特許第5828949号(P5828949)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5828949光パルス発生装置、テラヘルツ分光装置およびトモグラフィ装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5828949
(24)【登録日】2015年10月30日
(45)【発行日】2015年12月9日
(54)【発明の名称】光パルス発生装置、テラヘルツ分光装置およびトモグラフィ装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/3586 20140101AFI20151119BHJP
   G01N 21/17 20060101ALI20151119BHJP
【FI】
   G01N21/3586
   G01N21/17 610
【請求項の数】9
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-217716(P2014-217716)
(22)【出願日】2014年10月24日
(62)【分割の表示】特願2010-191321(P2010-191321)の分割
【原出願日】2010年8月27日
(65)【公開番号】特開2015-14619(P2015-14619A)
(43)【公開日】2015年1月22日
【審査請求日】2014年10月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100124442
【弁理士】
【氏名又は名称】黒岩 創吾
(72)【発明者】
【氏名】尾内 敏彦
【審査官】 横井 亜矢子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−080007(JP,A)
【文献】 特開2009−206484(JP,A)
【文献】 特開2010−002218(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0014079(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0165364(US,A1)
【文献】 特開平07−045888(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00−21/01
G01N 21/17−21/61
H04B 10/00
G02F 1/00− 1/39
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプ光とプローブ光とを供給する光パルス発生装置であって、
光源と、
前記光源の発振状態を変調する変調手段と、
前記光源からの光を前記ポンプ光と前記プローブ光とに分岐する分岐手段と、を備え、
前記変調手段は、前記発振状態を変調する周波数が可変になるように構成されており、
前記変調手段で前記周波数を変えることで、前記ポンプ光が対象物に入射する時間と前記プローブ光が対象物に入射する時間との差を変化させる
ことを特徴とする光パルス発生装置。
【請求項2】
前記光源は、偏波変調レーザであり、
前記変調手段は、前記偏波変調レーザの偏波方向を変化させ、
前記分岐手段は、偏光ビームスプリッタである
ことを特徴とする請求項に記載の光パルス発生装置。
【請求項3】
ポンプ光とプローブ光とを供給する光パルス発生装置であって、
光源と、
前記光源の発振状態を変調する変調手段と、を備え、
前記光源は、該光源から前記ポンプ光と前記プローブ光とが出力されるように光を分岐する分岐手段を有し、
前記変調手段は、前記発振状態を変調する周波数が可変になるように構成されており、
前記変調手段で前記周波数を変えることで、前記ポンプ光が対象物に入射する時間と前記プローブ光が対象物に入射する時間との差を変化させる
ことを特徴とする光パルス発生装置。
【請求項4】
前記光源は、リングレーザであり、
前記変調手段は、前記リングレーザの周回方向を変化させ、
前記分岐手段は、カップラである
ことを特徴とする請求項に記載の光パルス発生装置。
【請求項5】
前記ポンプ光を増幅する第1の光増幅部と、
前記光増幅部で増幅された前記ポンプ光を圧縮する第1の分散補償部と、
前記プローブ光を増幅する第2の光増幅部と、
前記光増幅部で増幅された前記プローブ光を圧縮する第2の分散補償部と、を備える
ことを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の光パルス発生装置。
【請求項6】
前記変調手段で前記周波数を変えることで、前記ポンプ光がテラヘルツ波発生素子に入射する時間と前記プローブ光がテラヘルツ波検出素子に入射する時間との差を変化させる
ことを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の光パルス発生装置。
【請求項7】
前記変調手段で前記周波数を変えることで、前記ポンプ光が被測定物に入射する時間と前記プローブ光が該被測定物に入射する時間との差を変化させる
ことを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の光パルス発生装置。
【請求項8】
請求項1乃至のいずれか1項に記載の光パルス発生装置と、
前記光パルス発生装置からのポンプ光が入射するテラヘルツ波発生素子と、
前記光パルス発生装置からのプローブ光が入射するテラヘルツ波検出素子と、を備える
ことを特徴とするテラヘルツ分光装置。
【請求項9】
請求項1乃至のいずれか1項に記載の光パルス発生装置と、
前記光パルス発生装置からのポンプ光が入射するテラヘルツ波発生素子と、
前記光パルス発生装置からのプローブ光が入射するテラヘルツ波検出素子と、を備える
ことを特徴とするトモグラフィ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光パルス発生装置、テラヘルツ分光装置およびトモグラフィ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、テラヘルツ波(周波数:30GHz〜30THz)を用いた非破壊なセンシング技術が開発されている。テラヘルツ波の応用分野として、透視検査装置としてイメージングを行う技術、吸収スペクトルや複素誘電率を求めて分子の結合状態などの物性を調べる分光技術、キヤリア濃度や移動度、導電率などの物性を調べる計測技術、生体分子の解析技術が開発されている。
【0003】
そのなかで代表的なテラヘルツパルスを用いたテラヘルツ時間領域分光装置は、フェムト秒レーザを2つに分岐させ、それぞれをテラヘルツ発生素子へのポンプ光、検出素子へのプローブ光として照射する光学系となっている。そのポンプ光、プローブ光を照射する時間の差を変化させることで、テラヘルツパルスをサンプリングにより計測し、物体との相互作用による変化を分析することができる。
【0004】
時間差を調整する方法として一般的には機械的な遅延ステージが用いられるが、振動が雑音になったり、調整する時間がmsecオーダーとなって信号取得時間が速くできないなどの課題があった。そこで、PLL(Phase Lock Loop)制御により同期させた2台のファイバレーザを用いて、それぞれをポンプ光、プローブ光とし、PLLでの位相差を可変とする非同期サンプリング方法が高速な光遅延方法として注目されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−2218号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の方法ではレーザを2台用いているのでコストが増大するという課題があった。
【0007】
そこで本発明は、簡単な構成でポンプ光とプローブ光との時間差を高速に変化できる光パルス発生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面としての光パルス発生装置は、ポンプ光とプローブ光とを供給する光パルス発生装置であって、光源と、前記光源の発振状態を変調する変調手段と、前記光源からの光を前記ポンプ光と前記プローブ光とに分岐する分岐手段と、を備え、前記変調手段は、前記発振状態を変調する周波数が可変になるように構成されており、前記変調手段で前記周波数を変えることで、前記ポンプ光が対象物に入射する時間と前記プローブ光が対象物に入射する時間との差を変化させることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の別の一側面としての光パルス発生装置は、ポンプ光とプローブ光とを供給する光パルス発生装置であって、光源と、前記光源の発振状態を変調する変調手段と、を備え、前記光源は、該光源から前記ポンプ光と前記プローブ光とが出力されるように光を分岐する分岐手段を有し、前記変調手段は、前記発振状態を変調する周波数が可変になるように構成されており、前記変調手段で前記周波数を変えることで、前記ポンプ光が対象物に入射する時間と前記プローブ光が対象物に入射する時間との差を変化させることを特徴とする。
【0010】
本発明のその他の側面については、以下で説明する実施の形態で明らかにする。
【発明の効果】
【0011】
簡単な構成でポンプ光とプローブ光の時間差を高速に変化できる光パルス発生装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態1の光パルス発生装置の図
図2】本発明の実施形態1の変調器の図
図3】本発明の光パルス遅延を説明する図
図4】本発明の実施形態1のテラヘルツトモグラフィ装置の図
図5】本発明の実施形態2の光パルス発生装置の図
図6】本発明の実施形態3の光パルス発生装置の図
図7】本発明の実施形態4の光パルス発生装置の図
図8】テラヘルツトモグラフィ装置による断層像及び時間波形の図
【発明を実施するための形態】
【0013】
〔実施形態1〕
本発明の非同期サンプリングのためのポンプ光およびプローブ光を供給する光パルス発生装置について図1を用いて説明する。本実施形態の光パルス発生装置は、光源1と、変調部2、3と、を備える。光源としてはシングルモードで連続発振するレーザ、たとえばレーザダイオードLD1を用いる。LD以外でもYAGのような固体レーザ、ファイバレーザ等でもよい。変調部は、変調器2と外部電源3を有し、光源1からの光を周期的に変調することでポンプ光とプローブ光とに分岐する。変調部2は、電気光学変調器(EO変調器)、たとえばマッハツェンダー変調器(Mach−Zehnder modulator:MZM)2であり、光源1からの光を2値変調することで光パルス列に変換する。外部電源3は、たとえばシンセサイザーとアンプにより構成されて変調する周波数が可変でMZMをオン・オフ変調できるようになっており、典型的には1GHz〜10GHz程度まで変化させることができる。
【0014】
ここで、MZMは一般的に図2の10のような構造となっている。MZMは、ニオブ酸リチウム(LiNbOx:LN)などの電気光学結晶基板11、LDからの光入力ファイバ12、電気光学結晶に作りこんだY分岐光導波路13、14、変調電極15a〜15c、光出力ファイバ16、17から構成される。これは周知のMZM構造であり、外部電源3から電極間に印加される電圧がV(変調信号がオン)のときには光出力ファイバ16に光が出力され、電圧がV(変調信号がオフ)のときには光出力ファイバ17に光が出力されるようになっている。すなわち、光導波路13の光と光導波路14の光の位相が同位相で合波する場合には光出力ファイバ16に、逆位相で合波する場合には光出力ファイバ17に光が出力されるようにしている。したがって、光出力ファイバ16と光出力ファイバ17の光出力は時間的に位相が反転している。このような変調技術は光通信用光源として用いる場合には一般的な技術であり、GHzオーダーの高速変調やドリフト制御には周知の技術を用いればよい。なお、光出力ファイバ16はファイバ4に連結されており、光出力ファイバ17はファイバ5に連結されている。繰り返しパルスの場合には、図1のパルス波形のように、ファイバ4を介して出力されるt1、t2、t3のパルスに対して、ファイバ5を介して出力されるパルスは時間的に相補的な位置(互いにパルス列の中間に配置)となるようにできる。したがって、2つのパルスの間には一定の位相差があるようになる。
【0015】
このとき、外部電源3の周波数(変調周波数)fmを変化させると、パルス間隔も変化することになる。しかし、同一の電源で変調して互いに逆位相の2つのパルスを出力しているため、光出力ファイバ16、17(ファイバ4、5)に出力されるそれぞれのパルスにはやはり一定の位相関係があることになる。その様子について図3を用いて説明する。a)をポンプパルス、b)をプローブパルスとする。ポンプパルスのパルス間隔がT、T+Δt、T+2Δt、と変化した場合に、直近のプローブパルスとの時間差はT/2、T/2+Δt/2、T/2+Δt、T/2+3Δt/2と変化していく。予め存在している2つのパルスの初期位相差に相当する時間T/2を伝搬距離の差を設けて時間差を0にすることができれば、ポンプパルスとプローブパルスの時間差をΔt/2、Δt、3Δt/2・・・と変化させることができる。たとえば、10GHzの変調周波数を基本とすれば周期は100psであり、周期を101ps、102ps、103ps・・・と変化させれば、ポンプパルスとプローブパルスの時間差は0、0.5ps、1ps、1.5ps・・・と変化することになる。また、初期位相調整には100/2=50psの時間差をキャンセルするために、ポンプ光の伝搬距離を空気中で50ps×3E+8m/s=1.5cm(屈折率1.5の光ファイバであれば1cm)だけ長くすればよい。なお、図3においてはこのポンプパルスとプローブパスルとの時間差をわかり易く説明するために、1パルス毎に間隔が変わる場合について描いているが、実際には変調周波数fmに相当する時間周期は、変調周波数を変化させる時間よりも短いことが多い。その場合には、複数パルスは同一間隔であって、あるパルス数毎に間隔が変わることになる。
【0016】
さて、図1に再び戻ると、MZM2からの2つの光出力はパルスが波長チャーピングを受けた形でバンド幅が広がっている。それぞれ第1及び第2のシングルモードファイバSMF6a、6bでパルス波形を整えたのち、ファイバアンプなどの第1及び第2の光増幅部7a、7bで光出力を増幅し、第1及び第2の分散補償部8a、8bによりパルス圧縮を行なう。その結果、典型的には100fs程度のパルス幅となる。ここで、一般にMZM2の光出力ファイバ16、17からの光出力は光出力ファイバ16の方が大きい。したがって、MZM2の後段(SMF、光増幅部、分散補償部)の構成は、MZM2からの光出力毎に最適化すればよく、構成(ファイバの分散値、増幅率など)を互いに異ならせることができる。また、パルス幅、出力は必ずしも同じである必要はなく、たとえばポンプ側の第1の分散補償部8aからの光出力は平均で100mW前後、第2の分散補償部8bからの光出力は10mW前後である。
【0017】
このポンプパルスとプローブパルスとを用いたテラヘルツ時間領域分光装置を図4に示す。分散補償部40a、40bはそれぞれ図1で8a、8bに相当するものである(図の中での上下は入れ替わっている)。分散補償部40aの光出力はテラヘルツ波発生のためのテラヘルツ波発生素子41たとえばInGaAsベースの光伝導素子に照射される。また、分散補償部40bの光出力はテラヘルツ波検出のためのテラヘルツ波検出素子42たとえば同様に光伝導素子に照射される。
【0018】
テラヘルツ波発生素子41で発生したテラヘルツ波は放物面鏡43aで平行光にされ、ハーフミラー(メッシュ、Siなど)44で反射されて再び放物面鏡43bで集光して測定サンプル45に照射される。サンプル45の上に書かれた矢印はサンプルを2次元的にスキャンできるステージに載せられていることを示している。サンプルで反射されたテラヘルツ波は放物面鏡43bで反射し、ハーフミラー44を透過した成分を放物面鏡43cで集光してテラヘルツ波検出素子42にて検出する。必要に応じて発生素子41を変調部46で変調して信号取得部47ではロックインアンプを用いて同期検波を行なって、微小信号を高いS/N比で観測することができる。検出信号はアンプ48で増幅したのちに、信号取得部47を経てデータ処理出力部49でテラヘルツパルスの波形として観察できるようにする。ただし、信号出力が高い場合にはこの同期検波系(変調部46およびロックインアンプ)は省略してアンプ48の出力をそのまま信号取得部47で取得することもできる。
【0019】
図4で、MZMおよび外部電源は図1のMZM2および外部電源3と同じものであり同符号を用いている。MZM2および外部電源3は、データ処理出力部からの制御で変調周波数fmをf1からf2に変化させながら、上記に説明した時間差に相当する信号を同期させて取得し、テラヘルツパルス波形を出力している。なお、図4においてMZMの両側や分散補償部の端部の波線は図1と同じ配線部分を省略したものである。
【0020】
本実施形態ではすでに説明したように、テラヘルツ発生、検出素子に照射する光パルスの時間差はMZMの変調周波数を変化することで調整することができ、光の非同期サンプリングによって高速にテラヘルツ波形を取得することができる。これまでの機械的な遅延ステージが不要となることで、振動によるノイズを除去することができる。
【0021】
なお、ここではY分岐型のMZMを用いた例を示したが、方向性結合器型等で2出力を持つEO変調器などでもよい。また、テラヘルツ時間領域分光装置に本発明のポンプ光とプローブ光を適用した形態を説明したが、対象物の比較的高速現象の物性(たとえば半導体キャリア寿命)を測定するためのポンププローブ法の光源としても適用できる。その場合には同一対象物の同一もしくは近傍の領域にポンプ光とプローブ光を時間差を設けて照射することになる。
【実施例1】
【0022】
実施形態1の具体的な実施例1について例示的に説明する。
【0023】
LD1としては1.53μmで単一モード発振するDFB−LDを用い、10mWでCW動作(連続発振)させる。MZM2では周知の方法で初期周波数10GHzで変調させる。このとき、波長チャープが起きているため、後段のSMF6a、6bではこれを補償するようにパルスを整形し、たとえば数psのパルス幅を持たせることができる。これらをErドープファイバを含む光増幅部7a、7bで増幅を行い、DF−DDF(Dispersion−flattened dispersion decreasing fiber)を含む分散補償部8a、8bでパルス圧縮を行う。分散補償部8aからの光出力は平均で30mW、パルス幅150fs、分散補償部8bからの光出力は平均で5mW、パルス幅200fsとなるように調整する。
【0024】
このように発生させたポンプ、プローブ光をそれぞれ図4の光伝導素子41、42に導光し、テラヘルツトモグラフィ装置として動作させることができる。外部電源3の変調周波数を変化させてパルス間隔を100ps(10GHz)から300ps(3.3GHz)まで変化させれば最大100ps[Δt/2=(300−100)/2]の時間差を与えられる。このとき0.2psごとにステップ的に周期を変化させていれば0.1ps毎で合計1000点のデータを取得することができる。このようなパルス間隔100ps〜300psにおける0.2psごとのステップ的な周期変化による取得を繰り返して、同じ時間差に相当するデータを複数取得し平均化処理をすることでS/N比を向上させることもできる。このときに変調周波数もしくは周期を変化させるスピードは電気的な信号で与えるので高速であるため、信号取得部の時定数で波形の取得時間がほとんど決まることになる。典型的にはミリ秒オーダーとなる高速でサンプルの観察1ポイントにつき1回のテラヘルツ波形を取得することができる。
【0025】
なお、この変調周波数を変えるスピードは光の変調周波数fmに比べると十分に遅いため(たとえばMHzオーダー)、前述したように、1パルス毎に周期が変わるわけではなく、たとえば1000パルス分程度毎に間隔が異なるようになる。
【0026】
図4のような系でサンプル45からの反射テラヘルツパルスを分析することで、フーリエ変換による分光データを取得するテラヘルツ分光装置として使用することができる。また、サンプル45の内部構造からの複数の反射界面を取得して断層像をイメージングするトモグラフィ装置としても使用することができる。
【0027】
図8(a)にトモグラフィ装置を用いて皮膚の断層像を観察した例を示す。幅10mm、深さ方向3000μmの(皮膚内部は1500μm)の2次元画像となっている。X方向で23ポイント(横軸は250μmピッチである)の位置でのテラヘルツ時間波形を図8(b)に示している。複数の層界面を反映して反射テラヘルツパルスが多数観察できることがわかる。本装置を用いた図8の2次元断層像取得時間は、X方向の1ポイントの取得が1回スキャンで10msとして10回積算平均することで100msかかり、サンプルを250μmピッチで40ポイント(幅10mm)分スキャンしたので4秒となる。しかし、実際には待機時間などがあり5秒程度となる。
【実施例2】
【0028】
実施形態1の具体的な実施例2では、テラヘルツ分光装置又はトモグラフィ装置のS/N比の向上のために、ファイバ出力とテラヘルツ波検出素子との間にPPLNなどの第二次高調波発生(SHG)素子を挿入(不図示)している。これにより、光パルスの出力を向上させ、かつテラヘルツ波検出素子として低温成長GaAsを含む光伝導素子を用いることができる。
【0029】
実施例1で使用したDF−DDFでは大出力化できないため、代わりにフォトニック結晶ファイバと高非線形ファイバの組み合わせを用いる。また、パルス幅を狭くするため、Erドープファイバにおいても自己位相変調によって線形チャープを起こさせて波長バンド幅を広げるように設計している。Erドープファイバで増幅して高出力になり自己位相変調が顕著に生じる長さを伝播したところでチャープ量を調整するように、前段のSMFの出力においては分散補償するだけでなく逆チャープとなるようにしている。このような構成では、ポンプ光8aで30fs、60mW、プローブ光8bで30fs、120mWとなるように制御する。プローブ光はすでに述べたようにSHG素子を透過するため、テラヘルツ波検出素子に到達する時点では60fs、10mW程度になる。
【0030】
このような系では、テラヘルツのパルス幅は300fs前後まで狭くなり、テラヘルツの信号強度が強くなって、測定帯域は7THz程度までになるとともに計測時間が実施例1に比べてさらに速くできる。
【0031】
〔実施形態2〕
本発明の第2の実施形態を図5に示す。本実施形態の光パルス発生装置は、光源50と、光源50の発振状態を周期的に変調する変調部51と、光源50からの光をポンプ光とプローブ光とに分岐する分岐部52とを備える。光源50としては偏波変調レーザを用いる。偏波変調レーザは、ファイバレーザやレーザダイオードで実現される。偏波変調レーザとしては、例えばDFB構造のTE/TMモードスイッチングレーザダイオード[Appl.Phys.Lett.,vol.67,3405(1995)等]を用いることができる。変調部51は、外部電源であり、偏波変調レーザ50に信号を送ることでレーザ光57の偏波方向(偏波変調レーザ50の発振状態)をスイッチングする。分岐部52としては、偏光ビームスプリッタ(PBS)を用いる。
【0032】
本実施形態では、一定の位相差のある2つの光パルスを出力するために、外部電源(変調部)51からの信号により偏波変調レーザ50からのレーザ光57の偏波方向をスイッチングしている。外部電源51は変調周波数が可変になるように構成されており、外部電源51で変調周波数を変化させれば、スイッチングにより発生した光パルスの時間間隔が変化する。PBS52によって異なる偏波の光を分岐すれば、一定の位相関係を保った2つの光パルスが生成される。PBSで分岐された光パルスのそれぞれは、実施形態1と同様に、SMF54a、54b、光増幅部55a、55b、分散補償部56a、56bにより、光伝導素子等の対象物に導かれる。外部電源51の変調周波数を変えることで、ポンプ光が対象物に入射する時間とプローブ光が対象物に入射する時間との差が変化する。
【0033】
本実施形態では光源を変調することで一定の位相差をもつ2つの光パルス列を生成するもので分岐部としてのPBS52は受動部品となっているため、駆動系を簡略化できるメリットがある。なお、本実施形態では、光源の発振状態として、光源からの光の偏波方向を変調した。しかし、代わりに、光源からの光の波長を変調しても良い。その場合には、光源として波長を変更できるレーザを用い、PBSの代わりにダイクロイックミラーを用いれば良い。
【0034】
〔実施形態3〕
本発明による第3の実施形態を図6に示す。本実施形態の変調部は、実施形態1のEO変調器の代わりに音響光学変調器(AOM)61を有し、更に、AOM61へ印加するRF信号をオン・オフするデジタル信号源63と、ミキサ変調器64と、アンプ65を有する。本実施形態の変調部は、音響光学変調器へ印加するRF信号をデジタル信号源63でオン・オフすることで、光パルスの出力方向をスイッチングさせて、ポンプ光とプローブ光とを生成する。種レーザ60としては実施形態1のように連続発振のレーザダイオードやファイバレーザを用いるのが好適である。
【0035】
AOM61は、RF信号62を印加すると音響光学素子上に表面弾性波が発生し、入射した光が回折によって直進方向から偏向されて出力するようにした変調器である。偏向方向は印加するRF信号の周波数に依存する。RF信号を印加しないときの0次光をポンプ光、印加したときの偏向された1次回折光をプローブ光として、それぞれSMF67a、67bに結合させて2つの光パルス信号列とすることができる。このとき、RF信号のオン・オフはデジタル信号を出力するデジタル信号源63とミキサ変調器64によって制御する。
【0036】
したがって、種レーザが連続光の場合には、デジタル信号源63の波形が反映されたパルスがAOMからの2つの光出力として現れる。その後は、SMF67a、67bによる波形整形、光増幅部68a,68bによる光増幅、分散補償部69a、69bによる分散補償により一定位相差をもつ2つの光パルス信号列としてポンプ光とプローブ光とを生成することができる。
【0037】
典型的にはRF信号の周波数は2GHz程度、デジタル信号源の繰り返し変調周波数は250MHzで動作させるが、さらに高周波で変調することも可能である。
【0038】
変調周波数を徐々に変化させれば、ポンプ、プロ−ブ光のパルス間隔が徐々に変化して、実施形態1と同様な原理で2つのパルス列の時間差を変化させることができる。
【0039】
〔実施形態4〕
本発明の実施形態4はリングレーザを変調かつ分岐された光出力をもつ光源として用いるものである。本実施形態ではリングレーザとして図7のようなリング型ファイバレーザ70を使用している。リング型ファイバレーザ70は、ファイバ増幅器73、分散シフトファイバDSF74、カップラ76、方向切り替え型アイソレータ78、アンプ80、強度変調器81、フィルタ82、励起レーザ71、および波長分割カプラ72を有する。ファイバ増幅器73で利得をもち、強度変調器81でリングでの周回光伝播時間と同期して変調することで強制モード同期発振ができるようになっている。モード同期の周期は変調部としての外部電源79で決めるが、周期が可変となるようにDSF74の一部はピエゾ素子(PZT)75に巻かれて電圧印加により共振器長が変化できるようになっている。したがって、外部電源79での周波数を変えるときにはPZT75の電圧印加77も同期して変えるようになっている。
【0040】
方向切り替え型アイソレータ78は、異なる方向のアイソレータ1つずつ計2つが内蔵されており、光路切り替えによりアイソレータを選択することでレーザ発振する発振周回方向(発振状態)を選ぶことができる。この切り替えを外部電源79と同期させて、たとえば正弦波変調の場合には正の振幅で時計回り、負の振幅で反時計回りを選択することで、カップラ76のそれぞれの出力a)、b)が図7のように反転して取り出せることになる。
【0041】
後段でのパルスの増幅、分散補償はこれまでの実施形態と同様に必要に応じて行なうことができる。また、光パルスの周期を変化させてポンプ光とプローブ光との時間差を変えることによる非同期サンプリングの手法はこれまでの実施形態と同様である。
【0042】
リング型ファイバレーザとすることで、パルス間でのタイミングシッタがより小さい光パルスを提供することができる。なお、本実施形態では、分岐部としてカップラ76を用いたが、分岐部としてMEMSを用いて光伝搬方向を振り分けても良い。
【0043】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形および変更が可能である。例えば、本発明の光パルス発生装置は、ポンププローブ測定装置の光源部としても使用できる。ポンププローブ測定装置において、本発明の光パルス発生装置は、ポンプ光が被測定物に入射する時間とプローブ光がその被測定物に入射する時間との差を変化させる。
【符号の説明】
【0044】
1 光源
2 変調器(変調部)
3 外部電源(変調部)
4、5 ファイバ
6a、6b シングルモードファイバ
7a、7b 光増幅部
8a、8b 分散補償部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8