第1及び第2窓部56,57の下側
当接面56a,57aは、引手20の傾斜角度αが0°となる引手20の後方倒伏時に及び傾斜角度αが180°となる引手20の前方倒伏時に、並びに、
図9に示したように、引手20の枢軸部22を上翼板11の上面に当接させたまま引手20を傾斜角度αが0°<α<180°の範囲内にて操作したときに、第1及び第2柱部11a,11cからそれぞれ離間する位置に配されている。
【0095】
更に、第1及び第2窓部56,57の下側
当接面56a,57aは、引手20が引っ張られて引手20の枢軸部22が上翼板11の上面から離間したときに、第1及び第2規制部として、第1柱部11aの先端部(突出部11f)の下面及び第2柱部11cの先端部下面にそれぞれ当接する位置に配されている。
【0096】
特に
本実施例において、第2窓部57の下側
当接面57aは、引手20が引っ張られて引手20の枢軸部22が上翼板11の上面から離間した場合に、第1窓部56の下側
当接面56aが第1柱部11aの下面に当接すると同時に、又は、第1窓部56の下側
当接面56aが第1柱部11aの下面に当接した状態から板バネ部材30の基板部31が引手20の枢軸部22によって更に持ち上げられたときに、第2柱部11cの下面に当接するように構成されている。
【0097】
以上のような構成を有する
本実施例のスライダー3は、引手20を後口側(後方)又は肩口側(前方)に倒伏させた場合には、第1及び第2窓部56,57の下側
当接面56a,57aが第1及び第2柱部11a,11cからそれぞれ離間するとともに、板バネ部材50の停止爪部53がスライダー胴体10のエレメント案内路15内に進出した状態となり、同スライダー3の停止機構が作動する。
【0098】
そして、
本実施例のスライダー3では、
図9に示したように引手20を後口側又は肩口側に倒伏させた状態から、引手20の枢軸部22を上翼板11の上面に当接させたまま、引手20の傾斜角度αが0°<α<180°の範囲内、特に30°≦α≦150°の範囲内となるように引手20を起立させて操作した場合、引手20の枢軸部22によって板バネ部材50の基板部51が同板バネ部材
50の弾性力に抗して上方に持ち上げられる。これにより、停止爪部53が持ち上げられてエレメント案内路15から退避するため、エレメント列に対してスライダー2を自由に摺動させることが可能となる。
【0099】
なお、傾斜角度αが0°<α<180°の範囲内で引手20を操作したときに引手20の枢軸部22が上翼板11の上面に当接したままの場合、
本実施例では、第1及び第2窓部56,57の下側
当接面56a,57aは、第1及び第2柱部11a,11cの下面からそれぞれ離間している状態となる。
【0100】
一方、引手20の操作時に引手20が強く引っ張られて引手20の枢軸部22が上翼板11の上面から離間した場合には、第1及び第2窓部56,57の下側
当接面56a,57aを第1及び第2柱部11a,11cの下面にそれぞれ当接させることができる。これによって、板バネ部材50が持ち上げられる高さを規制でき、板バネ部材50が必要以上に弾性変形することを抑制できる。従って、板バネ部材50がスライダー胴体10から外れることを防止できるとともに、板バネ部材50の劣化を遅らせて停止機構の正常な作動を維持し、スライダー3を長期に渡って安定して使用することができる。
【0101】
以上述べたとおり、本願発明の実施例と比較例1及び2とを比較すると、本願実施例が本願発明の目的により以上に沿った機能が発揮されることが理解できよう。