(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ケースカバーの外側面に継手構造を設け、該継手構造により、前記PTO軸の外端に、該PTO軸の駆動を補助するアシスト機構、前記PTO軸からの動力によって発電する発電機のうちの少なくとも一方を着脱可能に連結することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の舶用減速逆転装置。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、
図1の矢印Fで示す方向を、舶用減速逆転装置1を搭載した図示せぬ船舶の前進方向とし、以下で述べる各部材の位置や方向等はこの前進方向を基準とする。
【0009】
まず、本発明に係わる舶用減速逆転装置1の全体構成について、
図1乃至
図4により説明する。該舶用減速逆転装置1は、船舶の船体本体2の後端部に取り付けられたハウジング3を有し、該ハウジング3内には、図示せぬエンジンからの動力を減速した前進方向の減速動力(以下、「前進動力」とする)として出力する前進伝達部7、前記前進動力とは反対方向に回転する減速動力(以下、「後進動力」とする)として出力する後進伝達部8、これら前進伝達部7・後進伝達部8の一方からの動力を船舶のプロペラに出力する出力伝達部9、及び図示せぬ発電機等の補助機器に動力を出力する、本発明に係わるPTO伝達部10とが収容されている。
【0010】
そして、前記船体本体2には、図示せぬエンジンと、該エンジンに連結されるフライホイール11が収容され、該フライホイール11に、前記前進伝達部7の前進入力軸12の前端が連結されている。
【0011】
これにより、エンジンからの動力は、前進入力軸12に常時入力され、後で詳述するクラッチ14・18により、船舶前進時には、前進伝達部7がそのまま出力伝達部9に連結されて、前進動力がプロペラに伝達される一方、船舶後進時には、前進伝達部7が後進伝達部8を介して出力伝達部9に連結されて、後進動力がプロペラに伝達されるようにしている。更に、前記前進伝達部7は、前記PTO伝達部10に常時連結されており、前進動力がPTO伝達部10を介して外部の補助機器にも伝達されるようにしている。
【0012】
また、前記ハウジング3の上面には、オイルクーラ29が載置固定されると共に、ハウジング3の背面の右上部には、オイルフィルタ30が配置され、ハウジング3の背面の左部には、その上下位置に、後述するカバープレート36を介して、前後進切換バルブ28と油圧ポンプ27とが配置されている。
【0013】
これにより、該油圧ポンプ27が駆動されると、ハウジング3内の油溜まりから吸い込まれて図示せぬサクションフィルタにより濾過された作動油が、前記前後進切換バルブ28・油路31等を介して、前記伝達部7・8に供給される。更に、前記作動油の一部は、前記オイルクーラ29により冷却されてからオイルフィルタ30で濾過された後、潤滑油として前記伝達部7乃至10に供給されるようにしている。
【0014】
次に、このような舶用減速逆転装置1による前後進切換構成について、
図2乃至
図4により説明する。前記前進伝達部7は、
図3に示すように、前記前進入力軸12と、該前進入力軸12の後端に外嵌して固設される前進入力ギア13と、前記前進入力軸12の前後途中に遊嵌される前進ピニオン15と、該前進ピニオン15と前記前進入力ギア13との間に介設される前進クラッチ14とから構成される。
【0015】
該前進クラッチ14は、湿式多板クラッチであって、前進ピニオン15の後端部に形成されるインナードラム15eと、前進入力ギア13に一体的に形成されるアウタードラム13aとが備えられ、該アウタードラム13aに固設される複数のプレッシャープレート13a1の隙間に、前記インナードラム15eに固設される複数のクラッチディスク15e1が交互に配置されている。
【0016】
更に、前進入力ギア13の内側には、油圧ピストン26が配置されており、該油圧ピストン26に作動油を供給し、該作動油の油圧によって前記油圧ピストン26を前方に押動させることにより、前記インナードラム15e内で前進入力軸12外周に巻回した戻しバネ32の弾性力に抗して、前記プレッシャープレート13a1とクラッチディスク15e1間が相互に圧接される。すると、該プレッシャープレート13a1とクラッチディスク15e1を介して、アウタードラム13aとインナードラム15eとが連結され、前進クラッチ14が「クラッチ入」となり、前進ピニオン15が前進入力軸12と連結される。
【0017】
逆に、油圧ピストン26に作動油が供給されないと、前記戻しバネ32の弾性力によって油圧ピストン26は後方に押し戻され、前記プレッシャープレート13a1とクラッチディスク15e1間が相互に離間される。すると、アウタードラム13aとインナードラム15eとの連結が切れて、前進クラッチ14が「クラッチ切」となり、前進ピニオン15と前進入力軸12とが遮断される。
【0018】
前記後進伝達部8も、
図4に示すように、前進伝達部7と同様、前記前進入力軸12に平行な後進入力軸16と、該後進入力軸16の後端に外嵌して固設される後進入力ギア17と、前記後進入力軸16の前後途中に遊嵌される後進ピニオン19と、該後進ピニオン19と前記後進入力ギア17との間に介設される後進クラッチ18とから構成される。
【0019】
該後進クラッチ18も、湿式多板クラッチであって、前記前進クラッチ14と同様に、インナードラム19eのクラッチディスク19e1とアウタードラム17aのプレッシャープレート17a1が交互に配置されると共に、後進入力ギア17の内側には、油圧ピストン26Aが配置されている。
【0020】
これにより、該油圧ピストン26Aを作動油によって前方に押動させると、後進クラッチ18が「クラッチ入」となり、後進ピニオン19が後進クラッチ18を介して後進入力ギア17に連結され、逆に、油圧ピストン26Aに作動油が供給されないと、戻しバネ32によって油圧ピストン26Aが後方に押し戻され、後進クラッチ18が「クラッチ切」となり、後進ピニオン19と後進入力ギア17とが遮断される。
【0021】
更に、この後進伝達部8は、
図2に示すように、前記前進伝達部7の左斜め下方に隣接して配置されると共に、該後進伝達部8の後進入力ギア17は、前記前進伝達部7の前進入力ギア13に常時噛合されており、該後進入力ギア17が、前記前進入力軸12から前進入力ギア13に伝達されてきた動力によって、常に駆動されるようにしている。
【0022】
前記出力伝達部9は、
図3に示すように、前進入力軸12に平行でプロペラに連結される出力軸23と、該出力軸23の前部に外嵌して固設される出力ギア22とから構成され、該出力ギア22は、前記前進伝達部7の前進ピニオン15と後進伝達部8の後進ピニオン19とに対し、常時、噛合されている。
【0023】
この場合、該出力ギア22は前記ピニオン15・19よりも大径であるため、前進伝達部7と出力伝達部9の間には、前進減速ギア列15・22が形成され、後進伝達部8と出力伝達部9の間には、後進減速ギア列19・22が形成されている。
【0024】
以上のような切換機構による前後進切換手順について説明する。前記前後進切換バルブ28が中立位置にある場合は、前進伝達部7の油圧ピストン26、後進伝達部8の油圧ピストン26Aのいずれにも作動油が供給されず、前進クラッチ14、後進クラッチ18とも「クラッチ切」となる。
【0025】
この場合、エンジンからの動力により、前進入力軸12と前進入力ギア13が、一体となって回転し、該前進入力ギア13に噛合する後進入力ギア17と、後進入力軸16も、一体となって回転する。しかし、前記前進ピニオン15・後進ピニオン19のいずれも、前記前進入力軸12・後進入力軸16に対して空転状態となっており、該前進ピニオン15・後進ピニオン19が同時噛合する出力ギア22には、動力が伝達されない。
【0026】
そして、前記前後進切換バルブ28を前進位置に切り換えると、油圧ポンプ27により圧送されてきた作動油は、前進伝達部7の油圧ピストン26に供給される一方、後進伝達部8の油圧ピストン26Aには供給されず、前進クラッチ14のみが「クラッチ入」となる。
【0027】
この場合、前進ピニオン15が前進クラッチ14を介して前進入力軸12に連結され、エンジンからの動力が、前進入力軸12から前進減速ギア列15・22を介して、出力軸23に伝達されるようになり、該出力軸23に連結されるプロペラが前記前進動力によって駆動される。一方、後進ピニオン19は後進入力軸16に対して空転状態となっており、後進ピニオン19から出力軸23には、動力が伝達されない。
【0028】
あるいは、前記前後進切換バルブ28を後進位置に切り換えると、作動油が後進伝達部8の油圧ピストン26Aに供給される一方、前進伝達部7の油圧ピストン26には供給されず、後進クラッチ18のみが「クラッチ入」となる。
【0029】
この場合、後進ピニオン19が後進クラッチ18を介して後進入力ギア17に連結され、エンジンからの動力が、前進入力軸12、前進入力ギア13、後進入力ギア17、後進クラッチ18から後進減速ギア列19・22を介して、出力軸23に伝達されるようになり、該出力軸23に連結されるプロペラは後進動力によって駆動される。この間、前進ピニオン15は前進入力軸12に対して空転状態となっており、前進ピニオン15から出力軸23には、動力が伝達されない。
【0030】
次に、前記伝達部7・8のハウジング3からの取り出し構成について、
図2乃至
図5により説明する。該ハウジング3は、第一ケース4と第二ケース5とによって前後半割状に形成されるケース体34と、前記第二ケース5の後壁5aの上半部に複数のボルト35によって着脱可能に締結固定されるケースカバー6とから構成される。
【0031】
このうちの第一ケース4において、その前面を閉塞する前壁4aの上部には、多段状の第一前進軸孔4bが前後方向に穿孔され、該第一前進軸孔4bは、同軸上で前から順に拡径する小径部4b1、中径部4b2、及び大径部4b3から構成される。更に、背面視で前記第一前進軸孔4bの左斜め下方位置には、前方に窪んだ多段状の第一後進軸凹部4cが形成され、該第一後進軸凹部4cも、同軸上で前から順に拡径する小径部4c1、中径部4c2、及び大径部4c3から構成される。加えて、背面視で前記第一前進軸孔4bの直下方には、前方に窪んだ第一出力軸凹部4dが形成される。
【0032】
前記第二ケース5において、その後面を閉塞する後壁5aには、前記第一前進軸孔4b、第一後進軸凹部4c、及び第一出力軸凹部4dの直後方位置に、それぞれ、第二前進軸孔5b、第二後進軸孔5c及び第二出力軸孔5dが穿孔されている。
【0033】
前記ケースカバー6において、その後面を閉塞するカバー壁6aには、前記第二前進軸孔5b、第二後進軸孔5cの直後方位置に、それぞれ、カバー前進軸孔6b、カバー後進軸孔6cが穿孔されている。
【0034】
更に、ケースカバー6のカバー壁6aには、複数のボルト41によって、前記カバープレート36が着脱可能に覆設され、該カバープレート36は、その内部に、前記伝達部7乃至10への潤滑油やクラッチ14・18への作動油を給排するための油圧回路が形成される。
【0035】
このような構造のハウジング3において、前記前進伝達部7では、前記前進入力軸12の先端にスプライン部12aが設けられ、該スプライン部12aは、前記フライホイール11に設けた継手部11aのスプライン孔11a1に、相対回転不能かつ軸方向摺動自在に挿嵌されている。更に、該継手部11aは、前記第一ケース4の第一前進軸孔4b内を、前記小径部4b1から中径部4b2にかけて後方に延設されると共に、該中径部4b2に、機体側ボールベアリング37aを介して回動可能に支持される。
【0036】
ここで、前進入力軸12に遊嵌される前記前進ピニオン15は、歯部15bを挟んで前後に、該歯部15bよりも小径の差し込み筒部15aと軸本体15cとが形成され、該軸本体15cには、前記インナードラム15eが後方に連設されている。
【0037】
このうちの差し込み筒部15aは、前記第一ケース4の第一前進軸孔4bの大径部4b3に、第一ボールベアリング37bとスリーブ39を介して回動可能に支持される。該スリーブ39は、リング状であって、その外周面は、第一ボールベアリング37bの内リング37b1に密着固定される一方、スリーブ39の内周面には、前記差し込み筒部15aが相対回転不能かつ軸方向摺動自在に挿嵌されている。そして、本実施例の場合、差し込み筒部15aの外周面にはスプライン15a1が設けられており、該外周面と前記スリーブ39の内周面間における軸方向の摩擦抵抗を減少させている。
【0038】
更に、前記インナードラム15eは、前記第二ケース5の第二前進軸孔5bに、第二ボールベアリング37cを介して回動可能に支持されている。なお、軸本体15cとインナードラム15eとの間には、半径方向外側に突出するリング状の鍔部15dが設けられており、該鍔部15dにより、前記第二ボールベアリング37cの前方への摺動が規制されている。
【0039】
前記前進入力軸12は、このような前進ピニオン15よりも更に後方に延出され、その延出端は、前記ケースカバー6を貫通すると共に、該ケースカバー6のカバー前進軸孔6bに、第三ボールベアリング37dを介して回動可能に支持されている。これにより、前進伝達部7で前記インナードラム15eより後方の部分、つまり、前進入力ギア13と前進クラッチ14を、ケースカバー6内に収容することができる。
【0040】
このように支持される前進伝達部7をハウジング3から取り出す手順について、
図3、
図5により説明する。まず、前記ボルト41を抜脱して、ケースカバー6から、油圧ポンプ27・前後進切換バルブ28を付設したカバープレート36を取り外し、その後、前記ボルト35を抜脱して、第三ボールベアリング37dを前進入力軸12側に残したまま、第二ケース5からケースカバー6のみを脱着する。
【0041】
続いて、前進入力軸12の後部を把持して後方に抜き出す。すると、前述の如く、第二ボールベアリング37cは鍔部15dによって前方への摺動が規制されているため、該第二ボールベアリング37cは、第二ケース5の第二前進軸孔5b内に留まることなく、鍔部15dによって後方に押し出されるようにして、インナードラム15eと一緒に取り出される。
【0042】
更に、前述の如く、第一ボールベアリング37b内にスリーブ39が密着固定される一方、該スリーブ39と差し込み筒部15aとは互いに軸方向摺動自在に構成されているため、前進入力軸12の後部を把持して後方に抜き出すと、該第一ボールベアリング37bが第一ケース4の第一前進軸孔4bにおける大径部4b3内にスリーブ39と一緒に残ったまま、差し込み筒部15aのみが取り出される。特に、本実施例のように、差し込み筒部15aの外周面にスプライン15a1を形成すると、摩擦抵抗が減少し、スリーブ39から前進ピニオン15を小さな力で抜き差しすることができる。
【0043】
この際、前述の如く、前進入力軸12先端にあるスプライン部12aが継手部11aのスプライン孔11a1に軸方向摺動自在に挿嵌されているため、前進入力軸12の後部を把持して後方に抜き出すと、前進入力軸12先端のみが継手部11aから取り出される。
【0044】
また、前記後進伝達部8でも、略同様に、前記後進入力軸16の先端部は、前記第一ケース4の第一後進軸凹部4cに嵌設した機体側ボールベアリング38a内に、相対回転不能かつ軸方向摺動自在に挿嵌されている。
【0045】
ここで、後進入力軸16に遊嵌される前記後進ピニオン19も、歯部19bを挟んで前後に、該歯部19bよりも小径の差し込み筒部19aと軸本体19cとが形成され、該軸本体19cには、前記インナードラム19eが後方に連設されている。
【0046】
このうちの差し込み筒部19aは、前記第一ケース4の第一後進軸凹部4cの大径部4c3に、第一ボールベアリング38bとスリーブ40を介して回動可能に支持される。該スリーブ40も、リング状であって、その外周面は、第一ボールベアリング38bの内リング38b1に密着固定される一方、スリーブ40の内周面には、前記差し込み筒部19aが相対回転不能かつ軸方向摺動自在に挿嵌されている。そして、差し込み筒部19aの外周面にもスプライン19a1が設けられ、スリーブ40の内周面との軸方向の摩擦抵抗を減少させている。
【0047】
更に、前記インナードラム19eは、前記第二ケース5の第二後進軸孔5cに、第二ボールベアリング38cを介して回動可能に支持されている。なお、前記軸本体19cとインナードラム19eとの間にも鍔部19dが設けられている。
【0048】
前記後進入力軸16の延出端も、ケースカバー6のカバー後進軸孔6cに、第三ボールベアリング38dを介して回動可能に支持されている。これにより、後進伝達部8で前記インナードラム19eより後方の部分、つまり、後進入力ギア17と後進クラッチ18を、ケースカバー6内に収容することができる。
【0049】
このように支持される後進伝達部8をハウジング3から取り出す場合も、前記前進伝達部7と同様に、まず、ボルト41を抜脱して、ケースカバー6からカバープレート36を取り外した後、前記ボルト35を抜脱して、第三ボールベアリング38dを後進入力軸16側に残したまま、第二ケース5からケースカバー6のみを脱着する。続いて、後進入力軸16の後部を把持して後方に抜き出すと、第二ボールベアリング38cは、第二ケース5の第二後進軸孔5c内に留まることなく、鍔部19dによって後方に押し出され、インナードラム19eと一緒に取り出される。
【0050】
更に、第一ボールベアリング38bは、第一ケース4の第一後進軸凹部4cにおける大径部4c3内にスリーブ40と一緒に残ったまま、差し込み筒部19aのみが取り出される。
【0051】
すなわち、ケースカバー6を脱着してから前進入力軸12・後進入力軸16を抜き出すだけで、第二ボールベアリング37c・38c、第三ボールベアリング37d・38dを前進伝達部7・後進伝達部8と一緒にハウジング3から取り出すことができ、第一ボールベアリング37b・38b、第二ボールベアリング37c・38c、第三ボールベアリング37d・38dのメンテナンスのためにハウジング3全体を分解する必要がなくなり、メンテナンス性が向上する。更に、ケースカバー6を脱着するだけで、前進クラッチ14・後進クラッチ18、前進入力ギア13・後進入力ギア17、第三ボールベアリング37d・38dを外部に露出させることができ、これらの部材である前進クラッチ14・後進クラッチ18、前進入力ギア13・後進入力ギア17、第三ボールベアリング37d・38dについては、メンテナンスを一層容易に行うことができる。加えて、第一ボールベアリング37b・38b、第二ボールベアリング37c・38c、第三ボールベアリング37d・38dに作用する負荷を、前記第一ケース4、第二ケース5、及びケースカバー6という複数の部材に分散させることができ、第一ボールベアリング37b・38b、第二ボールベアリング37c・38c、第三ボールベアリング37d・38dを強固に支持して回転中の回転軸心のずれを小さくし、騒音や第一ボールベアリング37b・38b、第二ボールベアリング37c・38c、第三ボールベアリング37d・38dの損傷を大きく抑制することができる。
【0052】
次に、以上のような前後進切換構成・取り出し構成の伝達部7・8と並設する前記PTO伝達部10について、
図1、
図2、
図6により説明する。該PTO伝達部10は、前記前進入力軸12に平行なPTO軸21と、該PTO軸21の前後途中部に外嵌して固設されるPTOギア20とから構成され、該PTOギア20は、前進伝達部7でケースカバー6内に収容される前進入力ギア13と噛合されており、エンジンからの動力が、前進入力軸12、前進入力ギア13、PTOギア20を介してPTO軸21に伝達され、該PTO軸21が常時回転するようにしている。
【0053】
これにより、PTOギア20と前進入力ギア13との間、該前進入力ギア13と後進入力ギア17との間は、いずれも噛合されることとなり、PTO伝達部10、前進入力ギア13・前進クラッチ14、及び後進入力ギア17・後進クラッチ18は、ケースカバー6内で、該ケースカバー6を固定する第二ケース5の後壁5aに平行な方向(以下、「カバー幅方向」とする)にて近接するように配置される。
【0054】
ここで、該第二ケース5の後壁5aには、背面視で前記第二前進軸孔5bの右斜め下方位置に、ボス部材42が複数のボルト44によって締結固定され、該ボス部材42には前方に窪んだPTO軸凹部42aが形成される。一方、前記ケースカバー6の後壁5aで、前記PTO軸凹部42aの直後方位置には、カバーPTO軸孔6dが穿孔されている。
【0055】
そして、前記第二ケース5のPTO軸凹部42aに、前記PTO軸21の縮径前端部が、前ボールベアリング43aを介して着脱可能に挿嵌されると共に、前記ケースカバー6のカバーPTO軸孔6dに、前記PTO軸21上でPTOギア20よりも後方の縮径部分が、後ボールベアリング43bを介して着脱可能に挿嵌されている。
【0056】
これにより、前記PTO伝達部10のPTO軸21は、前記第二ケース5とケースカバー6との間に、着脱可能に回動支持されている。
【0057】
また、該PTO軸21の後端は、前記ケースカバー6から後方に突出され、継手構造33を介してモータジェネレータ50に連結されており、該モータジェネレータ50がエンジンからの動力によって駆動されるようにしている。
【0058】
このうちの前記継手構造33は、筒状のフランジ33aと、該フランジ33a内で前記PTO軸21の後端をモータジェネレータ50の入出力軸50aに連結するカップリング33bとから構成される。
【0059】
そして、該フランジ33aでは、その前後端が、それぞれ、前記ケースカバー6のカバー壁6aとモータジェネレータ50とに、ボルト51等で着脱可能に締結固定される。更に、前記カップリング33bの内周と、前記PTO軸21・入出力軸50aの外周には、いずれにもスプラインが形成されており、PTO軸21と入出力軸50aが、互いに相対回転不能かつ軸方向摺動自在に連結されている。
【0060】
これにより、前記ボルト51等を抜脱した後、入出力軸50aをカップリング33bから抜き出しながら、モータジェネレータ50をフランジ33aから取り外し、その後、該フランジ33aを前記ケースカバー6から取り外すと共に、カップリング33bをPTO軸21から抜き出すことができ、該PTO軸21に前記モータジェネレータ50を着脱可能に連結するようにしている。
【0061】
前記モータジェネレータ50は、前記前進動力・後進動力をアシストする無段変速可能な電動モータとして、あるいは、前記前進動力を駆動源にして発電する発電機として作動する。
【0062】
更に、モータジェネレータ50には、インバータ部52aとコンバータ部52bを内蔵する電力変換装置52が連結され、該電力変換装置52には、バッテリ53とコントローラ54とが連結され、該コントローラ54には、船舶の運転室等に設けた補助レバー55が連結されている。
【0063】
このような構成において、漁場に急ぐために船舶を加速したい等の場合に、前記補助レバー55を操作すると、レバー位置信号が前記コントローラ54に送信され、該コントローラ54からは前記電力変換装置52にアシスト信号が送信される。すると、該アシスト信号により、前記バッテリ53に蓄えられた直流電力が、前記電力変換装置52内のインバータ部52aにより交流電力に変換された後、前記モータジェネレータ50に供給され、該モータジェネレータ50は、電動モータ部として作動する。
【0064】
これにより、モータジェネレータ50からの無段階の補助動力が、前記入出力軸50aを介してPTO軸21に入力され、前記PTOギア20、前進入力ギア13を介して前進伝達部7に伝達され、あるいは、前記前進入力ギア13から後進入力ギア17を介して後進伝達部8に伝達される。すると、補助動力が前進動力または後進動力に合成されて、無段階の合成動力として前記出力伝達部9に伝達されるため、該出力伝達部9の出力軸23からの出力の加速性が増すと共に、エンジンからの出力も小さくてすむ。
【0065】
逆に、通常の場合は、前述の如く、エンジンからの動力の余裕分によって常時回転するPTO軸21により、モータジェネレータ50が発電部として作動し、発電された交流電力は、前記電力変換装置52内のコンバータ部52bにより直流電力に変換された後、前記バッテリ53に蓄えられる。
【0066】
以上のような構成において、前記第二ケース5とケースカバー6の間に支持されるPTO伝達部10をハウジング3から取り出す場合には、まず、前述のようにして、モータジェネレータ50と継手構造33をPTO軸21からを取り外した後、前記ボルト35を抜脱して、前記後ボールベアリング43bをPTO軸21側に残したまま、第二ケース5からケースカバー6のみを脱着する。
【0067】
続いて、PTO軸21の後部を把持して後方に抜き出すと、前ボールベアリング43aをボス部材42のPTO軸凹部42a内に残したまま、後ボールベアリング43bがPTO軸21と一緒に取り出される。これにより、前ボールベアリング43a・後ボールベアリング43bのメンテナンスのためにハウジング3全体を分解する必要がなくなり、メンテナンス性が向上する。
【0068】
すなわち、第一ケース4、第二ケース5、及び該第二ケース5に着脱可能なケースカバー6を装置である舶用減速逆転装置1の一側である前側から他側である後側に向かって順に列設してハウジング3を形成し、該ハウジング3内に前進用と後進用の推進伝達部である前進伝達部7・後進伝達部8を収容すると共に、該前進伝達部7・後進伝達部8は、いずれも、プロペラに連結する出力ギア22に噛合するピニオンである前進ピニオン15・後進ピニオン19と、該前進ピニオン15・後進ピニオン19が軸途中に遊嵌される入力軸である前進入力軸12・後進入力軸16と、該前進入力軸12・後進入力軸16の後側に固設される入力ギアである前進入力ギア13・後進入力ギア17と、該前進入力ギア13・後進入力ギア17と前記前進ピニオン15・後進ピニオン19との間に動力断接可能に介設するクラッチである前進クラッチ14・後進クラッチ18とから構成した舶用減速逆転装置1において、前記前進入力ギア13・後進入力ギア17、前進クラッチ14・後進クラッチ18、及び動力取り出し用のPTO伝達部10は、前記ケースカバー6内で、カバー幅方向にて近接配置すると共に、前記PTO伝達部10は、前記前進入力ギア13に噛合するPTOギア20と、該PTOギア20が軸途中に固設されるPTO軸21とから構成し、該PTO軸21を、前記第二ケース5とケースカバー6との間に着脱可能に回動支持したので、ケースカバー6を着脱するだけで、前進伝達部7・後進伝達部8の前進入力ギア13・後進入力ギア17、前進クラッチ14・後進クラッチ18、及びPTO伝達部10に、外部から容易にアクセスすることができ、該前進入力ギア13・後進入力ギア17、前進クラッチ14・後進クラッチ18、及びPTO伝達部10のメンテナンス性や着脱交換性を向上させることができる。更に、前進伝達部7・後進伝達部8の構成部品のうちハウジング3内で非常に大きな空間を占める前進クラッチ14・後進クラッチ18を、ケースカバー6内で、PTO伝達部10の側方に隙間なく配置して、前進クラッチ14・後進クラッチ18の収容によるケースカバー6の体積増加を抑えた上で、ケースカバー6以外のハウジングの部分である第一ケース4・第二ケース5の体積を前進クラッチ14・後進クラッチ18を除去した分だけ減らすことができ、これにより、ハウジング3の大きさを減少させて、舶用減速逆転装置1全体のコンパクト化を図ることができる。加えて、PTO軸21は、ハウジング3の構成部材である第二ケース5・ケースカバー6を利用して支持することができ、支持部材を別途設けてケースカバー6内に新たに組み込む必要がなく、部品コストの低減が図れると共に、ケースカバー6の体積増加を抑えて、舶用減速逆転装置1全体の一層のコンパクト化を図ることができる。
【0069】
次に、前記PTO伝達部10の別形態について、
図7により説明する。別形態のPTO伝達部10Aは、
図6に示す前記PTO伝達部10におけるPTOギア20とPTO軸21との間に、動力断接可能なクラッチ機構を介設することにより、エンジン出力の動力ロスの低減等を図ったものである。なお、ここでは、前記PTO伝達部10と異なる点を中心に説明すると共に、各要素に用いた符号と同じ符号は、同一または同等の機能を有する要素を指すものであり、同じ符号を付した要素については、特に必要としない限り、その説明は省略する。
【0070】
該PTO伝達部10Aは、前記前進入力軸12に平行なPTO軸61と、該PTO軸61の前後途中に遊嵌されると共に前記前進入力ギア13に常時噛合されるPTOギア60と、該PTOギア60と前記PTO軸61との間に介設されるPTOクラッチ58とから構成される。
【0071】
該PTOクラッチ58は、前述したクラッチ14・18と同様に、湿式多板クラッチであって、PTOギア60でPTO軸61外周近傍から前方に延出するように形成されるインナードラム60aと、PTO軸61の前端に外嵌して固設されるアウタードラム62とが備えられ、該アウタードラム62に固設される複数のプレッシャープレート62aの隙間に、前記インナードラム60aに固設される複数のクラッチディスク60a1が交互に配置されている。更に、アウタードラム62の内側には、油圧ピストン63が配置されると共に、インナードラム60a内でPTO軸61外周には、戻しバネ64が巻回されている。
【0072】
これにより、該油圧ピストン63を作動油によって後方に押動させると、前記戻しバネ64の弾性力に抗して、前記プレッシャープレート62aとクラッチディスク60a1間が相互に圧接される。すると、アウタードラム62とインナードラム60aとが連結されて、PTOクラッチ58が「クラッチ入」となり、PTO軸61がPTOギア60と連結される。
【0073】
逆に、油圧ピストン63に作動油が供給されないと、前記戻しバネ64の弾性力によって油圧ピストン63が前方に押し戻され、前記プレッシャープレート62aとクラッチディスク60a1間が相互に離間される。すると、アウタードラム62とインナードラム60aとの連結が切れて、PTOクラッチ58が「クラッチ切」となり、PTO軸61がPTOギア60と遮断される。
【0074】
つまり、PTOクラッチ58の入切により、前記前進入力ギア13に噛合されて常時回転しているPTOギア60から、PTO軸61に伝達される動力を、自在に断接できるようにしている。
【0075】
また、該PTO軸61の後端は、前記ケースカバー6から後方に突出された後は、前述したPTO軸21と異なり、前記継手構造33を介して発電機56に連結され、該発電機56がエンジンからの動力によって駆動される。
【0076】
該継手構造33は、前述の如く、筒状のフランジ33aと、該フランジ33a内で前記PTO軸61の後端を発電機56の入力軸56aに連結するカップリング33bとから構成されており、該カップリング33bによって、PTO軸61と入力軸56aとが、互いに相対回転不能かつ軸方向摺動自在に連結されている。
【0077】
前記発電機56は、前記前進動力を駆動源にして発電するものであって、コンバータ部57aを内蔵する電力変換装置57が連結され、該電力変換装置57には、前記バッテリ53とコントローラ65とが連結され、該コントローラ65には、前記PTOクラッチ58への作動油の供給の有無を制御するPTOクラッチ入切バルブ66が連結されている。
【0078】
このような構成において、バッテリ53への充電が完了していない等の場合には、前記バッテリ53から電力変換装置57を介して送信されてきた充電レベル信号基づいて、前記コントローラ65からPTOクラッチ入切バルブ66のソレノイドに対して、クラッチ入信号が送信される。
【0079】
すると、該クラッチ入信号により、前記PTOクラッチ58が「クラッチ入」となってPTO軸61とPTOギア60とが連結され、該PTOギア60からPTO軸61、入力軸56aを介して、発電機56にエンジンからの動力が入力される。そして、発電された交流電力は、前記電力変換装置57内のコンバータ部57aにより直流電力に変換された後、前記バッテリ53に蓄えられる。
【0080】
更に、充電が進み、バッテリ53への充電が完了等した場合には、前記バッテリ53から電力変換装置57を介して送信されてきた充電レベル信号基づいて、前記コントローラ65からPTOクラッチ入切バルブ66のソレノイドに対して、クラッチ切信号が送信される。
【0081】
すると、該クラッチ切信号により、前記PTOクラッチ58が「クラッチ切」となってPTO軸61とPTOギア60との連結が切れ、エンジンからの動力が発電機56に入力されないようになる。
【0082】
これにより、バッテリ53の充電が完了しているにもかかわらず、発電機56の駆動にエンジンからの動力が無駄に費やされるのを防ぐと共に、バッテリ53への過充電を防止することができる。
【0083】
すなわち、以上述べたように、前記PTO伝達部10AのPTOギア60とPTO軸61との間に、動力断接可能なPTOクラッチ58を介設するので、該PTOクラッチ58の入切により、PTO軸61から補助機器である発電機56に出力される動力の断接を行うことができ、発電機56への出力時期の適正化を行い、動力ロスの低減による燃費向上や、発電機56、及びその関連機器であるバッテリ53の寿命改善を図ることができる。
【0084】
更に、前記ケースカバー6の外側面に継手構造33を設け、該継手構造33により、前記PTO軸21・61の外端に、該PTO軸21・61の駆動を補助するアシスト機構として電動モータ部を有するモータジェネレータ50、前記PTO軸21・61からの動力によって発電する発電機56のうちの少なくとも一方を着脱可能に連結するので、PTO軸21・61を、仕様に応じてアシスト機構や発電機に連結することができ、舶用減速逆転装置1の汎用性を高めることができる。特に、アシスト機構に連結した場合は、前記出力軸23からの出力の加速性が増して操船性能が向上すると共に、エンジンからの出力が小さくてすみ、エンジンの小型化・軽量化を図ることができる。