【実施例1】
【0019】
本発明の実施例1は、本発明の適用対象となる構造物としてエレベータを例示する。
図1は、このエレベータのかごに、防犯システムを備えた概略構成図を示す。
【0020】
図1において、エレベータのかご(構造物)50の内部には、監視カメラ51が設置される。かご50の外壁、例えば天井外壁には、防犯システムの信号処理及び乗客の異常挙動判定を行なう信号処理装置52が設置されている。また、監視カメラ51と併用される異常挙動検知用のセンサ53がかご50の下部に設置されている。本実施例では、センサ53として荷重センサを例示するが、後述のように、これに限定されるものではない。符号56は、かご50を吊り下げたエレベータ昇降ロープである。
【0021】
監視カメラ51は、かご50の天井或いは内壁に備え付けられ、かご50内の乗客の動きが捉えられるように設置されている。監視カメラ51は可視のカメラの他、近赤外のカメラや、Time Of Flight方式のような距離画像カメラであってよい。
【0022】
本実施例では、センサ53として例えば渦電流式の荷重センサを使用する。ただし、これに限定されるものではなく、周知の歪ゲージ方式など種々のタイプが適用可能である。
【0023】
渦電流式の荷重センサを使用する場合には、センサ53は、高周波磁束発生のセンサコイルによって構成され、このセンサ53を、かご床54の支持台55の下面(センサコイルの高周波磁束によりうず電流を形成する導電板)と隙間を介して対向するよう配置される。かご床54上の乗客もしくは貨物の荷重による衝撃や振動や、かご50の壁が叩かれた時に生じる衝撃や振動によって、支持台55の下面とセンサ53との距離が変化し、それを支持台55下面の渦電流値の変化ひいてはセンサ(センサコイル)53のインピーダンス変化より検知する。センサ53は、所定の周期で荷重の変化を計測している。この所定の周期は、乗客の動作の周期に対して十分に短く、乗客の動作によってかご床54に振動が発生した時に、センサ53の出力信号は変化する。監視カメラ51が出力する映像、ならびにセンサ53が出力する信号は、それぞれ信号処理装置52に入力される。
【0024】
信号処理装置52は、監視カメラ51からの映像信号およびセンサ53からの出力信号を入力して、エレベータかご内の人物の異常挙動の有無を判定するために必要な信号処理を行う装置であって、任意の計算機を適用できる。なお、
図1には、信号処理装置52が1台の装置から構成される場合を示したが、信号処理装置52は接続された2つ以上の装置から構成されても良い。また、監視カメラ51もしくはセンサ53の内部の処理装置を含めて、信号処理装置52としても良い。あるいは、情報端末59を
図1に図示しない接続線で信号処理装置52に接続して、信号処理装置52の一部としてもよい。情報端末59とは、キーボード、マウス、タッチパネルのような作業員からの入力操作を受け付ける機能と信号処理の機能とディスプレイなどの表示機能とを有する装置を指す。情報端末59は、ノート型のパソコンや、タブレット型のパソコンや、PDA(パーソナルデジタルアシスタント)や、携帯電話などで実現できる。
【0025】
図2は、本発明の実施例1における監視カメラ51及びセンサ53と、信号処理装置52の機能構成の一例を示すブロック図である。
【0026】
図2中の画像判定部2、センサ判定部4、サンプル信号収集部5、閾値計算部6、総合判定部7、発報部8の各機能は、コンピュータプログラムとそれを実行するハードウェアによって構成される。
【0027】
これらの機能の概要を述べると、画像判定部2はカメラ51の映像中の所定の指標(例えば映像中の動的要素の所定時間における移動量や移動速度)を画像処理して計測し、その計測値を画像用の閾値(基準値)と比較して、かご50内に乗客の異常挙動が発生しているか否かの判定を行う。
【0028】
センサ判定部4は、異常挙動検知用のセンサ53の出力信号(センサ出力信号)の時系列から、異常挙動判定に必要な信号、例えば変化の度合いを示す指標(加工値:具体例は後述する)を計算(加工処理)し、この指標がセンサの異常挙動判定用の閾値πを越えれば異常挙動有りと判定する。このセンサ53用の閾値πは、閾値計算部6で算出される。この閾値の計算式については、その一例を後って詳述する。
【0029】
総合判定部7は、画像判定部2およびセンサ判定部4の異常判定の結果を組み合わせて、最終的にかご50内における乗客の挙動が異常であるか否かの判定を行う。発報部8は、総合判定部7が異常と判定した時に、警報信号を発生して、かご50に備え付けた警報装置を介して警報を発生する。
【0030】
サンプル信号収集部5は、閾値計算部6でセンサ53用の異常挙動判別用の閾値πを算出する場合に用いるセンササンプル信号を、次のようにして収集する。すなわち、かご50内で所定の信号源(例えば機械的振動や音)を加えて、その信号源による振動或いは衝撃をセンサ53で検知して、そのセンサ出力信号をセンササンプル信号として収集する。このようなセンサ出力信号を生じさせる信号源は、
図6(a)に示すように、落下によりかご床54に衝撃を加える錘60、
図6(b)に示すようにかご床54の面上に置いて床に振動を与える加振器61、及び作業員の動作の少なくとも一つであればよい。このような信号源は、閾値πを設定するときにのみ用意して使用される。閾値πは、センサ53を備え付けたエレベータかごを建屋に設置するとき或いは既存のエレベータかごにセンサを設置するとき、或いはセンサを備え付けたかごのメンテナンス時に信号処理装置52の閾値計算部6により計算される。
【0031】
かご50に上記した信号源を加えると、センサ53がそれを検知する。
【0032】
閾値計算部6は、上記信号源を利用して得られたセンサ出力信号をセンササンプル信号として取得する。そして、センサ53の出力信号における変化の量(センサ53に入力が加わる前の出力信号との差)をセンサ出力信号変化量としたとき、予め用意(登録)された比較用の参照値ωoに対するこのセンササンプル信号のセンサ出力信号変化量のピーク値ωの比α=ω/ωoを算出し、その比αが大きくなるほど閾値を大きくし、比αが小さくなるほど閾値を小さくするような、前記比と予め登録された基準閾値とをパラメータとして用いる所定の計算式によって、センサ設置対象のかご(構造物)に応じた閾値πを算出する。この計算式としては、本実施例では、この比αを予め用意された基準閾値πoに乗じることで、かごの仕様、構造に応じた異常挙動判定用のセンサ閾値πを算出する。ただし、後述するように上記所定の計算式は、比αと基準閾値とをパラメータとして用いた別の計算式でもよい。
【0033】
以下、画像判定部2、センサ判定部4、サンプル信号収集部5、閾値計算部6、総合判定部7の各機能の詳細を述べる。
【0034】
画像判定部2は、所定の周期で、監視カメラ51の映像を入力し、その映像に信号処理を加えることで映像の動きの異常さの指標を計算し、映像の動きの異常さの指標が異常判定の画像用の閾値を超えれば異常、超えなければ正常と判定する。映像の動きの異常さの指標の計算の方法には、非特許文献1の方法が適用でき、周知であるので、その詳細な説明は省略する。また、映像の動きの異常さの指標の計算の方法は、非特許文献1に記載のものに限らず、他の方法を用いてもよい。画像判定部2は、所定の出力周期で異常判定の結果を出力する。
【0035】
センサ判定部4は、センサ出力信号に所定の周期で
図3のフローを適用してセンサ出力信号からかご50内の乗客の異常挙動の判定を行う。
【0036】
すなわち、センサ判定部4は最初に、センサ53の出力信号を所定の周期で読み込む(S1)。
図4は、S1で読み込んだセンサ53の出力信号の例をグラフで示している。
図4のグラフの横軸Tは時刻、縦軸Wはセンサ53の出力信号(出力信号の信号強度)を示し、T0までの時刻では出力信号Wは、ほぼ一定であるが、時刻T0以降は大きく変動している。これは
図4に示すセンサ53の出力信号Wを計測した時、例えば、かご50内には2名の乗客が乗車しており、T0までの間はじっとしているためにかご床54に伝わる力は前記2名の乗客の体重で一定であるが、T0以降は殴り合いの異常挙動が発生したために、この異常挙動に伴う乗客の動きが振動となり、かご床54に伝わる力が時間変化している。このセンサ53の出力信号における変化の量(センサ53に入力が加わる前の出力信号との差)をセンサ出力信号変化量ΔWと呼ぶこととする。尚、このセンサ出力信号変化量ΔWは、
図4における出力信号の波形の極大値や極小値における値に限られず、その途中の時刻の位置においても、その時刻における出力信号Wの大きさとセンサ53に入力が加わる前の出力信号の大きさとの差によって計算される値である。センサ判定部4は次に、S1のセンサ53の出力信号の変化量(センサ出力信号変化量)ΔWから振動の強さを計算し、前記振動の強さをかご50内の異常さを表す尺度(異常度)として出力する(S2)。
図5のグラフは、
図4の出力信号Wから計算した異常度の例であり、横軸が時刻T、縦軸が異常度Pを示している。
図5の異常度Pは、各時刻において
図4に示す時間窓τ内のセンサ出力信号変化量ΔWの統計量である。すなわち、本実施例では、一例として、センサ53の出力信号の加工値としてセンサ出力信号変化量ΔWの統計量(異常度)Pを用いるが、これに限定されるものではなく、後述するように他の加工値を採用してもよい。この異常度Pは、例えば時間窓τ内のセンサ出力信号変化量ΔWの標準偏差で計算できる。なお、センサ出力信号変化量ΔWの標準偏差はセンサ53の出力信号Wの標準偏差と同じなので、そちらで計算してもよい。
図5において、異常度Pは乗客がじっとしているT0までの間は0に近い小さな値を取っているが、乗客が異常挙動をしたT0以降は0よりも大きな値を取っている。センサ判定部4は、次に、S2で計算した異常度Pと閾値πとを比較し、異常度Pが閾値πより大きければ異常(S4)、そうでなければ正常(S5)と判定する(S3)。
図5のグラフの例では、異常度Pが閾値π以下であるT1までは正常、異常度Pがπより大きなT1以降は異常と判定している。
【0037】
なお、S2の異常度Pは以上の説明では時間窓τ内のセンサ出力信号変化量ΔWの標準偏差を使ったが、時間窓τ内におけるセンサ出力信号変化量ΔWの大きさに比例した他の指標(加工値)を使っても良い。フーリエ変換のスペクトルの強度が一例である。他にも、時間窓τをいくつかの区間に分割し、区間内で標準偏差やスペクトルの強度を計算した後に、その中央値や平均等の統計量を求めて異常度Pとしても良い。
【0038】
サンプル信号収集部5は、既述したように、かご50においてかご床54に所定の信号源(模擬挙動:錘、加振器など)による振動を発生させたときのセンサ53の出力信号を収集する。
図6(a)は、前記信号源の例として錘60を所定の高さLからかご床54に落とす場合を示している。錘60の質量は事前に定めた所定の値とする。錘60の落下は、機械で行っても人手で行っても良い。
図6(b)は、前記信号源の例として、加振器61をかご床54に置いて加振させた場合である。加振器61は、所定の周期で対象物に力を加えることで振動を繰り返す装置である。錘60の落下および加振器61による振動は、かご床54および支持台55を通過してセンサ53に伝わる。
【0039】
サンプル信号収集部5が収集したセンサ53の出力信号の例を
図7(a)および(b)に示す。
図7(a)および(b)の横軸は時刻T、縦軸はセンサ53の出力信号(出力信号の信号強度)Wを示している。
図7(a)において錘60を落下させた時の波形71には、時刻T2にセンサ出力信号変化量のピーク値ω1が出現している。
図7(b)の波形72は加振器61を加振させたとき波形であり、時刻T3以降においてセンサ出力信号変化量のピーク値ω2を有する規則的な振動を継続している。
【0040】
閾値計算部6は
図8のフローによって、サンプル信号収集部5のセンサ53の出力信号、すなわち上記信号源を利用したセンササンプル信号から、センサ判定部4で使用する異常挙動判定の閾値πを計算する。
【0041】
閾値計算部6は、最初にサンプル信号収集部5で収集したセンササンプル信号、すなわち信号源(錘60或いは加振器61)が与えられたセンサ53の出力信号から、そのセンサ出力信号変化量のピーク値ωを計算する(S10)。このセンサ出力信号変化量のピーク値ωは、センサ53に与えられる信号源の種類に応じて、適切な方法で計算する。信号源として錘60を落下させたときは、閾値計算部6は、
図7(a)の波形71の時刻T2のピークにおけるセンサ出力信号変化量のピーク値ω1を計測する。ピークの抽出は、例えば錘60を落下させた直後の波形71の変化の最大値で計算できる。信号源として加振器61を加振させたときは、波形72の規則的な振動のピークにおけるセンサ出力信号変化量のピーク値ω2を抽出する。波形72の規則的な振動からセンサ出力信号変化量のピーク値ω2を求めることは、フーリエ変換したときの最大の周波数成分を抽出することで可能である。ただし、この例に限らない。
【0042】
閾値計算部6は、予めデータ登録してある比較用の参照値ωoに対するS10において求めたセンサ出力信号変化量のピーク値ωの比αを数1式で計算する(S11)。ここで、比較用の参照値ωoは、代表かご(代表構造物)において、上記信号源をセンサ53に与える(具体的には、代表かご(代表構造物)内で上記信号源を加えて、その信号源による振動或いは衝撃を代表かごに設けたセンサ53で検知して、そのセンサ出力信号を代表かごでのセンササンプル信号として収集する)ことによって与えられたセンサ出力信号の変化量のピーク値である。ここで、代表かごとは、かご50と同様にセンサ53を備えた所定の寸法と構造を持つかごであって、構造や仕様の異なるかごの中から、任意の1つを基準用として定めたかごである。代表かごは、センサ出力信号変化量のピーク値ωの比較対象となる参照値(基準値)ωoを予め求めるために使用されるほかに、閾値計算部6が閾値πを計算する時に用いられる基準閾値πoを求めるために使用される。基準閾値πoの求め方は、後述する。
[数1]
α=ω/ωo
以下に述べるように、信号源を利用したセンサ出力信号変化量のピーク値(かご50と代表かごのセンサ出力信号変化量のピーク値)の比αは、かご50と代表かごのかご床54に同じ力Fを加えた時の、センサ出力信号変化量ΔWの比にあたることを説明する。まず、かご50内のかご床54に大きさFの何らかの力が加わった時、センサ出力信号変化量ΔWに対して、FとΔWの間を数2式のバネのモデルで扱う。
[数2]
ΔW=κ´F
数2式におけるκ´はかご50のバネ定数κの逆数(1/κ)である。数2式のバネのモデルを適用した理由は、乗客の動作により発生した振動の力がかご50内のかご床54および支持台55に伝わると、センサ(ここでは、渦電流式荷重センサ)53と支持台55との間の隙間が変化する現象が、バネの上に錘を載せて揺らす現象と同じ構成をもつからである。代表かごでも同様に、数3式のバネのモデルを立てる。数3式において、κ´oは代表かごのバネ定数κoの逆数(1/κo)である。
[数3]
ΔW=κ´oF
ここで、上記した信号源(錘60、加振器61など)によりセンサ53に与えられる力の大きさの最大値をFsとすると、信号源の力の大きさはかご50でも代表かごでも同じFsである。そして、このときにセンサ出力信号変化量はピーク値となる。よって、かご50ならびに代表かごにおいて信号源から与えられる力の最大値Fsによるセンサ出力信号変化量のピーク値ωならびにωoとFsの間には、数4式ならびに数5式が成立する。
[数4]
ω=κ´Fs
[数5]
ωo=κ´oFs
数4式から数5式を除算することによって、数1式の比αと、バネ定数の逆数κ´ならびにκ´oの間に数6式の関係が成立することがわかる。
[数6]
α=ω/ωo=κ´/κ´o
ここで、数2式において力Fを一定とすると、センサ出力信号変化量ΔWはバネ定数の逆数κ´に比例する。すなわち、かご床54に加える力Fが一定のとき、バネ定数の逆数κ´が大きいほどΔWは大きくなる。よって比αは、かご床54に一定の大きさの力Fを加えた時の、かご50の代表かごに対するセンサ出力信号変化量ΔWの比である。
【0043】
次に、閾値計算部6は、S11で求めた比αと、代表かごによって予め求めておいたセンサ判定部4用の基準閾値πoから、かご50の閾値πを計算する(S12)。S12では、閾値πの計算において、かご50の異常度Pが数7式に従うことを前提とする。また、基準閾値πoも代表かごの異常度Poが数8式に従うことを前提とする。
[数7]
P=βκ´Fa
[数8]
Po=βκ´oFa
数7式,数8式において、βは比例係数であって、Faは異常挙動する乗客の動きがかご床54に及ぼす力の代表値である。数7式,数8式が成立することは、次の2つの前提条件に基づく。1つ目の前提条件は力Faが数2式に従うことである。この前提条件は、かご50内における乗客の動きによる振動の力が、上記した信号源(錘、加振器)の力と同じくかご床54および支持台55を通じてセンサ53に伝わることに基づく。2つ目の前提条件は、センサ出力信号変化量ΔWに、異常度P,Poが比例することである。この前提条件は、センサ判定部4の説明で述べた通り、異常度P,Poが標準偏差等のセンサ出力信号変化量ΔWの統計量であるために満たされる。以上2つの前提条件が満たされることによって、異常行動が発生したときのかご床54に加わる力Faとセンサ出力信号変化量ΔWの間には数2式の関係が成り立ち、異常度P,PoがこのΔWに比例することで数7式,数8式が満たされる。
【0044】
S12では、振動源を利用したセンサ出力変化量のピーク値ω(かご50におけるセンサ出力変動量のピーク値)と参照値であるセンサ出力変化量のピーク値ωo(代表かごにおけるセンサ出力変化量のピーク値)の比α及び基準閾値πoを利用して、かご50における異常挙動判定用の閾値πを計算しているが、この比αは、数7式のかご50の異常度Pを代表かごの数8式の異常度Poで除算した値とも一致する(数9式参照)。
[数9]
P/Po=κ´/κ´o=α
ここで、代表かごにおける基準閾値πoの求め方について
図9のグラフを使って説明する。また、この基準閾値πoに上記の比αを乗じてかご50における閾値πが求まることも
図10のグラフを使って説明する。
【0045】
図9は代表かごに乗客のとり得る種々の異常挙動を与えて、それにより得られるセンサ53のセンサ出力信号変化量から求めた異常度(統計量)Poを収集し、その異常度Poの大きさの頻度分布81を示すグラフ(異常度頻度分布のグラフ)である。このグラフの横軸は異常度Po、縦軸は頻度Hである。異常度Poは、既に説明したように代表かごにおけるセンサ出力信号変化量の統計量で求められ、センサ判定部4が
図5に示すような異常度を計算することによって得られる。異常度の頻度分布において、異常度が小さくなるにつれて異常挙動を見逃す(以下、これを「失報」と称することもある)可能性が高くなる。
図9において、異常度頻度分布81の任意の異常度に異常挙動判別用の基準閾値πoを設定した場合には、異常度頻度分布81における基準閾値πoより小さくなる領域82が失報の生じる領域となり、この領域82の面積が、頻度分布81全体からみて失報率に相当することになる。失報率を零にするために基準閾値πoを過度に小さくすると、正常な挙動を誤って異常と誤報する度合いが高くなるので、誤報率および失報率の双方を配慮して基準閾値πoを定めておく。換言すれば失報率が目標値以下となるように基準閾値πoを定めておく。誤報率については推定して、失報率が目標値以下となるように基準閾値πoを設定してもよいが、後述する実施例2でも述べるように、閾値としてπoひいてはπを設定した場合、誤報率がどのくらいになるか計算により表示して閾値設定者に理解できるようにしてもよい。
【0046】
このようにして異常度頻度分布81から求められた基準閾値πoは、代表かごであるか否かを問わず、実機のかご50の信号処理装置52のデータベースに数10式の閾値計算式と共に予め登録されている。
[数10]
π=απo
かご50におけるセンサ判定部4は、上記した比αが求められると、比αと基準閾値πoを用いて、数10式の閾値計算式によりかご50における閾値πを計算する。これをグラフで表せば
図10のようになる。
【0047】
図10のグラフの縦軸と横軸は、
図9と同じである。
図10において、符号81は、
図9と同様の代表かごにおける異常度(センサ判定部4の説明で述べたセンサ出力信号変化量の統計量)の頻度分布グラフであり、符号91がかご50の異常度頻度分布グラフである。異常度頻度分布91は、代表かごにおける異常度頻度分布81に数9式の比α(数1式で求められる)を乗じることで異常度頻度分布81の位置からα倍だけ移動することになる。すなわち、かご50は代表かごと構造および仕様が異なり、それゆえ数2式のバネ定数が異なるために、その分、異常度頻度分布81および91も互いにずれることになる。したがって、異常度頻度分布91における閾値πも基準閾値πoからシフトすることになる。閾値πの設定により、閾値π未満での失報率(符号92で示す)は、代表かごの失報率(符号82で示す)とほぼ同等になる。
【0048】
なお、比αが正確に計算できない場合には、マージンを与えた計算式としてもよい。数11式は、数10式の右辺にマージン係数ηを乗じて、閾値πを計算した場合である。マージン係数ηは0〜1の間の数である。
[数11]
π=ηαπo
例えば、比αが最大で真値より20%ばらつくと想定される時、数10式の右辺にマージン係数ηを0.83=(100/120)を乗じておけば、比αが真値よりも20%大きくなってしまったときでも相殺されて、閾値πが誤って過剰に大きくなることを抑止できる。閾値πが過剰に大きくなることを抑止できれば、失報率(符号92で示す領域)が過剰に大きくなることを抑止できる。なお、以上の閾値πへのマージンの与え方はあくまで一例であり、他の方法で閾値πを小さく修正してもよい。例えば、比αが1より大きいときには、比αの平方根を取り、比αが1よりも小さいときは2乗するように変換すれば、閾値πは数10で計算した時よりも小さくなる。このように、比αが1より大きいときと小さいときとで閾値計算式を変えるようにしてもよい。
【0049】
総合判定部7は、画像判定部2とセンサ判定部4の異常判定の結果から、総合的に異常判定を行う。総合判定部7の最も単純な判定方法では、画像判定部2のセンサ判定部4の両者の論理積を取る。すなわち、画像判定部2のセンサ判定部4の両方が異常と判定した時には異常、どちらか一方もしくは正常と判定する。他にも、一定の時間の範囲内でセンサ判定部4が一度でも異常と判定してから所定時間後までは異常を継続するように加工してから、論理積を取っても良い。
【0050】
発報部8は、総合判定部7が異常と判定した後に発報する。
図1に図示しないかご50内のスピーカにより異常挙動している乗客に注意を促す方法や、エレベータを最も近い階に停止させてドアを開けて異常挙動で被害を受けた乗客が逃げられるようにする方法や、
図1に図示しない映像記録装置にカメラ51の映像を記録して異常挙動の証拠を残す方法や、前記の映像を
図1に図示しない通信路を経由して外部の監視員に伝送する方法が一例であるが、これに限らない。
【0051】
本発明の実施例1では以上述べた構成によって、代表かごと異なる寸法や構造のかご50においても、異常挙動に対するセンサ53の出力信号のサンプルを多数収集することを必要とせずに、サンプル信号収集部5で収集した錘60の落下や加振器61の加振等の信号源のセンサ53の出力信号(センササンプル信号)を少なくとも一つ収集するだけで、異常挙動に対する失報率が代表かごとほぼ同等になるようにかご50のセンサ53用の異常挙動判定の閾値を設定して、カメラ51とセンサ53を用いた異常挙動検知を実現できる。
【0052】
以上の実施例1の閾値計算部6の説明では、閾値πの計算に数10式を用いるため、その計算式と基準閾値πoが予めデータベースなどに登録されている。また、数10式の閾値計算式の背景には、
図9および
図10に示すような異常度頻度分布(81,91)と失報率(82,92)の考え方を利用しているが、考え方としては、異常度頻度分布以外の他の方法で置き換えて基準閾値πoを計算してもよい。例えば、異常挙動の異常度Poの代表値から所定のマージン係数を乗じる計算法で基準閾値πoを計算してもよい。異常度Poの代表値は、例えば異常度の平均や中央値などの異常度の統計量で計算できる。この例では、異常度の代表値は、数9式に従い代表かごとかご50との間で比αに応じて変化するので、異常挙動の異常度の平均値に所定のマージン係数を掛ける計算法を適用したときのかご50における閾値πは代表かごの閾値πoのα倍となって、数10式を用いて計算することができる。
【実施例2】
【0053】
図11に本発明の実施例2の機能構成を示す。
図11の実施例においても、
図2の実施例同様に、監視カメラ51、異常挙動検知用のセンサ53、画像判定部2、センサ判定部4、総合判定部7及び発報部8を備え、これらの各機能は実施例1と同じである。また、閾値計算部16と接続された表示部17を有してもよい。サンプル信号収集部15と閾値計算部16は信号処理装置52(
図1参照)、ディスプレイ17は情報端末59(
図1参照)で実現される。
【0054】
サンプル信号収集部15と閾値計算部16は、実施例1のサンプル信号収集部5及び閾値計算部6で述べた機能のほかに、次のような機能を有する。
【0055】
すなわち、サンプル信号収集部15は、実施例1のサンプル信号収集部5で行う閾値計算用(比α計算用)のセンササンプル信号の収集、すなわち信号源(錘60、加振器61など)からの力を受けた時のセンサ53の出力信号の収集に加えて、上記閾値計算用の信号源(錘60、加振器61など)とは異なる正常時の特定条件(例えば無人のかごの昇降動作)で得られるセンサ53の出力信号を正常時センササンプル信号として収集する。
【0056】
閾値計算部16が信号源(錘60、加振器61など)のセンササンプル信号を利用して異常挙動判定用の閾値πを計算する点については、既に実施例1の同様の閾値計算部6で説明したので説明を省略する。閾値計算部16は、閾値πの計算に加えて、上記した正常時センササンプル信号を利用して正常時の誤報率を計算する。あるいは、正常時の誤報率が極力小さくなるように、センサ判定部4および画像判定部2の少なくとも一つの異常挙動判定用の閾値を計算する。ここで、正常時の特定条件としては、無人時のかご50の昇降動作によって生じる振動が代表的にあげられる。サンプル信号収集部15は、このような正常時の昇降動作の振動によって生じるセンサ53の出力信号を正常時センササンプル信号として収集する。無人時のかごの昇降動作時をセンサ信号収集条件としたのは、以下の理由による。正常時は乗客がかご50に乗っていない無人時と、1人以上の乗客が乗っている有人時に大別できる。無人時では、昇降時にかご50が揺れることでセンサ53に伝わる振動が、センサ出力信号変化量のほぼ全てである。有人時では、昇降時のかご50の揺れに加えて、乗客の動きによる振動がかご床54や支持台55を通じてセンサ53に伝わるが、正常時の乗客の動きは小さいので、昇降時のかご50の揺れが支配的である。以上より、正常時は有人時と無人時の両方で、昇降時のかご50の揺れが支配的である。そして、正常時の信号源を無人時としたのは、正常時の中で頻度が高い代表ケースとして選択したためである。
【0057】
以下、誤報率の計算および誤報率を極力小さくするための機能の詳細について説明する。
【0058】
閾値計算部16は、
図12のフローで誤報率を計算する。まず、サンプル信号収集部15で正常時の特定条件(例えば無人時のかご50の昇降時のセンサ53の出力信号)を収集し、その収集データに基づいて、
図8のS10と同様の手順でセンサ出力信号(正常時センササンプル信号)の変化量のピーク値ρを計算する(S20)。なお、正常時センササンプル信号については、代表かごにおいても、かご50と同様の手順で事前に収集しておく。そして、予めデータベースに登録されている代表かご(代表構造物)の正常時センササンプル信号(すなわち、基準の正常時センササンプル信号)の変化量のピーク値ρoに対するかご50(構造物)での正常時センササンプル信号の変化量のピーク値ρを、数12式のように比γとして計算する(S21)。
[数12]
γ=ρ/ρo
次に、かご50の正常時の異常度の頻度分布(正常時異常度頻度分布)と比γから誤報率を計算する(S22)。ここで、「正常時の異常度」とは、正常時のかごの振動の強さ(本実施例では、センサ53の出力信号の変化量)を、その統計量を計算することで既述した異常さを表す尺度(異常度)に加工して示したものであり、それは異常挙動を意味するものではない。この正常時の異常度の頻度分布、すなわち正常時異常度頻度分布のデータは、正常時の昇降動作時のセンサ出力信号変化量を収集して作成されるものであり、代表かごのもの(
図13の符号181で示すもの)が予め基準の正常時異常度頻度分布としてデータベースに格納されている。
図13には、代表かごの正常時の異常度の頻度分布(正常時異常度頻度分布)181と、かご50の正常時の異常度の頻度分布191とが示されている。かご50の頻度分布191は、予め登録されている代表かごの頻度分布181に上記した比γ(γは数12式或いは数13式のものが使用される)を乗じることで
図13のグラフで示す位置にシフトする。
【0059】
かご50の昇降に伴うかご50の振動の力が、かご50の筐体を通じて支持台55にまで伝わりセンサ53の出力信号の変化量として現れる。このような過程を正常時のバネのモデルとしてとらえると、数12式のγは、かご50と代表かごとの間の正常時のバネのモデルにおけるバネ定数の比と考えられる。また、数7式と数8式と同様に、正常時におけるかご50ならびに代表かごの正常時の異常度PならびにPoが、それぞれかご50ならびに代表かごの正常時のバネ定数に比例するととらえることができる。したがって、正常時におけるかご50ならびに代表かごの正常時の異常度PならびにPoの間に、数13式が成り立つとする。
[数13]
P/Po=γ
図13を用いて、S22で誤報の生じる領域192を求める処理について説明する。
図13において、正常時のあらゆるケースでの異常度が数13式に従うことと、予め代表かごの正常時の異常度の頻度分布181が予め登録されていることから、かご50の正常時の異常度の頻度分布(正常時異常度頻度分布)191は頻度分布(基準の正常時量異常度頻度分布)181を比γ倍することで計算できる。異常度頻度分布191のうち、センサ判定部4の既述した異常挙動判定用の閾値πがこの正常時の異常度頻度分布191の或る点にかかるときに、πを超過する領域192の正常時異常度を誤って異常挙動が生じている異常度と判定してしまい、いわゆる誤報が発生する領域192となる。異常度頻度分布191全体の面積に対する領域192の占める割合が誤報率となる。
【0060】
表示部17は、閾値計算部16が計算した誤報率192を表示する。誤報率192の表示を見れば、作業員はかご50におけるセンサ判定部4の性能を測ることが可能となる。例えば、誤報率192が頻度分布191の100%に近い場合には、画像判定部2にセンサ判定部4ならびに総合判定部7を加えても、画像判定部2の単体からの性能向上を期待できない。よって誤報率192は、かご50において本発明のセンサ53を加えた異常判定の実施の是否を判断する材料となる。
【0061】
表示部17は他にも、画像判定部2と総合判定部7の誤報率を上記同様の手法を用いて表示してもよい。すなわち、代表かごに関する正常時の特定の条件で得られる監視カメラ51の映像における特定の指標(判定指標:例えば画像の動的要素の移動の度合い)を基準の正常時カメラ出力信号として予め登録しておく。且つ代表かごに関する正常時カメラ出力信号(前記監視カメラの映像中における前記特定指標)の統計量を計算することでカメラ異常度を算出し、基準の正常時カメラ異常度頻度分布を、異常さを示す尺度(異常度)上で作成し(すなわち画像による基準の正常時カメラ異常度頻度分布を作成し)予め登録しておく。サンプル信号収集部15は、かご50の正常時における監視カメラ51の出力信号に関して前記基準のカメラ出力信号と同一条件のものを正常時カメラサンプル信号として収集する。基準の正常時カメラ異常度頻度分布に比γ´(γ´は、基準の正常時カメラ出力信号(代表かごにおける特定指標)に対する正常時カメラサンプル信号(かご50における特定指標)の比)を乗じることで、かご50に関する正常時の画像の異常度頻度分布(正常時カメラ異常度頻度分布)が得られる。この正常時の画像の異常度頻度分布に、画像における異常挙動判定用の閾値がかかるときには、閾値を超えた領域が画像判定部2の誤報率となる。
【0062】
ここで、かご50のセンサ判定部4の誤報率192をEw、画像判定部2の誤報率をEiとし、総合判定部7の判定をセンサ判定部4の異常判定と画像判定部2の異常判定の論理積とし、センサ判定部4と画像判定2の誤報率が独立して算出されるものとすると、総合判定部7の誤報率Ecは数14式で計算できる。
[数14]
Ec=Ei×Ew
誤報率Ec、Eiを見れば、従来の画像判定部2の単体の誤報率Eiから、センサ判定部4ならびに総合判定部7を加えた時の誤報率Ecの改善の程度を容易に測ること可能となる。
【0063】
閾値計算部16では、次の処理によって、画像判定部2の閾値を定めてもよい。かご50のセンサ判定部4の失報率92をMwとし、画像判定部2の失報率をMiとし、総合判定部7の判定をセンサ判定部4の異常判定と画像判定部2の異常判定の論理積とし、センサ判定部4と画像判定2の失報率が独立して算出されるとすると、総合判定部7の失報率Mcは数15式で計算できる。
[数15]
Mc=Mi+Mw
閾値計算部16は、また、画像判定部2の異常判定の閾値を幾通りか変えた時の画像判定部2の誤報率ならびに失報率を(Ei
1,Mi
1),(Ei
2,Mi
2)等のように計算し、同様にセンサ判定部4の異常判定の閾値を幾通りか変えたときのセンサ判定部4の誤報率ならびに失報率を(Ew
1,Mw
1),(Ew
2,Mw
2)等のように求めておき、総合判定部7の誤報率Ecならびに失報率Mcの評価が最も良くなる画像判定部2ならびにセンサ判定部4の異常判定の閾値の組合せを選択してもよい。誤報率Ecならびに失報率Mcの評価には、失報率Mcを目標値以下にしながら、誤報率Ecを最小にすることが考えられるが、これに限らない。閾値計算部16は以上の過程で求めた画像判定部2ならびにセンサ判定部4の異常判定の閾値を、それぞれ画像判定部2ならびにセンサ判定部4に設定する。
【実施例3】
【0064】
図14に本発明の実施例3の機能構成を示す。
図14においても、
図2の実施例同様に、監視カメラ51、異常挙動検知用のセンサ53、画像判定部2、センサ判定部4、総合判定部7及び発報部8を備え、これらの各機能は実施例1と同じである。本実施例では、実施例1および2で述べたサンプル信号収集部(5、15)やセンサ判定部4用の閾値計算部(6、16)に代わり構造物情報入力部(換言すればセンサの設置対象に関する情報入力部)1、及びセンサ判定部4用の閾値設定部26を備える。
【0065】
まず、本実施例の概要を述べると、構造物情報入力部1は、センサ53の設置対象となるべき構造物(本実施例では、かご50)に関する情報を入力するためのものであり、作業員は、構造物情報入力部1を介してかご50の仕様や構造的特徴(例えば型式)に関する情報を信号処理装置52に入力する。そして、信号処理装置52における閾値設定部26は、入力部1からの構造物情報を受け取り、受け取った情報に応じてセンサ判定部4における判定用の閾値(異常挙動判定用の閾値)を検索或いは算出し設定する。この閾値設定には、データ保存部(例えば、データベース、以下、「閾値DB」と称する)3に予め登録されている閾値データを使用する。閾値データについては、
図16を用いて後述する。
【0066】
まず、
図15を用いて、構造物情報入力部1について説明する。
図15には、入力部1を構成するユーザインタフェース200の画面を示している。
【0067】
ユーザインタフェース200は、かご50の型式を入力する入力部201、防振ゴムの数を入力する入力部211、防振ゴムの型式を入力する入力部212を備え、これらの入力部として、テキストボックスを例示している。これらの入力部は、少なくとも一つを備えるようにしてもよい。
【0068】
また、入力部201、211、212は、上記したテキストボックスに代えてプルダウンメニューやラジオボタンの様な他のグラフィカルユーザインタフェースのコンポーネントを用いても良い。
【0069】
作業員が入力部201にかご50の型式を入力すると、閾値設定部26は、入力部1からの型式情報を受け取り、かつ閾値DB3から
図16に示すような型式−閾値データのテーブル(データ)250を読み込んで、かご50の型式に応じたセンサ判定部4用の閾値を型式−閾値データのテーブル250から検索(選択)し、これをセンサ判定部4に出力する。
【0070】
図16のテーブル250は型式−閾値データのテーブルの一例を示すものであり、種々の型式に対応させてそれに適した閾値を登録している。例えば、型式1にはπ1、型式2にはπ2、型式3、4、5にはπ3を対応させている。
【0071】
このようなテーブル250は、例えば、実施例1で求めた代表かごの基準閾値πoに対して各型式の典型かごについて実施例1で述べたような手法(例えば数6式、数10式、数11式)を用いて閾値πを求めておき、これらの閾値を型式と関連づけて表にまとめることで作成される。そして、このようなテーブル250を予め閾値DB3に登録しておく。本実施例のコンセプトは、同じ型式のかご50は構造が似ているために、かご50のそれぞれの設置場所のばらつきは小さいと考えられるので、センサ判定部4の判定用閾値を型式により共通化してもよいという考えに基づくものである。また、テーブル250中の閾値に、設置場所のばらつきを考慮したマージンを数11式のように加味してもよい。また、テーブル250の例で、型式3、4、5に対してπ3を出力するように、構造が似通った型式では、センサ判定部4の異常判定の閾値を共通化してもよい。テーブル250として、型式に対応させるのではなく、仕様(例えば防振ゴムの数および防振ゴムの型式)と対応させても良い。防振ゴムの数および防振ゴムの型式が近ければ、閾値πも近いものとなる場合があるからである。あるいは、実際に設定する閾値πを、最適値よりも小さな値の閾値で代替してもよい。このように最適値よりも小さな値の閾値を設定することは、
図10において閾値πが左に移動することに相当するので、失報率92が目標値よりも大きく悪化することは無い。
【0072】
本実施例の上記説明では、かご50の型式をユーザインタフェース200に入力することで、それに対応したセンサ判定部4用の閾値πを閾値設定部26でテーブル250(
図16)に基づいて自動的に設定する例を説明したが、それに代わって次のような計算手法を用いた閾値πの設定機能も備えている。
【0073】
例えば、作業員が入力部211もしくは入力部212に構造物情報の仕様として防振ゴムの数および防振ゴムの型式を入力すると、閾値設定部26がこれらの構造物情報の仕様に応じた閾値πを所定の計算方法により算出する。この計算方法の一例として、まず、事前に仕様に関連するパラメータとして、代表かごの防振ゴムの数、防振ゴムの型式、及びそれらによって決まるばね定数或いはその逆数κ´o、さらに、そのパラメータを用いた閾値を求めるための計算式について登録しておく。さらに、かご50について入力部211もしくは入力部212を介して入力された防振ゴムの数および防振ゴムの型式が、上記した代表かごのものと変わった時に、その代わった防振ゴムの増減数及び/又はかごの型式と、代表かごのκ´oとを利用してかご50に応じたκ´が変化するモデルを構築しておく。例えば、入力された防振ゴムの数が代表かごよりも増えた時には、かご床54に同じ力Fが加わった時の力が防振ゴムの数に応じて分散される分だけ、センサ出力信号変化量ΔWが小さくなることを考慮して、κ´が小さくなるように補正する。具体的にκ´を補正する方法は例えば、防振ゴムの影響が支配的と置いて、防振ゴムの増減数nに反比例してκ´を小さく補正する方法があるが(数16式)、これに限らない。数16式において、noは、代表かごの防振ゴムの個数である。
[数16]
κ´=(no/n) κ´o
例えば、他の例として、型式により防振ゴムのバネ係数hが変わり、かご50が代表かごよりも硬質なゴムを適用した時にも同様に、かご床54に同じ力Fが加わった時のセンサ出力信号変化量ΔWが小さくなることを考慮して、κ´を小さく補正する(数17式)。数17式において、hoは、代表かごの防振ゴムのバネ係数である。
[数17]
κ´=(ho/h) κ´o
入力部211もしくは入力部212の両方に入力があったときは、両者の影響を相乗させる。したがって、数6式から、次の数18式が導かれ、比αを計算することができ、数10式を用いて閾値πが計算できる。
[数18]
α=κ´/κ´o=(no/n)×(ho/h)
尚、ユーザインタフェース200に、入力部211、入力部212の防振ゴムの条件以外にも、かご50の外枠の数や材質のような他の構造物の条件の入力部を設け、数11式における他の構造物の条件から、マージン係数ηを決め、閾値πを計算してもよい。ただし、ここでは数11式のマージン係数ηの値の範囲0〜1に限らず、前記マージン係数ηに相当した係数は0以上の任意の値をとってよい。
【0074】
なお、例えば型式1と防振ゴムの数だけが異なる型式に対しては、型式1を代表かごとみなし、noとπoを型式1の防振ゴムの数n1と閾値π1に置き換えて閾値πを計算しても良い。
【0075】
さらにカメラ映像の画像判定部2に用いる閾値についても、センサ判定部4の閾値同様に、予めエレベータかごの構造物の型式や仕様と関連づけて型式や仕様ごとに適したものを登録し、構造物情報入力部1が型式や仕様を入力すると、カメラ用の閾値設定部27にそれに応じた画像判定部2用の閾値を選択して設定するようにしてもよい。
【0076】
以上述べた実施例3において、構造物情報入力部1はユーザインタフェースを用いる以外にも、構造物情報入力部1が有する記憶部にかご50の仕様や構造的特徴の情報(型式など)を保持しておき、構造物情報入力部1に対してその情報が求められたときにその情報を返すような処理装置で実現してもよい。例えば、かご50の設置工事の段階で処理装置52にかご50の仕様や構造的特徴の情報を構造物情報入力部1が有する記憶部に記録しておき、閾値設定部26がセンサ判定部4の閾値を求めるときに、構造物情報入力部1がかご50の仕様や構造的特徴の情報(型式など)の記録データを閾値設定部26に入力する構成を取れば、構造物情報入力部1をユーザインタフェースとしたときと同等の機能を実現できる。
【0077】
以上の実施例1から3の説明では、センサ53が一つの場合を述べたが、センサ53は2つ以上の複数であってもよい。個々のセンサ53について各実施例と同じ方法でセンサ判定部4の異常判定の閾値を計算すれば、センサ53は2つ以上の複数であってもよい。
【0078】
以上の実施例1から3の説明では、サンプル信号収集部5における信号源のセンサ出力信号変化量をセンサ53で直接に計測したが、他のセンサを使って計測した計測値で代替しても良い。これは例えば、事前に取得しておいた錘60の落下や加振器61の加振等の信号源が発生した時のセンサ出力信号変化量と前記代替センサの信号の変化量の対応関係を使って、前記サンプル信号収集部5における信号源に対する代替センサの出力信号の変化量を、センサ出力信号変化量に換算することで実現できる。前記代替センサの一例には、錘60に振動計を取り付けて、錘60がかご床54に落下したときの変化量を前記振動計で読みとる方法がある。なお、代替センサの変化量は、代替センサを処理装置52もしくは情報端末59に接続するか、代替センサのデータを媒体に記録した後に処理装置52に出力するか、代替センサの計測値を作業員が読み取って情報端末59に入力することで処理装置52中の各機能で使えるようになるが、この例に限らない。
【0079】
以上の実施例1から3の説明では、サンプル信号収集部5における信号源に錘60の落下もしくは加振器61の加振を使ったが、より簡易に作業員の動作で代替しても良い。錘60の落下の代替は例えば、作業員が所定の高さの台から飛び降りることによる台の高さ分の落下、あるいは爪先立ちから踵で着地することで足の裏の長さ分の落下で実現できる。加振器61の加振の代替は、例えば作業員が屈伸等の動作をすることで実現できる。作業員毎に動作のばらつきの影響が考えられるが、このばらつきの対応には、数11式ようにマージン係数ηを前記作業員毎に動作のばらつきに応じて設定して比αに乗じることで、かご50でのセンサ判定部4の異常判定の閾値πを小さく補正しても良い。閾値πを小さく補正することは、
図10において閾値πを左側にずらすことに相当し、失報率92を減少させることは有っても増加させることは無い。また、荷重センサであるセンサ53の出力信号から作業員の体重を計測して、前記作業員毎に動作のばらつきの影響を抑えてもよい。
【0080】
以上の実施例1から3の説明では、センサ53を荷重センサとしたが、センサ53は荷重センサ以外にもかご50内の振動センサを適用できる。例えば、ロープ56の張力を計測するセンサ、ロープ端の加速度を計測するセンサでセンサ53は代替できる。荷重センサ以外の振動センサのセンサ53に適用した場合、荷重センサをセンサ53としたときに異常挙動ならびにサンプル信号収集部5の信号源の及ぼす力がかご床54および支持台55を伝わり数2式のセンサ出力信号変化量ΔWとして表れるのと同様に、前記荷重センサ以外の振動センサにおいて異常挙動ならびにサンプル信号収集部5の信号源が及ぼす力が所定の経路で伝わりセンサ出力信号変化量に表れる過程が数2式と同等のモデルで表すことができれば、実施例1から3の各機能で同様に扱える。ただし、荷重センサ以外の振動センサのセンサ53では、前記所定の経路でセンサ53の出力信号の変化に表れる過程に応じて、適切にサンプル信号収集部5の信号源を選択する必要がある。
【0081】
荷重センサをセンサ53として、異常挙動ならびにサンプル信号収集部5の信号源による振動がかご床54と支持台55以外の経路でセンサ53に伝わる場合も、以上述べたセンサ53を荷重センサ以外とした場合と同等に扱える。例えば、壁を殴って壊す異常挙動が集中的に発生するエレベータにおいて、壁を殴る振動を荷重センサによるセンサ53で検知する場合が相当する。また、荷重センサをセンサ53として、数2式以外でかご床54に加わった力でセンサ53の出力信号の変化量をモデル化する場合も、以上述べたセンサ53を荷重センサ以外とした場合と同等に扱える。例えば、数2式に減衰項を加える場合が相当する。以上述べた、荷重センサをセンサ53とするときに、異常挙動ならびにサンプル信号収集部5の信号源による振動がかご床54と支持台55以外の経路でセンサ53に伝わる場合と、数2式以外でかご床54に力が加わった時のセンサ出力信号変化量をモデル化する場合は、複合しても良い。
【0082】
センサ53としては、例えば数10式や数11式などのように比αと基準閾値πoとをパラメータとした任意の計算式で閾値を換算できるものであれば、任意のセンサであってもよい。計算式を求める際には、例えば数2式のように異常挙動や信号源からの影響が所定の経路でセンサ53に伝わる過程をモデル化する。例えば、音響センサをセンサ53としたときは、音量一定のスピーカをサンプル信号収集部5の信号源として、異常挙動ならびに前記信号源の発生する音がかご50内で拡散してセンサ53に伝わる過程を、音の拡散に関わるパラメータを用いてモデル化すればよい。