【実施例】
【0030】
(実施例1)
作製したコイン型非水電解質二次電池の断面図を
図1に示した。大きさは、外形9.0mm、厚さ2.0mmである。
【0031】
炭素被膜を有するSiOは、次のように作製した。市販のSiOを粉砕し、篩により粒度の選別を行うことで所定の粒度分布を得た。このSiOを固定床反応装置に置き、アセチレン‐アルゴン混合ガス通気下で加熱を行うことにより、CVDによる炭素被膜を作製した。作製した炭素被膜を有するSiOの炭素被膜の膜厚はTEM観察により求めた。得られた炭素被膜はCVDの温度・時間により制御が可能であり、厚さは均質であった。TEM観察により求めた炭素被膜の膜厚は200nmであった。
【0032】
次に炭素被膜を有するSiOをレーザ回折式粒度分布測定装置による測定を行い、累積重量が10%となる粒径D10、と累積重量が90%となる粒径D90を求めた。D10は1.0μm、D90は3.0μmであった。
【0033】
このようにして作製した炭素被膜を有するSiOを負極活物質としてコイン型非水電解質二次電池を組み立てた。炭素被膜を有するSiOに導電剤としてグラファイトを、結着剤としてポリアクリル酸を混合して負極合剤とした。なお混合の割合は、重量比で炭素被膜を有するSiO:グラファイト:ポリアクリル酸=72:18:10とした。次にこの負極合剤3.0mgを2ton/cm2で直径2.9mmのペレットに加圧成形し、負極ペレット104とした。その後、負極集電体105を用いて負極ペレット104を負極ケース106に接着し、負極ユニットを作製した。なお、この負極集電体105は炭素を導電性フィラーとする導電性樹脂接着剤からなる。その後、作製した負極ユニットを120℃で8時間減圧加熱乾燥した。
【0034】
正極ユニットは、次の様にして作製した。 正極活物質としての市販のLi4Mn5O12に対し、導電剤としてグラファイトを、結着剤としてポリアクリル酸を混合し、正極合剤とした。なお、混合の割合は、重量比でLi4Mn5O12:グラファイト:ポリアクリル酸=90:7:3とした。次にこの正極合剤16mgを2ton/cm2で直径4.4mmのペレットに加圧成形した。その後、正極集電体102を用いて正極ペレット101を正極ケース103に接着し、正極ユニットを作製した。なお、この正極集電体102は炭素を含む導電性樹脂接着剤からなる。その後、作製した正極ユニットを120℃で8時間減圧加熱乾燥した。
【0035】
以下にコイン型非水電解質二次電池の組み立ての工程を示す。なお以下の組立の作業は、十分な低湿度の環境下で行っている。
ポリプロプレン製の射出成形品であるガスケット109を、負極ユニットに嵌め込んだ。
【0036】
次に負極ペレット104上にリチウム金属107を直径2.9mm、厚さ0.32mmに打ち抜いたものを負極ペレット104表面に圧着し、リチウム−負極ペレット積層電極とした。
【0037】
次に厚さ150μmの硼珪酸ガラス繊維の不織布を60℃で乾燥後φ6mmに打ち抜き、セパレータ108を得た。その後、負極ペレットに圧着したリチウム金属107に載置した。
【0038】
電解液は、プロピレンカーボネート(PC)とエチレンカーボネート(EC)とジメトキシエタンを体積%で25:25:50とした混合溶媒に、リチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド(Li−TFSI)を1mol/l溶解した。その後、コイン型非水電解質二次電池缶内に電解液を6μl注入した。
【0039】
ガスケットを嵌め込んだ負極ユニットと正極ユニットを重ね、正極ケース103をかしめ封口した。このように、コイン型非水電解質二次電池としてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0040】
作製したコイン型非水電解質二次電池を室温で5日放置し、その後、充放電サイクル試験を行った。充放電サイクル試験には、二次電池充放電試験装置を用いた。放電は50μAの定電流で電池電圧が2Vに達するまで行った。また、充電は最大電流50μAにおいて電池電圧3.5Vで96時間行った。測定した各サイクルの放電容量において、2回目の放電容量を初期容量とした。
【0041】
本特許の実施例ならび参考例で作製したコイン型非水電解質二次電池は、負極容量に対して、正極容量が十分に大きくなるように正極活物質を添加している。そのため、放電容量は負極活物質である炭素被膜を有するSiOの容量となる。よって、測定した炭素被膜を有するSiOの電池容量を添加した炭素被膜を有するSiOの重量で割ることで、炭素被膜を有するSiOの1gあたりの容量が算出できる。炭素被膜を有するSiOの1gあたりの容量は1130mAh/gだった。
【0042】
また、充放電サイクルによる放電容量の維持率を表す容量維持率として、50回目の放電容量を初期容量で割った。その結果、炭素被膜を有するSiOの容量維持率は92.3%だった。
【0043】
(実施例2)
粒径D90を5.0μmとし、その他は実施例1と同様にコイン型非水電解質二次電池を作製した。また、実施例1と同様な手法によって初期容量及び容量維持率を得た。
(実施例3)
粒径D10を1.4μm、粒径D90を4.1μmとし、その他は実施例1と同様にコイン型非水電解質二次電池を作製した。また、実施例1と同様な手法によって初期容量及び容量維持率を得た。
(実施例4)
粒径D10を2.0μmとし、その他は実施例1と同様にコイン型非水電解質二次電池を作製した。また、実施例1と同様な手法によって初期容量及び容量維持率を得た。
(実施例5)
粒径D10を2.0μm、粒径D90を5.0μmとし、その他は実施例1と同様にコイン型非水電解質二次電池を作製した。また、実施例1と同様な手法によって初期容量及び容量維持率を得た。
【0044】
(参考例1)
粒径D10を0.5μm、粒径D90を5.7μmとし、その他は実施例1と同様にコイン型非水電解質二次電池を作製した。また、実施例1と同様な手法によって初期容量及び容量維持率を得た。
(参考例2)
粒径D10を0.8μm、粒径D90を2.8μmとし、その他は実施例1と同様にコイン型非水電解質二次電池を作製した。また、実施例1と同様な手法によって初期容量及び容量維持率を得た。
(参考例3)
粒径D10を0.8μm、粒径D90を3.0μmとし、その他は実施例1と同様にコイン型非水電解質二次電池を作製した。また、実施例1と同様な手法によって初期容量及び容量維持率を得た。
【0045】
(参考例4)
粒径D10を0.8μm、粒径D90を5.2μmとし、その他は実施例1と同様にコイン型非水電解質二次電池を作製した。また、実施例1と同様な手法によって初期容量及び容量維持率を得た。
(参考例5)
粒径D10を2.0μm、粒径D90を5.2μmとし、その他は実施例1と同様にコイン型非水電解質二次電池を作製した。また、実施例1と同様な手法によって初期容量及び容量維持率を得た。
(参考例6)
粒径D10を2.2μm、粒径D90を5.2μmとし、その他は実施例1と同様にコイン型非水電解質二次電池を作製した。また、実施例1と同様な手法によって初期容量及び容量維持率を得た。
【0046】
実施例1において、市販のSiO粉砕後の篩選別条件が異なる各種粒度分布のSiO粉末を用い、実施例1と同様のCVD条件で製膜を行い、炭素被膜の厚さが200nmで粒度分布が異なる炭素被膜を有するSiOを用意した。
実施例1と同様にコイン型非水電解質二次電池を作製し、同様な評価を行った。評価結果を実施例1とともに表1に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
表1において、炭素被膜を有するSiOの粒度分布D10が1.0μmよりの細かい粒子が存在する参考例1から4は初期容量が1000mAh/g程度となった。一方、D10が1.0μmの実施例1から3は初期容量が1100mAh以上となった。実施例1から3と参考例1から4の初期容量を比較すると、100mAh/g以上の差が認められる。炭素被膜を有するSiOが細かい粒子になるとリチウムイオン電池活物質としての容量が小さくなる原因は明確ではない。粒子が細かくなると一般的に粒子表面の活性化が高くなる。そのため、活物質の凝集が多くなり活物質として有効に使用できるSiOが減少することが考えられる。あるいは、表面の活性化エネルギーの上昇によりコイン型非水電解質二次電池作製時に貼り付けたリチウム金属との反応が起こり、電池容量に有効なリチウムあるいは活物質量が減少するためと考えられる。
【0049】
また、表1において実施例2、実施例3、実施例5と参考例1、参考例4、参考例5、参考例6を比較すると、D90が5.0μmより大きい参考例1、参考例4、参考例5、参考例6では容量維持率が69〜83%と、実施例2、実施例3、実施例5の89%以上に比べて劣ることがわかる。これは、炭素被膜を有するSiOの粒径が大きくなることで、SiOの中心までのLiイオンの抵抗が大きくなったためと考えられる。そのため、副反応が起こりやすくなりリチウムイオン等が減少したか、もしくはSiOの粒径とともに充放電時の体積膨張が大きくなり、活物質の破壊が起こるためと考えられる。
【0050】
以上の結果より、炭素が被
覆されたSiOx(0<x<2)において、D10が1μm以上であり、かつD90が5μm以下である粒度分布を有するSiOは電池容量及びサイクル特性に優れた活物質であることがわかる。
【0051】
(実施例6)
電解液の溶媒をECとγ‐ブチルラクトン(GBL)とし、粒径D10を1.0μm、粒径D90を5.0μmとし、その他は実施例1と同様にコイン型非水電解質二次電池を作製した。また、実施例1と同様な手法によって初期容量及び容量維持率を得た。
【0052】
(参考例7)
電解液の溶媒をECとGBLとし、粒径D10を0.8μm、粒径D90を3.0μmとし、その他は実施例1と同様にコイン型非水電解質二次電池を作製した。また、実施例1と同様な手法によって初期容量及び容量維持率を得た。
(参考例8)
電解液の溶媒をECとGBLとし、粒径D10を0.8μm、粒径D90を5.2μmとし、その他は実施例1と同様にコイン型非水電解質二次電池を作製した。また、実施例1と同様な手法によって初期容量及び容量維持率を得た。
(参考例9)
電解液の溶媒をECとGBLとし、粒径D10を2.0μm、粒径D90を5.2μmとし、その他は実施例1と同様にコイン型非水電解質二次電池を作製した。また、実施例1と同様な手法によって初期容量及び容量維持率を得た。
評価結果を表2に示す。
【0053】
【表2】
【0054】
表2において、D10が1μm以上である実施例6及び参考例9においては初期容量が1100mAh程度があるが、D10が1μmより小さい参考例7及び参考例9においては初期容量が1000mAh程度と小さくなっている。一方D90が5μm以下である実施例6及び参考例7では容量維持率が90%以上であるのに対して、D90が5μmより大きい参考例8及び参考例9では容量維持率が80%程度と小さくなっている。本結果より電解液が異なっていても、本請求項記載の発明が有効であることを示している。
【0055】
(実施例7)
正極活物質をLiCoO2とし、電解液の溶媒をPCとECとジメチルエーテル(DME)とした。また、粒径D10を1.0μm、粒径D90を5.0μmとし、その他は実施例1と同様にコイン型非水電解質二次電池を作製した。また、実施例1と同様な手法によって初期容量及び容量維持率を得た。
【0056】
(参考例10)
正極活物質をLiCoO2とし、電解液の溶媒をPCとECとDMEとした。また、粒径D10を0.8μm、粒径D90を3.0μmとし、その他は実施例1と同様にコイン型非水電解質二次電池を作製した。また、実施例1と同様な手法によって初期容量及び容量維持率を得た。
(参考例11)
正極活物質をLiCoO2とし、電解液の溶媒をPCとECとDMEとした。また、粒径D10を0.8μm、粒径D90を5.2μmとし、その他は実施例1と同様にコイン型非水電解質二次電池を作製した。また、実施例1と同様な手法によって初期容量及び容量維持率を得た。
(参考例12)
正極活物質をLiCoO2とし、電解液の溶媒をPCとECとDMEとした。また、粒径D10を2.0μm、粒径D90を5.2μmとし、その他は実施例1と同様にコイン型非水電解質二次電池を作製した。また、実施例1と同様な手法によって初期容量及び容量維持率を得た。
評価結果を表3に示す。
【0057】
【表3】
【0058】
表3において、D10が1μm以上である実施例7及び参考例12においては初期容量が1150mAh程度であるが、D10が1μmより小さい参考例10及び参考例11においては初期容量が1020mAh程度と小さくなっている。一方D90が5μm以下である実施例7及び参考例10では容量維持率が90%以上であるのに対して、D90が5μmより大きい参考例11及び参考例12では容量維持率が80%程度と小さくなっている。本結果より正極活物質が異なっていても、本請求項記載の発明が有効であることを示している。
表2及び表3に示すように、本発明は負極の活物質に関するものであり、電解液及び正極活物質の種類によるものではない。
【0059】
(実施例8)
被膜する炭素被膜の膜厚を10nmとし、その他は実施例1と同様にコイン型非水電解質二次電池を作製した。また、実施例1と同様な手法によって初期容量及び容量維持率を得た。
(実施例9)
被膜する炭素被膜の膜厚を1100nmとし、その他は実施例1と同様にコイン型非水電解質二次電池を作製した。また、実施例1と同様な手法によって初期容量及び容量維持率を得た。
【0060】
(参考例13)
被膜する炭素被膜の膜厚を7nmとし、その他は実施例1と同様にコイン型非水電解質二次電池を作製した。また、実施例1と同様な手法によって初期容量及び容量維持率を得た。
(参考例14)
被膜する炭素被膜の膜厚を1200nmとし、その他は実施例1と同様にコイン型非水電解質二次電池を作製した。また、実施例1と同様な手法によって初期容量及び容量維持率を得た。
結果を表4に示す。
【0061】
【表4】
【0062】
表4において炭素被膜の膜厚10nm〜1100nmの実施例8及び実施例9の容量維持率は90%以上であるのに対して、炭素被膜の膜厚が10nmより小さい参考例13は80%程度と小さいことがわかる。更に炭素被膜の膜厚10nm〜1100nmの実施例8及び実施例9の初期容量が1100mAh以上であるのに対して、炭素被膜の膜厚が1100nmである参考例14の初期容量は1000mAh程度と小さいことがわかる。このため、炭素被膜の膜厚の範囲を10nm〜1100nmとすることで、優れた特性の負極活物質を得ることが可能である。また、炭素被
膜の厚さは10nm〜1100nmであることが好ましいが、100〜300nmとすることがより好ましい。
【0063】
(実施例10)
電解液の溶媒をECとGBLとし、被膜する炭素被膜の膜厚を10nmとした。その他は実施例1と同様にコイン型非水電解質二次電池を作製した。また、実施例1と同様な手法によって初期容量及び容量維持率を得た。
(実施例11)
電解液の溶媒をECとGBLとし、被膜する炭素被膜の膜厚を1100nmとした。その他は実施例1と同様にコイン型非水電解質二次電池を作製した。また、実施例1と同様な手法によって初期容量及び容量維持率を得た。
【0064】
(参考例15)
電解液の溶媒をECとGBLとし、被膜する炭素被膜の膜厚を7nmとした。その他は実施例1と同様にコイン型非水電解質二次電池を作製した。また、実施例1と同様な手法によって初期容量及び容量維持率を得た。
(参考例16)
電解液の溶媒をECとGBLとし、被膜する炭素被膜の膜厚を1200nmとした。その他は実施例1と同様にコイン型非水電解質二次電池を作製した。また、実施例1と同様な手法によって初期容量及び容量維持率を得た。
評価結果を表5に示す。
【0065】
【表5】
【0066】
表5において炭素被膜の膜厚10nm〜1100nmの実施例10及び実施例11の容量維持率は90%以上であるのに対して、炭素被膜の膜厚が10nmより小さい参考例15は80%程度の小さいことがわかる。更に炭素被膜の膜厚10nm〜1100nmの実施例10及び実施例11の初期容量が1100mAh以上であるのに対して、炭素被膜の膜厚が1100nmである参考例16の初期容量は1000mAh程度と小さいことがわかる。このため、電解液にかかわらず、炭素被膜の膜厚の範囲を10nm〜1100nmとすることで、優れた特性の負極活物質を得ることが可能である。また、炭素被
膜の厚さは10nm〜1100nmであることが好ましいが、100〜300nmとすることがより好ましい。
【0067】
(実施例12)
正極活物質をLiCoO2とし、被膜する炭素被膜の膜厚を10nmとした。その他は実施例1と同様にコイン型非水電解質二次電池を作製した。また、実施例1と同様な手法によって初期容量及び容量維持率を得た。
(実施例13)
正極活物質をLiCoO2とし、被膜する炭素被膜の膜厚を1100nmとした。その他は実施例1と同様にコイン型非水電解質二次電池を作製した。また、実施例1と同様な手法によって初期容量及び容量維持率を得た。
【0068】
(参考例17)
正極活物質をLiCoO2とし、被膜する炭素被膜の膜厚を7nmとした。その他は実施例1と同様にコイン型非水電解質二次電池を作製した。また、実施例1と同様な手法によって初期容量及び容量維持率を得た。
(参考例18)
正極活物質をLiCoO2とし、被膜する炭素被膜の膜厚を1200nmとした。その他は実施例1と同様にコイン型非水電解質二次電池を作製した。また、実施例1と同様な手法によって初期容量及び容量維持率を得た。
評価結果を表6に示す。
【0069】
【表6】
【0070】
表6において炭素被膜の膜厚10nm〜1100nmの実施例12及び実施例13の容量維持率は90%以上であるのに対して、炭素被膜の膜厚が10nmより小さい参考例17は80%程度の小さいことがわかる。更に炭素被膜の膜厚10nm〜1100nmの実施例12及び実施例13の初期容量が1100mAh以上であるのに対して、炭素被膜の膜厚が1100nmである参考例18の初期容量は1000mAh程度と小さいことがわかる。このため、正極活物質にかかわらず、炭素被膜の膜厚の範囲を10nm〜1100nmとすることで、優れた特性の負極活物質を得ることが可能である。また、炭素被
膜の厚さは10nm〜1100nmであることが好ましいが、100〜300nmとすることがより好ましい。
【0071】
以上の実施例に示したように、負極活物質として表面に炭素被
覆されたケイ素の酸化物SiOx(0<x<2)であり、前記負極活物質の粒度分布D10が1μm以上かつD90が5μm以下であり、かつ、前記炭素被
膜の厚さが10nm〜1100nmである活物質を用いた小型非水電解質二次電池は、優れた初期容量とサイクル特性を得ることが可能である。