(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る車両用ブレーキシステムの概略構成図である。
【0017】
図1に示す車両用ブレーキシステム10は、通常時用として、電気信号を伝達してブレーキを作動させるバイ・ワイヤ(By Wire)式のブレーキシステムと、フェイルセイフ時用として、液圧(ブレーキ液圧)を伝達してブレーキを作動させる旧来の油圧式のブレーキシステムの双方を備えて構成される。
【0018】
このため、
図1に示すように、車両用ブレーキシステム10は、基本的に、運転者によってブレーキペダル12等のブレーキ操作部が操作されたときにその操作の入力に応じた液圧を、作動液であるブレーキ液に発生させる液圧発生装置(入力装置14)と、ブレーキペダル12が踏み込み操作されたときの操作量(ストローク)を計測するペダルストロークセンサStと、各ホィールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FLに供給される作動圧(ブレーキ液圧)を作動液(ブレーキ液)に発生する電動ブレーキアクチュエータ(モータシリンダ装置16)と、車両挙動の安定化を支援する車両挙動安定化装置18(以下、VSA(ビークルスタビリティアシスト)装置18という、VSA;登録商標)とを別体として備えて構成されている。
【0019】
これらの入力装置14、モータシリンダ装置16、及び、VSA装置18は、例えば、ホースやチューブ等の管材で形成された管路(液圧路)によって接続されていると共に、バイ・ワイヤ式のブレーキシステムとして、入力装置14とモータシリンダ装置16とは、図示しないハーネスで電気的に接続されている。
【0020】
このうち、液圧路について説明すると、
図1中(中央やや下)の連結点A1を基準として、入力装置14の接続ポート20aと連結点A1とが第1配管チューブ22aによって接続され、また、モータシリンダ装置16の出力ポート24aと連結点A1とが第2配管チューブ22bによって接続され、さらに、VSA装置18の導入ポート26aと連結点A1とが第3配管チューブ22cによって接続されている。
【0021】
図1中の他の連結点A2を基準として、入力装置14の他の接続ポート20bと連結点A2とが第4配管チューブ22dによって接続され、また、モータシリンダ装置16の他の出力ポート24bと連結点A2とが第5配管チューブ22eによって接続され、さらに、VSA装置18の他の導入ポート26bと連結点A2とが第6配管チューブ22fによって接続されている。
【0022】
VSA装置18には、複数の導出ポート28a〜28dが設けられる。第1導出ポート28aは、第7配管チューブ22gによって右側前輪に設けられたディスクブレーキ機構30aのホィールシリンダ32FRと接続される。第2導出ポート28bは、第8配管チューブ22hによって左側後輪に設けられたディスクブレーキ機構30bのホィールシリンダ32RLと接続される。第3導出ポート28cは、第9配管チューブ22iによって右側後輪に設けられたディスクブレーキ機構30cのホィールシリンダ32RRと接続される。第4導出ポート28dは、第10配管チューブ22jによって左側前輪に設けられたディスクブレーキ機構30dのホィールシリンダ32FLと接続される。
【0023】
この場合、各導出ポート28a〜28dに接続される配管チューブ22g〜22jによってブレーキ液がディスクブレーキ機構30a〜30dの各ホィールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FLに対して供給され、各ホィールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FL内のブレーキ液圧が上昇することにより、各ホィールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FLが作動し、対応する車輪(右側前輪、左側後輪、右側後輪、左側前輪)に対して制動力が付与される。
【0024】
なお、車両用ブレーキシステム10は、例えば、エンジン(内燃機関)のみによって駆動される自動車、ハイブリッド自動車、電気自動車、燃料電池自動車等を含む各種車両に対して搭載可能である。
また、車両用ブレーキシステム10は、前輪駆動、後輪駆動、4輪駆動など、駆動形式を限定することなく、全ての駆動形式の車両に搭載可能である。
【0025】
入力装置14は、運転者によるブレーキペダル12の操作によってブレーキ液に液圧を発生可能なタンデム式のマスタシリンダ34と、前記マスタシリンダ34に付設されたリザーバ(第1リザーバ36)とを有する。このマスタシリンダ34のシリンダチューブ38内には、前記シリンダチューブ38の軸方向に沿って所定間隔離間する2つのピストン(セカンダリピストン40a、プライマリピストン40b)が摺動自在に配設される。セカンダリピストン40aは、ブレーキペダル12に近接して配置され、プッシュロッド42を介してブレーキペダル12と連結される。また、プライマリピストン40bは、セカンダリピストン40aよりもブレーキペダル12から離間して配置される。
【0026】
また、シリンダチューブ38の内壁には、プライマリピストン40bの外周に摺接する一対のリング状を呈するカップシール44Pa、44Pb、およびセカンダリピストン40aの外周に摺接する一対のリング状を呈するカップシール44Sa、44Sbが装着されている。さらに、セカンダリピストン40aとプライマリピストン40bの間には、ばね部材50aが配設され、プライマリピストン40bとシリンダチューブ38の閉塞端側の側端部38a(壁)と間には、他のばね部材50bが配設される。
【0027】
また、シリンダチューブ38の側端部38aからプライマリピストン40bの摺動方向に沿ってガイドロッド48bが延設され、プライマリピストン40bは、ガイドロッド48bにガイドされて摺動する。
また、プライマリピストン40bのセカンダリピストン40a側の端部からセカンダリピストン40aの摺動方向に沿ってガイドロッド48aが延設され、セカンダリピストン40aは、ガイドロッド48aにガイドされて摺動する。
そして、セカンダリピストン40aとプライマリピストン40bはガイドロッド48aで連結されて直列に配置される。ガイドロッド48a、48bの詳細は後記する。
【0028】
また、マスタシリンダ34のシリンダチューブ38には、2つのリリーフポート(第2リリーフポート52a、第1リリーフポート52b)と、2つの出力ポート54a、54bとが設けられる。
さらに、セカンダリピストン40aの外周に摺接する一対のカップシール44Sa、44Sbは、セカンダリピストン40aの摺動方向に第2リリーフポート52aを挟んで配置される。また、プライマリピストン40bの外周に摺接する一対のカップシール44Pa、44Pbは、プライマリピストン40bの摺動方向に第1リリーフポート52bを挟んで配置される。
【0029】
また、マスタシリンダ34のシリンダチューブ38内には、運転者がブレーキペダル12を踏み込む踏力に対応した液圧を発生する第2圧力室56a及び第1圧力室56bが設けられる。第2圧力室56aは、第2液圧路58aを介して接続ポート20aと連通するように設けられ、第1圧力室56bは、第1液圧路58bを介して他の接続ポート20bと連通するように設けられる。
第1圧力室56bは、カップシール44Paと側端部38a(壁)で区画され、第2圧力室56aは、カップシール44Pbとカップシール44Saで区画されている。
【0030】
第1圧力室56bは、プライマリピストン40bの変位に応じた液圧を発生するように構成され、第2圧力室56aは、セカンダリピストン40aの変位に応じた液圧を発生するように構成される。
また、セカンダリピストン40aはブレーキペダル12とプッシュロッド42を介して連結され、ブレーキペダル12の動作にともなってシリンダチューブ38内を変位する。さらに、プライマリピストン40bは、セカンダリピストン40aの変位によって第2圧力室56aに発生する液圧によって変位する。つまり、プライマリピストン40bはセカンダリピストン40aに応動して変位する。
【0031】
マスタシリンダ34と接続ポート20aとの間であって、第2液圧路58aの上流側には圧力センサPmが配設されると共に、第2液圧路58aの下流側には、ノーマルオープンタイプ(常開型)のソレノイドバルブからなる第2遮断弁60aが設けられる。この圧力センサPmは、第2液圧路58a上において、第2遮断弁60aよりもマスタシリンダ34側である上流側の液圧を計測するものである。
【0032】
マスタシリンダ34と他の接続ポート20bとの間であって、第1液圧路58bの上流側には、ノーマルオープンタイプ(常開型)のソレノイドバルブからなる第1遮断弁60bが設けられると共に、第1液圧路58bの下流側には、圧力センサPpが設けられる。この圧力センサPpは、第1液圧路58b上において、第1遮断弁60bよりもホィールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FL側である下流側の液圧を計測するものである。
【0033】
この第2遮断弁60a及び第1遮断弁60bにおけるノーマルオープンとは、ノーマル位置(通電されていないときの弁体の位置)が開位置の状態(常時開)となるように構成されたバルブをいう。なお、
図1において、第2遮断弁60a及び第1遮断弁60bは、ソレノイドが通電されて、図示しない弁体が作動した閉弁状態をそれぞれ示している。
【0034】
マスタシリンダ34と第1遮断弁60bとの間の第1液圧路58bには、前記第1液圧路58bから分岐する分岐液圧路58cが設けられ、前記分岐液圧路58cには、ノーマルクローズタイプ(常閉型)のソレノイドバルブからなる第3遮断弁62と、ストロークシミュレータ64とが直列に接続される。この第3遮断弁62におけるノーマルクローズとは、ノーマル位置(通電されていないときの弁体の位置)が閉位置の状態(常時閉)となるように構成されたバルブをいう。なお、
図1において、第3遮断弁62は、ソレノイドが通電されて、図示しない弁体が作動した開弁状態を示している。
【0035】
このストロークシミュレータ64は、バイ・ワイヤ制御時に、ブレーキペダル12の踏み込み操作に対してストロークと反力を与えて、あたかも踏力によって制動力が発生しているかのように運転者に思わせる装置であり、第1液圧路58b上であって、第1遮断弁60bよりもマスタシリンダ34側に配置されている。前記ストロークシミュレータ64には、分岐液圧路58cに連通する液圧室65が設けられ、前記液圧室65を介して、マスタシリンダ34の第1圧力室56bから導出されるブレーキ液(ブレーキフルード)が吸収可能に設けられる。
【0036】
また、ストロークシミュレータ64は、互いに直列に配置されたばね定数の高い第1リターンスプリング66aとばね定数の低い第2リターンスプリング66bと、前記第1及び第2リターンスプリング66a、66bによって付勢されるシミュレータピストン68とを備え、ブレーキペダル12の踏み込み前期時にペダル反力の増加勾配を低く設定し、踏み込み後期時にペダル反力を高く設定してブレーキペダル12のペダルフィーリングが、既存のマスタシリンダ34を踏み込み操作したときのペダルフィーリングと同等になるように設けられている。
つまり、ストロークシミュレータ64は、第1圧力室56bから導出されるブレーキ液の液圧に応じた反力を発生し、この反力をマスタシリンダ34を介してブレーキペダル12に与えるように構成される。なお、マスタシリンダ34の詳細については後記する。
【0037】
液圧路は、大別すると、マスタシリンダ34の第2圧力室56aと複数のホィールシリンダ32FR、32RLとを接続する第2液圧系統70aと、マスタシリンダ34の第1圧力室56bと複数のホィールシリンダ32RR、32FLとを接続する第1液圧系統70bとから構成される。
【0038】
第2液圧系統70aは、入力装置14におけるマスタシリンダ34(シリンダチューブ38)の出力ポート54aと接続ポート20aとを接続する第2液圧路58aと、入力装置14の接続ポート20aとモータシリンダ装置16の出力ポート24aとを接続する配管チューブ22a、22bと、モータシリンダ装置16の出力ポート24aとVSA装置18の導入ポート26aとを接続する配管チューブ22b、22cと、VSA装置18の導出ポート28a、28bと各ホィールシリンダ32FR、32RLとをそれぞれ接続する配管チューブ22g、22hとによって構成される。
【0039】
第1液圧系統70bは、入力装置14におけるマスタシリンダ34(シリンダチューブ38)の出力ポート54bと他の接続ポート20bとを接続する第1液圧路58bと、入力装置14の他の接続ポート20bとモータシリンダ装置16の出力ポート24bとを接続する配管チューブ22d、22eと、モータシリンダ装置16の出力ポート24bとVSA装置18の導入ポート26bとを接続する配管チューブ22e、22fと、VSA装置18の導出ポート28c、28dと各ホィールシリンダ32RR、32FLとをそれぞれ接続する配管チューブ22i、22jとを有する。
【0040】
モータシリンダ装置16は、電動機(電動モータ72)と、アクチュエータ機構74と、前記アクチュエータ機構74によって付勢されるシリンダ機構76と、を有する。
【0041】
アクチュエータ機構74は、電動モータ72の出力軸72b側に設けられ、複数のギヤが噛合して電動モータ72の回転駆動力を伝達するギヤ機構(減速機構)78と、前記ギヤ機構78を介して前記回転駆動力が伝達されることにより軸方向に沿って進退動作するボールねじ軸80a及びボール80bを含むボールねじ構造体80とを有する。
本実施形態においてボールねじ構造体80は、ギヤ機構78とともにアクチュエータハウジング172の機構収納部173aに収納される。
【0042】
シリンダ機構76は、略円筒状のシリンダ本体82と、前記シリンダ本体82に付設された第2リザーバ84とを有する。第2リザーバ84は、入力装置14のマスタシリンダ34に付設された第1リザーバ36と配管チューブ86で接続され、第1リザーバ36内に貯留されたブレーキ液が配管チューブ86を介して第2リザーバ84内に供給されるように設けられる。なお、配管チューブ86に、ブレーキ液を貯留するタンクが備わっていてもよい。
そして、略円筒状を呈するシリンダ本体82の開放された端部(開放端)がハウジング本体172Fとハウジングカバー172Rからなるアクチュエータハウジング172に嵌合してシリンダ本体82とアクチュエータハウジング172が連結され、モータシリンダ装置16が構成される。
【0043】
シリンダ本体82内には、前記シリンダ本体82の軸方向に沿って所定間隔離間する第2スレーブピストン88a及び第1スレーブピストン88bが摺動自在に配設される。第2スレーブピストン88aは、ボールねじ構造体80側に近接して配置され、ボールねじ軸80aの一端部に当接して前記ボールねじ軸80aと一体的に矢印X1又はX2方向に変位する。また、第1スレーブピストン88bは、第2スレーブピストン88aよりもボールねじ構造体80側から離間して配置される。
【0044】
また、本実施形態における電動モータ72は、シリンダ本体82と別体に形成されるモータケーシング72aで覆われて構成され、出力軸72bが第2スレーブピストン88a及び第1スレーブピストン88bの摺動方向(軸方向)と略平行になるように配置される。
そして、出力軸72bの回転駆動がギヤ機構78を介してボールねじ構造体80に伝達されるように構成される。
【0045】
ギヤ機構78は、例えば、電動モータ72の出力軸72bに取り付けられる第1ギヤ78aと、ボールねじ軸80aを軸方向に進退動作させるボール80bをボールねじ軸80aの軸線を中心に回転させる第3ギヤ78cと、第1ギヤ78aの回転を第3ギヤ78cに伝達する第2ギヤ78bと、の3つのギヤで構成され、第3ギヤ78cはボールねじ軸80aの軸線を中心に回転する。
【0046】
本実施形態におけるアクチュエータ機構74は、前記した構造によって、電動モータ72の出力軸72bの回転駆動力をボールねじ軸80aの進退駆動力(直線駆動力)に変換する。
【0047】
第1スレーブピストン88bの外周面には、環状段部を介して、一対のスレーブカップシール90a、90bがそれぞれ装着される。一対のスレーブカップシール90a、90bの間には、後記するリザーバポート92bと連通する第1背室94bが形成される。
なお、第2及び第1スレーブピストン88a、88bの間には、第2リターンスプリング96aが配設され、第1スレーブピストン88bとシリンダ本体82の側端部と間には、第1リターンスプリング96bが配設される。
【0048】
また、第2スレーブピストン88aの外周面と機構収納部173aとの間を液密にシールするとともに、第2スレーブピストン88aをその軸方向に対して移動可能にガイドする環状のガイドピストン90cが、第2スレーブピストン88aの後方に、シリンダ本体82をシール部材として閉塞するように備わっている。第2スレーブピストン88aが貫通するガイドピストン90cの内周面には、図示しないスレーブカップシールが装着され、第2スレーブピストン88aとガイドピストン90cの間が液密に構成されることが好ましい。さらに、第2スレーブピストン88aの前方の外周面には、環状段部を介して、スレーブカップシール90bが装着される。
この構成によって、シリンダ本体82の内部に充填されるブレーキ液がガイドピストン90cによってシリンダ本体82に封入され、アクチュエータハウジング172の側に流れ込まないように構成されている。
なお、ガイドピストン90cとスレーブカップシール90bの間には、後記するリザーバポート92aと連通する第2背室94aが形成される。
【0049】
シリンダ機構76のシリンダ本体82には、2つのリザーバポート92a、92bと、2つの出力ポート24a、24bとが設けられる。この場合、リザーバポート92a(92b)は、第2リザーバ84内の図示しないリザーバ室と連通するように設けられる。
【0050】
また、シリンダ本体82内には、出力ポート24aからホィールシリンダ32FR、32RL側へ出力されるブレーキ液圧を制御する第2液圧室98aと、他の出力ポート24bからホィールシリンダ32RR、32FL側へ出力されるブレーキ液圧を制御する第1液圧室98bが設けられる。
【0051】
この構成によると、ブレーキ液が封入される第2背室94a、第1背室94b、第2液圧室98a、及び第1液圧室98bは、シリンダ本体82におけるブレーキ液の封入部であり、シール部材として機能するガイドピストン90cによって、アクチュエータハウジング172の機構収納部173aと液密(気密)に区画される。
なお、ガイドピストン90cがシリンダ本体82に取り付けられる方法は限定するものではなく、例えば、図示しないサークリップで取り付けられる構成とすればよい。
【0052】
第2スレーブピストン88aと第1スレーブピストン88bとの間には、第2スレーブピストン88aと第1スレーブピストン88bの最大ストローク(最大変位距離)と最小ストローク(最小変位距離)とを規制する規制手段100が設けられる。さらに、第1スレーブピストン88bには、第1スレーブピストン88bの摺動範囲を規制して、第2スレーブピストン88a側へのオーバーリターンを阻止するストッパピン102が設けられ、これによって、特にマスタシリンダ34で制動するバックアップ時において、1つの系統が失陥したときに、他の系統の失陥が防止される。
【0053】
VSA装置18は、周知のものからなり、右側前輪及び左側後輪のディスクブレーキ機構30a、30b(ホィールシリンダ32FR、ホィールシリンダ32RL)に接続された第2液圧系統70aを制御する第2ブレーキ系110aと、右側後輪及び左側前輪のディスクブレーキ機構30c、30d(ホィールシリンダ32RR、ホィールシリンダ32FL)に接続された第1液圧系統70bを制御する第1ブレーキ系110bとを有する。なお、第2ブレーキ系110aは、左側前輪及び右側前輪に設けられたディスクブレーキ機構に接続された液圧系統からなり、第1ブレーキ系110bは、右側後輪及び左側後輪に設けられたディスクブレーキ機構に接続された液圧系統であってもよい。さらに、第2ブレーキ系110aは、車体片側の右側前輪及び右側後輪に設けられたディスクブレーキ機構に接続された液圧系統からなり、第1ブレーキ系110bは、車体片側の左側前輪及び左側後輪に設けられたディスクブレーキ機構に接続された液圧系統であってもよい。
【0054】
この第2ブレーキ系110a及び第1ブレーキ系110bは、それぞれ同一構造からなるため、第2ブレーキ系110aと第1ブレーキ系110bで対応するものには同一の参照符号を付していると共に、第2ブレーキ系110aの説明を中心にして、第1ブレーキ系110bの説明を括弧書きで付記する。
【0055】
第2ブレーキ系110a(第1ブレーキ系110b)は、ホィールシリンダ32FR、32RL(32RR、32FL)に対して、共通する管路(第1共通液圧路112及び第2共通液圧路114)を有する。VSA装置18は、導入ポート26a(26b)と第1共通液圧路112との間に配置されたノーマルオープンタイプのソレノイドバルブからなるレギュレータバルブ116と、前記レギュレータバルブ116と並列に配置され導入ポート26a(26b)側から第1共通液圧路112側へのブレーキ液の流通を許容する(第1共通液圧路112側から導入ポート26a(26b)側へのブレーキ液の流通を阻止する)第1チェックバルブ118と、第1共通液圧路112と第1導出ポート28a(第4導出ポート28d)との間に配置されたノーマルオープンタイプのソレノイドバルブからなる第1インバルブ120と、前記第1インバルブ120と並列に配置され第1導出ポート28a(第4導出ポート28d)側から第1共通液圧路112側へのブレーキ液の流通を許容する(第1共通液圧路112側から第1導出ポート28a(第4導出ポート28d)側へのブレーキ液の流通を阻止する)第2チェックバルブ122と、第1共通液圧路112と第2導出ポート28b(第3導出ポート28c)との間に配置されたノーマルオープンタイプのソレノイドバルブからなる第2インバルブ124と、前記第2インバルブ124と並列に配置され第2導出ポート28b(第3導出ポート28c)側から第1共通液圧路112側へのブレーキ液の流通を許容する(第1共通液圧路112側から第2導出ポート28b(第3導出ポート28c)側へのブレーキ液の流通を阻止する)第3チェックバルブ126とを備える。
【0056】
さらに、VSA装置18は、第1導出ポート28a(第4導出ポート28d)と第2共通液圧路114との間に配置されたノーマルクローズタイプのソレノイドバルブからなる第1アウトバルブ128と、第2導出ポート28b(第3導出ポート28c)と第2共通液圧路114との間に配置されたノーマルクローズタイプのソレノイドバルブからなる第2アウトバルブ130と、第2共通液圧路114に接続されたリザーバ132と、第1共通液圧路112と第2共通液圧路114との間に配置されて第2共通液圧路114側から第1共通液圧路112側へのブレーキ液の流通を許容する(第1共通液圧路112側から第2共通液圧路114側へのブレーキ液の流通を阻止する)第4チェックバルブ134と、前記第4チェックバルブ134と第1共通液圧路112との間に配置されて第2共通液圧路114側から第1共通液圧路112側へブレーキ液を供給するポンプ136と、前記ポンプ136の前後に設けられる吸入弁138及び吐出弁140と、前記ポンプ136を駆動するモータMと、第2共通液圧路114と導入ポート26a(26b)との間に配置されたノーマルクローズタイプのソレノイドバルブからなるサクションバルブ142とを備える。
【0057】
なお、第2ブレーキ系110aにおいて、導入ポート26aに近接する管路(液圧路)上には、モータシリンダ装置16の出力ポート24aから出力され、前記モータシリンダ装置16の第2液圧室98aで制御されたブレーキ液圧を計測する圧力センサPhが設けられる。各圧力センサPm、Pp、Phで計測された計測信号は、制御手段150に導入される。また、VSA装置18では、VSA制御のほか、ABS(アンチロックブレーキシステム)も制御可能である。
さらに、VSA装置18に代えて、ABS機能のみを搭載するABS装置が接続される構成であってもよい。
本実施形態に係る車両用ブレーキシステム10は、基本的に以上のように構成されるものであり、次にその作用効果について説明する。
【0058】
車両用ブレーキシステム10が正常に機能する正常時には、ノーマルオープンタイプのソレノイドバルブからなる第2遮断弁60a及び第1遮断弁60bが励磁されて弁閉状態となり、ノーマルクローズタイプのソレノイドバルブからなる第3遮断弁62が励磁されて弁開状態となる。従って、第2遮断弁60a及び第1遮断弁60bによって第2液圧系統70a及び第1液圧系統70bが遮断されているため、入力装置14のマスタシリンダ34で発生した液圧がディスクブレーキ機構30a〜30dのホィールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FLに伝達されることはない。
【0059】
このとき、マスタシリンダ34の第1圧力室56bで発生した液圧は、分岐液圧路58c及び弁開状態にある第3遮断弁62を経由してストロークシミュレータ64の液圧室65に伝達される。この液圧室65に供給された液圧によってシミュレータピストン68が第1及び第2リターンスプリング66a、66bのばね力に抗して変位することにより、ブレーキペダル12のストロークが許容されると共に、擬似的なペダル反力を発生させてブレーキペダル12に付与される。この結果、運転者にとって違和感のないブレーキフィーリングが得られる。
【0060】
このようなシステム状態において、制御手段150は、運転者によるブレーキペダル12の踏み込みを検出すると、モータシリンダ装置16の電動モータ72を駆動させてアクチュエータ機構74を付勢し、第2リターンスプリング96a及び第1リターンスプリング96bのばね力に抗して第2スレーブピストン88a及び第1スレーブピストン88bを
図1中の矢印X1方向に向かって変位させる。この第2スレーブピストン88a及び第1スレーブピストン88bの変位によって第2液圧室98a及び第1液圧室98b内のブレーキ液がバランスするように加圧されて所望のブレーキ液圧が発生する。
【0061】
具体的に、制御手段150は、ペダルストロークセンサStの計測値に応じてブレーキペダル12の踏み込み操作量を算出し、この踏み込み操作量(ブレーキ操作量)に基づいて、回生制動力を考慮した上で目標となるブレーキ液圧(目標液圧)を設定し、設定したブレーキ液圧をモータシリンダ装置16に発生させる。
そして、モータシリンダ装置16で発生したブレーキ液圧が導入ポート26a、26bからVSA装置18に供給される。つまり、モータシリンダ装置16は、ブレーキペダル12が操作されたときに電気信号で回転駆動する電動モータ72の回転駆動力で第2スレーブピストン88a及び第1スレーブピストン88bを駆動し、ブレーキペダル12の操作量に応じたブレーキ液圧を発生させてVSA装置18に供給する装置である。
また、本実施形態における電気信号は、例えば、電動モータ72を駆動する電力や電動モータ72を制御するための制御信号である。
【0062】
なお、制御手段150は、例えば、いずれも図示しないCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等から構成されるマイクロコンピュータ及び周辺機器からなる。そして、制御手段150は、あらかじめROMに記憶されているプログラムをCPUで実行し、車両用ブレーキシステム10を制御するように構成される。
【0063】
また、ブレーキペダル12の踏み込み操作量を計測する操作量計測手段は、ペダルストロークセンサStに限定されるものではなく、ブレーキペダル12の踏み込み操作量を計測可能なセンサであればよい。例えば、操作量計測手段を圧力センサPmとして、圧力センサPmが計測する液圧をブレーキペダル12の踏み込み操作量に変換する構成であってもよいし、図示しない踏力センサによってブレーキペダル12の踏み込み操作量を計測する構成であってもよい。
【0064】
このモータシリンダ装置16における第2液圧室98a及び第1液圧室98bのブレーキ液圧は、VSA装置18の弁開状態にある第1、第2インバルブ120、124を介してディスクブレーキ機構30a〜30dのホィールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FLに伝達され、前記ホィールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FLが作動することにより各車輪に所望の制動力が付与される。
【0065】
換言すると、本実施形態に係る車両用ブレーキシステム10では、動力液圧源として機能するモータシリンダ装置16やバイ・ワイヤ制御する制御手段150等が作動可能な正常時において、運転者がブレーキペダル12を踏むことで液圧を発生するマスタシリンダ34と各車輪を制動するディスクブレーキ機構30a〜30d(ホィールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FL)との連通を第2遮断弁60a及び第1遮断弁60bで遮断した状態で、モータシリンダ装置16が発生するブレーキ液圧でディスクブレーキ機構30a〜30dを作動させるという、いわゆるブレーキ・バイ・ワイヤ方式のブレーキシステムがアクティブになる。このため、本実施形態では、例えば、電気自動車等のように、旧来から用いられていた内燃機関による負圧が存在しない車両に好適に適用することができる。
【0066】
一方、モータシリンダ装置16等が作動不能となる異常時では、第2遮断弁60a及び第1遮断弁60bをそれぞれ弁開状態、第3遮断弁62を弁閉状態としマスタシリンダ34で発生する液圧をディスクブレーキ機構30a〜30d(ホィールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FL)にブレーキ液圧として伝達し、前記ディスクブレーキ機構30a〜30d(ホィールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FL)を作動させるという、いわゆる旧来の油圧式のブレーキシステムがアクティブになる。
【0067】
例えば、走行用電動機(走行モータ)を備えるハイブリッド自動車や電気自動車には、走行用電動機で回生発電して制動力を発生する回生ブレーキを備えることができる。このような車両において回生ブレーキを作動させる場合には、制御手段150が、少なくとも前後いずれかの車軸と結合された走行モータを発電機として動作させ、ブレーキペダル12(
図1参照)のブレーキ操作量などに応じて回生ブレーキによる制動力(回生制動力)を発生させる。そして、ブレーキペダル12のブレーキ操作量(運転者が要求する制動力)に対して回生制動力では不足する場合、制御手段150は電動モータ72を駆動してモータシリンダ装置16によって制動力を発生させる。つまり、制御手段150は、回生ブレーキと油圧ブレーキ(モータシリンダ装置16)とによる回生協調制御を行う。この場合に制御手段150は、公知の方法を用いてモータシリンダ装置16の作動量を決定するように構成できる。
例えば、ブレーキペダル12のブレーキ操作量に対応して決定される制動力(総制動力)から回生制動力を減じた制動力をモータシリンダ装置16で発生させるためのブレーキ液圧を目標液圧に設定したり、総制動力に対して所定の比率の制動力をモータシリンダ装置16で発生させるためのブレーキ液圧を目標液圧に設定して、制御手段150がモータシリンダ装置16の作動量を決定する構成とすればよい。
【0068】
図2はマスタシリンダの構造を示す断面図である。また、
図3の(a)はセカンダリピストンと摺接するカップシールを示す図、(b)はプライマリピストンと摺接するカップシールを示す図である。
図2に示すように、マスタシリンダ34のシリンダチューブ38は側端部38aの側が閉塞して形成され、シリンダチューブ38内には、セカンダリピストン40aとプライマリピストン40bが直列に配置されて収容されている。以下、シリンダチューブ38の側端部38aの側を「進み側FWD」、プッシュロッド42の側を「戻り側REV」とする。つまり、シリンダチューブ38内において、プライマリピストン40bはセカンダリピストン40aに対して進み側FWDに配置され、セカンダリピストン40aはプライマリピストン40bに対して戻り側REVに配置される。
【0069】
セカンダリピストン40aは、進み側FWDが開口する中空に形成されて円筒状を呈し、円筒状の内側となる中空部(第2中空部401a)にばね部材50aの一端が収容される。第2中空部401aは第2圧力室56aの側が開口することになり、第2中空部401aは第2圧力室56aと連通する空間となる。また、第2中空部401aには、進み側FWDの側に向かって延設される管状のマウント部402aが、ばね部材50aの内側に備わる。マウント部402aの進み側FWDの端部は閉塞し、この閉塞部分に開口する貫通孔をガイドロッド48aが貫通するように構成される。ガイドロッド48aの先端部はマウント部402aの内部側で、閉塞部分に開口する貫通孔の径よりも大きく拡径している。この構成によって、ガイドロッド48aが進み側FWDの方向に変位すると、セカンダリピストン40aはガイドロッド48aに引かれて進み側FWDの方向に変位する。
【0070】
同様に、プライマリピストン40bも進み側FWDが開口する中空に形成されて円筒状を呈し、円筒状の内側となる中空部(第1中空部401b)にばね部材50bの一端が収容される。第1中空部401bは第1圧力室56bの側が開口することになり、第1中空部401bは第1圧力室56bと連通する空間となる。そして、第1中空部401bには、ばね部材50bの側に向かって延設される管状のマウント部402bが、ばね部材50bの内側に備わる。マウント部402bの進み側FWDの端部は閉塞し、この閉塞部分に開口する貫通孔をガイドロッド48bが貫通するように構成される。
また、ガイドロッド48bの先端部はマウント部402bの内部側で、閉塞部分に開口する貫通孔の径よりも大きく拡径している。この構成によって、プライマリピストン40bの戻り側REVの方向への変位の量がガイドロット48bによって規制される。
【0071】
そして、セカンダリピストン40aの円筒部(第2中空部401aの周壁)には、複数の第2連通孔(第2ポート孔43a)が開口している。第2中空部401aは第2ポート孔43aを介してシリンダチューブ38の内側と連通する。
第2ポート孔43aは、セカンダリピストン40aの摺動によって、一対のカップシール44Sa、44Sbの間に移動し、第2リリーフポート52aと第2中空部401aが第2ポート孔43aを介して連通するように構成される。そして、第2リリーフポート52aと第2中空部401aが連通すると、第2中空部401aと連通する第2圧力室56aが第2リリーフポート52aと連通する。
なお、一対のカップシール44Sa、44Sbのうち、一方のカップシール44Saが第2リリーフポート52aよりも進み側FWDに配置され、他方のカップシール44Sbが第2リリーフポート52aよりも戻り側REVに配置される構成とする。つまり、カップシール44Sa、44Sbが第2リリーフポート52aを挟むように配置されている。
【0072】
前記したように、第2リリーフポート52aは第1リザーバ36(
図1参照)と連通していることから、第2リリーフポート52aと第2中空部401aが連通すると、第2圧力室56aが第1リザーバ36と連通する。第1リザーバ36は大気圧に維持されるリザーバタンクであり、第2圧力室56aは第1リザーバ36と連通すると大気圧まで減圧される。つまり、第2ポート孔43aが第2リリーフポート52aと連通すると、第2圧力室56aは大気圧まで減圧する。
なお、第2中空部401aの進み側FWDの端部は、常にカップシール44Saよりも進み側FWDに位置するように構成されている。
【0073】
また、プライマリピストン40bの円筒部(第1中空部401bの周壁)にも、複数の第1連通孔(第1ポート孔43b)が開口している。第1中空部401bは第1ポート孔43bを介してシリンダチューブ38の内側と連通する。
さらに、第1ポート孔43bは、プライマリピストン40bの摺動によって、一対のカップシール44Pa、44Pbの間に移動し、第1リリーフポート52bと第1中空部401bが第1ポート孔43bを介して連通するように構成される。第1リリーフポート52bと第1中空部401bが連通すると、第1中空部401bと連通する第1圧力室56bが第1リリーフポート52bと連通する。そして、第1圧力室56bは第1リリーフポート52bと連通すると、第2圧力室56aと同様に大気圧まで減圧する。つまり、第1ポート孔43bが第1リリーフポート52bと連通すると、第1圧力室56bは大気圧まで減圧する。
【0074】
なお、一対のカップシール44Pa、44Pbのうち、一方のカップシール44Paが第1リリーフポート52bよりも進み側FWDに配置され、他方のカップシール44Pbが第1リリーフポート52bよりも戻り側REVに配置される構成とする。つまり、カップシール44Pa、44Pbが第1リリーフポート52bを挟むように配置されている。
そして、第1中空部401bの進み側FWDの端部は、常にカップシール44Paよりも進み側FWDに位置するように構成されている。
以降、第2ポート孔43a、第1ポート孔43bがそれぞれ第2リリーフポート52a、第1リリーフポート52bと連通する状態を「開放状態」とし、第2ポート孔43a、第1ポート孔43bが第2リリーフポート52a、第1リリーフポート52bと連通していない非連通の状態を「閉塞状態」とする。
【0075】
そして、運転者がブレーキペダル12(
図1参照)を踏み込み操作しないでブレーキペダル12が所定の戻り位置にあるときに、セカンダリピストン40aの第2ポート孔43aは、一対のカップシール44Sa、44Sbの間にあって、第2ポート孔43aと第2リリーフポート52aが連通した開放状態になるように構成される。
同様に、ブレーキペダル12が所定の戻り位置にあるときに、プライマリピストン40bの第1ポート孔43bは一対のカップシール44Pa、44Pbの間にあって、第1ポート孔43bと第1リリーフポート52bが連通した開放状態になるように構成される。
ここでいうブレーキペダル12の戻り位置は、運転者によって踏み込み操作されないブレーキペダル12が図示しない付勢手段によって戻される位置とし、ペダルストロークセンサSt(
図1参照)が計測するストロークが「0」の位置とする。
【0076】
本実施形態のカップシール44Sa、44Sb、44Pa、44Pbは、セカンダリピストン40aを示す
図3の(a)、およびプライマリピストン40bを示す
図3の(b)に示すように、シリンダチューブ38の内周に周方向に沿って形成される凹状の管状溝380a、380bに嵌め込まれて装着される。
【0077】
図3の(a)に示すように、カップシール44Sa、44Sbは、ゴムなどの弾性部材を素材とし、管状溝380aに嵌め込まれる円環状の基部440aからシリンダチューブ38の内周内側に向かって起立する、円環状の舌部441aがセカンダリピストン40aの周囲に摺接するように構成される。そして、セカンダリピストン40aと舌部441aの摺接によって、ブレーキ液の流通を遮断するように構成される。
また、ブレーキペダル12(
図1参照)が踏み込み操作されていない状態で、進み側FWDに配置されるカップシール44Saとセカンダリピストン40aが接する接点Pa1と、セカンダリピストン40aの第2ポート孔43aの開口の最も戻り側REVの点Pa2と、の距離を無効ストロークLaとする。
無効ストロークLaは、ブレーキペダル12(
図1参照)が踏み込み操作されてセカンダリピストン40aが進み側FWDの方向に変位を始めてから、第2ポート孔43aと第2リリーフポート52aの連通が解消されるまで(閉塞状態になるまで)の距離である。
【0078】
また、
図3の(b)に示すように、カップシール44Pa、44Pbもゴムなどの弾性部材を素材とし、管状溝380bに嵌め込まれる円環状の基部440bからシリンダチューブ38の内周内側に向かって起立する、円環状の舌部441bがプライマリピストン40bの周囲に摺接するように構成される。そして、プライマリピストン40bと舌部441bの摺接によって、ブレーキ液の流通を遮断するように構成される。
また、ブレーキペダル12(
図1参照)が踏み込み操作されていない状態で、進み側FWDに配置されるカップシール44Paとプライマリピストン40bが接する接点Pb1と、プライマリピストン40bの第1ポート孔43bの開口の最も戻り側REVの点Pb2と、の距離を無効ストロークLbとする。
無効ストロークLbは、ブレーキペダル12が踏み込み操作されてプライマリピストン40bが進み側FWDの方向に変位を始めてから、第1ポート孔43bと第1リリーフポート52bの連通が解消されるまで(閉塞状態になるまで)の距離である。
【0079】
そして、運転者がブレーキペダル12(
図1参照)を踏み込み操作しないでブレーキペダル12が所定の戻り位置にあるときに、第2ポート孔43aの開口の最も戻り側REVの点Pa2と、カップシール44Saとセカンダリピストン40aが接する接点Pa1との距離が無効ストロークLaと等しくなるように構成される。
同様に、ブレーキペダル12が所定の戻り位置にあるときに、第1ポート孔43bの開口の最も戻り側REVの点Pb2と、カップシール44Paとプライマリピストン40bが接する接点Pb1との距離が無効ストロークLbと等しくなるように構成される。
【0080】
そして、本実施形態のマスタシリンダ34(
図2参照)は、プライマリピストン40bの無効ストロークLbがセカンダリピストン40aの無効ストロークLaよりも小さく設定される(無効ストロークLb<無効ストロークLa)。
【0081】
運転者がブレーキペダル12(
図1参照)を踏み込み操作すると、ブレーキペダル12は所定の戻り位置から進み側FWDの方向に変位し、プッシュロッド42(
図1参照)がブレーキペダル12に押されて進み側FWDの方向に変位する。
そして、セカンダリピストン40aがプッシュロッド42に押されて進み側FWDの方向に変位し、第2ポート孔43aが進み側FWDに配設されるカップシール44Saを越えると、第2ポート孔43aと第2リリーフポート52aの連通が解除されて閉塞状態となる。
【0082】
また、プライマリピストン40bはセカンダリピストン40aの変位で圧縮されるばね部材50a(
図2参照)に押圧されて進み側FWDの方向に変位し、第1ポート孔43bが進み側FWDに配設されるカップシール44Paを越えると、第1ポート孔43bと第1リリーフポート52bの連通が解除されて閉塞状態となる。
第2ポート孔43a、第1ポート孔43bがともに閉塞状態になると、ブレーキペダル12(
図1参照)の進み側FWDの変位に応じた液圧がそれぞれ第1圧力室56b(
図2参照)、第2圧力室56a(
図2参照)に生じ、第1圧力室56bのブレーキ液が第1液圧路58b(
図2参照)を流通してストロークシミュレータ64(
図2参照)に供給される。
【0083】
また、セカンダリピストン40aの第2ポート孔43aが閉塞状態になると、第2圧力室56a(
図2参照)は大気圧から遮断された密閉空間となり、プッシュロッド42(
図2参照)による押圧とプライマリピストン40bによる押圧によって第2圧力室56aの液圧は上昇する。そして、第2圧力室56aの液圧がプライマリピストン40bを押圧する。
さらに、プライマリピストン40bの第1ポート孔43bが閉塞状態になると、第1圧力室56b(
図2参照)は大気圧から遮断された密閉空間となり、セカンダリピストン40aによる押圧とストロークシミュレータ64(
図2参照)による与圧によって第1圧力室56bの液圧は上昇する。
【0084】
踏み込み操作されたブレーキペダル12(
図1参照)を運転者が開放すると、プライマリピストン40bは、第1圧力室56bの液圧およびばね部材50b(
図2参照)に押圧されて戻り側REVの方向に変位し、セカンダリピストン40aは第2圧力室56aの液圧およびばね部材50a(
図2参照)に押圧されて戻り側REVの方向に変位する。
【0085】
図4の(a)は、従来のマスタシリンダにおいてブレーキペダルが踏み込まれた状態から開放されたときの第1圧力室および第2圧力室の液圧の変化を示すグラフ、(b)はブレーキペダルに生じるペダル反力の変化を示すグラフである。
図4の(a)のグラフは、縦軸が圧力およびストローク、横軸が経過時間(時間)を示す。また、破線が第1圧力室56bの液圧(液圧P1とする)の変化を示し、一点鎖線が第2圧力室56aの液圧(液圧P2とする)の変化を示す。なお、実線はペダルストロークセンサSt(
図1参照)が計測するブレーキペダル12(
図1参照)のストロークを示す。また、圧力「0」は大気圧を示す。
また、
図4の(b)のグラフは、縦軸がペダル反力、横軸が経過時間(時間)を示す。
以下、
図4を参照して、第1圧力室56b、第2圧力室56aの液圧の変化を説明する(適宜
図1、2を参照)。
【0086】
ブレーキペダル12が踏み込まれた状態から開放されると、プライマリピストン40bは収縮しているばね部材50bの弾性力によって戻り側REVの方向に変位し、セカンダリピストン40aは収縮しているばね部材50aの弾性力によって戻り側REVの方向に変位する。このとき、第1圧力室56bにはストロークシミュレータ64からブレーキ液が供給されるため、第1圧力室56bの液圧P1は第2圧力室56aの液圧P2よりも高くなる。
【0087】
セカンダリピストン40aおよびプライマリピストン40bの戻り側REVの方向への変位によって、第1液圧室56bの液圧P1と第2圧力室56aの液圧P2は減圧し、時刻t1で液圧P1よりも低い液圧P2が負圧になる。そして、時刻t2でストロークシミュレータ64のシミュレータピストン68が戻り切ると、ストロークシミュレータ64から第1液圧室56bへのブレーキ液の供給が止まる。時刻t2以降もプライマリピストン40bは、ばね部材50bの弾性力によって戻り側REVの方向に変位するため、時刻t2以降、第1液圧室56bの容積の増大にともなって液圧P1が負圧になる。
【0088】
時刻t2で第1液圧室56bの液圧P1が負圧になるとプライマリピストン40bが進み側FWDの方向に瞬間的に引き戻されて第2液圧室56aの容積が瞬間的に増大し、液圧P2の負圧が増大する(時刻t2→時刻t3)。
このように、時刻t2から時刻t3まで、セカンダリピストン40aおよびプライマリピストン40bは不規則に変位しながら、大局的には、ばね部材50a、50bの弾性力で戻り側REVの方向に変位する。
【0089】
そして、時刻t3で第2ポート孔43aがカップシール44Saよりも戻り側REVに移動して第2リリーフポート52aと連通し、第1ポート孔43bがカップシール44Paよりも戻り側REVに移動して第1リリーフポート52bと連通する。つまり、第2ポート孔43aと第1ポート孔43bが時刻t3で開放状態になる。
【0090】
また、
図4の(b)に示すように、ブレーキペダル12に生じるペダル反力は、第1圧力室56bの液圧P1および第2圧力室56aの液圧P2の減圧にともなって低下し、液圧P1、P2が負圧になる時刻t2から、第2ポート孔43aと第1ポート孔43bが開放状態になる時刻t3まで、
図4の(b)に示すように、ブレーキペダル12に生じるペダル反力が急減する。これは、セカンダリピストン40aが、増大した液圧P2の負圧で進み側FWDの方向に瞬間的に引き戻されるために生じる。
【0091】
時刻t3以降、開放状態にある第1ポート孔43bからプライマリピストン40bの第1中空部401bにブレーキ液が流入して、第1圧力室56bの液圧P1は大気圧まで上昇する。同様に、第2ポート孔43aからセカンダリピストン40aの第2中空部401aにブレーキ液が流入して、第2圧力室56aの液圧P2は大気圧まで上昇する(時刻t4)。
第1圧力室56bの液圧P1および第2圧力室56aの液圧P2が上昇するのにともなって、戻り側REVの方向へのプライマリピストン40bおよびセカンダリピストン40aの変位が促進され、戻り側REVの方向へのブレーキペダル12の変位が促進される。その後、ブレーキペダル12はストロークが「0」になるまで戻り側REVの方向に変位する。ストロークが「0」のとき、ブレーキペダル12の位置が戻り位置になる。
【0092】
時刻t3から時刻t4では、特に第1圧力室56bの液圧P1が急速に負圧から大気圧まで昇圧し、プライマリピストン40bは液圧P1に押圧されて戻り側REVの方向への変位が促進される。それにともなって、セカンダリピストン40aの戻り側REVの方向への変位も促進され、ブレーキペダル12の戻り側REVの方向への変位が促進される。
このことによって、
図4の(b)に示すように、時刻t3から時刻t4で、ブレーキペダル12に生じるペダル反力が急増する。
そして、ペダル反力の急増によって変位するブレーキペダル12に速度の乱れが生じる。したがって、運転者の足がブレーキペダル12にかかった状態であると、運転者は違和感を感じることになってブレーキフィーリングが悪化する。
【0093】
このような速度の乱れ(ペダル反力の急速な変化)は、時刻t2から時刻t4の間で第1圧力室56bの液圧P1が負圧まで減圧した後で急速に昇圧することによって生じる。したがって、時刻t3から時刻t4の間における第1圧力室56bの液圧P1の急速な昇圧を抑制することができれば、運転者が感じる違和感を軽減できる。
【0094】
そこで、本実施形態のマスタシリンダ34は、第1圧力室56bと第1リザーバ36の間を流通できるブレーキ液の単位時間あたりの流量が、第2圧力室56aと第1リザーバ36の間を流通できるブレーキ液の単位時間あたりの流量よりも少なくなるように構成されることを特徴とする。
具体的に、プライマリピストン40bに開口する第1ポート孔43bの1つあたりの開口面積とセカンダリピストン40aに開口する第2ポート孔43aの1つあたりの開口面積が等しい場合には、プライマリピストン40bの第1ポート孔43bの数が、セカンダリピストン40aの第2ポート孔43aの数よりも少ない構成とする。
【0095】
この構成によると、第1中空部401bに流入するブレーキ液の単位時間当たりの流量と、第2中空部401aに流入するブレーキ液の単位時間当たりの流量が異なるため、例えば、第1ポート孔43bと第2ポート孔43aが同時に開放状態になった場合であっても、第1圧力室56bの液圧P1と第2圧力室56aの液圧P2が負圧から大気圧まで昇圧するタイミング(昇圧するのに要する時間:
図4の(b)に示す時刻t3から時刻t4)が異なる。具体的に本実施形態においては、第2圧力室56aの液圧P2が第1圧力室56bの液圧P1よりも急速に昇圧する。このことによって、第1圧力室56bの液圧P1と第2圧力室56aの液圧P2が昇圧するタイミングがずれ、ブレーキペダル12に生じるペダル反力が軽減されて、運転者が感じる違和感が軽減される。
【0096】
また、セカンダリピストン40aの無効ストロークLaはプライマリピストン40bの無効ストロークLbより長く設定される。したがって、前記したように、セカンダリピストン40aとプライマリピストン40bが戻り側REVの方向に変位するときには、セカンダリピストン40aの第2ポート孔43aが先に開放状態となる。
このように第1ポート孔43bと第2ポート孔43aが開放状態になるタイミングがずれることによって、第1圧力室56bの液圧P1と第2圧力室56aの液圧P2が昇圧するタイミングがずれる。そして、ブレーキペダル12に生じるペダル反力が軽減されて、運転者が感じる違和感が軽減される。
【0097】
図5の(a)はセカンダリピストンに開口する第2ポート孔の配置を示す断面図、(b)はプライマリピストンに開口する第1ポート孔の配置を示す断面図である。
例えば、
図5の(a)に示すように、セカンダリピストン40aの第2中空部401aの周囲をなす壁部に、周方向に均等に8つの第2ポート孔43aが開口する構成とする。
そして、
図5の(b)に示すように、プライマリピストン40bの第1中空部401bの周囲をなす壁部に、周方向に均等に2つの第1ポート孔43bが開口する構成とする。
この構成によって、第1圧力室56bと第1リザーバ36の間を流通するブレーキ液の単位時間あたりの流量を、第2圧力室56aと第1リザーバ36の間を流通するブレーキ液の単位時間あたりの流量の1/4とすることができる。
【0098】
図6の(a)はプライマリピストンに2つの第1ポート孔が開口し、セカンダリピストンに8つの第2ポート孔が開口したマスタシリンダで、ブレーキペダルが開放されたときの第1圧力室の液圧の変化を示すグラフである。また、
図6の(b)はプライマリピストンに2つの第1ポート孔が開口し、セカンダリピストンに8つの第2ポート孔が開口したマスタシリンダのときのペダル反力の変化を示すグラフである。
【0099】
なお、
図6の(a)のグラフは、縦軸が圧力、横軸が経過時間(時間)を示し、(b)のグラフは、縦軸がペダル反力、横軸が経過時間(時間)を示す。また、実線は本実施形態を示し、破線は、プライマリピストン40bに8つの第1ポート孔43b(
図2参照)が形成されている従来例のペダル反力を示す。
ブレーキペダル12(
図1参照)が開放されると、プライマリピストン40b(
図2参照)およびセカンダリピストン40a(
図2参照)が戻り側REVの方向に変位し、
図6の(a)に示す時刻t3でプライマリピストン40bの第1ポート孔43b(
図2参照)が開放状態となる。そして、時刻t2以降負圧になっている第1圧力室56bの液圧P1は負圧から大気圧まで昇圧する。そのとき、プライマリピストン40bに2つの第1ポート孔43bが形成されている本実施形態は、プライマリピストン40bに8つの第1ポート孔43bが形成される従来例(破線)よりもプライマリピストン40bの第1中空部401bに流入するブレーキ液の単位時間当たりの流入量が少なく、実線で示すように液圧P1は緩やかに上昇する。
【0100】
したがって、第1圧力室56bの液圧P1と第2圧力室56aの液圧P2が昇圧する速度に違いが生じて、第1圧力室56bの液圧P1と第2圧力室56aの液圧P2が昇圧するタイミングがずれる。このことによって、
図6の(b)に実線で示すように、ブレーキペダル12に生じるペダル反力が、従来例(破線)に比べて緩やかに上昇する。つまり、ペダル反力の急速な上昇が抑制され、ブレーキペダル12に生じるペダル反力が軽減されて、運転者が感じる違和感が軽減される。
【0101】
このように、プライマリピストン40bの第1中空部401b(
図2参照)に形成される第1ポート孔43b(
図2参照)の数が、セカンダリピストン40aの第2中空部401a(
図2参照)に形成される第2ポート孔43a(
図2参照)の数よりも少ないことによって、プライマリピストン40bが戻り側REVの方向に変位するときのブレーキペダル12(
図1参照)に生じるペダル反力の急速な上昇を抑制することができ、変位するブレーキペダル12に生じる速度の乱れを軽減できる。
【0102】
以上のように、本実施形態の車両用ブレーキシステム10(
図1参照)に備わるマスタシリンダ34(
図1参照)は、プライマリピストン40b(
図2参照)に形成されて第1リザーバ36(
図1参照)と第1圧力室56b(
図2参照)を連通する第1ポート孔43b(
図2参照)の数を、セカンダリピストン40a(
図2参照)に形成される第2ポート孔43a(
図2参照)の数よりも少なくした。一例として、セカンダリピストン40aに8つの第2ポート孔43aが形成される場合に、プライマリピストン40bに2つの第1ポート孔43bが形成される構成とした。
この構成によって、プライマリピストン40bが戻り側REVの方向に変位するときに生じる第1圧力室56b(
図1参照)の液圧P1の急速な昇圧を抑制することができ、ブレーキペダル12(
図1参照)に生じるペダル反力の急速な変化を抑制できる。そして、変位するブレーキペダル12に生じる速度の乱れが抑制されて、運転者が感じる違和感を軽減できる。
【0103】
また、ブレーキペダル12(
図1参照)が踏み込み操作されてから、セカンダリピストン40aの第2ポート孔43a(
図2参照)が閉塞状態になるまでの距離(無効ストロークLa)が、プライマリピストン40bの第1ポート孔43b(
図2参照)が閉塞状態になるまでの距離(無効ストロークLb)よりも長く設定される構成とした。
この構成によって、ブレーキペダル12が戻り側REVの方向に変位するときに、セカンダリピストン40aの第2ポート孔43aをプライマリピストン40bの第1ポート孔43bよりも先に開放状態にすることができる。つまり、セカンダリピストン40aおよびプライマリピストン40bが戻り側REVの方向に変位するときに、第2圧力室56a(
図2参照)が、第1圧力室56b(
図2参照)よりも先に第1リザーバ36(
図1参照)と連通する構成とすることができる。
【0104】
したがって、セカンダリピストン40aとプライマリピストン40bが戻り側REVの方向に変位するときにはセカンダリピストン40aの第2ポート孔43aが先に開放状態となり、第1ポート孔43bと第2ポート孔43aが開放状態になるタイミングがずれる。したがって、前記したように、第1圧力室56bの液圧P1と第2圧力室56aの液圧P2が昇圧するタイミングがずれるため、ブレーキペダル12に生じるペダル反力が軽減されて、運転者が感じる違和感が軽減される。
【0105】
なお、本実施形態では、
図5の(a)、(b)に示すように、プライマリピストン40bとセカンダリピストン40aに同じ径の第1ポート孔43b、第2ポート孔43aが形成され、その数がプライマリピストン40bとセカンダリピストン40aで異なる構成とした。
この構成に限定されず、プライマリピストン40bとセカンダリピストン40aに同じ数の第1ポート孔43b、第2ポート孔43aが形成され、プライマリピストン40bに形成される第1ポート孔43bの開口面積がセカンダリピストン40aに形成される第2ポート孔43aの開口面積よりも小さい構成であってもよい。このような構成であっても、第1ポート孔43bを単位時間あたりに流通できるブレーキ液の流量を、第2ポート孔43aを単位時間あたりに流通できるブレーキ液の流量よりも少なくできる。
【0106】
例えば、プライマリピストン40bに形成される第1ポート孔43bの1つあたりの開口面積がセカンダリピストン40aに形成される第2ポート孔43aの1つあたりの開口面積を小さくすればよい。この構成によって、プライマリピストン40bの第1ポート孔43bを流通できるブレーキ液の単位時間当たりの流量を、セカンダリピストン40aの第2ポート孔43aを流通できるブレーキ液の単位時間当たりの流量よりも少なくすることができる。そして、第2ポート孔43aと第1ポート孔43bの径が同じで、第1ポート孔43bがプライマリピストン40bに2つ形成され、第2ポート孔43aがセカンダリピストン40aに8つ形成される場合と同等の効果を奏することができる。
【0107】
なお、
図5の(a)、(b)に示す、セカンダリピストン40aの第2ポート孔43aの数(8つ)およびプライマリピストン40bの第1ポート孔43bの数(2つ)は一例に過ぎず、第1ポート孔43bの数が第2ポート孔43aの数よりも少なければ、それぞれの数を限定するものではない。
【0108】
また、例えば、プライマリピストン40bの第1ポート孔43bの1つあたりの開口面積がセカンダリピストン40aの第2ポート孔43aの1つあたりの開口面積より小さく、かつ、第1ポート孔43bの数が第2ポート孔43aの数より少ない構成であってもよい。
【0109】
また、セカンダリピストン40aの外周に摺接する一対のカップシール44Sa、44Sb(
図3の(a)参照)に、ラバーグリスなどのグリスが、塗布または焼付け処理されている構成であってもよい。この構成によると、セカンダリピストン40aとカップシール44Sa、44Sbの摺動抵抗が小さくなって、セカンダリピストン40aの変位にともなうカップシール44Sa、44Sbの変形が抑制され、カップシール44Sa、44Sbの変形による第2圧力室56aの容積の変化が抑制される。このことによって、セカンダリピストン40aの変位による第2圧力室56aの容積の変化にともなう液圧P2の変化が抑制され、これによって、変位するブレーキペダル12(
図1参照)の速度の乱れが抑制されて運転者が感じる違和感を軽減できる。
【0110】
同様に、プライマリピストン40bの外周に摺接する一対のカップシール44Pa、44Pb(
図3の(b)参照)に、ラバーグリスなどのグリスが、塗布または焼付け処理されている構成であってもよい。この構成によると、プライマリピストン40bの変位による第1圧力室56bの容積の変化が抑制されて、第1圧力室56bの容積の変化にともなう液圧P1の変化が抑制され、これによって、変位するブレーキペダル12(
図1参照)の速度の乱れが抑制されて運転者が感じる違和感を軽減できる。
【0111】
また、本実施形態のマスタシリンダ34(
図1参照)は、
図3に示すように、プライマリピストン40bの無効ストロークLbがセカンダリピストン40aの無効ストロークLaよりも小さい構成とした。
これに対し、図示はしないが、プライマリピストン40bの無効ストロークLbがセカンダリピストン40aの無効ストロークLaよりも大きい構成のマスタシリンダ34であってもよい。つまり、「無効ストロークLb>無効ストロークLa」となるマスタシリンダ34であってもよい。この場合、セカンダリピストン40aの第2ポート孔43aにおける単位時間当たりのブレーキ液の流量がプライマリピストン40bの第1ポート孔43bにおける単位時間当たりのブレーキ液の流量よりも少なくなるように構成されることが好ましい。
【0112】
なお、本実施形態では、
図5に示すようにプライマリピストン40bの第1ポート孔43bの数を、セカンダリピストン40aの第2ポート孔43aの数より少なくして、第1中空部401bへ流入するブレーキ液の単位時間当たりの流量を、第2中空部401aへ流入するブレーキ液の単位時間当たりの流量よりも少なくしたが、逆の構成としてもよい。
つまり、第2中空部401aへ流入するブレーキ液の単位時間当たりの流量が、第1中空部401bへ流入するブレーキ液の単位時間当たりの流量よりも少なくなるような構成としてもよい。例えば、セカンダリピストン40aの第2ポート孔43aの数を、プライマリピストン40bの第1ポート孔43bの数より少なくする構成であってもよい。