特許第5828495号(P5828495)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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特許58284953B族元素が固溶された酸化亜鉛微細粉末
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  • 特許5828495-3B族元素が固溶された酸化亜鉛微細粉末 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5828495
(24)【登録日】2015年10月30日
(45)【発行日】2015年12月9日
(54)【発明の名称】3B族元素が固溶された酸化亜鉛微細粉末
(51)【国際特許分類】
   C01G 9/02 20060101AFI20151119BHJP
【FI】
   C01G9/02 A
【請求項の数】12
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-504797(P2014-504797)
(86)(22)【出願日】2013年3月4日
(86)【国際出願番号】JP2013055791
(87)【国際公開番号】WO2013137037
(87)【国際公開日】20130919
【審査請求日】2014年8月20日
(31)【優先権主張番号】特願2012-56183(P2012-56183)
(32)【優先日】2012年3月13日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113365
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 雅晴
(74)【代理人】
【識別番号】100131842
【弁理士】
【氏名又は名称】加島 広基
(72)【発明者】
【氏名】早川 知克
(72)【発明者】
【氏名】永縄 勇人
(72)【発明者】
【氏名】吉川 潤
(72)【発明者】
【氏名】今井 克宏
(72)【発明者】
【氏名】七瀧 努
【審査官】 佐藤 哲
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−208922(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/050430(WO,A1)
【文献】 M.ZHAO et al.,Synthesis of cup-like ZnO microcrystals via a CTAB-assisted hydrothermal route,Materials Chemistry and Physics,2009年10月15日,Vol.117 No.2-3,Pages422-424
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 1/00 − 23/08
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Al及びGaから選択される少なくとも一種の3B族元素を0.3at%以上の量及びCl及びBrから選択される少なくとも一種の7B族元素を0.1at%以上の量で内部に固溶状態で含む酸化亜鉛結晶からなる酸化亜鉛微細粒子を複数含んでなり、体積基準D50平均粒径が200nm以下である、酸化亜鉛微細粉末。
【請求項3】
前記酸化亜鉛結晶のa軸の格子定数が3.246〜3.254Åであり、前記酸化亜鉛結晶のc軸の格子定数が5.204〜5.214Åである、請求項1に記載の酸化亜鉛微細粉末。
【請求項4】
前記酸化亜鉛結晶のa軸の格子定数が3.247〜3.252Åであり、前記酸化亜鉛結晶のc軸の格子定数が5.205〜5.211Åである、請求項1又は3に記載の酸化亜鉛微細粉末。
【請求項5】
体積基準D50平均粒径が10〜100nmである、請求項1、3及び4のいずれか一項に記載の酸化亜鉛微細粉末。
【請求項6】
前記3B族元素の固溶量が0.5at%以上である、請求項1及び3〜5のいずれか一項に記載の酸化亜鉛微細粉末。
【請求項7】
前記3B族元素の固溶量が0.5〜10at%である、請求項1及び3〜6のいずれか一項に記載の酸化亜鉛微細粉末。
【請求項8】
前記3B族元素がAlである、請求項1及び3〜7のいずれか一項に記載の酸化亜鉛微細粉末。
【請求項9】
前記7B族元素の固溶量が0.2at%以上である、請求項1及び3〜8のいずれか一項に記載の酸化亜鉛微細粉末。
【請求項10】
前記7B族元素の固溶量が0.2〜2.0at%である、請求項1及び3〜8のいずれか一項に記載の酸化亜鉛微細粉末。
【請求項11】
前記7B族元素がBrである、請求項1及び3〜8のいずれか一項に記載の酸化亜鉛微細粉末。
【請求項12】
体積基準D50平均粒径が40〜50nmであり、
前記3B族元素がAlであり、かつ、その固溶量が1.2〜1.3at%であり、
前記7B族元素がBrであり、かつ、その固溶量が0.3〜0.4at%であり、
a軸の格子定数が3.247〜3.249Åであり、c軸の格子定数が5.206〜5.208Åである、請求項1及び3〜9のいずれか一項に記載の酸化亜鉛微細粉末。
【請求項13】
溶媒と、該溶媒に分散されてなる請求項1及び3〜12のいずれか一項に記載の酸化亜鉛微細粉末とを含んでなる、酸化亜鉛微細粉末分散液。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
この出願は、2012年3月13日に出願された日本国特許出願2012−056183号に基づく優先権を主張するものであり、その全体の開示内容が参照により本明細書に組み込まれる。
【技術分野】
【0002】
本発明は、酸化亜鉛微細粉末に関するものであり、より詳しくは3B族元素が固溶された酸化亜鉛微細粉末に関する。
【背景技術】
【0003】
電子デバイス等に用いられる透明導電膜として、インジウム錫酸化物(ITO)等が長年にわたって広く用いられている。しかしながら、近年のインジウム等のレアメタルの価格高騰といった背景もあり、その代替材料が強く望まれている。
【0004】
この点、酸化亜鉛(ZnO)は安価かつ資源的に豊富な材料であり、透明で導電性を有することから、透明導電材料としての利用が期待されている。特に、酸化亜鉛は、異種元素の添加により導電性が向上することが知られている。例えば、異種元素を添加した酸化亜鉛を粉末状とすることで、樹脂等への混合により導電性を付与することが提案されている。導電率の向上にはキャリア濃度の増加及び移動度の向上が効果的である。
【0005】
非特許文献1(J. Phys. Chem. C 2010, 114, 13477-81)には、ZnOにAlをドープしたナノ粒子が開示されている。この文献では、液相での反応後に500℃でのアニールが行われることで、一次粒子が凝集した形態(この文献のFigure 2 (b)参照)でナノ粒子が得られるため、個々の微細粒子を独立した状態で液体に分散させることは困難であった。
【0006】
非特許文献2(Advances in Technology of Materials and Materials Processing Journal, 9[1] (2007) 21-24)には、3B族元素であるAlに加え、7B族元素であるFを共ドープさせることにより、キャリア濃度を増加させる方法が開示されている。しかしながら、この方法では成膜手法としてスパッタリングが用いられており、粉末の作製に適用できるものではなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】J. Phys. Chem. C 2010, 114, 13477-81
【非特許文献2】Advances in Technology of Materials and Materials Processing Journal, 9[1] (2007) 21-24
【発明の概要】
【0008】
本発明者らは、今般、3B族元素が粒子内部にまで固溶された、キャリア濃度の高い酸化亜鉛微細粉末を提供できるとの知見を得た。
【0009】
したがって、本発明の目的は、キャリア濃度の高い酸化亜鉛微細粉末を提供することにある。
【0010】
本発明の一態様によれば、Al及びGaから選択される少なくとも一種の3B族元素を0.3at%以上の量で内部に固溶状態で含む酸化亜鉛結晶からなる酸化亜鉛微細粒子を複数含んでなり、体積基準D50平均粒径が200nm以下である、酸化亜鉛微細粉末が提供される。
【0011】
本発明の別の一態様によれば、溶媒と、該溶媒に分散されてなる上記酸化亜鉛微細粉末とを含んでなる、酸化亜鉛微細粉末分散液が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】例4で作製された本発明による酸化亜鉛微細粒子のTEM画像である。図中、左下に白線で示されるスケールは50nmに相当する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
酸化亜鉛微細粉末
本発明による酸化亜鉛微細粉末は、Al及びGaから選択される少なくとも一種の3B族元素を0.3at%以上の量で内部に固溶状態で含む酸化亜鉛結晶からなる酸化亜鉛微細粒子を複数又は多数含んでなる。このような量のAl及び/又はGaを酸化亜鉛粒子内にドープすることで、酸化亜鉛粉末に高いキャリア濃度を持たせることができる。その上、この酸化亜鉛粉末は体積基準D50平均粒径が200nm以下の微細粉末である。このように粒子が微細であることで、液体への分散性に優れることのみならず、他の透光性材料と混合して使用する際であっても、酸化亜鉛微細粒子による光の散乱を抑制して、より高い透明性を確保することができる。したがって、透明導電材料としての酸化亜鉛の利点を最大限に発揮させることができる。
【0014】
酸化亜鉛微細粒子は、Al及びGaから選択される少なくとも一種の3B族元素を0.3at%以上の量で内部に固溶状態で含み、好ましくは0.5at%以上、より好ましくは0.5〜10at%、さらに好ましくは0.8〜5at%、最も好ましくは1〜3at%である。特に好ましい3B族元素はAlである。この3B族元素の固溶量はTEM−EDS(透過型電子顕微鏡)により、例えば後述する実施例に記載される手順及び条件に従って、粒子の中心又はその近傍に対して測定することができる。このように一定量の3B族元素が粒子の内部にまで固溶していることで、溶媒への分散に適した酸化亜鉛微細粉末でありながら、高いキャリア濃度を与えることができる。
【0015】
ところで、結晶構造的に0.3at%以上の量のAl及び/又はGaを酸化亜鉛粒子内部に固溶させることは一般的に容易なことではない。これは、AlやGaはZnと置換固溶するが、Al3+及びGa3+のイオン半径がZn2+と比較して小さいため、AlやGaの固溶量の増加に伴って酸化亜鉛の結晶格子が収縮してしまい、AlやGaの更なる侵入が妨げられるためと考えられる。この点、本発明者らの知見によれば、酸化亜鉛結晶内にAlやGaの添加による収縮を相殺するような手段を講じることで、AlやGaの結晶構造内への固溶量を増大することができるものと考えられる。
【0016】
この目的のため、酸化亜鉛結晶は、Cl及びBrから選択される少なくとも一種の7B族元素を0.1at%以上の量で内部に固溶状態でさらに含むのが好ましく、より好ましくは0.2at%以上であり、さらに好ましくは0.2〜2.0at%である。すなわち、ClやBrはOと置換固溶するが、Cl及びBrのイオン半径はO2−と比較して大きいため、ClやBrの固溶量の増加に伴って酸化亜鉛の結晶格子は膨張する。このため、上述したAlやGaの添加による結晶格子の収縮を相殺することができる。つまり、Al及び/又はGaと、Cl及び/又はBrとを適正な割合で酸化亜鉛結晶に同時に固溶させた場合、結晶格子の膨張及び収縮が相殺されて結晶格子の変形が抑制され、その結果、3B族元素のみならず7B族元素を含めた全体のドーパント量を増大させることが可能になるものと考えられる。3B族元素及び7B族元素はいずれもキャリア濃度に寄与する元素であるため、このような高いドーパント量はキャリア濃度の増大をもたらす。なお、7B族元素をFとした場合については、Fのイオン半径がO2−と比較して小さいため、上記のような効果は生じないものと考えられる。特に好ましい7B族元素はBrである。
【0017】
酸化亜鉛結晶のa軸の格子定数が3.246〜3.254Åであるのが好ましく、より好ましくは3.247〜3.252Åであり、さらに好ましくは3.247〜3.251Åであり、かつ、c軸の格子定数が5.204〜5.214Åであるのが好ましく、より好ましくは5.205〜5.211Åであり、さらに好ましくは5.205〜5.209Åである。これらの格子定数はX線回折法を用いて、例えば後述する実施例に記載される手順及び条件に従って、測定することができる。このような範囲内のa軸及びc軸の格子定数は、一般的な酸化亜鉛の格子定数(ICDD36−1451によれば、a軸長が3.2498Å、c軸長が5.2066Å)に近い値であることから、3B族元素に起因する収縮を7B族元素に起因する膨張で相殺しながら、高いキャリア濃度を与えるのに有効な量の3B族元素が酸化亜鉛微細粒子の内部にまで固溶されたことを示唆する指標となりうる。
【0018】
酸化亜鉛微細粉末は、体積基準D50平均粒径(メジアン径)が200nm以下であり、好ましくは5〜150nm、より好ましくは10〜100nm、さらに好ましくは15〜80nmであり、さらに好ましくは20〜60nmである。このように粒子が微細であることで、液体への分散性に優れることのみならず、他の透光性材料と混合して使用する際であっても、酸化亜鉛微細粒子による光の散乱を抑制して、より高い透明性を確保することができる。体積基準D50平均粒径は、粒度分布測定装置によって測定することができる。
【0019】
本発明の特に好ましい態様によれば、体積基準D50平均粒径が40〜50nmであり、3B族元素がAlであり、かつ、その固溶量が1.2〜1.3at%であり、7B族元素がBrであり、かつ、その固溶量が0.3〜0.4at%であり、a軸の格子定数が3.247〜3.249Åであり、c軸の格子定数が5.206〜5.208Åである、酸化亜鉛微細粉末が提供される。
【0020】
本発明による酸化亜鉛微細粒子は、溶媒と、この溶媒に分散されてなる酸化亜鉛微細粉末とを含んでなる、分散液の形態で提供されてもよい。後述するように、本発明の酸化亜鉛微細粒子は、液相法にて作製され、液相中に分散した分散液の状態で生成しうる。このため、分散液の形態で酸化亜鉛微細粒子を用意しておけば、乾燥や固相熱処理工程を経ることなく、次工程へそのまま供することが可能となる。これにより、乾燥に伴う酸化亜鉛微細粒子の凝集等を防止することも可能となる。この特徴は、例えば水性の導電性塗料等を作製する際に、分散が容易となる点で有用である。
【0021】
製造方法
上述した本発明による酸化亜鉛微細粉末は、液相法である水熱合成により、比較的低温で、再熱処理を経ることなく直接合成することにより製造することができる。こうして合成される酸化亜鉛微細粉末は、D50平均粒径が200nm以下という、極めて小さいサイズを有するという特徴がある。このように粉末が微細であることで、他の透光性材料と混合して使用する際であっても、酸化亜鉛微細粉末による光の散乱を抑制して、より高い透明性を確保することができる。また、水熱合成により作製された微細粉末は液相中に分散した状態で生成するため、乾燥や固相熱処理工程を経ることなく、次工程へ供することが可能である。これにより、乾燥に伴う酸化亜鉛微細粉末の凝集等を防止することも可能となる。この特徴は、例えば水性の導電性塗料等を作製する際に、分散が容易となる点で有用である。
【0022】
具体的には、本発明による酸化亜鉛微細粉末は、Al及びGaから選択される少なくとも一種の3B族元素のイオンと、亜鉛イオンと、カルボン酸及び/又はカルボン酸イオンとを含有する原料水溶液を130℃以上の温度で水熱合成に付することにより製造することができる。すなわち、原料水溶液は、3B族元素のイオンと、亜鉛イオンと、カルボン酸及び/又はカルボン酸イオンとを含有するものである。このような原料水溶液の代表例としては酢酸亜鉛水溶液が挙げられる。原料水溶液は有機溶媒を伴わないため、環境負荷が小さい。この原料水溶液を130℃以上の温度で水熱合成に付すると、予想外にも、再熱処理を必要とすることなく、3B族元素が固溶された酸化亜鉛微細粉末を直接生成させることができる。特に、再熱処理を経ないで本発明の方法により得られる酸化亜鉛微細粒子は、典型的にはナノオーダーの極めて微細な粒子であり、凝集が少なく、分散性が高いという特徴を有する。
【0023】
上記のような方法で酸化亜鉛微細粉末が直接得られる反応メカニズムは必ずしも明らかでないが、水熱合成時に、カルボン酸又はカルボン酸イオンが熱分解してケテン類を生成すると同時に、亜鉛イオンに酸素を供給してZnOを生成させるためではないかと考えられる。なお、本発明者らの理解によれば、水熱合成ではない(すなわちオートクレーブ等の高温高圧容器中ではない)常圧下での単なる加熱においては、水溶液中に存在するカルボン酸やカルボン酸イオンが分解してケテン類を生成することはなく、上記の反応メカニズムは水熱合成特有のものと考えられる。
【0024】
本発明に用いる原料水溶液は、3B族元素のイオン(Al3+及び/又はGa3+)、亜鉛イオン(Zn2+)と、カルボン酸(−COOH)及び/又はカルボン酸イオン(−COO)とを含有する。3B族元素イオンの供給源は、水に溶解してアルミニウムイオン及び/又はガリウムイオンを生成可能な物質であれば特に限定されないが、硝酸アルミニウム、塩化アルミニウム、硝酸ガリウム、塩化ガリウム等の水溶性の塩が好ましい。亜鉛イオンの供給源は、亜鉛イオンを供給可能な塩であれば特に限定されないが、酢酸亜鉛、硝酸亜鉛、塩化亜鉛等が好ましく例示され、特に好ましくはカルボン酸イオンの供給源としても同時に機能する点で酢酸亜鉛が挙げられる。この点、酢酸亜鉛を使用しない場合は、他の物質によりカルボン酸又はカルボン酸イオンを反応系内に供給する必要がある。
カルボン酸の例としては、蟻酸、シュウ酸、酢酸等が挙げられる。カルボン酸を用いた場合には、アンモニア等の塩基を用いて原料水溶液のpHを3〜8に調整することが好ましい。カルボン酸イオンの供給源としては、種々のカルボン酸塩が使用可能であるが、上述した酢酸亜鉛の他、蟻酸亜鉛、シュウ酸亜鉛、蟻酸アンモニウム、シュウ酸アンモニウム、酢酸アンモニウム等が好ましく例示される。特に好ましいカルボン酸及び/又はカルボン酸イオンは酢酸及び/又は酢酸イオンである。原料水溶液の濃度は特に限定されないが、3B族元素のイオンを0.0001〜0.02Mの濃度で含み、亜鉛イオンを0.01〜2Mの濃度で含み、かつ、カルボン酸及び/又はカルボン酸イオンを0.02〜4Mの濃度で含むのが好ましい。
【0025】
原料水溶液の液性は特に限定されないが、概ね中性〜酸性の液性域、例えばpH8.0以下であり、好ましくはpH7.0以下である。このような範囲内の液性であると、耐塩基性の反応装置を使う必要がなくなり、プロセスが大幅に簡素化され、製造コストの低減が可能となる。また、塩基性溶液を使用する必要性が無くなり、ガラス基板上に酸化亜鉛粒子を析出させて膜化させる際、ガラスの腐食を抑制することができる。
【0026】
本発明における水熱合成は130℃以上、好ましくは140℃以上、より好ましくは160〜250℃の温度で行われる。水熱合成の時間は所望の微細粒子が形成されるかぎり特に限定されないが、上記温度域で1時間以上、好ましくは3〜10時間行われるのが好ましい。例えば、水熱合成は140℃以上の温度で1時間以上行われるのが好ましく、より好ましくは160〜250℃の温度で3〜10時間行われる。水熱合成は、高温の水、特に高温高圧の水の存在の下に行われる物質の合成及び結晶成長法として一般的に定義されるものであり、オートクレーブ中で行われるのが典型的であり好ましいが、それ以外の高温高圧容器を使用してもよい。
【0027】
本発明に用いる原料水溶液は、Cl及びBrから選択される少なくとも一種の7B族元素のイオン(Cl及び/又はBr)を更に含んでなることができ、それにより3B族元素のみならず7B族元素も酸化亜鉛結晶の内部に固溶されるのが好ましい。3B族元素及び7B族元素はいずれもキャリア濃度に寄与する元素であるため、このような高いドーパント量はキャリア濃度の増大をもたらす。7B族元素イオンの供給源は、水に溶解して塩素イオン及び/又は臭素イオンを生成可能な物質であれば特に限定されないが、塩化セチルトリメチルアンモニウム(CTAC)、塩化リチウム、塩化カリウム、臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB)、臭化リチウム、臭化カリウム等が好ましく例示され、特に好ましくは界面活性剤として酸化亜鉛粒子内への取り込みを促進する点で塩化セチルトリメチルアンモニウム(CTAC)及び臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB)であり、最も好ましくは臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB)である。
【0028】
本発明に用いる原料水溶液は、界面活性剤を0.01M以上の濃度で含んでなるのが好ましく、より好ましくは0.01〜2Mである。界面活性剤の存在下であると、3B族元素や7B族元素等のドーパントを酸化亜鉛粒子の内部に上手く固溶させることができる。
界面活性剤の例としては、塩化セチルトリメチルアンモニウム(CTAC)、臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB)、PVA(ポリビニルアルコール)、PEG(ポリエチレングリコール)、エチレングリコール、PVP(ポリビニルピロリドン)等が挙げられる。好ましい界面活性剤は7B族元素供給源としても機能する点で塩化セチルトリメチルアンモニウム(CTAC)及び臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB)であり、酸化粒子亜鉛粒子の内部に7B族元素を取り込み易くなるだけでなく、3B族元素も同時に結晶内に取り込みやすくなる。特に好ましくは臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB)である。このように、3B族元素及び/又は7B族元素は、界面活性剤の存在下において、酸化亜鉛粒子の内部に上手く固溶させることができる。これらの元素が上手く固溶する理由は必ずしも明らかでないが、界面活性剤が形成したミセル内に3B族元素や7B族元素のイオンが存在し、水熱反応中の酸化亜鉛生成過程で効果的に取り込まれるためではないかと考えられる。
【0029】
上記のようにして、本発明の方法によれば、再熱処理を必要とすることなく、水熱合成により酸化亜鉛微細粒子を直接合成することができる。もっとも、こうして得られた酸化亜鉛微細粒子に所望により再熱処理を施してもよいが、再熱処理を経ないで得られる酸化亜鉛微細粒子は、典型的にはナノオーダーの極めて微細な粒子であり、凝集が少なく、分散性が高いという特徴を有する。
【0030】
なお、本発明の酸化亜鉛微細粉末は、上述したような液相法に限らず、固相法を用いても製造することができる。例えば、ノンドープの酸化亜鉛ナノ粒子と、3B族元素酸化物のナノ粒子と、7B族元素化合物とを混合し、熱処理をしてもよい。この場合、7B族元素の揮発を防止し、ZnOに固溶させるため、密閉容器内において7B族元素の蒸気圧が大気圧以上となるようにしながら熱処理することが好ましい。
【実施例】
【0031】
本発明を以下の例によってさらに具体的に説明する。
【0032】
例1(比較)
(1)酸化亜鉛粉末の作製
酢酸亜鉛二水和物(キシダ化学株式会社製)をZnの総物質量が0.01molとなるように秤量した。この酢酸亜鉛二水和物を45mLのMilli−Q水(超純水)に溶解して、混合溶液を得た。この混合溶液をオートクレーブ中において180℃で6時間加熱して、酸化亜鉛粒子群からなる試料粉末を分散液の形態で得た。得られた試料粉末に対し、X線回折法(XRD)を用いて結晶相を同定した結果、ZnO単相であった。
【0033】
(2)格子定数の測定
試料粉末の格子定数を、X線回折法を用いて、X線:CuKα線、管電圧:45kV、管電流:40mA、測定モード:ステップ走査、ステップ幅:0.01°、計数時間:1s/ステップ、走査範囲:27.5−40°(2θ)の条件で測定した。その際、内部標準として格子定数が既知のSiを用い、ピークトップ法により求めた酸化亜鉛の(100)及び(002)ピーク位置と、CuKα1線の波長λ=1.5418Åとを用いて、酸化亜鉛粉末の格子定数のa軸長及びc軸長をそれぞれ決定した。その結果、a軸長が3.2500Å、c軸長が5.2067Åという、両軸共に、一般的な酸化亜鉛の格子定数(ICDD36−1451によれば、a軸長が3.2498Å、c軸長が5.2066Å)に近い値が得られた。
【0034】
(3)粒子内部の組成分析
粒子内部のAl、Ga、Cl及びBrの存在量を測定するために、TEM−EDSによるナノ領域の組成分析を以下のようにして行った。まず、試料粉末をエポキシ樹脂を用いて樹脂埋めした。これを適切なサイズに切断した後、機械研磨、ディンプリング、及びArイオンミリングにより、TEM用薄膜試料を作製した。粒子内部の組成を分析するため、粒径(粒子に内接する円の直径)が20nm以上の粒子を選び、分析位置は、粒子に内接する直径dの円と同じ中心を持つ直径が0.2dの円の内部の任意の点とした。分析装置として、日本電子製JEM−2010F型の電解放射型透過電子顕微鏡を用い、加速電圧は200kVとした。前記分析点に対し、装置付属のUTW型EDS検出器を用いて、ビーム径をφ2nmに収束させ、EDS分析を行った。分析値は前記範囲内の異なる5点の平均値とした。こうしてTEM−EDSにより粒子内部のAl、Ga、Cl及びBrの元素分析を行った結果、いずれの元素も検出されなかった。
【0035】
(4)粒度分布の測定
動的光散乱式粒度分布測定装置(日機装製UPA−EX150)にて試料粉末の粒度分布を測定して、体積基準D50平均粒径を求めた。その結果、試料粉末の体積基準D50平均粒径は250nmであった。
【0036】
例2(比較)
酢酸亜鉛二水和物(キシダ化学株式会社製)と硝酸アルミニウム九水和物(キシダ化学株式会社製)を、ZnとAlの総物質量が0.01molとなるように秤量した。このとき、ZnとAlの物質量比Zn:Alを95:5とした。これらの成分を45mLのMilli−Q水(超純水)に溶解して、混合溶液を得た。この混合溶液をオートクレーブ中において180℃で6時間加熱して、酸化亜鉛粒子群からなる試料粉末を分散液の形態で得た。例1と同様にして試料粉末の格子定数を測定したところ、a軸長が3.2498Å、c軸長が5.2068Åと、一般的な酸化亜鉛に近い値が得られた。例1と同様にしてTEM−EDSにより粒子内部のAl、Ga、Cl及びBrの元素分析を行った結果、いずれの元素も検出されなかった。試料粉末の体積基準D50平均粒径は195nmであった。
【0037】
例3(比較)
酢酸亜鉛二水和物(キシダ化学株式会社製)を、Znの総物質量が0.01molとなるように秤量した。この酢酸亜鉛二水和物を45mLのMilli−Q水(超純水)に溶解し、0.005molのCTAB(臭化セチルトリメチルアンモニウム)(キシダ化学株式会社製)を更に加えて、混合溶液を得た。この混合溶液をオートクレーブ中において180℃で6時間加熱して、酸化亜鉛粒子群からなる試料粉末を分散液の形態で得た。例1と同様にして試料粉末の格子定数を測定したところ、a軸長が3.2530Å、c軸長が5.2120Åという、一般的な酸化亜鉛と比べて大きい値が得られた。例1と同様にしてTEM−EDSにより粒子内部のAl、Ga、Cl及びBrの元素分析を行った結果、Brのみが0.35at%検出された。試料粉末の体積基準D50平均粒径は113nmであった。
【0038】
例4
酢酸亜鉛二水和物(キシダ化学株式会社製)と硝酸アルミニウム九水和物(キシダ化学株式会社製)を、ZnとAlの総物質量が0.01molとなるように秤量した。このとき、ZnとAlの物質量比Zn:Alを95:5とした。これらの成分を45mLのMilli−Q水(超純水)に溶解し、0.005molのCTAB(臭化セチルトリメチルアンモニウム)(キシダ化学株式会社製)を更に加えて、混合溶液を得た。この混合溶液をオートクレーブ中において180℃で6時間加熱して、酸化亜鉛粒子群からなる試料粉末を分散液の形態で得た。例1と同様にして試料粉末の格子定数を測定したところ、a軸長が3.2480Å、c軸長が5.2066Åという、一般的な酸化亜鉛に近い値が得られた。例1と同様にしてTEM−EDSにより粒子内部のAl、Ga、Cl及びBrの元素分析を行った結果、Alが1.22atm%、Brが0.32at%検出され、Ga及びClは検出されなかった。試料粉末の体積基準D50平均粒径は47nmであった。粒子をTEMで観察したところ図1に示されるTEM像が得られた。
【0039】
【表1】
【0040】
表1から分かるように、例1にあっては、ドーパントを添加しなかったため、固溶元素が検出されず、格子定数は通常のZnOと同様であった。例2にあっては、Al源(硝酸亜鉛九水和物)を原料に添加したが7B族元素(Br)を添加しなかったため、BrのみならずAlも粒子内部に固溶しなかった。例3にあっては、CTABの使用によりBrが粒子内部に固溶したが、BrはOと比較してイオン半径大きいため、格子定数が増大した。例4にあっては、Al源とBr源の両方を使用した結果、Al及びBrが共に粒子内部に固溶し、Brに起因する膨張とAlに起因する収縮との相殺により、格子定数は通常のZnOと同程度になり、その結果、多量のAlを酸化亜鉛粒子内部に固溶させることができた。
図1