(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
実際のところ、このような操舵装置における操舵フィーリングには改善の余地がある。
【0005】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、改善された操舵フィーリングを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様の車両の操舵制御装置は、運転者のための操舵部材と、操舵のための補助動力を与えるモータと、目標操舵反力が前記操舵部材に与えられるように前記モータを制御する制御部と、を備え、前記制御部は、操舵角に基づく第1要素と、運転者による操舵トルクと前記補助動力とに基づく第2要素とに基づいて前記目標操舵反力を設定する。
【0007】
この態様によると、目標操舵反力の設定に、操舵角に加えて、操舵のために作用するトルクも反映される。このようにトルクを加味することにより、操舵フィーリングの調整の幅を広げることができる。その結果、改善された操舵フィーリングを提供し得る。
【0008】
前記制御部は、前記目標操舵反力を設定するために、前記第1要素と前記第2要素とから構成される変数を演算してもよい。前記変数は、停車を含む低速範囲では前記第2要素が支配的となり、高速範囲では前記第1要素が支配的となり、前記低速範囲と前記高速範囲との中間の車速範囲では車速に応じて定まる配分で前記第1要素と前記第2要素とを含むよう構成されてもよい。
【0009】
運転者は、例えば停車中にいくらか操舵した状態で操舵部材から手を放すことがある。このとき仮に操舵角相当のモータ出力が手放し前と手放し中とで継続されるとしたら、そうした出力の継続によって、運転者の意図しない戻り動作が手放し中に操舵部材に引き起こされる可能性がある。しかし、上記の態様によると、停車中における目標操舵反力の演算には、操舵角に基づく第1要素に代えて、トルクに基づく第2要素が主として用いられる。トルクを考慮することにより手放し操作の影響を反力制御に織り込むことが可能となり、操舵フィーリングの改善に役立つ。
【0010】
また、上記の態様によると、中間車速範囲では第1要素と第2要素とが合成され、かつ高速範囲では主として第1要素が用いられるように、目標操舵反力の設定の基礎となる変数を構成する第1要素と第2要素との配分が車速に応じて調整される。これにより、車速の変化に対する目標操舵反力の過敏な変動を軽減することができる。
【0011】
なお、低速範囲で第2要素が支配的であるとは、低速範囲において本変数に占める第2要素の比率が、中速範囲において本変数に占める第2要素の比率の最大値に等しいか又はそれより大きいことを言う。本変数は、低速範囲において第2要素に一致してもよい。高速範囲で第1要素が支配的であるとは、高速範囲において本変数に占める第1要素の比率が、中速範囲において本変数に占める第1要素の比率の最大値に等しいか又はそれより大きいことを言う。本変数は、高速範囲において第1要素に一致してもよい。中速範囲においては、本変数に対する第2要素の比率は車速が大きくなるにつれて連続的に又は段階的に小さくなるよう定められている(言い換えれば、中速範囲においては、本変数に対する第1要素の比率は車速が大きくなるにつれて連続的に又は段階的に大きくなるよう定められている)。
【0012】
前記制御部は、前記操舵角と車速とを含む入力に対応する第1仮目標操舵反力と、前記操舵トルクと前記補助動力とを含む入力に対応する第2仮目標操舵反力と、に基づいて前記目標操舵反力を設定してもよい。
【0013】
この態様によると、第1要素として第1仮目標操舵反力が使用され、第2要素として第2仮目標操舵反力が使用される。こうした目標操舵反力設定の構成は例えば、第1仮目標操舵反力については既存の目標操舵反力の演算を流用し、第2仮目標操舵反力についての演算を追加することで、具体化することができる。そのため、既存の操舵制御装置に本発明を比較的容易に適用することができる。
【0014】
前記制御部は、測定された第1操舵角と、前記操舵トルクと前記補助動力とに基づき推定される第2操舵角とから構成される合成操舵角を演算し、前記合成操舵角と車速とに基づいて前記目標操舵反力を設定してもよい。
【0015】
この態様によると、第1要素として第1操舵角が使用され、第2要素として第2操舵角が使用される。この場合例えば、既存の目標操舵反力演算への入力として第1操舵角と第2操舵角との合成操舵角を用い、目標操舵反力を設定することができる。目標操舵反力を設定する演算が1つでよいので、演算のためのメモリを節約することができる。
【0016】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや本発明の構成要素や表現を、方法、装置、システム、プログラムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、改善された操舵フィーリングを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。
【0020】
図1は、本発明のある実施の形態に係る操舵制御装置10の全体構成の概略を示す図である。操舵制御装置10は例えば乗用車等の車両のための電動パワーステアリング装置である。操舵制御装置10は、運転者による操作のための操舵部材12と、操舵部材12と操舵される車輪14とを機械的に連結する操舵機構16と、を備える。操舵部材12は例えば、運転者が回転操作可能に操舵機構16に取り付けられているステアリングホイールである。
【0021】
操舵機構16は、ステアリングコラム18と、ステアリングシャフト20と、ギヤ機構22と、リンク機構24と、を備える。ステアリングコラム18の一端に操舵部材12が設けられている。操舵機構16は、操舵部材12への操作がステアリングコラム18及びステアリングシャフト20を介してギヤ機構22及びリンク機構24へと伝達され、最終的に車輪14が操舵されるように構成されている。
【0022】
操舵制御装置10は、操舵のための補助動力を与えるよう構成された補助動力源、例えばモータ26を備える。モータ26はステアリングコラム18に設けられ、ステアリングシャフト20にアシストトルクを付与するよう構成されている。モータ26は例えば、電動モータと、モータの出力をステアリングシャフト20に伝達するための減速機と、を備える。なお操舵制御装置10はこうしたコラムアシスト式の電動パワーステアリング装置には限られず、その他の任意の形式を有する操舵制御装置であってもよい。
【0023】
操舵制御装置10は、操舵制御に関連する量を測定するためのセンサを備える。操舵制御装置10は例えば、運転者による操作変位量を測定するための変位センサ、例えば操舵角センサ28と、運転者による操作力を測定するための力センサ、例えば操舵トルクセンサ30と、を備える。操舵角センサ28は例えば操舵部材12とステアリングコラム18とを連結する回転部分に取り付けられており、運転者による操舵角を測定するよう構成されている。操舵トルクセンサ30は例えばステアリングコラム18に内蔵されており、運転者による操舵トルクを測定するよう構成されている。
【0024】
また、操舵制御装置10は、車両の走行速度を測定するための車速センサ32を備える。なお、こうした各種のセンサは操舵制御装置10に専用に設けられている必要はなく、車両を構成するその他の装置と共用されていてもよい。
【0025】
操舵制御装置10は、補助動力を制御するための制御部100を備える。制御部100は、本分野で知られる電子制御ユニット(ECU)としての任意の構成を採用することができる。例えば、制御部100は、ハードウエアとしては、任意のコンピュータのCPU、メモリ、その他のLSIで実現され、あるいは、ソフトウエアとしてはメモリにロードされたプログラムなどによって実現される。
【0026】
制御部100は例えば、目標操舵反力が操舵部材12に付与されるようにモータ26を制御する反力制御を実行するよう構成されている。具体的には、制御部100は、モータ26によるアシストトルクを制御することにより目標操舵反力を操舵部材12に与える。また、制御部100は、入力に基づいて目標操舵反力を設定するよう構成されている。
【0027】
制御部100は、操舵制御に関連するセンサの出力信号を通信回路又は通信ネットワークを通じて受信するよう構成されている。よって制御部100は、操舵角センサ28により出力される操舵角を表す測定信号を受信することができる。同様に、制御部100は、操舵トルクセンサ30により出力される操舵トルクを表す測定信号を受信するよう構成されている。制御部100は、車速センサ32により出力される車速を表す測定信号を受信するよう構成されている。制御部100は、受信した信号を、目標操舵反力を設定するための入力として使用することができる。
【0028】
また、制御部100は、目標操舵反力を設定するための入力として、モータ26のアシストトルクを表す信号をも使用するよう構成されている。例えば、制御部100はモータ26のためのドライバを備え、アシストトルクを発生させるためにドライバに与える指令信号を目標操舵反力の設定のために使用することができる。または、制御部100は、ドライバへの指令信号に基づき発生したアシストトルクを表す信号を目標操舵反力の設定のために使用してもよい。
【0029】
図2は、本発明のある実施の形態に係る反力制御のための構成を説明するためのブロック図である。
図2に示されるように、制御部100は、目標設定部102と、アシストトルク演算部104と、を備える。
【0030】
目標設定部102は、目標操舵反力Tidを設定するよう構成されている。目標操舵反力Tidの設定は、操舵角MA、車速V、操舵トルクTs、及びアシストトルクTaを含む入力に基づく。このうち操舵角MA、車速V、及び操舵トルクTsは上述のように、それぞれ操舵角センサ28、車速センサ32、操舵トルクセンサ30から目標設定部102に入力される。アシストトルクTaはアシストトルク演算部104またはモータ26から目標設定部102に入力される。目標設定部102は、設定した目標操舵反力Tidをアシストトルク演算部104に出力するよう構成されている。
【0031】
目標設定部102は、第1目標操舵反力演算部106と、第2目標操舵反力演算部108と、出力調停部110と、を備える。第1目標操舵反力演算部106は、第1目標操舵反力Tid1を演算し、第2目標操舵反力演算部108は、第2目標操舵反力Tid2を演算する。第1目標操舵反力演算部106は、第1目標操舵反力Tid1を出力調停部110に出力し、第2目標操舵反力演算部108は、第2目標操舵反力Tid2を出力調停部110に出力する。出力調停部110は、詳しくは後述するが、第1目標操舵反力Tid1と第2目標操舵反力Tid2とに基づいて、目標操舵反力Tidを設定する。よって、第1目標操舵反力Tid1及び第2目標操舵反力Tid2は、最終的に設定される目標操舵反力Tidとは異なりうるという点で、仮の目標操舵反力、または目標操舵反力の候補であるとみなすことができる。
【0032】
第1目標操舵反力演算部106は、操舵角MAと車速Vとを含む入力から、対応する第1目標操舵反力Tid1を演算する。入力と第1目標操舵反力Tid1との対応関係は例えばマップとして予め定められており、このマップは制御部100のメモリ等に記憶されている。なお第1目標操舵反力演算部106はこれに限られず、操舵角MAに基づく任意の既存の手法で目標操舵反力を演算するよう構成されていてもよい。
【0033】
ある1種類の入力(以下「第1入力」と呼ぶことがある。例えば操舵角MA。)と第1目標操舵反力Tid1との例示的な対応関係においては、第1入力がゼロであるとき(例えば操舵部材12が中立位置にあるとき)第1目標操舵反力Tid1もゼロである。また、第1入力(正確にはその絶対値)が増加するにつれて第1目標操舵反力Tid1も増加するように、第1入力と第1目標操舵反力Tid1とは関係づけられている。このとき、第1入力の単位増加量に対する第1目標操舵反力Tid1の増加量は、第1入力が増加するにつれて減少するように第1入力と第1目標操舵反力Tid1とが関係づけられていてもよい(例えば、第1目標操舵反力Tid1は第1入力の平方根に比例してもよい。)。
【0034】
他の入力(以下「第2入力」と呼ぶことがある。例えば車速V。)と第1目標操舵反力Tid1とを関連づけるために、第2入力の区分された範囲(例えば車速範囲)ごとに、第1入力と第1目標操舵反力Tid1との対応関係(例えばマップ)が定められていてもよい。あるいは、第1入力から求まる第1目標操舵反力Tid1を第2入力に応じて最終的な第1目標操舵反力Tid1へと補正するための補正係数が定められていてもよい。
【0035】
第2目標操舵反力演算部108は、推定負荷Txと車速Vとを含む入力から、対応する第2目標操舵反力Tid2を演算する。推定負荷Txは後述するように、ステアリングコラム18のコラム軸に作用するトルクを代表する値である。入力と第2目標操舵反力Tid2との対応関係は例えばマップとして予め定められており、このマップは制御部100のメモリ等に記憶されている。なお、第2目標操舵反力演算部108は、推定負荷Txのみから第2目標操舵反力Tid2を演算してもよい。
【0036】
第2目標操舵反力演算部108への入力と第2目標操舵反力Tid2との対応関係は第1目標操舵反力演算部106と同様の規則で定めることができる。例えば、推定負荷Txがゼロであるとき第2目標操舵反力Tid2もゼロであり、推定負荷Txが増加するにつれて第2目標操舵反力Tid2も増加するように、推定負荷Txと第2目標操舵反力Tid2とは関係づけられている。また、推定負荷Txが増加するにつれて第2目標操舵反力Tid2の増加量が逓減してもよい。推定負荷Txと第2目標操舵反力Tid2との対応関係は車速Vに応じて複数定められていてもよい。
【0037】
目標設定部102は、推定負荷Txを演算するための負荷推定部112を備える。負荷推定部112は、操舵トルクTsとアシストトルクTaとを含む入力から推定負荷Txを演算する。負荷推定部112は、推定負荷Txを第2目標操舵反力演算部108に与える。推定負荷Txの演算は例えば、Tx=(1/(τs+1))(Ts+Ta)による。ここで、1/(τs+1)はローパスフィルタを表しており、τ=1/2πfcであり、fcはローパスフィルタのカットオフ周波数である。負荷推定部112がこうしたローパスフィルタを備えることは概念上は必須ではないが、実際上は設けることが望ましい。
【0038】
実際の状況をよりよく模擬するために、コラム軸に作用するその他のトルクが推定負荷Txの演算に考慮されてもよい。例えば、モータ26の慣性トルクが推定負荷Txの演算に使用されてもよい。その場合、推定負荷Txは、Tx=(1/(τs+1))(Ts+Ta−I
cα
c)となる。ここで、I
cはコラム軸換算のモータ慣性を表し、α
cはコラム軸換算のモータ回転角加速度を表す。
【0039】
出力調停部110は、最終的に設定される目標操舵反力Tidを決定するよう構成されている。出力調停部110は、目標操舵反力Tidを設定するために変数Xを演算する。変数Xは、第1目標操舵反力Tid1と第2目標操舵反力Tid2とから構成される。変数Xは例えば、X=K1(V)Tid1+(1−K1(V))Tid2である。ここで、K1(V)は車速Vに応じて定まる係数である。本実施の形態では、この変数Xが目標操舵反力Tidとして使用される。よって、出力調停部110は、目標操舵反力Tidを出力する。すなわち、Tid=K1(V)Tid1+(1−K1(V))Tid2である。
【0040】
係数K1(V)は、低速範囲Vaで最小値をとり、高速範囲Vcで最大値をとるように、車速Vが増えるにつれて少なくとも中速範囲Vbにて連続的にまたは段階的に大きくなるように定められている。低速範囲Va、中速範囲Vb、及び高速範囲Vcは互いに重なり合わず、隣接するよう定められる。このようにして、係数K1(V)は、第1目標操舵反力Tid1と第2目標操舵反力Tid2とを車速Vに応じて合成するための重み付け係数を与える。
【0041】
低速範囲Vaは停車を含み、その上限(即ち中速範囲Vbの下限)は、停車とはみなされない低速走行を含むよう定められる。中速範囲Vbは、低速範囲Vaと高速範囲Vcとの係数K1(V)の切り換えのための緩衝領域として十分な幅に定められる。例えば、低速範囲Vaの上限は時速5kmであり、中速範囲Vbの上限は時速20kmである。このようにして、停車時のみには限られない速度範囲において目標操舵反力Tidの設定に第2目標操舵反力Tid2が反映される。中速範囲を緩衝領域とすることで低速から高速まで目標操舵反力Tidの変化を滑らかにすることができる。このことも、操舵フィーリングの改善に寄与する可能性がある。なお低速範囲Vaは実質的に停車とみなされる超低速範囲(例えば時速2km未満)に制限されていてもよい。
【0042】
図3に係数K1(V)の一例を示す。
図3に示されるように、係数K1(V)は例えば、低速範囲Va及び高速範囲Vcでは一定値とされ、低速範囲Vaで最小値ゼロであり、高速範囲Vcで最大値1に等しい。低速範囲Vaと高速範囲Vcとの中速範囲Vbにおいては、車速Vが増えるにつれて最小値ゼロから最大値1へと直線的に大きくなるように定められている。
【0043】
したがって、
図3に例示される係数K1(V)が使用される場合、目標操舵反力Tidは、低速範囲Vaで第2目標操舵反力Tid2に一致し、高速範囲Vcで第1目標操舵反力Tid1に一致する。中速範囲Vbでは車速Vが大きくなるにつれて、第2目標操舵反力Tid2が目標操舵反力Tidに占める割合が小さくなる(すなわち、第1目標操舵反力Tid1が目標操舵反力Tidに占める割合が大きくなる)。
【0044】
アシストトルク演算部104は、目標操舵反力Tidと操舵トルクTsとを含む入力に基づいてアシストトルクTaを演算する。アシストトルク演算部104は、差分生成部114と、サーボコントローラ116と、を備える。差分生成部114は、目標操舵反力Tidから操舵トルクTsを差し引いた値Tid−Tsを生成し、サーボコントローラ116に与える。サーボコントローラ116は、目標操舵反力Tidが実現されるように、例えばPID制御などを含む任意の公知の方法で、差分Tid−TsからアシストトルクTaを求める。このようにして、制御部100は、設定した目標操舵反力Tidに基づいてモータ26のアシストトルクTaを演算するよう構成されている。制御部100は、アシストトルクTaをモータ26に出力する。また、アシストトルク演算部104は、アシストトルクTaを目標設定部102の負荷推定部112に出力する。
【0045】
上述の構成による操舵制御装置10の動作を説明する。まず、運転者が操舵部材12を操作すると、その操作を示す情報(操舵角MA、操舵トルクTsの測定値)、及び車速Vの測定値が制御部100に入力される。制御部100は、前回の制御演算の結果得られたアシストトルクTaを用いて推定負荷Txを求める。制御部100は、入力された測定値と推定負荷Txとに基づいて、2つの仮の目標操舵反力Tid1、Tid2を並列に演算する。制御部100は、これら仮の目標操舵反力Tid1、Tid2を車速Vに応じて合成し、最終的な目標操舵反力Tidを決定し、その目標操舵反力Tidに基づいて今回のアシストトルクTaを演算する。こうして得られたアシストトルクTaに従ってモータ26が制御される。このようにして、設定された目標操舵反力Tidが操舵部材12に付与される電動パワーステアリングが提供される。
【0046】
本実施の形態によれば、停車中における目標操舵反力Tidは、操舵角MA及び車速Vに基づく第1目標操舵反力Tid1ではなく、操舵トルクTs及びアシストトルクTaに基づく第2目標操舵反力Tid2である。そうではなく仮に第1目標操舵反力Tid1が使用される場合、運転者が操舵したまま操舵部材12から手を放すと、操舵角MAに応じた目標操舵反力Tidによってモータ26が動作し、手放し中に操舵部材12が中立位置へと戻されるおそれがある。しかし、本実施の形態では第2目標操舵反力Tid2を使用することにより、コラム軸に作用する推定負荷Txを反力制御に取り入れている。こうして手放し操作の影響を反力制御に織り込むことが可能となり、車両停止時の操舵フィーリングの改善につながる。
【0047】
また、状況(例えば車速V)によって目標操舵反力Tidの設定を選択的に切り換えるという典型的な方法においては、切り換え時に一方の設定と他方の設定とで目標操舵反力Tidは一般に異なり得る。そのため、切り換え自体によって目標操舵反力Tidが不連続に変動し、操舵フィーリングに影響が生じ得る。これとは対照的に、本実施の形態によれば、2種の要素から構成される1つの目標操舵反力Tidが操舵制御の間継続して用いられる。本実施の形態は、選択的な切り換えではなく、配分調整という形式で2種の要素を目標操舵反力Tidの設定に組み込んでいる。こうして不連続的な設定切換を要しないという点で、本実施の形態は、操舵フィーリングの改善に役立つ。
【0048】
本発明のある態様に係る操舵制御装置10は、次のように表現することもできる。操舵制御装置10は、操舵部材12へ付与すべき目標操舵反力Tidを設定する目標操舵反力設定手段(例えば目標設定部102)を備え、目標操舵反力Tidが付与されるようにモータ発生トルク(例えばアシストトルクTa)を制御する反力制御を行うよう構成されている。目標操舵反力設定手段は、操舵角MAと車速Vとに基づいて取得される第1の操舵負荷指標と、操舵部材12へ作用する操舵トルクTsと前記モータ発生トルクとに基づいて取得される第2の操舵負荷指標とに基づいて目標操舵反力Tidを設定する。第1の操舵負荷指標は例えば第1目標操舵反力Tid1であり、第2の操舵負荷指標は例えば第2目標操舵反力Tid2である。このようにすれば、車両停車時における操舵フィーリングを向上することができる。
【0049】
次に、
図4乃至
図6を参照して、本発明の他の一実施形態に係る操舵制御装置10を説明する。この実施形態は制御部100の目標設定部102の構成を除き、
図1乃至
図3を参照して説明した上述の実施の形態と同様である。そのため、以下の説明では同様の箇所については冗長を避けるため説明を適宜省略する。
【0050】
図4は、本発明の他の一実施形態に係る反力制御のための構成を説明するためのブロック図である。
図4に示される目標設定部102は、
図2に示す構成とは異なり、単一の目標操舵反力演算部120を備える。目標操舵反力演算部120は、後述する合成操舵角MA
**と車速Vとを含む入力から、対応する目標操舵反力Tidを演算する。入力と目標操舵反力Tidとの対応関係は、
図2に示す第1目標操舵反力演算部106と同様に、例えばマップとして予め定められている。
【0051】
目標設定部102は、推定負荷Txに基づき推定される推定操舵角MA
*を演算する舵角換算部122を備える。推定負荷Txは、負荷推定部112から舵角換算部122に入力される。上述のように推定負荷Txは少なくとも操舵トルクTsとアシストトルクTaとに基づく。よって、推定操舵角MA
*は、少なくとも操舵トルクTsとアシストトルクTaとに基づき推定されていることになる。
【0052】
一般に、コラム軸に作用する負荷と操舵角との間には相関があり、こうした相関は例えば経験的または実験的に見出して定式化することができる。そこで、舵角換算部122は例えば、MA
*=K0(V)Txにより、推定操舵角MA
*を演算する。ここで、K0(V)は、推定負荷Txを推定操舵角MA
*に換算するための換算係数である。K0(V)は、
図5に例示するように、車速ゼロにおいて最大値をとり、車速Vの増加につれて単調に減少し、ある最小値に漸近するように定められていてもよい。あるいは、舵角換算部122は、MA
*=f(V,Tx)により、推定操舵角MA
*を演算してもよい。ここで、f(V,Tx)は、V及びTxを変数とする関数である。
【0053】
また、目標設定部102は、目標操舵反力Tidの設定に使用するための変数Xを演算する出力調停部124を備える。変数Xは、測定された操舵角MAと、推定負荷Txに基づく推定操舵角MA
*とから構成される。変数Xは例えば、X=K1(V)MA+(1−K1(V))MA
*である。K1(V)は車速Vに応じて定まる係数であり、
図6に例示する。本実施の形態では、この変数Xが合成操舵角MA
**として使用される。よって、出力調停部124は、合成操舵角MA
**を生成する。すなわち、MA
**=K1(V)MA+(1−K1(V))MA
*である。出力調停部124は、合成操舵角MA
**を目標操舵反力演算部120に出力する。
【0054】
図6に例示されるように、係数K1(V)は、車速ゼロのみを含む低速範囲Vaでは最小値ゼロであり、高速範囲Vcでは最大値1で一定である。低速範囲Vaと高速範囲Vcとの中速範囲Vbにおいては、車速Vが増えるにつれて最小値ゼロから最大値1へと直線的に大きくなるように定められている。したがって、この係数K1(V)が使用される場合、合成操舵角MA
**は、停車時に推定操舵角MA
*に一致し、高速範囲Vcで測定操舵角MAに一致する。中速範囲Vbでは車速Vが大きくなるにつれて、推定操舵角MA
*が合成操舵角MA
**に占める割合が小さくなる。
【0055】
なお、
図6に例示される係数K1(V)が
図2に示される出力調停部110に使用されてもよい。あるいは、
図3に例示される係数K1(V)が
図4に示される出力調停部124に使用されてもよい。
【0056】
上述の構成による操舵制御装置10の動作を説明する。まず、運転者が操舵部材12を操作すると、その操作を示す情報(操舵角MA、操舵トルクTsの測定値)、及び車速Vの測定値が制御部100に入力される。制御部100は、前回の制御演算の結果得られたアシストトルクTaを用いて推定負荷Txを求め、推定負荷Txを推定操舵角MA
*に換算する。制御部100は、測定操舵角MAと推定操舵角MA
*とを車速Vに応じて合成し、合成操舵角MA
**と車速Vとに基づいて目標操舵反力Tidを決定する。制御部100は、目標操舵反力Tidに基づいて今回のアシストトルクTaを演算し、モータ26を制御する。このようにして、設定された目標操舵反力Tidが操舵部材12に付与される電動パワーステアリングが提供される。よって、この場合、目標操舵反力を設定する演算が1回でよいので、演算のためのメモリを節約することができる。
【0057】
以上、本発明を上述の各実施の形態を参照して説明したが、本発明は上述の各実施の形態に限定されるものではなく、各実施の形態の構成を適宜組み合わせたものや置換したものについても本発明に含まれるものである。また、当業者の知識に基づいて各実施の形態における組合せや処理の順番を適宜組み替えることや各種の設計変更等の変形を各実施の形態に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれうる。