(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記エチレン系重合体パウダーの粘度平均分子量が、5,000,000以上10,000,000以下である、請求項1に記載のエチレン系重合体パウダーの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく。その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0013】
[エチレン系重合体パウダーの製造方法]
本実施形態のエチレン系重合体パウダーの製造方法は、重合触媒を用いて、エチレンを単独重合させて、粘度平均分子量が3,000,000以上であるエチレン系重合体パウダーを製造する重合工程を有し、
前記重合触媒が、固体触媒[A]と、下記一般式1で示される有機マグネシウム化合物[B]からなる。
(M
1)
α(Mg)
β(R
2)
a(R
3)
b ・・・・・式1
(式中、M
1は周期律表第12族、第13族及び第14族からなる群より選ばれる金属原子であり、R
2及びR
3は、各々独立して、炭素数2以上20以下の炭化水素基であり、α、β、a、bは次の関係を満たす実数である。0≦α、0<β、0≦a、0≦b、0<a+b、kα+2β=a+b(ここで、kはM
1の原子価を表す。))
【0014】
[重合工程]
重合工程は、重合触媒を用いて、エチレンを単独重合させて、粘度平均分子量が3,000,000以上であるエチレン系重合体パウダーを製造する工程である。
【0015】
[エチレン系重合体パウダー]
本実施形態の製造方法で得られるエチレン系重合体パウダーは、エチレンの単独重合体であり、粘度平均分子量が3,000,000以上である。本実施形態の製造方法で得られるエチレン系重合体パウダーは、「エチレンの単独重合体」であるが、これは、重合の際のモノマー成分としてエチレンのみを用い、プロピレン、ブテン−1、ヘキセン−1等のα−オレフィンを実質的に含まない重合体を意味するものである。なお、エチレン系重合体パウダーの密度を調整する等の目的のために微量(0.1モル%未満)のα−オレフィンを配合することを妨げるものではない。配合してもよいα−オレフィンとしては、特に限定されないが、例えば、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘプテン、ノルボルネン、5−メチル−2−ノルボルネン、テトラシクロドデセン、2−メチル−1.4,5.8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、スチレン、ビニルシクロヘキサン、1,3−ブタジエン、1,4−ペンタジエン、1,5−ヘキサジエン、1,4−ヘキサジエン、1,6−オクタジエン、1,7−オクタジエン及びシクロヘキサジエン等が挙げられる。このなかでも、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、シクロペンテン、ノルボルネン、スチレン、ビニルシクロヘキサン、1,5−ヘキサジエン、1,7−オクタジエンが好ましく、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1,5−ヘキサジエン、1,7−オクタジエンが特に好ましい。
【0016】
[粘度平均分子量]
本実施形態の製造方法で得られるエチレン系重合体パウダーの粘度平均分子量(Mv)は、3,000,000以上であり、4,000,000以上が好ましく、4,500,000以上12,000,000以下がより好ましく、5,000,000以上10,000,000以下がさらに好ましい。粘度平均分子量(Mv)が3,000,000以上であることにより、より優れた耐摩耗性と強度が得られる。また、粘度平均分子量(Mv)が12,000,000以下であることにより、成形性がより向上する傾向にある。さらに、粘度平均分子量が上記範囲であることにより、生産性により優れ、成形した場合には、耐摩耗性に優れ、強度の高いエチレン系重合体パウダーとなる。このような特性を有するエチレン系重合体パウダーは、プレス成型、ラム押出しや高強度繊維などに好適に用いることができる。また、粘度平均分子量(Mv)が5,000,000以上10,000,000以下であることにより、パウダーの溶解性、加工性を維持しつつ、強度のより高い繊維が得られる傾向にある。
【0017】
粘度平均分子量を上記範囲に制御する方法としては、エチレン系重合体パウダーを重合する際の反応器の重合温度を変化させることが挙げられる。一般には、重合温度を高温にするほど粘度平均分子量は低くなる傾向にあり、重合温度を低温にするほど粘度平均分子量は高くなる傾向にある。なお、本実施形態のエチレン系重合体パウダーの製造方法によれば、重合温度を大幅に低下させることなく高分子量化が可能であり、生産性に優れ、かつ、長期連続安定運転が可能となる。
【0018】
粘度平均分子量(Mv)は、デカヒドロナフタレン溶液中にエチレン系重合体パウダーを異なる濃度で溶解させ、135℃で求めた還元粘度を濃度0に外挿して求めた極限粘度[η](dL/g)から、以下の数式Aにより算出することができる。より詳細には、実施例に記載の方法により求めることができる。
Mv=(5.34×10
4)×[η]
1.49 ・・・数式A
【0019】
[結晶化度]
本実施形態の製造方法で得られるエチレン系重合体パウダーの結晶化度は、80%以下が好ましく、60%以上80%以下がより好ましく、70%以上80%以下がさらに好ましい。結晶化度が80%以下であることにより、成形性がより向上し、更に成形体の耐摩耗性が優れる傾向にある。また、結晶化度が60%以上であることにより、成形体の強度等の物性が優れる傾向にある。また、結晶化度が70%以上、80%以下であることにより、エチレン系重合体パウダー中の非晶部分及び結晶部分のバランスに優れ、延伸の際の延伸ムラによる糸切れを起こすことをより抑制できる傾向にある。
【0020】
結晶化度は、エチレン系重合体パウダーを重合する際の重合温度で制御することが可能である。結晶化度を高くするには、重合温度を高くする、結晶化度を低くするには重合温度を低くすることで制御することができる。また、結晶化度は、エチレン系重合体パウダーを重合した後の、乾燥温度、時間によっても制御することが可能である。結晶化度を高くするには乾燥温度を高くすることや乾燥時間を長くする、結晶化度を低くするには、乾燥温度を低くすることや乾燥時間を短くすることで制御できる。なお、乾燥時に窒素などの不活性ガスにより乾燥を促進することも可能である。なお、本実施形態におけるエチレン系重合体パウダーの結晶化度とは、以下に記載の広角X線回折透過法により求められる値である。
X線結晶化解析装置:リガク(株)製RINT2500型装置
X線源 :CuKα
出力 :50KV、300mA
検出器 :シンチレーションカウンター
サンプル :エチレン系重合体パウダー
【0021】
具体的には、リガク(株)製RINT2500型装置に設置された回転試料台に重合体パウダー約0.002gを乗せ、試料台を77回転/分で回転させながら広角X線回折透過測定を実施する。得られた広角X線回折プロファイルより結晶化度を算出する。より具体的には、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0022】
[嵩密度]
本実施形態の製造方法で得られるエチレン系重合体パウダーの嵩密度は、0.40g/cm
3以上0.60g/cm
3以下が好ましく、0.42g/cm
3以上0.58g/cm
3以下がより好ましく、0.44g/cm
3以上0.55g/cm
3以下がさらに好ましい。嵩密度が0.40g/cm
3以上であることにより、エチレン系重合体パウダーの流動性がより向上し、これにより、ハンドリング性に優れ、プレス成型時の金型、ラム押出し時の押し出し機へのフィードが安定し、成形品の寸法が安定する傾向にある。一方、嵩密度が0.60g/cm
3以下であることにより、成形品の加工等の際に、生産性等に優れ、より良好な加工適用性を示す傾向にある。
【0023】
一般的には、嵩密度は、使用する触媒によって異なるが、単位触媒あたりのエチレン系重合体パウダーの生産性により制御することが可能である。また、エチレン系重合体パウダーの嵩密度は、エチレン系重合体パウダーを重合する際の重合温度によって制御することが可能であり、重合温度を高くすることによりその嵩密度を低下させることが可能である。さらに、エチレン系重合体パウダーの嵩密度は重合器内のスラリー濃度によって制御することも可能であり、スラリー濃度を高くすることによりその嵩密度を増加させることが可能である。なお、エチレン系重合体パウダーの嵩密度は実施例に記載の方法によって測定することができる。
【0024】
[重合触媒]
本実施形態において、エチレン系重合体パウダーを得るための重合触媒は、固体触媒[A]と、下記一般式1で示される有機マグネシウム化合物[B]からなる。
(M
1)
α(Mg)
β(R
2)
a(R
3)
b ・・・・・式1
(式中、M
1は周期律表第12族、第13族及び第14族からなる群より選ばれる金属原子であり、R
2及びR
3は、各々独立して、炭素数2以上20以下の炭化水素基であり、α、β、a、bは次の関係を満たす実数である。0≦α、0<β、0≦a、0≦b、0<a+b、kα+2β=a+b(ここで、kはM
1の原子価を表す。))
【0025】
[固体触媒[A]]
まずは、固体触媒[A]について説明する。固体触媒[A]としては、一般的にチーグラー・ナッタ触媒として用いられている固体触媒を用いることができる。
【0026】
中でも、固体触媒[A]が、下記一般式2で表される不活性炭化水素溶媒に可溶である有機マグネシウム化合物(A−1)と下記一般式3で表される塩素化剤(A−2)との反応により調製された担体(A−3)に、下記一般式4で表される有機マグネシウム化合物(A−4)と下記一般式5で表されるチタン化合物(A−5)とを担持することにより製造されるオレフィン重合用触媒が好ましい。
(A−1):(M
1)
α(Mg)
β(R
2)
a(R
3)
b(OR
4)
c ・・・式2
(式中、M
1は周期律表第12族、第13族、及び第14族からなる群より選ばれる金属原子であり、R
2、R
3、及びR
4は、各々独立して、炭素数2以上20以下の炭化水素基であり、α、β、a、b、及びcは次の関係を満たす実数である。0≦α、0<β、0≦a、0≦b、0≦c、0<a+b、0≦c/(α+β)≦2、kα+2β=a+b+c(ここで、kはM
1の原子価である。))
(A−2):H
dSiCl
eR
5(4−(d+e)) ・・・式3
(式中、R
5は炭素数1以上12以下の炭化水素基であり、dとeは次の関係を満たす実数である。0<d、0<e、0<d+e≦4)
(A−4):(M
2)
γ(Mg)
δ(R
6)
f(R
7)
gY
h ・・・・式4
(式中、M
2は周期律表第12族、第13族、及び第14族からなる群より選ばれる金属原子であり、R
6及びR
7は炭素数2以上20以下の炭化水素基であり、Yはアルコキシ、シロキシ、アリロキシ、アミノ、アミド、−N=C−R
8,R
9、−SR
10(ここで、R
8、R
9、及びR
10は炭素数1以上20以下の炭化水素基を表す。hが2の場合には、Yはそれぞれ異なっていてもよい。)、β−ケト酸残基のいずれかであり、γ、δ、f、g、及びhは次の関係を満たす実数である。0≦γ、0<δ、0≦f、0≦g、0≦h、0<f+g、0≦h/(γ+δ)≦2、nγ+2δ=f+g+h(ここで、nはM
2の原子価である。))
(A−5):Ti(OR
11)
iX
(4−i) ・・・・・式5
(式中、iは0以上4以下の実数であり、R
11は炭素数1以上20以下の炭化水素基であり、Xはハロゲン原子である。)
【0027】
まず、(A−1)について説明する。(A−1)は、不活性炭化水素溶媒に可溶な有機マグネシウムの錯化合物の形として示されているが、ジヒドロカルビルマグネシウム化合物及びこの化合物と他の金属化合物との錯体のすべてを包含するものである。式2の記号α、β、a、b、及びcの関係式kα+2β=a+b+cは金属原子の原子価と置換基との化学量論性を示している。
【0028】
上記式中、R
2及びR
3で表される炭素数2以上20以下の炭化水素基は、特に限定されないが、例えば、各々独立して、アルキル基、シクロアルキル基、又はアリール基が挙げられ、具体的には、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、オクチル、デシル、シクロヘキシル、フェニル基等が挙げられる。このなかでも、好ましくはR
2及びR
3は、各々独立して、アルキル基である。α>0の場合、金属原子M
1としては、周期律表第12族、第13族、及び第14族からなる群より選ばれる金属原子が使用でき、例えば、亜鉛、ホウ素、アルミニウム等が挙げられる。このなかでも、アルミニウム、亜鉛が好ましい。
【0029】
金属原子M
1に対するマグネシウムの比β/αは、特に制限されず、0.1以上30以下であることが好ましく、0.5以上10以下であることがさらに好ましい。また、α=0である有機マグネシウム化合物を用いる場合、例えば、R
2が1−メチルプロピル等の場合には不活性炭化水素溶媒に可溶であり、このような化合物も本実施形態に好ましい結果を与える。式2において、α=0の場合のR
2、R
3は次に示す三つの群(1)、(2)、(3)のいずれか一つであることが好ましい。
【0030】
(1)R
2、R
3の少なくとも一方が炭素数4以上6以下である二級又は三級のアルキル基であることが好ましく、より好ましくはR
2、R
3がともに炭素数4以上6以下であり、少なくとも一方が二級又は三級のアルキル基であること。
(2)R
2とR
3とが炭素数の互いに相異なるアルキル基であることが好ましく、より好ましくはR
2が炭素数2又は3のアルキル基であり、R
3が炭素数4以上のアルキル基であること。
(3)R
2、R
3の少なくとも一方が炭素数6以上の炭化水素基であることが好ましく、より好ましくはR
2、R
3に含まれる炭素数の和が12以上になるアルキル基であること。
【0031】
以下、これらの基を具体的に示す。(1)において炭素数4以上6以下である二級又は三級のアルキル基としては、特に限定されないが、例えば、1−メチルプロピル、2−メチルプロピル、1,1−ジメチルエチル、2−メチルブチル、2−エチルプロピル、2,2−ジメチルプロピル、2−メチルペンチル、2−エチルブチル、2,2−ジメチルブチル、2−メチル−2−エチルプロピル基等が挙げられる。このなかでも、1−メチルプロピル基が好ましい。
【0032】
次に(2)において炭素数2又は3のアルキル基としては、特に限定されないが、例えば、エチル、1−メチルエチル、プロピル基等が挙げられる。このなかでも、エチル基が好ましい。また、炭素数4以上のアルキル基としては、特に限定されないが、例えば、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル基等が挙げられる。このなかでも、ブチル、ヘキシル基が好ましい。
【0033】
さらに、(3)において炭素数6以上の炭化水素基としては、特に限定されないが、例えば、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、フェニル、2−ナフチル基等が挙げられる。炭化水素基の中ではアルキル基が好ましく、アルキル基の中でもヘキシル、オクチル基がより好ましい。一般に、アルキル基に含まれる炭素数が増えると不活性炭化水素溶媒に溶けやすくなる傾向にあり、溶液の粘度が高くなる傾向にある。そのため、適度な長鎖のアルキル基を用いることが取り扱い上好ましい。なお、上記有機マグネシウム化合物は不活性炭化水素溶液として使用されうるが、該溶液中に微量のエーテル、エステル、アミン等のルイス塩基性化合物が含有され、あるいは残存していても差し支えなく使用できる。
【0034】
次にアルコキシ基(OR
4)について説明する。R
4で表される炭素数2以上20以下の炭化水素基としては、特に限定されないが、例えば、炭素数1以上12以下のアルキル基又はアリール基が好ましく、炭素数3以上10以下のアルキル基又はアリール基がより好ましい。具体的には、メチル、エチル、プロピル、1−メチルエチル、ブチル、1−メチルプロピル、1,1−ジメチルエチル、ペンチル、ヘキシル、2−メチルペンチル、2−エチルブチル、2−エチルペンチル、2−エチルヘキシル、2−エチル−4−メチルペンチル、2−プロピルヘプチル、2−エチル−5−メチルオクチル、オクチル、ノニル、デシル、フェニル、ナフチル基等が挙げられる。このなかでも、ブチル、1−メチルプロピル、2−メチルペンチル及び2−エチルヘキシル基が好ましい。
【0035】
(A−1)の合成方法は、特に制限されず、式R
2MgX及びR
22Mg(R
2は前述の意味であり、Xはハロゲン原子である。)からなる群より選ばれる有機マグネシウム化合物と、式M
1R
3k及びM
1R
3(k−1)H(M
1、R
3及びkは前述の意味である。)からなる群より選ばれる有機金属化合物とを不活性炭化水素溶媒中、25℃以上150℃以下の温度で反応させ、必要な場合には続いてR
3(R
3は前述の意味である。)で表される炭化水素基を有するアルコール、不活性炭化水素溶媒に可溶なR
3で表される炭化水素基を有するアルコキシマグネシウム化合物、及び/又はR
3で表される炭化水素基を有するアルコキシアルミニウム化合物を反応させる方法が好ましい。
【0036】
このうち、不活性炭化水素溶媒に可溶な有機マグネシウム化合物とアルコールとを反応させる場合、反応の順序については特に制限されず、有機マグネシウム化合物中にアルコールを加えていく方法、アルコール中に有機マグネシウム化合物を加えていく方法、又は両者を同時に加えていく方法のいずれの方法も用いることができる。本実施形態において不活性炭化水素溶媒に可溶な有機マグネシウム化合物とアルコールとの反応比率については特に制限されないが、反応の結果、得られるアルコキシ基含有有機マグネシウム化合物における、全金属原子に対するアルコキシ基のモル組成比c/(α+β)は0≦c/(α+β)≦2であり、0≦c/(α+β)<1であることが好ましい。
【0037】
次に、(A−2)について説明する。(A−2)は式3で表される、少なくとも一つはSi−H結合を有する塩化珪素化合物である。
(A−2):H
dSiCl
eR
5(4−(d+e)) ・・・・・式3
(式中、R
5は炭素数1以上12以下の炭化水素基であり、dとeは次の関係を満たす実数である。0<d、0<e、0<d+e≦4)
【0038】
式3においてR
5で表される炭素数1以上12以下の炭化水素基は、特に限定されないが、例えば、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基が挙げられ、具体的には、メチル、エチル、プロピル、1−メチルエチル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、オクチル、デシル、シクロヘキシル、フェニル基等が挙げられる。このなかでも炭素数1以上10以下のアルキル基が好ましく、メチル、エチル、プロピル、1−メチルエチル基等の炭素数1〜3のアルキル基がより好ましい。また、d及びeは、0<d、0<e、0<d+e≦4の関係を満たす数であり、dが2以上3以下であることが好ましい。
このような(A−2)としては、特に限定されないが、例えば、HSiCl
3、HSiCl
2CH
3、HSiCl
2C
2H
5、HSiCl
2(C
3H
7)、HSiCl
2(2−C
3H
7)、HSiCl
2(C
4H
9)、HSiCl
2(C
6H
5)、HSiCl
2(4−Cl−C
6H
4)、HSiCl
2(CH=CH
2)、HSiCl
2(CH
2C
6H
5)、HSiCl
2(1−C
10H
7)、HSiCl
2(CH
2CH=CH
2)、H
2SiCl(CH
3)、H
2SiCl(C
2H
5)、HSiCl(CH
3)
2、HSiCl(C
2H
5)
2、HSiCl(CH
3)(2−C
3H
7)、HSiCl(CH
3)(C
6H
5)、HSiCl(C
6H
5)
2等が挙げられる。このなかでも、HSiCl
3、HSiCl
2CH
3、HSiCl(CH
3)
2、HSiCl
2C
2H
5が好ましく、HSiCl
3、HSiCl
2CH
3がより好ましい。(A−2)は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0039】
次に(A−1)と(A−2)との反応について説明する。反応に際しては(A−2)を予め溶媒に希釈した後に利用することが好ましい。溶媒としては、特に限定されないが、例えば、プロパン、ブタン、イソブタン、ペンタン、イソペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、灯油等の脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロペンタン等の脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素等の不活性炭化水素溶媒;1,2−ジクロルエタン、o−ジクロルベンゼン、ジクロルメタン等の塩素化炭化水素;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系媒体;及びこれらの混合媒体が挙げられる。このなかでも、触媒の性能上、不活性炭化水素溶媒が好ましい。(A−1)と(A−2)との反応比率は、特に制限されないが、(A−1)に含まれるマグネシウム原子1モルに対する(A−2)に含まれる珪素原子が0.01モル100モル以下であることが好ましく、0.1モル以上10モル以下であることがより好ましい。
【0040】
(A−1)と(A−2)との反応方法は、特に制限されず、(A−1)と(A−2)とを同時に反応器に導入しつつ反応させる同時添加の方法、(A−2)を予め反応器に仕込んだ後に(A−1)を反応器に導入させる方法、又は(A−1)を予め反応器に仕込んだ後に(A−2)を反応器に導入させる方法のいずれの方法でもよいが、(A−2)を予め反応器に仕込んだ後に(A−1)を反応器に導入させる方法が好ましい。上記反応により得られる担体(A−3)は、ろ過あるいはデカンテーション法により分離した後、不活性炭化水素溶媒を用いて充分に洗浄し、未反応物あるいは副生成物等を除去することが好ましい。
【0041】
(A−1)と(A−2)との反応温度は、特に制限されず、25℃以上150℃以下であることが好ましく、30℃以上120℃以下であることがより好ましく、40℃以上100℃以下であることがさらに好ましい。(A−1)と(A−2)とを同時に反応器に導入しつつ反応させる同時添加の方法においては、予め反応器の温度を所定温度に調節し、同時添加を行いながら反応器内の温度を所定温度に調節することにより、反応温度は所定温度に調節することが好ましい。(A−2)を予め反応器に仕込んだ後に(A−1)を反応器に導入させる方法においては、該塩化珪素化合物を仕込んだ反応器の温度を所定温度に調節し、該有機マグネシウム化合物を反応器に導入しながら反応器内の温度を所定温度に調節することにより、反応温度を所定温度に調節することが好ましい。(A−1)を予め反応器に仕込んだ後に(A−2)を反応器に導入させる方法においては、(A−1)を仕込んだ反応器の温度を所定温度に調節し、(A−2)を反応器に導入しながら反応器内の温度を所定温度に調節することにより、反応温度を所定温度に調節することが好ましい。
【0042】
次に、有機金属化合物(A−4)について説明する。(A−4)は、前述の式4で表される。
(A−4):(M
2)
γ(Mg)
δ(R
6)
f(R
7)
gY
h ・・・・式4
(式中、M
2は周期律表第12族、第13族、及び第14族からなる群より選ばれる金属原子であり、R
6及びR
7は炭素数2以上20以下の炭化水素基であり、Yはアルコキシ、シロキシ、アリロキシ、アミノ、アミド、−N=C−R
8,R
9、−SR
10(ここで、R
8、R
9、及びR
10は炭素数1以上20以下の炭化水素基を表す。hが2の場合には、Yはそれぞれ異なっていてもよい。)、β−ケト酸残基のいずれかであり、γ、δ、f、g、及びhは次の関係を満たす実数である。0≦γ、0<δ、0≦f、0≦g、0≦h、0<f+g、0≦h/(γ+δ)≦2、nγ+2δ=f+g+h(ここで、nはM
2の原子価である。))
【0043】
式4において、R
6及びR
7で表される炭素数2以上20以下の炭化水素基は、特に限定されないが、具体的には、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基であり、例えば、エチル、プロピル、ブチル、プロピル、ヘキシル、オクチル、デシル、シクロヘキシル、フェニル基等が挙げられる。この中でも、好ましくはアルキル基である。α>0の場合、金属原子M
2としては、周期律表第12族、第13族及び第14族からなる群より選ばれる金属原子が使用でき、例えば、亜鉛、ホウ素、アルミニウム等が挙げられる。この中でもアルミニウム、亜鉛が好ましい。
【0044】
金属原子M
2に対するマグネシウムの比δ/γには特に限定されないが、0.1以上30以下であることが好ましく、0.5以上10以下であることがより好ましい。また、γ=0である所定の有機マグネシウム化合物を用いる場合、例えば、R
2が1−メチルプロピル等の場合には不活性炭化水素溶媒に可溶であり、このような化合物も本実施形態に好ましい結果を与える。式4において、γ=0の場合のR
6、R
7は次に示す三つの群(1)、群(2)、群(3)のいずれか一つを満たすものであることが好ましい。
【0045】
群(1)R
6、R
7の少なくとも一方が炭素原子数4以上6以下である二級又は三級のアルキル基であること、好ましくはR
6、R
7がともに炭素原子数4以上6以下のアルキル基であり、少なくとも一方が二級又は三級のアルキル基であること。
群(2)R
6とR
7とが炭素原子数の互いに相異なるアルキル基であること、好ましくはR
6が炭素原子数2又は3のアルキル基であり、R
7が炭素原子数4以上のアルキル基であること。
群(3)R
6、R
7の少なくとも一方が炭素原子数6以上の炭化水素基であること、好ましくはR
6、R
7に含まれる炭素原子数を加算すると12以上になるアルキル基であること。
【0046】
以下これらの基を具体的に示す。群(1)において炭素原子数4以上6以下である二級又は三級のアルキル基としては、特に限定されないが、例えば、1−メチルプロピル、2−メチルプロピル、1,1−ジメチルエチル、2−メチルブチル、2−エチルプロピル、2,2−ジメチルプロピル、2−メチルペンチル、2−エチルブチル、2,2−ジメチルブチル、2−メチル−2−エチルプロピル基等が挙げられる。このなかでも1−メチルプロピル基が好ましい。
【0047】
次に群(2)において炭素原子数2又は3のアルキル基としては、特に限定されないが、例えば、エチル、1−メチルエチル、プロピル基等が挙げられる。このなかでもエチル基が好ましい。また炭素原子数4以上のアルキル基としては、特に限定されないが、例えば、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル基等が挙げられる。このなかでも、ブチル、ヘキシル基が好ましい。
【0048】
さらに、群(3)において炭素原子数6以上の炭化水素基としては、特に限定されないが、例えば、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、フェニル、2−ナフチル基等が挙げられる。炭化水素基の中ではアルキル基が好ましく、アルキル基の中でもヘキシル、オクチル基がより好ましい。
【0049】
一般に、アルキル基に含まれる炭素原子数が増えると不活性炭化水素溶媒に溶けやすくなる傾向にあるが、一方で溶液の粘度が高くなる傾向にある。そのために適度な長鎖のアルキル基を用いることが取り扱い上好ましい。なお、上記有機マグネシウム化合物は不活性炭化水素溶媒で希釈して使用することができるが、該溶液中に微量のエーテル、エステル、アミン等のルイス塩基性化合物が含有され、又は残存していても差し支えなく使用できる。
【0050】
次にYについて説明する。式4においてYはアルコキシ、シロキシ、アリロキシ、アミノ、アミド、−N=C−R
8,R
9、−SR
10(ここで、R
8、R
9、及びR
10は、各々独立して、炭素数2以上20以下の炭化水素基を表す。)、β−ケト酸残基のいずれかである。
【0051】
式4においてR
8、R
9、及びR
10で表される炭化水素基としては、特に限定されないが、例えば、炭素原子数1以上12以下のアルキル基又はアリール基が好ましく、3以上10以下のアルキル基又はアリール基がより好ましい。このような炭化水素基としては、特に限定されないが、具体的には、メチル、エチル、プロピル、1−メチルエチル、ブチル、1−メチルプロピル、1,1−ジメチルエチル、ペンチル、ヘキシル、2−メチルペンチル、2−エチルブチル、2−エチルペンチル、2−エチルヘキシル、2−エチル−4−メチルペンチル、2−プロピルヘプチル、2−エチル−5−メチルオクチル、オクチル、ノニル、デシル、フェニル、ナフチル基等が挙げられる。このなかでも、ブチル、1−メチルプロピル、2−メチルペンチル及び2−エチルヘキシル基が好ましい。
【0052】
また、式4においてYはアルコキシ基又はシロキシ基であることが好ましい。アルコキシ基としては、特に限定されないが、具体的には、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、1−メチルエトキシ、ブトキシ、1−メチルプロポキシ、1,1−ジメチルエトキシ、ペントキシ、ヘキソキシ、2−メチルペントキシ、2−エチルブトキシ、2−エチルペントキシ、2−エチルヘキソキシ、2−エチル−4−メチルペントキシ、2−プロピルヘプトキシ、2−エチル−5−メチルオクトキシ、オクトキシ、フェノキシ、ナフトキシ基であることが好ましい。このなかでも、ブトキシ、1−メチルプロポキシ、2−メチルペントキシ及び2−エチルヘキソキシ基であることがより好ましい。シロキシ基としては、特に限定されないが、具体的には、ヒドロジメチルシロキシ、エチルヒドロメチルシロキシ、ジエチルヒドロシロキシ、トリメチルシロキシ、エチルジメチルシロキシ、ジエチルメチルシロキシ、トリエチルシロキシ基等が好ましい。このなかでも、ヒドロジメチルシロキシ、エチルヒドロメチルシロキシ、ジエチルヒドロシロキシ、トリメチルシロキシ基がより好ましい。
【0053】
(A−4)の使用量は、(A−5)に含まれるチタン原子に対する(A−4)に含まれるマグネシウム原子のモル比で0.1以上10以下であることが好ましく、0.5以上5以下であることがより好ましい。
【0054】
次に、(A−5)について説明する。(A−5)は前述の式5で表されるチタン化合物である。
(A−5):Ti(OR
11)
iX
(4−i) ・・・・・式5
(式中、iは0以上4以下の実数であり、R
11は炭素数1以上20以下の炭化水素基であり、Xはハロゲン原子である。)
【0055】
R
11で表される炭化水素基としては、特に限定されないが、例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、2−エチルヘキシル、ヘプチル、オクチル、デシル、アリル基等の脂肪族炭化水素基;シクロヘキシル、2−メチルシクロヘキシル、シクロペンチル基等の脂環式炭化水素基;フェニル、ナフチル基等の芳香族炭化水素基等が挙げられる。このなかでも、R
11としては脂肪族炭化水素基が好ましい。Xで表されるハロゲンとしては、特に限定されないが、例えば、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられる。このなかでも、Xとしては塩素が好ましい。(A−5)は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0056】
次に、(A−4)と(A−5)の反応について説明する。該反応は、不活性炭化水素溶媒中で行われることが好ましく、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素溶媒中で行われることがさらに好ましい。
【0057】
(A−5)の使用量については、式2で表される不活性炭化水素溶媒に可溶である有機マグネシウム化合物(A−1)と式3で表される塩素化剤(A−2)との反応により調製された担体(A−3)中のMg原子に対する、(A−5)に含まれるTi原子のモル比(Ti/Mg)が0.001以上0.5以下であることが好ましく、0.005以上0.3以下であることがより好ましい。
【0058】
(A−4)と(A−5)とのモル比については特に限定されないが、(A−4)に含まれるMg原子に対する、(A−5)に含まれるTi原子のモル比(Ti/Mg)が0.1以上10以下であることが好ましく、0.3以上3以下であることがより好ましい。
【0059】
(A−4)と(A−5)との反応温度については、特に限定されないが、−80℃以上100℃以下の範囲で行うことが好ましく、−40℃以上50℃以下の範囲で行うことがより好ましい。
【0060】
(A−4)と(A−5)の添加順序は、特に制限されず、(A−4)に続いて(A−5)を加える方法、(A−5)に続いて(A−4)を加える方法、(A−4)と(A−5)とを同時に添加する方法、のいずれの方法も可能であるが、(A−4)と(A−5)とを同時に添加する方法が好ましい。
【0061】
(A−4)と(A−5)を添加する時間については、特に限定されないが、1時間以上10時間以下の範囲で行うことが好ましく、2時間以上5時間以下がより好ましい。(A−4)と(A−5)の反応時間については、限定されないが、1時間以上10時間以下の範囲で行うことが好ましく、2時間以上5時間以下がより好ましい。
【0062】
本実施形態においては、(A−4)と(A−5)の反応後に、未反応の(A−4)と(A−5)を除去することが好ましい。未反応の(A−4)、(A−5)をそのままエチレン系重合体の重合反応器に供給した場合における、塊等の不定形重合物の発生や、反応器壁面への付着や抜取配管への詰り等を抑制することができ、連続生産性に優れる傾向にある。未反応の(A−4)及び(A−5)は、触媒スラリーを沈降した状態で上澄み液を抜き、フレッシュな不活性炭化水素溶媒を加えることを繰り返すことにより低減することが可能である。またフィルター等の濾過により取り除くこともできる。特に(A−5)に由来する残存塩素濃度を1mmol/L以下にすることが好ましい。
【0063】
本実施形態においては、上記反応により得られた固体触媒成分[A]は、不活性炭化水素溶媒を用いたスラリー溶液として使用されうる。
【0064】
[有機マグネシウム化合物[B]]
次に、本実施形態における有機マグネシウム化合物[B]について説明する。固体触媒[A]と有機マグネシウム化合物[B]とを組み合わせて用いることによりエチレン系重合体パウダーを生成する重合用触媒となることから、有機マグネシウム化合物は助触媒とも呼ばれることがある。
【0065】
本実施形態における有機マグネシウム化合物は、式1で表される化合物である。
(M
1)
α(Mg)
β(R
2)
a(R
3)
b ・・式1
(式中、M
1は周期律表第12族、第13族及び第14族からなる群より選ばれる金属原子であり、R
2及びR
3は、各々独立して、炭素数2以上20以下の炭化水素基であり、α、β、a、bは次の関係を満たす実数である。0≦α、0<β、0≦a、0≦b、0<a+b、kα+2β=a+b(ここで、kはM
1の原子価を表す。))
【0066】
この有機マグネシウム化合物は、不活性炭化水素溶媒に可溶な有機マグネシウムの錯化合物の形として示されているが、ジアルキルマグネシウム化合物及びこの化合物と他の金属化合物との錯体の全てを包含するものである。α、β、a、b、M
1、R
2、R
3についてはすでに述べたとおりであるが、この有機マグネシウム化合物は不活性炭化水素溶媒に対する溶解性が高いほうが好ましいため、β/αは0.5〜10の範囲にあることが好ましく、またM
1がアルミニウムである化合物がより好ましい。
【0067】
エチレン系重合体パウダーを得るための助触媒としては、工業的には、トリエチルアルミニウムやトリイソブチルアルミニウム等に代表される有機アルミニウム化合物が主に使用されている。上述の(A−5)で示されるチタン化合物中で価数が4であるチタンを、エチレンの重合に有効な価数まで下げる(還元する)必要があり、そのため助触媒として還元力の高い有機アルミニウム化合物が主に使用されている。
【0068】
一方で、還元力が高い有機アルミニウムを助触媒として用いる場合は重合温度を下げる必要がある。理由は定かではないが、還元力が高いために、活性点となるチタンの一部が過還元されていたり、固体触媒中の活性点から液相中にチタン化合物が引き抜かれていること等が推定される。これにより、更なる高分子量化のために重合温度を更に低下することが重合装置の温度制御の観点から困難であり、また、スケールと呼ばれる不定型なポリマーを生成するために、生産性や長期連続運転安定性を低下させていたものと推定される。
【0069】
一方、本実施形態の有機マグネシウム化合物[B]を助触媒として用いれば、固体触媒中のチタンの価数を適正にすることができるため、有機アルミニウムを用いた場合と比べて重合温度を高くすることができる。そのため、更なる高分子量化のために重合温度を下げる余裕があり、更なる高分子量化の要求に応えることができる。また、固体触媒中のチタン化合物の引き抜きも抑制されるため、重合でのスケール発生を抑制することができ、生産性長期連続運転安定性を維持することができる。
【0070】
エチレン及び上述の触媒成分などを重合系内に添加して、エチレン系重合体パウダーが得られる。
【0071】
固体触媒[A]及び有機マグネシウム化合物[B]を重合系内に添加する方法については特に制限はなく、両者を別々に重合系内に添加してもよいし、予め両者を混合させた後に重合系内に添加してもよい。また組み合わせる両者の比率には特に限定されないが、固体触媒[A]1gに対し有機マグネシウム化合物[B]は0.01mmol以上1,000mmol以下であることが好ましく、0.1mmol以上500mmol以下がより好ましく、1mmol以上100mmol以下がさらに好ましい。両者を混合させる他の目的としては、保存タンクや配管等に静電付着を防止することも挙げられる。
【0072】
本実施形態に係るエチレン系重合体パウダーの製造方法における重合法は、懸濁重合法又は気相重合法により、エチレンを重合させることができる。このなかでも、重合熱を効率的に除熱できる懸濁重合法が好ましい。懸濁重合法においては、媒体として不活性炭化水素媒体を用いることができ、さらにオレフィン自身を溶媒として用いることもできる。
【0073】
上記不活性炭化水素媒体としては、特に限定されないが、具体的には、プロパン、ブタン、イソブタン、ペンタン、イソペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、灯油等の脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロペンタン等の脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;エチルクロライド、クロルベンゼン、ジクロロメタン等のハロゲン化炭化水素;又はこれらの混合物等を挙げることができる。
【0074】
上記範囲のエチレン系重合体パウダーを得るための製造方法における重合温度は、通常、20℃以上100℃以下であることが好ましく、30℃以上95℃以下がより好ましく、40℃以上90℃以下がさらに好ましい。重合温度が20℃以上であることにより、工業的に効率的な製造が可能である。一方、重合温度が100℃以下であることにより、連続的に安定運転が可能である。
【0075】
上記範囲のエチレン系重合体パウダーを得るための製造方法における重合圧力は、通常、常圧以上2MPa以下であることが好ましく、0.1MPa以上1.5MPa以下がより好ましく、0.2MPa以上1.0MPa以下がさらに好ましい。重合圧力が常圧以上であることにより、触媒活性の高いエチレン系重合体パウダーが得られる傾向にあり、重合圧力が2MPa以下であることにより、エチレン系重合体パウダーを安定的に生産できる傾向にある。
【0076】
重合反応は、回分式、半連続式、連続式のいずれの方法においても行なうことができる。
【0077】
また、重合を反応条件の異なる2段以上に分けて行なうことも可能である。さらに、例えば、西独国特許出願公開第3127133号明細書に記載されているように、得られるエチレン系重合体パウダーの分子量は、重合系に水素を存在させるか、又は重合温度を変化させることによって調節することもできる。重合系内に連鎖移動剤として水素を添加することにより、分子量を適切な範囲で制御することが可能である。重合系内に水素を添加する場合、水素のモル分率は、0.01mol%以上10mol%以下であることが好ましく、0.01mol%以上5mol%以下であることがより好ましく、0.01mol%以上1mol%以下であることがさらに好ましい。なお、本実施形態では、上記のような各成分以外にもエチレン系重合体パウダーの製造に有用な他の公知の成分を含むことができる。
【0078】
一般的にエチレン系重合体パウダーを重合する際には、重合反応器へのポリマーの静電気付着を抑制するため、The Associated Octel Company社製(代理店丸和物産)のStadis450等の静電気防止剤を使用することも可能である。Stadis450は、不活性炭化水素媒体に希釈したものをポンプ等により重合反応器に添加することもできる。この際の添加量は、単位時間当たりのエチレン系重合体パウダーの生産量に対して、0.1ppm以上20ppm以下の範囲で添加することが好ましく、0.1ppm以上10ppm以下の範囲で添加することがより好ましい。
【0079】
上記範囲のエチレン系重合体パウダーを得るための、重合後の乾燥方法としては、できるだけ熱を掛けない乾燥方法が好ましい。乾燥機の形式としては、ロータリーキルン方式やパドル方式や流動乾燥機などが好ましい。乾燥温度としては50℃以上、150℃以下が好ましく、70℃以上100℃以下がさらに好ましい。また乾燥機に窒素等の不活性ガスを導入し乾燥を促進することも効果的である。
【0080】
[その他の成分]
上記のようなエチレン系重合体パウダーは、必要に応じて公知の各種添加剤と組み合わせて用いてもよい。熱安定剤としては、特に限定されないが、例えば、テトラキス[メチレン(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ)ヒドロシンナメート]メタン、ジステアリルチオジプロピオネート等の耐熱安定剤;又はビス(2,2’,6,6’−テトラメチル−4−ピペリジン)セバケート、2−(2−ヒドロキシ−t−ブチル−5−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール等の耐候安定剤等が挙げられる。また、滑剤や塩化水素吸収剤等として公知であるステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛等のステアリン酸塩も、好適な添加剤として挙げることができる。
【0081】
[用途]
上記のようにして得られるエチレン系重合体パウダーは、高度な加工性と高い連続加工生産性を有することができ、種々の加工方法により加工することができる。また、本実施形態の成形体は、エチレン系重合体パウダーから得られるものである。該エチレン系重合体パウダーを含む成形体は、摩耗性が高く、成形後の強度も高く種々の用途に応用されることができる。主な用途として非粘着性、低摩擦係数でホッパー、シュートなどのライニング用として、また強度の観点から高強度繊維、高強度延伸物や鉛蓄電池セパレーター、リチウムイオン二次電池セパレーターなどに使用することができる。
【実施例】
【0082】
以下、本発明を実施例及び比較例によりさらに詳しく説明するが、本発明は以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【0083】
〔測定方法及び条件〕
(1)粘度平均分子量(Mv)
エチレン系重合体パウダーの粘度平均分子量については、ISO1628−3(2010)従って、以下に示す方法によって求めた。まず、溶融管にエチレン系重合体パウダー20mgを秤量し、溶融管を窒素置換した後、20mLのデカヒドロナフタレン(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノールを1g/L加えたもの)を加え、150℃で2時間攪拌してエチレン系重合体パウダーを溶解させた。その溶液を135℃の恒温槽で、キャノン−フェンスケの粘度計(柴田科学器械工業社製:製品番号−100)を用いて、標線間の落下時間(t
s)を測定した。同様に、エチレン系重合体パウダー量を10mg、5mg、2.5mgと変えたサンプルついても同様に標線間の落下時間(t
s)を測定した。ブランクとしてエチレン系重合体パウダーを入れていない、デカヒドロナフタレンのみの落下時間(t
b)を測定した。以下の式に従って求めたエチレン系重合体パウダーの還元粘度(η
sp/C)をそれぞれプロットして濃度(C)(単位:g/dL)とエチレン系重合体パウダーの還元粘度(η
sp/C)の直線式を導き、濃度0に外挿した極限粘度([η])を求めた。
η
sp/C=(t
s/t
b−1)/0.1 (単位:dL/g)
次に下記数式Aを用いて、上記極限粘度[η]の値を用い、粘度平均分子量(Mv)を算出した。
Mv=(5.34×10
4)×[η]
1.49 ・・・数式A
【0084】
(2)結晶化度
エチレン系重合体パウダーの結晶化度は、広角X線回折透過法により測定した。
X線結晶化解析装置:リガク(株)製RINT2500型装置
X線源 :CuKα
出力 :50KV、300mA
検出器 :シンチレーションカウンター
サンプル :得られたエチレン系重合体パウダーをそのまま用いた。
【0085】
具体的には、リガク製RINT2500型装置に設置された回転試料台に重合体粒子約0.002gを乗せ、試料台を77回転/分で回転させながら広角X線回折透過測定を実施した。得られた広角X線回折プロファイルより結晶化度を算出した。
【0086】
(3)嵩密度
エチレン系重合体パウダーの嵩密度は、JIS K−6721:1997に従い測定した。
【0087】
(4)スケール発生量
エチレン系重合体パウダーを重合する反応器から、フラッシュドラムに抜き出す途中の配管に設置したストレーナー(内部に8mmの孔径を有するフィルター設置)にトラップされた量を1時間当たりに換算した。(g/hr)
【0088】
[参考例1:触媒合成例1:固体触媒成分[A]の調製]
〔固体触媒成分[A1]の調製〕
(1)(A−3)担体の合成
充分に窒素置換された8Lステンレス製オートクレーブに2mol/Lのトリクロロシランのヘキサン溶液1,000mLを仕込み、65℃で攪拌しながら組成式AlMg
5(C
4H
9)
11(OC
4H
9)
2で表される有機マグネシウム化合物のヘキサン溶液2,550mL(マグネシウム2.68mol相当)を4時間かけて滴下し、さらに65℃で1時間攪拌しながら反応を継続させた。反応終了後、上澄み液を除去し、1,800mLのヘキサンで4回洗浄した。この固体((A−3)担体)を分析した結果、固体1g当たりに含まれるマグネシウムが8.31mmolであった。
【0089】
(2)固体触媒成分[A1]の調製
上記(A−3)担体110gを含有するヘキサンスラリー1,970mLに10℃で攪拌しながら1mol/Lの四塩化チタンヘキサン溶液110mLと1mol/Lの組成式AlMg
5(C
4H
9)
11(OSiH)
2で表される有機マグネシウム化合物のヘキサン溶液110mLとを同時に1時間かけて添加した。添加後、10℃で1時間反応を継続させた。反応終了後、上澄み液を1,100mL除去し、ヘキサン1,100mLで2回洗浄することにより、固体触媒成分[A1]を調製した。この固体触媒成分[A1]1g中に含まれるチタン量は0.75mmolであった。
【0090】
[参考例2:触媒合成例2:固体触媒成分[A2]の調製]
(1)(A−3’)担体の合成
充分に窒素置換された8Lステンレス製オートクレーブに2mol/Lのトリクロロシランのヘキサン溶液1,000mLを仕込み、65℃で攪拌しながら組成式AlMg
5(C
4H
9)
11(OC
4H
9)
2で表される有機マグネシウム化合物のヘキサン溶液2,550mL(マグネシウム2.68mol相当)を4時間かけて滴下し、さらに65℃で1時間攪拌しながら反応を継続させた。反応終了後、上澄み液を除去し、1,800mLのヘキサンで4回洗浄した。この固体((A−3’)担体)を分析した結果、固体1g当たりに含まれるマグネシウムが8.31mmolであった。
【0091】
(2)固体触媒成分[A2]の調製
上記(A−3’)担体110gを含有するヘキサンスラリー1,970mLに10℃で攪拌しながら1mol/Lの四塩化チタンヘキサン溶液110mLと1mol/Lの上記(A−3’)の合成に使用した有機マグネシウム化合物のヘキサン溶液110mLとを同時に1時間かけて添加した。添加後、10℃で1時間反応を継続させた。反応終了後、上澄み液を1,100mL除去し、ヘキサン1,100mLで2回洗浄することにより、固体触媒成分[A2]を調製した。この固体触媒成分[A2]1g中に含まれるチタン量は0.85mmolであった。
【0092】
(実施例1:PE1)
ヘキサン、エチレン、水素、及び以下に示す重合触媒を、攪拌装置が付いたベッセル型300L重合反応器に連続的に供給した。重合温度はジャケット冷却により75℃に保った。ヘキサンは70L/Hrで供給した。重合触媒としては、固体触媒成分[A]と助触媒成分[B]として、AlMg
6(C
4H
9)
12(以下Mg1と記す)を使用した。固体触媒成分[A]は0.35g/Hrの速度で重合器に添加し、Mg1は9mmol/Hrの速度で重合器に添加した。重合圧力はエチレンを連続供給することにより0.4MPaに保った。エチレン系重合体パウダーの製造速度は10kg/Hrであった。触媒活性は15,000g−PE/g−固体触媒成分[A]であった。重合スラリーは、重合反応器のレベルが一定に保たれるように連続的に圧力0.05MPaのフラッシュドラムに抜き、未反応のエチレンを分離した。重合スラリーは、連続的に溶媒分離工程を経て後、乾燥工程へ送られた。乾燥機はドラム式で窒素気流下、ジャケット80℃とした。塊状のポリマーの存在も無く、スラリー抜き取り配管も閉塞することなく、安定して連続運転ができた。こうして得られたエチレン系重合体パウダーをPE1とする。
上述した方法に従い、分子量、結晶化度、嵩密度、スケール発生量を測定した。その結果を表1に示す。
【0093】
(実施例2:PE2)
重合温度を65℃としたこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、実施例2のエチレン系重合体パウダーPE2を得た。その結果を表1に示す。
【0094】
(実施例3:PE3)
重合温度を50℃とし、重合圧力を1.0MPaとしたこと以外は実施例1と同様の操作を行い、実施例3のエチレン系重合体パウダーPE3を得た。その結果を表1に示す。
【0095】
(実施例4:PE4)
重合温度を80℃としたこと以外は実施例1と同様な操作を行い、実施例4のエチレン系重合体パウダーPE4を得た。その結果を表1に示す。
【0096】
(実施例5:PE5)
助触媒成分として市販のBEM(ブチルエチルマグネシウム)を用いたこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、実施例5のエチレン系重合体パウダーPE5を得た。その結果を表1に示す。
【0097】
(実施例6:PE6)
助触媒成分として市販のDBM(ジブチルマグネシウム)を用いたこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、実施例6のエチレン系重合体パウダーPE6を得た。その結果を表1に示す。
【0098】
(実施例7:PE7)
助触媒成分として市販のBOM(ブチルオクチルマグネシウム)を用いたこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、実施例7のエチレン系重合体パウダーPE7を得た。その結果を表1に示す。
【0099】
(実施例8:PE8)
固体触媒成分として[A2]を使用した以外は、実施例1と同様の操作を行い、実施例8のエチレン系重合体パウダーPE8を得た。その結果を表1に示す。
【0100】
(比較例1:PE9)
助触媒成分としてトリイソブチルアルミニウムとジイソブチルアルミニウムハイドライドの混合物(表中、AL1と示す)を用いた以外は実施例2と同様の操作を行い、比較例1のエチレン系重合体パウダーPE9を得た。ストレーナーに塊状のポリマーの存在があり、スラリー抜き取り配管が閉塞し、3日間運転停止した。その結果を表1に示す。
【0101】
(比較例2:PE10)
重合温度を57℃にした以外は比較例1と同様の操作を行い、比較例2のエチレン系重合体パウダーPE10を得た。ストレーナーに塊状のポリマーの存在があり、スラリー抜き取り配管が閉塞し、1日間運転停止した。その結果を表1に示す。
【0102】
(比較例3:PE11)
助触媒成分としてトリエチルアルミニウム(表中、TEAと示す)を用いた以外は比較例1と同様の操作を行い、比較例3のエチレン系重合体パウダーPE11を得た。ストレーナーに塊状のポリマーの存在があり、スラリー抜き取り配管が閉塞し、2日間運転停止した。その結果を表1に示す。
【0103】
(比較例4:PE12)
助触媒成分としてトリオクチルアルミニウム(表中、TOAと示す)を用いた以外は比較例1と同様の操作を行い、比較例4のエチレン系重合体パウダーPE12を得た。ストレーナーに塊状のポリマーの存在があり、スラリー抜き取り配管が閉塞し、4日間運転停止した。その結果を表1に示す。
【0104】
【表1】
【0105】
以上のことから、固体触媒と有機マグネシウム化合物を用いてエチレンを重合したエチレン系重合体パウダーは、生成する分子量が高く、有機アルミニウム化合物を助触媒として用いて同一分子量を得る場合より生産性を上げられ、かつスケールなどの発生も無く連続安定生産が可能であることがわかる。
【0106】
またこれらのエチレン系重合体パウダーから得られるより成形品はより高分子量であり耐摩耗性に優れ、成形後の強度も高いことがわかる。